レシプロエンジン 用 よう のFADEC
FADEC (ファデック、または、フェデック)とは、デジタルコンピュータ を用 もち いて、航空 こうくう 用 よう エンジン の全 すべ ての制御 せいぎょ を行 おこな う制御 せいぎょ 装置 そうち である。
FADECは、Full Authority Digital Engine Control の略 りゃく であるが、当初 とうしょ は Full Authority Digital Electronics Control の略 りゃく とされていた。日本語 にほんご では「全 ぜん デジタル電子 でんし 式 しき エンジン制御 せいぎょ 装置 そうち 」、「全 ぜん デジタル式 しき 電子 でんし 制御 せいぎょ 器 き 」、「デジタル電子 でんし 制御 せいぎょ 装置 そうち 」などと訳 やく されている。
FADECは、制御 せいぎょ 用 よう デジタルコンピュータ[注釈 ちゅうしゃく 1] を中心 ちゅうしん に、アクチュエータ 、センサ、電源 でんげん 回路 かいろ などからなるシステムである。FADECは、従来 じゅうらい の油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき と比 くら べて高 たか い制御 せいぎょ 精度 せいど を持 も つことから、燃費 ねんぴ を含 ふく むエンジン性能 せいのう の最適 さいてき 化 か につながるほか、故障 こしょう 診断 しんだん 機能 きのう を備 そな えたり、制御 せいぎょ 機能 きのう の追加 ついか ・変更 へんこう を行 おこな いやすいため、エンジン全体 ぜんたい の開発 かいはつ や改良 かいりょう の点 てん でも有利 ゆうり である。
FADECが最初 さいしょ に導入 どうにゅう されたのはタービンエンジン の制御 せいぎょ で、後 のち に技術 ぎじゅつ が洗練 せんれん されたことでレシプロエンジン にも用 もち いられるようになった。21世紀 せいき 現在 げんざい では軍用 ぐんよう ・民間 みんかん 用 よう を問 と わず新 あら たに製造 せいぞう される航空機 こうくうき のFADECは、安全 あんぜん 性 せい 確保 かくほ のために冗長 じょうちょう 性 せい を持 も った2重 じゅう 系 けい となっている。
航空機 こうくうき 用 よう のエンジン制御 せいぎょ 装置 そうち は長 なが い間 あいだ 、油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき のもの[注釈 ちゅうしゃく 2] が使用 しよう されていた。これは電気 でんき 回路 かいろ の部品 ぶひん の信頼 しんらい 性 せい が十分 じゅうぶん ではなく、エンジン制御 せいぎょ 装置 そうち の故障 こしょう が航空機 こうくうき の墜落 ついらく の危険 きけん をはらんでいたために、確実 かくじつ な動作 どうさ が期待 きたい できる油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき が選 えら ばれたためである。油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき では単純 たんじゅん な制御 せいぎょ しか行 おこな えず[注釈 ちゅうしゃく 3] 、航空機 こうくうき の飛行 ひこう に合 あ わせてエンジンの動力 どうりょく 性能 せいのう を最適 さいてき 化 か するには航空 こうくう 機関 きかん 士 し のような専 せん 門 もん の乗員 じょういん や操縦 そうじゅう 士 し 自身 じしん がエンジン制御 せいぎょ を行 おこな う必要 ひつよう があり、これらは運用 うんよう 上 じょう の負担 ふたん となっていた。また、エンジン技術 ぎじゅつ そのものが高性能 こうせいのう 化 か へと進 すす むに伴 ともな って物理 ぶつり 的 てき 強度 きょうど や動作 どうさ 温度 おんど の実用 じつよう 限界 げんかい 近 ちか くで動作 どうさ させることが求 もと められたが、油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき ではその要求 ようきゅう に応 こた えられなかった。
