High-Speed Downlink Packet Access

High-Speed Downlink Packet Access（HSDPA）は第だい3世代せだい移動いどう通信つうしんシステム (3G) 通信つうしんプロトコルの一種いっしゅでHSPAファミリーの1つであり、Universal Mobile Telecommunications System (UMTS) に基もとづくネットワークのデータ転送てんそう速度そくどと容量ようりょうを改善かいぜんする。3.5G、3G+、turbo 3G などとも。HSDPAのサポートする下くだり転送てんそう速度そくどは 1.8/3.6/7.2/14.4Mbit/s である。HSPA+ではさらに高速こうそくなデータ転送てんそうを実現じつげんしており、DC-HSDPAでは下くだり最大さいだい42Mbit/s、UMTS Release 9 では下くだり最大さいだい84Mbit/sとなっている。

テクノロジー

HS-DSCH チャネル

UMTS release 5 で、HSDPAのために新あらたなトランスポート層そう High-Speed Downlink Shared Channel (HS-DSCH) が追加ついかされた。その実装じっそうのために3つの新あらたな物理ぶつり層そうチャネル HS-SCCH、HS-DPCCH、HS-PDSCH も導入どうにゅうされた。High Speed-Shared Control Channel (HS-SCCH) はユーザーに対たいして HS-DSCH でデータを送おくることを2スロット前まえに通知つうちする。High Speed-Dedicated Physical Control Channel (HS-DPCCH) は上のぼりのチャネルで、肯定こうてい応答おうとう情報じょうほうとユーザーの CQI (Channel Quality Indicator) を送おくる。CQIは基地きち局きょく側がわでそのユーザー機器ききに次つぎの転送てんそうでどれだけのデータを送おくるかの計算けいさんに使つかう。High Speed-Physical Downlink Shared Channel (HS-PDSCH) は上位じょういの HS-DSCH トランスポート・チャネルにマッピングされていて、実際じっさいのユーザーデータの転送てんそうを行おこなう。

ハイブリッド自動じどう再送さいそう要求ようきゅう (HARQ)

データは誤あやまり検出けんしゅつ訂正ていせいビットと共ともに送おくられる。従したがって小ちいさな誤あやまりは再送さいそうしなくとも訂正ていせい可能かのうである。詳くわしくは前方ぜんぽう誤あやまり訂正ていせいを参照さんしょう。

再送さいそうが必要ひつような場合ばあいユーザー機器ききはそのパケットをセーブし、後のちに再送さいそうされたパケットと組くみ合あわせて誤あやまりのないパケットを可能かのうな限かぎり効率こうりつ的てきに復元ふくげんする。再送さいそうしたパケットも壊こわれていたとしても、2つのパケットを組くみ合あわせることで誤あやまりのないパケットを構築こうちくできる。再送さいそうパケットは元もとのパケットと同一どういつの場合ばあい（チェイス合成ごうせい法ほうで復元ふくげん）と最初さいしょとは異ことなる場合ばあい（IR (incremental redundancy) 法ほうで復元ふくげん）がある。

再送さいそうは無線むせんネットワークコントローラではなく基地きち局きょくから行おこなわれるので、再送さいそうにかかる時間じかんが改善かいぜんされている。

高速こうそくパケットスケジューリング

HS-DSCH下くだりチャネルは、無線むせんの状態じょうたいに合あわせて最適さいてきになるよう調整ちょうせいしたスケジューリングで複数ふくすうユーザーで共有きょうゆうする。各かくユーザー機器ききは下くだり信号しんごう品質ひんしつを毎秒まいびょう500回かいほど定期ていき的てきに通知つうちしている。全すべての機器ききからのそういった情報じょうほうを使つかい、基地きち局きょくが次つぎの2msのフレームでどのユーザーにどれだけデータを送おくるかを決きめる。下くだり信号しんごう品質ひんしつが高たかいユーザーほど多おおくのデータを送おくることができる。

