日勤にっきん教育きょういく

日勤にっきん教育きょういく（にっきんきょういく）は、JR各社かくしゃ（旧きゅう国鉄こくてつ）や一部いちぶの私鉄してつにおける社内しゃない教育きょういく制度せいどの俗称ぞくしょうである。不適切ふてきせつな教育きょういく制度せいどであるとの指摘してきもある。

「日勤にっきん教育きょういく」と呼称こしょうされる由来ゆらいは、事故じこやミスを起おこした乗務じょうむ員いんの勤務きんむ形態けいたいを日勤にっきん勤務きんむに変更へんこうした上うえで再さい教育きょういくを実施じっししているためで、航空こうくう・鉄道てつどう事故じこ調査ちょうさ委員いいん会かいの調査ちょうさ報告ほうこく書しょや新聞しんぶん報道ほうどうなどでも用もちいられている。

本ほん記事きじでは、JR福知山ふくちやま線せん脱線だっせん事故じことの因果いんが関係かんけいが指摘してきされ、特とくに問題もんだい視しされた西日本旅客鉄道にしにほんりょかくてつどう株式会社かぶしきがいしゃ（JR西日本にしにほん）の事例じれいを中心ちゅうしんに解説かいせつする。

概要がいよう

本来ほんらいの再さい教育きょういくは事故じこ等とうの再発さいはつ防止ぼうしを目的もくてきとして行おこなわれるものであるが、実際じっさいには除草じょそうや社内しゃない清掃せいそうといった業務ぎょうむ指示しじが行おこなわれており、航空こうくう・鉄道てつどう事故じこ調査ちょうさ委員いいん会かいがJR西日本にしにほんに対たいして実施じっししたヒアリング調査ちょうさでは「再さい教育きょういくの趣旨しゅし・目的もくてきが教育きょういく対象たいしょう者しゃにとって不明瞭ふめいりょうになっていた可能かのう性せいがある」と報告ほうこくされている。

日勤にっきん教育きょういくは乗務じょうむ員いんが所属しょぞくする運転うんてん区くや電車でんしゃ区くの区長くちょうの裁量さいりょうで行おこなわれており、対象たいしょうとなるミスの基準きじゅんや教育きょういく内容ないようは明確めいかくではなかった。実際じっさいに日勤にっきん教育きょういくを受うけた運転うんてん士しは、電車でんしゃの運転うんてん席せきから撮影さつえいした映像えいぞうが流ながれるモニターを見みながら延々のびのびと信号しんごうの指ゆびさし確認かくにんをさせられたり、草くさむしりをさせられたと証言しょうげんしている。

また、大野おおの英えい士しはこれら以外いがいにも、事故じこの直接的ちょくせつてき原因げんいんと関係かんけいないレポートや作文さくぶん、就業しゅうぎょう規則きそくの書かき写うつし、車両しゃりょう・トイレ清掃せいそう、ホームの先端せんたんに立たたせ発着はっちゃくする列車れっしゃの乗務じょうむ員いんに「おつかれさまです。気きを付つけてください」など声こえかけさせる、アスファルトの照でり返がえしが47度どに達たっする炎天下えんてんかで1メートル四方しほうの枠わくを書かかせて枠わくから出ださせない、複数ふくすうの管理かんり者しゃに取とり囲かこまれて暴言ぼうげんを浴あびせられるといった事例じれいを指摘してきしている。

こうした再さい教育きょういくについて、JR西日本にしにほんは「再さい教育きょういくを受うけて立派りっぱな乗務じょうむ員いんになった例れいもある」と主張しゅちょうしたが、実態じったいとしては個人こじんの責任せきにんを追及ついきゅうする懲罰ちょうばつ的てき要素ようそが強つよく、再さい教育きょういくを避さけたい精神せいしん的てき重圧じゅうあつから新あらたな事故じこを誘発ゆうはつする悪循環あくじゅんかんとなっていた。2005年ねん（平成へいせい17年ねん）に発生はっせいしたJR福知山ふくちやま線せん脱線だっせん事故じこにおいて、航空こうくう・鉄道てつどう事故じこ調査ちょうさ委員いいん会かいが事故じこ原因げんいんとして懲罰ちょうばつ的てきな日勤にっきん教育きょういくの存在そんざいを指摘してきしたこともあり、その後ご同社どうしゃにおいては内容ないようの見直みなおしが行おこなわれ実施じっし件数けんすうも減少げんしょうしている（#JR福知山ふくちやま線せん脱線だっせん事故じこを受うけた見直みなおし）。

