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塩酸 - Wikipedia

塩酸えんさん

塩化えんか水素すいそ水溶液すいようえき強酸きょうさん

塩酸えんさん(えんさん)とは塩化えんか水素すいそ水溶液すいようえきであり強酸きょうさん一種いっしゅである。オランダZoutzuurあるいはドイツSalzsäure直訳ちょくやく本来ほんらい塩化えんか水素すいそさんぶべきものだが、歴史れきしてき経緯けいいから酸素さんそふくさんおなじように、塩酸えんさんばれている[7]無色むしょく液体えきたい独特どくとくつらにおいがする。人間にんげんふくむほとんどの動物どうぶつ消化しょうかけいにおいて塩酸えんさん胃酸いさん成分せいぶんとなっている。塩酸えんさん重要じゅうよう実験じっけんよう試薬しやくおよび工業こうぎょうよう化学かがく物質ぶっしつとされている[8][9]

塩酸えんさん
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識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 7647-01-0 チェック
PubChem 313
ChemSpider 307 チェック
UNII QTT17582CB チェック
EC番号ばんごう 231-595-7
E番号ばんごう E507 (pH調整ちょうせいざい固化こか防止ぼうしざい)
国連こくれん/北米ほくべい番号ばんごう 1789
ChEMBL CHEMBL1231821 ×
特性とくせい
化学かがくしき HCl(aq)
外観がいかん 無色むしょく透明とうめい液体えきたい濃度のうどたかいものはけむり発生はっせいさせる
にお 独特どくとく刺激しげきしゅう
融点ゆうてん

濃度のうど依存いぞんひょうること

沸点ふってん

濃度のうど依存いぞんひょうること

log POW 0.00[4]
さん解離かいり定数ていすう pKa −5.9 (HCl gas)[5]
危険きけんせい
GHSピクトグラム 急性毒性(低毒性)腐食性物質
GHSシグナルワード 危険きけん[6]
Hフレーズ H290, H314, H335[6]
Pフレーズ P260, P280, P303+361+353, P305+351+338[6]
NFPA 704
0
3
1
関連かんれんする物質ぶっしつ
関連かんれん物質ぶっしつ
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

10世紀せいき初頭しょとうペルシャ医師いし錬金術れんきんじゅつアル・ラーズィー (865〜925ねんごろラテン語らてんご:ラーゼス) は、塩化えんかアンモンせき (塩化えんかアンモニウム) とビトリオール英語えいごばん (さまざまな金属きんぞく硫酸りゅうさんしおみず和物あえもの)をもちいて実験じっけんおこなった。混合こんごうして蒸留じょうりゅうしたところ、塩化えんか水素すいそガスが生成せいせいされた。そうすることで、アル・ラーズィーは塩酸えんさん発見はっけん非常ひじょうちかづいたが、かれ実験じっけんのガスじょう生成せいせいぶつ無視むしし、わりに残留ざんりゅうぶつ影響えいきょうあたえる可能かのうせいのあるいろ変化へんか集中しゅうちゅうしたようである[10]。アル・ラーズィーの実験じっけんもとづいて、De aluminibus et salibus (『ミョウバンしおについて』、あやまってアル・ラーズィーによるものとされた11世紀せいきまたは12世紀せいきアラビア文書ぶんしょクレモナのジェラルドによって12世紀せいき後半こうはんラテン語らてんご翻訳ほんやくされた。) では、金属きんぞくのさまざまなしお加熱かねつについて説明せつめいされていて、水銀すいぎん場合ばあいには塩化えんか水銀すいぎん(II) (昇汞しょうこう) が生成せいせいされることが記載きさいされている[11]。この過程かていでは実際じっさい塩酸えんさん生成せいせいされはじめるが、すぐに水銀すいぎん反応はんのうして昇汞しょうこう生成せいせいされる。De aluminibus et salibus主要しゅよう参考さんこうしょの1つであった13世紀せいきのラテン錬金術れんきんじゅつは、昇汞しょうこう塩素えんそ特性とくせい魅了みりょうされ、ビトリオール、ミョウバン、しお加熱かねつ過程かてい金属きんぞくだつはなれさいつよこうさん直接ちょくせつ蒸留じょうりゅうすることができることをすぐに発見はっけんした[12]こうさん発見はっけんからまれた重要じゅうよう発明はつめいの1つには、硝酸しょうさん塩酸えんさんの1:3の比率ひりつ混合こんごうぶつであり、きむ溶解ようかいできる王水おうすいがある。王水おうすいにせゲーベル英語えいごばんによる De inventione veritatis (『真実しんじつ発見はっけんについて』、1300ねんごろ以降いこう)で最初さいしょ記載きさいされた。ここでは、王水おうすい塩化えんかアンモニウムを硝酸しょうさん添加てんかして調製ちょうせいされた[13]。しかしながら、塩酸えんさん自体じたい生産せいさん (つまり、すでに硝酸しょうさん混合こんごうされているのではなく、分離ぶんりされた物質ぶっしつとして) は、そのすう世紀せいきではじめて開発かいはつされることとなる、より効率こうりつてき冷却れいきゃく装置そうち使用しよう依存いぞんした[14]。したがって、塩酸えんさん製造せいぞうほうは16世紀せいき後半こうはんになってはじめて登場とうじょうし、もっとふるいものはジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ (1535–1615) ちょMagia Naturalis英語えいごばん (『自然しぜん魔法まほう』) や、アンドレアス・リバヴィウス (1550–1616ごろ)、ジャン・ベガン (1550–1620)、オズワルド・クロル英語えいごばん (1563–1609ごろ) のようなほかどう時期じき化学かがくしゃ著作ちょさくられるものである[15]塩酸えんさんなどのこうさん知識ちしきは、ダニエル・セナート英語えいごばん (1572–1637) やロバート・ボイル (1627–1691) のような17世紀せいき化学かがくしゃにとって非常ひじょう重要じゅうようなものであった[16]