レシプロエンジンでは航空 こうくう 機関 きかん 士 し か操縦 そうじゅう 士 し が高度 こうど に合 あ わせてチョークレバー を操作 そうさ し混合 こんごう 気 き を調整 ちょうせい していたが、単座 たんざ 戦闘 せんとう 機 き の性能 せいのう が向上 こうじょう し飛行 ひこう 高度 こうど が頻繁 ひんぱん に変 か わるようになると負担 ふたん になっていた。1939年 ねん にドイツで開発 かいはつ されたBMW 801 には「コマンドゲレート」と呼 よ ばれる機械 きかい 式 しき アナログコンピュータ が付属 ふぞく していた。これはパイロットがスロットル レバーを操作 そうさ するだけで、プロペラピッチ、2段 だん スーパーチャージャーの切 き り替 か え、点火 てんか 時期 じき 調整 ちょうせい 、混合 こんごう 気 き 濃度 のうど などが自動 じどう 調整 ちょうせい されるシステムであった。英 えい 米 べい にも強 つよ い影響 えいきょう を与 あた え、プラット・アンド・ホイットニー は同様 どうよう の「自動 じどう 動力 どうりょく 制御 せいぎょ 装置 そうち 」(Automatic Power Control)/「自動 じどう 発動 はつどう 機 き 制御 せいぎょ 装置 そうち 」(Automatic Engine Control)を開発 かいはつ した。
アナログ式 しき 制御 せいぎょ 装置 そうち は、日本 にっぽん でも第 だい 二 に 次 じ 世界 せかい 大戦 たいせん 末期 まっき に海軍 かいぐん 航空 こうくう 技術 ぎじゅつ 廠 しょう で気化 きか 器 き に代 か わり試験 しけん 的 てき に電気 でんき 的 てき な制御 せいぎょ が研究 けんきゅう された事 こと がある。当初 とうしょ は操縦 そうじゅう 士 し によるスロットル レバーによる機械 きかい 的 てき な連動 れんどう 機構 きこう を介 かい した制御 せいぎょ であったが、燃料 ねんりょう 流量 りゅうりょう 、出力 しゅつりょく 他 た 多 おお くの要素 ようそ を制御 せいぎょ する必要 ひつよう があった。
その後 ご 、電子 でんし 部品 ぶひん の信頼 しんらい 性 せい が向上 こうじょう するとアナログ電気 でんき 式 しき の制御 せいぎょ 装置 そうち の採用 さいよう が始 はじ まった。1960年代 ねんだい 、ロールスロイス 593 エンジンにアナログ電気 でんき 式 しき 制御 せいぎょ 装置 そうち が搭載 とうさい された。
アナログ電気 でんき 式 しき の制御 せいぎょ 装置 そうち では従来 じゅうらい 型 がた の油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき に電気 でんき 回路 かいろ を付加 ふか した構成 こうせい を採 と り、まだ信頼 しんらい 性 せい が不足 ふそく していた電子 でんし 部品 ぶひん の動作 どうさ 不良 ふりょう 時 じ にも従来 じゅうらい 型 がた の油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき 制御 せいぎょ 装置 そうち が基本 きほん 的 てき なエンジン制御 せいぎょ を担 にな えるように考慮 こうりょ され、電気 でんき 式 しき の制御 せいぎょ によって油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき では果 は たせなかった細 こま かな調整 ちょうせい が行 おこな えるようになった[注釈 ちゅうしゃく 4] 。
アナログ式 しき からデジタル式 しき に変更 へんこう されたFADECの登場 とうじょう 時 じ には安全 あんぜん 性 せい 確保 かくほ のために、従来 じゅうらい 型 がた でバックアップ用 よう の油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき エンジン制御 せいぎょ 装置 そうち (Backup Control Unit, BCU)も残 のこ して置 お かれた。
1970年代 ねんだい 末 まつ にはアナログ式 しき 制御 せいぎょ 装置 そうち はデジタル式 しき に取 と って代 か わられた。NASA とプラット・アンド・ホイットニー 社 しゃ はFADECの実験 じっけん をF111 に追加 ついか 搭載 とうさい したTF30 エンジンで行 おこな い、その結果 けっか はF100 とPW2000 に反映 はんえい された。PW4000 は最初 さいしょ の商用 しょうよう "Dual FADEC"ジェットエンジンである。
