詐欺さぎ罪ざい

詐欺さぎ罪ざい
法律ほうりつ・条文じょうぶん	刑法けいほう246条じょう
保護ほご法益ほうえき	個人こじんの財産ざいさん
主体しゅたい	人ひと
客体かくたい	他人たにんの財物ざいぶつ・財産ざいさん上じょうの利益りえき
実行じっこう行為こうい	詐取さしゅ
主観しゅかん	故意こい犯はん、不法ふほう領りょう得とくの意思いし
結果けっか	結果けっか犯おかせ、侵害しんがい犯はん
実行じっこうの着手ちゃくしゅ	欺罔行為こういが行おこなわれた時点じてん
既遂きすい時期じき	財物ざいぶつの占有せんゆうが移転いてんした時点じてん
法定ほうてい刑けい	10年ねん以下いかの懲役ちょうえき
未遂みすい・予備よび	未遂みすい罪ざい（250条じょう）

詐欺さぎ罪ざい（さぎざい）とは、人ひとを欺あざむいて財物ざいぶつを交付こうふさせたり、財産ざいさん上じょう不法ふほうの利益りえきを得えたりする行為こうい（例たとえば無む銭ぜに飲食いんしょくや無む銭ぜに宿泊しゅくはくを行おこなう、無賃むちん乗車じょうしゃするなど、本来ほんらい有償ゆうしょうで受うけるべき待遇たいぐうやサービスを不法ふほうに受うけること。また債務さいむを不法ふほうに免まぬかれるなどすること）、または他人たにんにこれを得えさせる行為こういを内容ないようとする犯罪はんざいのこと。刑法けいほう第だい246条じょうに規定きていされている。未遂みすいも罰ばっせられる（250条じょう）が、予備よび行為こういは処罰しょばつされない。

概要がいよう

詐欺さぎ罪ざいの保護ほご法益ほうえきは個人こじんの財産ざいさんであり、単たんに「騙だました」だけの場合ばあいや財産ざいさん以外いがいの利益りえきが侵害しんがいされた場合ばあいは成立せいりつしない。成立せいりつの条件じょうけんは、人ひとを欺あざむく行為こういによって、錯誤さくごに陥おとしいれ、財物ざいぶつを交付こうふさせたり、瑕疵かしのある意思いし表示ひょうじを行おこなわせたりすることをいう。そのため、社会しゃかい一般いっぱんでいう詐欺さぎの概念がいねんとはやや乖離かいりしている。

広義こうぎには、詐欺さぎ罪ざいや詐欺さぎ利得りとく罪ざいのほか、準じゅん詐欺さぎ罪ざい（刑法けいほう第だい248条じょう）や電子でんし計算けいさん機き使用しよう詐欺さぎ罪ざい（刑法けいほう第だい246条じょうの2）を含ふくむ。

客体かくたい

本ほん罪ざいには、財物ざいぶつを客体かくたいとする罪つみ（財物ざいぶつ罪ざい）と、財産ざいさん上じょうの利益りえきを客体かくたいとする罪つみ（利得りとく罪ざい）が存在そんざいする。246条じょう1項こうに規定きていされた財物ざいぶつ罪ざいとしての詐欺さぎ罪ざい（狭義きょうぎの詐欺さぎ罪ざい）を一いち項こう詐欺さぎ罪ざいまたは詐欺さぎ取と財ざい罪ざいといい、同どう条じょう2項こうに規定きていされた利得りとく罪ざいとしての詐欺さぎ罪ざいを二に項こう詐欺さぎ罪ざいまたは詐欺さぎ利得りとく罪ざいという。

原則げんそくとして、他人たにんの財物ざいぶつ、他人たにんの財産ざいさん上じょうの利益りえきが客体かくたいであるが、自己じこの財物ざいぶつであっても、他人たにんが占有せんゆうし、又または公務こうむ所しょの命令めいれいにより他人たにんが看守かんしゅするものであるときは、他人たにんの財物ざいぶつとみなされる（刑法けいほう251条じょう・242条じょう）。また、電気でんきも財物ざいぶつに含ふくまれる（刑法けいほう251条じょう・245条じょう）。

