極限きょくげん

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収束しゅうそくせいから転送てんそう

数学すうがくにおいては、数列すうれつなど、あるしゅ数学すうがくてき対象たいしょうをひとまとまりにならべてかんがえたものについての極限きょくげん(きょくげん、えい: limit)がしばしば考察こうさつされる。直感ちょっかんてきには、かずれつがあるかぎりなくちかづくとき、そののことを数列すうれつ極限きょくげんあるいは極限きょくげんといい、この数列すうれつ収束しゅうそくするという。収束しゅうそくせずせい無限むげんだいまけ無限むげんだい振動しんどうすることを発散はっさんするという。

極限きょくげんあらわ記号きごうとして、lim (英語えいご: limit, リミット、ラテン語らてんご: limes)という記号きごう一般いっぱんてきもちいられる。たとえばつぎのように使つかう:

数列すうれつ極限きょくげん[編集へんしゅう]

実数じっすう数列すうれつ収束しゅうそくする (converge) あるいは有限ゆうげん極限きょくげんしくは極限きょくげん有限ゆうげん確定かくていであるとは、番号ばんごうすすむにつれてその数列すうれつこうがある1つのかぎりなくちかづいていくことをいう。このとき確定かくていするをその数列すうれつ極限きょくげんという。収束しゅうそくしない数列すうれつ発散はっさんする(diverge)といい、それらはさらに極限きょくげんつものとたないものにかれる。発散はっさんする数列すうれつのうち極限きょくげんつものには、せい無限むげんだい発散はっさんするものとまけ無限むげんだい発散はっさんするものがあり、極限きょくげん確定かくていしないものは振動しんどうする(oscillate)という。

数列すうれつ収束しゅうそく[編集へんしゅう]

自然しぜんすう逆数ぎゃくすうれつ 1, 1/2, 1/3, …, 1/n, …かんがえると、nかぎりなくおおきくしていくと一般いっぱんこう 1/nかぎりなく 0ちかづいていく。このときこの数列すうれつ0収束しゅうそくするといい、このことを

あるいは

く。

カール・ワイエルシュトラスは「かぎりなくちかづく」という曖昧あいまい表現ひょうげん使つかわず、イプシロン-デルタ論法ろんぽうもちいて厳密げんみつ収束しゅうそく定義ていぎした。これによれば、数列すうれつ {an} がある一定いってい αあるふぁ収束しゅうそくするとは、つぎつことである(この場合ばあいはイプシロン-エヌ論法ろんぽうともう):

(どんなにちいさなせいかず εいぷしろん をとっても、その εいぷしろんたいして適切てきせつ番号ばんごう n0十分じゅうぶんおおきくさだめれば、n0 よりさき番号ばんごう nたいする anαあるふぁ から εいぷしろん ほどもはなれない範囲はんい全部ぜんぶはいるようにすることができる)

これをもちいると、an = 1/n極限きょくげん0 であることを以下いかのようにしてしめすことができる。

証明しょうめい
自然しぜんすううえ有界ゆうかいでない(アルキメデスの性質せいしつ)から、
したがって

極限きょくげん性質せいしつ[編集へんしゅう]

  • 数列すうれつ収束しゅうそくするとき、その極限きょくげんはただひとつにかぎる。
  • 収束しゅうそくする数列すうれつからこう有限ゆうげんのぞいても、られた数列すうれつおな収束しゅうそくする。
  • 収束しゅうそくする数列すうれつかず集合しゅうごうとして有界ゆうかいである。

数列すうれつ発散はっさん[編集へんしゅう]

数列すうれつ収束しゅうそくしないとき、その数列すうれつ発散はっさんするという。とくに、番号ばんごう nかぎりなくおおきくしていくとき、数列すうれつこう anかぎりなくおおきくなることを、数列すうれつ {an}せい無限むげんだい発散はっさんするといい、

