扉とびらの影かげの女おんな

『扉とびらの影かげの女おんな』（とびらのかげのおんな）は、横溝よこみぞ正史せいしの長編ちょうへん推理すいり小説しょうせつ。「金田一きんだいち耕こう助すけシリーズ」の一ひとつ。

概要がいよう

本ほん作さくは、短篇たんぺんを長篇ちょうへん化かして書下かきくだした作品さくひんで、1961年ねん1月がつに刊行かんこうされた。長編ちょうへんへの改稿かいこうにより、原型げんけいの短編たんぺん作品さくひんの7倍ばいほどの長ながさとなっている。

本ほん作さくの原形げんけいの短編たんぺん作品さくひん『扉とびらの中なかの女おんな』は、『週刊しゅうかん東京とうきょう』の読物よみもの企画きかく「ミステリーシリーズ」のひとつとして、1957年ねん12月から3回かいにわたって連載れんさいされた。「ミステリーシリーズ」のひとつ『渦うずの中なかの女おんな』とは、姉妹しまい編へん的てきな側面そくめんがあったが、本ほん作さくの長編ちょうへん化かの際さいにその部分ぶぶんは解消かいしょうされた。

本ほん作さくには、金田一きんだいち耕こう助すけの助手じょしゅとして多門たもん修おさむが登場とうじょうする。多門たもんについて本ほん作さくでは『支ささえ那な扇おうぎの女おんな』のなかで簡単かんたんに紹介しょうかいしておいたと記しるされているが、『支ささえ那な扇おうぎの女おんな』の事件じけんは1957年ねんのもので、本ほん作さくの事件じけんの1955年ねんと、登場とうじょうの順じゅんは逆ぎゃくになっている。

あらすじ

1955年ねん12月22日にち、緑ヶ丘みどりがおか町まち緑ヶ丘みどりがおか荘そうの金田一きんだいち耕こう助すけ探偵たんてい事務所じむしょに、西にし銀座ぎんざのバー「モンパルナス」のホステス・夏目なつめ加代子かよこが訪おとずれる。20日はつかの夜よる、勤つとめ先さきから帰かえる途中とちゅう、曳舟稲荷いなりの路地ろじから飛とび出だしてきた男おとこにぶつかった際さいに、男おとこは血ちに汚よごれたハット・ピンを落おとして逃走とうそうし、路地ろじの奥おくの稲荷いなりの前まえには自分じぶんがかつて勤つとめていたバー「お京きょう」のホステスで恋敵こいがたきの江崎えざきタマキが殺ころされて横よこたわっていたという。自分じぶんに嫌疑けんぎがかかることを恐おそれた加代子かよこはその場ばから逃にげ出だすが、その際さいに「叩はたけよ されば開ひらかれん、ギン生せい タマチャン」と書かかれた紙片しへんを拾ひろう。「ギン生せい」とは、タマキに奪うばわれたかつての恋人こいびとでミドル級きゅう世界せかいチャンピオンのプロボクサー、臼井うすい銀ぎん哉のことと考かんがえた加代子かよこは紙片しへんを回収かいしゅうするが、冷静れいせいに考かんがえ直なおしてみると臼井うすいらしくない。しかも昨日きのうの夕刊ゆうかんによると、死体したいはまったく別べつの築地つきじの入船いりふね橋きょう下かの川かわで発見はっけんされている。本当ほんとうの殺人さつじん現場げんばを知しっているのが犯人はんにんと自分じぶんだけかと思おもうと恐おそろしい、また路地ろじ前まえで男おとこにぶつかった際さいに顔かおを見みられたような気きがして、自分じぶんが狙ねらわれるかもしれない。そのため、警察けいさつには自分じぶんの名前なまえを出ださないようにして助たすけてほしいとの依頼いらいである。