構成こうせい要件ようけん

1. 一般いっぱん社会しゃかい通念つうねん上うえ、相手方あいてがたを錯誤さくごに陥おちいらせて財物ざいぶつないし財産ざいさん上じょうの利益りえきの処分しょぶんさせるような行為こういをすること（欺罔行為こうい又または詐欺さぎ行為こうい）
2. 相手方あいてがたが錯誤さくごに陥おちいること（錯誤さくご）
3. 錯誤さくごに陥おちいった相手方あいてがたが、その意思いしに基もとづいて財物ざいぶつないし財産ざいさん上じょうの利益りえきの処分しょぶんをすること（処分しょぶん行為こうい）
4. 財物ざいぶつの占有せんゆう又または財産ざいさん上じょうの利益りえきが行為こうい者しゃないし第三者だいさんしゃに移転いてんすること（占有せんゆう移転いてん、利益りえきの移転いてん）
5. 上記じょうき1〜4の間あいだに因果いんが関係かんけいが認みとめられ、また、行為こうい者しゃに行為こうい時じにおいてその故意こい及および不法ふほう領りょう得とくの意思いしがあったと認みとめられること

欺罔行為こうい

欺罔(きもう)行為こういは相手方あいてがたに処分しょぶん行為こういをさせることに向むけられたものでなければならない。また、錯誤さくごを引ひき起おこさせる行為こういであるから、相手方あいてがたは人ひとでなければならず、機械きかいを騙だましたとしても本ほん罪ざいは成立せいりつしない（ただし電子でんし計算けいさん機き使用しよう詐欺さぎ罪ざいが成立せいりつする可能かのう性せいはある）。

欺罔行為こういの手段しゅだんに制限せいげんはないため、言語げんごによる場合ばあいに限かぎらず動作どうさ・態度たいどによる場合ばあいも含ふくみ、また作為さくい・不作為ふさくいも問とわない。例たとえば釣銭つりせん詐欺さぎの事例じれいにおいて、店員てんいんが釣銭つりせんを間違まちがえて多おおく渡わたしたことをその場ばで気きづいたにもかかわらず、そのことを告つげずに立たち去さる行為こういは、不ふ作為さくいによる詐欺さぎ罪ざいが成立せいりつすると解ほぐされている（あとで気きづいたが返かえさない場合ばあい遺失いしつ物ぶつ等とう横領おうりょう罪ざいが成立せいりつする可能かのう性せいがある）。

積極せっきょく的てき欺罔

虚偽きょぎの事実じじつを表示ひょうじする事ことによる欺罔。

消極しょうきょく的てき欺罔

真実しんじつを告つげない事ことによる欺罔。

錯誤さくご

欺罔行為こういの結果けっか、相手方あいてがたが錯誤さくごに陥おちいることを要ようする。

例れいとして、挙あげられるものに、欺罔行為こういの相手方あいてがたが、それが真実しんじつではないことを認識にんしきしたが、行為こうい者しゃに憐憫れんびんの情じょうを覚おぼえ財物ざいぶつを交付こうふした件けんについて詐欺さぎ罪ざいの既遂きすいを否定ひていした判例はんれい（大審院だいしんいん判決はんけつ大正たいしょう11年ねん12月22日にち集しゅう1.821）がある。

処分しょぶん行為こうい

欺あざむかれた相手方あいてがた（被ひ欺罔者しゃ）が処分しょぶん行為こういをしなければならないため、被ひ欺罔者しゃは財産ざいさんの処分しょぶん権けん者しゃでなければならない。財産ざいさんの処分しょぶん権けん者しゃでなければ窃盗せっとう罪ざいが成立せいりつする可能かのう性せいがある。ただし、被ひ欺罔者しゃが被害ひがい者しゃ（財物ざいぶつの所有しょゆう者しゃや、財産ざいさん上じょうの利益りえきが帰属きぞくする人ひと）である必要ひつようはなく、両者りょうしゃが異ことなる場合ばあいを三角さんかく詐欺さぎという。

