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窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ (ちっそさんかぶつ、英 えい : nitrogen oxides ) は窒素 ちっそ の酸化 さんか 物 ぶつ の総称 そうしょう 。
一酸化 いっさんか 窒素 ちっそ (NO)、二酸化 にさんか 窒素 ちっそ (NO2 )、三 さん 酸化 さんか 窒素 ちっそ (中国語 ちゅうごくご 版 ばん ) (NO3 )、亜 あ 酸化 さんか 窒素 ちっそ (一酸化 いっさんか 二 に 窒素 ちっそ )(N2 O)、三 さん 酸化 さんか 二 に 窒素 ちっそ (N2 O3 )、四 よん 酸化 さんか 二 に 窒素 ちっそ (N2 O4 )、五 ご 酸化 さんか 二 に 窒素 ちっそ (N2 O5 )など。化学 かがく 式 しき の NOx から「ノックス 」ともいう。
自然 しぜん 界 かい において窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ は、雷 かみなり あるいは土壌 どじょう 中 なか の微生物 びせいぶつ によって生成 せいせい される。たとえば微生物 びせいぶつ が多 おお い土壌 どじょう に豊富 ほうふ な化学 かがく 肥料 ひりょう を与 あた えると土壌 どじょう 微生物 びせいぶつ が分解 ぶんかい して窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ を放出 ほうしゅつ する例 れい が知 し られている。
物質 ぶっしつ が燃焼 ねんしょう するときにも一酸化 いっさんか 窒素 ちっそ や二酸化 にさんか 窒素 ちっそ などが発生 はっせい する。この場合 ばあい 、高温 こうおん ・高 こう 圧 あつ で燃焼 ねんしょう することで本来 ほんらい 反応 はんのう しにくい空気 くうき 中 なか の窒素 ちっそ と酸素 さんそ が反応 はんのう して窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ になる場合 ばあい (サーマルNOx )と、燃料 ねんりょう 由来 ゆらい の窒素 ちっそ 化合 かごう 物 ぶつ から窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ となる場合 ばあい (フューエルNOx )がある。たとえば、排気 はいき ガスや天然 てんねん ガスボイラー (家庭 かてい 用 よう 調理 ちょうり ガス器具 きぐ を含 ふく む)などから排出 はいしゅつ される窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ は前者 ぜんしゃ が主 おも であり、石炭 せきたん が燃焼 ねんしょう した場合 ばあい の窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ はそのほとんどが石炭 せきたん 中 ちゅう の窒素 ちっそ 化合 かごう 物 ぶつ に由来 ゆらい することが知 し られている。
四 よん 酸化 さんか 二 に 窒素 ちっそ は二酸化 にさんか 窒素 ちっそ と平衡 へいこう 状態 じょうたい にあり、環境 かんきょう 中 ちゅう など低圧 ていあつ ・低 てい 濃度 のうど では二酸化 にさんか 窒素 ちっそ 側 がわ に偏 かたよ っている。
(各 かく 窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ の生成 せいせい 法 ほう は当該 とうがい 記事 きじ に詳 くわ しい)
大気 たいき から陸上 りくじょう に沈着 ちんちゃく する窒素 ちっそ 量 りょう は、1890年 ねん から1990年 ねん の100年間 ねんかん で5倍 ばい に増加 ぞうか し21世紀 せいき 初頭 しょとう 時点 じてん では 125 Tg-N y-1 (テラグラム窒素 ちっそ 毎年 まいとし )とされており、放出 ほうしゅつ 量 りょう の80 %が肥料 ひりょう が起源 きげん で20 %が燃焼 ねんしょう が起源 きげん である[ 1] 。
二酸化 にさんか 窒素 ちっそ (NO2 )自体 じたい は中性 ちゅうせい で肺 はい から吸収 きゅうしゅう されやすい赤褐色 せきかっしょく の気体 きたい または液体 えきたい 。細胞 さいぼう 内 うち では二酸化 にさんか 窒素 ちっそ は強 つよ い酸化 さんか 作用 さよう を示 しめ して細胞 さいぼう を傷害 しょうがい するので、粘膜 ねんまく の刺激 しげき 、気管支炎 きかんしえん 、肺 はい 水腫 すいしゅ などの原因 げんいん となる。
