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リグ・ヴェーダ - Wikipedia

リグ・ヴェーダ』(: ऋग्वेदṛgvedaえい: Rigveda)は、古代こだいインド聖典せいてんであるヴェーダの1つ。サンスクリット古形こけいにあたるヴェーダかれている。ぜん10かんで、1028へん讃歌さんか(うち11へん補遺ほい)からなる。

リグ・ヴェーダ

呼称こしょう

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「リグ」は讃歌さんか構成こうせいするぶし意味いみするリチ(ṛc)のれんおんかたちである[1]:54。「ヴェーダ」は「知識ちしき」を意味いみしている[2]。『リグ・ヴェーダ』には賛歌さんかであるサンヒターのほかに散文さんぶんブラーフマナアーラニヤカウパニシャッドなどがふくまれるが、たんに『リグ・ヴェーダ』といった場合ばあい通常つうじょうサンヒターを[1]:57。『サーマ・ヴェーダ』が賛歌さんかうたうウドガートリさいかん、『ヤジュル・ヴェーダ』が祭儀さいぎ行為こういにともなう呪文じゅもんとなえるアドヴァリユさいかんのために存在そんざいするのにたいし、『リグ・ヴェーダ』は賛歌さんかとなえあるいは朗詠ろうえいするホートリさいかんのためにある[3]:4[1]:161-162

古代こだい以来いらいながらく口承こうしょうされたヴェーダ聖典せいてんぐんのうちのひとつで、もっとふるいといわれている。伝統でんとうてきヒンドゥーきょう立場たちばではリシ詩聖しせいひじりせん)たちによって感得かんとくされたものとされる。成立せいりつ時期じきははっきりせず議論ぎろんかれるが、おおまかに紀元前きげんぜん2千年紀せんねんき後半こうはん(1500-1000BC)ごろとかんがえられる[3]:5

ミヒャエル・ヴィツェルによると、だい1段階だんかいとしてまき1後半こうはん(1.51以降いこう)からまき8までが十王じゅうおう戦争せんそうスダースおうによる覇権はけんがなったのちバラタぞくによって編纂へんさんされ、そのまき1とまき8の前半ぜんはん部分ぶぶん追加ついかされた。だい2段階だんかいとしてパリークシット英語えいごばんおうクルクシェートラひらいたクルこくまき9とまき10をふくめた完全かんぜんかたち編纂へんさんされた[4]

紀元前きげんぜん12世紀せいきころ、現在げんざいかたち編纂へんさんされた[5]

構成こうせい

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『リグ・ヴェーダ』は10のマンダラ(maṇḍalaまき)から構成こうせいされる。ひとつのまきには複数ふくすうのスークタ(sūktaへん)を収録しゅうろくし、1へん讃歌さんかはいくつかのぶしṛc)から構成こうせいされる。『リグ・ヴェーダ』の特定とくていぶし引用いんようする場合ばあいは、マンダラの番号ばんごう・そのマンダラないでのスークタのとお番号ばんごうぶし番号ばんごうの3つの数字すうじ通常つうじょうもちいる。

現存げんそんする『リグ・ヴェーダ』は補遺ほいふくめて1028へん讃歌さんか(スークタ)から構成こうせいされる[6]。ひとつの讃歌さんか構成こうせいするぶしかずは3から58まで多様たようであるが、10-12ぶしえるものはまれである。おもヴェーダの韻律いんりつにはトリシュトゥブ(11音節おんせつ4)、ガーヤトリー(8音節おんせつ3)、ジャガティー(12音節おんせつ4)があり、この3種類しゅるいだけで全体ぜんたいやく8わりたっする[7]

『リグ・ヴェーダ』ではほかにも複数ふくすうのスークタをまとめたアヌヴァーカ(anuvāka)という単位たんいもちいられ、さらにべつ方式ほうしきによる分類ぶんるい全体ぜんたいを8つのアシュタカにけ、アディヤーヤとヴァルガに細分さいぶんする)もしるされているが、引用いんようにはもちいられない。ヘルマン・グラスマンは『リグ・ヴェーダ』のすべての賛歌さんかに1から1028までのとお番号ばんごうっている。

