髑髏しゃれこうべ検校けんぎょう

『髑髏しゃれこうべ検校けんぎょう』（どくろけんぎょう）は、横溝よこみぞ正史せいしが1939年ねんに発表はっぴょうした小説しょうせつである^[1]^[2]。

本ほん作さくは吸血鬼きゅうけつき・髑髏しゃれこうべ検校けんぎょうと、学者がくしゃの鳥居とりい蘭らん渓けい・縫ぬい之の助じょ父子ふしの戦たたかいを描えがいた作品さくひんであり、『吸血鬼きゅうけつきドラキュラ』の翻案ほんあん作品さくひんとされている^[1]^[2]。

1975年ねんに角川かどかわ文庫ぶんこに『緑みどり304-19 髑髏しゃれこうべ検校けんぎょう』 ISBN 4-04-130419-9 として収録しゅうろくされ、2008年ねんには『よ5-38 髑髏しゃれこうべ検校けんぎょう』 ISBN 4-04-355506-7 に改版かいはんして出版しゅっぱんされた。

1982年ねんにはフジテレビ系列けいれつの『時代じだい劇げきスペシャル』にてテレビドラマ化かされている。

横山よこやままさみちにより1970年ねん1月がつ号ごうの別冊べっさつ少年しょうねんマガジンで漫画まんが化かされ、2014年ねんにゴマブックスにより初はつの単行本たんこうぼん化かがなされ電子でんし書籍しょせきストアで「どくろ検校けんぎょう」として販売はんばいしている^[3]。

あらすじ[編集へんしゅう]

文化ぶんか7年ねん9月がつ、蘭学らんがく者しゃ・鬼頭おにがしら朱しゅ之の助すけは精神せいしん療養りょうようのため、老僕ろうぼく・次郎吉じろきちとともに釣つりに出でていたところ、嵐あらしに巻まき込こまれ、命いのちからがら孤島ことうに流ながれ着つく。そこで2人ふたりは、不知火しらぬひ検校けんぎょうと名乗なのる人物じんぶつとその取とり巻まきである美人びじん姉妹しまい・松虫まつむしと鈴虫すずむしに出会であい、丁重ていちょうにもてなされる。だが、検校けんぎょうがいきなり将軍家しょうぐんけの三さん女じょ・陽炎かげろう姫ひめについて言及げんきゅうしたため、朱しゅ之の助すけは検校けんぎょうに不信ふしん感かんを抱いだく。その夜よる、松虫まつむしと鈴虫すずむしは独断どくだんで朱しゅ之の助すけの血ちを吸すおうとしたことで、検校けんぎょうから蟄居ちっきょをい渡いわたされる。検校けんぎょうのもてなしの日々ひびが続つづく中なか、日にち中ちゅうは屋敷やしきが無人ぶにんであることに気きづいた朱しゅ之の助すけらは、屋敷やしきの外そとにある森もりに行いく。森もりの中なかで松虫まつむしと鈴虫すずむしの墓はかを見みつけ、彼女かのじょたちが170年ねん前まえに死亡しぼうした人物じんぶつであることを知しる。加くわえて、彼かれらは「四郎しろう」なる人物じんぶつの墓はかも見みつけるが、それ以上いじょうのことはわからず屋敷やしきへと戻もどる。ある日ひ、2人ふたりは検校けんぎょうを迎むかえに来きた船ふねを見みつける。朱しゅ之の助すけが一人ひとりで例れいの墓はかへ来きたその時とき、天気てんきが急きゅうに荒あれ、次ついで検校けんぎょうが現あらわれて塚づかの上うえに立たち、「骨ほね寄よせ」の儀式ぎしきで松虫まつむしと鈴虫すずむしを蘇よみがえらせて江戸えどへ向むかう。

それから4か月げつ後ごの文化ぶんか8年ねん元日がんじつ、漁師りょうしたちが巨大きょだいな鯨くじらを捕とらえたことで喜よろこびに沸わく外そと房州ぼうしゅうの白浜しらはまで、鯨くじらの腹はらの中うちから瓶びんが見みつかった。その中なかには朱しゅ之の助すけの手てによる書物しょもつが入いれられていた^[1]^[2]。房州ぼうしゅう鯨くじら奉行ぶぎょう勤番きんばん・秋月しゅうげつ数すう馬ばは鯨くじらを捕とらえた網元あみもとから受うけ取とった書物しょもつを読よみ、なじみの学者がくしゃの鳥居とりい蘭らん渓けいに助たすけを求もとめる。一方いっぽう、不知火しらぬひ検校けんぎょうら3人にんは船ふねに乗のって、徳川とくがわ家斉いえなりの三さんの姫ひめ・陽炎かげろう姫ひめが住すむお浜はま御殿ごてんへ侵入しんにゅうする。陽炎かげろう姫ひめの腰元こしもとである琴絵ことえは、夢遊病むゆうびょうの発作ほっさを起おこした姫ひめを追おって、検校けんぎょうらが姫ひめの血ちを吸すう現場げんばに遭遇そうぐうする。蘭らん渓けいが陽炎かげろう姫ひめの周まわりにニンニクの花はなを撒まいたため一いち時じは良よくなるかと思おもわれたが、姫ひめの生母せいぼ・呉竹くれたけが花はなを全すべて取とり除のけてしまったため、姫ひめは死亡しぼうしてしまう。さらに後日ごじつ、遺体いたいまでもが消失しょうしつするという事件じけんが発生はっせいする。幕府ばくふは事件じけんを極秘ごくひにしたつもりだったが、不知火しらぬひ検校けんぎょうの存在そんざいは髑髏しゃれこうべ検校けんぎょうとして民衆みんしゅうに知しれ渡わたり、これに便乗びんじょうして『鏡山かがみやま旧きゅう錦絵にしきえ』の後日ごじつ談だんという設定せっていで「鏡山かがみやま後日ごじつ岩藤いわふじ」（通称つうしょう：骨ほね寄よせ岩藤いわふじ）という舞台ぶたいまで作つくられる始末しまつであった。

