エンジンコントロールユニット

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エンジンコントロールユニット(えい: engine control unit、ECU)とは、エンジン運転うんてん制御せいぎょ電気でんきてき補助ほじょ装置そうちもちいておこなさいに、それらを総合そうごうてき制御せいぎょするマイクロコントローラ(マイコン)である。エンジンコンピュータ、またはたんにコンピュータともばれる。

なお、略称りゃくしょうとしてECUは電子でんし制御せいぎょ装置そうち総称そうしょうであるエレクトロニックコントロールユニット(Electronic Control Unit)として自動車じどうしゃ技術ぎじゅつしゃ協会きょうかいSAE)、国際こくさい標準ひょうじゅん機構きこうISO)で定義ていぎされるようになり、エンジンコントロールユニットは旧称きゅうしょう位置いちづけとなっている。SAE、ISOじょうでのエンジンコントロールユニットに相当そうとうする名称めいしょうは、エンジンコントロールモジュールえい:Engine Control Module、ECM)である。

自動車じどうしゃなど[編集へんしゅう]

自動車じどうしゃオートバイエンジンコントロールユニットつぎ理由りゆうにより採用さいようされるようになり、ひろ普及ふきゅうしている。

  1. エンジン性能せいのう向上こうじょう
  2. 燃費ねんぴ低減ていげん
  3. 排出はいしゅつガスのクリーン
  4. 運転うんてんせい(ドライバビリティー)の向上こうじょう

電気でんき回路かいろおよび電子でんし回路かいろによるエンジンコントロールは、点火てんか装置そうち発祥はっしょうとする。現代げんだいではマイクロコントローラによるコンピュータ制御せいぎょおこなわれるようになり、制御せいぎょ対象たいしょうひろがって、おも点火てんかけい燃料ねんりょうけい制御せいぎょおこなっている。

また、オートマチックしゃではトランスミッションふくパワートレイン全体ぜんたい制御せいぎょ担当たんとうすることもある。さらなる制御せいぎょ高度こうど結果けっか、エンジンにたいするほぼすべての制御せいぎょ担当たんとうするもの登場とうじょうし、フルオートマチッククルージングを実現じつげんした車両しゃりょう登場とうじょうした。あらかじめコントロール ユニットにあらゆる運転うんてん状態じょうたいにおける最適さいてき制御せいぎょ記憶きおくさせ、その時々ときどき状態じょうたいをセンサーで検出けんしゅつ、センサーからの入力にゅうりょく信号しんごうにより、コントロールユニットが記憶きおくしているデータのなかから最適さいてき選出せんしゅつアクチュエータ出力しゅつりょくおくりエンジンをはじめとするかく機構きこう制御せいぎょする。

センサー[編集へんしゅう]

