朝日新聞2017年2月18日付朝刊4面14版に「民進が税法対案提出」という小さい記事で取り上げられていましたが、衆議院のサイトに「格差是正及び経済成長のために講ずべき給付付き税額控除の導入その他の税制上の措置に関する法律案」が掲載されています。第193回国会の衆議院議員提出法律案第2号で、今月17日に提出されました(そのため、以下では第193回国会法律案と記します)。
せっかくのことなので、とりあえず、全文を紹介します。
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(趣旨)
第一条 この法律は、社会経済情勢の急激な変化に伴い国民の間に生じている経済的格差その他の格差を是正し、及びその固定化を防止するとともに、経済成長を促すことが、我が国の経済社会の持続的な発展のために緊要な課題であることに鑑み、給付付き税額控除(給付と税額控除を適切に組み合わせて行う仕組みその他これに準ずるものをいう。次条において同じ。)の導入その他の個人所得課税、消費課税及び資産課税に関し講ずべき措置を定めるものとする。
(給付付き税額控除の導入)
第二条 低所得者及び中堅所得者に配慮する観点から、次に掲げる給付付き税額控除を導入するものとする。
一 平成三十一年十月一日における消費税率(地方消費税率を含む。ハ及び第五条第一項において同じ。)の引上げが国民生活に及ぼす影響を踏まえ、消費税の逆進性(所得の少ない世帯ほど、家計において消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)として支出する額の所得の額に対する割合が高くなる傾向にあることをいう。)を緩和するため、次に掲げるところにより行われる給付付き税額控除
イ 一人当たりの飲食料品の購入に要する費用の額に係る消費税の負担額として家計統計(統計法(平成十九年法律第五十三号)第二条第四項に規定する基幹統計である家計統計をいう。)における食料に係る消費支出の額(酒類及び外食に係るものを除く。)、消費税の収入見込額等を勘案して算定した額の十分の二に相当する額を基礎として計算した額を所得税の額から控除し、かつ、当該控除をしてもなお控除しきれない額があるときは当該控除しきれない額に相当する金銭の給付を行うものとすること。
ロ イの所得税の額から控除する額は、所得の額の逓増に応じて逓減するものとし、所得の額が一定の額を超える者については控除を行わないものとすること。
ハ 平成三十一年十月一日における消費税率の引上げに併せて実施するものとすること。
二 就労の促進に資するため、次に掲げるところにより行われる給付付き税額控除
イ 就労による所得の額を基礎として計算した額を所得税の額から控除し、かつ、当該控除をしてもなお控除しきれない額があるときは当該控除しきれない額に相当する金銭の給付を行うものとすること。
ロ イの所得税の額から控除する額は、所得の額が一定の額以下である者については就労による所得の額の逓増に応じて逓増するものとすること。
2 給付付き税額控除に関する事務は、別に法律で定めるところにより内閣府の外局として置かれる歳入庁がつかさどるものとする。
3 政府は、前二項に定めるところにより、給付付き税額控除の導入のために必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
4 政府は、前項の措置を講ずるに当たっては、給付付き税額控除による給付の額の全部又は一部を、当該給付を受ける者の負担すべき社会保険料の支払に充てることができるようにすることについて検討するものとする。
(個人所得課税に関する措置)
第三条 政府は、経済的格差の是正、税負担の公平性等の観点から、次に掲げる措置その他の個人所得課税の改革について早急に検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。
一 基礎控除について、税額控除とすること。
二 配偶者控除及び扶養控除を廃止し、これらに代わるものとして、世帯の構成、生計の事情等に応じた税額控除を導入すること。
三 給与所得控除について、前条第一項第二号の給付付き税額控除の導入と併せて抜本的な見直しを行うこと。
四 金融所得課税に係る所得税並びに個人の道府県民税及び市町村民税を合わせた税率を百分の二十五に引き上げること。
(消費税に関する措置)
第四条 消費税の軽減税率制度及び適格請求書等保存方式は、導入しないものとし、政府は、このために必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
2 政府は、平成三十一年九月三十日までに、医療、介護等に係る消費税の課税の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
(車体課税に関する措置)
