シフトレバー

シフトレバー（アメリカ英語えいご: gear shift, stick shift イギリス英語えいご: gear lever, gear stick）は自動車じどうしゃやオートバイの運転うんてん装置そうちの1つで、マニュアルトランスミッションの歯車はぐるまの組くみ合あわせを切きり替かえる操作そうさレバーである。チェンジレバー、変速へんそくレバー、ギアレバーなどとも呼よばれる。オートマチックトランスミッションの場合ばあいはセレクターあるいはセレクトレバーと呼よばれるが、本ほん項こうではこれらも含ふくめて述のべる。

自転車じてんしゃの変速へんそく機きを操作そうさするシフトレバーについては変速へんそく機き (自転車じてんしゃ)#シフターを参照さんしょう。

概要がいよう[編集へんしゅう]

典型てんけい的てきな自動車じどうしゃのマニュアルトランスミッションは、スリーブやスライディングギアと呼よばれる部品ぶひんを歯車はぐるま軸じくの軸じく方向ほうこうにスライドさせて歯車はぐるまと噛かみ合あわせ、歯車はぐるまと軸じくの回転かいてん速度そくどを同期どうきさせる。シフトレバーはスリーブ等とうを動うごかすための操作そうさレバーである。レバーを前後ぜんご左右さゆうに動うごかす「Hパターン」と呼よばれる操作そうさの場合ばあいは、左右さゆうの動作どうさで動うごかすスリーブを選えらび、前後ぜんごの動作どうさでロッドとシフトフォークを介かいしてスリーブを動うごかす。オートバイなどで広ひろく普及ふきゅうしている「リターン式しき」あるいは「シーケンシャルパターン」ではレバーを動うごかすことで円筒えんとうカムを所定しょていの回転かいてん角度かくどで回転かいてんさせ、従したがえ動どう軸じくを介かいしてスライディングギアやスリーブを動うごかす。シフトレバーとトランスミッションの位置いち関係かんけいが遠とおい場合ばあいにはコントロールケーブルやリンク機構きこうを介かいしてレバー操作そうさがトランスミッションに伝達でんたつされるが基本きほん原理げんりは変かわらない。大型おおがた車しゃやレース車両しゃりょうなどにおいては、シフトレバーやスイッチの操作そうさに応おうじて、圧搾あっさく空気くうきの圧力あつりょくや吸気きゅうき負ふ圧あつ、ソレノイドを利用りようしたアクチュエーターがスリーブやスライディングギアを動うごかす機構きこうが採用さいようされる場合ばあいもある。

オートマチックトランスミッションは、油圧ゆあつ回路かいろを切きり替かえる機構きこうを、セレクトレバーによって直接的ちょくせつてきに操作そうさする方式ほうしきが古ふるくから用もちいられてきたが、電子でんし制御せいぎょの発達はったつとともにコントロールスイッチに送おくる電気でんき信号しんごうを切きり替かえるスイッチとしての機能きのうに変化へんかした。これによりレバーを廃はいして、押おしボタン式しきとしたり^[1]、ダイヤルスイッチとする^[2]例れいもある。セレクトレバーには、不用意ふよういな操作そうさで前進ぜんしん走行そうこう中ちゅうにRレンジに切きり替かわったり、駐車ちゅうしゃ中ちゅうにDレンジやRレンジに切きり替かわったりといった誤操作ごそうさを防ふせぐロック機構きこうが設もうけられている。グリップ部ぶにはロック機構きこうを解除かいじょする押おしボタンが設もうけられていて、誤操作ごそうさが危険きけんな操作そうさに対たいしてはボタン押おしながらレバーを操作そうさしなくてはレバーが動うごかないようになっている。あるいはロック解除かいじょボタンを用もちいずに、レバーの動うごきを矩形くけいに制限せいげんして直線ちょくせん的てきには動うごかないようにすることで誤操作ごそうさを抑制よくせいする場合ばあいもある。

配置はいち区分くぶん[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「シフトレバーの配置はいち」を参照さんしょう

シフトレバーが取とり付つけられた部位ぶいに応おうじて、フロア配置はいちのフロアシフト、インパネ（インストゥルメントパネル：計器けいき盤ばん）配置はいちのインパネシフト、ステアリングコラム配置はいちのコラムシフトの3種しゅに大別たいべつされる。

フロアシフト[編集へんしゅう]

