etaoin shrdlu

1903年ねんのニューヨークタイムズの紙面しめんに登場とうじょうしたetaoin shrdlu（下したから3行ぎょう目め）

1916年ねんのデイ・ブック（英語えいご版ばん）の紙面しめんにおける、etaoin shrdluを意図いと的てきに使用しようした例れい

etaoin shrdlu ([ˈɛtiɔɪn ˈʃɜːrdluː]^[1], [ˈeɪtɑːn ʃrədˈluː]^[2]) とは、鋳造ちゅうぞう活字かつじ（英語えいご版ばん）で組版くみはんを行おこなっていた時代じだいに、組版くみはん職人しょくにんの慣習かんしゅうから、英語えいごの印刷物いんさつぶつにしばしば登場とうじょうした意味いみのないフレーズである。オックスフォード英語えいご辞典じてんやランダムハウスウェブスター完全かんぜん版ばん辞典じてん（英語えいご版ばん）に掲載けいさいされている。これは、英語えいごにおける文字もじの出現しゅつげん頻度ひんどの高たかい順じゅんに並ならべたものとほぼ一致いっちする^[3]。

概要がいよう

組版くみはん鋳造ちゅうぞう機きのキーボード（ライノタイプやインタータイプなど）上じょうの文字もじ配列はいれつは、動作どうさの効率こうりつ化かのために、左上ひだりうえから出現しゅつげん頻度ひんどの高たかい順じゅんに並ならんでいた。そのため、概おおむねどのメーカーの鋳造ちゅうぞう機きでもキーボードの左側ひだりがわから1列れつ目め・2列れつ目めが小文字こもじのe-t-a-o-i-n、s-h-r-d-l-uとなっていた。

打鍵だけん操作そうさをすると、ストックから活字かつじの母型ぼけいが、缶かん飲料いんりょうの自動じどう販売はんばい機きのように垂直すいちょくの筒つつの中なかを落おちてきて、一定いっていの位置いちに順次じゅんじ置おかれていく。1行ぎょう分ぶんの組版くみはんが終おわると鋳造ちゅうぞう部ぶに移動いどうし、活字かつじ合金ごうきんが流ながし込こまれて1行ぎょう分ぶんが一体いったい鋳造ちゅうぞうされた版はんが出来できる。使用しよう済ずみの母型ぼけいは解かい版ばんされて、各かく文字もじのストックに自動的じどうてきに戻もどされる。このとき母型ぼけいの側面そくめんに刻きざまれた形状けいじょうによって機械きかいは自動的じどうてきに文字もじを判別はんべつするようになっている。母型ぼけいはレールに沿そって移動いどうし、対応たいおうする文字もじの箇所かしょを通過つうかするときにストックに戻もどされる。

入力にゅうりょくミスをしたとき、その場ばで訂正ていせいしようとすると、組版くみはん鋳造ちゅうぞう機きの動作どうさをいったん止とめて、組くみ上あがった母型ぼけいの間あいだ違ちがった部分ぶぶんを外はずして、母型ぼけいを手動しゅどうでストックに戻もどす、という一連いちれんの作業さぎょうが必要ひつようになる。一いち字じでも間違まちがえれば訂正ていせいのために煩雑はんざつな手順てじゅんを踏ふまねばならず、それよりも、行くだりを改あらためたうえで一いちから正ただしく入力にゅうりょくし直なおして原稿げんこうを完成かんせいさせ、後ごから誤あやまった行くだりの活字かつじだけを破棄はきした方ほうが早はやくて楽らくだった。誤あやまった行くだりを終おわらせる際さいに、キーの列れつに沿そって指ゆびを走はしらせて、行くだりの右みぎ端はしまで意味いみのない（しかし順序じゅんじょの決きまった）文字もじ列れつで埋うめると、入力にゅうりょくが簡単かんたんで、校正こうせい者ものが見みつけやすいパターンとなる。そのような行くだりは校正こうせいの際さいに取とり除のぞかれることになっていたが、見落みおとされて誤あやまって印刷いんさつされてしまうことも時々ときどきあった。

