きむつよしきね

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鈷杵から転送てんそう
きむつよしきね(ネパール)

きむつよしきね(こんごうしょ、サンスクリット: वज्र vajra ヴァジュラチベットརྡོ་རྗེワイリー方式ほうしきrdo rje ドルジェ)は、日本にっぽん仏教ぶっきょう一部いちぶ宗派しゅうは天台宗てんだいしゅう真言宗しんごんしゅう禅宗ぜんしゅう[1]チベット仏教ぶっきょうぜん宗派しゅうはもちいられるほう

ふつおしえが煩悩ぼんのうほろぼして菩提心ぼだいしんさともとめるしん)をあらわようを、インド神話しんわうえ武器ぶきたとえてほうとしたものである。

語源ごげん[編集へんしゅう]

ぞうアイラーヴァタり、ヴァジュラとけんつインドラ

そもそもヴァジュラとはインド神話しんわインドラくだ雷電らいでんのことをしていた[2]。それが一般いっぱんして〈堅固けんごなもの、力強ちからづよいもの〉をあらわすようになったが、インドラ(帝釈天たいしゃくてん)のもちいる武器ぶきのこともこのかたりあらわせる[2]。「きむつよしきね」のかんめいどおり、きむつよし非常ひじょうかた金属きんぞく、もしくはダイヤモンド)でできており、かみなりあやつる。

神話しんわ金剛こんごうきね(ヴァジュラ)の由来ゆらいつぎのようにく:

インドラ(帝釈天たいしゃくてん)は、ヴリトラへびかたちをした悪魔あくま首領しゅりょう)をたおすため、ブラフマー梵天ぼんてん)に相談そうだんした。ブラフマー(梵天ぼんてん)は、「ダディーチャという偉大いだいひじりせんほねくださいとたのめば、かれ(ダディーチャ)はてて、自分じぶんほねをくれるから、そのほねでヴァジュラ(きむつよしきね)をつくれ。すみやかに実行じっこうせよ。」とべた。インドラは、ダディーチャの隠棲いんせいしょでそのようにたのんだところ、太陽たいようのごとくかがやくダディーチャは、「かりました。おやくちましょう。てます。」とべていきをひきとった。インドラたちしん々はダディーチャのほねし、トヴァシュトリこうたくみかみ)をんで目的もくてきげた。トゥヴァシュトリ(こうたくみかみ)は一心不乱いっしんふらん仕事しごとはげみヴァジュラ(きむつよしきね)をつくげた。インドラはそのヴァジュラ(きむつよしきね)をつかんでヴリトラ(へびかたちをした悪魔あくま首領しゅりょう)を粉砕ふんさいした。

— 『マハーバーラタ[3]

インド文化ぶんかけん言語げんごにはサンスクリットのヴァジュラもしくはそれに由来ゆらいするかたりれた事例じれい散見さんけんされる。カンナダವಜ್ರ vajraタミルவைரம் vairam IPA: [ʋaɪɾam]テルグవజ్రం vajramトゥルವಜ್ರ vajraマラヤーラムവജ്രം vajram はいずれも〈ダイヤモンド〉の意味いみつ。日本語にほんごではヴァジュラのおとうつしは「ばさら」(あるいは「ばざら」)となった[4]。またこれらとはべつ仏教ぶっきょうつたわった地域ちいきにおいて、直接ちょくせつおとうつしとはみとめられないものの〈かた鉱物こうぶつあるいは金属きんぞく〉と〈雷電らいでん〉の2つの意味いみかたりられる場合ばあいもある(れい: タミル: குலிசம் kulicam IPA: [kulisam]〈インドラの雷電らいでん〉、〈ダイヤモンド〉; ビルマ: မိုးကြိုး ALA-LCこぼしほう: mui"krui" /mód͡ʑó/かみなり〉、〈どうかね合金ごうきん〉)。

日本にっぽん[編集へんしゅう]

概要がいよう[編集へんしゅう]

日本にっぽんには奈良なら時代じだいから平安へいあん時代じだいにかけて中国ちゅうごくからつたわったとかんがえられる。真言宗しんごんしゅう天台宗てんだいしゅうなどにおける密教みっきょう儀式ぎしきや、真言宗しんごんしゅう天台宗てんだいしゅう禅宗ぜんしゅう(曹洞宗そうとうしゅう黄檗宗おうばくしゅう)における施餓鬼せがきかいなどでもちいられる[5]。また、天台宗てんだいしゅうでは仏堂ぶつどう建立こんりゅうするさい本尊ほんぞん安置あんちする須弥壇しゅみだんしたやす鎮の結界けっかいやす鎮家国法こくほう)をつくるが、独鈷とっこきねやす鎮のれいとしてもちいた出土しゅつどれいがある[6][7]

