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ナマズ - Wikipedia

ナマズ

ナマズぞくする硬骨魚こうこつぎょるいの1しゅ

ナマズなまずあゆ、魸、鮀、学名がくめい Silurus asotus)は、ナマズナマズぞくする硬骨魚こうこつぎょるいの1しゅ

ナマズ
ナマズ
分類ぶんるい
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : じょうひれつな Actinopterygii
つな : しんひれつな Neopterygii
上目うわめ : ほね鰾上 Ostariophysi
: ナマズ Siluriformes
: ナマズ Siluridae
ぞく : ナマズぞく Silurus
たね : ナマズ S. asotus
学名がくめい
Silurus asotus Linnaeus1758
和名わみょう
ナマズ
マナマズ
ニホンナマズ
キナマズ
英名えいめい
Japanese common catfish
Amur catfish

日本にっぽん中国ちゅうごく朝鮮半島ちょうせんはんとう台湾たいわんなど、ひがしアジア河川かせん湖沼こしょう生息せいそくする肉食にくしょくせい淡水魚たんすいぎょである。

別名べつめいとしてマナマズ琵琶湖びわこ周辺しゅうへん地域ちいきでの地方ちほうめいとしてヘコキともばれる[3]。2005ねん特定とくてい外来がいらい生物せいぶつ指定していされたアメリカナマズ(チャネルキャットフィッシュ)と区別くべつして、ニホンナマズばれることもある。以降いこうほんしゅを「マナマズ」と表記ひょうきする。

概要がいよう 編集へんしゅう

 
ナマズ(歌川うたがわ国芳くによし

マナマズ(S. asotus)は日本にっぽん分布ぶんぷする4しゅのナマズぞくしゅの1しゅである。の3しゅのうち、ビワコオオナマズイワトコナマズ琵琶湖びわこ関連かんれん水系すいけいのみに生息せいそくタニガワナマズ[ちゅう 1]愛知あいちけん長野ながのけん岐阜ぎふけん静岡しずおかけんかわにおいて確認かくにんされている日本にっぽん固有こゆうしゅであるのにたいし、マナマズの分布ぶんぷひがしアジア広域こういきにわたり、日本にっぽんにおいても現代げんだいでは沖縄おきなわなどの離島りとうのぞ全国ぜんこく各地かくち淡水たんすい汽水いき幅広はばひろ分布ぶんぷしている。

日本にっぽん在来ざいらい淡水魚たんすいぎょ雑食ざっしょくのものがおおいため、在来ざいらいぎょとしては数少かずすくない大型おおがた肉食にくしょくぎょである。おおきなからだをくねらせてゆったりとおよぎ、扁平へんぺい頭部とうぶながくちヒゲ貪欲どんよくしょくせい特徴とくちょうとする。

日本にっぽんにおけるナマズは、古代こだいから食用しょくようぎょとして漁獲ぎょかくされたほか、さまざまな文化ぶんかれられた歴史れきしをもつ。神経質しんけいしつでデリケートな性格せいかくからあばれたりねることもおおく、日本にっぽんでは中世ちゅうせい以降いこう地震じしん関連付かんれんづけられ、浮世絵うきよえをはじめとする絵画かいが題材だいざいにされるなどして、人間にんげんとのかかわりをふかめてきた。

なお日本にっぽんでは通常つうじょう、ナマズに「なまず」のてるが、中国ちゅうごくでは(日本語にほんごアユ意味いみする)「あゆ」をてる(「なまず」はナマズにてるために日本にっぽんつくられた国字こくじである。ひさごあゆふし参照さんしょう[4]おおきなナマズは「鯷」としるし、『漢書かんしょ地理ちりこころざしと『こう漢書かんしょ東夷あずまえびすでんあらわれる「ひがし鯷人」は倭人わじんとの関係かんけい注目ちゅうもくされる。

分布ぶんぷ 編集へんしゅう

マナマズは中国ちゅうごく大陸たいりく東部とうぶ朝鮮半島ちょうせんはんとうなどの大陸たいりくくわえ、台湾たいわん日本にっぽんなど島嶼とうしょいきふくめたひがしアジア全域ぜんいき幅広はばひろ分布ぶんぷしている。ユーラシア大陸たいりくでの分布ぶんぷは、アムールがわシベリア東部とうぶからベトナム北部ほくぶまで[5]ながれのゆるやかな河川かせん湖沼こしょうから水田すいでん用水路ようすいろなどに生息せいそくし、岩礁がんしょういきよりも水草みずくさ繁茂はんもするどろそこいきおおくみられる。

