フェンダーミラー

フェンダーミラーの一いち例れい
2代目だいめセルシオ（後期こうき型がた）

フェンダーミラー（Fender Mirror）とは、自動車じどうしゃ部品ぶひんのひとつで、運転うんてん者しゃが後方こうほう及および後こう側がわ方かたを確認かくにんするためのミラー（バックミラー）のうち、車外しゃがいボンネットの前方ぜんぽう端はし、前輪ぜんりん周辺しゅうへんを覆おおうパネル（フロントフェンダー）の上部じょうぶに装着そうちゃくされるものに対たいする呼称こしょう。法令ほうれいの定義ていぎでは、「後こう写うつし鏡きょう」と定さだめるもののうちの「車体しゃたい外がい後ご写うつし鏡きょう」に含ふくまれる。通常つうじょうは、車体しゃたい側面そくめんに左右さゆう1対ついで装着そうちゃくされている。時ときにミニバンやSUVに装備そうびされるサイドアンダーミラーがフェンダーミラーと表記ひょうきされていることがあるが、これは誤あやまりである。

特長とくちょう

ドアミラーとの比較ひかく

2018年ねん8月がつ現在げんざい、日本にっぽん車しゃで唯一ゆいいつ全車ぜんしゃフェンダーミラーが標準ひょうじゅん装備そうびのトヨタ・ジャパンタクシー

日本にっぽんのタクシーではフェンダーミラーが主流しゅりゅうである（トヨタ・クラウンセダン（XS10系けい））

ドアミラーとフェンダーミラーを両方りょうほう装着そうちゃくした車くるまの例れい：三菱みつびし・ミラージュバン

トラックやバンなどのボンネットをもたないキャブオーバー型かたでは、ドアミラーでも距離きょりとしては大おおきな差さは生しょうじない。

しかし、ボンネットのある車くるまでは、安全あんぜん性せいの確保かくほの観点かんてんから、フェンダーミラーはドアミラーよりも有効ゆうこうだという主張しゅちょうもある。フェンダーミラーはドアミラーに比くらべてより前方ぜんぽうに位置いちしており、ドライバーにとっては目めの移動いどうや頭あたまのひねり角度かくどが少すくなく、視線しせんの移動いどうを素早すばやく行おこなえ、長時間ちょうじかん運転うんてんする場合ばあいの疲労ひろうが少すくないといわれる。また助手じょしゅ席せきに座すわった同乗どうじょう者しゃにミラーを遮さえぎられることがなく、フェンダー側面そくめんからドア側面そくめんにかけての視界しかいも確保かくほされる。

車体しゃたいからのはみ出だしも少すくなく、ミラーを畳たたまずに狭せまい道みちを通とおることができる。ミラーの装着そうちゃく位置いちを目安めやすにして前輪ぜんりんの位置いちを把握はあくしやすく、車くるま幅はば・車くるま長ちょう感覚かんかくの補助ほじょという効果こうかや、空そら力りょく的てきに有利ゆうりというメリットもある。

その一方いっぽうで、ミラーが離はなれるため相対そうたい的てきに鏡かがみ像ぞうは小ちいさく見みえ、ミラーに写うつる情報じょうほうを読よみ取とりづらくなる。また顔かおを左右さゆうに振ふらなければ安全あんぜん確認かくにんができないドアミラーと違ちがい、常つねに鏡面きょうめんが視界しかいに入はいるフェンダーミラーでは情報じょうほう過多かたに陥おちいったり、ドライバーが横よこ方向ほうこうの安全あんぜんを怠おこたりがちになったりするという指摘してきもある。長ながい脚あしや鏡かがみ体たいが突起とっき物ぶつになり、事故じこで歩行ほこう者しゃと接触せっしょくした場合ばあいの安全あんぜんを損そこねる可能かのう性せいもある。

また、前述ぜんじゅつのようなフェンダーミラーのメリットといわれているものも、単たんに慣なれの問題もんだいでしかないという主張しゅちょうもある。例たとえば自動車じどうしゃ評論ひょうろん家かの国沢くにさわ光宏みつひろは、フェンダーミラーのメリットとされるものを懐疑かいぎ的てきに検証けんしょうし、タクシーに多おおく採用さいようされているのも象徴しょうちょう的てきな意味いみで好このまれているに過すぎないのではないかと結論けつろんづけている。

