黒くろ蘭らん姫ひめ

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『黒くろ蘭らん姫ひめ』（くろらんひめ）は、横溝よこみぞ正史せいしの短編たんぺん推理すいり小説しょうせつ。「金田一きんだいち耕こう助すけシリーズ」の一ひとつ。

概要がいようと解説かいせつ

本ほん作さくは、1948年ねん（昭和しょうわ23年ねん）1月がつから3月がつにかけて『読物よみもの時事じじ』に連載れんさいされた。角川かどかわ文庫ぶんこ『殺人鬼さつじんき』 (ISBN 978-4-04-355504-8)、春陽しゅんよう文庫ぶんこ『壺つぼ中ちゅう美人びじん』 (ISBN 978-4-394-39520-1) に収録しゅうろくされている。京橋きょうばし裏うらの三角さんかくビルに構かまえた金田一きんだいち耕こう助すけの探偵たんてい事務所じむしょが登場とうじょうすることで注目ちゅうもくされる作品さくひんである。また、等々力とどろき警部けいぶの金田一きんだいちシリーズ初はつ登場とうじょう作品さくひんである^[1]。

なお、本ほん作さくでは金田一きんだいちが犯人はんにんの自殺じさつを制止せいしした直後ちょくごに等々力とどろき警部けいぶが身柄みがらを確保かくほしている。したがって、このとき金田一きんだいちと等々力とどろき警部けいぶが物理ぶつり的てきに近接きんせつした位置いちに居いたことは確実かくじつだが、何なんらかの会話かいわなどがあったかどうか不ふ明確めいかくである（金田一きんだいちに誰だれかが問といかける科白せりふがあるが、等々力とどろき警部けいぶか糟谷かすや六助ろくすけか不明ふめい）。そもそも、このとき両者りょうしゃの間あいだに面識めんしきがあったかどうか不明ふめいである^[2]。

あらすじ

閉店へいてん間際まぎわの銀座ぎんざの百貨店ひゃっかてん「エビス屋や百貨店ひゃっかてん」3階かいの宝石ほうせき売場うりばで、新人しんじん店員てんいんの伏見ふしみ順子じゅんこの前まえに黒くろい外套がいとうを着きて黒くろいヴェールを被こうむった女おんなが現あらわれ、ショーケースからブローチや指輪ゆびわを次々つぎつぎに出ださせて、品定しなさだめをし始はじめた。その最中さいちゅうにヴェールの女おんなが万引まんびきするのを目撃もくげきした順子じゅんこは、先輩せんぱい店員てんいんの磯野いそのアキがトイレに中座ちゅうざしていたため3階かいの主任しゅにんの沢井さわい啓あきら吉きちに目配めくばせして万引まんびきを知しらせた。そうして沢井さわいがヴェールの女おんなを引ひき止とめようとするのを隣となりの婦人ふじん服ふく売場うりばの柴崎しばざき珠江たまえが気きが付つき止どめようとしたが間まに合あわず、引ひき止とめた沢井さわいはいきなりヴェールの女おんなに刺さし殺ころされ、女おんなはそのまま逃走とうそうしてしまった。

事件じけんの知しらせを聞きいて駆かけ付つけた警視庁けいしちょうの等々力とどろき警部けいぶは、関係かんけい者しゃからヴェールの女おんなのあらましを聴取ちょうしゅした。それによると、「黒くろ蘭らん姫ひめ」とあだ名なされるヴェールを被こうむった女おんなが、ときどきエビス屋や百貨店ひゃっかてんに現あらわれては万引まんびきをするが、その万引まんびきを捕とらえてはならず、後あとで万引まんびきされた品物しなものの伝票でんぴょうを支配人しはいにんの糟谷かすや六助ろくすけに回まわす規則きそくになっている。ただ、事件じけんが起おきたときは宝石ほうせき売場うりばには新人しんじんの順子じゅんこしかおらず、また刺殺しさつされた沢井さわいも1週間しゅうかん前まえに大阪おおさか支店してんから転勤てんきんしてきたばかりで、どちらも黒くろ蘭らん姫ひめとこの規則きそくを知しらなかったため、黒くろ蘭らん姫ひめを引ひき止とめようとしたのである。

黒くろ蘭らん姫ひめは、その楚々そそたる容姿ようしと贅沢ぜいたくな服装ふくそうから上流じょうりゅう階級かいきゅうの令嬢れいじょうと見みなされており、恐おそらく糟谷かすやが黒くろ蘭らん姫ひめの家いえに万引まんびきされた品物しなものの代金だいきんをまとめて請求せいきゅうしているのだろうと考かんがえられた。そこで等々力とどろき警部けいぶは糟谷かすやに黒くろ蘭らん姫ひめの素性すじょうを追求ついきゅうしたところ、糟谷かすやは黒くろ蘭らん姫ひめと殺人さつじんを犯おかしたヴェールの女おんなは別人べつじんだと主張しゅちょうした。最近さいきん、黒くろ蘭らん姫ひめの家いえに請求せいきゅうする伝票でんぴょうに記載きさいがあるが、黒くろ蘭らん姫ひめの家いえの金庫きんこに保管ほかんされてはいない品物しなものがあり、どうも黒くろ蘭らん姫ひめを装よそおった別べつの万引まんびき犯はんが現あらわれているように思おもわれる。そして、3階かいの主任しゅにんをしていた宮武みやたけ謹二きんじにだけその疑惑ぎわくを打うち明あけて、気きを付つけるように注意ちゅういしていた。ところが宮武みやたけは1週間しゅうかんほど前まえ、不都合ふつごうがあって解雇かいこしたという。

