首くび (横溝よこみぞ正史せいし)

金田一きんだいち耕こう助すけ > 首くび (横溝よこみぞ正史せいし)

首くび
作者さくしゃ	横溝よこみぞ正史せいし
国くに	日本にっぽん
言語げんご	日本語にほんご
ジャンル	推理すいり小説しょうせつ
発表はっぴょう形態けいたい	雑誌ざっし掲載けいさい
初出しょしゅつ情報じょうほう
初出しょしゅつ	『宝石ほうせき』1955年ねん5月がつ号ごう
刊本かんぽん情報じょうほう
収録しゅうろく	『湖みずうみ泥どろ――他た四よん篇へん』
出版しゅっぱん元もと	小山こやま書店しょてん
出版しゅっぱん年月日ねんがっぴ	1956年ねん6月がつ
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『首くび』（くび）は、横溝よこみぞ正史せいしの短編たんぺん推理すいり小説しょうせつ。「金田一きんだいち耕こう助すけシリーズ」の一ひとつ。1955年ねん、『宝石ほうせき』昭和しょうわ30年ねん5月がつ号ごう（岩谷いわたに書店しょてん）に掲載けいさいされた。雑誌ざっし『キング』昭和しょうわ24年ねん7月がつ増刊ぞうかん号ごうに掲載けいさいされた「悪霊あくりょう」を原型げんけいとしている。なお、『宝石ほうせき』昭和しょうわ30年ねん4月がつ号ごうの次号じごう予告よこくページでは「悪霊あくりょうの翼つばさ」とされていた。

角川かどかわ文庫ぶんこ『首くび』 (ISBN 978-4-04-130443-3) に収録しゅうろくされている。

あらすじ

大阪おおさかのほうに事件じけんがあって思おもいのほか早はやく片付かたづいた金田一きんだいちは、ついでにと足あしをのばして岡山おかやま県警けんけいの磯いそ川がわ警部けいぶを訪たずね、どこか静しずかなところで静養せいようしたいと相談そうだんした。そこで磯いそ川がわが理想りそう的てきな場所ばしょがあるといって、うむをいわさず連つれてきたのは、岡山おかやま県けんでも兵庫ひょうご県けんにちかい県境けんきょうの、ロろーカル線かるせんのどの駅えきからでもバスに乗のって小一時間こいちじかん、さらにバスの停留所ていりゅうじょがあるN町まちから峠とうげを越こえてこれまた小一時間こいちじかんは歩あるかねばならぬような、山やまの中なかの辺鄙へんぴな部落ぶらくから少すこし離はなれたところにある「熊くまの湯ゆ」という湯治とうじ場じょうであった。

そこは、約やく300年ねん前まえに当時とうじの名主なぬし・鎌田かまた十じゅう右みぎ衛門えもんが何者なにものかに殺害さつがいされ、それを契機けいきとして一揆いっきが一斉いっせいに決起けっきするという事件じけんがあった場所ばしょである。十じゅう右みぎ衛門えもんは「名主なぬしの滝たき」の上うえにある土牢つちろうに押おし込こめられていたが、番人ばんにんが切きり殺ころされ、十じゅう右みぎ衛門えもんは首くびと胴どうを切きり離はなされて首くびは滝たきの途中とちゅうに突つき出でた平ひらたい岩いわ（のちに「獄門ごくもん岩がん」と呼よばれるようになる）の上うえに晒さらし首くびのように置おかれ、胴どうは少すこし下手へたの「首くびなしの淵ふち」に浮ういていたという。騒さわぎの責任せきにんを負おう形かたちで領主りょうしゅは国替くにがえとなり、新あたらしい領主りょうしゅの許ゆるしを得えて十じゅう右みぎ衛門えもんを国士こくし（クニシン）様さまとして神社じんじゃに祭まつっており、土牢つちろうの跡あとも薬師くすしを祭まつった「お籠こもり堂どう」になっていた。

