棚田たなだ

ベトナムの棚田たなだ

棚田たなだ（たなだ）とは、傾斜地けいしゃちにある稲作いなさく地ち（田た）のこと。傾斜けいしゃがきつく耕作こうさく単位たんいが狭せまい状態じょうたいにおいて、水平すいへいに保たもたれた田たが規則きそく的てきに集積しゅうせきし、それらが一望いちぼうの下したにある場合ばあいは千せん枚まい田た（せんまいだ）とも呼よばれる。英語えいごでは「rice terraces」と表現ひょうげんされる。棚田たなだと同様どうように傾斜地けいしゃちを段だん状じょうにした畑はたけは段々畑だんだんばたけ（だんだんばたけ）という。

日本にっぽんの棚田たなだ

特徴とくちょう

棚田たなだの景観けいかん 耕作こうさく時期じき風景ふうけい 水みずが張はられた棚田たなだ 田植たうえ後ごの棚田たなだ 稲穂いなほの棚田たなだ

日本にっぽんの稲作いなさくの適地てきちは、安定あんていした水利すいりを得えられることに加くわえて、流ながれていく農業のうぎょう用水ようすいの管理かんりが容易よういにできる土地とちである。土地とちには元々もともと傾斜けいしゃがあるが、傾斜けいしゃが少すくな過すぎる土地とち、および排水はいすいしづらい土地とちは湿地しっちとなるため、安定あんていした稲作いなさくを行おこなうためには、一定いっていの農学のうがく・土木どぼく技術ぎじゅつが必要ひつようであった。また、灌漑かんがいをする場合ばあいはある程度ていどの傾斜けいしゃが必要ひつようであり、傾斜けいしゃがあまりにも少すくない河川かせん下しも流域りゅういきの沖積ちゅうせき平野へいやは、江戸えど時代じだい以前いぜんは稲作いなさくをするのに不ふ適当てきとうであった。すなわち、近世きんせい以前いぜんの稲作いなさく適地てきちは、比較的ひかくてき小規模しょうきぼで緩ゆるやかな沖積ちゅうせき扇状地せんじょうち、小規模しょうきぼな谷地やち、あるいは小規模しょうきぼで扱あつかいやすい地形ちけいが連続れんぞくする隆起りゅうき準じゅん平原へいげん上うえなどが主力しゅりょくであり、いずれも河川かせんの中上なかがみ流域りゅういきが中心ちゅうしんであった。これらの土地とちは緩ゆるやかな高低こうてい差さがあり、一ひとつ一ひとつの田たの間あいだに明確めいかくな高低こうてい差さが生しょうじて広ひろい意味いみでの棚田たなだを形成けいせいすることになる。

棚田たなだの出現しゅつげん

棚田たなだという語句ごくが見みられる古ふるい史料しりょうとして、室町むろまち時代ときよの1406年ねん（応おう永ひさし6年ねん）の日付ひづけが記録きろくされている高野山こうのやま文書ぶんしょ『高野山こうのやま學がく道みち衆しゅ堅けん義ぎ料りょう寄進きしん状じょう』があり、「池いけノ水みずヲ引ク也根本ほんハ糯田もちだト名めいク〔ママ〕　今こんハ山田やまだニテ棚だなニ似にタル故こニ　タナ田たト云うん」と書かかれ、当時とうじから池いけの水みずを引ひく水田すいでんであったことが述のべられている。また糯田もちだという特記とっきについて、農業のうぎょう地理ちり学者がくしゃの中島なかじま峰みね広ひろは糯田もちだが普通ふつうの水田すいでんであるウルチ田たより収量しゅうりょうが劣おとり、程度ていどの低ひくい水田すいでんとみなされていたためと述のべている。

近世きんせい

近世きんせい以降いこうは灌漑かんがい技術ぎじゅつが向上こうじょうし、傾斜けいしゃが少すくない沖積ちゅうせき平野へいやでも、水路すいろに水車みずぐるまを設もうけて灌漑かんがいや排水はいすいが出来できるようになり、現在げんざい、穀倉こくそう地帯ちたいと呼よばれるような河川かせん下か流域りゅういきの平野へいやでの稲作いなさくが広ひろまった。

