円仁えんにん

円仁えんにん
延のべ暦れき13年ねん - 貞さだ観かん6年ねん1月がつ14日にち （794年ねん - 864年ねん2月がつ24日にち）
号ごう	（金きむ剛つよし名号みょうごう）大勇たいゆう金剛こんごう
諡号しごう	慈覚大師だいし
生地きじ	下野げや国こく安蘇あそ郡ぐん、都賀つが郡ぐん
宗派しゅうは	天台宗てんだいしゅう山門さんもん派は
寺院じいん	立石寺りっしゃくじ、毛越寺もうつじ、中尊寺ちゅうそんじ、大慈寺だいじじ、延暦寺えんりゃくじその他た全国ぜんこくに凡およそ700箇寺といわれる。
師し	広こう智さとし、最澄さいちょう、元もと政せい、義よし真しん
弟子でし	惟おもんみ暁あかつき
著作ちょさく	『入唐にっとう求法ぐほう巡礼じゅんれい行ぎょう記き』

円仁えんにん（えんにん、旧きゅう字体じたい：圓仁えんにん）は、第だい3代だい天台座主てんだいざしゅ。慈覚大師だいし（じかくだいし）ともいう。入唐にっとう八はち家いえ（最澄さいちょう・空海くうかい・常つね暁あかつき・円行えんぎょう・円仁えんにん・恵めぐみ運うん・円珍えんちん・宗そう叡あきら）の一人ひとり。下野げや国こくの生うまれで出自しゅつじは壬生みぶ氏し。

留学りゅうがくまで

出生しゅっしょう

詳細しょうさいは「円仁えんにん誕生たんじょうの地ち」を参照さんしょう

誕生たんじょうの地ち（栃木とちぎ市し岩舟いわふね町まち下津原しもつはら）

延のべ暦れき13年ねん（794年ねん）、下野げや国こく都賀つが郡ぐんまたは安蘇あそ郡ぐんに豪族ごうぞく壬生みぶ氏しの子ことして生うまれる。

出生しゅっしょう地ちについては諸説しょせつあり、

• 壬生寺みぶでら（現げん・下都賀しもつが郡ぐん壬生みぶ町まち大師だいし町まち）

• 美加みか保ほノ関せき（栃木とちぎ市し藤岡ふじおか町まち三さん鴨かもの都賀つが字じ館かん・佐野さの市し越名こえな）

• 三さん毳むくげ山やま東麓ひがしふもと手洗てあらい窪くぼ（安蘇あそ郡ぐん下津原しもつはら、現げん・栃木とちぎ市し岩舟いわふね町まち下津原しもつはら）

などの説せつがある。

入門にゅうもんと出家しゅっけ

兄あにの秋あき主ぬしからは儒学じゅがくを勧すすめられるが早はやくから仏教ぶっきょうに心しんを寄よせ、9歳さいで大慈寺だいじじに入はいって修行しゅぎょうを始はじめる。大慈寺だいじじの師し・広こう智さとしは鑑真がんじんの直弟じきてい子道しどう忠ただしの弟子でしであるが、道みち忠ちゅうは早はやくから最澄さいちょうの理解りかい者しゃであって、多おおくの弟子でしを最澄さいちょうに師事しじさせている。

大同だいどう3年ねん（808年ねん）、15歳さいのとき、広こう智さとしに連つれられ比叡山ひえいざん延暦寺えんりゃくじに上のぼり、最澄さいちょうに師事しじする。奈良なら仏教ぶっきょうの反撃はんげきと真言しんごん密教みっきょうの興隆こうりゅうという二に重じゅうの障壁しょうへきの中なかで天台宗てんだいしゅうの確立かくりつに立たち向むかう師し最澄さいちょうに忠実ちゅうじつに仕つかえ、学問がくもんと修行しゅぎょうに専念せんねんして師しから深ふかく愛あいされる。最澄さいちょうが止観しかん（法華経ほけきょうの注釈ちゅうしゃく書しょ）を学まなばせた弟子でし10人にんのうち、師しの代講だいこうを任まかせられるようになったのは円仁えんにんひとりであった。