ヨハン・ルドルフ・グラウバー方法ほうほうしたがって岩塩がんえんから製造せいぞうされたため、塩酸えんさん歴史れきしてきにヨーロッパの錬金術れんきんじゅつによってspirits of salt (しおせい) または acidum salis (salt acid、しおさん) とばれていた。とく言語げんごでは、ドイツ: Salzsäureオランダ: Zoutzuurスウェーデン: Saltsyraスペイン: Salfumánトルコ: Tuz Ruhuポーランド: kwas solnyハンガリー: sósavそしてチェコ: kyselina solnáのようにこれらに由来ゆらいする名称めいしょう使用しようつづけられている。英語えいごでは、ガスじょうのHClはmarine acid airばれていた。muriatic acidという名称めいしょうおな由来ゆらいであり (muriatic塩水えんすいまたはしお関係かんけいする意味いみするため、muriate塩化えんか水素すいそ意味いみする)、この名称めいしょういまでも使用しようされることがある[2][17]英語えいごにおける現在げんざい一般いっぱんてき名称めいしょうであるhydrochloric acid相当そうとうするかたりは、1814ねんフランス化学かがくしゃジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックによってつくられた[18]

産業さんぎょう発展はってん

編集へんしゅう

ヨーロッパの産業さんぎょう革命かくめいあいだに、塩基えんきせい物質ぶっしつ需要じゅよう増加ぞうかした。イスーダン (フランス) のニコラ・ルブランによって開発かいはつされたあたらしい工業こうぎょうてき生産せいさんほうにより、炭酸たんさんナトリウム (ソーダはい) の安価あんか大量たいりょう生産せいさん可能かのうになった。このルブランほうでは、硫酸りゅうさん石灰石せっかいせき石炭せきたん使用しようして塩化えんかナトリウム炭酸たんさんナトリウム変換へんかんし、副産物ふくさんぶつとして塩化えんか水素すいそ放出ほうしゅつされる。英国えいこく1863ねんのアルカリほう英語えいごばんおよびくにでの同様どうよう法律ほうりつ制定せいていされるまで、余分よぶんなHClはしばしば大気たいきちゅう放出ほうしゅつされていた。初期しょき例外れいがいとしてはボニントン化学かがく工場こうじょう英語えいごばんがあり、1830ねんにHClがしゅうされはじめ、塩化えんかアンモンせき (塩化えんかアンモニウム) の製造せいぞう使用しようされていた[19]法案ほうあん成立せいりつ炭酸たんさんナトリウムの生産せいさんしゃはいガスを水中すいちゅう吸収きゅうしゅうする義務ぎむしょうじたため、工業こうぎょう規模きぼ塩酸えんさん生産せいさんされることとなった[20][21]