経緯けいい

日勤にっきん教育きょういくのルーツは、国鉄こくてつが民営みんえい化かされた当時とうじ、これに反対はんたいした国鉄こくてつ労働ろうどう組合くみあい（国労こくろう）組合くみあい員いんを弾圧だんあつするため、「人材じんざい活用かつようセンター」（通称つうしょう「人ひと活かつセンター」）、「要員よういん機動きどうセンター」を設もうけ、隔離かくりしたことに始はじまるといわれている。しかし、その実態じったいは草くさむしりなどの雑用ざつようをさせ、「国労こくろうを脱退だったい」か「辞職じしょく」かの二者択一にしゃたくいつを迫せまるという人材じんざい活用かつようとは程遠ほどとおいものだったという。当時とうじ、社会党しゃかいとう議員ぎいん団だんが立たち入いり調査ちょうさを求もとめたが、国鉄こくてつ側がわは「『人ひと活かつセンターでは非ひ人間にんげん的てきないじめが日常にちじょう化かしている』というプロパガンダと表裏一体ひょうりいったいをなす動うごきである」として拒否きょひし、自民党じみんとう（当時とうじの中曽根なかそね康弘やすひろ政権せいけん）も国鉄こくてつを支持しじした。

JR西日本にしにほん労働ろうどう組合くみあい（JR西にし労ろう）は、日勤にっきん教育きょういくの背景はいけいには労使ろうし対決たいけつがあり所属しょぞく組合くみあいによって期間きかんや内容ないように差さがあったと主張しゅちょうしており、評論ひょうろん家かの屋山ややま太郎たろうは「日勤にっきん教育きょういくで労組ろうそを押おさえつける側面そくめんもあった」と指摘してきしている。

JR福知山ふくちやま線せん脱線だっせん事故じこを受うけた見直みなおし

2005年ねん（平成へいせい17年ねん）に発生はっせいしたJR福知山ふくちやま線せん脱線だっせん事故じこでは、事故じこを起おこし死亡しぼうした運転うんてん士しが過去かこに日勤にっきん教育きょういくを受うけていた。運転うんてん士しは当日とうじつ事故じこ前まえに伊丹いたみ駅えきで72mのオーバーランを起おこしたが、2回かい目めの日勤にっきん教育きょういくを恐おそれて車掌しゃしょうにオーバーラン距離きょりを短みじかく報告ほうこくするよう要請ようせいしていた。

2007年ねん（平成へいせい19年ねん）2月がつ1日にちに開ひらかれた国土こくど交通省こうつうしょう航空こうくう・鉄道てつどう事故じこ調査ちょうさ委員いいん会かいの意見いけん聴取ちょうしゅ会かいにおいて、JR西日本にしにほん副ふく社長しゃちょうの丸尾まるお和明かずあきは「日勤にっきん教育きょういくが事故じこ原因げんいんと結むすびつけるのは不ふ適当てきとう」と日勤にっきん教育きょういくの有益ゆうえき性せいを主張しゅちょうしたが、同どう委員いいん会かいが6月28日にちに公表こうひょうした最終さいしゅう報告ほうこく書しょでは事故じこ原因げんいんについて「事故じこを起おこした運転うんてん士しがミスによる日勤にっきん教育きょういくを懸念けねんしながら運転うんてんしていたため、注意ちゅういがそれて事故じこに至いたった可能かのう性せいが高たかい」とし、車掌しゃしょうが輸送ゆそう指令しれいに報告ほうこくする無線むせんの内容ないように気きを取とられるあまりブレーキ操作そうさが遅おくれたことに言及げんきゅうした。

