長ちょう孫まご無む忌き

長ちょう孫まご無む忌き

長ちょう孫まご 無む忌き（ちょうそん むき、生年せいねん不ふ詳しょう - 659年ねん）は、中国ちゅうごくの初はつ唐とうを代表だいひょうする政治せいじ家か。唐とうの太ふとし宗むねの長ちょう孫まご皇后こうごうの兄あにであり、唐から朝あさの外戚がいせきに当あたる。字じは輔機。本ほん貫ぬきは河南かなん郡ぐん洛陽らくよう県けん。唐とうの凌しのげ煙けむり閣かく二に十じゅう四よん功臣こうしんの第だい一いち位いに挙あげられた。

経歴けいれき

隋ずいの右みぎ驍衛将軍しょうぐん長ちょう孫まご晟あきら（長ちょう孫まご熾おきの弟おとうと）の子ことして生うまれた。長ちょう孫まご氏しは、献けんじ帝みかど（拓つぶせ跋ばつ鄰）のときに、その兄あにを拔拔氏しとし、後のちに漢かん化かして長ちょう孫まご氏しに改あらためたという。北きた魏たかしの道みち武たけ帝みかどにより宗室そうしつの長ちょうとされ、関せき隴集団だん中なかにおいても、貴顕きけん中ちゅうの貴顕きけんとされる門地もんちであった。

大業おおわざ5年ねん（609年ねん）の父ちちの死後しごは、異母いぼ兄けいの長ちょう孫まご安やす業ぎょうと折おり合あいが悪わるく、母方ははかたの伯父おじの高士こうし廉れんを頼たよった。長ちょう孫まご無む忌きは学問がくもんを好このみ、文章ぶんしょうや史書ししょに通暁つうぎょうした。

大業おおわざ13年ねん（617年ねん）、唐とうの高祖こうそ李り淵ふかしが太ふとし原はらで起おこり兵へいして長安ながやすを奪うばうと、長春ちょうしゅん宮みやで謁見えっけんを受うけて、渭北道ほくどう行軍こうぐん典てん籤くじに任にんじられた。李り世よ民みんの征戦せいせんに従軍じゅうぐんし、比ひ部ぶ郎ろう中ちゅうに累進るいしんし、上うえ党とう県けん公こうに封ふうぜられた。

武徳ぶとく9年ねん（626年ねん）の玄武げんぶ門もんの変へんのとき、房ぼう玄げん齢よわい・杜もり如晦らとともに襲撃しゅうげきの計画けいかくを定さだめた。李り世よ民みんが皇太子こうたいしとなると、その功績こうせきにより、太子たいし左ひだり庶子しょしに昇進しょうしんした。太ふとし宗むねの即位そくい後ご、左ひだり武たけし候こう大将軍だいしょうぐんとなった。貞さだ観かん元年がんねん（627年ねん）、吏部尚書しょうしょに転てんじ、功績こうせき第だい一いちとして斉ひとし国こく公おおやけに進すすむ封ふうされた。唐とうの元勲げんくん・外戚がいせきとして礼遇れいぐうを受うけ、内廷ないていに自由じゆうに出入でいりできた。同年どうねんのうちに尚書しょうしょ右みぎ僕ぼく射しゃとなった。

ときに唐とうは突厥の頡利可か汗あせと盟約めいやくを結むすんでいたが、突厥の内紛ないふんにともない、突厥を攻せめるように勧すすめる臣下しんかが多おおくなった。太ふとし宗むねは蕭しょう瑀と長ちょう孫まご無む忌きに突厥に対たいする政策せいさくを訊たずねた。蕭しょう瑀は「攻撃こうげきするのがよろしい」と答こたえたのに対たいして、長ちょう孫まご無む忌きは「来くるのを待まてばよろしい（盟約めいやくをこちらから破やぶる必要ひつようはない）」と答こたえた。太ふとし宗むねは長ちょう孫まご無む忌きの答こたえに「善よし」としながら、実際じっさいには兵へいを出だして突厥を攻せめ取とった。

長ちょう孫まご無む忌きの権けん寵ちょうが重おもすぎることから、これを抑制よくせいするよう進言しんげんする者ものもいたが、太ふとし宗むねは長ちょう孫まご無む忌きを信任しんにんして重用じゅうようしつづけた。長ちょう孫まご無む忌きは諸しょ臣しんの嫉視しっしをおそれて、みずから長ちょう孫まご皇后こうごうを通つうじて太ふとし宗むねに働はたらきかけ、僕ぼく射しゃの地位ちいを退しりぞき、開府かいふ儀ぎ同どう三さん司つかさとなった。貞さだ観かん7年ねん（633年ねん）、司つかさ空そら・知ち門下もんか尚書しょうしょ事ごとに任命にんめいされたが、これを断ことわった。高士こうし廉かどは外戚がいせきが三公みつきみの地位ちいにあることはよくないと進言しんげんしたが、なおも太ふとし宗むねは長ちょう孫まご無む忌きを司つかさ空そらとすることにこだわった。長ちょう孫まご無む忌きがさらに固辞こじしたので、太ふとし宗むねは許ゆるし、威たけし鳳おおとり賦ふを作つくって賜たまわり、功績こうせきを讃たたえた。趙ちょう州しゅう刺史ししとなり、趙ちょう国こく公おおやけに改あらため封ふうされた。のちに司つかさ徒とに進すすんだ。