HSDPAユーザーに割わり当あてられるチャネライゼーションコード・ツリーの量りょう、すなわちネットワーク帯域たいいき幅はばはネットワークが決定けっていする。この割わり当あては「半はん静的せいてき」で、運用うんよう中ちゅうに変更へんこう可能かのうだが、フレーム単位たんいに変更へんこうできるわけではない。HSDPAユーザーへの帯域たいいき幅はば割わり当あてと非ひHSDPAユーザーの音声おんせいへの帯域たいいき幅はばの割わり当あてはトレードオフの関係かんけいにある。チャネライゼーションコードの割わり当あて単位たんいは16分割ぶんかつ（拡散かくさん率りつが16）であり、HSDPAは16のうちの15まで割わり当あてられる。基地きち局きょくが次つぎのフレームをどのユーザーに割わり当あてるか決きめる際さい、各かくユーザーにどのチャネライゼーションコードを割わり当あてるかも決きめる。この情報じょうほうはユーザー機器ききに対たいして1つ以上いじょうの "scheduling channels" で送おくられる。それらのチャネルはHSDPAの一部いちぶではなく、別個べっこに割わり当あてられるものである。したがってある2msフレームにおいて、複数ふくすうのユーザー向むけのデータが別々べつべつのチャネライゼーションコードを使つかって同時どうじに送おくられる。ある2msフレームでデータを受うけ取とるユーザーの最大さいだい数すうは、割わり当あてられたチャネライゼーションコードの数かずで決きまる。これとは対照たいしょう的てきに CDMA2000 1xEV-DO では、データは一いち度どに1人ひとりのユーザーにしか送おくられない。

適応てきおう変調へんちょう符号ふごう化か

詳細しょうさいは「適応てきおう変調へんちょう」を参照さんしょう

変調へんちょうと符号ふごう化かの方式ほうしきは、ユーザー毎ごとの信号しんごう品質ひんしつやセル使用しよう率りつによって変かえられる。初期しょき状態じょうたいでは四よん位相いそう偏へん移うつり変調へんちょう (QPSK)だが、無線むせんの状態じょうたいがよければ16QAMと64QAMでデータのスループットを劇的げきてきに向上こうじょうさせることができる。5つの符号ふごう割わり当あての場合ばあい、QPSKでは最大さいだい 1.8Mbit/s、16QAMでは最大さいだい 3.6Mbit/s のピーク性能せいのうとなる。さらに符号ふごうを割わり当あてる（10, 15など）ことによってデータ転送てんそうレートが向上こうじょうし、ネットワークのスループットが向上こうじょうする。

その他た

HSDPAはUMTS Release 5 からその規格きかくの一部いちぶとなっており、上のぼりリンクを最大さいだい 384 kbit/s まで向上こうじょうさせる改良かいりょうも伴ともなっている。それまでは最大さいだい 128 kbit/s だった。

データ転送てんそうレートの向上こうじょうと同時どうじに、HSDPAではレイテンシが短縮たんしゅくされており、結果けっかとしてアプリケーションのラウンドトリップタイムが改善かいぜんされている。

3GPPのその後ごの規格きかくでは HSPA+ がリリースされ、64QAM、MIMO、2つの5MHz搬送波はんそうはを同時どうじに使用しようするデュアルセルHSDPAなどの追加ついかでデータ転送てんそうレートをさらに向上こうじょうさせている。

HSDPA ユーザー機器きき (UE) のカテゴリー

HSDPAは異ことなるデータ速度そくどの様々さまざまなバージョンで構成こうせいされている。次つぎの表ひょうは 3GPP TS 25.306 の release 9 版はんの表ひょう 5.1a に基もとづいており、機器ききクラス毎ごとの最大さいだい速度そくどとそれをどういう機能きのうの組くみ合あわせで実現じつげんしているのかを示しめしたものである。2009年ねん時点じてんの最もっとも一般いっぱん的てきな機器ききはカテゴリー6（3.6Mbit/s）からカテゴリー8（7.2Mbit/s）のものだった。

