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IBMパーソナルコンピューターJX (IBM 5511, 5510)
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JX (IBM 5511) グレーモデル |
開発元 |
IBM |
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種別 |
パーソナルコンピュータ |
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発売日 |
1984年10月29日 (1984-10-29)[1] |
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標準価格 |
168,000円(JX1)~373,000円(JX4) |
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OS |
日本語DOS, PC DOS 2.10 JX版, BASIC |
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CPU |
Intel 8088 4.77MHz |
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メモリ |
64KB~256KB RAM |
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グラフィック |
160x200, 320x200, 640x200, 720x512(オプション) |
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サウンド |
SN76489A(矩形波3音+ノイズ1音) |
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次世代ハード |
PS/55Z 5530Z SX |
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IBM JX(あいびーえむじぇいえっくす)は、IBMが日本、オーストラリア、ニュージーランドを含むアジア太平洋地区で販売した、家庭用パーソナルコンピュータである。日本では、1984年にJX1~JX4(IBM 5511)の販売が開始され、翌年1985年には改良型のJX5(IBM 5510)が登場した。イメージキャラクターには森進一、CMソングは『夢・ステファニー(ロマンティック・トリップ)』を使用した。
一般家庭用のパソコンでは8ビット機が主流だった時代に、PC-8800シリーズと同等の価格帯で発売された16ビット機。IBM PCjrをベースとして独自の日本語化を追加した。IBMは日本では日本語対応のために、IBM PC・IBM PC XT・IBM PC ATなどを一般発売せずに、独自仕様のマルチステーション5550を販売していたため、JXはIBMから発売された初めてのIBM PCアーキテクチャ機でもあった。しかし普及には遠く及ばず、PC-8800シリーズ・PC-9800シリーズの陰で人知れず消えていった。
日本市場において「16ビット機はオフィス向け、ホームユースは8ビット機」という風潮があった中、「プライベート16ビット」のコンセプトを掲げ、ホームユース向けの16ビット機として登場した。
IBMが米国市場で発売したPCjrをベースとして開発され、独自仕様の日本語モードの他、英文モードではPCjrの互換モードとなり、オプションの英語版DOS(IBM PC DOS)を起動してIBM PC向けのソフトウェアも使用できた。
当初搭載のCPUはIntel 8088・4.77MHzで、速度の面で難があった。改良型のJX5では、Intel 8088のまま7.2MHzになった。
FDDは5.25インチが普及していた中、3.5インチドライブ(2DD 720K)を搭載した。
またPCjrと同様に本体前面にROMカートリッジ用スロットがあり、スロット奥のリセットボタンにより、カートリッジを挿入すると自動的にPCが再起動する仕組みになっていた。このROMカートリッジは、上述の動作モード(基本モード、拡張表示モード、英文モード)の切替の他、一部のソフトウェアはROMカートリッジで供給された。
標準的なオペレーティングシステムは、IBMによる「日本語DOS 2.0」と、英語版の「PC DOS 2.0」である。どちらもMS-DOSと互換性がある。
JX1~JX4まではパーツの組み換えによってアップグレード可能である。但しJX5へはアップグレードできない。
JX1~JX4には赤外線を用いたワイヤレスキーボードが用いられ、およそ5mの有効範囲から操作が可能だった。ただし、蛍光灯を点灯する際のノイズを拾う等の問題もあり、JX5のキーボードは有線接続になった。英数字とひらがなの刻印はJIS配列で、記号についてはタイプライター配列(USキーボード相当)である。なおPCjrでは当初のチクレットキーボードが不評を招いたため、JXでは最初からタイプライター・スタイルのキーボードを採用した。
- 基本モード
- JXの標準的なモード。カートリッジを用いずに電源を投入すると起動する。PCjr等の他機種との互換性は無い。日本語DOSを使用可能。
- 英文モード
- 英文モードカートリッジを挿入すると起動する、PCjr(CGA)と互換性を持ったモード。英語版のPC DOSを使用可能。
- PCjr用のROMカートリッジを併用することが可能。
- 拡張表示モード
- JX3・JX4に拡張表示モードカートリッジを挿入すると起動する。JX5は同機能を内蔵しており、スイッチで切り替えるようになっている。日本語DOSを使用可能。画面解像度は720x512となり、これはマルチステーション5550の下位モデル相当だが、DOSレベル以上の互換性は無い。
JX1~JX5の基本構成
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JX1 |
JX2 |
JX3 |
JX4 |
JX5
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型番
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IBM JX 5511
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IBM JX5 5510
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CPU
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Intel 8088 4.77MHz
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Intel 8088 4.77MHz/7.2MHz
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RAM
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64KB
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128KB |
256KB
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384KB