そして1年ねん前まえの10月25日にち、十じゅう右みぎ衛門えもんの事件じけんになぞらえるかのような殺人さつじん事件じけんが発生はっせいした。猟りょうに出でた達夫たつおは片山かたやまや伊豆いずと3人にんで3匹ひきの犬いぬを連つれて「お籠こもり堂どう」で夜よるを明あかしたが、朝あさになると達夫たつおの姿すがたが消きえていた。残のこった2人ふたりは各々おのおのに猟りょうに駆かけずりまわって約束やくそくの時間じかんに戻もどってきたが、達夫たつおの犬いぬも銃じゅうもそのままなので、犬いぬを連つれ銃じゅうを持もって朝あさ9時じごろ帰かえってきた。山やまで怪我けがでもしたかと人手ひとでを出だして探さがしたところ、正午しょうご前まえごろに達夫たつおの首くびが「獄門ごくもん岩がん」に乗のせられているのが発見はっけんされ、胴体どうたいは「首くびなしの淵ふち」に流ながれ着ついていたのである。そのあと道子みちこは気きが変へんになり、3週間しゅうかんほどのちに「首くびなしの淵ふち」に身みを投なげて死しんだ。

達夫たつおの死因しいんは心臓しんぞうをひと突とっきに抉くじられたもので、凶器きょうきは発見はっけんされず、素人しろうとがあまり切きれない刃物はもので首くびを切きったらしかった。達夫たつおは素行そこうが悪わるく動機どうきのある者ものも相当そうとうあったが、はっきりした証拠しょうこは出でなかった。犯行はんこう時刻じこくは夜中よなかの2時じか3時じごろで、ちょうどそのころ強つよい雨あめがあり、達夫たつおの姿すがたを探さがすときに踏ふみ荒あらされたこともあって犯人はんにんの足跡あしあとは不明ふめいだった。片山かたやまや伊豆いずが酔よって目めを覚さまさなかったというのは犬いぬが吠ほえなかったということであり、誰だれか親したしい人物じんぶつが達夫たつおを連つれ出だしたことになる。しかし、それ以上いじょうのことは判わからないままになってしまった。磯いそ川がわはその現場げんばへ金田一きんだいちを連つれてきたのである。

磯いそ川がわと金田一きんだいちが山里やまざとへ着つくと、なにやらごったがえすような、だれもかれも浮うき足立あしだって活気かっきあふれる感かんじであった。「熊くまの湯ゆ」に着ついてみると、映画えいがのロケーション隊たいで母屋もやの客室きゃくしつは塞ふさがっており、2人ふたりは道子みちこの居間いまだった部屋へやへ通とおされた。

そのあと磯いそ川がわに現場げんばへ案内あんないされた金田一きんだいちは、滝たきの右側みぎがわの屏風岩びょうぶいわのてっぺんにある赤松あかまつの大木たいぼくの根元ねもとを登のぼり始はじめた。そして、そこから「獄門ごくもん岩がん」を見下みおろすことができ、首くびを突つき落おとした可能かのう性せいがあることを指摘してきする。

宿やどに戻もどって風呂ふろに案内あんないされた金田一きんだいちは、カラスの行水ぎょうずいを済すませて長湯ながゆの磯いそ川がわを置おいて一人ひとりで部屋へやへ戻もどってきた。鼠ねずみが走はしるのを見みた金田一きんだいちは、床ゆか脇わきの上うえにかかっている額がくの裏うらにある穴あなを見みつけ、その中なかから女おんなの筆跡ひっせきによる書かき置おきの書かき出だし部分ぶぶんを見みつける。

夕食ゆうしょく後ご、磯いそ川がわから詳くわしい経緯けいいを聞きかされた金田一きんだいちは、夜明よあかしする場合ばあい通常つうじょうなら野獣やじゅうに襲おそわれることを警戒けいかいして犬いぬは放はなち飼がいにしておくものなのに、達夫たつおの犬いぬはつながれていたということに疑問ぎもんを呈ていする。