現代げんだい日本にっぽんではマナマズは沖縄諸島おきなわしょとうなどの離島りとうのぞ全国ぜんこく分布ぶんぷしているが、本来ほんらい生息せいそくいき西日本にしにほん限定げんていされていたとみられている。縄文じょうもん時代じだい貝塚かいづかなど全国ぜんこく各地かくち遺跡いせきから、ナマズ魚類ぎょるい骨格こっかく出土しゅつどしているものの、ふる時代じだいのものは滋賀しがけんより西にし地域ちいきかぎられている[6]一方いっぽうで、『ほん朝食ちょうしょくかん』など複数ふくすう文献ぶんけん記録きろくや、愛知あいちけん東京とうきょうにおける江戸えど時代じだい遺跡いせきからのこそんたいつかっていることなどから、マナマズは人為じんいてき移植いしょくによって江戸えど時代じだい中期ちゅうきには関東かんとう地方ちほうに、後期こうきには東北とうほく地方ちほう順次じゅんじ分布ぶんぷひろげていったと推察すいさつされており[7][8][9][10]大正たいしょう北海道ほっかいどうにも移入いにゅうされた。

マナマズは水質すいしつ汚濁おだくには比較的ひかくてきつよいが、河川かせん用水路ようすいろ護岸ごがんにより繁殖はんしょく場所ばしょうしない、日本にっぽんでの生息せいそくすう年々ねんねん減少げんしょうしているものとみられている[11]

形態けいたい 編集へんしゅう

マナマズの外観がいかんおおきく扁平へんぺい頭部とうぶ幅広はばひろくち、およびながくちヒゲによって特徴付とくちょうづけられ、これらはナマズ魚類ぎょるい全般ぜんぱん共通きょうつうする特徴とくちょうである。からだ全体ぜんたいてき左右さゆうひらたくがわひらたするが、頭部とうぶ上下じょうげにつぶれたようにたてひらたしている。うろこがなく、からだひょうはぬるぬるとした粘液ねんえきおおわれている。ちいさくがわりについており、はらがわからはえない(イワトコナマズの側面そくめんりで、はらがわからえる)。からだしょく斑紋はんもん変異へんいみ、個体こたいによってさまざまである。全長ぜんちょう60cm - 70cmほどにまで成長せいちょうし、一般いっぱんめすほうがややおおきい。

くちヒゲは上顎じょうがくしたあごに1ついずつ、けい4ほんある。ぎょ段階だんかいではしもあごにもう1たいあり、けい6ほんくちヒゲをもつが、成長せいちょうにつれ消失しょうしつする。したあご上顎じょうがくよりもわずかにながす。背鰭せびれちいさいが(4-6軟条)、しりひれ基底きてい非常ひじょうながく(71-85軟条)、尾鰭おびれ連続れんぞくする。外見がいけんだけで雌雄しゆう鑑別かんべつすることはむずかしいが、ゆう尾鰭おびれ中央ちゅうおうがややへこんでいる[5]

全身ぜんしん味覚みかくがあることでられあじつぼみばれる器官きかんやく20まんほどありこれはぜん生物せいぶつなかでも最多さいたである[よう出典しゅってん]

生態せいたい 編集へんしゅう

基本きほんてき夜行やこうせいで、昼間ひるまながれのゆるやかな平野へいや河川かせん池沼ちしょうみずうみなどの水底みなそこにおいて、いわかげ水草みずくさ物陰ものかげひそんでいる。感覚かんかくとして発達はったつしたくちヒゲを利用りようしてえささがし、ドジョウタナゴなどのしょうさかなウナギエビなどの甲殻こうかくるい昆虫こんちゅうカエルかめひるなどのしょう動物どうぶつ捕食ほしょくする。日本にっぽん淡水たんすいいき生態せいたいけいでは、食物しょくもつ連鎖れんさ上位じょうい位置いちするとみられる。一般いっぱんてき活動かつどう水温すいおんは10-30℃の範囲はんいとされ[12]冬期とうきどろなかいわあいだかくれ、ほとんどうごかない。