または

のようにあらわす。イプシロン-エヌ論法ろんぽうでは、数列すうれつせい無限むげんだいへの発散はっさんは、

のように定式ていしきされる。

また、番号ばんごう nかぎりなくおおきくしていくとき、数列すうれつこう anかぎりなくちいさくなることを、数列すうれつ {an}まけ無限むげんだい発散はっさんするといい、

または、

あらわす。数列すうれつ {an}まけ無限むげんだい発散はっさんすることは、各項かくこう anはんかずにした数列すうれつ {bn} (bn = −an, n = 1, 2, 3, …)せい無限むげんだい発散はっさんすることと同値どうちである。あるいは絶対ぜったいをとってられる数列すうれつ せい無限むげんだい発散はっさんするとってもおなじである。イプシロン-エヌ論法ろんぽうでは、

となる。

数列すうれつ収束しゅうそくせず、またせい無限むげんだいにもまけ無限むげんだいにも発散はっさんしない場合ばあい、その数列すうれつ振動しんどうするという。振動しんどう発散はっさん一種いっしゅである。

様々さまざま極限きょくげん[編集へんしゅう]

実数じっすうれつ があるかず について たしているとき(数列すうれつ した有界ゆうかいなとき)、 しも極限きょくげんばれるかず

さだめることができる。同様どうようにして、うえ有界ゆうかい数列すうれつたいしそのうえ極限きょくげん

定義ていぎされる。

しるしてもおな意味いみである)

数列すうれつ 極限きょくげんつのは となる場合ばあいであり、このとき

となる。さらに、有界ゆうかい数列すうれつのなすベクトル空間くうかん たいして抽象ちゅうしょうてき関数かんすう解析かいせき構成こうせい適用てきようし、任意にんい有界ゆうかい数列すうれつ たいしてバナッハ極限きょくげんばれるかず を、古典こてんてき極限きょくげん拡張かくちょうとなるようにさだめることができる。

てんれつ[編集へんしゅう]

ユークリッド空間くうかんのように、距離きょり函数かんすう dさだまった空間くうかんにおけるてんれつについての収束しゅうそく概念がいねんを、実数じっすうれつ収束しゅうそく概念がいねん拡張かくちょうしてさだめることができる。すなわち、てんれつ (xn)nてん y収束しゅうそくするとは、せいじつ数列すうれつ (d(xn, y))n0収束しゅうそくすることである。この概念がいねんをさらに一般いっぱんして、自然しぜんすうによってかぞげられるとはかぎらない「れつ」とその収束しゅうそくせい一般いっぱん位相いそう空間くうかんたいして定式ていしきすることができる。(#位相いそう空間くうかん参照さんしょうのこと)

距離きょり dかんする極限きょくげんであることを明示めいじするために lim のわりに d-lim などとくこともある。

関数かんすう[編集へんしゅう]

変数へんすう収束しゅうそくともな関数かんすう挙動きょどう[編集へんしゅう]

f(x)じつ関数かんすうとし、c実数じっすうとする。しき

または

とは、xc に“十分じゅうぶんちかづければ”f(x)Lのぞかぎりいくらでもちかづけることができることを意味いみする。このとき「xcちかづけたとき f(x)極限きょくげんL である」という。これはイプシロン-デルタ論法ろんぽうにより

というかたち厳密げんみつ定義ていぎされる。このとき、この極限きょくげん関数かんすう f(x)x = c における無関係むかんけいであり、f(c) ≠ L であることもあれば、fc において定義ていぎされている必要ひつようもないのである。

このことを理解りかいするためにつぎれいげる。

x2ちかづくときの f(x) = x/(x2 + 1)かんがえる。この場合ばあいf(x)x2 のときに定義ていぎされており、0.4 である。

x2ちかづくにつれて f(x)0.4ちかづいていく。したがって、 である。このように であるとき、f(x)x = c連続れんぞくであるという。しかし、このようなことがつねつとはかぎらない。