フロアシフトは現在げんざい最もっとも一般いっぱん的てきなタイプで、乗用車じょうようしゃでは軽自動車けいじどうしゃから高級こうきゅうセダンはもとより、スポーツカーやスーパーカーにまで幅広はばひろく使つかわれている。商用しょうよう車しゃでも車両しゃりょうの大おおきさに関かかわらず依然いぜんとして採用さいよう例れいが多おおい。ほとんどの車種しゃしゅで車体しゃたい中心線ちゅうしんせん近ちかくに配置はいちされるが、右みぎハンドルの右手みぎて側がわ、すなわちドアシルに配置はいちされるものもある^[3]。

MTフロアシフト
三菱みつびし・コルディア
 副ふく変速へんそくレバー付つき
単座たんざ競技きょうぎ車両しゃりょうでの右手みぎて操作そうさの例れい
ロータス・18
ATフロアセレクター
ヒュンダイ・ソナタティップシフト用よう（±）ゲート付つき
CVTフロアセレクター
日産にっさん・ティーダラティオ

インパネシフト[編集へんしゅう]

シフトレバーがステアリング・ホイール（ハンドル）に近ちかいところにある。コントロールケーブルによりレバー配置はいちの自由じゆう度どが高たかくなり、フロアシフトとコラムシフトの中なか間あいだ的てき手法しゅほうとして用もちいられる。ミニバンやバンにおいて、マニュアルシフトとウォークスルーを両立りょうりつするレイアウトとして採用さいようされているほか、一般いっぱん的てきな乗用車じょうようしゃにも使つかわれるようになっている。

古ふるい車種しゃしゅではシトロエンのトラクシオン・アバンや2CV、ルノー・4などに例れいがある。トラクシオン・アバンと4は縦たて置おきされたエンジンの前方ぜんぽうにトランスミッションが配置はいちされており、トランスミッションの真上まうえに高たかく立たてられたレバーに、エンジンとの干渉かんしょうを避さける位置いちまで高たかめられた水平すいへいのロッドを組くみ合あわせており、水平すいへいロッドの高たかさがダッシュボード付近ふきんになっている。2CVのトランスミッションはエンジンの後うしろ側がわであるが、インパネシフトの採用さいようでコラムシフトに比くらべてコントロールロッドはかなり単純たんじゅん化かされている。日本にっぽん車しゃでは、古ふるくはホンダ・N360の例れいのみであったが、2000年代ねんだい以降いこうは欧州おうしゅう向むけとレイアウトを共通きょうつう化かした車種しゃしゅから普及ふきゅうし始はじめ、軽自動車けいじどうしゃやミニバンでもコラムシフトからの変更へんこうが進すすみ、キャブオーバータイプの商用しょうよう車しゃにも広ひろまっている。

MTインパネシフト
シトロエン・アミ
MTインパネシフト
フィアット・ウリッセ
 04モデル
ATインパネセレクター
日産にっさん・クエスト
 05モデル
非常ひじょうに小ちいさいセレクターレバーを採用さいようした例れい
レクサス・HS
レクサス・HSの姉妹しまい車しゃトヨタ・SAIのレバー
トヨタ・プリウスαあるふぁのセレクターレバー
日野ひの・プロフィア ProShift12 ギヤセレクター右みぎ手前てまえ側がわがシーケンシャルレバー
三菱みつびしふそう・ローザのDUONICシフトレバー

コラムシフト[編集へんしゅう]

コラムシフトは、前ぜん席せきにベンチシートを採用さいようして3人にん掛かけとした車種しゃしゅや軽けいトールワゴン、運転うんてん席せきと助手じょしゅ席せきの間あいだを後こう席せきへの通路つうろとした車種しゃしゅなどで採用さいようされる。マニュアルトランスミッションのコラムシフトはリモートコントロール式しきとも呼よばれ、シフトパターンは上下じょうげがシフト、前後ぜんごがセレクトのHパターンがほとんどである。トランスミッションとの間あいだに多おおくの機構きこうが介在かいざいするため、節度せつど感かんや剛性ごうせい感かんに欠かけ、摺すり動どう抵抗ていこうにより操作そうさ力りょくも大おおきく、リンク機構きこうの連結れんけつ部ぶに設もうけられた「遊あそび」が積つみ重かさなって、シフトノブの移動いどう距離きょり（ドライバーの操作そうさ量りょう）が大おおきくなる。横よこ置おきトランスミッションを採用さいようする車種しゃしゅの増加ぞうかに伴ともない、シフト/セレクトレバーの位置いちに関かかわらずコントロールにはケーブルが使つかわれるようになっているため、上記じょうきのような欠点けってんは解消かいしょうされているが、新規しんきの市販しはん車しゃにおいてマニュアルトランスミッションとコラムシフトの組くみ合あわせはすでに見みられなくなっている。