エアフロメーター
吸気きゅうきかん通過つうかする空気くうきりょう検出けんしゅつする。
スロットルポジションセンサー
スロットルボディにけられ、スロットルバルブの角度かくどからスロットルひらき検出けんしゅつする。ECUはスロットルひらきおうじて、燃料ねんりょう噴射ふんしゃするりょう制御せいぎょする。スロットルがアイドリングひらけでエンジン回転かいてん速度そくどたか場合ばあいにはエンジンブレーキの作用さようたかくするため燃料ねんりょう噴射ふんしゃ停止ていしされる。
吸入きゅうにゅう空気くうき温度おんど検出けんしゅつするサーミスタで、エアフロメーターない内蔵ないぞうされる場合ばあいと、吸入きゅうにゅうかん独立どくりつしてけられている場合ばあいとがある。ECUは吸入きゅうにゅう空気くうき温度おんどおうじて燃料ねんりょう噴射ふんしゃりょう制御せいぎょしている。
水温すいおんセンサー
エンジン冷却れいきゃく水温すいおん検出けんしゅつするサーミスタで、エンジン冷却れいきゃく系統けいとうない設置せっちされる。ECUは始動しどう直後ちょくごなどで冷却れいきゃくすい温度おんどひくいときに燃料ねんりょう噴射ふんしゃりょう増加ぞうかし、キャブレターしきのエンジンではチョークべんおこなっていた機能きのうたす。
スタートインジェクター・タイムスイッチ
ひやあいだ始動しどうどき始動しどうせい向上こうじょうするために、通常つうじょうのインジェクターとはべつ補助ほじょインジェクター、コールドスタートインジェクター制御せいぎょする。
O2センサー
酸素さんそ濃淡のうたん電池でんち原理げんり応用おうようした固体こたい電解でんかいしつセンサーである。円柱えんちゅうじょうジルコニア素子そし白金はっきんのコーティングをほどこした構造こうぞうになっており、排気はいき管内かんない設置せっちされる。ジルコニア素子そし両面りょうめん酸素さんそ温度おんどがあると起電きでんりょく発生はっせいする性質せいしつがあり、この性質せいしつ利用りようしてそらもえ計測けいそくする。O2センサーは表面ひょうめん温度おんどたかまると白金はっきん触媒しょくばい作用さようにより理論りろんそらもえ付近ふきんさかい起電きでんりょく急変きゅうへんする性質せいしつつため、センサー外面がいめん排出はいしゅつガスにさらし、センサー内面ないめん大気たいき導入どうにゅうしてそらもえ検出けんしゅつ制御せいぎょおこなっている。燃料ねんりょう噴射ふんしゃ装置そうち登場とうじょうした当初とうしょは、そのエンジンにたいしてO2センサー1個いっこ燃焼ねんしょう制御せいぎょおこなわれることがほとんどであったが、かくシリンダーごとに個別こべつにインジェクターが配置はいちされるマルチポイントインジェクション(MPI)形式けいしき一般いっぱんした今日きょうでは、かくシリンダーにたいして1個いっこのO2センサーを装着そうちゃくし、シリンダー単位たんい高度こうど燃焼ねんしょうフィードバック制御せいぎょおこなうものもえてきている。

制御せいぎょ対象たいしょう[編集へんしゅう]

エンジンコントロールユニットは、以下いかのようなものを制御せいぎょする。

連携れんけいしている機構きこう[編集へんしゅう]

電気でんきてき要素ようそものはそのほとんどがコントロールユニットによって制御せいぎょされる。機械きかい要素ようそものソレノイドサーボモータ経由けいゆして制御せいぎょされる。車両しゃりょう総合そうごう制御せいぎょシステムとしてエンジンコントロールユニットと連携れんけいっているコントローラーもおおい。

ハイブリッドシステムでは、さらに電力でんりょく回生かいせいブレーキ制御せいぎょや、動力どうりょくモーター制御せいぎょバッテリー管理かんり、エンジンとモーターあいだのクラッチ制御せいぎょおこなっている。

各社かくしゃにおける固有こゆう名称めいしょう[編集へんしゅう]

別項べっこう 燃料ねんりょう噴射ふんしゃ装置そうち#かく自動車じどうしゃメーカーでの呼称こしょう参照さんしょうのこと。

日産自動車にっさんじどうしゃ[編集へんしゅう]

  • ECCS」- Electronic Concentrated engine Control System のアクロニム

エンジンコントロールユニットをふく電子でんししきエンジン集中しゅうちゅう制御せいぎょシステム。 電子でんししきエンジン集中しゅうちゅう制御せいぎょシステムのことでひとつのマイクロコンピュータにより、エンジンのあらゆる運転うんてん状態じょうたいおうじ、燃料ねんりょう噴射ふんしゃはいガス還元かんげんりょう、アイドル回転かいてんすう、フェールポンプ制御せいぎょなどをつね最適さいてきなレベルコントロールにすることによって、燃費ねんぴ向上こうじょう排気はいきガスのクリーン運転うんてんせい向上こうじょう実現じつげんさせている。 ECCSエンジンの制御せいぎょはあらかじめコントロールユニットにおおくの運転うんてん状態じょうたいにおける最適さいてき制御せいぎょ記憶きおくさせ、その時々ときどき状態じょうたいをセンサーで検出けんしゅつ、センサーからの入力にゅうりょく信号しんごうにより、コントロールユニットが記憶きおくしているデータのなかから最適さいてき選出せんしゅつしアクチュエータに出力しゅつりょくし、制御せいぎょする。

トヨタ自動車とよたじどうしゃ[編集へんしゅう]

  • TCCS」- Toyota Computer Controlled System のアクロニム。

フォード・モーター[編集へんしゅう]

  • EEC」- Electronic Engine Control のアクロニム。

1974ねん実用じつようされた。世代せだいによりローマ数字すうじされる。(EEC-I、EEC-VII)

