注釈ちゅうしゃく

注釈ちゅうしゃく（註釈ちゅうしゃく^{[注ちゅう 1]}、ちゅうしゃく、英えい: annotation）または注解ちゅうかい（註解ちゅうかい、ちゅうかい）とは、文章ぶんしょうや専門せんもん用語ようごについて補足ほそく・説明せつめい・解説かいせつするための文書ぶんしょや語句ごく。

本ほん項こうでは、古典こてんや経典きょうてんにおける注釈ちゅうしゃく書しょ（ちゅうしゃくしょ、英えい: commentary）についても扱あつかう。

注釈ちゅうしゃく書しょ

言語げんごは時間じかんの経過けいかと共ともに変化へんかするので、古ふるい書物しょもつなどに見みえる語彙ごいなども、時代じだいの流ながれによって理解りかいが難むずかしくなるため、当代とうだいの言語げんごによる解釈かいしゃくが求もとめられるようになる^[1]。こうして作つくられるのが、注釈ちゅうしゃく書しょと呼よばれるものである。

各国かっこくの注釈ちゅうしゃく書しょ

日本にっぽん

「抄物しょうもの」、「旧きゅう注ちゅう」、および「源氏物語げんじものがたりの古こ注釈ちゅうしゃく書しょの一覧いちらん」も参照さんしょう

日本にっぽんでは、『古今ここん集しゅう』『伊勢物語いせものがたり』『源氏物語げんじものがたり』『和漢わかん朗詠ろうえい集しゅう』『日本書紀にほんしょき』『御ご成敗せいばい式目しきもく』『職しょく原げん抄しょう』などの注釈ちゅうしゃく書しょが伝統でんとう的てきに書かかれた^[2]。室町むろまち時代ときよには、五ご山僧さんそうや公家くげ学者がくしゃによって和歌わか・物語ものがたり・式目しきもく・医学いがく書しょ・漢籍かんせきなど多岐たきにわたる分野ぶんやで注釈ちゅうしゃく書しょの出版しゅっぱんが行おこなわれた^[3]。

中国ちゅうごく

「論語ろんごの注釈ちゅうしゃく」、「注疏ちゅうそ」、および「義ぎ疏」も参照さんしょう

古代こだい中国ちゅうごくの伝統でんとう的てきな学問がくもんの中なかで、注釈ちゅうしゃくは重要じゅうような存在そんざいである^[4]。経書けいしょをはじめとする重要じゅうような古典こてんに対たいして、学者がくしゃが注釈ちゅうしゃくを附ふした形式けいしきの書物しょもつが多おおく著しるわされ、これは現在げんざいでも中国ちゅうごく研究けんきゅうの基礎きそとなっている^[5]。例たとえば、朱子学しゅしがくの研究けんきゅうを行おこなう際さい、朱しゅ熹が『四書ししょ』に対たいして注釈ちゅうしゃくを附ふした『四書ししょ章あきら句集くしゅう注ちゅう』がその材料ざいりょうとなる、という具合ぐあいである^[6]。

この注釈ちゅうしゃくにはいくつかの種類しゅるいがあり、訓詁くんこ学がくに代表だいひょうされる漢字かんじの意味いみを逐一ちくいち記しるす形式けいしきのものや、知名度ちめいどの低下ていかした人名じんめい・地名ちめいの解説かいせつ、理解りかいしづらい文章ぶんしょうの要約ようやくなどがある。また注釈ちゅうしゃくが付つけられる対象たいしょうとなる本ほんも、経書けいしょ、歴史れきし書しょ、文学ぶんがく作品さくひん、老子ろうしや荘そう子こなどから個人こじんの文集ぶんしゅうまで、多岐たきにわたっている^[7]。一いち例れいを下したに挙あげる。

鄭てい玄げんによる『周しゅう礼あや』『儀礼ぎれい』『礼れい記き』注ちゅう（経書けいしょに対たいする注ちゅう）
郭かく象ぞうによる『荘そう子こ』注ちゅう（老ろう荘そうの書しょに対たいする注ちゅう）
裴松之のによる『三国志さんごくし』注ちゅう（史書ししょに対たいする注ちゅう）
李り善よしによる『文選ぶんせん』注ちゅう（文学ぶんがく書しょに対たいする注ちゅう）