弘ひろし仁ひとし5年ねん（814年ねん）、言げん試ためし（国家こっか試験しけん）に合格ごうかく、翌年よくねん21歳さいで得度とくど（出家しゅっけ）する。弘ひろし仁ひとし7年ねん（816年ねん）、23歳さいで三さん戒壇かいだんの一ひとつ東大寺とうだいじで具足ぐそく戒（小乗しょうじょう250戒）を受うける。この年とし、師し最澄さいちょうの東国とうごく巡遊じゅんゆうに従したがって故郷こきょう下野げやを訪おとずれる。最澄さいちょうのこの旅行りょこうは、新あたらしく立たてた天台宗てんだいしゅうの法華ほっけ一いち乗じょうの教おしえを全国ぜんこくに広ひろめる為ため、全国ぜんこくに6箇所かしょを選えらんでそこに宝塔ほうとうを建たて、一いち千せん部ぶ八はち千せん巻かんの法華経ほけきょうを置おいて地方ちほう教化きょうか・国利こくり安福やすふくの中心ちゅうしん地ちとしようとするものであった。弘ひろし仁ひとし8年ねん（817年ねん）3月がつ6日にち、大乗だいじょう戒を教授きょうじゅ師しとして諸しょ弟子でしに授さづけるとともに自みずからも大乗だいじょう戒を受うける。その灌頂したときの投とう華はな得とく仏ぼとけは金剛こんごう薩埵で「大勇たいゆう金剛こんごう」の密みつ号ごうを与あたえられたと云いわれる。弘ひろ仁じん13年ねん（822年ねん）29歳さいで最澄さいちょうから一心いっしん三さん観かんの妙義みょうぎを授さづけられ、その後ご最澄さいちょうは死去しきょした。

唐とうへの留学りゅうがく

遣唐使けんとうしの渡海とかいの困難こんなん

承うけたまわ和わ3年ねん（836年ねん）、1回かい目めの渡航とこう失敗しっぱい、翌よく承うけたまわ和わ4年ねん（837年ねん）、2回かい目めの渡航とこうを試こころみたが失敗しっぱいした。承うけたまわ和わ5年ねん（838年ねん）6月がつ13日にち、博多はかた津つを出港しゅっこう。『入唐にっとう求法ぐほう巡礼じゅんれい行ぎょう記き』をこの日ひから記しるし始はじめる。志賀島しかのしまから揚あげ州しゅう東ひがし梁りょう豊ゆたか村むらまで8日間にちかんで無事ぶじ渡海とかいする（しかし「四よっつの船ふね」のうち1艘そうは遭難そうなんしている）。円仁えんにんの乗のった船ふねは助たすかったものの、船ふねのコントロールが利きかず渚なぎさに乗のり上あげてしまい、円仁えんにんは潮しおで濡ぬれ、船ふねは全壊ぜんかいするという形かたちでの上陸じょうりくだった（『行くだり記き』開成かいせい3年ねん（838年ねん）7月がつ2日にち条じょう）。

※上陸じょうりく日びである唐とうの開成かいせい3年ねん7月がつ2日にちは日本にっぽんの承うけたまわ和わ5年ねん7月がつ2日にちと日付ひづけが一致いっちしていた。唐とうと日本にっぽんで同おなじ暦れきを使つかっているのだから当然とうぜんではあるが、異国いこくでも日付ひづけが全まったく同おなじであることに改あらためて感動かんどうしている（『行くだり記き』838年ねん（開成かいせい4年ねん）7月がつ2日にち条じょう）。

