文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ

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文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ(ぶんしょぎぞうのつみ)は、公文書こうぶんしょわたし文書ぶんしょ偽造ぎぞうかんする犯罪はんざい類型るいけいこうがくじょう社会しゃかいてき法益ほうえきたいするつみ分類ぶんるいされる。文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ立法りっぽう態様たいようには形式けいしき主義しゅぎ実質じっしつ主義しゅぎがある[1]

概説がいせつ[編集へんしゅう]

偽造ぎぞう定義ていぎ[編集へんしゅう]

広義こうぎ偽造ぎぞうには有形ゆうけい偽造ぎぞう無形むけい偽造ぎぞうがある[2]。なお、有形ゆうけい変造へんぞう有形ゆうけい偽造ぎぞうふくめられることがあり、この場合ばあい有形ゆうけい偽造ぎぞう狭義きょうぎ有形ゆうけい偽造ぎぞう有形ゆうけい変造へんぞうけられる[2]

  • 有形ゆうけい偽造ぎぞう
    • 有形ゆうけい偽造ぎぞう狭義きょうぎ有形ゆうけい偽造ぎぞう
    通常つうじょう偽造ぎぞうとは有形ゆうけい偽造ぎぞうのことをし、権限けんげんのないまま他人たにん名義めいぎ文書ぶんしょ作成さくせいすることをいう[2]文書ぶんしょ名義めいぎじん作成さくせいしゃとのあいだ人格じんかく同一どういつせいいつわって文書ぶんしょ作成さくせいすることといいかえることもできる(さいけつ平成へいせい5ねん10がつ5にちけいしゅう47かん8ごう7ぺーじ)。有形ゆうけい偽造ぎぞうにより作出さくしゅつされた文書ぶんしょ真正しんせい文書ぶんしょもしくは偽造ぎぞう文書ぶんしょという[2]以下いかたんに「偽造ぎぞう」という場合ばあい有形ゆうけい偽造ぎぞうす。
    • 有形ゆうけい変造へんぞう
    真正しんせい成立せいりつした文書ぶんしょたいして変更へんこうくわえることをいう[2]。なお、権限けんげんのないものによる場合ばあい有形ゆうけい変造へんぞうといい、権限けんげんのあるものによる場合ばあい無形むけい変造へんぞうという。変造へんぞう預金よきん通帳つうちょう預入よにゅう年月日ねんがっぴだけをかいざんした場合ばあいなど、本質ほんしつてきでない部分ぶぶん改変かいへんする場合ばあいかぎられる。本質ほんしつてき部分ぶぶん改変かいへんした場合ばあいは、あらたな文書ぶんしょ作成さくせいしたのとおなじであるから、偽造ぎぞうとなる。
  • 無形むけい偽造ぎぞう虚偽きょぎ文書ぶんしょ作成さくせい
    • 無形むけい偽造ぎぞうとは文書ぶんしょ作成さくせい権限けんげんゆうするもの虚偽きょぎ内容ないよう文書ぶんしょ作成さくせいすることをいう[2]無形むけい偽造ぎぞうにより作出さくしゅつされた文書ぶんしょ虚偽きょぎ文書ぶんしょという[2]

実質じっしつ主義しゅぎ形式けいしき主義しゅぎ[編集へんしゅう]

文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ立法りっぽう態様たいようには実質じっしつ主義しゅぎ形式けいしき主義しゅぎがある[1]実質じっしつ主義しゅぎ無形むけい偽造ぎぞう虚偽きょぎ文書ぶんしょ作成さくせい)の処罰しょばつ形式けいしき主義しゅぎ有形ゆうけい偽造ぎぞう他人たにん名義めいぎおかせよう)の処罰しょばつ中心ちゅうしんかんがえる。

実質じっしつ主義しゅぎ[編集へんしゅう]

実質じっしつ主義しゅぎとは無形むけい偽造ぎぞう処罰しょばつ文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ原則げんそくとする立法りっぽうをいう[3]実質じっしつ主義しゅぎでは文書ぶんしょ偽造ぎぞう処罰しょばつ根拠こんきょ内容ないよう虚偽きょぎ文書ぶんしょ証拠しょうことされることは事実じじつ真相しんそうることをがいする行為こういであるとする[3]