貞さだ観かん17年ねん（643年ねん）、功臣こうしんとして凌しのげ煙けむり閣かくに列れっせられた。位くらいは二に十じゅう四よん人にんの中なかで筆頭ひっとうである。

同年どうねん、太ふとし宗むねの長男ちょうなんで皇太子こうたいしの李り承うけたまわ乾いぬいが廃嫡はいちゃくされると、第だい九きゅう子し（長ちょう孫まご皇后こうごうの子ことしては第だい三子みつご）の晋すすむ王おう李り治おさむを皇太子こうたいしとすることに成功せいこうした。李り治おさむを後継あとつぎに推おしたのは、第だい四よん子し（長ちょう孫まご皇后こうごうの子ことしては第だい二に子し）の魏ぎ王おう李り泰やすしよりも李り治おさむのほうが長ちょう孫まご無む忌きにとって御ぎょし易やすいという目論見もくろみからであったとされる。長ちょう孫まご無む忌きは太子たいし太ふとし師し・同どう中書ちゅうしょ門下もんか三さん品ひんとなった。同中どうちゅう書しょ門下もんか三さん品ひんの地位ちいはこのときに始はじまる。

太ふとし宗むねによって高句麗こうくり遠征えんせい（唐とうの高句麗こうくり出兵しゅっぺい）がおこなわれると、侍さむらい中ちゅうを兼かねた。帰還きかんすると、太子たいし太ふとし師しを退しりぞき、揚あげ州しゅう都と督とくを遙はるか領りょうした。

貞さだ観かん23年ねん（649年ねん）、太ふとし宗むねの臨終りんじゅうにあたって、李り治おさむの後見こうけんと輔政を託たくされた。高こう宗はじめが即位そくいすると、太ふとし尉じょうに進すすみ、中書ちゅうしょ令れいを検校けんぎょうし、門下もんか省しょうと尚書しょうしょ省しょうを領りょう知ちした。三さん人にんの子こはみな朝あさ散大さんだい夫おっととなった。ときに昭あきら儀ぎの武たけ照あきら（武則たけのり天てん）が高こう宗むねの男子だんしを産うんだため、これを皇后こうごうに立たてる議論ぎろんが起おこったが、長ちょう孫まご無む忌きは武たけ照あきら立后りっこうに反対はんたいし、数すう度どにわたって高こう宗むねに諫言した。しかし、高こう宗むねに聴ききいれられなかった。永えい徽6年ねん（655年ねん）に武たけ照あきらが皇后こうごうとして立たつと、顕あらわ慶けい2年ねん（657年ねん）には褚遂良りょう・来らい済すみらが謀反むほんを誣告ぶこくされて左遷させんされ、長ちょう孫まご無む忌きは宮廷きゅうていで孤立こりつするようになった。顕あらわ慶けい4年ねん（659年ねん）、許もと敬けい宗むねが李り奉たてまつ節ふしらに指示しじして朋党ほうとう事件じけんをでっちあげ、その黒幕くろまくを長ちょう孫まご無む忌きということにして高こう宗むねに訴うったえた。高こう宗むねは許もと敬けい宗むねの弁舌べんぜつに説得せっとくされてしまい、長ちょう孫まご無む忌きの官爵かんしゃくを削けずって黔州（貴き州しゅう省しょう）に流ながした。許もと敬けい宗むねや李り義よし府ふがさらにかれの謀反むほんを訴うったえたため、長ちょう孫まご無む忌きは配所はいしょで首くびを吊つって自殺じさつした。咸亨5年ねん（674年ねん）になって、官爵かんしゃくをもどされ、孫まごの長ちょう孫まご元もと翼つばさが爵位しゃくいを継ついだ。

長ちょう孫まご無む忌きは、唐から律りつ疏義や隋ずい書しょの編纂へんさん者しゃとしても知しられた。

伝記でんき資料しりょう

• 『旧きゅう唐とう書しょ』巻まき六ろく十じゅう五ご 列伝れつでん第だい十じゅう五ご「長ちょう孫まご無む忌き伝でん」
• 『新しん唐とう書しょ』巻まき一いち百ひゃく五ご 列伝れつでん第だい三さん十じゅう「長ちょう孫まご無む忌き伝でん」