『ニューヨーク・タイムズ』の印刷いんさつ工程こうていにおける鋳造ちゅうぞう活字かつじの使用しようの終焉しゅうえん（1978年ねん7月がつ1日にち）とコンピュータの導入どうにゅうを記録きろくした、デイヴィッド・ローブ・ワイス (David Loeb Weiss) によるドキュメンタリー映画えいがのタイトルはFarewell, Etaoin Shrdlu（さよならEtaoin Shrdlu）だった^[2]^[4]。

組版くみはん以外いがいでの用例ようれい

このフレーズは、組版くみはんとは無関係むかんけいの文脈ぶんみゃくでも時折ときおり用もちいられる。以下いかにその例れいを挙あげる。

コンピュータ

SHRDLUは、1972年ねんにテリー・ウィノグラードによってLISPで記述きじゅつされた初期しょきの人工じんこう知能ちのうシステムの名称めいしょうである^[5]。
ETAOIN SHRDLUは、ガース・クルトワ・ジュニア(Garth Courtois, Jr.)がミニコンピュータNova 1200（英語えいご版ばん）用ように作成さくせいしたチェスプログラムで、1975年ねんと1976年ねんの北米ほくべいコンピュータチェス選手権せんしゅけん（英語えいご版ばん）に出場しゅつじょうした^[6]。
"Etienne Shrdlu"は、1980年代ねんだい後半こうはんのタッチタイピング練習れんしゅうソフト"Mavis Beacon Teaches Typingに登場とうじょうするキャラクターの名前なまえである^[7]。

文学ぶんがく

エルマー・ライスによる1923年ねんの戯曲ぎきょく『計算けいさん機き（英語えいご版ばん）』には、Shrdluという人物じんぶつが登場とうじょうする^[8]。
1942年ねんにはフレドリック・ブラウンが、感覚かんかくを持もつライノタイプ機きに関かんするショートストーリー "Etaoin Shrdlu"^{[注釈ちゅうしゃく 1]} を執筆しっぴつした。続編ぞくへんとなる Son of Etaoin Shrdlu: More Adventures in Type and Space^[12] が1981年ねんに別べつの人物じんぶつによって書かかれた^[8]。
アンソニー・アームストロング（英語えいご版ばん）が1945年ねんに記しるした突飛とっぴなショートストーリー Etaoin And Shrdlu^[13] は「そしてEtaoin卿きょうとShrdluは結婚けっこんし、末永すえながく幸しあわせに暮くらしました。ですから今日きょうでも、Etaoinの名前なまえを見みかけるときはいつでも、その後ごに大抵たいていShrdluがついています」と締しめくくられている^[8]。
物理ぶつり学者がくしゃのシェルドン・グラショーとスティーヴン・ワインバーグが編集へんしゅうしたSFファンジン（同人どうじん誌し）のタイトルに使つかわれた^[14]。
チャールズ・G・フィニーのファンタジー小説しょうせつ『ラーオ博士はかせのサーカス（英語えいご版ばん）』（The Circus of Dr. Lao）には、Mr. Etaoinという名前なまえの新聞しんぶんの組版くみはん職人しょくにんが登場とうじょうする^[15]。
トマス・ピンチョンの1962年ねんの短編たんぺん『秘密ひみつのインテグレーション』（原題げんだい The Secret Integration^[16]、1984年ねんの短たん編集へんしゅう『スロー・ラーナー』に所収しょしゅう）には、"Etienne Cherdlu"というキャラクターが登場とうじょうする。
雑誌ざっし『ザ・ニューヨーカー』には、"Etain Shrdlu"の筆名ひつめいによる作品さくひんが1925年ねんに3件けん掲載けいさいされている^[17]。また、同誌どうしに掲載けいさいされた作品さくひんには、"Etaoin Shrdlu"をタイトルに含ふくむものが少すくなくとも1つ存在そんざいする^[18]。
マックス・シュルマン（英語えいご版ばん）は、1944年ねんに出版しゅっぱんされた本ほんBarefoot Boy with Cheekで、かつて参照さんしょうされたいくつかのキャラクターの名前なまえとしてこの用語ようごを使用しようした^[19]。
ダグラス・ホフスタッターの著書ちょしょ『ゲーデル、エッシャー、バッハ』には"SHRDLU, Toy of Man's Designing"^{[注釈ちゅうしゃく 2]}という章あきらがある。この中なかで、"SHRDLU"という名前なまえのコンピュータープログラムを使用しようする"Eta Oin"というキャラクターが登場とうじょうする。この章しょうのタイトルは、テリー・ウィノグラードのプログラムSHRDLUと、バッハの楽曲がっきょく『主おもよ、人ひとの望のぞみの喜よろこびよ』(Jesu, Joy of Man's Desiring)から取とられたものである。
ジェームズ・サーバーが1931年ねんに記しるしたThe Owl in the Attic and Other Perplexitiesにおいて、ライノタイプ入力にゅうりょく者しゃの無能むのうさを示しめすために、etaoin shrdluがユーモラスに用もちいられている。