インド

インドでは、4つのヴェーダ（サンヒター）に対たいする注釈ちゅうしゃく書しょとして書かかれた文献ぶんけん群ぐん（ブラーフマナ、アーラニヤカ、ウパニシャッド）を始はじめとして、『バガヴァッド・ギーター』に対たいする注釈ちゅうしゃく書しょや、仏教ぶっきょうの仏典ぶってん等ひとしに対たいする注釈ちゅうしゃく書しょ（例たとえばパーリ仏典ぶってんに対たいするアッタカターや、龍りゅう樹いつき『中ちゅう論ろん』に対たいする諸しょ注解ちゅうかい）、六ろく派は哲学てつがくのスートラ等ひとしに対たいする注釈ちゅうしゃく書しょ（例たとえば『ブラフマ・スートラ』に対たいするシャンカラの注解ちゅうかい）が古ふるくから書かかれた。六ろく派は哲学てつがくは思想しそう書しょを新規しんきに作つくることよりも、注ちゅうに複ふく注ちゅう・複ふく々注ちゅうを重かさねることを軸じくにして思想しそうを展開てんかいした^[8]。

その他た

その他た、ヘブライ語ご聖書せいしょに対たいする注解ちゅうかい（英語えいご版ばん）、聖書せいしょに対たいする聖書せいしょ注解ちゅうかい書しょ、クルアーンに対たいするタフスィール、『イリアス』と『オデュッセイア』に対たいする注解ちゅうかい（ホメロス注解ちゅうかい（英語えいご版ばん））、プラトンの著作ちょさくに対たいする注解ちゅうかい（プラトン注解ちゅうかい（英語えいご版ばん））、アリストテレスの著作ちょさくに対たいする注解ちゅうかい（アリストテレス注解ちゅうかい（英語えいご版ばん））、『ユークリッド原論げんろん』『アルマゲスト』『ローマ法ほう大全たいぜん』などに対たいする注釈ちゅうしゃく書しょが伝統でんとう的てきに書かかれた。

写本しゃほんの余白よはく部分ぶぶんに注釈ちゅうしゃくが書かき入いれられることもあった（欄外らんがい古こ註（英語えいご版ばん）、スコリア）^[9]。

組版くみはんにおける注ちゅう

注ちゅう（註）とは、言葉ことばの意味いみ、文章ぶんしょうの解釈かいしゃく、本文ほんぶんの補足ほそく、文献ぶんけんの出典しゅってん（典拠てんきょ・引用いんよう文献ぶんけん・参考さんこう文献ぶんけん）などを明あきらかにするために付ふされる文ぶんをいう^[10]。

内容ないようによる分類ぶんるい

注ちゅうには次つぎの4種類しゅるいがある^[11]。

資料しりょうからの直接ちょくせつ引用いんようの出典しゅってんを示しめすもの（図表ずひょう、統計とうけいなども含ふくむ）。
資料しりょうからの要約ようやくの出典しゅってんを示しめすもの。
自分じぶんの意見いけんではない意見いけんの出典しゅってんを示しめすもの。
本文ほんぶんに入いれると叙述じょじゅつの流ながれを妨さまたげるが、本文ほんぶんの事項じこうの理解りかいに役立やくだつ補足ほそく情報じょうほうないしコメント。

注ちゅうの内容ないようにさらに補足ほそくを行おこなうために付つける注ちゅうを補注ほちゅう（補註ほちゅう、ほちゅう）という^[10]。

形式けいしきによる分類ぶんるい

記述きじゅつ本文ほんぶんを補足ほそくする注釈ちゅうしゃくの記載きさい箇所かしょは、本文ほんぶん文中ぶんちゅうに挿入そうにゅう記載きさいする割注わりちゅう・分ぶん注ちゅう、本文ほんぶん同どう頁ぺーじの末尾まつびに記載きさいする脚注きゃくちゅう、書籍しょせき末尾まつびの末尾まつびに記載きさいする後のち注ちゅう（または尾お注ちゅう）などがある^[12]。

