最近読んだ本から4冊、感想をまとめて書き残しておきます。
原田マハ「たゆたえども沈まず」
これまでルソー、モネ、ピカソなど、画家たちをモデルに小説を書かれてきた原田マハさん。本作のテーマはゴッホです。舞台は19世紀末のパリ。日本画商の林忠正と、助手の加納重吉。画家のフィンセントと弟のテオ。ゴッホの絵でおなじみのゴーギャンやタンジー爺さんも登場する、史実をもとにしたフィクションです。
加納重吉は架空の人物で、ゴッホ兄弟と林忠正をつなぎ、本作の狂言回し的な役割を果たしています。忠正とゴッホに交流があったことは実際には明らかではないそうですが、本作では忠正の影響で浮世絵と日本に魅せられたゴッホが、自分の作品が誰からも認められないという苦悩の中で、日本に移住したいと望みます。
しかし忠正がゴッホに勧めたのは南仏アルル。ゴッホの才能にここまで惚れ込む忠正が、ゴッホの絵を一枚も買わないというのは不自然ですが^^; 史実ではゴッホの絵は生涯で一枚しか売れていないのでしかたがないですね。フィンセントとテオの兄弟愛、印象派美術における日本人画商の活躍と苦悩など、心に残る作品でした。
原田マハ「スイート・ホーム」
原田マハさんの作品はこれまで何冊も読んでいますが、アートが題材ではない作品を読むのは初めてです。本作は、宝塚の高台の住宅街にある、小さな洋菓子店を舞台にした連作短編集です。美しい町と愛あふれる人たち。あまりにいい話すぎて、ちょっと物足りなさも感じましたが...
最後の初出のページを見て納得。これは阪急不動産のHPに連載されていた小説なんですね。作家さんは、ちゃんとクライアントの希望に沿った小説が書けるものなのだな...と、私はそのことに感心しました。全編にわたる、関西弁のやわらかい響きが心地よかったです。
アキール・シャルマ 小野正嗣・訳「ファミリー・ライフ」
70年代にインドからアメリカ東海岸に移り住んだ、移民の家族が抱えた試練の物語。作者の自伝的小説です。インド系アメリカ人作家のジュンパ・ラヒリさんの「停電の夜に」と、訳者の小野正嗣さんの「九年前の祈り」が好きなので興味を持ちました。重くて救いがないですし、読後感も決してよくはないのですが、こういう内省的な小説は嫌いではないです。^^
輝く未来が待っているはずのアメリカで、優秀だった高校生の兄ビルジュがプールの事故で全身不随の寝たきりとなってしまい、それから家族の長い介護生活がはじまります。アルコールに溺れる父と、介護に疲弊する母。そうした中で祈ること、書くことにささやかな喜びを見出す少年アジェ。
家族に苦難を与えたのもビルジュならば、家族をひとつにつないでいるのもまたビルジュなのだと思います。ビルジュが愛のよりどころであり、家族が帰る場所なのかもしれません。
池井戸 潤「鉄の骨」
池井戸潤さんのお仕事小説。本作のテーマは、談合です。大学の建築学科を出て中堅ゼネコンの一松組に入社した富島平太は、現場での仕事にやりがいを見出し始めた数年目に、業務課への異動を命じられます。そこは通称 談合課とよばれる部署で、平太は公共工事の入札に向けて水面下での戦いに巻き込まれていきます...。
実際の建設業界は、もっとどろどろした恐ろしい話があるのでしょうが、そこは池井戸さんの小説なので、技術力とアイデアを強みに正々堂々と渡り合っていく、気持ちのよいストーリーになっています。初心者向けへの談合のレクチャーになっていますし、主人公の成長物語としても楽しく読めました。