他たの領りょう得とく罪ざいとの対比たいひ

• 不法ふほう領りょう得とくの意思いしをもって他人たにんの占有せんゆうする財物ざいぶつを取得しゅとくする点てんで、窃盗せっとう罪ざいや強盗ごうとう罪ざいと共通きょうつうする（広義こうぎの奪取だっしゅ罪ざい又または移転いてん罪ざい）が、占有せんゆうの移転いてんが相手方あいてがたの意思いしに基もとづく点てんで異ことなる。
• 占有せんゆう移転いてんが相手方あいてがたの瑕疵かしある意思いしに基もとづく点てんで、恐喝きょうかつ罪ざいと共通きょうつうするが、その意思いしが畏怖いふでなく錯誤さくごによるものである点てんで異ことなる。

詐欺さぎの手口てぐち一覧いちらん

※「警察庁けいさつちょう犯罪はんざい手口てぐち資料しりょう取扱とりあつかい細則さいそく」による

1 売うりつけ詐欺さぎ

物品ぶっぴん等とうの販売はんばいを口実こうじつとして金品きんぴんを騙だまし取とる。

2 買かい受うけ詐欺さぎ

物品ぶっぴん等とうの買かい受うけを口実こうじつとして金品きんぴんを騙だまし取とる。

3 借用しゃくよう詐欺さぎ（俗称ぞくしょう・借かり逃にげ）

借用しゃくようを口実こうじつとして金品きんぴんを騙だまし取とる。寸借すんしゃく詐欺さぎ。

4 不動産ふどうさん利用りよう詐欺さぎ

不動産ふどうさんの運用うんよう利用りようを口実こうじつとして金品きんぴんを騙だまし取とる。

5 有価ゆうか証券しょうけん等とう利用りよう詐欺さぎ

真正しんせいな有価ゆうか証券しょうけん等とうを利用りようして金品きんぴんを騙だまし取とる。

値引ねびきシールを他たのものに貼はり付づけて商品しょうひんを購入こうにゅうする行為こういもこちらに該当がいとうする。

6 無む銭ぜに詐欺さぎ

人ひとを欺あざむいて宿泊しゅくはく、飲食いんしょく（いわゆる食くい逃にげ）、乗車じょうしゃ等とうをし、財産ざいさん上じょう不法ふほうの利益りえきを得える。

7 募集ぼしゅう詐欺さぎ

募集ぼしゅうを口実こうじつに金品きんぴんを騙だまし取とる。

8 職権しょっけん詐欺さぎ

身分みぶんを詐称さしょうし、検査けんさや捜査そうさなどを装よそおい、押収おうしゅうや没収ぼっしゅう、内済ないさいなどを口実こうじつに金品きんぴんを騙だまし取とる。

9 両替りょうがえ・釣銭つりせん詐欺さぎ

両替りょうがえを依頼いらい、あるいは商品しょうひん等とうの代金だいきんを支払しはらうように装よそおい、両替りょうがえ金きんや釣銭つりせんを騙だまし取とる。

10 留守るす宅たく詐欺さぎ

留守るす宅たくを訪問ほうもんし、口実こうじつを設もうけて当該とうがい家かの家人かじんから金品きんぴんを騙だまし取とる。

11 保険ほけん金きん詐欺さぎ

保険ほけん金きんを受うけ取とる資格しかくを偽いつわり、保険ほけん金きんを騙だまし取とる。

12 横取よこどり詐欺さぎ

金品きんぴんを受うけ取とる権利けんりのある者ものを装よそおい、金品きんぴんを騙だまし取とる。

13 受託じゅたく詐欺さぎ

口実こうじつを設もうけて受託じゅたくし、金品きんぴんを騙だまし取とる。

14 その他た

前記ぜんきのいずれにも該当がいとうしないが、詐欺さぎ罪ざい構成こうせい要件ようけんに該当がいとうする詐欺さぎ。

霊れい能力のうりょくや超ちょう能力のうりょくなど称しょうしての献金けんきん勧誘かんゆうや販売はんばい（霊感れいかん商法しょうほうを参照さんしょう）。特殊とくしゅ詐欺さぎ、結婚けっこん詐欺さぎ、養育よういく費ひの不払ふばらい、公営こうえい住宅じゅうたくの不正ふせい使用しよう、不正ふせい入居にゅうきょ、生活せいかつ保護ほごの不正ふせい受給じゅきゅうなど。