日本にっぽんでの繁殖はんしょくは5-6月が中心ちゅうしんである。この時期じきになるとれをなして水田すいでん湖岸こがんなどあさ水域すいいきあつまり、ゆうめすからだきつくという独特どくとく繁殖はんしょく行動こうどうのち水草みずくさ水底みなそこ産卵さんらんする。たまごおおきさはやく3mmで緑色みどりいろをしており、およそ2-3にち孵化ふかする。ぎょ孵化ふか翌日よくじつにはミジンコなどのえさをとるようになり、個体こたい密度みつどたか場合ばあい仲間なかまぎょにも攻撃こうげきくわえるなど共食ともぐこる[13]ゆうは2ねんめすは3ねん程度ていどせい成熟せいじゅくたっする。

利用りよう 編集へんしゅう

漁獲ぎょかく 編集へんしゅう

ひがしアジア地域ちいきではふるくから、マナマズを食用しょくようぎょとして利用りようしてきた。世界せかいのナマズ魚類ぎょるいそう漁獲ぎょかくりょうは1990年代ねんだい以降いこう急激きゅうげき増加ぞうかしており、その大半たいはんはアジア地域ちいきでのナマズるい養殖ようしょくぎょう普及ふきゅうによるものである。マナマズもまた主要しゅよう養殖ようしょくぎょしゅひとつであり、国際こくさい連合れんごう食糧しょくりょう農業のうぎょう機関きかん(FAO)の統計とうけい[14][出典しゅってん無効むこう]によれば、2006ねんのアジアでのそう漁獲ぎょかくりょう養殖ようしょくぶん)145まんトンのうち、30まんトンあまりをほんしゅめている。

しょく文化ぶんか 編集へんしゅう

ナマズは中国ちゅうごく料理りょうりでもよく使用しようされる。大型おおがたナマズの浮袋うきぶくろしたもの中国ちゅうごく料理りょうりでよくもちいられる食材しょくざいである[15]

ベトナムでもナマズはつけなどにもちいられるポピュラーな食材しょくざいとなっている[16]

マナマズは白身しろみぎょで、日本にっぽんではてんぷらたたき蒲焼かばや刺身さしみなどにして利用りようされる[17]。ただし、あごこうむしなどが寄生きせいしているため生食なましょくをした場合ばあいあごこうむししょうへの感染かんせんおそれがある[18][19]。かつては農村のうそんなどを中心ちゅうしんに、おも自家じか消費しょうひのための小規模しょうきぼなナマズりょうおこなわれていたが、近年きんねんでは琵琶湖びわこ周辺しゅうへん地域ちいき滋賀しがけん京都きょうと)や、濃尾平野のうびへいや埼玉さいたまけん南東なんとうなど特定とくてい地域ちいきでの漁獲ぎょかく中心ちゅうしんとなっている。寺嶋てらしま(2014)によれば、岐阜ぎふけんで1988ねん 102t 、琵琶湖びわこで1994ねんに 1.4t の漁獲ぎょかくだかがあった[20]

ナマズしょく歴史れきしふる平安へいあん時代じだい末期まっき文献ぶんけん今昔こんじゃく物語ものがたり)に調理ちょうりをしていた記述きじゅつのこるほか、[20]江戸えど時代じだい商業しょうぎょう取引とりひきおこなわれた記録きろくのこる。[20]しかし、現代げんだい日本にっぽんではかならずしも一般いっぱんてき食材しょくざいとはえない。群馬ぐんまけん邑楽おうらぐん板倉いたくらまち板倉いたくらにある雷電らいでん神社じんじゃや、鳥取とっとりけん鳥取とっとり吉岡温泉よしおかおんせんまちきゅうくに因幡いなばこく)にある吉岡温泉よしおかおんせんなど特定とくてい地域ちいき郷土きょうど料理りょうりとして、ナマズ料理りょうり有名ゆうめい