しかし、形式けいしき主義しゅぎ観点かんてんからみると、作成さくせいしゃ不明ふめい文書ぶんしょ怪文書かいぶんしょであってだれもその文書ぶんしょしるされた内容ないよう真偽しんぎ問題もんだいにするはずがないという指摘してきがある[4]文書ぶんしょ記載きさい内容ないよう真偽しんぎ文書ぶんしょ作成さくせいしゃたいする記載きさい意義いぎ確認かくにんなどの行為こういがあってはじめて判明はんめいする性質せいしつ問題もんだいであるとの指摘してきである[4]

形式けいしき主義しゅぎ[編集へんしゅう]

形式けいしき主義しゅぎとは有形ゆうけい偽造ぎぞう処罰しょばつ文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ原則げんそくとする立法りっぽうをいう[3]形式けいしき主義しゅぎ根拠こんきょには帰属きぞくせつ責任せきにん追及ついきゅうせつがある[5]

帰属きぞくせつとは、文書ぶんしょ存在そんざいする意思いし表示ひょうじ名義めいぎじん帰属きぞくしないものは名義めいぎじんによる意思いし表示ひょうじとしてもちいることができない文書ぶんしょであり、そのような文書ぶんしょ不正ふせい作出さくしゅつする行為こうい処罰しょばつするものであるとする[5]

責任せきにん追及ついきゅうせつとは、文書ぶんしょ名義めいぎじん作成さくせいしゃ一致いっちしていないにもかかわらず一致いっちしていると誤解ごかいあたえる文書ぶんしょ作出さくしゅつされると、その受取うけとりじんには名義めいぎじんから作成さくせいしゃ把握はあくすることができなくなり作成さくせいしゃ責任せきにん追及ついきゅうすることができなくなるため処罰しょばつするものであるとする[5]

文書ぶんしょ作成さくせいしゃ[編集へんしゅう]

文書ぶんしょ作成さくせいしゃ意味いみについては物体ぶったいせつ精神せいしんせいせつがある[6]

物体ぶったいせつ行為こういせつ事実じじつせつ)では、文書ぶんしょ物理ぶつりてき作成さくせいしたもの文書ぶんしょ作成さくせいしゃであるとする[6]。しかし、物体ぶったいせつによるとおつかぶと法人ほうじん代表だいひょうしゃへい依頼いらいけて株券かぶけん印刷いんさつした場合ばあい通常つうじょう株券かぶけんには作成さくせいしゃ記載きさいはないため名義めいぎじん存在そんざいしない文書ぶんしょになってしまい、株券かぶけんなど法人ほうじん印刷物いんさつぶつ文書ぶんしょ偽造ぎぞうざいによる保護ほご客体かくたいふくまれないこととなる問題もんだいてんがある[6]。そのため物体ぶったいせつはほとんど支持しじていない[6]

精神せいしんせいせつ意思いしせつ効果こうか帰属きぞくせつ)では、精神せいしんてき営為えいいとして文書ぶんしょ意思いし表示ひょうじ固定こていさせたもの文書ぶんしょ作成さくせいしゃであるとする[7]精神せいしんせいせつではおつかぶと法人ほうじん代表だいひょうしゃへい依頼いらいけて株券かぶけん印刷いんさつした場合ばあい、その意思いし表示ひょうじさせたきのえ法人ほうじん名義めいぎじんであり、株券かぶけん文書ぶんしょ偽造ぎぞうざいによる保護ほご客体かくたいふくまれるとする[6]

日本にっぽんほう[編集へんしゅう]

文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ
法律ほうりつ条文じょうぶん 刑法けいほう154じょう-161じょうの2
保護ほご法益ほうえき 文書ぶんしょたいする公衆こうしゅう信用しんよう
主体しゅたい ひと
客体かくたい 文書ぶんしょ詔書しょうしょ電磁でんじてき記録きろく
実行じっこう行為こうい かく類型るいけいによる
主観しゅかん 故意こいはん目的もくてきはん
結果けっか 挙動きょどうはん抽象ちゅうしょうてき危険きけんはん
実行じっこう着手ちゃくしゅ かく類型るいけいによる
既遂きすい時期じき かく類型るいけいによる
法定ほうていけい かく類型るいけいによる
未遂みすい予備よび 未遂みすいざい(157じょう3こう、158じょう2こう、161じょう2こう、161じょうの2だい4こう
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日本にっぽんほうでは刑法けいほうだい17しょう文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみ」に規定きていされる犯罪はんざい類型るいけいをいい、つぎのものがある。