映画えいが撮影さつえいは長雨ながあめで遅おくれていたのが前々まえまえ日びから晴はれて捗はかどったので、あらかた引ひき揚あげて5人にん残のこることになった。そのうち里さと村むら、内山うちやま、服部はっとりの3人にんは、1年ねん前まえの事件じけんの話はなしを聞きいて興味きょうみを持もち、「お籠こもり堂どう」で夜よるを明あかした。そして、その近ちかくで撮影さつえいする予定よていで香川かがわと土井どいが朝あさになってから追おっていったところ、里さと村むらの首くびが「獄門ごくもん岩がん」で、胴体どうたいが「首くびなしの淵ふち」で発見はっけんされた。内山うちやまと服部はっとりは寝ねる前まえに酒さけを飲のんだが、前後不覚ぜんごふかくに寝ねてしまい目覚めざめると頭あたまが重おもく、睡眠薬すいみんやくを飲のまされた可能かのう性せいがあるという。また、金田一きんだいちは里さと村むらの靴くつの状態じょうたいが自分じぶんで履はいたにしては不自然ふしぜんであることに気付きづき、「お籠こもり堂どう」で寝ねたときは3人にんとも靴くつを履はいていたことを内山うちやまと服部はっとりからき出きだす。

翌日よくじつの昼過ひるすぎ、里さと村むらの解剖かいぼう結果けっかが判明はんめいした。23日にち夜よる12時じ前後ぜんこうに心臓しんぞうのひと突とっきで即死そくし、その直後ちょくごに首くびが切断せつだんされていた。また、里さと村むらは多量たりょうの睡眠すいみん剤ざいを飲のんでおり、「お籠こもり堂どう」に残のこっていた3つのコップのうち2つだけからも睡眠すいみん剤ざいが検出けんしゅつされた。宿やどに残のこっていた香川かがわと土井どいのアリバイを確認かくにんしたところ、寝付ねつけないといって12時じ過すぎまで幾代いくよや菊きくと話込はなしこんでいたことが判明はんめいする。また、金田一きんだいちたちが逗留とうりゅうしている道子みちこの居間いまだった部屋へやは母屋もやがたてこんだ場合ばあいに客室きゃくしつとしてよく使つかっており、前月ぜんげつの終おわりごろにロケハンに来きた里さと村むら、土井どい、マネージャー・都築つづきが泊とまっていたことも判明はんめいする。

映画えいがは残のこり場面ばめんが少すくなかったので、助監督じょかんとく・土井どいが中心ちゅうしんになって撮影さつえいを続つづけていた。金田一きんだいちと磯いそ川がわはその現場げんばへ向むかい、「獄門ごくもん岩がん」を見下みおろせる場所ばしょへ登のぼる赤松あかまつの根元ねもとにあった馬頭観音ばとうかんのんが無なくなっていることを知しる。ここは里さと村むら死体したい発見はっけん直後ちょくごに金田一きんだいちがその前日ぜんじつには無なかった「田口たぐち」の名ながある日本にっぽん手てぬぐいを発見はっけんした場所ばしょでもある。この手てぬぐいは毎朝まいあさのように常習じょうしゅう的てきに松茸まつたけを盗ぬすめ採としている田口たぐち玄げん蔵ぞうのものであった。

撮影さつえいが終おわって戻もどってきた一いち行ぎょうに出会であった金田一きんだいちが、土井どいに語かたりかけて真相しんそうを見抜みぬいていることをほのめかすと、土井どいは滝たきに身みを投なげて自殺じさつする。土井どいはスーツケースに遺書いしょを残のこしていた。殺害さつがい動機どうきは土井どいの愛あいしている女おんなを里さと村むらが妊娠にんしんさせ、堕胎だたい薬やくを飲のむことを勧すすめて死しに至いたらせたことであり、熊くまの湯ゆの時計とけいを30分ふん進すすめてアリバイを確保かくほし「お籠こもり堂どう」へ行いって里さと村むらを殺害さつがいしたという。しかし、この遺書いしょに書かかれた犯行はんこう手順てじゅんには偽いつわりがあった。