日本にっぽんさんのナマズ魚類ぎょるい3しゅなかでは岩礁がんしょういきらすイワトコナマズが、泥臭どろくささがすくなくもっと美味びみで、マナマズはこれにいであじいとされる。ビワコオオナマズ大味おおあじ独特どくとくくさみがあり、ほとんど利用りようされることはない[20][21]

ナマズの食味しょくみ利用りようかんしては江戸えど時代じだい以降いこう資料しりょうがいくつかあり、本草学ほんぞうがくしゃである人見ひとみ必大あらわした『ほん朝食ちょうしょくかん』(1697ねん)によれば、ナマズはあじいものの、なます蒲鉾かまぼことして利用りようされるにぎないとされる[22]一方いっぽうで、シーボルトらによる『日本にっぽん動物どうぶつ』(1850ねん)には、ナマズはあまり食用しょくようにされず、むしろ薬用やくようもちいられるとの記述きじゅつがみえる[23]

埼玉さいたまけん吉川よしかわは「なまずのさとよしかわ」として、特産とくさんのナマズ料理りょうりをアピールしている。

食用しょくようナマズ養殖ようしょく 編集へんしゅう

国内こくない

埼玉さいたまけんでは1970年代ねんだいから水産すいさん試験場しけんじょう農林のうりん総合そうごう研究けんきゅうセンター水産すいさん研究所けんきゅうじょ)が種苗しゅびょう生産せいさん養殖ようしょく技術ぎじゅつ開発かいはつおこなっている[24]ほか、茨城いばらきけんでも養殖ようしょく技術ぎじゅつ開発かいはつおこなわれている[25]当初とうしょ、ふ40 - 50にち稚魚ちぎょ共食ともぐいによる消耗しょうもう問題もんだいとなったが、2000年代ねんだいには共食ともぐいを抑制よくせいする給餌きゅうじ方法ほうほう飼育しいく密度みつど飼育しいく条件じょうけんいだし、安定あんていした種苗しゅびょう生産せいさんおこなえるようになった[24][26]育成いくせいされた稚魚ちぎょ養殖ようしょく業者ぎょうしゃによって育成いくせいされるほか霞ヶ浦かすみがうら印旛沼いんばぬまなど自然しぜん水系すいけい放流ほうりゅうされ[27]漁獲ぎょかく市場いちば出荷しゅっかされている。西日本にしにほんにては和歌山わかやまけん新宮しんぐう市内しないにても養殖ようしょく実施じっしされている。

 また、近畿大学きんきだいがくがマナマズの養殖ようしょく方法ほうほう工夫くふうすることによって、食味しょくみをウナギのあじ近付ちかづけた「ウナギあじのナマズ」の養殖ようしょく研究けんきゅうおこなっている。食味しょくみ調整ちょうせいとして「えさのコントロール」と「水質すいしつのコントロール」の2てん重要じゅうようであることを特定とくていし、それらのコントロール方法ほうほう開発かいはつした[28]。ウナギは天然てんねんしゅ絶滅ぜつめつ危機ききにありながら、養殖ようしょく技術ぎじゅつ確立かくりつされていないため、ちか将来しょうらい一般いっぱんひとべることすら出来できなくなることが懸念けねんされているが、この研究けんきゅう商業しょうぎょう発展はってんすれば、代用だいようとしての養殖ようしょくナマズしょく普及ふきゅうする可能かのうせいもある。今後こんご直営ちょくえい料理りょうりてん近畿大学きんきだいがく水産すいさん研究所けんきゅうじょ」や提携ていけいした料理りょうりてんなどで「ナマズの蒲焼かばや」のようなかたち不定期ふていききゃく提供ていきょうし、商業しょうぎょう目指めざす。

編集へんしゅう

ナマズを対象たいしょうとする場合ばあい、その貪欲どんよく性質せいしつ利用りようした「ぽかんり」とばれる方法ほうほうもちいられる[29]。ぽかんりでは小型こがたカエルえさとして、片足かたあしからげるかたちばりとおしてけ、水面すいめん上下じょうげうごかすことでナマズをさそ[30]ドジョウハヤ金魚きんぎょなどのしょうさかな使つかってのおよがせエビなどの甲殻こうかくるい昆虫こんちゅうなどの使つかったかたられる。ハツササミといった肉類にくるいなどでもれる。