  • 詔書しょうしょ偽造ぎぞうとうつみ154じょう
  • 公文書こうぶんしょ偽造ぎぞうとうつみ155じょう
  • 虚偽きょぎ公文書こうぶんしょ作成さくせいとうつみ156じょう
  • 公正こうせい証書しょうしょ原本げんぽん不実ふじつ記載きさいとうつみ157じょう
  • 偽造ぎぞう公文書こうぶんしょ行使こうしとうつみ158じょう
  • わたし文書ぶんしょ偽造ぎぞうとうつみ159じょう
  • 虚偽きょぎ診断しんだんしょとう作成さくせいざい160じょう
  • 偽造ぎぞうわたし文書ぶんしょとう行使こうしざい161じょう
  • 電磁でんじてき記録きろく不正ふせい作出さくしゅつおよ供用きょうようつみ161じょうの2

日本にっぽん刑法けいほう公文こうぶんしょについては形式けいしき主義しゅぎ実質じっしつ主義しゅぎ併用へいようし、わたし文書ぶんしょについては形式けいしき主義しゅぎをとっている[3]

なお、一部いちぶ犯罪はんざいについては、他人たにん氏名しめい印影いんえいなどを表示ひょうじすると罪名ざいめい冒頭ぼうとうに「有印ゆういん」の文字もじくわわる(「有印ゆういん私文書しぶんしょ偽造ぎぞうつみ」など)。

保護ほご法益ほうえき[編集へんしゅう]

文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい処罰しょばつされるのは、文書ぶんしょには一般いっぱんてき社会しゃかいてき信用しんようせいみとめられるところ、これを保護ほごすることが社会しゃかい生活せいかつじょう必要ひつようであるとの判断はんだんがあるからである。したがって、一般いっぱん文書ぶんしょといいがた場合ばあいであっても、文書ぶんしょ社会しゃかいてき信用しんようせい保護ほごするとの必要ひつようから文書ぶんしょとされることもあるし、およそ社会しゃかいてき信用しんようせいがいない態様たいようでの偽造ぎぞう処罰しょばつされない。

客体かくたい[編集へんしゅう]

文書ぶんしょ
文字もじまたはこれにわる記号きごう符号ふごうもちいて、ある程度ていど持続じぞくすべき状態じょうたいにおいて、意思いしまた観念かんねん表示ひょうじしたものをいう。音声おんせい録音ろくおんしたテープは文書ぶんしょたらない。ある程度ていど持続じぞくせいがあればよいので、黒板こくばんにチョークをもちいてかれた記載きさい文書ぶんしょたる。名刺めいし表札ひょうさつとうは、意思いし観念かんねん表示ひょうじしているとはいえないので、文書ぶんしょたらない。
文書ぶんしょは、意思いし観念かんねん表示ひょうじであるから、その主体しゅたいである名義めいぎじん存在そんざいすることが必要ひつようである。およそ文書ぶんしょ自体じたいから名義めいぎじん特定とくていすることができない場合ばあいは、文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい成立せいりつしない。ただし、名義めいぎじん実在じつざいすることまでは必要ひつようなく、架空かくうじん名義めいぎであっても、一般いっぱんてきひと実在じつざいすると誤信ごしんするのであれば、文書ぶんしょせい肯定こうていしてよい(さいはん昭和しょうわ28ねん11月13にちけいしゅう7かん11ごう2096ぺーじさいはん昭和しょうわ36ねん3がつ30にちけいしゅう15かん3ごう667ぺーじ)。
また、文書ぶんしょ原本げんぽんかぎらず、コピーもまた偽造ぎぞうざい対象たいしょうとなる文書ぶんしょせいゆうするとされている(さいはん昭和しょうわ51ねん4がつ30にちけいしゅう30かん3ごう453ぺーじとう)。これは、コピーであってもほんざい保護ほご法益ほうえきである「公共こうきょう信用しんよう」ががいされる場合ばあいがありうるためである。
図画ずが
法学ほうがくじょうは「とが」と発音はつおんする。上記じょうきにいう文書ぶんしょのうち、象形しょうけいてき符号ふごうもちいたものをいう。