初代しょだいのEEC-Iは東芝とうしば開発かいはつされた。

ゼネラルモーターズ

  • CCC」- Computer Control Command のアクロニム。

いすゞ自動車ずじどうしゃ

  • I-TEC」- ISUZU Total Electronic Control のアクロニム。

自己じこ診断しんだん機能きのう[編集へんしゅう]

1980年代ねんだい中盤ちゅうばん以降いこうのECUには、エンジンを制御せいぎょするセンサーの故障こしょう自己じこ診断しんだんする機能きのうオン・ボード・ダイアグノーシス)がもうけられていることがおおい。ECUコネクタの特定とくてい端子たんし短絡たんらくさせるなどの操作そうさで、メーターユニットのエンジンチェックランプMIL)を点滅てんめつさせ、その点滅てんめつ回数かいすう点滅てんめつパターンから特定とくていのセンサーの不具合ふぐあい表示ひょうじすることができる。

また、このような機能きのう車両しゃりょう前述ぜんじゅつのエンジンチェックランプが走行そうこうちゅう点灯てんとうした場合ばあいには、ECUがなんらかのセンサー異常いじょう検知けんちしたこと記憶きおくするため、すみやかに整備せいび工場こうじょう診断しんだんけるよう説明せつめいしょ指示しじされていることおおい。

整備せいび工場こうじょうではメーターパネルをもちいてのダイアグノーシスのほかに、そのメーカーのECUに適合てきごうした専用せんよう外部がいぶ診断しんだん機器きき車体しゃたいがわのコネクタに接続せつぞくしてさらに詳細しょうさい診断しんだんおこなうことができる。当初とうしょはこのコネクタは各社かくしゃごと規格きかくがばらばらで、1990年代ねんだい中盤ちゅうばんころに世界せかいてき規模きぼ診断しんだん機能きのう統一とういつはかうごきがひろがり、OBD規格きかく制定せいていされた。アメリカでは1996ねん以降いこうはこのOBD規格きかく準拠じゅんきょしたコネクタの搭載とうさい義務付ぎむづけられている。日本にっぽんしゃでも現在げんざいではほとんどの車両しゃりょうがOBD規格きかくじゅんじたコネクタを搭載とうさいし、整備せいび工場こうじょう複数ふくすう診断しんだん機器きき財政ざいせいてき負担ふたんやわらげることに貢献こうけんしている。

ECUチューニング[編集へんしゅう]

エンジンコントロールユニットは点火てんか時期じき燃料ねんりょう供給きょうきゅうりょう燃料ねんりょう噴射ふんしゃタイミングと混合こんごう)を制御せいぎょしている。したがってこの部分ぶぶん介入かいにゅうすれば、そののチューニングにわせて特性とくせいととのえエンジンのパワーアップをはかことができる。かつてのエンジンコントロールユニットは入力にゅうりょくされた情報じょうほう回転かいてんすうやギアポジション、スロットルひらきなど)に対応たいおうする点火てんか時期じき混合こんごうめるひょうをもとに制御せいぎょしていた。このひょう格納かくのうしたROM交換こうかん、あるいはEEPROMにアクセスしてえることでチューニングをほどこしていた。なお、このような行為こういとくROMチューンぶ。個人こじんでやる場合ばあいにはメーカーの保証ほしょうがいとなる。

現在げんざいのフラッシュロムを使つかうECUユニットは、ほとんどが自己じこ診断しんだん機器きき接続せつぞくポートからえが可能かのうになっているため、車載しゃさい状態じょうたいのままのえも可能かのうではある。しかしダウンロード/アップロードども時間じかんとリスクがかるうえやソフトによって対象たいしょう車種しゃしゅかぎられている。

現代げんだいのエンジンコントロールユニットは入力にゅうりょくされる情報じょうほうおおく、前述ぜんじゅつ入力にゅうりょくパラメーターにくわ気圧きあつ気温きおん排気はいきガスの酸素さんそ濃度のうどノッキング検知けんちとうによって制御せいぎょ状態じょうたいえていく。単純たんじゅんひょう参照さんしょうする方式ほうしきでは入力にゅうりょく情報じょうほうおおすぎるので、ファジィ制御せいぎょなどを応用おうようしリアルタイムで計算けいさんする方式ほうしき主流しゅりゅうとなった。