ルアーりの場合ばあいは、夕方ゆうがたあさまずめの時刻じこくはスプーンやワーム、スピナーベイト、チャターベイト、あるいはミノーを利用りようするとよい。基本きほんブレードがいてるか波動はどうるバイブレーションなどなら簡単かんたんれる。夜間やかんにはノイジーとうおとトップウォーターけいのプラグがよい(にちちゅうでも十分じゅうぶんトップウォーターけいのプラグでれる)[31]。さらにケミホタルとばれるケミカルライトによりひか発光はっこうたいをルアーにければ夜間やかんでも視認しにんしやすい。また、近年きんねん[いつ?]はナマズ専用せんようのルアーも登場とうじょうしている。

文化ぶんか 編集へんしゅう

 
埼玉さいたまけん吉川よしかわ吉川よしかわえきまえにあるナマズのモニュメント

日本にっぽんでは、その独特どくとく外観がいかん生態せいたいからふるくからしたしまれ、さまざまな文化ぶんか伝承でんしょうまれてきた。伝統でんとうてき郷土きょうど玩具おもちゃにも、「なまずさえ」などナマズを題材だいざいにしたものがられる。

地震じしんとナマズ 編集へんしゅう

 
杉並すぎなみにある緊急きんきゅう交通こうつう標識ひょうしき

日本にっぽんでは、地震じしん予兆よちょうとしてナマズがあばれるという俗説ぞくせつひろられている[32]地面じめんした巨大きょだいなナマズ(だいなまず)がおり、これがあばれることによってだい地震じしん発生はっせいするという迷信めいしん民俗みんぞくふるくからある。

ナマズが地震じしんみなもとであるとするせつ江戸えど時代じだい中期ちゅうきには民衆みんしゅうあいだひろまっていたが、そのルーツについてはっきりしたことはわかっていない。ナマズと地震じしん関係かんけいについてれた書物しょもつとしてはふるく『日本書紀にほんしょき』にまでさかのぼることができるといわれる[33]安土あづち桃山ももやま時代じだいの1592ねん豊臣とよとみ秀吉ひでよし伏見ふしみじょう築城ちくじょうおり家臣かしんてた書状しょじょうには「ナマズによる地震じしんにもえる丈夫じょうぶしろてるように」との指示しじ[22]、この時点じてんすでにナマズと地震じしん関連かんれんせい形成けいせいされていたことがうかがえる。江戸えど時代じだいの『安政あんせい見聞けんぶんろく』には安政あんせいだい地震じしんまえにナマズがさわいでいたことの記述きじゅつがある[33]安政あんせいだい地震じしん直後ちょくごには200しゅえるなまず出回でまわった[32]

一般いっぱんには地震じしんとナマズの関係かんけい俗信ぞくしんとされてきた。ただ、魚類ぎょるいおと振動しんどう敏感びんかんで、とくにナマズは電気でんき受容じゅよう能力のうりょくけており、電場でんじょう変化へんかにも敏感びんかんであることから地震じしん予知よち能力のうりょくがあることもかんがえうるとされ、今後こんご研究けんきゅうゆだねられている[34]

日本にっぽん伝統でんとう絵画かいがえがかれたナマズ 編集へんしゅう

ひさごあゆ 編集へんしゅう

 
ひさごあゆ退蔵たいぞういん所蔵しょぞう

日本にっぽんにおけるナマズを題材だいざいとした絵画かいがのうち、代表だいひょうてきな1まい室町むろまち時代ときよそう如拙による「ひさごあゆ」(ひょうねんず、「あゆ」は中国ちゅうごくしき表記ひょうき)である。ぬめった皮膚ひふのナマズをなめらかなヒョウタンでいかにさえるか、という禅問答ぜんもんどうのテーマをえがいた水墨すいぼくであり、現在げんざいでは国宝こくほう指定していされている。ほんえがかれた瓢箪ひょうたんとナマズのわせは、後世こうせいのナマズにも多大ただい影響えいきょうあたえている(後述こうじゅつ)。