一酸化 いっさんか 窒素 ちっそ (NO)については、1980年代 ねんだい 頃 ごろ から、その生体 せいたい 内 ない での生理 せいり 機能 きのう について研究 けんきゅう が進 すす み、血管 けっかん 拡張 かくちょう 作用 さよう を持 も つことなどが明 あき らかにされたほか、この一酸化 いっさんか 窒素 ちっそ が神経 しんけい 伝達 でんたつ 物質 ぶっしつ としても作用 さよう することが判明 はんめい した。なお、1998年 ねん のノーベル生理学 せいりがく ・医学 いがく 賞 しょう は、この一酸化 いっさんか 窒素 ちっそ の生理 せいり 作用 さよう の発見 はっけん に対 たい して贈 おく られている。現在 げんざい でも、その多様 たよう な生理 せいり 機能 きのう について研究 けんきゅう が続 つづ いている。
NO、NO2 を吸入 きゅうにゅう するとメトヘモグロビン が生成 せいせい する[ 2] 。メトヘモグロビンは、通常 つうじょう のヘモグロビン に配 はい 位 い されている二 に 価 か (フェロ)の鉄 てつ イオンが三 さん 価 か (フェリ)になっているもので、酸素 さんそ を運 はこ ぶことができない。
一酸化 いっさんか 二 に 窒素 ちっそ (N2 O)は麻酔 ますい 作用 さよう を持 も つため、吸入 きゅうにゅう 麻酔 ますい 剤 ざい として医療 いりょう 現場 げんば で使用 しよう されている。
NOx の防除 ぼうじょ 技術 ぎじゅつ としては、バーナー や燃焼 ねんしょう 法 ほう の改善 かいぜん によって低 てい NOx 化 か を実現 じつげん する低 てい NOx 燃焼 ねんしょう 法 ほう と,排 はい ガス中 ちゅう からNOxを除去 じょきょ する排煙 はいえん 脱硝 だつしょう 法 ほう がある[ 3] 。
低 てい NOx 燃焼 ねんしょう 法 ほう
空気 くうき 中 ちゅう の窒素 ちっそ に起因 きいん するいわゆるサーマルNOx と、燃焼 ねんしょう 中 ちゅう に含 ふく まれる窒素 ちっそ 化合 かごう 物 ぶつ に起因 きいん するフューエルNOx がある。双方 そうほう に有効 ゆうこう な方法 ほうほう として、燃焼 ねんしょう 用 よう 空気 くうき を二 に 段階 だんかい に分 わ けて吹 ふ き込 こ む二 に 段 だん 燃焼 ねんしょう 法 ほう が、ガス燃焼 ねんしょう から石炭 せきたん 燃焼 ねんしょう に至 いた るまで最 もっと も広 ひろ い範囲 はんい で用 もち いられている。
排煙 はいえん 脱硝 だつしょう 法 ほう
湿式 しっしき 法 ほう と乾式 かんしき 法 ほう があり、大型 おおがた 燃焼 ねんしょう 装置 そうち では現在 げんざい 乾式 かんしき 法 ほう の一 ひと つである選択 せんたく 触媒 しょくばい 法 ほう が主流 しゅりゅう となっている。煙 けむり 道部 みちぶ の手前 てまえ で排 はい ガス中 ちゅう にNH3 を吹 ふ き込 こ み、下流 かりゅう 部 ぶ に設置 せっち された触媒 しょくばい 反応 はんのう 器 き で、NH3 によるNOの選択 せんたく 的 てき 還元 かんげん を行 おこな わせる。
ディーゼルエンジンの取 と り組 く み
尿素 にょうそ SCRシステム
鉄道 てつどう での取 と り組 く み
JR 各社 かくしゃ では、ディーゼルカー に搭載 とうさい されているディーゼルエンジン からの窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ 削減 さくげん に取 と り組 く んでおり、JR東日本 ひがしにっぽん キハE130系 けい 気動車 きどうしゃ 、JR四国 しこく 1500形 かたち 気動車 きどうしゃ などが低 てい 排出 はいしゅつ 車 しゃ である。
窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ は硫黄 いおう 酸化 さんか 物 ぶつ とならび酸性 さんせい 雨 う (酸性 さんせい 降下 こうか 物 ぶつ )粒子 りゅうし 状 じょう 物質 ぶっしつ の原因 げんいん 物質 ぶっしつ で、硫黄 いおう 酸化 さんか 物 ぶつ は脱硫 だつりゅう 装置 そうち により液体 えきたい の化石 かせき 燃料 ねんりょう 由来 ゆらい の発生 はっせい 抑制 よくせい させる事 こと が可能 かのう であるが、燃焼 ねんしょう (高温 こうおん との接触 せっしょく )で生成 せいせい される窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ の生成 せいせい 抑制 よくせい は困難 こんなん である。生成 せいせい された窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ は降雨 こうう や霧 きり (湿性 しっせい 沈着 ちんちゃく )や粒子 りゅうし 状 じょう 物質 ぶっしつ の降下 こうか (乾性 かんせい 降下 こうか )などにより地上 ちじょう に沈着 ちんちゃく し森林 しんりん 生態 せいたい 系 けい に蓄積 ちくせき されると共 とも に、森林 しんりん への蓄積 ちくせき 量 りょう が飽和 ほうわ 量 りょう を超 こ えると流下 りゅうか する水 みず の硝酸 しょうさん イオン濃度 のうど を上昇 じょうしょう させる[ 1] 。