なお、限定げんてい販売はんばい車しゃ・オーテック・ザガートステルビオは、フェンダーミラーをボディに内蔵ないぞうするという、特異とくいな構造こうぞうを採用さいようしている。フェンダーミラーのデザイン性せいを高たかめようという趣旨しゅしであるが、結果けっかとしてデザイン的てき評価ひょうかは高たかいとはいえない。

ドアミラー車しゃでの採用さいよう

日本にっぽんで販売はんばいされているSUVやミニバンなどには、後方こうほう確認かくにんのためのドアミラーに加くわえて、助手じょしゅ席せき側がわフェンダー部分ぶぶんに前側まえがわ方かた確認かくにんのための小型こがたフェンダーミラーが装備そうびされることがある。これは、国土こくど交通省こうつうしょうの定さだめる「直前ちょくぜん側がわ方かた視界しかい基準きじゅん」に準拠じゅんきょするものである（サイドアンダーミラー）。

また、時期じき的てきにもフェンダーミラー車しゃからの乗のり換かえが多おおかった7代目だいめスカイラインには、ドアミラー車しゃの視覚しかく違和感いわかんを軽減けいげんする目的もくてきで、運転うんてん席せき側がわをドアミラー、助手じょしゅ席せき側がわをフェンダーミラーとした、珍めずらしいアシンメトリーミラーがオプション設定せっていされていた（それぞれの形状けいじょうは至いたって普通ふつう）。

歴史れきし

フェンダーミラーを備そなえた1933年ねん型がたローバー・10

「バックミラー#歴史れきし」も参照さんしょう

フェンダーミラーの登場とうじょう

フェンダーミラーが登場とうじょうしたのは1950年代ねんだいのイギリスで一部いちぶの自動車じどうしゃに後方こうほう確認かくにん用ようのミラーをフロントフェンダーに取とり付つけたのが最初さいしょである。自動車じどうしゃが密閉みっぺい式しきの構造こうぞうとなると、それ以前いぜんの様ように後こう写うつし鏡きょうを風防ふうぼうに取とり付つける事ことができなくなり、代かわりにフェンダーやドアに取とり付つけられる様ようになった。

1950年代ねんだいには、日産にっさん・オースチンA40サマーセットやいすゞ・ヒルマンミンクスといったフェンダーミラーを装備そうびしたイギリス車しゃがノックダウン生産せいさんされている。

ただし、初期しょきには車体しゃたいの外側そとがわに装着そうちゃくされるバックミラーを装備そうびしていない自動車じどうしゃもあり、トヨタ博物館はくぶつかんに展示てんじされている初代しょだいクラウン後期こうき型がた（1960年ねん式しき）にもバックミラーはなく、ミニクーパー、フォルクスワーゲン、シボレーなどでも装着そうちゃくはまちまちだった。

ドアミラーへの移行いこう

欧米おうべい

欧米おうべい諸国しょこくでは1960年代ねんだい初頭しょとうにはドアミラーが主流しゅりゅうとなりフェンダーミラー車しゃは極きわめて少数しょうすう派はだった。ボルボ・カーズのように一貫いっかんしてドアミラーを採用さいようしているメーカーもある。

日本にっぽん

2017年ねんまで伝統でんとう的てきにフェンダーミラーを採用さいようし続つづけたトヨタ・センチュリー

日本にっぽんでは1960年代ねんだいになってもボンネットのないキャブオーバー型がた車両しゃりょうを除のぞいて外部がいぶ後ご写うつし鏡きょうはフェンダーミラー以外いがい認みとめられなかった。

そのため当時とうじは日本にっぽん国外こくがいの車両しゃりょうを輸入ゆにゅうした場合ばあいもフェンダーミラーの装着そうちゃくが必要ひつようで、当時とうじの日本にっぽんのテレビドラマでも、劇げき中ちゅうに登場とうじょうするアメリカ車しゃなどにもフェンダーミラーが装着そうちゃくされているのを見みることができる。特とくに1980年ねんから1990年代ねんだいにかけて流行りゅうこうしたボンネットの低ひくいデザインの車くるまでは、フェンダーミラーを装着そうちゃくするにはデザインを損そこねるような長ながい脚あしが必要ひつようであり、こうした日本にっぽんの事情じじょうは日本にっぽん国外こくがいの自動車じどうしゃメーカーにとっては非ひ関税かんぜい障壁しょうへきとなっていた。