プロトコル	3GPP Release	カテゴリー	HS-DSCH 符号ふごうの 最大さいだい数すう	変調へんちょう方式ほうしき	MIMO、デュアルセル	最大さいだいデータ転送てんそうレート での符号ふごう化か率りつ	最大さいだいデータ転送てんそうレート [Mbit/s]
HSDPA	Release 5	1	5	16-QAM		.76	1.2
HSDPA	Release 5	2	5	16-QAM		.76	1.2
HSDPA	Release 5	3	5	16-QAM		.76	1.8
HSDPA	Release 5	4	5	16-QAM		.76	1.8
HSDPA	Release 5	5	5	16-QAM		.76	3.6
HSDPA	Release 5	6	5	16-QAM		.76	3.6
HSDPA	Release 5	7	10	16-QAM		.75	7.2
HSDPA	Release 5	8	10	16-QAM		.76	7.2
HSDPA	Release 5	9	12	16-QAM		.70	10.1
HSDPA	Release 5	10	15	16-QAM		.97	14.4
HSDPA	Release 5	11	5	QPSK		.76	0.9
HSDPA	Release 5	12	5	QPSK		.76	1.8
HSPA+	Release 7	13	15	64-QAM		.82	17.6
HSPA+	Release 7	14	15	64-QAM		.98	21.1
HSPA+	Release 7	15	15	16-QAM	MIMO	.81	23.4
HSPA+	Release 7	16	15	16-QAM	MIMO	.97	28.0
HSPA+	Release 7	19	15	64-QAM	MIMO	.82	35.3
HSPA+	Release 7	20	15	64-QAM	MIMO	.98	42.2
Dual-Cell HSDPA	Release 8	21	15	16-QAM	デュアルセル	.81	23.4
Dual-Cell HSDPA	Release 8	22	15	16-QAM	デュアルセル	.97	28.0
Dual-Cell HSDPA	Release 8	23	15	64-QAM	デュアルセル	.82	35.3
Dual-Cell HSDPA	Release 8	24	15	64-QAM	デュアルセル	.98	42.2
DC-HSDPA w/MIMO	Release 9	25	15	16-QAM	デュアルセル + MIMO	.81	46.7
DC-HSDPA w/MIMO	Release 9	26	15	16-QAM	デュアルセルl + MIMO	.97	55.9
DC-HSDPA w/MIMO	Release 9	27	15	64-QAM	デュアルセル + MIMO	.82	70.6
DC-HSDPA w/MIMO	Release 9	28	15	64-QAM	デュアルセル + MIMO	.98	84.4

16-QAM はQPSKサポートも含ふくみ、64-QAMは16-QAMとQPSKサポートを含ふくむ。最大さいだいデータ転送てんそうレートは物理ぶつり層そうでのデータ転送てんそうレートである。アプリケーション層そうのデータレートはIPヘッダなどを除のぞくので、その約やく85%である。

ロードマップ

HSDPAの第だい一いちフェーズは 3GPP release 5 に示しめされた。フェーズ1では基本きほん機能きのうが示しめされ、ピーク転送てんそうレート 14.4Mbit/s を目指めざした。新あらたに High Speed Downlink Shared Channels (HS-DSCH)、QPSKと16QAMの適応てきおう変調へんちょう、基地きち局きょくには High Speed Medium Access protocol (MAC-hs) が導入どうにゅうされた。

HSDPAの第だい2フェーズは 3GPP release 7 で示しめされ、Evolved HSPA (英えい: HSPA+) と名付なづけられた。42Mbit/sのデータレートを達成たっせいしている。ビームフォーミングやMIMO (Multiple-Input Multiple-Output communications) といったアンテナアレイ技術ぎじゅつを導入どうにゅうしている。ビームフォーミングとは、基地きち局きょくのアンテナからの送信そうしん電力でんりょくがユーザーの方向ほうこうにビーム状じょうになるようにする技法ぎほうである。MIMOは送受信そうじゅしん双方そうほうで複数ふくすうのアンテナを使つかう技法ぎほうである。HSPA+の実際じっさいの配備はいびは2008年ねん後半こうはんから始はじまった。