天台山てんだいざんを目指めざすも規制きせいと実力じつりょく滞在たいざい

最後さいごの遣唐使けんとうしとして唐とうに留学りゅうがくするが、短期間たんきかんの請益僧そう（学業がくぎょうを修おさめた僧そうが、その業ごうを深ふかめ疑問ぎもんを解決かいけつするための短期たんき留学りゅうがく僧そう）であったため目指めざす天台山てんだいざんへは、規制きせいが厳きびしくなり旅行りょこう許可きょかが下おりず、そのまま帰国きこくせねばならない事態じたいに陥おちいった。唐とうへの留とめ住じゅうを唐から皇帝こうていに何なん度ども願ねがい出でるが認みとめられない。そこで円仁えんにんは遣唐使けんとうし一いち行ぎょうと離はなれて、外国がいこく人じん僧そうの滞在たいざいには唐から皇帝こうていの勅許ちょっきょが必要ひつようだったが、危険きけんを冒おかして不法ふほう在ざい唐とうを決意けついする。天台山てんだいざんにいた最澄さいちょうの姿すがたを童子どうじ（子供こども）の時ときに見みていたという若わかい天台てんだい僧そう敬けい文ぶんが、日本にっぽんから高僧こうそうが揚あげ州しゅうに来きているという情報じょうほうを得えて懐なつかしく思おもい、天台山てんだいざんからはるばる円仁えんにんを訪たずねてきた。敬けい文ぶんは唐から滞在たいざい中ちゅうの円仁えんにんの世話せわを何なにかと見みてくれるようになる。海うみ州しゅう東海とうかい県けんで遣や唐から大使たいし一いち行ぎょうから離はなれ一いち夜やを過すごすも、村人むらびとたちに不審ふしんな僧そうだと警戒けいかいされる。中国ちゅうごく語ごが通つうじず、「自分じぶんは新しん羅ら僧そうだ」と主張しゅちょうしているが新しん羅らの言葉ことばでもなく、怪あやしい僧そうだと役所やくしょに突つき出だされ、再ふたたび遣や唐から大使たいし一いち行ぎょうのところに連つれ戻もどされる（『行くだり記き』開成かいせい4年ねん（839年ねん）4月がつ10日とおか条じょう）。

在ざい唐とう新しん羅ら人じん社会しゃかいの助たすけ

当時とうじ、中国ちゅうごくの山東さんとう半島はんとう沿岸えんがん一帯いったいは張ちょう宝たから高だかをはじめとする多おおくの新しん羅ら人海じんかい商しょうが活躍かつやくしていたが、山東さんとう半島はんとうの新しん羅ら人じんの港町みなとちょう・赤山あかやま浦うらの在ざい唐とう新しん羅ら人じん社会しゃかいの助たすけを借かりて唐から残留ざんりゅうに成功せいこう（不法ふほう在留ざいりゅう者しゃでありながら通行つうこう許可きょか証しょうを得える等ひとし）する。遣唐使けんとうし一いち行ぎょうから離はなれ、寄寓きぐうしていた張ちょう宝たから高だか設立せつりつの赤山あかやま法華ほっけ院いんで聖せい林はやしという新しん羅ら僧そうから天台山てんだいざんの代かわりに五台山ごだいさんを紹介しょうかいされ、天台山てんだいざんはあきらめたが五台山ごだいさんという新あらたな目標もくひょうを見出みいだす。春はるを待まって五台山ごだいさんまでの約やく1270キロメートルを歩あるく。唐とう内ないでは多おおくは一いち日にち約やく40kmを徒歩とほで移動いどうしていた（『行くだり記き』開成かいせい5年ねん（840年ねん）2月がつ19日にち～4月がつ28日にちの58日間にちかん）。