ECU(Electronic Control Unit)
電気 でんき 系統 けいとう (センサー、アクチュエーター、配線 はいせん 類 るい )
油圧 ゆあつ 系統 けいとう (ポンプ、アクチュエーター、配管 はいかん 類 るい )
21世紀 せいき の航空機 こうくうき では、上記 じょうき の内 うち のECUと電気 でんき 系統 けいとう を2重 じゅう に持 も つ2重 じゅう 冗長 じょうちょう 構成 こうせい になっている[注釈 ちゅうしゃく 5] が、油圧 ゆあつ 系統 けいとう を2重 じゅう に持 も つものは少 すく ない。
FADECは電気 でんき 系統 けいとう によるセンサー類 るい の入力 にゅうりょく と機体 きたい 制御 せいぎょ システムから求 もと められるエンジン動作 どうさ 状 じょう 況 きょう に基 もと づいて、ECU内部 ないぶ で演算 えんざん を行 おこな い、電気 でんき 系統 けいとう や電気 でんき 系統 けいとう と通 つう じた油圧 ゆあつ 系統 けいとう を電気 でんき 的 てき に制御 せいぎょ 信号 しんごう を出力 しゅつりょく することでエンジン動作 どうさ を制御 せいぎょ する。具体 ぐたい 的 てき にはエンジン回転 かいてん 数 すう やエンジン各部 かくぶ の温度 おんど といったセンサー情報 じょうほう と燃料 ねんりょう 計量 けいりょう 弁 べん の開閉 かいへい 度 ど 制御 せいぎょ 、イグニッションユニットの制御 せいぎょ 、可変 かへん 静 せい 翼 つばさ アクチュエーターの制御 せいぎょ などである。
2重 じゅう 冗長 じょうちょう 構成 こうせい になっているFADECでは、通常 つうじょう 、1系統 けいとう がエンジン制御 せいぎょ を担当 たんとう していて、この動作 どうさ 不良 ふりょう 時 じ に自動 じどう や手動 しゅどう によって待機 たいき 状態 じょうたい に置 お かれていたもう1つの系統 けいとう にエンジン制御 せいぎょ が切 き り替 か えられる。FADECのECUはウォッチドッグタイマー のような自己 じこ 診断 しんだん 機能 きのう によって常時 じょうじ 自己 じこ 診断 しんだん されており、多 おお くの場合 ばあい 、自己 じこ 異常 いじょう を自 みずか ら検知 けんち してそれが制御 せいぎょ 担当 たんとう 状態 じょうたい ならエンジン制御 せいぎょ が他方 たほう へ切 き り替 か えられる。2系統 けいとう ともが異常 いじょう となれば機能 きのう 不全 ふぜん がより少 すく ない系統 けいとう で制御 せいぎょ が行 おこな われるようにプログラムされているものもあるが、いずれにしてもあらゆる動作 どうさ 不良 ふりょう に対応 たいおう できるものではない。2系統 けいとう の不良 ふりょう でもエンジンは危険 きけん な状態 じょうたい にならないように工夫 くふう されている。
機体 きたい の空 そら 力 りょく 制御 せいぎょ を行 おこな う機体 きたい 制御 せいぎょ システムでは3重 じゅう や4重 じゅう の冗長 じょうちょう 性 せい を備 そな えるものも珍 めずら しくないので、2重 じゅう までのFADECはそれほど高 たか い冗長 じょうちょう 性 せい は持 も っていない。
21世紀 せいき の今日 きょう では、FADECを機体 きたい 制御 せいぎょ システムと統合 とうごう することで航空機 こうくうき のさらなる運動 うんどう 性 せい の向上 こうじょう を求 もと めた飛行 ひこう ・推進 すいしん 系 けい 統合 とうごう 制御 せいぎょ (Integrated Flight and Propulsion Control, IFPC)のシステム開発 かいはつ が進 すす められている。戦闘 せんとう 機 き では推力 すいりょく 偏向 へんこう ノズルがその具体 ぐたい 的 てき な応 おう 用例 ようれい であり、ヘリコプターでも大小 だいしょう ローターの負荷 ふか 変化 へんか の初期 しょき 段階 だんかい からエンジン制御 せいぎょ を行 おこな う[注釈 ちゅうしゃく 6] ことで運動 うんどう 性能 せいのう 向上 こうじょう が意図 いと されている。