20世紀せいきには、ルブランほう塩酸えんさん副産物ふくさんぶつのないソルベイほう効果こうかてきえられていった。塩酸えんさんはすでにおおくの用途ようと重要じゅうよう化学かがく物質ぶっしつとして完全かんぜん定着ていちゃくしていたため、商業しょうぎょうてき関心かんしんにより製造せいぞう方法ほうほう開始かいしされ、その一部いちぶ現在げんざいでも使用しようされている。2000ねん以降いこう塩酸えんさんおも工業こうぎょうよう有機ゆうき化合かごうぶつ生産せいさん副産物ふくさんぶつとして生成せいせいされる塩化えんか水素すいそ吸収きゅうしゅうすることによってつくられている[20][21][8]

構造こうぞう反応はんのう

編集へんしゅう

塩酸えんさんヒドロニウム塩化えんかぶつイオンしおである。 そのイオンはイオン実際じっさいにはみず分子ぶんし結合けつごうしていることがよくあるもののH3O+ Cl-かれる[22]塩酸えんさんあかがい分光ぶんこうほうラマン分光ぶんこうほうXせん、および中性子ちゅうせいし回折かいせつわせた研究けんきゅうにより、これらの溶液ようえきちゅうのH+(aq)主要しゅよう形態けいたいはH5O2+であり、いくつかの方法ほうほうで、塩化えんかぶつイオンとともに隣接りんせつする水分すいぶん水素すいそ結合けつごうしていることがあきらかになった[23]。(この問題もんだいについてのよりふか議論ぎろんについてはヒドロニウム参照さんしょうすること)

強酸きょうさんなので、塩化えんか水素すいそKa (さん解離かいり定数ていすう) はおおきい。理論りろんてき推定すいていでは、塩化えんか水素すいそのpKaは-5.9であることが示唆しさされている[5]。ただし、塩化えんか水素すいそガスと塩酸えんさん区別くべつすることが重要じゅうようである。水平すいへい効果こうかにより、こう濃度のうど挙動きょどう理想りそうから逸脱いつだつする場合ばあいのぞいて、塩酸えんさん (HCl水溶液すいようえき) は、水中すいちゅう利用りよう可能かのう最強さいきょうのプロトン供与きょうよたいであるアクアプロトン (一般いっぱんヒドロニウムイオンとしてられる) とおなじくらい酸性さんせいつよい。NaClなどの塩化えんかぶつしおをHCl水溶液すいようえき添加てんかしてもpHへの影響えいきょうはわずかであり、Cl-非常ひじょうよわ共役きょうやく塩基えんきであること、HClが完全かんぜん解離かいりしていることがしめされる。 HClの希薄きはく溶液ようえきは、みずしたH+とCl-への完全かんぜん解離かいり想定そうていして予測よそくされたpHにちかとなっている[24]

物理ぶつりてき性質せいしつ

編集へんしゅう
質量しつりょうぶんりつ 濃度のうど 密度みつど モル濃度のうど pH ねばたび 熱容量ねつようりょう 蒸気じょうきあつ 沸点ふってん 融点ゆうてん
kg HCl/kg  kg HCl/m3 ボーメ kg/L mol/L mPa·s kJ/(kg·K) kPa °C °C
10% 104.80 6.6 1.048 2.87 −0.5 1.16 3.47 1.95 103 −18
20% 219.60 13 1.098 6.02 −0.8 1.37 2.99 1.40 108 −59
30% 344.70 19 1.149 9.45 −1.0 1.70 2.60 2.13 90 −52
32% 370.88 20 1.159 10.17 −1.0 1.80 2.55 3.73 84 −43
34% 397.46 21 1.169 10.90 −1.0 1.90 2.50 7.24 71 −36
36% 424.44 22 1.179 11.81 −1.1 1.99 2.46 14.5 61 −30
38% 451.82 23 1.189 12.39 −1.1 2.10 2.43 28.3 48 −26
上記じょうきひょう基準きじゅん温度おんど圧力あつりょくは、20 °Cおよび1気圧きあつ(101.325 kPa)である。蒸気じょうきあつ国際こくさい臨界りんかいひょうから取得しゅとくされ、溶液ようえきぜん蒸気じょうきあつ参照さんしょうしている。
 