その後ごのリリースでデュアル搬送波はんそうは運用うんようが導入どうにゅうされた。2つの5MHz搬送波はんそうはを同時どうじに使用しようする技法ぎほうである。これにMIMOを組くみ合あわせると、理想りそう的てきな信号しんごう条件じょうけんでのピーク転送てんそうレートは 84Mbit/s に達たっする。

その後ごロードマップは 3GPP Release 8 で示しめされた E-UTRA へと向むかっている。このプロジェクトを Long Term Evolution (LTE) と呼よぶ。LTEでは当初とうしょから下くだり320Mbit/s、上のぼり170Mbit/s を目指めざしており、OFDMAを変調へんちょう方式ほうしきに採用さいようしている。

採用さいよう例れい

2009年ねん8月がつ28日にち時点じてんで、109カ国かこくでHSDPAを採用さいようした携帯けいたい電話でんわ網もうが250運用うんよう中ちゅうである。そのうち169のネットワークが下くだり最大さいだい3.6Mbit/sまでをサポートしている。21Mbit/sや28Mbit/sをサポートするネットワークが増ふえつつある。2009年ねん末まつまでにHSDPAサポートを予定よていしている業者ぎょうしゃもあり、オーストラリアでは2010年ねん2月がつに初はつの42Mbit/s対応たいおうを予定よていしている。テルストラはさらに2011年ねんに84Mbit/sへの移行いこうを計画けいかくしている（デュアルセル＋MIMO）。2010年ねん5月がつ、インドネシアで第だい2位いの携帯けいたい電話でんわ事業じぎょう者しゃ Indosat が DC-HSPA+ の42Mbit/sのネットワーク運用うんようを開始かいしした。他ほかにも シンガポールの StarHub、香港ほんこんのCSLが HSPA+ による42Mbit/sの運用うんようを開始かいししている。

CDMA2000-EV-DO方式ほうしきのネットワークが性能せいのうではHSDPAの先さきを行おこなっており、日本にっぽんのプロバイダーが高たかいベンチマーク値ちを示しめしている。しかし、HSDPAを採用さいようする業者ぎょうしゃが世界せかい的てきに増ふえつつあり、状況じょうきょうは変かわってきている。オーストラリアではテルストラが CDMA-EVDO のネットワークからHSDPAのネットワークに移行いこうすることを発表はっぴょうした。カナダでは Rogers Wireless が2007年ねん4月がつ1日にちからHSDPAシステムの配備はいびを開始かいしした。2008年ねん7月がつには、ベル・カナダとテラスは共同きょうどうでEV-DO/CDMAネットワークでHSDPAもサポートする計画けいかくを発表はっぴょうした。ベル・カナダはそのネットワーク運用うんようを2009年ねん11月4日にちに開始かいしし、テラスは2009年ねん11月5日にちに開始かいしした。2010年ねん1月がつ、T-Mobile USA が HSDPA を採用さいようした。

ブロードバンド・モバイルとしてのマーケティング

2007年ねん、パソコンでブロードバンドのモバイル接続せつぞくとして使つかうための HSDPA USBモデムが世界せかい的てきに出回でまわるようになった。また、固定こてい電話でんわ回線かいせんの代替だいたいとしてHSDPAを使用しようする機器きき（イーサネット、Wi-Fi、電話でんわ回線かいせんポートなどを持もつ）も登場とうじょうしている。ただし、無線むせんの状態じょうたいによっては理想りそう的てきな最大さいだい転送てんそうレートを発揮はっきできないので注意ちゅういが必要ひつようである。

参考さんこう文献ぶんけん

• Sauter, Martin (2006). Communication Systems for the Mobile Information Society. Chichester: John Wiley. ISBN 0470026766 

関連かんれん項目こうもく

• 3GPP Long Term Evolution
• High-Speed Uplink Packet Access (HSUPA)
• デバイス帯域たいいき幅はばの一覧いちらん
• UMTS

外部がいぶリンク

• GSM Association on HSPA
• Understand HSDPA's implementation challenges