熊野くまの三山さんざん

熊野くまの三山さんざん 熊野くまの那智なち大社たいしゃ

熊野くまの三山さんざん

8 km

熊野くまの那智なち大社たいしゃ

熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ

熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃ

  

熊野くまの三山さんざん（くまのさんざん）は、熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃ、熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ、熊野くまの那智なち大社たいしゃの3つの神社じんじゃの総称そうしょう。熊野くまの三山さんざんの名前なまえからもわかる通とおり仏教ぶっきょう的てき要素ようそが強つよい。日本にっぽん全国ぜんこくに約やく3千せん社しゃある熊野くまの神社じんじゃの総そう本社ほんしゃである。熊野くまの権現ごんげんも参照さんしょうのこと。

2004年ねん7月がつに、ユネスコの世界せかい遺産いさん「紀伊きい山地さんちの霊場れいじょうと参詣さんけい道どう」の構成こうせい資産しさんとして登録とうろくされた。

熊野くまの信仰しんこう

熊野くまのの地名ちめいが最初さいしょに現あらわれるのは『日本書紀にほんしょき』の神代かみよ記きで、神かみ産うみの段だんの第だい五ごの一いち書しょに、伊い弉冉尊みことが死しんだとき熊野くまのの有馬ありま村むら（三重みえ県けん熊野くまの市し有馬ありまの花はな窟くつ神社じんじゃ）というところに葬ほうむられたという記述きじゅつがある。国家こっかが編纂へんさんした歴史れきし書しょ（『正史せいし』）に熊野くまのの名なが登場とうじょうするのは日本にっぽん三さん代だい実録じつろくからである。

古来こらい、修験しゅげん道どうの修行しゅぎょうの地ちとされた。延喜えんぎ式しき神かみ名めい帳ちょうには、熊野くまの坐すわ神社じんじゃ（熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃ）と熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃとあるが、熊野くまの那智なち大社たいしゃの記載きさいが無ないのは、那智なちは神社じんじゃではなく修行しゅぎょう場じょうと見みなされていたからと考かんがえられている。3社しゃが興おこってくると、3社しゃのそれぞれの神かみが3社しゃ共通きょうつうの祭神さいじんとされるようになり、また神仏しんぶつ習合しゅうごうにより、熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃの主祭しゅさい神しんの家いえ都と御子みこ神しん（けつみこのかみ）または家いえ都と美び御子みこ神しん（けつみこのかみ）は阿弥陀如来あみだにょらい、新宮しんぐうの熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃの熊野くまの速玉はやたま男神おかみ（くまのはやたまおのかみ）または速玉はやたま神しん（はやたまのかみ）は薬師やくし如来にょらい、熊野くまの那智なち大社たいしゃの熊野くまの牟須美神びしん（くまのむすみのかみ）または夫おっと須美すみ神しん（ふすみのかみ）は千手観音せんじゅかんのんとされた。熊野くまのの3神かみは熊野くまの三さん所しょ権現ごんげんと呼よばれ、主祭しゅさい神しん以外いがいも含ふくめて熊野くまの十じゅう二に所しょ権現ごんげんともいう。

平安へいあん時代じだいの中期ちゅうき（長久ながひさ年間ねんかんごろ）に鎮源によって記しるされた『大だい日本国にっぽんこく法華ほっけ経験けいけん記き』には壱いち睿・義よし睿・明あきら蓮はちす・道みち命いのちといった僧侶そうりょが熊野くまの山中さんちゅうで法華経ほけきょうにまつわる不思議ふしぎな経験けいけんをしたことが記しるされており、古ふるくから極楽往生ごくらくおうじょうを望のぞむ僧侶そうりょにとって熊野くまのは霊場れいじょうとして理解りかいされていた。

熊野くまの牛うし王おう符ふ（熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ）

平安へいあん時代じだい後期こうき、浄土じょうど教きょうの阿弥陀あみだ信仰しんこうが強つよまり、熊野くまのの地ちは浄土じょうどと見みなされるようになった。熊野くまのは霊場れいじょうであると同時どうじに紀伊きい山地さんちを挟はさんだ吉野よしのとともに皇室こうしつの祖先そせん神話しんわゆかりの地ちでもあったことも関心かんしんが持もたれた理由りゆうと考かんがえられる。藤原ふじわら道長みちなが・師し通どおりが行おこなった吉野よしのの金峯山こんごうざん詣まいも場所ばしょこそ違ちがえど熊野くまの詣まいの先駆せんくとしてみなすことが出来できる。

