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甲州こうしゅうべん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

甲州こうしゅうべん(こうしゅうべん)は、山梨やまなしけんはなされる日本語にほんご方言ほうげん山梨やまなし県内けんないでも御坂山地みさかさんち大菩薩嶺だいぼさつれいさかい東西とうざいおおきく方言ほうげんことなっており、西側にしがわ国中くになか地方ちほうでは東海とうかい東山ひがしやま方言ほうげんナヤシ方言ほうげん)の一種いっしゅ国中くになかべん)が、東側ひがしがわぐんない地方ちほうでは西にし関東かんとう方言ほうげん一種いっしゅぐんないべん)がはなされている。両者りょうしゃける代表だいひょうてき特徴とくちょうは、意志いし推量すいりょう表現ひょうげんであり、国中くになか地方ちほうでは「ず」「ずら」、ぐんない地方ちほうでは「べー」「だんべー」をもちいることである[1]

ここでは国中くになか地方ちほう方言ほうげんあつかう。ぐんないべんについては当該とうがい項目こうもく参照さんしょうのこと。また早川はやかわまち奈良田ならだでは特殊とくしゅ方言ほうげんもちいられており、奈良田ならだ方言ほうげん参照さんしょう

概要がいよう

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国中くになか地方ちほう富士川ふじかわしょ街道かいどうによって駿河するがこくとの文化ぶんかてき共通きょうつうせいつよいため、「ずら」を使用しようするなどおも語彙ごい静岡しずおかべんとよくている。長野ながの山梨やまなし静岡しずおか方言ほうげんをひっくるめてナヤシ方言ほうげんともう。

江戸えど時代じだいにはとおる9ねん1724ねん)に甲府こうふはんおも柳沢やなぎさわ家臣かしん柳沢やなぎさわ淇園きえん随筆ずいひつ『ひとりね』をしるし、同書どうしょでは甲斐かい地誌ちし情報じょうほうとともに甲州こうしゅうべん語彙ごい50あまりが記録きろくされている。また、よしみひさし3ねん(1850ねん成立せいりつ宮本みやもと定正さだまさ甲斐かい廼手』にも若干じゃっかん甲州こうしゅうべん記載きさいされている[2]宮本みやもと定正さだまさ幕末ばくまつ江戸えどから甲府こうふ赴任ふにんした人物じんぶつで、国立こくりつ公文書こうぶんしょかん内閣ないかく文庫ぶんこ多聞たもん文書ぶんしょ」の幕臣ばくしん由緒ゆいしょしょしるされる「宮本みやもと久平きゅうへい」とどう一人物いちじんぶつであるとかんがえられている[3]宮本みやもと久平きゅうへいひろし5ねん/よしみなが元年がんねん11がつ23にち甲府こうふ学問がくもんしょ徽典かん学頭がくとうめいじられ、10ヶ月かげつあま甲府こうふ滞在たいざいしている[4]。『甲斐かい廼手』は『甲斐かいこころざしりょう集成しゅうせい』『甲斐かい叢書そうしょ』において翻刻ほんこくされており、両者りょうしゃともおな東京大学とうきょうだいがく総合そうごう図書館としょかん所蔵しょぞうみなみまもる文庫ぶんこ」に収録しゅうろくされている。「みなみあおい文庫ぶんこほん伝来でんらい不明ふめいであるが、誤記ごき散見さんけんされることから宮本みやもと定正さだまさ自筆じひつほんではないとかんがえられており、56あまりの甲州こうしゅうべん記載きさいされている[4]

明治めいじには三田村鳶魚みたむらえんぎょの「甲斐かい方言ほうげんこう」『風俗ふうぞくほう』や自治体じちたいにより山梨やまなしけん方言ほうげんかんする語彙ごい紹介しょうかいおこなわれている。戦後せんごには、1939ねん昭和しょうわ14ねん)に発足ほっそくした山梨やまなし郷土きょうど研究けんきゅうかい昭和しょうわ30年代ねんだい山梨やまなし方言ほうげん研究けんきゅうかい1986ねん昭和しょうわ61ねん)に発足ほっそくした「山梨やまなしことばのかい」が中心ちゅうしんとなって学術がくじゅつてき研究けんきゅうがスタートし、とく独自どくじ方言ほうげんとしてられる奈良田ならだ方言ほうげんかんする研究けんきゅう全国ぜんこくてきにも注目ちゅうもくされた。また、きたもり金田一きんだいち春彦はるひこ記念きねん図書館としょかんきゅう大泉おおいずみむら図書館としょかん)は金田一きんだいち春彦はるひこきゅうぞう方言ほうげん資料しりょう収蔵しゅうぞうしている。