こんどこそゆっくり静養せいようしようと、さらに奥おくにある鶴づる温泉おんせんへ舞台ぶたいをうつした金田一きんだいちは、磯いそ川がわに「職業しょくぎょう的てき良心りょうしん」を捨すてて「人道的じんどうてき良心りょうしん」で満足まんぞくせねばならないと断ことわったうえで真相しんそうを説明せつめいする。田口たぐち玄げん蔵ぞうは松茸まつたけ盗ぬすめ採とで朝あさ早はやくに現場げんばを通とおっているはずだが騒さわぎ立たてなかった。それはそのときには生首なまくびが無なかったからである。里さと村むらは内山うちやまと服部はっとりを睡眠すいみん剤ざいで眠ねむらせ、千代ちよを口説くどくつもりで熊くまの湯ゆへ戻もどってきた。これは土井どいの教唆きょうさによるもので、里さと村むらの体内たいないから睡眠すいみん剤ざいが検出けんしゅつされるよう飲のませたうえで殺害さつがいした。そして、死体したい全体ぜんたいを「お籠こもり堂どう」付近ふきんへ運はこぶのは困難こんなんなので、胴体どうたいは裏うらの渓流けいりゅうに流ながして「首くびなしの淵ふち」へ流ながれつくようにし、首くびだけをフィルム缶かんへ入いれ、翌朝よくあさになってから「獄門ごくもん岩がん」へ運はこんだのである。フィルムはもう1つの缶かんに入いれて馬頭観音ばとうかんのんのあたりに前まえもって隠かくし、首くびを運はこんだ缶かんは馬頭観音ばとうかんのんを入いれて滝壷たきつぼの中なかへ沈しずめた。

そしてこれは、鼠ねずみの穴あなに隠かくしてあった道子みちこの書置かきおきを土井どいが見みつけ、そこに書かかれていた前年ぜんねんの事件じけんの経緯けいいに倣ならったものであった。達夫たつおは「お籠こもり堂どう」で片山かたやまと伊豆いずを眠ねむらせて熊くまの湯ゆへ来きて道子みちこを殺ころそうとしたが、はずみで自分じぶんが刺さされてしまった。そこで、幾代いくよが道子みちこを庇かばうため、今回こんかいと同おなじように胴体どうたいは渓流けいりゅうに流ながし、達夫たつおを捜索そうさくする人々ひとびとに弁当べんとうを持もって行いく際さいに首くびだけを運はこんで「獄門ごくもん岩がん」に置おき、クニシン様さまの祟たたりに仕立したてたのである。

土井どいは、幾代いくよが道子みちこを庇かばったのは啓一けいいちが保護ほご者しゃを失うしなわないためであることも解わかっていた。そこで、前年ぜんねんの幾代いくよの犯行はんこうが明あきらかにならないよう、あえて真相しんそうを隠かくしたのである。金田一きんだいちのいう「職業しょくぎょう的てき良心りょうしん」を捨すてるというのは、この真相しんそうを明あきらかにしないことであった。

登場とうじょう人物じんぶつ

金田一きんだいち耕こう助すけ

私立しりつ探偵たんてい。

磯いそ川がわ常次郎つねじろう

岡山おかやま県警けんけい警部けいぶ。

筒井つつい

N町まちの警部補けいぶほ。捜査そうさ主任しゅにん。

井口いぐち

地元じもとの巡査じゅんさ。

幾代いくよ

熊くまの湯ゆのおかみ。先々さきざき代だいの妹いもうと、すなわち道子みちこの叔母おば。いちど嫁かしたが早はやく死しに別わかれ、兄嫁あによめが亡なくなったあと商売しょうばいのほうを手伝てつだうようになっていた。