水中すいちゅうのHCl濃度のうどによる融解ゆうかい温度おんど変化へんか[25][26]

沸点ふってん融点ゆうてん密度みつど水素すいそイオン指数しすう (pH) などの塩酸えんさん物理ぶつりてき特性とくせいは、水溶液すいようえきちゅうのHClの濃度のうどまたはモル濃度のうど依存いぞんしている。それらは、0% HClにちか非常ひじょうてい濃度のうどから40% HClをえる発煙はつえん塩酸えんさんまでの範囲はんい定義ていぎされている[27][28][29]

HClとH2Oの2成分せいぶん混合こんごうぶつとしての塩酸えんさんは、HClの濃度のうどが20.2%のときに108.6 °C (227 °F)で一定いっていになる沸騰ふっとうきょうにえ混合こんごうぶつである。[H3O]Cl (68% HCl)、[H5O2]Cl (51% HCl)、[H7O3]Cl (41% HCl)、[H3O]Cl·5H2O (25% HCl)、そしてこおり (0% HCl)の結晶けっしょうかたちあいだには、塩酸えんさんの4つの一定いってい結晶けっしょうきょうあきらてんがある。こおりと[H7O3]Cl結晶けっしょうあいだには、24.8%のじゅん安定あんていきょうあきらてんもある[29]。これらはすべてヒドロニウムしおである。

製造せいぞう

編集へんしゅう

塩酸えんさん産業さんぎょうてきには塩化えんか水素すいそみず溶解ようかいさせることで調製ちょうせいされることがおおい。塩化えんか水素すいそはさまざまな方法ほうほう生成せいせいされることがあるため、塩酸えんさん前駆ぜんくたいはいくつか存在そんざいする。 塩酸えんさんだい規模きぼ生産せいさんは、ほとんどの場合ばあい水酸化物すいさんかぶつ水素すいそ塩素えんそ生産せいさんするクロルアルカリプロセスなどの工業こうぎょう規模きぼほか化学かがく物質ぶっしつ生産せいさん統合とうごうされている。このとき発生はっせいする水素すいそ塩素えんそ利用りようしてHClを生成せいせいすることができる[27][28]

産業さんぎょう市場いちば

編集へんしゅう

塩酸えんさんは、最大さいだい38% HCl (濃縮のうしゅくグレード) 溶液ようえきとして生産せいさんされる。化学かがくてきには40%をわずかにえるこう濃度のうどにすることは可能かのうだが、蒸発じょうはつりつ非常ひじょうたかいため、保管ほかんあつかいには、加圧かあつ冷却れいきゃくなどの特別とくべつ予防よぼう措置そち必要ひつようである。したがって、大量たいりょう生産せいさんのための工業こうぎょうグレードは30%から35%であり、輸送ゆそう効率こうりつ蒸発じょうはつによる製品せいひん損失そんしつのバランスがれるように最適さいてきされている。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、20%から32%の溶液ようえき塩酸えんさんとして販売はんばいされている。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく家庭かていよう溶液ようえきおもにクリーニングは、通常つうじょう10%から12%のものを使用しようするので、使用しようまえ希釈きしゃくすることがつよ推奨すいしょうされている。塩酸えんさん家庭かていよう洗浄せんじょうようSpirits of Saltとして販売はんばいされている英国えいこくでは、効力こうりょく米国べいこく工業こうぎょうようグレードとおなじである[20]イタリアなどくにでは、家庭かていようまたは工業こうぎょうよう洗浄せんじょうよう塩酸えんさんAcido Muriaticoとして販売はんばいされており、その濃度のうどは5%から32%の範囲はんいである。

世界中せかいじゅう主要しゅよう生産せいさんしゃには、HClガス換算かんさん年間ねんかん200まんメートルトン(2 Mt/とし)生産せいさんしているダウ・ケミカルがあり、また、ジョージアガルフコーポレーション英語えいごばんとうソーアクゾノーベル、およびテセンドロ英語えいごばんがそれぞれ0.5〜1.5 Mt/とし生産せいさんしている。比較ひかくすると、HClとしてあらわされる世界せかいそう生産せいさんりょうは、20 Mt/とし推定すいていされ、その内訳うちわけは、直接ちょくせつ合成ごうせいから3 Mt/としのこりは有機ゆうき合成ごうせいおよび同様どうよう合成ごうせいからの生成せいせいぶつである[20]。なお、2016年度ねんど日本にっぽん国内こくない生産せいさんりょう合成ごうせい696,835 t, ふくせい929,311 t、消費しょうひりょうは533,600 tである[30]

