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体用たいよう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
しゅ。「からだよう」をろんじた代表だいひょうてき人物じんぶつ一人ひとり[1]
賀茂真淵かものまぶち。「体言たいげん用言ようげん」をろんじた初期しょき人物じんぶつ一人ひとり[2]

体用たいよう(たいよう[3]、たいゆう[注釈ちゅうしゃく 1]拼音: tǐ yòngきゅう字体じたい體用たいよう[5]からだよう[2][6])すなわち「からだよう」「からだよう」は、中国ちゅうごく哲学てつがくたい概念がいねん中国ちゅうごく仏教ぶっきょう儒教じゅきょうげんがく文学ぶんがく理論りろんなど様々さまざま分野ぶんや使つかわれる。きよしすえの「ちゅうからだ西にしよう」や日本語にほんご文法ぶんぽうの「体言たいげん用言ようげん」でもられる。体用たいよう思想しそう[7]体用たいようろん[1]ともいう。「そう」(そう、拼音: xiàng)をくわえてからだしょうよう(たいそうゆう)ともいう[8]

意味いみ

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からだよう」は一般いっぱんに「本体ほんたい作用さよう」「実体じったい現象げんしょう」などと翻訳ほんやくされるが[9][注釈ちゅうしゃく 2]厳密げんみつには翻訳ほんやく不可能ふかのうかつ説明せつめい困難こんなんとされる[9]たとえるなら「みず水面すいめんなみ[注釈ちゅうしゃく 3]はなはなにおい」[13]鋭利えいりさ」[14]のような関係かんけいとされる。両者りょうしゃ相即そうそく不離ふり含意がんいする場合ばあいもあれば、両者りょうしゃ区別くべつ含意がんいする場合ばあいもある[4]

からだそうよう」の場合ばあい、「そう」は「性質せいしつ」「性能せいのう」などとやくされる[8]

からだよう」の類義語るいぎごに「ほんよう」「ほんすえ」「ほん・迹あと)」などがある[15]

用例ようれい

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前史ぜんし

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さきしん用例ようれい絶無ぜつむひとしい[16]。『荀子富国ふこくへん唯一ゆいいつ用例ようれいがあるが、意味いみ後世こうせい用法ようほうことなり類例るいれいぎない[16][17]同様どうようれいは、こうかんすえはく中国語ちゅうごくごばんしゅうえきさんどうちぎり[17]さんこくたかし嵆康こえ哀楽あいらくろん[15]すすむかんやすしはくえき繋辞けいじでんちゅう[15][17]にもある。

類義語るいぎごの「ほんよう」などは、さきしんから用例ようれいがある[15]

初出しょしゅつからとうだい

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初出しょしゅつ一般いっぱんすすむ南北なんぼくあさあいだとされるが、どの文献ぶんけんかは諸説しょせつある[18]船山ふなやま 2019 によれば、ひろ支持しじされているせつは、南朝なんちょうひとしりゅうぶんこころ雕龍しるしきよしへん、およびりょうたけしみかどしる沈績ちゅう立神たてがみ明成めいせいふつ』(『弘明ひろあきしゅうまき9)のりょうしょ最初さいしょれいとみなす島田しまだけんせつである[18][19][注釈ちゅうしゃく 4]おも異説いせつとして、さんこくたかしおう老子ろうし道徳どうとくけいちゅう』を初出しょしゅつとみなすアンヌ・チャンせつ[22]こうはたそうはじめはじめろん』を初出しょしゅつとみなすようせつがあるが、いずれも類例るいれいぎないとされる[18]サンスクリットからのかんやく推測すいそくする竹村たけむら牧男まきおせつもあるが[23]、その可能かのうせいひくいとされる[24]。『だい般涅槃経しゅうかいしょ引のたからあきらりゅう勰のいち世代せだいじょう人物じんぶつ)の学説がくせつ初出しょしゅつとするせつもあり[25]船山ふなやま 2019 はこのせつ支持しじしている[26]

中国ちゅうごく仏教ぶっきょう主要しゅよう用例ようれいとして、『大乗だいじょうおこりしんろん』における「からだそうよう」の「さんだい」や、天台てんだいさとし法華ほっけげんよし』における「からだそうようきょう」の「じゅうげんよし」がある[4][11]吉蔵よしぞうは『大乗だいじょうげんろん』のたいせつをはじめ[1]複数ふくすう著作ちょさくで「からだよう」をもちいている[27][28]