15 その他た

前記ぜんきのいずれにも該当がいとうしないが、詐欺さぎ罪ざい構成こうせい要件ようけんに該当がいとうしない詐欺さぎ。

法定ほうてい刑けい

犯罪はんざいをおこなったものは10年ねん以下いかの懲役ちょうえきに処しょされ、犯罪はんざいによって得えたものは没収ぼっしゅう（19条じょう）または追徴ついちょう（20条じょう）される。組織そしき的てきに行いった場合ばあいは組織そしき的てき犯罪はんざい処罰しょばつ法ほうにより1年ねん以上いじょうの有期ゆうき懲役ちょうえきと罪つみが重おもくなる（同どう法ほう3条じょう第だい1項こう第だい13号ごう）。

未遂みすい罪ざい

詐欺さぎ罪ざいの未遂みすいは処罰しょばつされる（刑法けいほう250条じょう）。実行じっこうの着手ちゃくしゅは欺罔行為こういの時点じてんである。処分しょぶん行為こういの時点じてんでは既遂きすいに達たっしてしまう。

親族しんぞく間あいだの犯罪はんざいに関かんする特例とくれい

親族しんぞく間あいだの犯罪はんざいに関かんする特例とくれいの規定きていが準用じゅんようされている（刑法けいほう251条じょう・244条じょう）。

特異とくいな適用てきよう例れい

動物どうぶつを虐待ぎゃくたいする目的もくてきで引ひき取とったケースについて、詐欺さぎ罪ざいが適用てきようされた例れいがある。

証拠しょうこ方法ほうほう

詐欺さぎの被害ひがいを受うけたと考かんがえた者ものが、相手方あいてがたの説明せつめい内容ないように不審ふしんを抱いだき、後日ごじつの証拠しょうことするため、相手方あいてがたに同意どういを得えずに会話かいわをテープに秘密ひみつ録音ろくおんした場合ばあい、そのテープを証拠しょうことして採用さいようするのは違法いほう収集しゅうしゅう証拠しょうこ排除はいじょ法則ほうそくに反はんしない（最さい二に小しょう決けつ平成へいせい12年ねん7月がつ12日にち）。

募金ぼきん詐欺さぎの検挙けんきょ歴れきがあり執行しっこう猶予ゆうよ中なかに再度さいど募金ぼきん詐欺さぎをしたとして起訴きそされた事件じけんで、すでに被告人ひこくにんの主観しゅかん面めん以外いがいが他たの証拠しょうこで明あきらかな場合ばあい、故意こいのごとき主観しゅかん的てき要素ようそを、被告人ひこくにんの同種どうしゅ前科ぜんかの内容ないようによって認定にんていされた例れいがある（最さい三さん小しょう決けつ昭和しょうわ41年ねん11月22日にち）。

関連かんれん項目こうもく

• 特殊とくしゅ詐欺さぎ
• キセル乗車じょうしゃ
• 取とり込こみ詐欺さぎ
• 偽証罪ぎしょうざい
• クレジットカード詐欺さぎ
• 便乗びんじょう商法しょうほう
• 民事みんじ不ふ介入かいにゅう（特とくに借用しゃくよう詐欺さぎの場合ばあい、警察けいさつなどの捜査そうさ機関きかんに相談そうだんしても民事みんじ事件じけん（債務さいむ不履行ふりこう）と混同こんどうされて、取とり合あってもらえないことが多々たたある。）