塩酸えんさんは、金属きんぞく精製せいせいなどおおくの工業こうぎょうプロセスで使用しようされるつよ無機むきさんである。おおくの場合ばあい利用りよう方法ほうほうによってもとめられる製品せいひん品質ひんしつ決定けっていされる[20]塩酸えんさんではなく塩化えんか水素すいそは、たとえばクロロエチレンおよびジクロロエタンよう有機ゆうき化学かがく工業こうぎょうでよりひろ使用しようされている[9]

はがねさん洗浄せんじょう

編集へんしゅう

塩酸えんさんもっと重要じゅうよう用途ようとの1つとして、はがねさん洗浄せんじょう英語えいごばんで、押出おしだし成形せいけい圧延あつえん亜鉛あえんめっき、およびその技術ぎじゅつなどの後続こうぞく処理しょりまえに、てつまたははがねからさびまたは酸化さんかてつ被膜ひまく除去じょきょするということがげられる[20][8]通常つうじょう18%の濃度のうど技術ぎじゅつ品質ひんしつのHClは、炭素たんそこう等級とうきゅうさん洗浄せんじょうもっと一般いっぱんてき使用しようされるさん洗浄せんじょうざいである。

 

使用しようみのさん英語えいごばんは、塩化えんかてつ(II) (塩化えんかだいいちてつとしてもられている) 溶液ようえきとしてながあいださい利用りようされてきたが、さん洗浄液せんじょうえきちゅう重金属じゅうきんぞく水準すいじゅんたかいため、あまりおこなわれなくなってきている。鉄鋼てっこうさんあら業界ぎょうかいは、スプレーロースターや流動りゅうどうゆか塩化えんか水素すいそ再生さいせいプロセス英語えいごばんなどの塩酸えんさん再生さいせいプロセスを開発かいはつした。これにより、使用しようさん洗浄液せんじょうえきからHClを回収かいしゅうできる。 もっと一般いっぱんてき再生さいせいプロセスは、つぎ反応はんのうしきによるねつ加水かすい分解ぶんかいプロセスである[20]

 

使用しようみのさん回収かいしゅうすることにより、じたさんループが確立かくりつされる[8]再生さいせいプロセスでしょうじる酸化さんかてつ(III)副産物ふくさんぶつ貴重きちょうであり、さまざまなだい産業さんぎょう使用しようされている[20]

無機むき化合かごうぶつ生産せいさん

編集へんしゅう

さん洗浄せんじょう使用しようされるのと同様どうように、塩酸えんさんおおくの金属きんぞく金属きんぞく酸化さんかぶつ金属きんぞく炭酸たんさんしお溶解ようかいするために使用しようされる。 変換へんかんは、おおくの場合ばあい以下いかのような簡略かんりゃくされた方程式ほうていしきあらわされる。

 
 
 

これらの過程かていは、分析ぶんせきまたはさらなる生産せいさんのための金属きんぞく塩化えんかぶつ生産せいさん使用しようされる[27][28][8]

pH制御せいぎょ中和ちゅうわ

編集へんしゅう

塩酸えんさんは、溶液ようえき酸度さんど (pH) を調整ちょうせいするために使用しようできる。

 

純度じゅんど要求ようきゅうされる業界ぎょうかい (食品しょくひん医薬品いやくひん飲料いんりょうすい) では、こう品質ひんしつ塩酸えんさん使用しようして経路けいろ水流すいりゅうのpHを制御せいぎょしている。純度じゅんど要求ようきゅうすくない業界ぎょうかい廃水はいすいりゅう中和ちゅうわやプールのpHの制御せいぎょなどには、技術ぎじゅつてき品質ひんしつ塩酸えんさん十分じゅうぶんである[8]