大津絵おおつえ 編集へんしゅう

瓢箪ひょうたんとナマズ、というユニークな画題がだい後年こうねんみん浮世絵うきよえにもれられた。滋賀しがけん大津おおつ宿やど民俗みんぞく絵画かいがである大津絵おおつえでは、ヒョウタンをったさるがナマズをさえつけようとする姿すがた滑稽こっけいえがいた作品さくひん数多かずおおつくられている。ほとんどが作者さくしゃしょうであるこれらの作品さくひんは「瓢箪鯰ひょうたんなまず」と総称そうしょうされ、「大津絵おおつえじゅうしゅ」(大津絵おおつえ代表だいひょうてき画題がだい)のひとつとしてしたしまれた。

なまず 編集へんしゅう

ひさごあゆから大津絵おおつえという系譜けいふたナマズが、もっと多種たしゅ多彩たさい構図こうずえがかれたのが幕末ばくまつ江戸えど流行りゅうこうしたなまずである。なまずとはナマズを題材だいざいにした無届むとどけ錦絵にしきえ多色たしょくりの浮世絵うきよえ一種いっしゅ)で、1855ねん関東かんとうおそった安政あんせいだい地震じしん直後ちょくごから、江戸えどちゅうひろ流布るふした。地震じしん原因げんいんかんがえられただいなまずらしめるや、復興ふっこう景気けいき職人しょくにんたちの姿すがたなど、地震じしん直後ちょくご不安定ふあんてい世相せそうをさまざまな視点してんから滑稽こっけいえがしたなまず庶民しょみんあいだ人気にんきび、すくなくとも250てん以上いじょう作品さくひん出版しゅっぱんされた。

なまず山車だし 編集へんしゅう

岐阜ぎふけん大垣おおがき大垣おおがき八幡やはた神社じんじゃ例祭れいさい大垣おおがきさいではなまず軕(なまずやま)とばれる山車だし参加さんかする。かね瓢箪ひょうたんをもった老人ろうじんがナマズをさえつけようとするからくりせられており、同市どうししろひげ神社じんじゃ例祭れいさいにおいても、同様どうよう山車だしがみられる。りょうまつりなまず山車だしは、岐阜ぎふけん重要じゅうよう有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい指定していされている。

ナマズの伝承でんしょう 編集へんしゅう

 
ナマズの妖怪ようかい願人坊主がんにんぼうず装束しょうぞくをつけたなまずが、地震じしんにまつわるちょぼくれふしをうたっている。なまずわきには閻魔えんま地蔵じぞうがおり、地蔵じぞうたけ錫杖しゃくじょう竹馬たけうまあそびをしている。

ナマズにまつわる伝承でんしょう日本にっぽん各地かくちられている。琵琶湖びわこ竹生島ちくぶしまにあるみやこ久夫ひさお須麻神社じんじゃ竹生島ちくぶしま神社じんじゃ)には、ナマズがりゅう変身へんしんして(あるいはりゅうからだいなまずとなって)とう神社じんじゃ守護しゅごするという縁起えんぎ(いいつたえ)がふるくからある[22]しままもがみであるナマズを安易あんいることはゆるされないという当時とうじかんがえにより、おなじく竹生島ちくぶしまにある宝厳寺たからがんじ神仏しんぶつ習合しゅうごう思想しそうもとづき、明治めいじ時代じだい以前いぜん竹生島ちくぶしま神社じんじゃ一体いったいであった)から湖岸こがん村役むらやくたい毎年まいとしなまず免状めんじょう」があたえられ、ナマズを食用しょくようとすることを許可きょかされていた。免状めんじょう発行はっこうそのものは例祭れいさいてき意味合いみあいがつよく、漁業ぎょぎょうけんとの実際じっさいてきかかわりはうすかったとみられている。

中国ちゅうごく地方ちほうでは、ナマズギツネといういたナマズが、よる小川おがわさかなのぼってくるようなおとをたて、ひとおとちかづくたびに上流じょうりゅう上流じょうりゅうへとげてくという[35]。また群馬ぐんまけん前橋まえばし清水しみずがわにはオトボウナマズというあるじんでおり、「おとぼう、おとぼう」といながらじんいかけるという説話せつわがある[36]