五台山ごだいさん巡礼じゅんれい

承うけたまわ和わ7年ねん（840年ねん）、五台山ごだいさんを巡礼じゅんれいする。標高ひょうこう3000mを超こす最高峰さいこうほうの北きた台だい叶かのう斗と峰ほうにも登山とざんする（47歳さい）。五台山ごだいさんでは、長老ちょうろうの志こころざし遠とおから「遠とおい国くにからよく来きてくれた」と温あたたかく迎むかえられる（『行くだり記き』開成かいせい5年ねん（840年ねん）4月がつ28日にち条じょう）。五台山ごだいさんを訪おとずれた2人ふたり目めの日本人にっぽんじんだという（1人ひとり目めは、最澄さいちょうとともに入唐にっとうし、帰国きこくせず五台山ごだいさんで客死かくしした霊仙りょうぜん三蔵さんぞう）。法華経ほけきょうと密教みっきょうの整合せいごう性せいに関かんする未み解決かいけつの問題もんだいなど「未決みけつ三さん十じゅう条じょう」の解答かいとうを得え、日本にっぽんにまだ伝来でんらいしていなかった五台山ごだいさん所蔵しょぞうの仏典ぶってん37巻かんを書写しょしゃする。また、南台みなみだいの霧きり深ふかい山中さんちゅうで「聖きよし燈とう」（ブロッケン現象げんしょうか。『行くだり記き』開成かいせい5年ねん（840年ねん）5月がつ22日にち条じょう、6月21日にち条じょう、7月がつ2日にち条じょう）などの奇瑞きずいを多数たすう目撃もくげきし、文殊もんじゅ菩薩ぼさつの示現じげんに違ちがいないと信仰しんこうを新あらたにする。

長安ながやすへの求法ぐほう

当時とうじ世界せかい最大さいだいの都市としにして最先端さいせんたんの文化ぶんかの発信はっしん地ちでもあった長安ながやすへ行いくことを決意けついし、五台山ごだいさんから約やく1100キロメートルを徒歩とほ旅行りょこうする（53日間にちかん）。その際さい、大興善寺だいこうぜんじの元もと政せい和尚おしょうから灌頂を受うけ、金剛こんごう界かい大法たいほうを授き、青あお竜りゅう寺てらの義ぎ真しんからも灌頂を受うけ、胎蔵界かい・盧遮那るしゃな経けい大法たいほうと蘇そ悉地大法たいほうを授く。また、金剛こんごう界かい曼荼羅まんだらを長安ながやすの絵師えし・王おう恵めぐみに代価だいか6千せん文ぶんで描えがかせる。

台たい密みつにまだなかった念願ねんがんの金剛こんごう界かい曼荼羅まんだらを得えたこの晩ばん、今いまは亡なき最澄さいちょうが夢ゆめに現あらわれ、曼荼羅まんだらを手てに取とりながら涙なみだながらに大変たいへん喜よろこんでくれたという。円仁えんにんは師しの最澄さいちょうを拝はいしようとしたが、最澄さいちょうはそれを制せいして逆ぎゃくに弟子でしの円仁えんにんを深ふかく拝はいしたという（『行くだり記き』開成かいせい5年ねん（840年ねん）10月がつ29日にち条じょう）。描えがかせていた曼荼羅まんだらが完成かんせいする（『行くだり記き』開成かいせい5年ねん（840年ねん）12月22日にち条じょう）。

しばらくして、唐から朝あさに帰国きこくを百ひゃく余よ度ども願ねがい出でるが拒否きょひされる（会かい昌あきら元年がんねん（841年ねん）8月がつ7日にちが最初さいしょ）が、その間あいだ入唐にっとう以来いらい5年間ねんかん余あまりを共ともに過すごして来きた愛弟子まなでし・惟おもんみ暁あかつきを失うしなう（『行くだり記き』会かい昌あきら3年ねん（843年ねん）7月がつ25日にち条じょう。享年きょうねん32）。また、サンスクリット語ごを学まなび、仏典ぶってんを多数たすう書写しょしゃした。長安ながやすを去さる時ときには423部ぶ・合計ごうけい559巻かんを持もっていた（『入唐にっとう新しん求もとめ聖教せいきょう目録もくろく』）。そして、会かい昌あきら2年ねん（842年ねん）10月がつに会かい昌あきらの廃はい仏ぼとけがはじまり、外国がいこく人じん僧そうの国外こくがい追放ついほうという予期よきせぬ形かたちで、帰国きこくが叶かなった（会かい昌あきら5年ねん2月がつ）。なおこの際さいに強制きょうせい的てきに還俗げんぞくさせられており、再度さいど剃髪ていはつしたのは帰国きこく直前ちょくぜんである。