イオン交換こうかんたい再生さいせい

編集へんしゅう

イオン交換こうかん樹脂じゅし再生さいせいにはこう品質ひんしつ塩酸えんさん使用しようされる。イオン交換こうかんは、水溶液すいようえきからNa+やCa2+などのイオン除去じょきょし、だつ塩水えんすい生成せいせいするためにひろ使用しようされている。さんは、樹脂じゅしからイオンあらながすために使用しようされる[20]。Na+はH+に、Ca2+は2 H+わる。

イオン交換こうかんたいじゅんすいは、すべての化学かがく産業さんぎょう飲料いんりょうすい生産せいさん、およびおおくの食品しょくひん産業さんぎょう使用しようされている[20]

実験じっけんしつでの利用りよう

編集へんしゅう

化学かがくにおける6つの一般いっぱんてきつよ無機むきさんのうち、塩酸えんさんは、酸化さんか還元かんげん反応はんのう干渉かんしょうける可能かのうせいもっとひく一価いっかさんである。また、あつかうのにもっと危険きけんせいひく強酸きょうさんの1つである。 酸度さんどたかいにもかかわらず、反応はんのうせいがなく、毒性どくせいのない塩化えんかぶつイオンで構成こうせいされている。ちゅう程度ていど濃度のうど塩酸えんさん溶液ようえきは、保管ほかん非常ひじょう安定あんていしており、長期間ちょうきかんにわたってその濃度のうどたもたれる。これらの特性とくせいくわえて、純粋じゅんすい試薬しやくとして利用りようできるため、塩酸えんさんすぐれた酸性さんせい試薬しやくになる。それにくわえて費用ひようがあまりかからない。

塩酸えんさんは、塩基えんきりょう決定けっていするためのしずくじょうをするときによく選択せんたくされるさんである。より明確めいかくしずくじょう終点しゅうてんしょうじる強酸きょうさんしずくじょうざいもちいることによって、より正確せいかく結果けっかられる。きょうにえ、またはてい沸点ふってん塩酸えんさん (やく20.2%) は、定量ていりょう分析ぶんせき主要しゅよう標準ひょうじゅん物質ぶっしつ英語えいごばんとして使用しようできるが、正確せいかく濃度のうどは、調製ちょうせい気圧きあつによってことなる[31]

塩酸えんさんは、皮革ひかく加工かこう家庭かていよう掃除そうじ[32]、ビル建設けんせつ[8]など、小規模しょうきぼ用途ようとおお使用しようされている。油井ゆせい岩石がんせきそう塩酸えんさん注入ちゅうにゅうし、岩石がんせき一部いちぶ溶解ようかいし、だいあなみち構造こうぞう作成さくせいすることにより、石油せきゆ生産せいさん促進そくしんすることができる。油井ゆせい酸性さんせいは、北海ほっかい石油せきゆ生産せいさん業界ぎょうかいでは一般いっぱんてきなプロセスである[20]

塩酸えんさんは、炭酸たんさんカルシウム溶解ようかいするために使用しようされてきた。れいとしては、やかん被膜ひまく除去じょきょ煉瓦れんがモルタル洗浄せんじょうなどがある。煉瓦れんがつくりのかべ使用しようする場合ばあいモルタルとの反応はんのうは、以下いかしきのようにさんがすべて変換へんかんされて塩化えんかカルシウム二酸化炭素にさんかたんそ、およびみず生成せいせいされるまでつづく。

 

塩酸えんさんふくおおくの化学かがく反応はんのうは、食品しょくひん食品しょくひん成分せいぶん、および食品しょくひん添加てんかぶつ製造せいぞう関与かんよしている。典型てんけいてき製品せいひんには、アスパルテームフルクトースクエン酸くえんさんリシン食品しょくひん増強ぞうきょうざいとしての加水かすい分解ぶんかい植物しょくぶつせいタンパク質たんぱくしつ英語えいごばん、およびゼラチン製造せいぞうふくまれている。食品しょくひん等級とうきゅうの (ちょうこう純度じゅんど) 塩酸えんさんは、最終さいしゅう製品せいひん必要ひつようなときに使用しようされる[20][8]