甲州こうしゅうべんラップ「だっちもねぇこんいっちょし」(「くだらないことうな」の)がCDされ、発売はつばいされたこともある。

音声おんせい・アクセント

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全般ぜんぱんてき共通きょうつうちかいが、母音ぼいん無声むせいこらない。アクセントはちゅう東京とうきょうしきアクセント。「山梨やまなしけん」や「山梨やまなし」などと場合ばあいには、共通きょうつう同様どうよう平板へいばんがた発音はつおんであるが、たんに「山梨やまなし」と場合ばあいに、「マナシ」とだいいちおとにアクセントをいて発音はつおんすると山梨やまなしす。同様どうように「甲府こうふ」を「ウフ」、「清里きよさと」を「ヨサト」とう。

奈良田ならだ方言ほうげん特殊とくしゅアクセントであり、よっ仮名がな区別くべつする。

文法ぶんぽう

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  • 否定ひていけし)の助動詞じょどうしは「…ない」ではなく、国中くになかでは「…ん」が使つかいられる。ぐんない方言ほうげんでは「にゃあ(ねえ)」をもちいる[5]過去かこ否定ひていは「…なんだ」をもちいる。
    • 「…ん」が甲州こうしゅう飛地とびちじょう分布ぶんぷをする理由りゆうについては、もともと長野ながのけん諏訪すわ松本まつもと地域ちいきにも「…ん」が分布ぶんぷしていたが、江戸えど時代じだい中山道なかせんどう沿ってひがしから「…ない」がほん地域ちいき分布ぶんぷひろげたため、甲州こうしゅうに「…ん」がのこされたとする見方みかたがある。その証拠しょうこに、長野ながのけん諏訪すわ松本まつもと地域ちいきでは過去かこ否定ひていは「…なんだ」をもちいる。
  • 推量すいりょうは「…ずら、…ら」をもちいる。「ずら」は動詞どうし形容詞けいようし連体れんたいがた形容動詞けいようどうし語幹ごかん体言たいげんく。「ら」は動詞どうし終止しゅうしがたく。過去かこ推量すいりょうには「つら」をもちい、用言ようげん連用形れんようけいく。「つら」がイ音便おんびん撥音便はつおんびんのち場合ばあいは「ずら」となる。したがって、「およげぐずら」は現在げんざいにおける推量すいりょう、「およげいずら」は過去かこ推量すいりょうである[6][7]ぐんない方言ほうげんでは「べえ」がもちいられる[5]。「ずら」の用例ようれい滑稽本こっけいぼん旧観きゅうかんじょう』など[7]。『甲斐かい廼手』では「そふづらめ」として記載きさい[7]
  • 意志いし勧誘かんゆう(~しよう)は「…ず」「…ざあ」をもちいる。どちらも動詞どうし未然みぜんがた[7][6]。(れい)「さあ、ぎょうかざあ」「はなしかざあ」。「ず・ざあ」は国中くになかもちいられ、ぐんない方言ほうげんでは勧誘かんゆうは「べえ」をもちいる[5]。「ず」は「どうかずか」(どうこうか)のようにもちいるが、「どうしょかっか」のように促音そくおんすることがある[8]
  • 過去かこの「…た」が「…とー」となる場合ばあいがある。この特徴とくちょう奈良田ならだ方言ほうげん顕著けんちょである[9]
  • おわり助詞じょし「ちょ」が動詞どうし連用形れんようけいき、禁止きんしあらわす。古語こごの「そ」が変化へんかしたもの[10]。(れい)「あんまり無理むりをしちょ(あんまり無理むりをするな)」「そんなにんじょ(そんなにむな)」
  • 禁止きんし「ちょ」や命令めいれい表現ひょうげんのちに、おわり助詞じょし「し」をける[10]。(れい)「ちゃんと勉強べんきょうしろし(ちゃんと勉強べんきょうしなさいよ)」「へぇいちょし(もうくのはやめようよ)」

語彙ごい

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  • おばやん - おばさん。
  • おまん - おまえ、あなた。
  • いく - なに
れい)「いくどき」(なん)、「いくしょ」(何処どこ)、「いくゆえ」(何故なぜ
  • かじる -
れい)「背中せなかかじって」(背中せなかいて)
  • こう -
れい)「こっちぃこう」(こっちへい)
  • こっちん - こっちが
  • こぴっと - 物事ものごとがきちんとととのっているさま。ちゃんと。しゃんと。しっかりと。
れい)「こぴっとしろし」(ちゃんとしろよ)
  • からかう - (時間じかん)をかける、または(修理しゅうりなどを)ためしてみること
れい)「パソコンの調子ちょうしわるいから、ちょっとからかってみる」
  • ~じゃんけ - ~じゃないか。
三河みかわべんなどの「~じゃんか」に相当そうとう
  • ちゅうこん (ちゅこん)- っていうこと。「こと」が撥音はつおんして「こん」になる[11]
  • - あぁ。
  • てて - うわぁ。
  • はんで - いそいで。はやく。
れい)「はんでくるまれし」
「いつも」「頻繁ひんぱんに」という意味いみ使つかうこともある。
れい)「はんでそんなことやってるから」(いつもそんなことやってるから)
れい)「あくいぼこじゃん」