そして、糟谷かすやを尋問じんもん中ちゅうの等々力とどろき警部けいぶに、その宮武みやたけが7階かいの喫茶きっさ室しつで殺ころされているのが見みつかったとの知しらせが入はいる。コーヒーに入いれられた青酸せいさんカリによる毒殺どくさつであった。そして、テーブルには2客きゃくのコーヒー茶碗ぢゃわんが残のこされており、宮武みやたけの前まえに座すわっていたのは黒くろい外套がいとうを着きて黒くろいヴェールを被こうむった女おんなだと店員てんいんは証言しょうげんした。

等々力とどりき警部けいぶが黒くろ蘭らん姫ひめに会あうため、糟谷かすやの案内あんないでエビス屋や百貨店ひゃっかてん社長しゃちょうの新野しんの恭平きょうへいの家いえを訪おとずれた。黒くろ蘭らん姫ひめの正体しょうたいは社長しゃちょう令嬢れいじょうの珠たま樹じゅで、自分じぶんの店みせから品物しなものを万引まんびきしていたのであった。そこへ帰かえってきた珠樹たまきが、等々力とどろき警部けいぶを見みて驚おどろいたはずみで床ゆかの上うえに落おとした手提てさげかばんの中なかから、血ちに染そまった短刀たんとうが飛とび出だしてきた。

珠樹たまきは実じつは糟谷かすやの婚約こんやく者しゃであり、彼女かのじょにかかった濃厚のうこうな嫌疑けんぎを晴はらすため、糟谷かすやは京橋きょうばし裏うらの三角さんかくビルの探偵たんてい事務所じむしょを訪おとずれ金田一きんだいち耕こう助すけに真相しんそう究明きゅうめいを依頼いらいする。

登場とうじょう人物じんぶつ

金田一きんだいち耕こう助すけ（きんだいちこうすけ）: 私立しりつ探偵たんてい。
等々力とどりき大志ひろし（とどろきだいし）: 警視庁けいしちょうの警部けいぶ。
沢井さわい啓あきら吉よし（さわいけいきち）: 第だい1の被害ひがい者しゃ。エビス屋や百貨店ひゃっかてん3階かいの主任しゅにん。1週間しゅうかんほど前まえに大阪おおさか支店してんから転勤てんきんしてきた。33歳さい。
宮武みやたけ謹二きんじ（みやたけきんじ）: 第だい2の被害ひがい者しゃ。エビス屋や百貨店ひゃっかてん3階かいの前ぜん主任しゅにん。1週間しゅうかんほど前まえに不正ふせい事件じけんのため解雇かいこされた。35歳さい。
伏見ふしみ順子じゅんこ（ふしみじゅんこ）: エビス屋や百貨店ひゃっかてん3階かい宝石ほうせき売場うりばの店員てんいん。第だい1の事件じけんの目撃もくげき者しゃ。18歳さい。
磯野いそのアキ（いそのアキ）: エビス屋や百貨店ひゃっかてん3階かい宝石ほうせき売場うりばの主任しゅにん。第だい1の事件じけんのとき席せきを外はずしていた。25歳さい。
柴崎しばざき珠江たまえ（しばさきたまえ）: エビス屋や百貨店ひゃっかてん3階かい婦人ふじん服ふく売場うりばの主任しゅにん。第だい1の事件じけんの目撃もくげき者しゃ。26歳さい。
新野しんの珠樹たまき（にいのたまき）: エビス屋や百貨店ひゃっかてん社長しゃちょう令嬢れいじょう。「黒くろ蘭らん姫ひめ」と称しょうされる常習じょうしゅうの万引まんびき娘むすめ。25歳さい。
糟谷かすや六助ろくすけ（かすやろくすけ）: エビス屋や百貨店ひゃっかてん支配人しはいにん。珠樹たまきと婚約こんやく中ちゅう。36歳さい。
新野しんの恭平きょうへい（にいのきょうへい）: エビス屋や百貨店ひゃっかてん社長しゃちょう。
マダム: エビス屋や百貨店ひゃっかてん7階かい喫茶きっさ室しつのマダム。氏名しめい不明ふめい。第だい2の被害ひがい者しゃが死亡しぼうしていることに最初さいしょに気付きづく。
綾子あやこ
清子きよこ: エビス屋や百貨店ひゃっかてん7階かい喫茶きっさ室しつの店員てんいん。マダムは「子供こどもたち」と呼よんでいるが具体ぐたい的てきな年齢ねんれいは不明ふめい。
川崎かわさき: エビス屋や百貨店ひゃっかてん7階かい喫茶きっさ室しつの常連じょうれん客きゃく^[3]。6階かいの商事しょうじ会社かいしゃに勤務きんむ。第だい2の被害ひがい者しゃと黒くろ蘭らん姫ひめとの様子ようすを見みていた。