生物せいぶつにおける存在そんざい

編集へんしゅう
 
粘膜ねんまく防御ぼうぎょ機構きこうそなえた塩基えんきせい粘膜ねんまく

胃酸いさん主要しゅよう分泌ぶんぴつぶつの1つである。その主成分しゅせいぶん塩酸えんさんで、それによって内容ないようぶつはpH1から2に酸性さんせいされている[33][34]塩化えんかぶつイオン (Cl) と水素すいそイオン (H+) は、粘膜ねんまくかべ細胞さいぼうによってそこそこ領域りょういき別々べつべつ分泌ぶんぴつされ、かん腔にはいまえ小管こすがばれる分泌ぶんぴつネットワークに分泌ぶんぴつされる[35]

胃酸いさん微生物びせいぶつたいする防壁ぼうへきとしてはたらくことで感染かんせんふせいだり、食物しょくもつ消化しょうかしたりするのに重要じゅうようである。そのひくpHによってタンパク質たんぱくしつ変性へんせいされ、それによってペプシンなどの消化しょうか酵素こうそによる分解ぶんかいけやすくなっている。 ていpH環境かんきょうではまた、酵素こうそ前駆ぜんくたいであるペプシノーゲンが自己じこ切断せつだんによって活性かっせい酵素こうそであるペプシン活性かっせいされる。かゆじょうえき塩酸えんさんしおのち十二指腸じゅうにしちょう炭酸たんさん水素すいそしおによって中和ちゅうわされる[33]

自体じたいは、あつ粘液ねんえきそう分泌ぶんぴつと、セクレチンによって誘発ゆうはつされる炭酸たんさん水素すいそナトリウムによる緩衝かんしょう作用さようによって、強酸きょうさんから保護ほごされている。これらのメカニズムの欠陥けっかんによって、むねやけまたは消化しょうかせい潰瘍かいよう発症はっしょうする可能かのうせいがある。こうヒスタミンやくプロトンポンプ阻害そがいやくなどの医薬品いやくひんでのさん生成せいせい阻害そがいする可能かのうせいがあり、またせいさんやく過剰かじょう存在そんざいするさん中和ちゅうわするために使用しようされる[33][36]

安全あんぜんせい

編集へんしゅう

塩酸えんさん強酸きょうさんであるため、生体せいたい組織そしきおおくの物質ぶっしつたいして腐食ふしょくせいがあるが、ゴムたいしては腐食ふしょくせいがない。 通常つうじょう濃縮のうしゅく溶液ようえきあつか場合ばあいは、ゴムせい保護ほご手袋てぶくろ関連かんれんする保護ほご使用しようされる[9]

質量しつりょうぶんりつ 分類ぶんるい[37] Hフレーズの一覧いちらん
10% ≤ C < 25% 皮膚ひふ刺激しげきこし、深刻しんこく刺激しげきこす H315, H319
C ≥ 10% 呼吸こきゅうへの刺激しげきこす可能かのうせいがある H335
C ≥ 25% 重度じゅうど皮膚ひふのやけどや損傷そんしょうこす H314

塩酸えんさんは、ヘロインコカイン、およびメタンフェタミン生産せいさん使用しようされているため、1988ねん麻薬まやくおよびこう精神せいしんやく違法いほう取引とりひきたいする国連こくれん条約じょうやく英語えいごばんしたおもてIIの前駆ぜんくたいとして表記ひょうきされている[38]

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう
  1. ^ Nomenclature of Organic Chemistry: IUPAC Recommendations and Preferred Names 2013. Cambridge: The 王立おうりつ学会がっかい. (2014). p. 131 
  2. ^ a b Hydrochloric Acid”. 15 October 2010てんオリジナルよりアーカイブ。16 September 2010閲覧えつらん
  3. ^ spirits of salt”. 29 May 2012閲覧えつらん
  4. ^ Hydrochloric acid”. www.chemsrc.com. 2021ねん9がつ24にち閲覧えつらん
  5. ^ a b Trummal A, Lipping L, Kaljurand I, Koppel IA, Leito I (May 2016). “Acidity of Strong Acids in Water and Dimethyl Sulfoxide” (英語えいご). The Journal of Physical Chemistry A 120 (20): 3663–9. Bibcode2016JPCA..120.3663T. doi:10.1021/acs.jpca.6b02253. PMID 27115918. 
  6. ^ a b c Sigma-Aldrich Co., Hydrochloric acid.
  7. ^ Matsukawa, T. (2004ねん12月26にち). “塩酸えんさん名称めいしょうについての疑問ぎもん”. 2011ねん10がつ7にち閲覧えつらん
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