『リグ・ヴェーダ』は非常ひじょうながあいだ、おそらくせんねん以上いじょうにわたって口承こうしょうによってのみつたえられた[3]:13-14文字もじしるされるようになった時期じき不明ふめいだが、おそらく西暦せいれき1000ねんごろとかんがえられている[3]:18現存げんそん最古さいこ写本しゃほんは1464ねんのもので(バンダルカル東洋とうようがく研究所けんきゅうじょぞう)、『リグ・ヴェーダ』の成立せいりつ時期じきからかんがえるときわめてあたらしい[3]:18

のヴェーダと同様どうように、『リグ・ヴェーダ』のサンヒターはいくつかの流派りゅうは(シャーカー)にかれてつたえられた。『ヤジュル・ヴェーダ』のパリシシュタ(ヴェーダにたいする補足ほそく)である『チャラナヴィユーハ』には『リグ・ヴェーダ』の流派りゅうはとしてシャーカラ、バースカラ、アーシュヴァラーヤナ、シャーンカーヤナ、マーンドゥーカーヤナの5があったことをつたえ、文献ぶんけんではさらにおおくの流派りゅうは羅列られつしているが、そのほとんどはほろんだか、すくなくとも発見はっけんされていない。通常つうじょう使つかわれているのはシャーカラばんで、19世紀せいきフリードリヒ・マックス・ミュラーによって校訂こうてい出版しゅっぱんされた。2009ねんになってアーシュヴァラーヤナばん刊行かんこうされたが、その内容ないようはシャーカラばんもとにし、時代じだいあたらしい212くわえられたものである。られるかぎ流派りゅうはについても同様どうようで、シャーカラばんとのちがいはごくちいさい[3]:15-16

作者さくしゃ

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『リグ・ヴェーダ』の索引さくいんとしてアーシュヴァラーヤナのシャウナカという人物じんぶつによってかれた『アヌクラマニー』 (Anukramaṇīという書物しょもつがある。この書物しょもつかく賛歌さんか作者さくしゃ対象たいしょうとするかみ々を羅列られつしている。『アヌクラマニー』の記述きじゅつにはかみ々を作者さくしゃとしているものや、賛歌さんか内容ないようをもとに作者さくしゃをあてたようなものもあり、そのすべてをしんじるわけにはいかないが、ある程度ていど参考さんこうになる。それによれば、2かんから7かんまでは基本きほんてきにそれぞれひとつの家系かけいによるものであり、各巻かくかん家系かけい始祖しそとされるリシ以下いかのようになっている[3]:10

またまき8のおおくはカンヴァおよびアンギラス家系かけいによってかれている[3]:11

後世こうせいこれらのリシは神話しんわされてかみ々に匹敵ひってきする非常ひじょうおおきなちからつとされた。

内容ないよう

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中核ちゅうかくとなっているのは2かんから7かんで、まつりかん家集かしゅうてき性質せいしつつ。各巻かくかんはまず対象たいしょうとするかみによって分類ぶんるいされ、おなしんではながいものからじゅんならべられている。ながさもおな場合ばあい韻律いんりつによって分類ぶんるいされる[3]:11だい1かんだい8かん内容ないようてき類似るいじし、2かん〜7かん前後ぜんご追加ついかされた部分ぶぶんかんがえられる(なお、8.49-8.59の11へんはヴァーラキリヤとばれる補遺ほいで、成立せいりつ時代じだいがもっともあたらしい)。9かんはこれらとはおおきくことなり、ソーマかんする讃歌さんか独占どくせんしている。10かんは『リグ・ヴェーダ』のなかもっとあたらしい部分ぶぶんとされる。