西日本にしにほんは、地形ちけい的てきに急峻きゅうしゅんな山地さんちがいきなり海うみに没ぼっする地形ちけいが多おおく、また沖積ちゅうせき平野へいやも比較的ひかくてき狭せまいところが多おおい上うえに、耕作こうさく適地てきちは古ふるくから高度こうどに農地のうち化かされていた。このため、江戸えど時代じだいに干拓かんたくを含ふくめた沖積ちゅうせき平野へいやの新田にった開発かいはつの余地よちが乏とぼしくなると、藩はん経済けいざいの基盤きばんの石高いしたかを増ふやすため、今度こんどは急きゅう傾斜けいしゃの山岳さんがく斜面しゃめん上じょうに水田すいでんがつくられ、現在げんざいでいう棚田たなだが多おおくつくられた。その際さい、伝統でんとう的てきな石垣いしがき構築こうちくの技術ぎじゅつを生いかし、少すこしでも収量しゅうりょうを増ふやすため、棚田たなだの畔ほとり（あぜ）や土手どて（どて）の部分ぶぶん（土ど坡、どは）は、極限きょくげんまで収量しゅうりょうを上あげるために急きゅうな傾斜けいしゃに耐たえられる石垣いしがきでつくられた。

一方いっぽう、東海とうかい地方ちほうや北陸ほくりく地方ちほう以東いとうの東日本ひがしにっぽんは、比較的ひかくてき広ひろい沖積ちゅうせき平野へいやに恵めぐまれていた上うえに、太平洋たいへいよう側がわを中心ちゅうしんに低てい開発かいはつ状態じょうたいの洪ひろし積せき台地だいちや河岸かわぎし段丘だんきゅう面めんの農地のうち開発かいはつの余地よちが大おおきく、日本海にほんかい側がわを中心ちゅうしんに扇状地せんじょうちでも開発かいはつの余地よちが広ひろく存在そんざいした。このため、江戸えど時代じだいに至いたっても、急峻きゅうしゅんな山地さんちの傾斜けいしゃ面めんを切きり開ひらいて棚田たなだをつくるまでに至いたらなかったところが多おおく、棚田たなだはあまりつくられないか、つくられた場合ばあいでも畔ほとりや土手どては傾斜けいしゃが緩ゆるやかな土盛どもりとなり、西日本にしにほんとは対照たいしょう的てきな棚田たなだ風景ふうけいとなった。なお、東日本ひがしにっぽん・西日本にしにほんに関かかわらず、漁港ぎょこうの適地てきちが海沿うみぞいの山やまに囲かこまれた入いり江えであることも多おおかったため、漁港ぎょこうから離はなれた平地ひらちの領地りょうち争あらそいに敗やぶれた漁村ぎょそんでは、漁港ぎょこう近ちかくの山やまに漁民ぎょみんの主食しゅしょく用ようの棚田たなだがつくられる例れいがみられる。

棚田たなだはその出現しゅつげん以降いこうも蔑視べっしされており、1744年ねん（寛政かんせい6年ねん）の『地方ちほう凡例はんれい録ろく』でも「山田やまだ・谷田たにだと名なを付づけは、山やまの洞谷ほらだに間あいだ等とうにある田たにて、至いたりて土地とちあしく、猪いの鹿しかの荒あらしも強つよく、下した下田しもだの位くらいにもなりがた分ぶんを山田やまだ・谷田たにだと名な付つく」と述のべている。中島なかじま峰みね広ひろはこれについて、下しも下田げでんを下回したまわるということは位くらいがなく、課税かぜい対象たいしょうにもならなかったのではないかと推察すいさつする。

近代きんだい

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後こうは稲作いなさくの大だい規模きぼ化か・機械きかい化かが推おし進すすめられ、傾斜けいしゃに合あわせて様々さまざまな形かたちをしていた圃場ほじょうは、農業のうぎょう機械きかいが導入どうにゅうし易やすい大型おおがたの長方形ちょうほうけいに統一とういつされて整備せいびされた。棚田たなだのうち、特とくに急きゅう傾斜けいしゃの地域ちいきではこのような圃場ほじょう整備せいびや機械きかい化かは難むずかしかったが、土木どぼく技術ぎじゅつの進歩しんぽで大だい規模きぼ化かに成功せいこうした山間さんかん地ちの棚田たなだも多おおい。ただし、西日本にしにほんの（急きゅう傾斜けいしゃ）棚田たなだでは、大だい規模きぼ化かをしようとすると斜面しゃめんを大おおきく削けずらなくてはならず、法ほう面めん（のりめん）の土砂崩どしゃくずれ対策たいさくなど付帯ふたい工事こうじの費用ひようが莫大ばくだいとなるため、大だい規模きぼ化かされなかったり、営農えいのう放棄ほうきされたりして荒廃こうはいしていくところも多おおく見みられた。