マニュアルトランスミッション用ようのコラムシフトはかつては乗用車じょうようしゃから貨物かもつ車しゃに至いたるまで幅広はばひろく採用さいようされ、1950年代ねんだいにはスポーツカーにまで採用さいようされる事例じれいもあったが、1960年代ねんだい以降いこうのMT多段ただん化か傾向けいこうで実用じつよう面めんの欠点けってんが顕著けんちょになり、次第しだいにフロアシフトに取とって代かわられ、タクシーなどの前ぜん席せき3人にん掛かけが必要ひつような車種しゃしゅに残のこるのみとなっている。競技きょうぎ専用せんよう車しゃではシーケンシャルマニュアルトランスミッションとの組くみ合あわせが見みられるが、変速へんそく操作そうさは前後ぜんご方向ほうこうのみである。

オートマチックトランスミッションのコラムセレクターはアメリカ製せい SUVやミニバンに採用さいよう例れいが多おおい。日本にっぽんでは1990年代ねんだい以降いこうミニバンや商用しょうよう車しゃ、軽自動車けいじどうしゃに普及ふきゅうしたが、近年きんねんはインパネセレクターへの移行いこうが完了かんりょうしている。

セミATコラムシフト
シトロエン・DS
セレクターをステアリングコラム上面うわつらに配はいした希少きしょう例れい
MTコラムシフト
いすゞ・ヒルマンミンクス
ステアリングコラムの車体しゃたい中心ちゅうしん側がわにシフトレバーを持もつオーソドックスなレイアウト
MTコラムシフト
マツダ・T1500
狭せまいキャブ幅はばで3人にん乗のりを可能かのうとするため右みぎハンドルながら右手みぎて操作そうさとなった
CVTコラムセレクター
Z10型がた日産にっさん・キューブ
オーバードライブ付つき4速そくオートマチック
MH21S型がたスズキ・ワゴンR
シフトレバーの先端せんたんにオーバードライブスイッチを設置せっち
｢ベンコラ｣の例れい｡｢ベンコラ｣を成立せいりつさせるため、パーキングブレーキも足踏あしぶみ式しきとなっている｡
MC系けいワゴンR｡

パドルシフト[編集へんしゅう]

機械きかい的てきな機構きこうでトランスミッションを直接的ちょくせつてきに操作そうさせず、電気でんき的てきに制御せいぎょされたアクチュエータで変速へんそくを行おこなう場合ばあい、ステアリングホイールから手てを離はなさずにギアチェンジが可能かのうなスイッチが採用さいようされる場合ばあいがある。この場合ばあい、ステアリングスポーク自体じたいにシフトアップ/ダウンのスイッチが装備そうびされる場合ばあいも多おおいが、特とくに、運転うんてん手しゅから見みてステアリングの奥おくに板いた状じょうのレバーが設もうけられるものは、カヌーを漕こぐパドルに似にた形状けいじょうであることからパドルシフトと呼よばれる。

通常つうじょうのセレクターレバーを廃止はいししてダイヤルやボタン式しきのATセレクターと併用へいようすることが多おおいが、利便りべん性せいのためフロアやインパネにレバーを残のこす車くるま、または逆ぎゃくにAT車しゃの付加ふか価値かちとして装備そうびする車両しゃりょうもある。

パドルシフトの採用さいよう例れい

レクサス・LFA（通常つうじょうのレバー無なし）
ジャガー・XF（ダイヤル式しきのATセレクター）
パガーニ・ゾンダ・アブソリュート（通常つうじょうのシフトレバーと併用へいよう）
フェラーリ・612スカリエッティ（前進ぜんしんと後進こうしんを切きり替かえるレバーがある）
三菱みつびし・ギャランフォルティス（上級じょうきゅうグレード及およびディーラーオプションを選択せんたくすることでパドルシフトが追加ついかされた）

オートバイ[編集へんしゅう]

オートバイの場合ばあいには、今日きょうではほとんどの車種しゃしゅで足あしで操作そうさして変速へんそくするフットシフト(英えい: Foot Shift)が用もちいられるが、1960年代ねんだい以前いぜんには手てで操作そうさするハンドシフト(英えい: Hand Shift)の車種しゃしゅも見みられた。

ハンドシフト[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「en:Suicide clutch」を参照さんしょう

ハンドシフトには大おおきく分わけてタンクシフト (Tank Shift)、ジョッキーシフト (Jockey Shift)、グリップシフト (Grip Shift) の3種類しゅるいに大別たいべつされる。