第五条 自動車の取得に関し消費税とともに自動車取得税が課される等自動車の取得等に係る国民の税負担が重く、かつ、その税負担が我が国の基幹的な産業である自動車製造業、自動車販売業等に重大な影響を与えており、自動車が交通手段として国民一般に普及している現状においては、平成三十一年十月一日における消費税率の引上げがこれらを一層増大させることになること等により国民生活及び我が国の経済に及ぼす影響が大きいことに鑑み、車体課税(自動車重量税、自動車取得税、自動車税及び軽自動車税の課税をいう。)について、次に掲げる措置を実施するとともに、更なる簡素化、負担の軽減及びグリーン化(環境への負荷の低減に資するための施策をいう。)を図るものとし、政府は、同年九月三十日までに、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする。
一 自動車取得税を廃止すること。
二 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第九十条の十一から第九十条の十一の三までに規定する自動車重量税率の特例を廃止すること。
三 軽自動車税の税率を引き下げること。
2 政府は、前項の法制上の措置を講ずるに当たっては、これにより生ずる都道府県及び市町村の減収を埋めるための財源を確保し、都道府県及び市町村の財政状況に影響を及ぼすことのないよう適切な措置を講ずるものとする。
(資産課税に関する措置)
第六条 政府は、国民の資産の形成の意欲を著しく阻害することのないよう配慮しつつ、経済的格差の是正、税負担の公平性等の観点から、相続税の最高税率の引上げその他の資産課税の改革について早急に検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
理 由
社会経済情勢の急激な変化に伴い国民の間に生じている経済的格差その他の格差を是正し、及びその固定化を防止するとともに、経済成長を促すことが、我が国の経済社会の持続的な発展のために緊要な課題であることに鑑み、給付付き税額控除の導入その他の個人所得課税、消費課税及び資産課税に関し講ずべき措置を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
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第193回国会法律案で最も注目されるのは第2条と第3条でしょう。平成29年度税制改正大綱(与党、政府とも)には、所得税改革の第一弾として配偶者控除+配偶者特別控除の改正が盛り込まれていますが、小粒であることは否めませんし、所得控除はもっと大きく改めなければならないはずですので、この法律案は(今国会で可決される可能性は非常に低く、閉会中審査の扱いになる可能性のほうが高いとはいえ)今後の税制改革に向けての対案としての意味を持っています。
第2条で示されているのは給付付き税額控除です。このブログでも取り上げた「消費税率の引上げの期日の延期及び給付付き税額控除の導入等に関する法律案」(第190回国会衆議院議員提出法律案第52号。以下、第190回国会法律案と記します)の第2条第3項にも「居住者(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三号に規定する居住者をいう。以下同じ。)について、所得税の額から一定の額を控除し、かつ、当該控除をしてもなお控除しきれない額があるときは当該控除しきれない額に相当する金銭を給付する制度をいう。」として明記されていますが、今回提出された法律案では、さらに踏み込んだ内容となっています。
第193回国会法律案第2条第1項のうち、第1号に示される給付付き税額控除は、第190回国会法律案第4条と同じ内容のものです。これに対し、第2号は新しいタイプを示すもので、「就労の促進に資するため」と記されていること、イに「就労による所得の額を基礎として計算した額」と記されていることから、ベーシックインカムの趣旨が含まれているものと考えられます。実際に就労することによる所得の額とは書かれていないので、(利子所得、配当所得などのいわゆる不労所得はあったとしても)給与所得や事業所得などがない者については税額控除が行われうるということでしょう。従って、一定の所得水準に満たない場合には、所得税額よりも税額控除額のほうが大きい場合には差し引いてマイナスとなり、そのマイナス分が納税義務者に戻ってくることとなります。但し、本来のベーシックインカムは税額控除や所得制限と無関係であるはずですから、第193回国会法律案が示すものはあくまでも給付付き税額控除です。純粋なベーシックインカムを提案していないのが、この法律案の特徴とも言えるでしょう。
また、ロは「イの所得税の額から控除する額は、所得の額が一定の額以下である者については就労による所得の額の逓増に応じて逓増するものとする」と記されていますから、所得が低ければそれだけ控除額が多くなり、効果も大きくなります。