金田一きんだいちは依頼人いらいにんの名なを伏ふせて、等々力とどろき警部けいぶと新井あらい刑事けいじを殺害さつがい現場げんばへ案内あんないするかたがた、築地つきじ署しょでは臼井うすい銀ぎん哉を参考さんこう人じんとして事情じじょう聴取ちょうしゅしているとの話はなしを聞きく。どうやら事件じけん当夜とうや、臼井うすいはタマキと待まち合あわせして出でかけたらしいとのこと。また、戦後せんごの怪物かいぶつと言いわれ、汚職おしょくというと必かならず名前なまえが出でてくる金きむ門かど剛つよしがタマキのパトロンとのことであった。そして、現場げんばの曳舟稲荷いなりに到着とうちゃくすると、路地ろじの奥おくは袋小路ふくろこうじになっていて、そこに血痕けっこんを洗あらったような跡あとが残のこっていた。路地ろじの薬局やっきょくの店員てんいんに聞きくと、血ちだらけの鶏にわとりが転ころがっていて、裏口うらぐちが路地ろじに面めんしているレストラン「トロカルデ」から野良猫のらねこがカシワを盗ぬすみ出だしたのだろうと、たいして気きにも留とめずに血痕けっこんを洗あらい流ながしたのだという。カシワの血ちによる犯人はんにんの偽装ぎそう工作こうさくだと判断はんだんした等々力とどりき警部けいぶたちは、鑑識かんしきに調しらべさせるとともに、「トロカルデ」のコック長こっくちょうの広田ひろた幸吉こうきちに事情じじょう聴取ちょうしゅする。広田ひろたによると、昨日きのうの朝あさ6時じか6時半じはんに河岸かわぎしへ買かい出だしに出でかけた際さいは、カシワに気きが付つかなかったとのこと。また、レストランのマダムの藤本ふじもと美也子みやこは、財界ざいかいの巨頭きょとう・加藤かとう栄造えいぞうの愛人あいじんで、金かね門もんもよくこの店みせを利用りようするとのことである。

あとは新井あらい刑事けいじと鑑識かんしきに任まかせて、金田一きんだいちが等々力とどりき警部けいぶとともに築地つきじ署しょに向むかうと、臼井うすい銀ぎん哉の取とり調しらべ中ちゅうであった。臼井うすいは、20日はつかの晩ばんにタマキに誘さそわれたが行いかず、赤坂あかさかのナイト・クラブ「赤あかい風車かざぐるま」で出会であった女性じょせいマダムXと箱根湯本はこねゆもとの旅館りょかんへ行いったという。そして、そのマダムXの名前なまえを明あかせない事情じじょうがあって困こまっているので、謝礼しゃれいはいくらでも出だすからと、金田一きんだいちに助たすけを求もとめる。そこで金田一きんだいちが事情じじょう聴取ちょうしゅを引ひき受うけると、臼井うすいは供述きょうじゅつを曖昧あいまいにしていた部分ぶぶんを明あきらかにし始はじめる。臼井うすいを誘さそったタマキはパトロンの金かね門もんが自分じぶんを監視かんししているのではないかと恐おそれており、「お京きょう」を一緒いっしょに出でるところを見みられるとまずいので、曳舟稲荷いなりを待まち合あわせの場所ばしょに指定していした。しかし、タマキは現あらわれず、近ちかくの四よつ角かどに停とままっている車くるまの運転うんてん台だいにいる男おとこが袋小路ふくろこうじの方ほうを見張みはっているのを見みて逃にげ出だした。ただし、それが金かね門もんだったかどうかは分わからないとのことであった。そのあと「赤あかい風車かざぐるま」へ出向でむいてマダムXと箱根はこねへ行いき、マダムXが帰かえった後のちは別べつの女性じょせいを呼よび寄よせてさらに1泊はくしたが、昼過ひるすぎに新聞しんぶんを見みて事件じけんを知しって戻もどってきたという。