検校けんぎょうは、岩藤いわふじとその落胤らくいん・藤波ふじなみ由縁ゆえん之の丞すすむの二に役やくを務つとめる中村なかむら富五郎とみごろうを屋敷やしきに招まねいて殺害さつがいする。翌日よくじつ、検校けんぎょうは富五郎とみごろうに成なりすまして舞台ぶたいに上あがったところを、縫ぬい之の助すけらに見みつかるが、どさくさに紛まぎれて逃走とうそうし、琴絵ことえを襲おそう。

そして蘭らん渓けいたちは、生還せいかんした朱しゅ之の助すけの協力きょうりょくの元もと、検校けんぎょうら3人にんが眠ねむる棺かんを火ひにくべる。

登場とうじょう人物じんぶつ[編集へんしゅう]

不知火しらぬひ検校けんぎょう/髑髏しゃれこうべ検校けんぎょう: 吸血鬼きゅうけつき。白しろ絹きぬの小袖こそでに緋ひの袴はかまといういで立たちをしている^[1]^[2]。正体しょうたいは天草あまくさ四郎しろう。
鳥居とりい蘭らん渓けい: 学者がくしゃ。一刀いっとう流りゅうの達人たつじんであることに加くわえ、国学こくがくや蘭学らんがく、さらには医学いがくにも通つうじるとされている一方いっぽうで、めったに弟子でしを取とらない人物じんぶつでもあった。また、彼かれの書院しょいんは西洋せいよう風ふうになっている。原作げんさくのヴァン・ヘルシングに相当そうとうする人物じんぶつ。
鬼頭おにがしら朱しゅ之の助すけ: 蘭らん渓けいの弟子でしである蘭学らんがく者しゃで、師匠ししょうの勧すすめで長崎ながさきへ留学りゅうがくに行いった。原作げんさくのジョナサン・ハーカーに相当そうとうする人物じんぶつ。
鳥居とりい縫ぬい之の助すけ: 蘭らん渓けいと後妻ごさいの子こ。異母いぼ兄けいの大膳だいぜんとは対照たいしょう的てきに、勇敢ゆうかんな若者わかものである。原作げんさくのキンシー・モリスに相当そうとうする人物じんぶつ。
鳥居とりい大膳だいぜん: 蘭らん渓けいが、狂死きょうしした先妻せんさいとの間あいだにもうけた息子むすこ。もともと粗暴そぼうだったが、20歳さい過すぎたころから精神せいしんに異常いじょうをきたし、蜘蛛くもの飼育しいくを趣味しゅみとしている。原作げんさくのレンフィールドに相当そうとうする人物じんぶつ。
陽炎かげろう姫ひめ: 徳川とくがわ家斉いえなりの三さんの姫ひめで、お浜はま御殿ごてんに住すんでいる。数馬かずまに思おもいを寄よせている。原作げんさくのルーシー・ウェステンラに相当そうとうする人物じんぶつ。
琴絵ことえ: 陽炎かげろう姫ひめの腰元こしもと。原作げんさくのミナ・ハーカーに相当そうとうする人物じんぶつ。
秋月しゅうげつ数馬かずま: 房州ぼうしゅう鯨くじら奉行ぶぎょう勤番きんばん。原作げんさくのアーサー・ホルムウッドに相当そうとうする人物じんぶつ。
中村なかむら富五郎とみごろう: 歌舞伎かぶき俳優はいゆう。
お小夜さよ
お角かく: お小夜さよの継母けいぼ。

評価ひょうか[編集へんしゅう]

ddナビの朝宮あさみや運河うんがは、本ほん作さくが単たんなる『吸血鬼きゅうけつきドラキュラ』の翻案ほんあんではなく、原典げんてんの淫靡いんびなエロティシズムの強化きょうかに加くわえ、美少年びしょうねん趣味しゅみ・耽美たんび趣味しゅみを織おり込こんだ作品さくひんであり、検校けんぎょうの正体しょうたいにも工夫くふうが凝こらされていたと評価ひょうかしている^[1]。

梯はしご久美子くみこは週刊しゅうかん新潮しんちょうに寄よせた記事きじの中なかで、棺かんやニンニクといった原作げんさく由来ゆらいの要素ようそに加くわえ、江戸えど時代じだいらしい要素ようそも取とり込こみ、不気味ぶきみながらも痛快つうかいな怪異かいい談だんに仕上しあげた作者さくしゃの手腕しゅわんを評価ひょうかしている^[2]。また、梯はしごは再読さいどくした際さいにアン・ライスにも通つうじる美少年びしょうねん趣味しゅみがちりばめられていたことに気きづいたと振ふり返かえっている^[2]。