1970年ねんのコメの生産せいさん調整ちょうせい（「減反げんたん政策せいさく」参照さんしょう）において、農林水産省のうりんすいさんしょうは木材もくざい自由じゆう化かの目処めどが立たたないこともあり、棚田たなだのスギ林はやしへの転換てんかんを奨励しょうれいした。しかしこの施策しさくは失敗しっぱいし、特とくにスギ林りんが無惨むざんに放置ほうちされた中国ちゅうごく山地さんちの光景こうけいをみて民俗みんぞく学者がくしゃの神田かんだ三さん亀男かめおは農政のうせい批判ひはんを行おこなった。

一方いっぽうで棚田たなだを称賛しょうさんする言説げんせつもあった。昭和しょうわ初期しょきのアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでの経済けいざい学会がっかいで、ある地理ちり学者がくしゃが、棚田たなだはエジプトのピラミッドに並ならぶ偉大いだいなものであり、農民のうみんの労働ろうどう・勤勉きんべんの結晶けっしょうであると東畑とうはた精一せいいちに絶賛ぜっさんしたという。1985年ねん、司馬しば遼りょう太郎たろうが「街道かいどうをゆく」シリーズの取材しゅざいで高知こうち県けんに訪おとずれた際さいには、梼原ゆすはら町まち史しの千せん枚まい田たについて「えらいもん」「大だい遺産いさん」と絶賛ぜっさんしたという。

棚田たなだは、国土こくどや美うつくしい景観けいかんの保全ほぜん、農のう山村さんそん部ぶのコミュニティ維持いじや都市としとの交流こうりゅう、文化ぶんか・教育きょういくといった多面ためん的てきの価値かちを評価ひょうかされている。日本国にっぽんこく政府せいふは『棚田たなだ地域ちいき振興しんこう法ほう』を制定せいていするなどして営農えいのう継続けいぞくを支援しえんしている。農林水産省のうりんすいさんしょうは1999年ねんに「日本にっぽんの棚田たなだ百ひゃく選せん」として134地区ちくを選定せんていしたほか、2022年ねん2月がつ15日にちには自治体じちたいなど多様たような主体しゅたいが維持いじ・振興しんこうに加くわわる「つなぐ棚田たなだ遺産いさん」271地区ちくを発表はっぴょうした。

なお、稲作いなさくには灌漑かんがいが必要ひつようであるため、現在げんざい残のこる（急きゅう傾斜けいしゃ）棚田たなだでも勿論もちろん、灌漑かんがい設備せつびが整ととのっている。ただし、山間さんかん地ちにあるため河川かせんは上流じょうりゅうであり、日照ひでりが続つづくと水量すいりょうが簡単かんたんに減へってしまって水田すいでんが干上ひあがってしまう問題もんだいがあった。そのため、最さい寄よせの河川かせん以外いがいからも用水路ようすいろを延々えんえんと引ひいたり、ため池いけ築造ちくぞうによる天水てんすい灌漑かんがいを行おこなったりした。それらの方法ほうほうが困難こんなんな場所ばしょは、田たの地下ちかに横穴よこあなを設もうけ、湧水わきみずや伏流ふくりゅう水すいなど地下ちかに涵養かんようされた水みず（地下水ちかすい）を利用りようする場合ばあいもある。

棚田たなだの定義ていぎ

「石田いしだの棚田たなだ。」淡路島あわじしまは慢性まんせい的てきな水不足みずぶそくを解決かいけつするために、数すう多おおくの溜池ためいけが造つくられてきた。溜池ためいけと棚田たなだ、瀬戸内海せとないかい（播磨灘はりまなだ）が一体いったいとなる景観けいかんは、淡路島あわじしま北部ほくぶ特有とくゆうの景観けいかんを形作かたちづくっている。