1983年ねんにドアミラー規制きせいが撤廃てっぱいされ、同年どうねん5月がつに日産にっさん・パルサーエクサがターボ仕様しようのグレードを追加ついかした際さい、ボンネット付つきの車両しゃりょうとしては日本にっぽん初はつとなるドアミラー仕様しよう車しゃを発売はつばいすると、これを皮切かわきりとしてドアミラーの普及ふきゅうが進すすんでいく。世界せかい的てきには稀まれであり、デザイン上じょうも好このまれず、製造せいぞうコストもかかるフェンダーミラーは急速きゅうそくに減少げんしょうした。1980年ねん発売はつばいの初代しょだい日産にっさん・レパードのパルサー販売はんばい仕様しよう車しゃであるレパードTR-Xの一部いちぶグレードにはワイパー付つきフェンダーミラーが装着そうちゃくされていたが、ドアミラー仕様しよう車しゃが登場とうじょうした後のちこちらも装備そうびから消滅しょうめつしている。2020年ねん現在げんざいではフェンダーミラーのオプション自体じたいが消滅しょうめつしており、後述こうじゅつのトヨタ・ジャパンタクシー以外いがい、フェンダーミラーの車種しゃしゅは存在そんざいしない。

日本にっぽんでのドアミラー解禁かいきん後ごにおいてもタクシーや公用こうよう車しゃ・役員やくいん車しゃなどに使つかわれていた。上記じょうき理由りゆう以外いがいに、ドアミラーでは、運転うんてん手しゅが後部こうぶ座席ざせきの乗員じょういんと偶然ぐうぜんに目めが合あうような状況じょうきょうが発生はっせいし、後部こうぶ座席ざせきを覗のぞき見みしているかのように見みえて不快ふかい感かんを与あたえるという問題もんだいが発生はっせいする。タクシー用よう車両しゃりょうでは、助手じょしゅ席せき側がわを確認かくにんする行為こういが、助手じょしゅ席せき乗員じょういんが運転うんてん手しゅから見みられているように感かんじること、センチュリーやクラウンセダンなど公用こうよう車しゃなどでは、後方こうほう乗員じょういんから、運転うんてん手しゅが助手じょしゅ席せきと会話かいわしているように見みられる、または、き耳きみみを立たてているように見みられることなどの理由りゆうにより、長ながくフェンダーミラーが主流しゅりゅうとなっていた。

警察けいさつのパトロールカーでは、三菱みつびし・GTO（中期ちゅうき型がた）を初はつのドアミラーパトカーとして導入どうにゅうして以降いこう、フェンダーミラーではなくドアミラーにするケースが増ふえ現在げんざいはドアミラーが一般いっぱん化かしている。教習きょうしゅう車しゃにしても、ドアミラーしか設定せっていのない車種しゃしゅが増ふえ、教習きょうしゅう車しゃの世代せだい交代こうたいも進すすんだため、おおむね1990年代ねんだいには普通ふつう免許めんきょ（AT限定げんてい免許めんきょ含ふくむ）の教習きょうしゅう車しゃに限かぎっていえば、ほとんどがドアミラーになっている。