帰国きこくの旅たびの苦難くなん

当時とうじの長安ながやすの情勢じょうせいは、唐とうの衰退すいたいも相あいまって騒然そうぜんとしていた。治安ちあんも悪化あっか、不審火ふしんびも相次あいついでいた。その長安ながやすの街まちを夜半やはんに発たったが（曼荼羅まんだらや膨大ぼうだいな経巻きょうかんを無事ぶじに持もち帰かえるため）、夜よるにもかかわらず多おおくの長安ながやす住人じゅうにんの送別そうべつを受うけた。送別そうべつ人じんの多おおくは、唐から高官こうかんの仏教徒ぶっきょうと李り元もと佐さのほか、僧侶そうりょ及および円仁えんにんの長安ながやす暮くらしを支ささえた長安ながやす在留ざいりゅうの新しん羅ら人ひとたちが主おもであった。餞はなむけけとして絹きぬ12丈たけ（30m余あまり）を贈おくってくれた新しん羅ら人じんもいた（会かい昌あきら5年ねん（845年ねん）5月がつ15日にち）。歩あるくこと107日間にちかん、山東さんとう半島はんとうの新しん羅ら人じんの町まち・赤山あかやままで歩あるいて戻もどった。

この際さい、新しん羅ら人じんの唐から役人やくにんにして張ちょう宝たから高だかの部下ぶかの将しょう・張ちょう詠えいが円仁えんにんのために唐から政府せいふの公金こうきんで帰国きこく船せんを建造けんぞうしてくれたが、密告みっこくに遭あい、この船ふねでは帰かえれなくなる。

「円仁えんにんが無事ぶじ生いきている」という情報じょうほうは日本にっぽんに伝つたわっていたらしく、比叡山ひえいざんから弟子でしの性せい海うみが円仁えんにんを迎むかえに唐とうにやってきて、師しと再会さいかいを遂とげる。楚すわえ州しゅうの新しん羅ら人じん約やく語かたり（通訳つうやくのこと）劉りゅう慎まこと言げんに帰国きこくの便船びんせん探さがしを頼たのみ（彼かれは新しん羅ら語ご・唐とう語ご・日本語にほんごを操あやつれるトライリンガルであった）、彼かれの見みつけた新しん羅ら商人しょうにん金かね珍めずらしの貿易ぼうえき船せんに便乗びんじょうして帰国きこくする。円仁えんにんは劉りゅう慎まこと言げんに沙すな金きん弐に両りょうと大坂おおさか腰帯こしおびを贈おくっている。朝鮮半島ちょうせんはんとう沿岸えんがんを進すすみながらの90日間にちかんの船旅ふなたびであった。新しん羅ら船せんは小型こがただが高速こうそくで堅牢けんろうであることに驚おどろいている。博多はかた津つに到着とうちゃくし、鴻おおとり臚館に入はいった（『行くだり記き』承うけたまわ和わ14年ねん（847年ねん）9月がつ19日にち条じょう）。日本にっぽん政府せいふは円仁えんにんを無事ぶじ連つれ帰かえってきた金かね珍めずらしら新しん羅ら商人しょうにんに十分じゅうぶんに報酬ほうしゅうを報むくいるように太政官だじょうかん符ふを発はっし、ここで9年ねん6ヶ月かげつに及およんだ日記にっき『入唐にっとう求法ぐほう巡礼じゅんれい行ぎょう記き』（全ぜん4巻かん）の記述きじゅつを終おえている（『行くだり記き』承うけたまわ和わ14年ねん（847年ねん）12月14日にち条じょう）。54歳さい。最澄さいちょうや空海くうかいが日本にっぽんへ搬入はんにゅうしなかった経典きょうてんやその後ごの新訳しんやく経典きょうてんを意識いしき的てきに集あつめて持もち帰かえり、日本にっぽんの密教みっきょうの発展はってんに寄与きよした。