犯罪はんざい類型るいけい[編集へんしゅう]

詔書しょうしょ偽造ぎぞうとうざい[編集へんしゅう]

詔書しょうしょなど特別とくべつ公文書こうぶんしょ偽造ぎぞうとう内容ないようとする犯罪はんざい類型るいけいである。法定ほうていけい通常つうじょう類型るいけい文書ぶんしょ偽造ぎぞうとうつみよりもおも加重かじゅう類型るいけいである。行使こうし目的もくてきで、御璽ぎょじ国璽こくじしくは御名ぎょめい使用しようして詔書しょうしょその文書ぶんしょ偽造ぎぞうし、また偽造ぎぞうした御璽ぎょじ国璽こくじしくは御名ぎょめい使用しようして詔書しょうしょその文書ぶんしょ偽造ぎぞうしたものは、無期むきまたは3ねん以上いじょう懲役ちょうえきしょせられる(刑法けいほう154じょう1こう)。また、御璽ぎょじしくは国璽こくじまた御名ぎょめいしょした詔書しょうしょその文書ぶんしょ変造へんぞうしたものも、同様どうようである(刑法けいほう154じょう2こう)。

公文書こうぶんしょ偽造ぎぞうとうざい[編集へんしゅう]

通常つうじょう公文書こうぶんしょ偽造ぎぞう変造へんぞう内容ないようとする犯罪はんざい類型るいけいである。

  • 行使こうし目的もくてきで、公務こうむしょしくは公務員こうむいん印章いんしょうしくは署名しょめい使用しようして公務こうむしょしくは公務員こうむいん作成さくせいすべき文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうし、また偽造ぎぞうした公務こうむしょしくは公務員こうむいん印章いんしょうしくは署名しょめい使用しようして公務こうむしょしくは公務員こうむいん作成さくせいすべき文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうしたものは、1ねん以上いじょう10ねん以下いか懲役ちょうえきしょせられる(刑法けいほう155じょう1こう)。
  • また、公務こうむしょまた公務員こうむいん押印おういんまた署名しょめいした文書ぶんしょまた図画ずが変造へんぞうしたものも、同様どうようである(刑法けいほう155じょう2こう)。
  • 公務こうむしょしくは公務員こうむいん作成さくせいすべき文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうし、また公務こうむしょしくは公務員こうむいん作成さくせいした文書ぶんしょしくは図画ずが変造へんぞうしたものは、3ねん以下いか懲役ちょうえきまたは20まんえん以下いか罰金ばっきんしょされる(刑法けいほう155じょう3こう)。

虚偽きょぎ公文書こうぶんしょ作成さくせいとうざい[編集へんしゅう]

公文書こうぶんしょ無形むけい偽造ぎぞう内容ないようとする犯罪はんざい類型るいけいである。

  • 公務員こうむいんが、その職務しょくむかんし、行使こうし目的もくてきで、虚偽きょぎ文書ぶんしょしくは図画ずが作成さくせいし、また文書ぶんしょしくは図画ずが変造へんぞうしたときは、印章いんしょうまた署名しょめい有無うむにより区別くべつして、刑法けいほう154じょう、155じょう規定きていれいによって処罰しょばつされる(刑法けいほう156じょう)。

公務員こうむいん犯罪はんざい主体しゅたいとなる(身分みぶんはん)。公務員こうむいん間接かんせつ正犯せいはんによった場合ばあいではほんざい成立せいりつせず(さいはん昭和しょうわ27ねん12月25にちけいしゅう6かん12ごう1387ぺーじ)、公正こうせい証書しょうしょ原本げんぽん不実ふじつ記載きさいとうざい成立せいりつ可能かのうせい問題もんだいとなるにまる。

公正こうせい証書しょうしょ原本げんぽん不実ふじつ記載きさいとうざい[編集へんしゅう]