臼井うすいの聴取ちょうしゅが終おわった後のち、金かね門もんの調査ちょうさをしていた川端かわばた刑事けいじが戻もどってきて、金かね門もんは夕ゆうべ大阪おおさかへ行いったということで、20日はつかの夜よるは東京とうきょうにいたとのことであった。そこへ新井あらい刑事けいじが戻もどってきて、血痕けっこんの血液けつえき型がた鑑定かんていの結果けっか、タマキと同おなじO型がたであったという。その夜よる、捜査そうさ本部ほんぶに金かね門もんから、明日あした東京とうきょうへ戻もどる、逃にげも隠かくれもしないのでこちらから連絡れんらくするまではそっとしておいてほしいとのことで、等々力とどろき警部けいぶはそれを諒りょうとした。

ところが翌日よくじつ、金かね門もんが東京とうきょう駅えきで待まち構かまえていた警察けいさつの裏うらをかいて、警察けいさつへ出向でむく前まえに金田一きんだいちを訪たずねてきた。金かね門もんは、警察けいさつにアリバイを追及ついきゅうされると困こまるので相談そうだんに来きたという。そこで金田一きんだいちは、事件じけんのあった夜よる、金かね門もんは「トロカルデ」でマダムで加藤かとう栄造えいぞうの愛人あいじんの藤本ふじもと美也子みやこと過すごしていたのではないか、そして金かね門もんは加藤かとうをバックに大おおきな事業じぎょうに手てを染そめており、加藤かとうに美也子みやことの関係かんけいを知しられるわけにはいかず、進退しんたい窮きわまっているのではないかと指摘してきする。そして、事件じけんが解決かいけつして真犯人しんはんにんが捕つかまれば、金かね門もんなアリバイは問題もんだいではなくなると金田一きんだいちが話はなすと、金かね門もんは秘密ひみつを守まもってもらうことを条件じょうけんに事件じけんの解決かいけつを依頼いらいする。

こうして、3人にんの依頼人いらいにんからの依頼いらいを受うけた金田一きんだいちは、金田一きんだいちに敬服けいふくしているナイトクラブ「K・K・K」の用心棒ようじんぼう役やくの多た門かど修おさむに、タマキの事件じけんを報ほうじている夕刊ゆうかん紙しに載のっている、ひき逃にげ事件じけんの被害ひがい者しゃである女子高じょしこう生せい・沢田さわだ珠美たまみの身元みもと調査ちょうさとひき逃にげ事故じこの前後ぜんごの状況じょうきょう調査ちょうさを依頼いらいする。

登場とうじょう人物じんぶつ

• 金田一きんだいち耕こう助すけ - 私立しりつ探偵たんてい。
• 夏目なつめ加代子かよこ - 事件じけんの依頼人いらいにん。銀座ぎんざのバー「モンパルナス」に勤つとめるホステス。
• 江崎えざきタマキ - 事件じけんの被害ひがい者しゃ。銀座ぎんざのバー「お京きょう」に勤つとめるホステス。加代子かよこの恋敵こいがたき。
• 臼井うすい銀ぎん哉 - Q大学生だいがくせいでミドル級きゅう世界せかいチャンピオンのプロボクサー。タマキの彼氏かれしで加代子かよこの元もと恋人こいびと。
• 金きむ門かど剛つよし - 金きむ門もん産業さんぎょうの創始そうし者しゃでタマキのパトロン。
• 広田ひろた幸吉こうきち - 高級こうきゅうレストラン「トロカデロ」のコック長こっくちょう。
• 藤本ふじもと美也子みやこ - 「トロカデロ」の経営けいえい者しゃでマダム。
• 加藤かとう栄造えいぞう - 東亜とうあ興業こうぎょうの創始そうし者しゃで財界ざいかいの巨頭きょとう。藤本ふじもとの愛人あいじん。
• 多た門かど修おさむ - 赤坂あかさかのナイトクラブ「K・K・K」の用心棒ようじんぼう。
• 沢田さわだ珠実たまみ - 車くるまにはねられて病院びょういんで亡なくなった高校生こうこうせい。
• 沢田さわだ喜代治きよじ - 珠実たまみの父親ちちおやで弁護士べんごし。
• 佐伯さえき三平さんぺい - 沢田さわだ喜代治きよじの甥おい。
• 等々力とどりき警部けいぶ - 警視庁けいしちょう捜査そうさ一いち課かの警部けいぶ
• 新井あらい刑事けいじ - 警視庁けいしちょう捜査そうさ一いち課かの捜査そうさ官かん
• 保ほ井い警部補けいぶほ - 築地つきじ警察けいさつ署しょの捜査そうさ主任しゅにん
• 古川ふるかわ刑事けいじ - 築地つきじ警察けいさつ署しょの捜査そうさ官かん
• 川端かわばた刑事けいじ - 築地つきじ警察けいさつ署しょの捜査そうさ官かん

