猫ねこ館かん

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『猫ねこ館かん』（ねこやかた）は、横溝よこみぞ正史せいしの短編たんぺん推理すいり小説しょうせつ。「金田一きんだいち耕こう助すけシリーズ」の一ひとつ。角川かどかわ文庫ぶんこ『七ななつの仮面かめん』 (ISBN 4-04-130466-0) に収録しゅうろくされている。初出しょしゅつ『推理すいりストーリー』1963年ねん8月がつ^[1]。

あらすじ[編集へんしゅう]

昭和しょうわ35年ねん 6月5日にち午後ごご3時じごろ、警視庁けいしちょうを訪たずねた金田一きんだいちは、奇々怪々ききかいかいな殺人さつじん事件じけんが起おこったと等々力とどりき警部けいぶがいる現場げんばへ連つれて行いかれる。上野うえのの高台たかだいの北きたのはずれ、日暮里にっぽり駅えきのすぐ近ちかくにある、戦後せんご数すう年ねんまでは写真しゃしん館かんだった「猫ねこ館かん」と呼よばれる古館ふるたてに住すんでいたドクトル・ハマコという女おんな占うらない師しが殺害さつがいされた。絞殺こうさつされた被害ひがい者しゃは、スカートを腰こしにつけて上半身じょうはんしんは裸はだかという姿すがたで倒たおれており、多数たすうの猫ねこが取とり巻まいていた。そして、頭あたまの横よこに半はんメートルほど離はなれて、首くびを鋭利えいりな刃物はもので切きられて胴どうから離はなれかけている黒くろ猫ねこの死体したいがあった。

発見はっけんしたのは近ちかくの幼稚園ようちえんの園児えんじたちで、血ちだらけの猫ねこが遊あそびに来きたので昼ひるの休やすみ時間じかんに見みに来きたという。知しらせで喜美子きみこが駆かけ付つけたとき、同居どうきょしている辻本つじもとと阿津子あつこは不在ふざいだった。暖炉だんろからは女おんなの裸体らたい写真しゃしんの燃もえ残のこりが発見はっけんされていたが、顔かおの部分ぶぶんは焼失しょうしつしていた。そして、奥おくの押入おしいれから辻本つじもとの絞殺こうさつ死体したいが発見はっけんされた。

糟谷かすやや喜美子きみこからのき取きとりを済すませた金田一きんだいちと等々力とどりきが崖がけの岨道そばみちを登のぼってアトリエへ行いくと、外出がいしゅつ先さきから戻もどったところだという上条かみじょうが出迎でむかえた。前夜ぜんやのことを聞きくと、集中しゅうちゅう豪雨ごううがあったこともあり、崖がけ下かには降おりていないという。

3日にちほどして金田一きんだいちが等々力とどりきを訪たずね、上条かみじょうが集中しゅうちゅう豪雨ごううの直前ちょくぜんに崖がけ下かから登のぼってきたという目撃もくげき証言しょうげんがあったことを聞きく。改あらためて追及ついきゅうすると、猫ねこ館かんを訪たずねたことは認みとめたが、被害ひがい者しゃは上着うわぎを着きており、猫ねこも居いなかったと供述きょうじゅつしたという。また、阿津子あつこはまだ行方ゆくえ不明ふめいだが、集中しゅうちゅう豪雨ごううの中なかを日暮里にっぽりの方ほうへ急いそぐ姿すがたが目撃もくげきされていた。

金田一きんだいちはしばらく考かんがえて、現場げんばの血ちをどう鑑定かんていしたか、人間にんげんの血ちを猫ねこの血ちでカムフラージュしている可能かのう性せいを想定そうていしたかと確認かくにんする。金田一きんだいちは山陽さんよう寺てらの裏うらの落おち葉ば溜だめに最近さいきん引ひっくり返かえした跡あとがあるので、もう1人ひとり殺ころされているのではないかと考かんがえていた。

落おち葉ば溜だめの中なかからは阿津子あつこの死体したいが発見はっけんされた。上着うわぎの上うえから刺殺しさつされていて、スカートが持もち去さられていた。このことから、犯人はんにんは女おんなで、ハマコの上着うわぎと阿津子あつこのスカートを利用りようして立たち去さる阿津子あつこを演えんじたと想像そうぞうされた。それからまもなく喜美子きみこが遺書いしょを何なにも残のこさずに服毒ふくどく自殺じさつし、事件じけんはわからないことが数多かずおおく残のこされる結果けっかとなった。