九州きゅうしゅうでも、ナマズが神格しんかくされている地方ちほうがある。熊本くまもとけん阿蘇あそそう本社ほんしゃをおく阿蘇あそ神社じんじゃ氏子うじこはナマズをかみ使つかいとして信仰しんこうし、捕獲ほかく食用しょくようはタブーとされている[37]。また、佐賀さがけんではよどみひめ神社じんじゃ使つかいとされ、ナマズをべると病気びょうきになるとして食用しょくようにしない風習ふうしゅうがある[38]

愛称あいしょう・マスコットとしてのナマズ 編集へんしゅう

近代きんだい以降いこう、ナマズの名前なまえ姿すがたを、愛称あいしょうマスコットとしてもちいることもえている。小学館しょうがくかん発行はっこう雑誌ざっし現在げんざいではビッグコミックとその派生はせい雑誌ざっし週刊しゅうかん少年しょうねんサンデーといった漫画まんが雑誌ざっし。かつては「FMレコパル」「テレパル」とうも)ではナマズをかたどったシンボルマークがもちいられ、表紙ひょうしなどにえがかれている。また、1937-88ねん名古屋鉄道なごやてつどう名鉄めいてつ)で運用うんようされていた850けい電車でんしゃは、その姿すがたがたから「ナマズ」とばれしたしまれた。「Namazu」は日本にっぽんひろもちいられている、コンピュータよう全文ぜんぶん検索けんさくシステムである。前項ぜんこうにもあるとお地震じしんとのつながりがあるために地震じしん災害さいがい関係かんけいのマスコット(緊急きんきゅう地震じしん速報そくほう利用りようしゃ協議きょうぎかいのゆれるん・上記じょうき看板かんばんにある緊急きんきゅう交通こうつうのキャラクター)としてナマズがげられることもおおい。

MLB活躍かつやくし、アメリカ野球やきゅう殿堂でんどうにも選出せんしゅつされたジェイムズ・オーガスタス・ハンターは「キャットフィッシュ・ハンター」の愛称あいしょうひろられる。この愛称あいしょうはハンターの趣味しゅみがナマズり(ナマズは英語えいごで catfish)であることから所属しょぞくチームのオーナーによってけられた。

K-1で活躍かつやくしているキックボクサー芦澤あしざわりゅうまことのニックネームでもある。

埼玉さいたまけん吉川よしかわは、ナマズをモデルとした「なまりん」をのイメージキャラクターとしている[39]

著名ちょめい研究けんきゅうしゃ 編集へんしゅう

脚注きゃくちゅう 編集へんしゅう

注釈ちゅうしゃく 編集へんしゅう

  1. ^ 2018ねん8がつ17にち滋賀しが県立けんりつ琵琶湖びわこ博物館はくぶつかんなどのチームにより発見はっけんされた。

出典しゅってん 編集へんしゅう

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  8. ^ ほん朝食ちょうしょくかん』1697ねん元禄げんろく10)画像がぞう「ナマズは淀川よどがわ琵琶湖びわこ諏訪湖すわこにのみ生息せいそくしている」
  9. ^ 日東にっとうぎょ』 1741ねんもとぶん6)画像がぞう「もとは関西かんさい分布ぶんぷ関東かんとうにナマズはいなかったが、1728ねん (とおる13、14は誤記ごき)のだい洪水こうずい以降いこう、よくかけるようになった」
  10. ^ りょうはね博物はくぶつ図譜ずふ画像がぞう元来がんらい最上川もがみがわ下流かりゅうには生息せいそくしていなかったが天保てんぽうまつ(1844ねん)のころよりえだした」
  11. ^ 田崎たさき金澤かなざわ 2001, pp. 6–7.
  12. ^ 江島えじま 2008, p. 172.
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参考さんこう文献ぶんけん 編集へんしゅう

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  • 江島えじま勝康かつやす世界せかいのナマズ』(増補ぞうほ改訂かいていばんマリン企画きかく、2008ねん5がつISBN 978-4-89512-515-4 
  • なまず―イメージとその素顔すがおかわ浩哉ひろや監修かんしゅう八坂やさか書房しょぼう琵琶湖びわこ博物館はくぶつかんポピュラーサイエンスシリーズ〉、2008ねん2がつISBN 978-4-89694-904-9 

関連かんれん項目こうもく 編集へんしゅう

外部がいぶリンク 編集へんしゅう