咽頭いんとう

咽頭いんとう
ヒトの咽頭いんとう概念がいねん図ず
英語えいご	Pharynx
器官きかん	消化しょうか器き
動脈どうみゃく	上うえ行こう咽頭いんとう動脈どうみゃく 上うえ行こう口蓋こうがい動脈どうみゃく 下した行ぎょう口蓋こうがい動脈どうみゃく
静脈じょうみゃく	咽頭いんとう静脈じょうみゃく
神経しんけい	咽頭いんとう神経しんけい叢くさむら

咽頭いんとう（いんとう、pharynx）は、脊索せきさく動物どうぶつ門もん固有こゆうの器官きかんで、消化しょうか管かんの前部ぜんぶで口腔こうくうと食道しょくどうの中間ちゅうかんにあり、胚はいの時期じきには、両りょう側壁そくへきにいくつかの咽頭いんとう嚢が前後ぜんごに並ならんで発生はっせいする部分ぶぶんのことである。咽頭いんとうと食道しょくどうまたは喉頭こうとうの境界きょうかいは第だい6頸椎である。

ヒトの咽頭いんとうは気管きかんの入口いりくちにあって発声はっせいや誤あやま嚥えんの防止ぼうしといった機能きのうを有ゆうする。

発生はっせい学がく

咽頭いんとう嚢は、消化しょうか管かんの内壁ないへきが側がわ方かたへ向むかってポケット状じょうにくぼんだもので、尾お索さく動物どうぶつ亜あ門もんや頭あたま索さく動物どうぶつ亜あ門もん、また脊椎動物せきついどうぶつ亜あ門もんの魚類ぎょるい・両生類りょうせいるい幼生ようせいおよび一部いちぶの両生類りょうせいるい成体せいたいでは、外界がいかいへ開通かいつうして「えら穴あな」（鰓えら裂きれ：さいれつ）となり、その前後ぜんごの残存ざんそん部ぶ、つまり鰓えら弓ゆみ（さいきゅう）の壁かべにガス交換こうかん面めんとしての「えら」（鰓えら弁べん：さいべん）を生しょうずるものである。本来ほんらいこれらの祖先そせん的てきな脊索せきさく動物どうぶつにおいて、口くちから飲のみ込こんだ水みずを鰓えら裂きれに通とおしてガス交換こうかんすると共ともに、ここの腹はら側がわにある内うち柱はしらから分泌ぶんぴつされる粘液ねんえきと鰓えら弁べんによってプランクトンやデトリタスを濾過ろか補足ほそくして摂食せっしょくするかご状じょうの器官きかんであった。今日きょうでも尾お索さく動物どうぶつのホヤやサルパ、頭あたま索さく動物どうぶつのナメクジウオ、脊椎動物せきついどうぶつのヤツメウナギの幼生ようせいアンモシーテスではこの本来ほんらいの形態けいたいや機能きのうをよく維持いじしている。硬骨魚こうこつぎょ綱つなや軟骨なんこつ魚ぎょ綱つなの魚類ぎょるいにも咽頭いんとうで濾過ろか摂食せっしょくするものが多おおく知しられているが、これらでは濾過ろかの主役しゅやくは鰓えら弁べんではなく鰓えら弓ゆみから伸のびた鰓えら耙（さいは）と呼よばれる突起とっきとなり、また内うち柱はしらからの粘液ねんえきシートも失うしなわれている。

空気くうき呼吸こきゅうをするようになった脊椎動物せきついどうぶつのうち、幼よう形がた成熟せいじゅくしない両生類りょうせいるいや有ゆう羊ひつじ膜まく類るいでは咽頭いんとう嚢は原則げんそくとして外そと通とおせず、また、鰓えら弁べんも発生はっせいせずに、成長せいちょうにともなって退化たいか消失しょうしつするが、その付近ふきんの組織そしきからは種々しゅじゅの鰓えら性せい（さいせい）器官きかんが分化ぶんかする。また、脊椎動物せきついどうぶつでは内うち柱はしらは内分泌ないぶんぴつ器官きかんである甲状腺こうじょうせんに変化へんかし、代謝たいしゃ調節ちょうせつを担になっている。

この点てんでは爬虫類はちゅうるいや鳥類ちょうるいでもほぼ同様どうようだが、哺乳類ほにゅうるいの咽頭いんとうは、鼻腔びこう、口腔こうくうと喉頭こうとうの間あいだにあって、呼吸こきゅうならびに食物しょくもつの通路つうろとして十字路じゅうじろのような大切たいせつな部分ぶぶんであり、ヒトでは抗体こうたいをつくって生体せいたいを防御ぼうぎょする扁ひらた桃ももなどのリンパ組織そしきが杯はい状じょうに配置はいち（ワルダイエル扁ひらた桃もも輪わ）され、神経しんけいの分布ぶんぷは緻密ちみつである。また、種々しゅじゅの筋肉きんにくの協調きょうちょうにより嚥下えんかをもつかさどる。