上条かみじょうの告白こくはくによると、シベリアに抑留よくりゅうされていた昭和しょうわ25年ねんごろ、妻つまの冴子さえこが当時とうじの猫ねこ館かんの所有しょゆう者しゃ・古谷ふるやの秘密ひみつパーティに参加さんかしていた。古谷ふるやが頓死とんししたため秘密ひみつが守まもられた形かたちになったが、古谷ふるやは会員かいいんのいかがわしいポーズを撮影さつえいしてユスリの種たねに使つかおうとしていたらしい。それをハマコが偶然ぐうぜんに発見はっけんし、冴子さえこはゆすられたあげく自殺じさつしたらしい。

古谷ふるやが頓死とんししたとき喜美子きみこは18歳さいで、やはり秘密ひみつパーティに参加さんかしていてハマコにゆすられていた可能かのう性せいがある。阿津子あつこの死体したいを運はこんだのは、喜美子きみこを不憫ふびんに思おもった糟谷かすやがかばおうとしたからではないかと思おもわれた。しかし、自殺じさつした喜美子きみこの部屋へやの火鉢ひばちからは焼やき捨すてられた写真しゃしんの灰はいがうずたかく積つもっており、自分じぶんが脅迫きょうはく者しゃになるつもりだったと考かんがえられた。

登場とうじょう人物じんぶつ[編集へんしゅう]

金田一きんだいち耕こう助すけ（きんだいちこうすけ）: 私立しりつ探偵たんてい。
賀が川波かわなみ満子みつこ（かがわはまこ）: ドクトル・ハマコを名乗なのる占うらない師し。3年ねんほど前まえから「猫ねこ館かん」と呼よばれる古館ふるたてに住すんでいた。
糟谷かすや天民てんみん（かすやてんみん）: 「猫ねこ館かん」の大家たいか。近ちかくにある山陽さんよう寺てらの住職じゅうしょくで、山陽さんよう幼稚園ようちえんの園長えんちょうでもある。
松崎まつざき喜美子きみこ（まつざききみこ）: 山陽さんよう幼稚園ようちえんの保母ほぼ。糟谷かすやの妻つまが引ひき取とって育そだてた戦災せんさい孤児こじ。数かぞえで27歳さい。小しょう造づくりでポチャっとした美人びじん。
佐藤さとう阿津子あつこ（さとうあつこ）: ハマコの内弟子うちでし。
辻本つじもと咲子さきこ（つじもとさきこ）: ハマコの婆ばばや。
佐伯さえき幸みゆき造づくり（さえきこうぞう）: ハマコが「猫ねこ館かん」を借かりたときの身元みもと引受ひきうけ人じん。保守党ほしゅとうの領袖りょうしゅう。前年ぜんねん12月がつに死去しきょ。
上条かみじょう恒ひさし樹じゅ（かみじょうつねき）: 画家がか。「猫ねこ館かん」の裏うらの崖がけの上うえにある赤あかい屋根やねのアトリエに住すんでいる。
上条かみじょう冴子さえこ（かみじょうさえこ）: 恒つね樹じゅの妻つま。ノイローゼに悩なやんでいてハマコの信者しんじゃだったが、前年ぜんねんの秋あきに睡眠薬すいみんやくの飲のみすぎで死去しきょ。
古谷ふるや磯いそ吉きち（ふるやいそきち）: 「猫ねこ館かん」の前ぜん所有しょゆう者しゃで写真しゃしん家か。上野うえのあたりから連つれてきた家出いえで娘むすめのいかがわしい写真しゃしんを撮とったりして何なん度どか摘発てきはつされたことがある。戦後せんごは紳士しんし淑女しゅくじょを集あつめて桃色ももいろクラブを開ひらいたりしていた。9年ねん前まえに秘密ひみつパーティの最中さいちゅうに死亡しぼう。
等々力とどりき（とどろき）: 警視庁けいしちょう警部けいぶ。
遠藤えんどう（えんどう）: 等々力とどりきの部下ぶかの刑事けいじ。警視庁けいしちょうを訪たずねてきた金田一きんだいちを現場げんばへ連つれて行いった。
日比野ひびの（ひびの）: 警部補けいぶほ。所轄しょかつの谷中やなか署しょの捜査そうさ主任しゅにん。
浜中はまなか（はまなか）: 谷中たになか署しょの刑事けいじ。
一柳いちりゅう（ひとやなぎ）: 谷中たになか署しょの古狸ふるだぬきの刑事けいじ。最近さいきんは病気びょうきでひきこもりがち。古谷ふるやの事件じけんをよく知しっている。