大気 たいき 汚染 おせん
これらは、光化学 こうかがく スモッグ や酸性 さんせい 雨 う などを引 ひ き起 お こす大気 たいき 汚染 おせん 原因 げんいん 物質 ぶっしつ である。主 おも な発生 はっせい 源 げん は、内燃 ないねん 機関 きかん をもつ自動車 じどうしゃ の排気 はいき ガス であり、平成 へいせい 4年 ねん に制定 せいてい (平成 へいせい 13年 ねん 改正 かいせい )された自動車 じどうしゃ から排出 はいしゅつ される窒素 ちっそ 酸化 さんか 物 ぶつ 及 およ び粒子 りゅうし 状 じょう 物質 ぶっしつ の特定 とくてい 地域 ちいき における総量 そうりょう の削減 さくげん 等 とう に関 かん する特別 とくべつ 措置 そち 法 ほう (自動車 じどうしゃ NOx ・PM法 ほう )によって、規制 きせい されることになる。
特 とく に毒性 どくせい の高 たか い二酸化 にさんか 窒素 ちっそ (NO2 )は、大気 たいき 汚染 おせん 防止 ぼうし 法 ほう によって環境 かんきょう 基準 きじゅん が定 さだ められている。
NO2 の環境 かんきょう 基準 きじゅん :1時 じ 間 あいだ 値 ち の1日 にち 平均 へいきん 値 ち が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内 うち またはそれ以下 いか であること。
温室 おんしつ 効果 こうか
また、一酸化 いっさんか 二 に 窒素 ちっそ (N2 O、亜 あ 酸化 さんか 窒素 ちっそ )は二酸化炭素 にさんかたんそ の310倍 ばい の温室 おんしつ 効果 こうか がある。
オゾン層 そう の破壊 はかい
1970年代 ねんだい にスウェーデン のクルーツェン氏 し が、成層圏 せいそうけん でNOxが触媒 しょくばい 作用 さよう でオゾン消滅 しょうめつ 反応 はんのう に作用 さよう していることを指摘 してき し、オゾン層 そう 科学 かがく に進展 しんてん がもたらされた[ 4] 。
2008年 ねん にN2 Oが最大 さいだい のオゾン層 そう 破壊 はかい 物質 ぶっしつ であったことが米 べい 研究 けんきゅう チームにより発表 はっぴょう された[ 5] 。
^ a b 田林 たばやし 雄 つよし 、山室 やまむろ 真澄 ますみ 「大気 たいき 降下 こうか 窒素 ちっそ が渓流 けいりゅう 水 すい に流出 りゅうしゅつ する過程 かてい 」『地学 ちがく 雑誌 ざっし 』第 だい 121巻 かん 第 だい 3号 ごう 、2012年 ねん 、411-420頁 ぺーじ 、doi :10.5026/jgeography.121.411 。
^ 石井 いしい 邦彦 くにひこ 「アカタラセミアマウスに一酸化 いっさんか 窒素 ちっそ ,二酸化 にさんか 窒素 ちっそ 曝露 ばくろ 時 じ のメトヘモグロビン生成 せいせい 」『岡山 おかやま 医 い 学会 がっかい 雑誌 ざっし 』第 だい 101巻 かん 、第 だい 5-6号 ごう 、473-486頁 ぺーじ 、1989年 ねん 。doi :10.4044/joma1947.101.5-6_473 。
^ 定方 さだかた 正毅 まさき 「酸性 さんせい 雨 う 対策 たいさく としてのSOx,NOx防除 ぼうじょ 技術 ぎじゅつ の最近 さいきん の動向 どうこう と将来 しょうらい 展望 てんぼう 」『国立 こくりつ 環境 かんきょう 研究所 けんきゅうじょ ニュース』第 だい 8巻 かん 第 だい 4号 ごう 、1990年 ねん 、8-9頁 ぺーじ 。
^ 佐々木 ささき 徹 とおる 「オゾン層 そう (創立 そうりつ 125周年 しゅうねん 記念 きねん 解説 かいせつ )」『天気 てんき 』第 だい 54巻 かん 第 だい 5号 ごう 、2007年 ねん 、391-394頁 ぺーじ 、CRID 1520572359393464192 。
^ Ravishankara, A.R.; Daniel, John S.; Portmann, Robert W. (2009). “Nitrous Oxide (N2O): The Dominant Ozone-Depleting Substance Emitted in the 21st Century”. Science 326 (5949): 123-125. doi :10.1126/science.1176985 . PMID 19713491 .
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