ふるくは輸入ゆにゅうしてもちいられていたが、平安へいあん時代じだい以降いこう国産こくさんされ、今日きょう日本にっぽん寺院じいんにおいて輸入ゆにゅうひんもちいられることはほとんどない。

形状けいじょう[編集へんしゅう]

基本きほんてきかたち棒状ぼうじょうで、中央ちゅうおうおに)がある。おに大日如来だいにちにょらい観想かんそうされ、行者ぎょうじゃ大日如来だいにちにょらい一体化いったいかする行法ぎょうほうとしてそのふくらみをにぎった[6]。その上下じょうげやりじょういている。かずかたちによっていくつかのバリエーションがあり、それぞれ固有こゆう名称めいしょうをもつ。

きむつよしきね種類しゅるい[編集へんしゅう]

独鈷とっこきね(とっこしょ、どっこしょ)
やりじょう上下じょうげひとつずついたもの。
さん鈷杵(さんこしょ)
がフォークのようにさんほんかれたもの。
鈷杵(レプリカ)
さん鈷剣(さんこけん)
中央ちゅうおうだけがの2ほんくらべて一際ひときわながい。
鈷杵(ごこしょ)
中央ちゅうおう周囲しゅういよんほんけたもの。
なな鈷杵(ななこしょ)
中央ちゅうおう周囲しゅういろくほんけたもの。
きゅう鈷杵(きゅうこしょ、くこしょ)
中央ちゅうおう周囲しゅういはちほんけたもの。
宝珠ほうしゅきね(ほうじゅしょ)
上下じょうげではなく如意宝珠にょいほうじゅけたもの。
宝塔ほうとうきね(ほうとうしょ)
上下じょうげではなく宝塔ほうとうけたもの。
鬼面きめん金剛こんごうきね
おにかおかざりがついたもの。
きむ錍(こんべい)
独鈷とっこきねりょうはし宝珠ほうしゅいたもの。
羯磨(かつま)
ふたつの金剛こんごうきね十字じゅうじわせたかたちのもの。類似るいじしたもの車輪しゃりんようにスポークのよういた「鈷杵(りんこしょ)」も存在そんざいし、これもスポークがたかず種類しゅるいがある。
金剛こんごうりん(こんごうれい)
片側かたがわのかわりにすずいたもの。修法しゅほうとき神仏しんぶつ一体化いったいかするためにらす。先端せんたんかたちによって、鈷鈴・さん鈷鈴・独鈷とっこすず宝珠ほうしゅすずとうすずけられる[8]
わり鈷杵(わりごこしょ)
たて分割ぶんかつできる鈷杵で、その中心ちゅうしん仏舎利ぶっしゃりれることを目的もくてきとするもの。また、分割ぶんかつしたさいにそれぞれが人形にんぎょう(ひとがた)にもえることから、真言しんごん立川たちかわりゅうにおいては「人形にんぎょうきね」(にんぎょうしょ)ともばれた。現在げんざいは、一般いっぱん使用しようすることはない。

きむつよしきねおもしょてん[編集へんしゅう]

ギャラリー[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 施餓鬼せがき」, pp,827-828。
  2. ^ a b 中村なかむらら (1989:288).
  3. ^ インド神話しんわ:マハーバーラタのかみ』, p. 95.
  4. ^ 中村なかむらら (1989:657).
  5. ^ 施餓鬼せがき」, pp.825-826。
  6. ^ a b 金属きんぞく中世ちゅうせい資源しげん流通りゅうつう』, pp.158-162.
  7. ^ 石清水八幡宮いわしみずはちまんぐうどう製法せいほう出土しゅつど 京都きょうと”. 日本経済新聞にほんけいざいしんぶん 電子でんしばん (2010ねん12月1にち). 2015ねん10がつ16にち閲覧えつらん
  8. ^ 小峰こみね彌彦やひこ図解ずかい はやわかり! 空海くうかい真言宗しんごんしゅう』(三笠みかさ書房しょぼう、2013ねん

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 小野おの, 正敏まさとし五味ごみ, 文彦ふみひこ萩原はぎはら, 三雄みつお へん金属きんぞく中世ちゅうせい資源しげん流通りゅうつう高志こうし書院しょいん考古学こうこがく中世ちゅうせい研究けんきゅう 11〉、2014ねん7がつISBN 978-4-86215-137-7 
  • 上村うえむら勝彦かつひこ『インド神話しんわ:マハーバーラタのかみ々』筑摩書房ちくましょぼうちくま学芸がくげい文庫ぶんこ〉、2003ねん1がつISBN 978-4-480-08730-0