この9年ねん6ヶ月かげつに及およぶ求法ぐほうの旅たびの間あいだ、書かき綴つづった日記にっきが『入唐にっとう求法ぐほう巡礼じゅんれい行ぎょう記き』で、これは日本人にっぽんじんによる最初さいしょの本格ほんかく的てき旅行りょこう記きであり、時ときの皇帝こうてい、武たけ宗はじめによる仏教ぶっきょう弾圧だんあつである会かい昌あきらの廃はい仏ぼとけの様子ようすを生々なまなましく伝つたえるものとして歴史れきし資料しりょうとしても高たかく評価ひょうかされ、特とくにエドウィン・O・ライシャワーの研究けんきゅうにより日本にっぽんでも著名ちょめいになり、欧米おうべいでも知しられるようになる。

帰国きこく後ご

目黒めぐろ不動ふどうとして知しられる瀧泉寺たきせんじや、山形やまがた市しにある立石寺りっしゃくじ、松島まつしまの瑞巌寺ずいがんじを開ひらいたと言いわれる。慈覚大師だいし円仁えんにんが開山かいさんしたり再興さいこうしたりしたと伝つたわる寺てらは関東かんとうに209寺てら、東北とうほくに331寺てら余あまりあるとされ、平泉ひらいずみ中尊寺ちゅうそんじや浅草あさくさの浅草寺せんそうじもそのひとつ（岩舟いわふね町まち観光かんこう協会きょうかいHP）。このほか北海道ほっかいどうにも開基かいき伝承でんしょうが存在そんざいする(有珠うす善光よしみつ寺てら)。

後のちに円仁えんにん派はは山門さんもん派はと称しょうされた。円珍えんちんは寺てら門派もんぱとなり、両者りょうしゃは長期ちょうきにわたり対立たいりつ関係かんけいになった（山門やまかど寺門てらかどの争あらそい）。

仁じん寿ことぶき4年ねん（854年ねん）4月がつ3日にち、円仁えんにんは61歳さいで第だい3代だい延暦寺えんりゃくじ座主ざすに任命にんめいされた。

人物じんぶつ

• 性せいは円満えんまんにして温雅おんが、眉まゆの太ふとい人ひとであったと言いわれる。
• 浄土宗じょうどしゅうの開祖かいそ法然ほうねんは、私淑ししゅくする円仁えんにんの衣ころもをまといながら亡なくなったという。

伝説でんせつ

円仁えんにんの、安蘇あそ山さんの麓ふもとの手洗てあらい窪くぼに生うまれたという説せつでは、桓武かんむ天皇てんのうの延のべ暦れき13年ねん、廣こう智さとし菩薩ぼさつが大慈寺だいじじ住職じゅうしょくのとき、南方なんぽうに紫雲しうんがたなびき、尋たずねていくと安蘇あそ山麓さんろく（現在げんざいの三さん毳むくげ山やまのふもと岩舟いわふね町まち下津原しもつはら手洗てあらい窪くぼ）の関家せきや、大慈寺だいじじの大だい檀那だんなであった駅長えきちょう、壬みずのえ生首なまくび麻呂まろの家いえに至いたりて男児だんじが誕生たんじょうした。「八雲やくも御ご抄しょう」をもとにしたい伝いつたえである。元もと・安蘇あそ郡ぐん下津原しもつはらの手洗てあらい窪くぼは「慈覚大師だいし誕生たんじょうの地ち」として栃木とちぎ市しの史跡しせきに指定していされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 佐伯さえき有ゆう清きよし 『慈覚大だい師伝しでんの研究けんきゅう』 吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1986年ねん。
• 佐伯さえき有ゆう清きよし 『最澄さいちょうとその門流もんりゅう』 吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1993年ねん。
• 佐伯さえき有ゆう清きよし『円仁えんにん』吉川弘文館よしかわこうぶんかん〈人物じんぶつ叢書そうしょ 196〉、1989年ねん1月がつ。ISBN 978-4642051583。 　
• 鈴木すずき靖やすし民みん編へん 『円仁えんにんとその時代じだい』 高志こうし書院しょいん　2009年ねん。
• 福井ふくい康順こうじゅん編へん 『慈覚大師だいし研究けんきゅう』 早稲田大学わせだだいがく出版しゅっぱん部ぶ、1980年ねん。
• 山田やまだ恵諦えたい 『慈覚大師だいし』 第だい一いち書房しょぼう、1979年ねん。
• 壬生みぶ台だい舜しゅん 『日本にっぽんの仏教ぶっきょう3　叡山えいざんの新風しんぷう　最澄さいちょう・円仁えんにん』 筑摩書房ちくましょぼう、1967年ねん。
• 佛教ぶっきょう芸術げいじゅつ学会がっかい編へん『特集とくしゅう円仁えんにんと仏教ぶっきょう美術びじゅつ』 毎日新聞社まいにちしんぶんしゃ