上皇じょうこうの参詣さんけいの先例せんれいとしては宇多院うだいんや花山院かさんのいんの例れいが知しられるが、大だい規模きぼな熊野くまの詣まいの契機けいきは永久えいきゅう4年ねん（1116年ねん）に白河しらかわ院いんが行おこなった2回かい目めの熊野くまの詣もうであった。白河しらかわ院いんは寛治かんじ2年ねん（1088年ねん）に高野山こうのやまを行幸ぎょうこうし、寛治かんじ4年ねん（1090年ねん）には最初さいしょの熊野くまの詣まいを、寛治かんじ6年ねん（1092年ねん）には金峯山こんごうざん詣まいを行おこない、永久えいきゅう4年ねんの熊野くまの詣まい以降いこう、恒例こうれい行事ぎょうじとして定着ていちゃくした。高野たかの山さんでも金峯山こんごうざんでもなく熊野くまのが選えらばれた最大さいだいの理由りゆうは熊野くまのが霊場れいじょうであるとともに神域しんいきとしても整備せいびされており、王権おうけん守護しゅごに対たいする期待きたいと共ともに浄土じょうど信仰しんこうと記紀きき神話しんわが融合ゆうごうされた当時とうじの神仏しんぶつ習合しゅうごうの流ながれに合致がっちした土地とちであったからと考かんがえられている。それ以降いこう、院政いんせい期きには歴代れきだいの上皇じょうこうの参詣さんけいが頻繁ひんぱんに行おこなわれ、後こう白河しらかわ院いんの参詣さんけいは34回かいに及およんだ。上皇じょうこうの度重たびかさなる参詣さんけいに伴ともない、在地ざいち勢力せいりょくとして熊野くまの別当べっとう家かが形成けいせいされ、熊野くまの街道かいどうの発展はってんと共ともに街道かいどう沿ぞいに九きゅう十じゅう九きゅう王子おうじと呼よばれる熊野くまの権現ごんげんの御子みこ神しんが祀まつられた。鎌倉かまくら時代ときよに入はいると、熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃで一遍いっぺん上人しょうにんが阿弥陀如来あみだにょらいの化身けしんであるとされた熊野くまの権現ごんげんから神託しんたくを得えて、時宗じしゅうを開ひらいた。

熊野くまの三山さんざんへの参拝さんぱい者しゃは日本にっぽん各地かくちで修験しゅげん者しゃ（先達せんだつ）によって組織そしきされ、檀那だんなあるいは道者どうしゃとして熊野くまの三山さんざんに導みちびかれ、三山さんやま各地かくちで契約けいやくを結むすんだ御ご師しに宿舎しゅくしゃを提供ていきょうされ、祈祷きとうを受うけると共ともに山内やまうちを案内あんないされた。熊野くまのと浄土じょうど信仰しんこうの繋つながりが強つよくなると、念仏ねんぶつ聖きよしや比丘尼びくにのように民衆みんしゅうに熊野くまの信仰しんこうを広ひろめる者ものもあらわれた。また観音かんのんの化身けしんとされた牟須美神びしんを祀まつる那智なち大社たいしゃの那智なち浜はまからは観音かんのんが住すむという補陀落ふだらくを目指めざして、大勢おおぜいの僧侶そうりょが小船こぶねで太平洋たいへいように旅立たびだった。次第しだいに民衆みんしゅうも熊野くまのに頻繁ひんぱんに参詣さんけいするようになり、俗ぞくに「蟻ありの熊野くまの詣もうで」と呼よばれるほどに盛さかんになった。また、各社かくしゃで発行はっこうされる熊野くまの牛うし王おう符ふ（または牛うし王おう宝たから印いん（ごおうほういん）とも）は護符ごふのほか、起請文きしょうもん（誓約せいやく書しょ）の料紙りょうしとして使つかわれ、この牛うし王おう符ふに書かいた誓約せいやくを破やぶると神罰しんばつを受うけると信しんじられた。