タンクシフトは、燃料ねんりょうタンクの側面そくめんに設もうけられたシフトレバーがリンケージを介かいして変速へんそく機きに接続せつぞくされるもので、最もっとも初期しょきから存在そんざいする形式けいしきである。同おなじリンケージを介かいする形式けいしきでも、シフトレバーの位置いちを大おおきく変更へんこうする目的もくてきでフレームにシフトレバーの台座だいざを設置せっちする場合ばあいもあり、こうしたものはアメリカの白しろバイ向むけ車両しゃりょうに多おおく用もちいられたことからポリスシフトとも呼よばれている。

ジョッキーシフトはリンケージを介かいさずに変速へんそく機きに直接ちょくせつシフトレバーを連結れんけつするもので、更さらに狭義きょうぎにはシフトレバーをフットレスト後方こうほうまで伸のばして後のち車軸しゃじくの手前てまえ付近ふきんに配置はいちするものを示しめす。このように配置はいちされた場合ばあい、シフト操作そうさがあたかも馬うまに鞭むちを入いれるように見みえることから、このような名称めいしょうで呼よばれる^[4]。

タンクシフト、ジョッキーシフトとも、片手かたてをハンドルから離はなしてのシフトレバー操作そうさが必要ひつような方式ほうしきである。このタイプの場合ばあい、ある程度ていど安定あんてい性せいのあるサイドカーや三さん輪りんモデルでない通常つうじょうの単車たんしゃ型がたオートバイでは、走行そうこう中ちゅうに極きわめて不安定ふあんていな状態じょうたいに陥おちいりかねず、しばしば横転おうてん事故じこの原因げんいんとなった（この種たねの事故じこは、古ふるい時代じだいのハーレーダビッドソン車くるまやそのライセンス生産せいさん車しゃの陸りく王おうなどで頻発ひんぱつした。ことに重量じゅうりょうの大おおきな大型おおがたオートバイでは致命ちめい的てきな事態じたいを招まねきがちだった）。従したがって、より安全あんぜん性せいの高たかいフットシフトの普及ふきゅうに伴ともなって市場いちばからは淘汰とうたされていった。

グリップシフトは今日きょうの自転車じてんしゃの変速へんそく機きでも広ひろく見みられる、ハンドルバーのグリップを回まわして変速へんそくを行おこなうもので、旧式きゅうしきのベスパで用もちいられている。

ハーレーダビッドソンのジョッキーシフト仕様しようチョッパー。タンクの横よこにレバーを配置はいちする比較的ひかくてきオーソドックスなスタイル。
グリップ部分ぶぶんにシフト機構きこうが組くみ込こまれたベスパ・PX。

フットシフト[編集へんしゅう]

フットシフトのシフトレバーは足あしで操作そうさすることからシフトペダル(英えい: shift pedal)と呼よばれる場合ばあいが多おおい。一端いったんを軸じくによって支持しじされたレバーの他た端はしを、足あしの裏うらで踏ふむ操作そうさと足あしの甲かぶとで引ひき上あげる操作そうさで変速へんそくする方式ほうしきが主流しゅりゅうとなっている。先端せんたんの操作そうさ部ぶには滑すべり止とめのついた突起とっきが車体しゃたいの横よこ方向ほうこうへ突出とっしゅつしていて、外観がいかん形状けいじょうからシフトペグ(英えい: shift peg)とも呼よばれる。あるいは、中心ちゅうしんを軸じくで支持しじされたレバーの両りょう端はしのどちらか一方いっぽうを足あしの裏うらで踏ふむ操作そうさのものもあり、操作そうさ部ぶは平たいらな板いた状じょうとなっているが、足あしの甲かぶとで引ひき上あげる操作そうさを考慮こうりょし前方ぜんぽうに伸のびたレバー端はしのみ軸じく状じょうとした車種しゃしゅもある。クルーザーやビジネスバイクなどに見みられ、シーソーペダル(英えい: seesaw pedal)とも呼よばれる。いずれの場合ばあいも、シフトレバーがトランスミッションから突つき出だしたスピンドル（軸じく）に直接ちょくせつ固定こていされるものと、リンケージを介かいして操作そうさを伝達でんたつするものがある。

今日きょうのようなフットシフトメカニズムを初はじめて導入どうにゅうしたのはイギリスのベロセットで、1934年ねんの事ことである。その後ご多おおくのメーカーがこの機構きこうを採用さいようしたが、1936年ねんのBMWのように、フットシフトを採用さいようしながらも非常ひじょう用ようにハンドシフトレバーも併設へいせつする例れいが普及ふきゅうの当初とうしょには見受みうけられた^[5]。