れいとして、

かんがえる。x2ちかづくときの g(x)極限きょくげん0.4 であるが、 である。このとき g(x)x = 2連続れんぞくでないという。

また、xc のとき、f(x)かぎりなくおおきくなることを、「xcかぎりなくちかづくとき関数かんすう f(x)せい無限むげんだい発散はっさんする」といい、

または、

あらわす。このことはつぎのように厳密げんみつ定義ていぎされる。

ぎゃくに、xc のとき、f(x)かぎりなくちいさくなることを、「xcかぎりなくちかづくとき関数かんすう f(x)まけ無限むげんだい発散はっさんする」といい、

または、

あらわす。これはつぎのように厳密げんみつ定義ていぎされる。

連続れんぞくじつ関数かんすう f(x)xc とする極限きょくげんにおいて発散はっさんするならば、f(x)x = c において定義ていぎできない。なぜなら、定義ていぎされていたとすると x = c不連続ふれんぞくてんとなるからである。

無限むげんとおてんにおける挙動きょどう[編集へんしゅう]

一般いっぱんには x がある有限ゆうげんちかづくときをかんがえることがおおいが、xせいまけ無限むげんちかづくときの関数かんすう極限きょくげん定義ていぎすることもできる。

ある無限むげん区間くかん (a, ∞)(をふく集合しゅうごう)で定義ていぎされる関数かんすう f(x) において、xかぎりなくおおきくなると関数かんすう f(x)がある Lちかづくとき、「xかぎりなくおおきくなるとき f(x)L収束しゅうそくする」といい、

または、

あらわす。

これはつぎのように定義ていぎされる。

たとえば、かんがえる。

x十分じゅうぶんおおきくなるにつれて、f(x)2ちかづく。このとき あらわす。

また、ある無限むげん区間くかん (−∞, a)定義ていぎされる関数かんすう f(x) において、xかぎりなくちいさくなると関数かんすう f(x)がある Lちかづくとき、「xかぎりなくちいさくなるとき f(x)L収束しゅうそくする」といい、

または、

あらわす。

これはつぎのように定義ていぎされる。

関数かんすう無限むげんにおける極限きょくげんにおいても、関数かんすう発散はっさんかんがえることができる。

ある無限むげん区間くかん 定義ていぎされる関数かんすう f(x) において、xかぎりなくおおきくなると関数かんすう f(x)かぎりなくおおきくなるとき、「xかぎりなくおおきくなるとき f(x)せい無限むげんだい発散はっさんする」といい、

または、

:

あらわす。

これはつぎのように定義ていぎされる。

また、ある無限むげん区間くかん 定義ていぎされる関数かんすう f(x) において、xかぎりなくちいさくなると関数かんすう f(x)かぎりなくおおきくなるとき、「xかぎりなくちいさくなるとき f(x)せい無限むげんだい発散はっさんする」といい、

または、

あらわす。

これはつぎのように定義ていぎされる。

同様どうように、 におけるまけ無限むげんだいへの発散はっさん定義ていぎすることができる。

において、関数かんすう f(x)収束しゅうそくもせず、またせい無限むげんだいにもまけ無限むげんだいにも発散はっさんしない場合ばあい、その関数かんすう数列すうれつ同様どうよう振動しんどうするという。

関数かんすうれつ収束しゅうそく[編集へんしゅう]

とする。

{fn}fI うえかくてん収束しゅうそくするとは、

つことである。これは、

かく たいして、

同値どうちである。これをかくてん収束しゅうそく定義ていぎとすることもある。

{fn}fI うえ一様いちよう収束しゅうそくするとは、つぎつことである:

これは、

同値どうちである。うえ定義ていぎしたノルムをスープノルム(または無限むげんだいノルム、上限じょうげんノルム)とう。スープノルムの収束しゅうそくをもって一様いちよう収束しゅうそく定義ていぎすることもある。