以上いじょうのほか、とうだいまで類例るいれいふくめれば、おうしゅうえきちゅう[4]范縝かみめつろん[14][21][29]ほうじょう『十地論義疏』[4]天台てんだいさとし顗『法華ほっけげんよし』の仏身ぶっしんせつ[1]法蔵ほうぞう華厳経けごんきょうさがせげん』の法界ほうかい縁起えんぎせつ[1]、『楞伽師資しししょ引のかみしげる学説がくせつ[30]としおもえまたはくもり大乗だいじょう止観しかん法門ほうもん[21]法海のりかい中国語ちゅうごくごばんだんけい[21][4]、『なり唯識ゆいしきろん[31]あな穎達しゅうえき正義まさよし[29][1]かなえ中国語ちゅうごくごばんしゅうえきしゅうかいしょ引のちぇしゅうえきさがせげん[4][32]つかさそらじゅうよんひん[4]などに用例ようれいがある。とうだいにはせいの「才識さいしきけん茂明しげあき於体よう」として制度せいどめいにも使つかわれている[4]

そうだい以降いこう

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そうあきら理学りがくにはおおくの用例ようれいがあり、「あきらからだたちよう[29]体用たいよういちげん[3]全体ぜんたい大用おおゆう[3]などの学説がくせつられる[注釈ちゅうしゃく 5]とくえびす邵雍先駆せんくとして、ほどほどちょうて、しゅ体系たいけいてきもちいた[29]しゅ熹は「からだよう」を「」「形而上けいじじょう形而下けいじか」「みちうつわ」「未発みはつやめはつ」「なか」「しずどう」「せいじょう」に対応たいおうさせた[34][1]おう陽明ようめいしゅ熹を批判ひはんし「体用たいよういちげん」を強調きょうちょうした[1]あきら末清すえきよはつおう船山ふなやまちょういで体用たいようろんじた[29]

一方いっぽうきたそうあきらせつ中国語ちゅうごくごばんは「からだよう」を仏教ぶっきょう由来ゆらい概念がいねんとみなし、儒者じゅしゃがこれをもちいることを問題もんだいした[注釈ちゅうしゃく 6]あきら末清すえきよはつ顧炎たけしきょく中国語ちゅうごくごばん往復おうふく書簡しょかんでもこの問題もんだいろんじられている[35]

清朝せいちょう考証こうしょうがくにおいては、戴震あきら炳麟小学しょうがくりゅうつちかえ諸子しょしがく用例ようれいがある[36]

きよしだい末期まっきには、ちょうほら勧学かんがくへん』などで「からだよう」が使つかわれ、「ちゅうからだ西にしよう」の由来ゆらいとなった。いむふくは「ちゅうからだ西にしよう」の「からだよう」の用法ようほう誤用ごようとして批判ひはんした[注釈ちゅうしゃく 7]

そうだい以降いこうでは以上いじょうのほか、やなぎはじめもとおく上人南しょうにんみなみゆうじょ[4]慶之よしゆき詩人しじんだまくず中国語ちゅうごくごばん[37]おうげん中国語ちゅうごくごばん中国ちゅうごく絵画かいが理論りろん[38]中国ちゅうごく医学いがくの「きもからだかげよう[39]楊澄はじめ太極拳たいきょくけん体用たいよう全書ぜんしょ』などの用例ようれいがある。

きん現代げんだい

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しん儒家じゅかくまじゅうりょくは『体用たいようろん』で、儒家じゅか思想しそうを「からだ」、民主みんしゅ科学かがくを「よう」とした[40]おなじくしん儒家じゅか中国語ちゅうごくごばん牟宗さん体用たいようろんあつかった[40]

改革かいかく開放かいほうには、さわあつしが「ちゅうからだ西にしよう」にならい「西にしたいちゅうよう」をいた[4]

中国ちゅうごく以外いがい用例ようれい

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中国ちゅうごく哲学てつがく伝播でんぱしたひがしアジアしょ地域ちいきにも用例ようれいがある[41]

朝鮮ちょうせん

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朝鮮ちょうせんにおける「からだよう」(朝鮮ちょうせん: 체용、チェ・ヨン[42])は、もとあかつききゅうせい退すさけい栗谷くりやおおくの人物じんぶつ用例ようれいがある[43]

日本にっぽん

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日本にっぽんでは、二条にじょう良基よしもと連理れんりしょう』、しょく応其おうご無言むごんしょう』などの連歌れんがろんしょひろ用例ようれいがある[44]。その空海くうかい即身成仏そくしんじょうぶつよし[注釈ちゅうしゃく 8]親鸞しんらん教行信証きょうぎょうしんしょう[3]世阿弥ぜあみいたり花道かどう[13]そうあきら理学りがく関係かんけい儒学じゅがくしょ[33]武道ぶどう礼法れいほうしょ[46]花道かどうしょ[47]和算わさんしょ[48]などに用例ようれいがある。鈴木すずき大拙だいせつ体用たいようろんあつかった[49]

日本語にほんごがくの「体言たいげん用言ようげん」は、賀茂真淵かものまぶち契沖けいちゅう江戸えど時代じだい国学こくがくしゃによって形成けいせいされ[2]山田やまだ孝雄たかお近代きんだい学者がくしゃ継承けいしょうされた[50]山田やまだ孝雄たかおは「体言たいげん用言ようげん」の由来ゆらいについて、そうがくや『詩人しじんだまくず中国語ちゅうごくごばん』の「からだよう」が連歌れんがろん日本語にほんごがくつたわったものと推定すいていした[37][51]