ピークは過すぎたものの盛さかんであった熊野くまの信仰しんこうも江戸えど時代じだい後期こうきの紀州きしゅう藩はんによる神仏しんぶつ分離ぶんり政策せいさくで布教ふきょうをしてきた聖せいや山伏やまぶし、熊野くまの比丘尼びくにの活動かつどうを規制きせいしたため衰退すいたいし、明治めいじの神仏しんぶつ分離ぶんり令れいにより衰退すいたいが決定的けっていてきとなった。

熊野くまの権現ごんげんは日本にっぽん全国ぜんこくに勧請かんじょうされ、各地かくちに熊野くまの神社じんじゃが建たてられた。中なかでも沖縄おきなわでは、神社じんじゃのほとんどが熊野くまの権現ごんげんを祀まつっている。沖縄おきなわにおける主おもな神社じんじゃ琉球りゅうきゅう八はち社しゃとは、波なみ上宮かみみや、普あまね天満宮てんまんぐう、沖おき宮みや、識名しきな宮みや、末吉すえきち宮みや、天久あめく宮みや、金武かなたけ宮みや、安里あさと八幡宮はちまんぐう であるが、安里あさと八幡宮はちまんぐう以外いがいは熊野くまの権現ごんげんを祀まつっている。石垣島いしがきじまの権現堂ごんげんどうにも熊野くまの権現ごんげんが祀まつられている。

なお出雲いずもの熊野くまの大社たいしゃ（島根しまね県けん松江まつえ市し）には、この熊野くまの三山さんざんの元もと津宮つのみやであるとの古伝こでんがある。

文化財ぶんかざい

史跡しせき「熊野くまの三山さんざん」

熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃ（現げん社地しゃちおよび旧きゅう社地しゃち（大だい斎とき原ばら））、熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ境内けいだい（神倉かみくら神社じんじゃおよび御船みふね島とうを含ふくむ）、熊野くまの那智なち大社たいしゃ境内けいだい、青あお岸きし渡わたる寺てら境内けいだい、および補ほ陀洛山寺やまでら境内けいだいは国くにの史跡しせき「熊野くまの三山さんざん」である。当初とうしょ、熊野くまの三山さんざんは史跡しせき「熊野くまの参詣さんけい道どう」（2000年ねん11月2日にち）の一部いちぶであったが、2002年ねん12月19日にちに分離ぶんりおよび名称めいしょう変更へんこう、熊野くまの本宮もとみや大社たいしゃ現げん社地しゃちと熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ境内けいだいの追加ついか指定していが行おこなわれた。

関連かんれん神社じんじゃ

• 熊野くまの大社たいしゃ（島根しまね県けん松江まつえ市し）
• 花はな窟くつ神社じんじゃ
• 神倉かみくら神社じんじゃ
• 玉置たまき神社じんじゃ
• 闘鶏とうけい神社じんじゃ
• 熊野くまの神社じんじゃ (南陽なんよう市し)
• 熊野くまの皇すめらぎ大だい神社じんじゃ
• 三さん熊野くまの神社じんじゃ
• 伊勢神宮いせじんぐう - 「伊勢いせに七なな度ど熊野くまのに三さん度ど、どちらが欠かけても片かた参まいり」

関連かんれん文献ぶんけん

• 篠原しのはら四郎しろう 『熊野くまの大社たいしゃ』（学生がくせい社しゃ、初版しょはん 1969年ねん、改訂かいてい新版しんぱん 2001年ねん）
  　著者ちょしゃ（1898年ねん- 1978年ねん）は、初刊しょかん時じの熊野くまの那智なち大社たいしゃ宮司ぐうじ。「本宮ほんぐう・速玉はやたま・那智なち」三さん社しゃの伝承でんしょうを中心ちゅうしんに記述きじゅつ。
• 阪本さかもと敏行としゆき 『熊野くまの三山さんざんと熊野くまの別当べっとう』（清文せいぶん堂どう、2005年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• 八はち咫烏
• 熊野くまの三山さんざん検校けんぎょう
• 熊野くまの別当べっとう
• 熊野くまの三山さんざん本願ほんがん所しょ

外部がいぶリンク

• 熊野くまの三山さんざん協議きょうぎ会かい
• 紀伊きい山地さんちの霊場れいじょうと参詣さんけい道どう（熊野くまの古道ふるみち）
• 新宮しんぐう市し観光かんこう協会きょうかい「熊野くまの三山さんざん」
• 『熊野くまの三山さんざん』 - コトバンク