レーシングカーにも視線しせん移動いどうの少すくないフェンダーミラーを採用さいようするチームが見みられる。

これらのうちタクシー営業えいぎょう用ようのセダンは、長年ながねんに渡わたって伝統でんとう的てきにフェンダーミラーを採用さいようしており、タクシードライバーからの支持しじも根強ねづよい。しかし2014年ねん廃止はいしの日産にっさん・セドリック営業えいぎょう車しゃは2009年ねんのマイナーチェンジの際さい、事故じこ時じの歩行ほこう者しゃへの被害ひがいを緩和かんわする目的もくてきでフェンダー形状けいじょうが変更へんこうされ、構造こうぞう上じょうフェンダーミラーが装着そうちゃく不可能ふかのうになり、以降いこうの日産自動車にっさんじどうしゃではフェンダーミラーを採用さいようする車種しゃしゅは全すべて廃止はいしされている。トヨタ自動車とよたじどうしゃでは、クラウンセダン/クラウンコンフォート/コンフォートにフェンダーミラーの設定せっていがあったが、これらは2018年ねん以降いこうの法ほう規制きせいに対応たいおうできないため、2017年ねん12月がつまでに生産せいさん完了かんりょうした。セダン以外いがいのタクシー専用せんよう車しゃとしては、2017年ねんに登場とうじょうしたトヨタ・ジャパンタクシーがフェンダーミラー専用せんよう車しゃである。

日本にっぽんにおいては、自動車じどうしゃのオーナーがドアミラー車しゃを改造かいぞうしてフェンダーミラーに付つけ替かえること自体じたいは合法ごうほうとなっているが、フェンダーミラーの装着そうちゃくを想定そうていしていないドアミラー車しゃではフェンダー部分ぶぶんが事故じこを想定そうていしたクラッシャブルゾーンとなっているため剛性ごうせいが不足ふそくし、ミラーの振動しんどうを防ふせぐための補強ほきょうといった大掛おおがかりな改造かいぞうが必要ひつようになる場合ばあいもある。国土こくど交通省こうつうしょう自動車じどうしゃ交通こうつう局きょく職員しょくいんによると、改造かいぞうには少すくなくとも数すう十じゅう万まん円えん単位たんいの費用ひようが掛かかるという。実際じっさいにカスタムショップに依頼いらいした場合ばあいの費用ひようとしては、簡単かんたんなもので数すう万まん円えん、ドアミラーの撤去てっきょに伴ともなう穴埋あなうめや配線はいせん作業さぎょうを伴ともなう本格ほんかく的てきなもので十じゅう数すう万まん円えん以上いじょうといった実績じっせきがある。もっとも、ドアミラーとフェンダーミラーの両方りょうほうを取とり付つけても違法いほうとはならないため、見みた目めが気きにならなければドアミラーを撤去てっきょする必要ひつようはない。前述ぜんじゅつのコンフォートは地方ちほうのタクシー会社かいしゃが教習きょうしゅう車しゃ中古ちゅうこを購入こうにゅうした場合ばあいに、代替だいたいされるタクシー車両しゃりょうからフェンダーミラーつきのフェンダーやドアミラーのない部分ぶぶんの蓋ぶたを移植いしょくして使用しようする例れいがあり、ほかにも機器ききスペースの関係かんけい等とうでインパネ等とう教習きょうしゅう車しゃ仕様しようとタクシー仕様しようで見みた目めが異ことなる箇所かしょを移植いしょくする際さいにこれらの改造かいぞうを施工しこうする事業じぎょう者しゃがある。クラウンセダンでも官公庁かんこうちょう等とうの中古ちゅうこをタクシーにする際さいに同様どうようの改造かいぞうをすることがある。

各国かっこくの表現ひょうげん

部品ぶひん名めいとしては「英語えいご: outer rear view mirror（アウター リアビューミラー = 外部がいぶ後ご写うつし鏡きょう）」が一般いっぱん的てきで、これ自体じたいに取とり付つけ位置いちを示しめす意味いみはない。アメリカ英語えいごではドアミラー。イギリス英語えいごではウィングミラー（wing mirror）。その機能きのうからサイド・ビュー・ミラー（side-view mirror）ともいわれ、原則げんそく的てきに日本にっぽんでいう「ドアミラー」と「フェンダーミラー」の区別くべつはされていない。

関連かんれん項目こうもく

• バックミラー
  • 室内しつない後ご写うつし鏡きょう（インナーリアビューミラー）
    • ルームミラー
    • スマート・ルームミラー 、カメラモニタリングシステム（CMS）
  • 外部がいぶ後ご写うつし鏡きょう（アウターリアビューミラー）
    • ドアミラー
    • デジタルミラー、（デジタルアウターミラー）
• 補助ほじょ確認かくにん装置そうち
  • サイドアンダーミラー