  • 公務員こうむいんたい虚偽きょぎ申立もうしたてをして、登記とうき簿戸籍こせき簿その権利けんりしくは義務ぎむかんする公正こうせい証書しょうしょ原本げんぽん不実ふじつ記載きさいをさせ、また権利けんりしくは義務ぎむかんする公正こうせい証書しょうしょ原本げんぽんとしてもちいられる電磁でんじてき記録きろく不実ふじつ記録きろくをさせたものは、5ねん以下いか懲役ちょうえきまたは50まんえん以下いか罰金ばっきんしょせられる(刑法けいほう157じょう1こう)。
  • 公務員こうむいんたい虚偽きょぎ申立もうしたてをして、免状めんじょう鑑札かんさつまた旅券りょけん不実ふじつ記載きさいをさせたものは、1ねん以下いか懲役ちょうえきまたは20まんえん以下いか罰金ばっきんしょされる(刑法けいほう157じょう2こう)。
  • 157じょう1こうおよび2こうつみについては未遂みすいばっせられる(刑法けいほう157じょう3こう)。
債務さいむ整理せいりなどのまえに「財産ざいさんかくし」のために不動産ふどうさん所有しょゆうけん移転いてん登記とうきをするれいがあるが、このような場合ばあいは「不実ふじつ記載きさい」ではない。
不動産ふどうさん登記とうきは「当事とうじしゃたちからほうさだめる手続てつづきにしたがった登記とうき申請しんせいがあった」ことを証明しょうめいする制度せいどであって登記とうき内容ないよう真実しんじつであることを証明しょうめいする制度せいどではない。したがってどのような意図いと悪意あくいがあろうとも、正当せいとう当事とうじしゃによる登記とうき無形むけい偽造ぎぞうおなじなので処罰しょばつ対象たいしょうとはならない。
もちろん、その意図いと悪意あくい他人たにんだます・差押さしおさえをまぬかれる手段しゅだんだとあきらかになったときには、詐欺さぎ競売きょうばい入札にゅうさつ妨害ぼうがいなどのつみとして処罰しょばつされるし、登記とうきしんじて取引とりひきをしたもの保護ほごされる。

偽造ぎぞう公文書こうぶんしょ行使こうしとうざい[編集へんしゅう]

刑法けいほうだい154じょうから157じょうまでの文書ぶんしょしくは図画ずが行使こうしし、また前条ぜんじょうだいいちこう電磁でんじてき記録きろく公正こうせい証書しょうしょ原本げんぽんとしてのようきょうしたものは、その文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうし、しくは変造へんぞうし、虚偽きょぎ文書ぶんしょしくは図画ずが作成さくせいし、また不実ふじつ記載きさいしくは記録きろくをさせたもの同一どういつけいしょせられる(刑法けいほう158じょう1こう)。未遂みすいばっせられる(刑法けいほう158じょう2こう)。

文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみにおける「行使こうし」とは、偽造ぎぞう文書ぶんしょ真正しんせい文書ぶんしょとして(または、虚偽きょぎ文書ぶんしょ内容ないよう真実しんじつ文書ぶんしょとして)使用しようし、ひとにその内容ないよう認識にんしきさせ、またはこれを認識にんしき状態じょうたいくことをいう(最大さいだいばん昭和しょうわ44ねん6がつ18にちけいしゅう23かん7ごう950ぺーじ)。行使こうし方法ほうほう限定げんていはなく、他人たにん交付こうふする、提示ていじする、閲覧えつらんきょうするなどがある。

わたし文書ぶんしょ偽造ぎぞうとうざい[編集へんしゅう]

一部いちぶ重要じゅうようわたし文書ぶんしょ権利けんり義務ぎむかんする文書ぶんしょまた図画ずが事実じじつ証明しょうめいかんする文書ぶんしょまた図画ずがなど)についての偽造ぎぞう変造へんぞう行使こうし内容ないようとする犯罪はんざい類型るいけいである。判例はんれい問題もんだいになったわたし文書ぶんしょれいとしては、借用しゃくようしょ交通こうつう事件じけん原票げんぴょう交通こうつう切符きっぷちゅう供述きょうじゅつしょ違反いはんしゃがサインをする部分ぶぶんわたし文書ぶんしょ性質せいしつゆうする)、入学にゅうがく試験しけん答案とうあん無線むせん従事じゅうじしゃ国家こっか試験しけん答案とうあん学科がっか実技じつぎ)などがある。