甲州こうしゅうべん関連かんれんした作品さくひんなど

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  • 47都道とどういぬ - 声優せいゆうバラエティー SAY!YOU!SAY!ME!うち放映ほうえいされた短編たんぺんアニメ。郷土きょうど名産めいさんをモチーフにしたいぬたちが登場とうじょうする。山梨やまなしけんは、葡萄ぶどうがモチーフの山梨やまなしけんとして登場とうじょうし、『ワインにされるずらー!!』などはなす。声優せいゆうは、山梨やまなしけん出身しゅっしん志村しむら由美ゆみ担当たんとうしている。
  • 月曜げつようからふかし - せきジャニ∞村上むらかみマツコ・デラックスによるトークバラエティ。甲州こうしゅうべんが「ブサイクな方言ほうげんワースト1」に選出せんしゅつされ、「おら、田中たなかちゃんの愛人あいじんっつーこんずら(わたし田中たなかちゃんの愛人あいじんです)」がスタジオに爆笑ばくしょうこした(ただし、このぶんだと「わたし田中たなかちゃんの愛人あいじんということでしょう?(確認かくにん)」となってしまう)。ほかにも「おまんこっちんこうし(あなたこっちにきて)」が、「放送ほうそうじょう完全かんぜんアウトだが、あくまで甲州こうしゅうべんです」とげられた。
  • ててて!TV - 山梨放送やまなしほうそう(YBSテレビ)の情報じょうほう番組ばんぐみ番組ばんぐみめい甲州こうしゅうべんの「てっ」に由来ゆらい同局どうきょくアナウンサーであったハードキャッスル エリザベス甲州こうしゅうべんライターのいとぐち川津かわづ平太へいたによる甲州こうしゅうべん教養きょうようコーナー「エリーのキャン・ユー・スピーク甲州こうしゅうべん」が2016ねん4がつから2019ねん3がつまで放送ほうそうされ、同年どうねん4がつからは全編ぜんぺん甲州こうしゅうべんのゆるキャラアニメ「ほんじゃ!いかざぁ!コウシュウペン」が放送ほうそうされている。
  • 甲州こうしゅうべんラジオ体操たいそう - 甲斐かい制作せいさくしたラジオ体操たいそう
  • 風林火山ふうりんかざん (NHK大河たいがドラマ)
  • 花子はなことアン (NHK連続れんぞくテレビ小説しょうせつ) - おも主人公しゅじんこう故郷こきょう山梨やまなしのシーンで使用しようされ、「てっ」「こぴっと」「ずら」「おらのこと花子はなこってくりょう(わたしこと花子はなこんでください)」とうもちいられた。

甲州こうしゅうべん使つか有名人ゆうめいじん

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参考さんこう文献ぶんけん

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  • 石川いしかわひろし上野原うえのはらまち方言ほうげん」『甲斐かい No.69』(山梨やまなし郷土きょうど研究けんきゅうかい、1990)
  • 石川いしかわひろし学芸がくげい」『甲斐かい 95ごう 創立そうりつろくじゅう周年しゅうねん記念きねん特集とくしゅうごう』(山梨やまなし郷土きょうど研究けんきゅうかい、1999)
  • 石川いしかわひろし甲斐かい所収しょしゅう方言ほうげんについて」『山梨やまなしことばのかい会報かいほう だいはちごう山梨やまなしことばのかい、1995ねん
  • 飯豊いいとよ毅一きいち日野ひのじゅん佐藤さとう亮一りょういち講座こうざ方言ほうげんがく 6 中部ちゅうぶ地方ちほう方言ほうげん国書刊行会こくしょかんこうかい、1983ねん

関連かんれん図書としょ

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  • 緒川おがわ 平太へいた(ごっちょがわ つっぺえた) 『キャン・ユー・スピーク甲州こうしゅうべん?』(じょう家出いえでばん、2009ねん3がつ1にち) - 自費じひ出版しゅっぱんながら山梨やまなし県内けんない異例いれいのベストセラーとなった書籍しょせき読売よみうりテレビ秘密ひみつのケンミンSHOW紹介しょうかいされた。

関連かんれん項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 飯豊いいとよほか(1983)、102ぺーじ
  2. ^ 石川いしかわ(1995)、p.25
  3. ^ 石川いしかわ(1995)、pp.25 - 32
  4. ^ a b 石川いしかわ(1995)、p.32
  5. ^ a b c 石川いしかわ(1990)、p.72
  6. ^ a b 飯豊いいとよほか(1983)、129-131ぺーじ
  7. ^ a b c d 石川いしかわ(1995)、p.30
  8. ^ 飯豊いいとよほか(1983)、120ぺーじ
  9. ^ http://www2.ninjal.ac.jp/hogen/dp/gaj-pdf/gaj-pdf_index.html
  10. ^ a b 飯豊いいとよほか(1983)、135ぺーじ
  11. ^ 石川いしかわ(1995)、p.29

外部がいぶリンク

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