傾斜地けいしゃちにある田たのうち、急峻きゅうしゅんな傾斜地けいしゃちで階段かいだん状じょうにつくられた田たをいう。

古ふるい用例ようれい

• 紀伊きい国こく伊都いと郡ぐん志こころざし富田とみた荘そう（和歌山わかやま県けんかつらぎ町まち）の棚田たなだの反別たんべつ、収穫しゅうかく量りょうを記しるした建たて武たけし5年ねん（1338年ねん）の『高野山こうのやま文書ぶんしょ』では「棚田たなだ一いち反はん御ご得分とくぶん四よん十じゅう歩ふハ…」と棚田たなだの文字もじがみえる（棚田たなだ学会がっかいによる）。
• 群馬ぐんま県けん沼田ぬまた市しで、古墳こふん時代じだい後期こうき（6世紀せいき中頃なかごろ）の棚田たなだ遺構いこうが見みつかっている。

農林水産省のうりんすいさんしょうの認定にんてい制度せいど

現在げんざい、「棚田たなだ」といえば「急きゅう傾斜けいしゃの山間さんかん地ちの階段かいだん状じょう水田すいでん」を指さす。そのため、農林水産省のうりんすいさんしょうは傾斜けいしゃの度合どあいで棚田たなだを定義ていぎしており、機械きかい化かの度合どあいや農業のうぎょう文化ぶんかについての規定きていはない。

• 農水省のうすいしょうの定義ていぎ

傾斜けいしゃ度どが20分ぶんの1（水平すいへい距離きょりを20メートル進すすんで1メートル高たかくなる傾斜けいしゃ）以上いじょうの水田すいでんを「棚田たなだ」として認定にんていする。認定にんていされた棚田たなだは、助成じょせい金きんが交付こうふされる。

農水省のうすいしょうと日本にっぽん土壌どじょう協会きょうかいが、1993年ねんに行いった現地げんち調査ちょうさでは、農水省のうすいしょうの定義ていぎによる「棚田たなだ」は22万まん1067ヘクタールとされている。この棚田たなだの面積めんせきは当時とうじの全ぜん水田すいでん面積めんせきの約やく8%を占しめており、かなり一般いっぱん的てきな水田すいでん形態けいたいであることが分わかる。しかし、この当時とうじで既すでに12%が耕作こうさく放棄ほうきされていた。

棚田たなだの高こう付加ふか価値かち化か

棚田たなだでは、その排水はいすい能力のうりょくの高たかさから、ワサビなどの付加ふか価値かちの高たかい商品しょうひん作物さくもつを栽培さいばいしている例れいも多おおい。また、棚田たなだで獲えれた米こめであることを前面ぜんめんに出だしてアピールしてブランド商品しょうひん化かしている例れいもある。

棚田たなだの景観けいかんを維持いじ、または、観光かんこう地ちとしてのリピーター醸成じょうせいのためにオーナー制度せいどを導入どうにゅうしている地域ちいきが多数たすう存在そんざいする。根拠こんきょ法ほうは市民しみん農園のうえん整備せいび促進そくしん法ほうや特定とくてい農地のうち貸付かしつけ法ほう。「オーナー」は期限きげん付つきであり、農民のうみんの小作こさく化かではない。農民のうみん以外いがいが農地のうちを取得しゅとくするのは、農地のうち法ほう上じょう問題もんだいであるため、「オーナー」とは名なばかりであり、不動産ふどうさん取引とりひきでもない。すなわち、「オーナー制度せいど」はオプション取引とりひきにあたり、農村のうそんの副ふく収入しゅうにゅう増加ぞうかとリスクヘッジを達成たっせいできる。

農作業のうさぎょうの効率こうりつ化かが難むずかしいため耕作こうさく放棄ほうきされた棚田たなだは多おおいが、「日本にっぽんの棚田たなだ百ひゃく選せん」入いりなどを契機けいきに、地元じもとが再さい整備せいびに取とり組くんだり、稲刈いねかり後ごの田たへのキャンプ誘致ゆうちなど観光かんこう面めんでも活用かつようされたりしている地区ちくもある。