  • 行使こうし目的もくてきで、他人たにん印章いんしょうしくは署名しょめい使用しようして権利けんり義務ぎむしくは事実じじつ証明しょうめいかんする文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうし、また偽造ぎぞうした他人たにん印章いんしょうしくは署名しょめい使用しようして権利けんり義務ぎむしくは事実じじつ証明しょうめいかんする文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうしたものは、3月以上いじょう5ねん以下いか懲役ちょうえきしょされる(刑法けいほう159じょう1こう)。
  • 他人たにん押印おういんまた署名しょめいした権利けんり義務ぎむまた事実じじつ証明しょうめいかんする文書ぶんしょまた図画ずが変造へんぞうしたものも、同様どうようである(刑法けいほう159じょう2こう)。
  • 刑法けいほう159じょう1こうと2こう規定きていするもののほか、権利けんり義務ぎむまた事実じじつ証明しょうめいかんする文書ぶんしょまた図画ずが偽造ぎぞうし、また変造へんぞうしたものは、1ねん以下いか懲役ちょうえきまたは10まんえん以下いか罰金ばっきんしょせられる(刑法けいほう159じょう3こう)。

本人ほんにん承諾しょうだく本人ほんにん名義めいぎ文書ぶんしょ偽造ぎぞう無形むけい偽造ぎぞう)も偽造ぎぞうざいになりうるとした様々さまざま判例はんれいがある。

  • ひがしばん平成へいせい10ねん8がつ19にち - 外国がいこくじん3めいが、日本人にっぽんじんXから名義めいぎ使用しよう承諾しょうだくて、写真しゃしんのみ自己じこ写真しゃしん使用しようした旅券りょけん発給はっきゅう申請しんせいをしたことは、外国がいこくじん3めいわたし文書ぶんしょ偽造ぎぞう行使こうしざいにあたり、さらに日本人にっぽんじんXは同罪どうざい共犯きょうはんとなる[8]
  • さいだい2小判こばんあきら58ねん4がつ8にち -「交通こうつう事件じけん原票げんぴょうちゅう供述きょうじゅつしょは、その文書ぶんしょ性質せいしつじょう作成さくせい名義めいぎじん以外いがいものがこれを作成さくせいすることは法令ほうれいじょうゆるされないものであつて、みぎ供述きょうじゅつしょ他人たにん名義めいぎ作成さくせいした場合ばあいは、あらかじめその他人たにん承諾しょうだくていたとしても、わたし文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい成立せいりつする」。[9]
  • ひがしだかばんあきら55ねん10がつ22にち - 「作成さくせい名義めいぎじんがその名義めいぎ使用しよう権限けんげん実際じっさい作成さくせいしゃあたえることにより、作成さくせい名義めいぎじんでないもの認識にんしき内容ないよう文書ぶんしょ表示ひょうじされ、これを事実じじつ証明しょうめいようきょうした効果こうか作成さくせい名義めいぎじんするようなことは、本来ほんらいあってはならない性質せいしつ文書ぶんしょ」の作成さくせい名義めいぎじんから承諾しょうだくていても、わたし文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい構成こうせいする。

虚偽きょぎ診断しんだんしょとう作成さくせいざい[編集へんしゅう]

一般いっぱんてきに、虚偽きょぎ私文書しぶんしょ作成さくせいわたし文書ぶんしょ無形むけい偽造ぎぞう)を処罰しょばつする規定きてい存在そんざいしない。ただし、わたし文書ぶんしょのうち、一定いっていのものについてはその無形むけい偽造ぎぞう内容ないようとする犯罪はんざい類型るいけい規定きていされている。

  • 医師いし公務こうむしょ提出ていしゅつすべき診断しんだんしょ検案書けんあんしょまた死亡しぼう証書しょうしょ虚偽きょぎ記載きさいをしたときは、3ねん以下いか禁錮きんこまたは30まんえん以下いか罰金ばっきんしょせられる(刑法けいほう160じょう)。 医師いし主体しゅたいとなる身分みぶんはんである。

偽造ぎぞうわたし文書ぶんしょとう行使こうしざい[編集へんしゅう]