解剖かいぼう学がく

咽頭いんとうは上うえ咽頭いんとう、中ちゅう咽頭いんとう、下しも咽頭いんとうの三みっつの部分ぶぶんに分わけられる。

上うえ咽頭いんとう

鼻腔びこうに続つづく口蓋こうがいのレベルより上うえの部分ぶぶんを上うえ咽頭いんとう（epipharynx）、鼻はな咽のど腔（びいんこう/びいんくう）、あるいは咽頭いんとう鼻腔びこう部ぶ（nasopharynx）と呼よぶ。呼吸こきゅう器き（上うえ気道きどう）の一部いちぶを構成こうせいしている。ここには中耳ちゅうじ腔（ちゅうじこう/ちゅうじくう）に通つうじる耳みみ管かんの開口かいこう部ぶがある。

ここにアデノイドがあり、アデノイドが増殖ぞうしょくすると耳みみ管かんを圧迫あっぱくして狭窄きょうさく（きょうさく）を起おこして難聴なんちょうの原因げんいんとなる。

また風邪かぜなどで鼻炎びえん、扁ひらた桃もも炎えんに引ひき続つづいて上うえ咽頭いんとう炎えんを起おこすと、炎症えんしょうが耳みみ管かんや中耳ちゅうじに波及はきゅうして中耳炎ちゅうじえんを起おこす。

ここにできる腫瘍しゅようには、上うえ咽頭いんとう癌がんや肉腫にくしゅがあるが、これは中国ちゅうごく南東なんとう岸がん一帯いったい、台湾たいわん、香港ほんこん、シンガポールの中国人ちゅうごくじんに多おおく見みられる。

中ちゅう咽頭いんとう

咽頭いんとうの第だい2の部分ぶぶんは口くちを開あけると見みえる中なか咽頭いんとう（mesopharynx）であり、咽頭いんとう口腔こうくう部ぶ（oropharynx）ともいう。ここは（口腔こうくうの一部いちぶでもあるため）消化しょうか管かんであると同時どうじに上気じょうき道どうでもある。この両側りょうがわに扁ひらた桃ももがひかえる。この部分ぶぶんは風邪かぜなどの炎症えんしょうでよく咽頭いんとう炎えんならびに扁ひらた桃もも炎えんを起おこす。

咽頭いんとう炎えんには、急性きゅうせいと慢性まんせいの別べつがあり、急性きゅうせい咽頭いんとう炎えんでは、発熱はつねつ、咽頭いんとう痛つう、咳せき、痰たんなどを訴うったえ、口くちを開あけると咽頭いんとうが赤あかく見みえる。慢性まんせい咽頭いんとう炎えんは、過度かどの飲酒いんしゅ、喫煙きつえん、炎症えんしょうの慢性まんせい化かなどによっておこり、痛いたみを訴うったえることはなく、むしろ咽頭いんとう異物いぶつ感かんあるいは違和感いわかんに悩なやまされるものである。

治療ちりょうとしては、原因げんいんとなる疾患しっかん、例たとえば慢性まんせい鼻炎びえん、副ふく鼻腔びこう炎えんなどの除去じょきょに努つとめ、慢性まんせいの場合ばあい、抗生こうせい物質ぶっしつは使つかわず、もっぱら吸入きゅうにゅう、うがいなどの局所きょくしょ治療ちりょうに専念せんねんする。

下しも咽頭いんとう

最さい下部かぶの下しも咽頭いんとう（hypopharynx）は咽頭いんとう喉頭こうとう部ぶ（laryngopharynx）ともいい、喉頭こうとうの後方こうほうから両側りょうがわ方かたにかけて存在そんざいする腔で、ここから気道きどうより分わかれた消化しょうか管かんとなる。炎症えんしょうが慢性まんせい化かしやすい部分ぶぶんである。また、大人おとなの場合ばあい、舌根ぜっこんにある舌した扁ひらた桃ももの増殖ぞうしょくが加くわわって違和感いわかんがさらにひどくなる。

食道しょくどうの直上ちょくじょうに位置いちする1対ついの空間くうかんを梨なし状じょう窩（英えい: piriform fossa）という。梨なし状じょう陥おちい凹（英えい: sinus pyriformis）、Recessus Piriformisとも。

ここにも悪性あくせい腫瘍しゅようができやすく、喉頭こうとうの癌がんと区別くべつしにくいことが多おおい。

また、ここは下しも咽頭いんとう痛つうのほか、嚥下えんか障害しょうがいなどを訴うったえる部分ぶぶんであり、魚さかな骨こつなどの異物いぶつのひっかかりやすい場所ばしょでもある。

最近さいきんは少すくなくなったが、咽頭いんとう結核けっかくもみられることがある。これは、たいてい肺結核はいけっかくから二に次じ的てきに感染かんせんしたもので、咽頭いんとう痛つう、嚥下えんか痛つう、微熱びねつ、喉のどの違和感いわかん、嚥下えんか困難こんなんなどを訴うったえるものであり、咽頭いんとう粘膜ねんまくあるいは軟口蓋なんこうがいに粟粒あわつぶ（ぞくりゅう）状じょう発疹はっしんか、潰瘍かいようが見みられる。

なお、昔むかし多おおかった咽頭いんとう梅毒ばいどくは、現在げんざいではほとんどみられなくなった。代かわりに、オーラルセックスによる性せい感染かんせん症しょう（STD）としては淋菌りんきん性せい咽頭いんとう炎えんなどが増加ぞうか傾向けいこうにある。

関連かんれん項目こうもく

• 耳鼻咽喉じびいんこう科学かがく
• 咽頭いんとう音おん

外部がいぶリンク

• 日本にっぽん口腔こうくう・咽頭いんとう科か学会がっかい