棚田たなだの営農えいのう特性とくせい

平野へいやの圃場ほじょう大型おおがた化か整備せいびの際さいに行おこなわれた田圃たんぼの所有しょゆう権けんの整理せいりが棚田たなだではされていないため、外部がいぶの者ものにとって一体いったい的てきな風景ふうけいに見みえる棚田たなだの所有しょゆう権けんはかなり複雑ふくざつに入いり組くんでおり、1世帯せたいあたりの耕作こうさく面積めんせきも少すくない。そのため、農業のうぎょう機械きかいの導入どうにゅうには経済けいざい的てき負担ふたんが大おおきく、兼業けんぎょう化かしないと農業のうぎょうを続つづけられないことも多おおい。兼業けんぎょうには「世帯せたい主ぬし」の兼業けんぎょうと「世帯せたい」の兼業けんぎょうがあるが、世帯せたいの兼業けんぎょうでは農業のうぎょうノウハウを持もった世帯せたい主ぬしが農業のうぎょうに従事じゅうじし、それ以外いがいの子こや孫まごが他た業種ぎょうしゅで収入しゅうにゅうを得える。世帯せたいの兼業けんぎょうでは子こや孫まごに農業のうぎょうノウハウが受うけ継つがれないので、営農えいのう者しゃの世代せだい交代こうたいが進すすまず、営農えいのうの主体しゅたいが高齢こうれい化かし、最終さいしゅう的てきに営農えいのう放棄ほうきとなる。世帯せたい主ぬしの兼業けんぎょうでは、兼業けんぎょうしながらの営農えいのう法ほうや家計かけいノウハウが受うけ継つがれるため、営農えいのう放棄ほうきに至いたる確かく率りつは比較的ひかくてき低ひくい。

棚田たなだは1つの田た当あたりの耕作こうさく面積めんせきが小ちいさく、「大型おおがた」農業のうぎょう機械きかいの導入どうにゅうが困難こんなんである。しかし、棚田たなだまで、あるいは棚田たなだ間あいだに舗装ほそうされた道路どうろを通とおすことで、「小型こがた」農業のうぎょう機械きかいの導入どうにゅうは可能かのうである。一般いっぱん的てきに、1つの集落しゅうらくでは同どう時期じきに同おなじ農作業のうさぎょうが重かさなってしまうため、効率こうりつの悪わるい「小型こがた」の方ほうが集落しゅうらく全体ぜんたいでの共有きょうゆう化かが難むずかしい。しかし、棚田たなだは山やまの上うえと下したで農作業のうさぎょう時期じきが微妙びみょうに違ちがうため、平地ひらちの集落しゅうらくに比くらべて農業のうぎょう機械きかいの共有きょうゆう化かがし易やすい。今いままで農協のうきょう（金融きんゆう部門ぶもん）は、貸付かしつけ残高ざんだかを増ふやすために戸別こべつの農業のうぎょう機械きかい導入どうにゅうを進すすめていたが、貸付かしつけリスクの少すくない共有きょうゆう化かに貸付かしつけの方向ほうこうを変かえており、棚田たなだの農業のうぎょうシステムに変化へんかが起おきている。

棚田たなだの現状げんじょうと将来しょうらい

棚田たなだはかつて平野へいやが少すくない山間さんかん部ぶや海岸かいがん部ぶの食料しょくりょう自給じきゅうに貢献こうけんし、現代げんだいでも景観けいかんや生物せいぶつ多様たよう性せいの保持ほじに大おおきな役割やくわりを担になっている。だが米べいが余剰よじょうになるにつれ、耕作こうさく効率こうりつの悪わるさから作付さくづけが放棄ほうきされる例れいが増ふえている。農水省のうすいしょうは2005年ねんで棚田たなだの面積めんせき調査ちょうさを中断ちゅうだんしたが、早稲田大学わせだだいがく名誉めいよ教授きょうじゅ（地質ちしつ学がく)である中島なかじま峰みね広ひろの推計すいけいによると、全国ぜんこくにある水田すいでんの約やく1割わりにあたる15万まんhaが棚田たなだで、この30年間ねんかんで約やく3分ぶんの1が消きえた。棚田たなだ栽培さいばい米まいのブランド化かやオーナー制せい導入どうにゅう、機械きかい化かなどにより棚田たなだの保全ほぜんする取とり組くみが各地かくちで模索もさくされている。

世界せかいの棚田たなだ

米作べいさくを行おこなっている世界せかい各国かっこくの山間さんかん地域ちいきで棚田たなだのような耕作こうさく地ちを見みることができる。

中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくの雲南うんなん省しょうにある紅べに河かわ哈尼棚田たなだ群ぐんの文化ぶんか的てき景観けいかんは、世界せかい最大さいだいとも言いわれ、2013年ねんにユネスコの世界せかい遺産いさん（文化ぶんか遺産いさん）に登録とうろくされている。他たに棚田たなだが含ふくまれる世界せかい遺産いさんは、スイスのブドウ畑はたけがあるラヴォー、フィリピン・コルディリェーラの棚田たなだ群ぐんがある。