道子みちこ

熊くまの湯ゆ先々さきざき代だいの娘むすめ。1年ねん前まえ、夫おっとの死しの3週間しゅうかんほどのちに自殺じさつ。

達夫たつお

熊くまの湯ゆ先代せんだい、すなわち道子みちこの婿養子むこようし。1年ねん前まえの事件じけんの被害ひがい者しゃ。享年きょうねん30。最さい寄よせのバス停ばすていがあるN町まちの滝田たきた家かの次男じなん。養子ようしに入はいって3年ねんくらい経たってN町まちへ羽根はねを伸のばすようになり、酌婦しゃくふのひとりに引ひっかかって熊くまの湯ゆの財産ざいさんを食くい荒あらすようになっていた。

啓一けいいち

道子みちこと達夫たつおの息子むすこ。3歳さいか4歳さいくらい。

お菊きく

熊くまの湯ゆの女中じょちゅう。

片山かたやま

達夫たつおの猟りょう仲間なかま。N町まちの病院びょういんに勤つとめる若わかい医者いしゃ。

伊豆いず

達夫たつおの猟りょう仲間なかま。村役場むらやくばの書記しょき。

沢崎さわさき

里さと村むらの死後しご、興奮こうふん状態じょうたいの香川かがわに処置しょちをした年配ねんぱいの医者いしゃ。

田口たぐち玄げん蔵ぞう

獄門ごくもん岩がんが見みえやすい間道かんどうをよく通とおる、松茸まつたけ盗ぬすめ採と常習じょうしゅう者しゃ。

里村さとむら恭三きょうぞう

映画えいが監督かんとく。女優じょゆうを掘ほり出だし育そだてるのに妙みょうを得えているが、色好いろごのみでも有名ゆうめい。

内山うちやま進すすむ治郎じろう

男優だんゆう。5尺しゃく7寸すんの堂々どうどうたる体躯たいくと彫ほりのふかい荒あらけずりな容貌ようぼうが売うり物もので、声こえは深ふかいひびきのあるバリトン。

香川かがわ千代ちよ

新人しんじん女優じょゆう。

服部はっとり千せん吉きち

カメラマン。40歳さいくらいの痩やせぎすの色いろの青黒あおぐろい男おとこ。

土井どい新しん

助監督じょかんとく。色白いろじろのいかにもお坊ぼっちゃんらしい美貌びぼうの好男子こうだんし。

原型げんけい作品さくひん

原型げんけい作品さくひんである『悪霊あくりょう』は『横溝よこみぞ正史せいし探偵たんてい小説しょうせつコレクション3 聖女せいじょの首くび』（出版しゅっぱん芸術げいじゅつ社しゃ ISBN 978-4-88293-260-4）に収録しゅうろくされている。里さと村むら殺害さつがいは昭和しょうわ13年ねん10月がつ、達夫たつお殺害さつがいはその年としの年始ねんしめという設定せっていで、事件じけん関係かんけい者しゃの氏名しめいや属性ぞくせいは改稿かいこう後ごとほぼ同おなじだが、純じゅんな土井どいがいじめられるのを幾代いくよが不憫ふびんがって可愛かわいがり、土井どいも甘あまえていたことになっている。約やく300年ねん前まえに土牢つちろうに幽閉ゆうへいされたのは領主りょうしゅの腹違はらちがいの兄あにであり、領主りょうしゅの腹心ふくしんが首くびと胴どうを切きり離はなして滝たきの上うえから落おとしたところ首くびだけが獄門ごくもん岩がんに引ひっかかったと伝承でんしょうされている。