同どう報告ほうこく書しょにおいて日勤にっきん教育きょういくは「精神せいしん論ろん的てきな教育きょういくに偏かたよらず、再さい教育きょういくにふさわしい事故じこ防止ぼうしに効果こうか的てきなものとするべき」とされたこともあり、JR西日本にしにほんでは再さい教育きょういくを運転うんてんシミュレーターや添乗てんじょう指導しどうといった実践じっせん的てき内容ないように改あらため、期間きかんについても最長さいちょう7日にちに短縮たんしゅくするなど全面ぜんめん的てきに見直みなおしを実施じっし。教育きょういく内容ないようの決定けってい権けん者しゃは区長くちょうではなく元もと運転うんてん士しらで構成こうせいする「指導しどう監かん」に変更へんこうした。

また、オーバーランや遅延ちえんなど直接ちょくせつ事故じこに繋つながらないミスについては懲戒ちょうかい処分しょぶんの対象たいしょうから外はずすなどした結果けっか、同社どうしゃにおける日勤にっきん教育きょういくの件数けんすうは事故じこ前まえの2004年ねん（平成へいせい16年ねん）の608件けんから2013年ねん（平成へいせい25年ねん）は184件けんへと減少げんしょうした。

見直みなおし後ごの経過けいか

2009年ねん（平成へいせい21年ねん）5月、JR西日本にしにほん所属しょぞくの運転うんてん士し3人にんが日勤にっきん教育きょういくで不当ふとうな扱あつかいを受うけたとして同社どうしゃなどを訴うったえた裁判さいばんで、大阪おおさか高等こうとう裁判所さいばんしょは原告げんこくのうち運転うんてん士しや車両しゃりょう管理かんり係がかり（森ノ宮もりのみや電車でんしゃ区く所属しょぞく）の2名めいに対たいし90万まん円えんの支払しはらいを命めいじる判決はんけつをい渡いわたした。JR西日本にしにほんは判決はんけつを不服ふふくとして上告じょうこくしたが、最高裁判所さいこうさいばんしょは2010年ねん3月11日にち、JR西日本にしにほんの上告じょうこくを退しりぞける決定けっていをし、原告げんこく2名めいへの賠償ばいしょうを命めいじた大阪おおさか高裁こうさい判決はんけつが確定かくていした。

2011年ねん（平成へいせい23年ねん）7月がつ27日にち、1996年ねんからの10年間ねんかんに日勤にっきん教育きょういくを受うけたJR西日本にしにほんの運転うんてん士しと車掌しゃしょうの計けい258人にんが日勤にっきん教育きょういくは違法いほうと提訴ていそした裁判さいばんで、大阪おおさか地方裁判所ちほうさいばんしょは退職たいしょく強要きょうようのほか草くさむしりやトイレ掃除そうじなどが課かされた61人にんの日勤にっきん教育きょういくについて「裁量さいりょう権けんの逸脱いつだつ、乱用らんようがあった」として違法いほうと認定にんていし、JR西日本にしにほんに計けい620万まん円えんの支払しはらいを命めいじた。その後ご、大阪おおさか高等こうとう裁判所さいばんしょにおいて2012年ねん（平成へいせい24年ねん）9月がつ6日にち、JR西日本にしにほんが原告げんこくに解決かいけつ金きん800万まん円えんを支払しはらう内容ないようで和解わかいが成立せいりつした。

西日本旅客鉄道にしにほんりょかくてつどう労働ろうどう組合くみあい（JR西にし労組ろうそ）が、先述せんじゅつした日勤にっきん教育きょういくの見直みなおしが行おこなわれた後のちの2014年ねん（平成へいせい26年ねん）秋あきに組合くみあい員いんを対象たいしょうに実施じっししたアンケート調査ちょうさでは、ヒューマンエラーの再さい教育きょういくについて「原因げんいん究明きゅうめいが重視じゅうしされているが、責任せきにんを追及ついきゅうする風潮ふうちょうもある」が27.1%、「原因げんいん究明きゅうめいより責任せきにん追及ついきゅうが重視じゅうしされている」が6.4%と、全体ぜんたいの約やく3割わりが個人こじんの責任せきにん追及ついきゅうを実感じっかんする回答かいとうを行おこなっている。