米作べいさく水田すいでんではないが、南米なんべいペルーのウルバンバ渓谷けいこくには、岩塩がんえんが溶とけた湧水わきみずを溜ためて食塩しょくえんを採取さいしゅする棚田たなだ状じょうのマラス塩田しおだ（サリーナス・デ・マラス、Salinas de Maras）がある。また、インカ時代じだいではアンデネス（単数たんすう形がた：アンデン）と呼よばれる高低こうてい差さがある棚田たなだの形式けいしきが見みられる。

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  ネパールの千せん枚まい田た
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  フィリピン・バナウエにある棚田たなだ（世界せかい遺産いさん、世界せかい農業のうぎょう遺産いさん登録とうろく）
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  中国ちゅうごく・雲南うんなん省しょうの棚田たなだ（世界せかい遺産いさん、世界せかい農業のうぎょう遺産いさん登録とうろく）
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  中国ちゅうごく・広西ひろせチワン族ぞく自治じち区くの棚田たなだ
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  アフガニスタン
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  イエメン
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  ウガンダ
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  マダガスカル島とう
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  ペルー
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  ペルーのモライ遺跡いせき

• 段々畑だんだんばたけ
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  スイスのブドウ畑はたけ
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  北大西洋きたたいせいように浮うかぶスペイン領りょうカナリア諸島かなりあしょとうのバナナ畑はたけ

日本にっぽんの代表だいひょう的てきな棚田たなだ

「日本にっぽんの棚田たなだ百ひゃく選せん」

→詳細しょうさいは「日本にっぽんの棚田たなだ百ひゃく選せん」を参照さんしょう

1999年ねん（平成へいせい11年ねん）7月がつ16日にちには農林水産省のうりんすいさんしょうによって「日本にっぽんの棚田たなだ百ひゃく選せん」が選定せんていされた。

「つなぐ棚田たなだ遺産いさん」

→詳細しょうさいは「つなぐ棚田たなだ遺産いさん」を参照さんしょう

2022年ねん（令れい和わ4年ねん）2月がつには農林水産省のうりんすいさんしょうによって「つなぐ棚田たなだ遺産いさん」（ポスト棚田たなだ百ひゃく選せん）が選定せんていされた。

重要じゅうよう文化ぶんか的てき景観けいかん

文化財ぶんかざい保護ほご法ほうに基もとづき、文部もんぶ科学かがく大臣だいじんが選定せんていした重要じゅうよう文化ぶんか的てき景観けいかんのなかには棚田たなだを含ふくむものがある。

佐賀さが県けん唐津からつ市し相知おうち町まち「蕨野わらびのの棚田たなだ」

• 奥おく飛鳥あすかの文化ぶんか的てき景観けいかん（奈良なら県けん高市たかいち郡ぐん明日香あすか村むら） - 2011年ねん選定せんてい
• 蘭島らんたお及および三田みた・清水しみずの農のう山村さんそん景観けいかん（和歌山わかやま県けん有田ありた郡ぐん有田ありた川町かわまち） - 2013年ねん選定せんてい
• 中国地方ちゅうごくちほう奥出雲おくいずもたたら製鉄せいてつ及および棚田たなだの文化ぶんか的てき景観けいかん（島根しまね県けん仁多にた郡ぐん奥出雲おくいずも町まち） - 2014年ねん選定せんてい
• 姨捨おばすての棚田たなだ（長野ながの県けん千せん曲きょく市し） - 2010年ねん選定せんてい
• 樫原かしわらの棚田たなだ（徳島とくしま県けん勝浦かちうら郡ぐん上勝かみかつ町まち） - 2010年ねん選定せんてい
• 四万十川しまんとがわ流域りゅういきの文化ぶんか的てき景観けいかん 上じょう流域りゅういきの山村さんそんと棚田たなだ（高知こうち県けん高岡たかおか郡ぐん檮原ゆすはら町まち） - 2009年ねん選定せんてい
• 蕨野わらびのの棚田たなだ（佐賀さが県けん唐津からつ市し） - 2008年ねん選定せんてい
• 平戸島ひらどしまの文化ぶんか的てき景観けいかん（長崎ながさき県けん平戸ひらど市し） - 2010年ねん選定せんてい
• 通つう潤じゅん用水ようすいと白糸台しらいとだい地ちの棚田たなだ景観けいかん（熊本くまもと県けん上益城かみましき郡ぐん山都やまと町まち） - 2008年ねん選定せんてい
• 酒谷さかやの坂元さかもと棚田たなだ及および農のう山村さんそん景観けいかん（宮崎みやざき県けん日南にちなん市し） - 2013年ねん選定せんてい