物語ものがたりは戦後せんご、熊くまの湯ゆの宿泊しゅくはく客きゃく・井出いでに幾代いくよが退屈たいくつしのぎという名目めいもくでアルバムを届とどけ、そのあと客室きゃくしつを訪たずねて事件じけんのことを話はなすという形かたちで進行しんこうする。井出いでの正体しょうたいは事件じけんのあと応召おうしょうして風貌ふうぼうが変かわった土井どいであり、幾代いくよはそのことに気付きづいていた。幾代いくよは事件じけんが達夫たつおの事件じけんとそっくりであることから犯人はんにんが判わかっていたが、犯人はんにんがなぜ真相しんそうを知しっていたか判わからないという。それに対たいして土井どいは部屋へやの置時計おきどけいから見みつけた道子みちこの遺書いしょを示しめし、誰だれも幾代いくよの犯行はんこうは知しらないから長生ながいきするようい残いのこす。戦争せんそうで肉親にくしんを全すべて失うしなった土井どいは里さと村むらを殺ころした場所ばしょで自殺じさつするつもりで来きており、既すでに服毒ふくどくしていた。

改定かいてい増補ぞうほ版ばん

2006年ねん6月がつに発見はっけんされ二松学舎大学にしょうがくしゃだいがくが保管ほかんしている所蔵しょぞう品ひんに、本ほん作さくの切きり抜ぬきに加筆かひつする形かたちで作成さくせいされた「改定かいてい増補ぞうほ版ばん」が含ふくまれており、2010年ねん『横溝よこみぞ正史せいし研究けんきゅう 3』（戎えびす光ひかり祥さち出版しゅっぱん ISBN 978-4-86403-024-3）に収録しゅうろく後ご、2012年ねん『横溝よこみぞ正史せいし探偵たんてい小説しょうせつコレクション5 消けすな蝋燭ろうそく』（出版しゅっぱん芸術げいじゅつ社しゃ ISBN 978-4-88293-424-0）に収録しゅうろくされている。元もとの作品さくひんから約やく5割わり増ましに相当そうとうする2万まん字じ以上いじょうの増量ぞうりょうによって、作品さくひん世界せかいの質感しつかんがより確たしかなものとなっている。

磯いそ川がわが金田一きんだいちに前年ぜんねんの事件じけんをアルバムの写真しゃしんで詳細しょうさいに説明せつめいする形かたちに変更へんこうされ、淵ふちの流ながれの構造こうぞうも詳細しょうさいに描写びょうしゃされている。また、里さと村むらの首くびが発見はっけんされたのが行方ゆくえ不明ふめいになった日ひの夕方ゆうがた、胴体どうたいの発見はっけんは翌朝よくあさに変更へんこうされ、発見はっけんした地元じもと住民じゅうみんの名なや属性ぞくせいが設定せっていされて、経緯けいいや他たの地元じもと住民じゅうみんの反はん応おうなどが詳細しょうさいに描写びょうしゃされている。死体したい発見はっけん直後ちょくごの映画えいが関係かんけい者しゃや熊くまの湯ゆ関係かんけい者しゃからのき取きとりも詳細しょうさい化かされている。さらに、推理すいりの論理ろんりに関かかわる細こまかい描写びょうしゃが追加ついかされ、磯いそ川がわや熊くまの湯ゆ関係かんけい者しゃの科白せりふが自然しぜんな方言ほうげんに修正しゅうせいされ、食事しょくじ内容ないようの描写びょうしゃが詳細しょうさい化かされるなどの変更へんこうがある。なお、里さと村むら殺害さつがい後ごの地元じもと住民じゅうみんの反応はんのうを描写びょうしゃする記述きじゅつに「田尻たじり村むら」という村むら名めいが出でてくる。

テレビドラマ

1984年版ねんばん

『名めい探偵たんてい・金田一きんだいち耕こう助じょシリーズ・獄門ごくもん岩がんの首くび』は、TBS系列けいれつの2時じ間あいだドラマ「ザ・サスペンス」（毎週まいしゅう土曜日どようび21:02 - 22:53）で1984年ねん3月3日にちに放送ほうそうされた。