メディア

1958年ねんにアメリカナショナルプレスクラブ（英語えいご版ばん）が発行はっこうしたクラブの50年ねん史しのタイトルはShrdlu - An Affectionate Chronicleだった^[20]。
ロバート・クラムの漫画まんがには、Etaoin Shrdluというキャラクターが登場とうじょうするものが少すくなくとも2つ存在そんざいする^[21]。
エミール・メルシエ（英語えいご版ばん）の漫画まんがには、EtaoinやShrdluという名前なまえが、地名ちめい、競走きょうそう馬ば名めい、人名じんめいとして頻繁ひんぱんに登場とうじょうする。
ウォルト・ケリーのコミック・ストリップ『ポゴ（英語えいご版ばん）』で、『ウェブスター辞書じしょ』の綴つづりが悪わるいなどと批判ひはんする読書どくしょ狂きょうとして"Mr. Shrdlu -- Etaoin Shrdlu"が登場とうじょうする回かいがある。

音楽おんがく

"Etaoin Shrdlu"は、アメリカのバンドキュル・ド・サック（英語えいご版ばん）の1999年ねんのアルバムCrashes to Light, Minutes to Its Fallの1曲きょく目めのタイトルである。このバンドは、2002年ねんにリリースされたライブ録音ろくおん、Immortality Lessonsにおいても、Etaoin Without Shrdluという曲きょくを発表はっぴょうしている。
アメリカのテレビシリーズ『ハウス・オブ・カード野望やぼうの階段かいだん』のシーズン2エピソード10のサウンドトラック用ように作成さくせいされたオリジナル楽曲がっきょくのタイトルは"Etaoin"^[22] と"Shrdlu"である^[23]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 日本語にほんごでの訳わけ題だいは、「エタオイン・シュルドゥル」（稲葉いなば明雄あきお訳わけ、ハヤカワ・SF・シリーズ『わが手ての宇宙うちゅう』^[9]）、「諸行無常しょぎょうむじょうの物語ものがたり」（小西こにし宏ひろし訳わけ、創つく元もとSF文庫ぶんこ『天使てんしと宇宙船うちゅうせん』^[10]）、「エタオインさわぎ」（星ほし新一しんいち訳わけ、サンリオSF文庫ぶんこ『フレドリック・ブラウン傑作けっさく集しゅう』^[11]）。
^ 日本語にほんご訳やくでは「SHRDLUよ、人ひとの巧だくみの慰なぐさみよ」