また、同社どうしゃでは2015年ねん（平成へいせい27年ねん）に山陽新幹線さんようしんかんせんで発生はっせいした部品ぶひん落下らっか事故じこを機きに、トンネルの中央ちゅうおう通路つうろに待避たいひした状態じょうたいで営業えいぎょう車両しゃりょうが時速じそく300kmで頭上ずじょうを通過つうかすることを体感たいかんさせる研修けんしゅうを開始かいしした。参加さんかした社員しゃいんが恐怖きょうふや危険きけん性せいを訴うったえ中止ちゅうしを求もとめても会社かいしゃ側がわは「研修けんしゅうは有効ゆうこう」として継続けいぞくしていたが、2018年ねん（平成へいせい30年ねん）10月16日にちに国土こくど交通こうつう大臣だいじんの石井いしい啓一けいいちが有効ゆうこう性せいを疑問ぎもん視しする発言はつげんをしたところ、10月24日にちに同社どうしゃは研修けんしゅうの見直みなおしを発表はっぴょうした。なお、見直みなおしについて同社どうしゃでは危険きけん性せいや大臣だいじん発言はつげんの影響えいきょうは否定ひていし、立たち入いり手続てつづきと安全あんぜん確認かくにんの手間てまを理由りゆうとしている。

JR西日本にしにほん以外いがいの事例じれい

日勤にっきん教育きょういくは先述せんじゅつしたようにJR各社かくしゃの社内しゃない教育きょういくで行おこなわれており、JR西日本にしにほん以外いがいでも問題もんだい視しされる事例じれいが発生はっせいしている。

2013年ねん（平成へいせい25年ねん）、JR東海とうかいで社員しゃいんの自殺じさつが発生はっせいした。自殺じさつした社員しゃいんは以前いぜんに遅刻ちこくした際さい、一いち週間しゅうかんにわたって勤務きんむを外はずされた上うえ、定時ていじより一いち時じ間あいだ前まえに出勤しゅっきんするように命めいじられていたところを20分ふん前まえに出勤しゅっきんしたため、上司じょうしから「出勤しゅっきん遅延ちえん未遂みすい」と指摘してきされ、行動こうどう記録きろくを提出ていしゅつするよう求もとめられていた。

映像えいぞう化か

• ナショナルジオグラフィックチャンネル - 2013年ねん2月がつ11日にち放送ほうそうの「衝撃しょうげきの瞬間しゅんかん6 第だい6話わ」『福知山線ふくちやません脱線だっせん事故じこ〜RUNAWAY TRAIN〜』で、一部いちぶながら再現さいげんで日勤にっきん教育きょういくの様子ようすが放送ほうそうされた。

脚注きゃくちゅう

出典しゅってん

事故じこ調査ちょうさ報告ほうこく書しょなど一いち次じ資料しりょう

参考さんこう文献ぶんけん

• 鈴木すずきひろみ・山口やまぐち哲夫てつお共著きょうちょ 『JR西日本にしにほんの大罪だいざい-服部はっとり運転うんてん士し自殺じさつ事件じけんと尼崎あまがさき脱線だっせん事故じこ』 五月ごがつ書房しょぼう出版しゅっぱん ISBN 9784772704311
• 東原ひがしはら昭彦あきひこ『阪急電鉄はんきゅうでんてつにもあった日勤にっきん教育きょういく』週刊しゅうかん金曜日きんようび、2005年ねん6月がつ17日にち。 
• 白石しらいし嘉治よしはる、大野おおの英えい士し『ネオリベ現代げんだい生活せいかつ批判ひはん序説じょせつ』（増補ぞうほ）新しん評論ひょうろん、東京とうきょう、2008年ねん4月がつ。ISBN 978-4-7948-0770-0。 
• 葛西かさい敬之たかゆき『国鉄こくてつ改革かいかくの真実しんじつ 「宮廷きゅうてい革命かくめい」と「啓蒙けいもう運動うんどう」』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ、東京とうきょう、2007年ねん7月がつ。ISBN 978-4-12-003849-5。 

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