• 原作げんさくで明あきらかでない村むらの名なを「合田ごうた村むら」、熊くまの湯ゆの一家いっかの苗字みょうじを「蓮池はすいけ」とし、蓮池はすいけ家かは鎌田かまた十じゅう右みぎ衛門えもんを裏切うらぎった一族いちぞくの末裔まつえいとしている。
• 金田一きんだいち逗留とうりゅう中ちゅうの被害ひがい者しゃ・里村さとむら恭三きょうぞうを映画えいが監督かんとくから考古学こうこがく教授きょうじゅに変更へんこうしている。
• 里さと村むらに妊娠にんしんさせられた土井どいの恋人こいびとは千代ちよの妹いもうとでもあり、里さと村むらは堕胎だたい薬やくと称しょうして毒薬どくやくを飲のませて殺害さつがいしていた。
• 芸者げいしゃ・桃太郎ももたろうが登場とうじょう、金田一きんだいちが気きに入いって付つきまとい、調査ちょうさ先さきに現あらわれていろいろと情報じょうほう提供ていきょうする。
• 土井どいが里さと村むらの首くびを運はこぶ入いれ物ものには、桃太郎ももたろうの鬘かずらの箱はこを盗ぬすんで利用りようしていた。
• 鎌田かまた十じゅう右みぎ衛門えもんの末裔まつえい・鎌田かまた玄げん蔵ぞう（原作げんさくの田口たぐち玄げん蔵くら）は幾代いくよの「引ひき裂さかれた恋人こいびと」で、道子みちこは実じつは2人ふたりの娘むすめである。
• 前年ぜんねんの事件じけんは、出生しゅっしょうの秘密ひみつを知しった達夫たつおが道子みちこを殺ころそうとしたのを玄げん蔵ぞうが阻止そししようとして殺害さつがいしたものだった。
• 土井どいは道子みちこの遺書いしょを読よんでいたため、秘密ひみつを守まもるため玄げん蔵ぞうが殺害さつがいし炭焼すみやき小屋こやに埋うめていた。
• 金田一きんだいちが道子みちこの出生しゅっしょうの秘密ひみつを探さぐろうとすると玄げん蔵ぞうは産婆さんばを殺害さつがい、金田一きんだいちも自転車じてんしゃに細工ざいくして殺ころそうとする。
• 幾代いくよが玄げん蔵ぞうの名なを語かたって金田一きんだいちを呼よび出だし玄げん蔵ぞうの猟銃りょうじゅうで撃うとうとするが、猟銃りょうじゅうを持もち出だされたことに気付きづいた玄げん蔵ぞうが制止せいししようとして揉もみ合あいになり、玄げん蔵ぞうが腹部ふくぶに弾たまを受うける。
• 玄げん蔵ぞうは傷きずを負おったまま滝たきに投身とうしん自殺じさつ、幾代いくよも後ごを追おおうとするが金田一きんだいちが制止せいし、玄げん蔵ぞうが啓けい一いちのことを頼たのむとい残いのこしていたこともあり思おもい留とまる。

キャスト

• 金田一きんだいち耕こう助すけ - 古谷ふるや一行いっこう
• 蓮池はすいけ幾代いくよ - 久保くぼ菜穂子なほこ
• 蓮池はすいけ道子みちこ - 沢さわ亜樹あき
• 蓮池はすいけ達夫たつお - 小林こばやし芳宏よしひろ
• 鎌田かまた玄げん蔵ぞう - 夏木なつき勲いさお
• 芸者げいしゃ桃太郎ももたろう - 西川にしかわ峰子みねこ
• 里村さとむら恭三きょうぞう - 西沢にしざわ利明としあき
• 土井どい - 加納かのう竜りゅう
• 日和ひより警部けいぶ - ハナ肇はじめ