傍注ぼうちゅう、頭注とうちゅう、脚注きゃくちゅう、後こう注ちゅうなどの場合ばあい、本文ほんぶんと注ちゅうを対応たいおうさせるためアステリスクを付つけたり（複数ふくすうあるときはアステリスクの数かずで区別くべつ）、注ちゅう番号ばんごうの数字すうじを付つける^[13]。

挿入そうにゅう注ちゅう: 本文ほんぶんの説明せつめいを要ようする箇所かしょのすぐそばに付つけられる注ちゅう^[14]。縦たて組ぐみでは同おなじ行ぎょうに直接ちょくせつ付つける形式けいしきと右側みぎがわの行間ぎょうかんに出だして付つける方法ほうほう（行間ぎょうかん注ちゅう）がある^[13]。本文ほんぶんよりも小ちいさい文字もじで2行ぎょうに分割ぶんかつして組くみ込こむ方法ほうほうは割注わりちゅうという^[13]。
傍注ぼうちゅう: 縦たて組ぐみでは奇数きすうページの小口こぐち寄より、横よこ組ぐみでは本文ほんぶんの小口こぐち寄よりに欄らんを設もうけて付つけられる注ちゅう^[13]。
頭注とうちゅう: 縦たて組ぐみの図書としょで用もちいられる形式けいしきで本文ほんぶん上部じょうぶに付つけられる注ちゅう^[13]。
脚注きゃくちゅう: 主おもに横よこ組ぐみの図書としょで用もちいられる形式けいしきで本文ほんぶん下部かぶに付つけられる注ちゅう^[13]。多おおくは罫けいによって本文ほんぶんの領域りょういきと区別くべつする^[13]。説明せつめいを行おこなうための語句ごくと本文ほんぶんの指さし示しめす注ちゅうは原則げんそくとして同どう一いちページに収おさめる必要ひつようがある^[13]。
後こう注ちゅう: 本文ほんぶんが一区切ひとくぎりとなる編へん、章あきら、節ふしなどの終おわりにまとめて入いれる注ちゅう^[13]。注ちゅうの文章ぶんしょうが長ながい場合ばあいに適てきしている^[13]。本文ほんぶんの段落だんらくと段落だんらくの間あいだに置おく段落だんらく注ちゅうも後こう注ちゅうの一種いっしゅである^[13]。

なお、この記事きじのようなウェブページにおける注釈ちゅうしゃくは、「脚注きゃくちゅう」と呼よぶべきか「後こう注ちゅう」と呼よぶべきかについて議論ぎろんがある。

原注げんちゅうと訳注やくちゅう

翻訳ほんやく書しょでは、原書げんしょに付つけられている注ちゅうを原注げんちゅう、訳者やくしゃが付つけた注ちゅうを訳注やくちゅうという^[10]。

プログラミング

「コメント (コンピュータ)」も参照さんしょう

プログラミングにおけるコメントは、プログラムのソースコードの内容ないようを補足ほそく・説明せつめい・解説かいせつする注釈ちゅうしゃくの役割やくわりを持もつ^[15]。コンパイラなどの処理しょり系けいはコメントの記述きじゅつ内容ないようを意識いしきせず、ソースコードからプログラムを生成せいせいする。ソースコードを読よむ人間にんげんはコメントの記述きじゅつ内容ないようを意識いしき・理解りかいし、ソースコードおよびプログラムの本質ほんしつを解釈かいしゃくする。

Javaには処理しょり系けいが記述きじゅつ内容ないようを認識にんしきしないコメントの注釈ちゅうしゃく文法ぶんぽうの他ほかに、記述きじゅつ内容ないようを認識にんしきするアノテーションという注釈ちゅうしゃく文法ぶんぽうがある^[16]。Javaのアノテーションはソースコード本文ほんぶんに「@命令めいれい文ぶん」で記述きじゅつし、コンパイルオプションや依存いぞんライブラリの指示しじに従したがって処理しょり系けいが必要ひつように応おうじて解釈かいしゃくする。アノテーションの命令めいれいは必かならずしもプログラムの動作どうさに影響えいきょうを与あたえるものではなく、コメントと同様どうように処理しょり系けいが記述きじゅつを無視むしする場合ばあいもある。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]