世界せかい遺産いさん

• 春日しゅんじつ集落しゅうらくの棚田たなだ…重要じゅうよう文化ぶんか的てき景観けいかんの「平戸島ひらどしまの文化ぶんか的てき景観けいかん」に含ふくまれており、2018年ねんに長崎ながさきと天草あまくさ地方ちほうの潜伏せんぷくキリシタン関連かんれん遺産いさんの構成こうせい資産しさんとして、棚田たなだとしては国内こくない初はつの世界せかい遺産いさんに登録とうろくされた。
• 西三川にしみかわ砂金山さきんやまの棚田たなだ…重要じゅうよう文化ぶんか的てき景観けいかんの「佐渡さど西三川にしみかわの砂金山さきんやま由来ゆらいの農のう山村さんそん景観けいかん」に含ふくまれており、2024年ねんに佐渡さど島とうの金山かなやまの景観けいかん構成こうせい要素ようそとして、世界せかい遺産いさんに登録とうろくされた。砂金さきんをすくうため、山裾やますその地形ちけいを雛壇ひなだん状じょうに改変かいへんし、山奥やまおくにため池いけを作つくり、そこから水みずを流ながしていた構造こうぞうを活いかし、砂金さきんが枯渇こかつした後のちに棚田たなだへと用途ようと変更へんこうした。田畑たはたを潰つぶして工場こうじょうを建たてるような一いち次じ産業さんぎょうから二に次じ産業さんぎょうへの農地のうち転用てんようは珍めずらしいことではないが、二に次じ産業さんぎょうから一いち次じ産業さんぎょうへの自然しぜん回帰かいき的てきな事象じしょうは海外かいがいからも注目ちゅうもくされている。

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  春日しゅんじつ集落しゅうらくの棚田たなだ
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  西三川にしみかわの棚田たなだ

その他たの有名ゆうめいな棚田たなだ

• 『日本経済新聞にほんけいざいしんぶん』NIKKEIプラス1「何なんでもランキング」は2017年ねん8月がつ26日にち付づけで、写真しゃしん家からが「フォトジェニック」（写真しゃしん映ばえ）を基準きじゅんに選えらんだ棚田たなだ10カ所かしょを掲載けいさいした。百ひゃく選せんにない場所ばしょとしては、新潟にいがた県けん十日町とおかまち市しの星ほし峠とうげ（1位い）、岩手いわて県けん一関いちのせき市しの金山かなやま（7位い）が入はいっている。
• ぎふの棚田たなだ21選せん（岐阜ぎふ県けん）のように、各かく地域ちいきが独自どくじに選定せんていしている一覧いちらんもある。
• 埼玉さいたま県けん秩父ちちぶ地方ちほうの横瀬よこせ町まちにある「寺坂てらさか棚田たなだ」は約やく250枚まい、4ha程度ていどと県内けんない最大さいだい級きゅうの棚田たなだで、観光かんこう客きゃくや写真しゃしん愛好あいこう家かに人気にんきがある。耕作こうさく放棄ほうき地ちを2001年ねん以降いこう、オーナー制度せいどなどの取とり組くみで復活ふっかつさせた。
• 岡山おかやま県けん美作みさく市しの上山うえやま（うえやま）地区ちくでは、かつて約やく8300枚まいあった棚田たなだの再生さいせい活動かつどうが、移住いじゅう者しゃを交まじえて進すすめられている。

脚注きゃくちゅう

注釈ちゅうしゃく

出典しゅってん

外部がいぶリンク

• 棚田たなだシーン - 静岡しずおか県けん 映像えいぞうによる棚田たなだの解説かいせつ
• 棚田たなだ学会がっかい
• 日本にっぽんの棚田たなだ百ひゃく選せん - 地域ちいき環境かんきょう資源しげんセンター
• NPO法人ほうじん 棚田たなだネットワーク