  「佛教ぶっきょう芸術げいじゅつ　東洋とうよう美術びじゅつと考古学こうこがくの研究けんきゅう誌し」第だい300号ごう（2008年ねん9月がつ号ごう）

• 『入唐にっとう求法ぐほう巡礼じゅんれい行ぎょう記き』 足立あだち喜六きろく訳注やくちゅう・塩入しおいり良りょう道どう補注ほちゅう、平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ（全ぜん2巻かん）。※他たの刊行かんこうはリンク先さきを参照さんしょう
• 阿南あなみヴァージニア・史し代だい『円仁えんにん慈覚大師だいしの足跡あしあとを訪たずねて　今いまよみがえる唐とう代だい中国ちゅうごくの旅たび』

  小池こいけ晴子はるこ訳やく、ランダムハウス講談社こうだんしゃ、2007年ねん。

• エドウィン・ライシャワー『円仁えんにん唐とう代だい中国ちゅうごくへの旅たび　「入唐にっとう求法ぐほう巡礼じゅんれい行ぎょう記き」の研究けんきゅう』

  田村たむら完かん誓ちかい訳やく、原はら書房しょぼう、1984年ねん／講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、1999年ねん。初刊しょかん版ばんは実業之日本社じつぎょうのにほんしゃ

• 玉城たまき妙子たえこ 『円仁えんにん求法ぐほうの旅たび』 講談社こうだんしゃ、2000年ねん。
• 松原まつばら哲明てつあき 『マルコ・ポーロを超こえた男おとこ　慈覚大師だいし円仁えんにんの旅たび』 佼成出版社こうせいしゅっぱんしゃ、1993年ねん。写真しゃしん・福島ふくしま一嘉かずよし
• 東野とうの治之はるゆき『遣唐使けんとうし』岩波いわなみ新書しんしょ、2007年ねん。ISBN 978-4-00-431104-1。 
• 澤本さわもと光弘みつひろ「円仁えんにんと霊仙りょうぜんの五臺山ごだいさん」『アジア雑記ざっき帳ちょう・文化ぶんかと歴史れきし』東洋とうよう文化ぶんか研究けんきゅう会かい編へん、2021年ねん。
• 石田いしだ実みのる洋よう「留学生りゅうがくせい・留学りゅうがく僧そうと渡来とらいした人々ひとびと」『律令りつりょう国家こっかと東ひがしアジア』吉川弘文館よしかわこうぶんかん〈日本にっぽんの対外たいがい関係かんけい 2〉、2011年ねん5月がつ。ISBN 978-4-642-01702-2。 

関連かんれん項目こうもく

• 天台宗てんだいしゅう山門さんもん派は
• 大師だいし
• 円珍えんちん　天台てんだい寺門てらかど宗はじめの宗祖しゅうそ
• 義ぎ真しん
• 遣唐使けんとうし
• 張ちょう宝たから高だか（新しん羅らの海上かいじょう王おう。円仁えんにんの求法ぐほうの旅たびを支援しえん）
• 湯村ゆむら温泉おんせん
• 宝蔵寺ほうぞうじ
• 四よん寺てら廻廊かいろう
• 仁じん比ひ山神さんじん社しゃ

外部がいぶリンク

• 『円仁えんにん』 - コトバンク