刑法けいほう159じょうわたし文書ぶんしょ偽造ぎぞう行使こうしとう)と160じょう虚偽きょぎ診断しんだんしょとう作成さくせい)の文書ぶんしょまた図画ずが行使こうししたものは、その文書ぶんしょしくは図画ずが偽造ぎぞうし、しくは変造へんぞうし、また虚偽きょぎ記載きさいをしたもの同一どういつけいしょせられる(刑法けいほう161じょう1こう)。未遂みすいばっせられる(刑法けいほう161じょう2こう)。

文書ぶんしょ偽造ぎぞうつみにおける「行使こうし」の意味いみについては#偽造ぎぞう公文書こうぶんしょ行使こうしとうざい参照さんしょう

電磁でんじてき記録きろく不正ふせい作出さくしゅつおよ供用きょうようざい[編集へんしゅう]

  • ひと事務じむ処理しょりあやまらせる目的もくてきで、その事務じむ処理しょりようきょうする権利けんり義務ぎむまた事実じじつ証明しょうめいかんする電磁でんじてき記録きろく不正ふせいつくった場合ばあい、5ねん以下いか懲役ちょうえきまたは50まんえん以下いか罰金ばっきんしょされる(刑法けいほう161じょうの2だい1こう)。
  • 電磁でんじてき記録きろく公務こうむしょまたは公務員こうむいんによりつくられるべき電磁でんじてき記録きろくであった場合ばあい、10ねん以下いか懲役ちょうえきまたは100まんえん以下いか罰金ばっきんしょされる(刑法けいほう161じょうの2だい2こう)。
  • 不正ふせいつくられた権利けんり義務ぎむまた事実じじつ証明しょうめいかんする電磁でんじてき記録きろくを、ひと事務じむ処理しょりあやまらせる目的もくてきで、ひと事務じむ処理しょりようきょうした場合ばあい不正ふせい作出さくしゅつ同様どうよう処罰しょばつされる(刑法けいほう161じょうの2だい3こう)。また、未遂みすい処罰しょばつされる(どうじょうだい4こう)。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、370ぺーじ 
  2. ^ a b c d e f g 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、396ぺーじ 
  3. ^ a b c d 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、397ぺーじ 
  4. ^ a b 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、398ぺーじ 
  5. ^ a b c 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、371ぺーじ 
  6. ^ a b c d e 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、399ぺーじ 
  7. ^ 注釈ちゅうしゃく刑法けいほう だい2かん 各論かくろん(1)』有斐閣ゆうひかく、2016ねん、400ぺーじ 
  8. ^ 奥村おくむら正雄まさお自己じこ名義めいぎ使用しよう承諾しょうだくわたし文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい共謀きょうぼう共同きょうどう正犯せいはん』。「同志社どうししゃ法学ほうがく」、同志社大学どうししゃだいがく刑事けいじ判例はんれい研究けんきゅうかい
  9. ^ 最高裁判所さいこうさいばんしょだい2しょう法廷ほうてい判決はんけつ昭和しょうわ58ねん4がつ8にち

文献ぶんけん情報じょうほう[編集へんしゅう]

  • 松澤まつざわしん、「文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい保護ほご法益ほうえきと「公共こうきょう信用しんよう」の内容ないよう -最近さいきん判例はんれい素材そざいとして- 」『早稲田わせだ法学ほうがく』 2007ねん 82かん 2ごう p.31-69, ISSN 0389-0546, NAID 120001941684, 早稲田大学わせだだいがくほう学会がっかい
  • はやし陽一よういち文書ぶんしょという制度せいどについて : 文書ぶんしょ偽造ぎぞうざい保護ほご法益ほうえき(いち)(岩間いわま昭道あきみち先生せんせい退官たいかん記念きねんごう)」『千葉大学ちばだいがく法学ほうがく論集ろんしゅうだい23かんだい1ごう千葉大学ちばだいがくほう学会がっかい, 千葉大学ちばだいがく総合そうごう政策せいさく学会がっかい、2008ねん9がつ、201-244ぺーじNAID 110007326617  ※(()以降いこう未刊みかん)
  • 髙田あつし、「文書ぶんしょ偽造ぎぞうざいにおける有形ゆうけい偽造ぎぞう概念がいねん学位がくい論文ろんぶん がく位記いき番号ばんごう:ひとしゃおさむ126ごう, 2009ねん, 弘前大学ひろさきだいがく

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]