テレビドラマ

NHK BSプレミアムの『シリーズ横溝よこみぞ正史せいし短たん編集へんしゅう金田一きんだいち耕こう助じょ登場とうじょう！』の第だい1回かいとして、2016年ねん 11月24日にちに放送ほうそう^[4]。演出えんしゅつ・脚本きゃくほんは宇野うの丈たけ良りょう。

物語ものがたりの内容ないようはほぼ原作げんさく通どおりであり、科白せりふやナレーションのほぼ全すべてを原作げんさくから抽出ちゅうしゅつした文言もんごんで構成こうせいしているが、叙述じょじゅつ順序じゅんじょは変更へんこうされている。大おおきなところでは、糟谷かすや六助ろくすけが金田一きんだいち事務所じむしょを訪たずねるところから語かたり始はじめて糟谷かすやの説明せつめい内容ないようを映像えいぞうで示しめす形かたちで原作げんさくの冒頭ぼうとう部ぶに遡さかのぼっており、他ほかにも細こまかい順序じゅんじょ変更へんこうが多数たすうある。また、登場とうじょう人物じんぶつの動うごきを簡略かんりゃく化かする、以下いかの改変かいへんが見みられる。

喫茶きっさ室しつでの2人ふたりめの黒くろ蘭らん姫ひめは、テーブル越ごしに宮武みやたけ謹二きんじに話はなしかけたのではなく、立たち上あがって横よこで話はなしている。
最後さいごに3人にんめの黒くろ蘭らん姫ひめが登場とうじょうした後のちの登場とうじょう人物じんぶつの動うごきは全すべて3階かいの中なかであり、階段かいだんは使つかわれていない。特とくに磯野いそのアキは原作げんさくと逆ぎゃくに婦人ふじん服ふく売場うりばから離はなれる向むきへ動うごいている。

キャスト

金田一きんだいち耕こう助すけ：池いけ松まつ壮たけし亮あきら
磯野いそのアキ/黒くろ蘭らん姫ひめ（新野しんの珠樹たまき）：山田やまだ真しん歩ふ（二に役やく）
糟谷かすや六助ろくすけ：レイザーラモンHG
柴崎しばざき珠江たまえ：鳥居とりいみゆき
沢井さわい啓あきら吉きち：水間みずまロン
宮武みやたけ謹二きんじ：山中やまなか聡さとし
伏見ふしみ順子じゅんこ：相楽さがら樹いつき
綾子あやこ：矢島やじま理佐りさ
川崎かわさき：原はら元もと太ふとし仁ひとし
新野しんの恭平きょうへい：長ちょう勲いさお
マダム：町田まちだマリー
等々力とどりき警部けいぶ：中村なかむらゆうじ
朗読ろうどく：秋山あきやま慎まき治おさむ^[5]

脚注きゃくちゅう

^ 等々力とどりき警部けいぶ自身じしんの初はつ登場とうじょうは1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）の由利ゆりシリーズの『石膏せっこう美人びじん』。
^ 金田一きんだいちと等々力とどろき警部けいぶの出会であいについては、作品さくひんによって相互そうごに矛盾むじゅんする記述きじゅつがあり、決定けってい不能ふのうである。『悪魔あくまが来きたりて笛ふえを吹ふく』第だい七なな章しょうでは昭和しょうわ12、3年ねんころの事件じけんで知しり合あったとしているので、これに従したがえば本ほん作さくの時点じてんで既すでに面識めんしきがあったことになる。一方いっぽう、『暗闇くらやみの中なかの猫ねこ』では作中さくちゅうの昭和しょうわ22年ねん3月がつに初はじめて出会であったとしており、これは時とき系列けいれつ的てきに本ほん作さくより後こうと考かんがえられる（宝島社たからじましゃ『別冊べっさつ宝島たからじま僕ぼくたちの好すきな金田一きんだいち耕こう助すけ』 ISBN 978-4-7966-5572-9 金田一きんだいち耕こう助じょ登場とうじょう全ぜん77作品さくひん完全かんぜん解説かいせつ「7.暗闇くらやみの中なかの猫ねこ」）。
^ 原作げんさくでは「定連じょうれん」と表記ひょうきされている。
^ “シリーズ横溝よこみぞ正史せいし短たん編集へんしゅう　金田一きんだいち耕こう助じょ登場とうじょう！（池いけ松まつ壮たけし亮あきら主演しゅえん）”. WEBザテレビジョン. KADOKAWA. 2024年ねん1月がつ6日にち閲覧えつらん。
^ “シリーズ横溝よこみぞ正史せいし短たん編集へんしゅう～金田一きんだいち耕こう助じょ登場とうじょう！～/ 第だい一いち夜や黒くろ蘭らん姫ひめ 2016”. allcinema 2020年ねん2月がつ10日とおか閲覧えつらん。