^ 制御 せいぎょ 用 よう デジタルコンピュータ部 ぶ は、Electronic Control Unit (ECU)、または Electronic Engine Control (EEC)と呼 よ ばれる。
^ 油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき のエンジン制御 せいぎょ 装置 そうち は油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき 制御 せいぎょ 装置 そうち (Hydro-Mechanical Control Unit, HMU)と呼 よ ばれる。
^ HMUによるエンジン制御 せいぎょ 装置 そうち では、機械 きかい 的 てき な回転 かいてん や空気 くうき や燃料 ねんりょう の圧力 あつりょく がHMUに伝 つた えられ、こういった少 すく ない入力 にゅうりょく に基 もと づいて適切 てきせつ な燃料 ねんりょう 供給 きょうきゅう を行 おこな えるように弁 べん を制御 せいぎょ し、可変 かへん 静 せい 翼 つばさ を調整 ちょうせい していた。HMUでは単純 たんじゅん な制御 せいぎょ しか行 おこな えず、定常 ていじょう 運転 うんてん 時 じ での良好 りょうこう な燃費 ねんぴ に対応 たいおう して、始動 しどう ・停止 ていし 時 じ や加速 かそく ・減速 げんそく 状態 じょうたい での細 こま かな調整 ちょうせい は行 おこな えず、ただ安全 あんぜん に運転 うんてん できるような最低 さいてい 限度 げんど の制限 せいげん 制御 せいぎょ が備 そな わっていた。例 たと えばジェットエンジンの制御 せいぎょ では低圧 ていあつ 軸 じく と高圧 こうあつ 軸 じく の2軸 じく の回転 かいてん 数 すう 制御 せいぎょ でも強度 きょうど 的 てき な制限 せいげん によって高 こう 圧 あつ 軸 じく 回転 かいてん 数 すう のみを制限 せいげん した。
^ 油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき にアナログ電気 でんき 式 しき 、またはデジタル電気 でんき 式 しき の電子 でんし 制御 せいぎょ を加 くわ えたエンジン制御 せいぎょ は電子 でんし 油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき 制御 せいぎょ (Electro-Hydro-Mechanical Control)と呼 よ ばれる。日本 にっぽん の自衛隊 じえいたい で2009年 ねん 現在 げんざい も使用 しよう されているT4 練習 れんしゅう 機 き のF3 エンジン も電子 でんし 油圧 ゆあつ 機械 きかい 式 しき 制御 せいぎょ である。
^ 電子 でんし 部品 ぶひん としてのECUは2系統 けいとう であっても、それらを収 おさ めるECUの筐体 きょうたい は1つにまとめられている場合 ばあい が多 おお く、ECUは1つという表現 ひょうげん も成 な り立 た つ。通常 つうじょう 、コントロール・プログラムは2つのECUともに同一 どういつ であるため、その不良 ふりょう は大 おお きな危険 きけん を招 まね く。コントロール・プログラムのプログラミングは正確 せいかく 性 せい ・確実 かくじつ 性 せい が求 もと められる。
^ 2009年 ねん 現在 げんざい の一般 いっぱん 的 てき なジェットヘリコプターでは、機体 きたい 運動 うんどう そのものに関係 かんけい なくターボシャフトエンジンの回転 かいてん 数 すう を一定 いってい 値 ち に収 おさ めるようにFADECが制御 せいぎょ しているため、上昇 じょうしょう や加速 かそく に伴 ともな ってエンジン負荷 ふか が増 ま し回転 かいてん 数 すう が低下 ていか し始 はじ めてからそれを補 おぎな うために燃料 ねんりょう 供給 きょうきゅう が増 ふ やされる。このフィードバック制御 せいぎょ に代 か わってフィードフォワード制御 せいぎょ を行 おこな えば機体 きたい の運動 うんどう 性能 せいのう が向上 こうじょう すると考 かんが えられる。