出典しゅってん

^ "etaoin shrdlu". Merriam-Webster. Encyclopædia Britannica. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b Weiss, David Loeb (1978年ねん7月がつ1日にち). “Farewell, Etaoin Shrdlu”. New York Times. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Stoddard, Samuel. “Letter Frequencies”. Fun With Words. RinkWorks. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Farewell, Etaoin Shrdlu (Motion picture). New York City: Educational Media Collection/University of Washington. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Winograd, Terry. “How SHRDLU got its name”. Stanford University. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Courtois, Jr., Garth (2008年ねん8月がつ7日にち). “Am I old enough to remember keypunch cards? Umm, yeah...”. ababsurdo.com. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Weasel, Yah (2014年ねん2月がつ12日にち). “Let's Play Mavis Beacon Teaches Typing”. YouTube. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b ^c Quinion, Michael. “etaoin shrdlu” (英語えいご). World Wide Words. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ フレドリック・ブラウン「エタオイン・シュルドゥル」『わが手ての宇宙うちゅう』早川書房はやかわしょぼう編集へんしゅう部ぶ（編へん）、東京とうきょう：早川書房はやかわしょぼう〈ハヤカワ・SFシリーズ〉、1964年ねん。55-87頁ぺーじ。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:64006365。 doi:10.11501/1672032、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん／図書館としょかん送信そうしん参加さんか館内かんない公開こうかい。
^ フレドリック・ブラウン、小西こにし宏ひろし（訳わけ）「諸行無常しょぎょうむじょうの物語ものがたり」『天使てんしと宇宙船うちゅうせん』、東京とうきょう：東京とうきょう創そう元もと社しゃ〈創そう元もとSF文庫ぶんこ〉、1993年ねん。ISBN 9784488605025、NCID BA3761075X。注記ちゅうき：別べつ題だい『Angels and spaceships』
^ フレドリック・ブラウン、ロバート・ブロック（編へん）星ほし新一しんいち（訳わけ）「エタオインさわぎ」『フレドリック・ブラウン傑作けっさく集しゅう』、サンリオ〈サンリオSF文庫ぶんこ〉、1982年ねん。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:82021015、NCID BA37834054。
^ “Authors : Killus, James P : SFE : Science Fiction Encyclopedia”. www.sf-encyclopedia.com. 2020年ねん8月がつ27日にち閲覧えつらん。 “……"Son of ETAOIN SHRDLU: More Adventures in Type and Space" for Asimov's with Sharon N Farber, Susanna Jacobson and Dave Stout in June 1981…… （Asimov's ＝New York : Davis Publications 発行はっこうの雑誌ざっし "Isaac Asimov's Science Fiction"。）”
^ Branden, Bruno van (2018年ねん1月がつ5日にち). “Etaoin & Shrdlu — How a publisher found its name.” (英語えいご). Medium. 2020年ねん8月がつ27日にち閲覧えつらん。 “……In 1942 Fredric Brown used the term for the title of his pulp sci-fi about a sentient Linotype Machine. A few years later, in The Naughty Princess by Anthony Armstrong……”
^ Scholz, Carter. “Radiance: A Novel”. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Finney, Charles G. (1935). The Circus of Dr. Lao. Viking Press. ISBN 4-87187-664-0
^ Pynchon, Thomas (1964) (English). The secret integration. London: Aloes Books. ISBN 978-0-85652-049-5. OCLC 896687678
^ “Etain Shrdlu”. The New Yorker. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ “It Can't Etaoin Shrdlu.”. The New Yorker (1936年ねん10月がつ31日にち). 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ Shulman, Max (1944). Barefoot Boy with Cheek. Bantam Books
^ Shrdlu - An Affectionate Chronicle. Washington, DC: National Press Club. (1958). オリジナルの2015-10-25時点じてんにおけるアーカイブ。 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
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^ “Etaoin performed by Dallas Roberts”. Popisms. 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。
^ “Songs and music featured in House of Cards S2 E10 Chapter 23”. Tunefind (2014年ねん2月がつ14日にち). 2018年ねん12月21日にち閲覧えつらん。