これにより現代げんだい一般いっぱんてきおこなわれるECUチューニングはエンジンコントロールユニットのコネクタとハーネスのあいだにカプラーをはさみ、入力にゅうりょくされる情報じょうほう出力しゅつりょくされた制御せいぎょ信号しんごう介入かいにゅうし、特性とくせい変化へんかさせる方式ほうしき開発かいはつされた。ひょうえる方式ほうしきくらべて大胆だいたんなパラメータ変更へんこうむずかしくなったが、本来ほんらい制御せいぎょくわえて希望きぼうする特性とくせいだけを希望きぼうするとき変化へんかさせることができるため、チューニングとしての難易なんい大幅おおはばがっている。なお、このような方式ほうしきでデータをコントロールする装置そうちサブコンピュータぶ。しかし純正じゅんせいECUの自己じこ学習がくしゅう機能きのう高度こうどした結果けっか、サブコンピュータで補正ほせいした数値すうち補正ほせいしなおす車体しゃたい存在そんざいするため、すべてがサブコンピュータ制御せいぎょできるわけではない。

このほか、エンジンコントロールユニットそのものをアフターパーツメーカーがリリースする独自どくじのユニットに交換こうかんし、それをもちいてエンジンにかかわるすべての制御せいぎょおこなうものもある。これはぞくフルコンピュータばれ、高度こうど緻密ちみつ調整ちょうせい/制御せいぎょ要求ようきゅうする競技きょうぎ車両しゃりょうやハードチューン車両しゃりょう使用しようされることがおおく、くるま付随ふずい機能きのうたとえばABSなど)を正常せいじょうはたらかせることができなくなる場合ばあいもあり、またぎゃく本来ほんらい搭載とうさいされていない機能きのうたとえばABS、ローンチコントロール、ミスファイヤリングなど)を車両しゃりょうくわえることもできる。

また、近年きんねんのサブコンピュータおよびフルコンピュータは、パソコン接続せつぞくしてデータをえる機能きのう搭載とうさいするものが数多かずおおくリリースされており、特別とくべつ設備せつびがなくても手軽てがるにECUチューンをすることができるようになった。しかし、エンジンにかんする知識ちしきがない、または希薄きはくものでもデータ変更へんこう可能かのうになったことがわざわいし、データを極端きょくたん変更へんこうぎてエンジンブローおちいってしまう事例じれい増加ぞうか傾向けいこうにある。

また、状況じょうきょうによっては車両しゃりょうたいするハッキング、場合ばあいによってはクラッキングにたる。

航空機こうくうき[編集へんしゅう]

航空機こうくうき利用りようではFADEC(Full Authority Digital Engine Controls)としてられる。FADECは航空機こうくうきのエンジンとプロペラをコントロールするデジタルコンピュータと付属ふぞく部品ぶひんからつ。精緻せいち制御せいぎょ装置そうちとしてはじめはジェット機じぇっときもちいられ、次第しだいにレシプロでももちいられるようになった。パイロットはスロットルレバーを始動しどう、アイドル、巡航じゅんこう出力しゅつりょくあるいは最大さいだい出力しゅつりょくといった任意にんい位置いち操作そうさするだけで、FADECシステムがエンジンとプロペラを自動的じどうてき選択せんたくされたモードにわせて調節ちょうせつする。パイロットが気圧きあつ気温きおんをモニターしながらそらもえをコントロールする必要ひつようはなく、個別こべつのシリンダーの点火てんかタイミングもFADECが制御せいぎょする[1]

FADECシステムは、航空機こうくうきしゅ電気でんき系統けいとうによって駆動くどうされる場合ばあいがあるが、おおくの航空機こうくうきではエンジンに接続せつぞくされた独立どくりつした発電はつでんによって駆動くどうされる。いずれの場合ばあいも、FADECシステムの故障こしょうはエンジン推力すいりょく完全かんぜん喪失そうしつにつながることから、バックアップ電源でんげん必要ひつようである。また、2系統けいとうまったおなじデジタルチャンネルが独立どくりつしてまれ、それぞれのチャンネルはすべてのエンジンとプロペラの制御せいぎょ機能きのう提供ていきょうできる。[1]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Pilot's Encyclopedia of Aeronautical Knowledge. Federal Aviation Administration 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]