にち葡辞しょ』は「taiyô」に「substancia & accidente」(実体じったい付帯ふたいせい)という西洋せいよう哲学てつがく用語ようごをあてている[52][53]

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ おも仏教ぶっきょうがくでは呉音ごおんにより「たいゆう」と[4]
  2. ^ 英語えいごでは「本質ほんしつはたらきessence and function)」などと翻訳ほんやくされる[10]
  3. ^ 大乗だいじょうおこりしんろん』における「みずたとえ」[11][12]
  4. ^ 立神たてがみ明成めいせいふつ』は、かみめつ不滅ふめつ論争ろんそう中国語ちゅうごくごばん如来にょらいぞう思想しそう背景はいけいかれた[20][21]
  5. ^ あきらからだたちよう」は『そう元学もとがくあんしょ引のえびす学説がくせつ[11]、「体用たいよういちげん」はほどほどえきでんじょ[33]、「全体ぜんたい大用おおゆう」はしゅ大学だいがく章句しょうくだいしょうの「格物致知かくぶつちちでん[33]にある。
  6. ^ あきらせつ嵩山すせ文集ぶんしゅう』およびおうおうこまがくまき1[35]
  7. ^ いむふくは『あずか外交がいこうほう主人しゅじんろん教育きょういくしょ』で、裘可桴の「体用たいよう一物いちもつについていう」という言葉ことばいたうえで、中学ちゅうがくには中学ちゅうがくの「からだよう」があり、西にしがくには西にしがくの「からだよう」があるとした[4]
  8. ^ 空海くうかい即身成仏そくしんじょうぶつよし』は、『大乗だいじょうおこりしんろん』の注釈ちゅうしゃくしょしゃく訶衍ろん』の用法ようほうまえているとされる[45]

出典しゅってん

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  1. ^ a b c d e f g h 松村まつむら 1998, p. 1023f.
  2. ^ a b c 鈴木すずき 2001, p. 427f.
  3. ^ a b c d 体用たいよう』 - コトバンク
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 土田つちた 2001, p. 127ff.
  5. ^ 島田しまだ 1961.
  6. ^ 永山ながやま 1962, p. 31.
  7. ^ 船山ふなやま 2019.
  8. ^ a b からだそうよう』 - コトバンク
  9. ^ a b 池田いけだ 1990, p. 17.
  10. ^ ミュラー 2017, p. 133.
  11. ^ a b c 中西なかにし 2013, p. 810f.
  12. ^ ミュラー 2017, p. 128.
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  14. ^ a b かみづか 1990, p. 173.
  15. ^ a b c d 船山ふなやま 2019, p. 52-55.
  16. ^ a b 池田いけだ 1990, p. 20.
  17. ^ a b c 島田しまだ 1961, p. 424.
  18. ^ a b c 船山ふなやま 2019, p. 39-47.
  19. ^ 島田しまだ 1961, p. 427.
  20. ^ 船山ふなやま 2019, p. 41f.
  21. ^ a b c d 志野しの 2020.
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  23. ^ 竹村たけむら牧男まきお大乗だいじょうおこりしんろん読釈』山喜やまきぼう仏書ぶっしょりん、1985ねん
  24. ^ 船山ふなやま 2019, p. 45.
  25. ^ 中西なかにしひさあじ六朝りくちょうひとしはりの「かみ不滅ふめつろんおぼがき――仏性ぶっしょうせつとの交流こうりゅうより」『中国ちゅうごく思想しそう研究けんきゅうだい4ごう京都大学きょうとだいがく中国ちゅうごく哲学てつがく研究けんきゅうしつ、1981ねん 
  26. ^ 船山ふなやま 2019, p. 48f.
  27. ^ 島田しまだ 1961, p. 428.
  28. ^ ミュラー 2017, p. 136f.
  29. ^ a b c d e 池田いけだ 1990, p. 24.
  30. ^ 池田いけだ 1990, p. 26.
  31. ^ ミュラー 2017, p. 143.
  32. ^ 池田いけだ 1990, p. 23.
  33. ^ a b c 山崎やまざき 1984, p. 288.
  34. ^ 池田いけだ 1990, p. 28.
  35. ^ a b 島田しまだ 1961, p. 418.
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  37. ^ a b 永山ながやま 1962, p. 27.
  38. ^ 後藤ごとう亮子あきこ. “中国ちゅうごく絵画かいが概説がいせつ”. 東京とうきょう藝術げいじゅつ大学だいがく. 2022ねん12月21にち閲覧えつらん
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  41. ^ ミュラー 2017, p. 126.
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  43. ^ ミュラー 2017.
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  45. ^ 中村なかむら 1988, p. 50.
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参考さんこう文献ぶんけん

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外部がいぶリンク

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