また、区間くかん I任意にんいコンパクト空間くうかんうえいちよう収束しゅうそくすることをコンパクトいちよう収束しゅうそくという。I任意にんい有界ゆうかい閉区あいだじょう一様いちよう収束しゅうそくすることを広義こうぎいちよう収束しゅうそくということもある。

定義ていぎより、「fnI うえいちよう収束しゅうそくfnI うえかくてん収束しゅうそく」がつ(ぎゃくかならずしもりたない)。関数かんすう一様いちよう収束しゅうそくせいは、lim と ∫ の順序じゅんじょ交換こうかんや、函数かんすうこう級数きゅうすう英語えいごばんこうべつ積分せきぶんこうべつ微分びぶん可能かのうせい保証ほしょうする(ぎゃくえば、一様いちよう収束しゅうそく保証ほしょうされていない段階だんかいでは、勝手かってに lim と ∫ の順序じゅんじょ交換こうかんしたりなどしてはいけない)。

関数かんすう一様いちよう収束しゅうそくせい証明しょうめいするには、うえのようにスープノルムの収束しゅうそくしめすのが一般いっぱんてきである。関数かんすうこう級数きゅうすう一様いちよう収束しゅうそくせいではワイエルシュトラスのM判定はんていほうもちいられる。

位相いそう空間くうかん[編集へんしゅう]

てんれつ収束しゅうそく概念がいねんは、一般いっぱん位相いそう空間くうかんにおいても収束しゅうそくさき近傍きんぼうけいをもちいて定式ていしきされる。しかし、一般いっぱんてき位相いそう空間くうかん位相いそう構造こうぞうは、どんなてんれつ収束しゅうそくしているかという条件じょうけんによって特徴付とくちょうづけできるとはかぎらない。そこで、有向ゆうこうてんぞくフィルターといった、てんれつ拡張かくちょうした構成こうせいとその収束しゅうそく概念がいねん必要ひつようになる。任意にんい位相いそう空間くうかん Xたいし、X うえ収束しゅうそくしている(収束しゅうそくさき情報じょうほうめた)フィルターの全体ぜんたい CN(X) や、あるいは収束しゅうそくしているフィルターの全体ぜんたい CF(X) をかんがえると、これらからは X位相いそう復元ふくげんできる。

けんろん[編集へんしゅう]

けん C における図式ずしきを「添字そえじけんJ から C へのせきしゅなすことにする。特定とくてい図式ずしき対応たいおうするせきしゅあたえられたとき、C対象たいしょう Xぞく (φふぁいi: XFi)i∈Obj(J)たいしてつぎのような条件じょうけんかんがえることができる:

  1. J任意にんい j について F(j) φふぁいi0 = φふぁいi1つ。ここで i0 = dom ji1 = ran j である。
  2. C任意にんい対象たいしょう Yぞく (φふぁいi: XFi)i∈Obj(J) で、1. と同様どうよう条件じょうけんたすものについて g: YXφふぁいi g = ψぷさいi (i ∈ Obj(J))をたすものが一意的いちいてき存在そんざいする。

このような条件じょうけんたす X(とぞく φふぁいi)のことを Fあらわ図式ずしき極限きょくげん(あるいは射影しゃえい極限きょくげんぎゃく極限きょくげん)とぶ。極限きょくげんたす普遍ふへんせいにより、それぞれの図式ずしきたいする極限きょくげんは(あったとして)自然しぜん同型どうけいをのぞき一意いちいさだまる。

極限きょくげん典型てんけいてきれいとして、対象たいしょうぞく (Xi)iI直積ちょくせきi< Xiふたつの f, g: XY等化とうかしゃげられる。特定とくていかたち J図式ずしきについてかならC における極限きょくげん存在そんざいするとき、図式ずしきから極限きょくげんへの対応たいおうせきけん CJ へのたいかくしゃCCJたいする随伴ずいはんせきしゅとしてとらえることができる。

この双対そうつい極限きょくげん(あるいは帰納きのう極限きょくげんじゅん極限きょくげん)とばれる。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]