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ROM
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128KB(BIOS・BASIC・かな漢字変換用辞書)
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漢字ROM
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128KB(JIS第一水準・16×15ドットフォント)
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外字RAM
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2KB
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ビデオRAM
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32KB
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64KB
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表示能力
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横160×縦200×16色 横320×縦200×4色/16色 横640×縦200×4色
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横160×縦200×16色 横320×縦200×4色/16色 横640×縦200×2色/4色/16色 横360×縦512×4色 横720×縦512×2色
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FDD
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なし |
3.5インチ 2DD(720KB)×1
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3.5インチ 2DD(720KB)×2
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サウンド
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SN76489A(8オクターブ3重和音)
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対応モード
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基本/英文
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基本/英文/拡張
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キーボード
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コンパクト
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フル
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ディスプレイ
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テレビ |
RGB対応テレビ/ 専用14インチカラーディスプレイ
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専用14インチカラーディスプレイ
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本体重量
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3.7Kg |
5.3Kg |
6.1Kg |
6.2Kg |
不明
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本体価格
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166,000円 |
270,000円 |
332,000円 |
373,000円 |
360,000円
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- 拡張ユニット
- JXのシステムユニットの天板を外し、その上に重ねて使用する。ケーブルによりシステムユニットと接続される。電源はシステムユニットとは別である。
- RAMを512KBまで拡張するためのスロットが使用可能になり、また3.5インチ FDDもしくは5.25インチ FDDを1台搭載することができる。
- ハードディスク拡張ユニット
- 拡張ユニットと同様に、JXのシステムユニットの上に重ねて使用する。5.25インチ・10MBHDDを搭載。価格は30万~40万円だった。
JXは森進一をキャラクターに据えて数億円をかけた宣伝が行われたにもかかわらず、ほとんど売れなかった。発売から1年で2000台販売(特約店の情報)、3年後の1987年時点でも4万台しか生産されていなかった[2]。その理由として最も指摘されたのは、CPUにIntel 8088を採用したことがハードとして中途半端であったという点。これは米国のソフトを流用できるようにPCjrと同じCPUを採用したものだったが、そもそも日本国内には米国のソフトを必要とするユーザーは少数であり、大きな意味をなさなかった。日本では16ビットバスのIntel 8086系を搭載したパソコンが主流になりつつある中で、8ビットバスのIntel 8088を搭載した本機はパソコンに詳しいマニアから敬遠され、それが口コミで広まりJXのイメージを悪くした。また、JX対応ソフトを開発するソフトメーカーに対して日本IBMの協力姿勢が良くなかった問題も指摘された。[3]
1987年には日本アイ・ビー・エム創立50周年記念品としてJX(モデル2~4)の本体、ディスプレイ、キーボードのセットが合計1万5千台用意された(ソフトは別売)。社員2万人全員分は用意できないため、代替品としてコーヒーカップセットが用意され、JXとの二択になった。[2]
- 後のDOS/V時代のインタビューでは「黒船」「元寇」などの表現が見られる(世界を席巻した IBM PC が遂に日本上陸と大騒ぎしたが、あっさり全滅した)
- JXで使用された型番(5511、5510)は、1991年のPS/55Z(5510-Z/S/T)で再開される事になる。
- 英文の需要があったため、日本IBMはJX5を発売した1985年の11月にIBM PC AT(IBM 5170)とIBM PC XT(IBM 5160)の国内販売を開始した。
- ^ 『情報科学』1984-11、情報科学研究所、pp.123-126。
- ^ a b 「コンピュータ・アイ:パソコンかコーヒー・カップ、あなたならどちらを選ぶ?」『日経コンピュータ』1987/9/14、pp.122-123。
- ^ 「戦略研究 パソコンビジネス 日本IBM:第1部 JXの失敗―意欲だけが空回り」『日経パソコン』1986/2/10、pp.180-184。