原型げんけい短編たんぺんからの加筆かひつ内容ないよう

長編ちょうへん化かに際さいして、原型げんけい短編たんぺん『扉とびらの中なかの女おんな』の人名じんめい、店舗てんぽ名めいなどが細こまかく見直みなおされているが、ストーリーやトリックの骨格こっかくは踏襲とうしゅうされており、そこに新あらたな要素ようそが多数たすう追加ついかされている。

大おおきな追加ついか要素ようそとしては、被害ひがい者しゃのパトロンで現場げんばのレストランにも関かかわりの深ふかい金かね門もんや、事件じけんの夜よるに臼井うすいと過すごしていたマダムXの存在そんざいがあり、物語ものがたり前半ぜんはんで金欠きんけつ状態じょうたいだった金田一きんだいちがこの2人ふたりから多額たがくの報酬ほうしゅうを得えて豪勢ごうせいになる様子ようすの描写びょうしゃも追加ついかされている。

また、多門たもんの存在そんざいも長編ちょうへん化かでの追加ついかである。長編ちょうへんでは金田一きんだいちが新聞しんぶん記事きじを検索けんさくして珠美たまみの存在そんざいを探さがし出だし、多門たもんが看護かんご婦ふから情報じょうほうを聞ききだすが、原型げんけい短編たんぺんでは珠実たまみが死しぬ前まえに「血ちまみれのハットピン」とつぶやいていたので病院びょういんの方ほうから連絡れんらくしてきて関連かんれん性せいが明あきらかになる。そして、病院びょういんへ出向でむいた金田一きんだいちが加代子かよこの存在そんざいを明あかして犯人はんにんを罠わなにかけ、白井しらい（長編ちょうへんの臼井うすいに相当そうとう）を加代子かよこの護衛ごえいにつけて犯人はんにんを捕つかまえさせている。

収録しゅうろく書籍しょせき

• 『扉とびらの影かげの女おんな』（1975年ねん、角川かどかわ文庫ぶんこ 、ISBN 978-4-04-130426-6）
• 『扉とびらの影かげの女おんな』（2021年ねん改版かいはん、角川かどかわ文庫ぶんこ 、ISBN 978-4-04-112068-2）
• 『扉とびらの影かげの女おんな』（1997年ねん、春陽しゅんよう文庫ぶんこ 、ISBN 4-394-39526-7)

原型げんけい短編たんぺん

• 『金田一きんだいち耕こう助すけの帰還きかん』（1996年ねん、出版しゅっぱん芸術げいじゅつ社しゃ、ISBN 4-88293-117-6）
• 『金田一きんだいち耕こう助すけの帰還きかん』（2002年ねん、光文社こうぶんしゃ文庫ぶんこ、ISBN 4-334-73262-3）

外部がいぶリンク

• 扉とびらの影かげの女おんな - KADOKAWA
• 金田一きんだいちの日常にちじょう生活せいかつをも浮うき彫ぼりにする異色いしょく作さく――横溝よこみぞ正史せいし『扉とびらの影かげの女おんな』文庫ぶんこ巻末かんまつ解説かいせつ - カドブン KADOKAWA文芸ぶんげいWEBマガジン