賛歌さんかだい部分ぶぶん特定とくていかみまたはかみ々を賛美さんびし、きょう犠によってかみ々をむかえ、その加護かごもとめる内容ないよう[3]:7-8讃歌さんか対象たいしょうとなった神格しんかくかず非常ひじょうおお[注釈ちゅうしゃく 1]原則げんそくとして神格しんかく相互そうごのあいだには一定いってい序列じょれつ組織そしきはなく、多数たすうかみ々は交互こうご最上級さいじょうきゅう賛辞さんじけている。

一部いちぶ賛歌さんかは『アタルヴァ・ヴェーダ』にちか呪術じゅじゅつてき内容ないよう[1]:109-111

とくにあたらしい部分ぶぶんであるまき10には実際じっさい祭祀さいし無関係むかんけいおもわれる作品さくひんもかなりふくまれている。これらは祭祀さいし意義いぎつたえるためのものとかんがえられる[3]:8-9

おもなリグ・ヴェーダの原文げんぶん翻訳ほんやく

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日本語にほんごやく

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  • つじ直四郎なおしろう訳注やくちゅう 『リグ・ヴェーダ讃歌さんか岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、初版しょはん1970ねんISBN 978-4-00-320601-0
  • つじ直四郎なおしろうわけ 「リグ・ヴェーダ讃歌さんか」『インドしゅう訳者やくしゃ代表だいひょう つじ直四郎なおしろう筑摩書房ちくましょぼう世界せかい文学ぶんがく大系たいけい だい4かん〉、1959ねん5がつ、pp. 5-37。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:55003870NCID BN02001043
  • つじ直四郎なおしろうやく 「リグ・ヴェーダの讃歌さんか」『ヴェーダ アヴェスター』 訳者やくしゃ代表だいひょう つじ直四郎なおしろう筑摩書房ちくましょぼう世界せかい古典こてん文学ぶんがく全集ぜんしゅう だい3かん〉、1967ねん1がつ、pp. 5-104。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:55004966NCID BN01895536

日本語にほんご以外いがい主要しゅようわけ

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  • Karl Freidrich Geldner (1951). Der Rig-Veda aus dem Sanskrit ins Deutsche übersetzt. London, Wiesbaden 定評ていひょうのあるドイツ語どいつごやく
  • Stephanie W. Jamison; Joel P. Brereton (2014). The Rigveda : The Earliest Religious Poetry of India. New York 英語えいごやく
  • Michael E. J. Witzel; Toshifumi Gotō(後藤ごとう敏文としふみ); Salvatore Scarlata (2007,2013). Rig-Veda : das heilige Wissen. Frankfurt am Main und Leipzig  (ドイツ新訳しんやくまき1からまき5まで)

原文げんぶん

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  • Theodor Aufrecht, ed (1877). Die Hymnen des Rigveda. Bonn: Adolph Marcus (ラテン文字もじ表記ひょうき
  • Barend A. van Nooten; Gary B. Holland (1994). Rig Veda: a metrically restored text with an introduction and notes. Harvard Oriental vol 5. Massachusetts: Harvard University Press (ラテン文字もじ表記ひょうき韻律いんりつわない箇所かしょうように復元ふくげんしたもの)
  • F. Max Müller, ed (1874). Rig-Veda-Samhitā: the sacred hymns of the Brāhmans, together with the commentary of Sāyanāchārya. London: W.H. Allen (デーヴァナーガリー表記ひょうき

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ たとえば、インドラヴァルナ司法しほうしん)、ミトラ契約けいやくかみ)、アシュヴィンそうかみアグニしん)、ソーマスーリヤ太陽たいようしん)、ヴァーユ風神ふうじん)、ルドラ(シヴァかみ)、ヤマ死者ししゃおう)、ヴィシュヌ、など[8]

出典しゅってん

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  1. ^ a b c d e Winternitz, Moriz (1927). A History of Indian Literature. 1. translated by S. Ketkar. University of Calcutta. https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.97551/page/n101/mode/2up 
  2. ^ 菅沼すがぬまあきらへん(1985)『インド神話しんわ伝説でんせつ辞典じてん、9-10ぺーじ。(インドの神話しんわ伝説でんせつ概説がいせつ))
  3. ^ a b c d e f g h i j k l The Rigveda: The Earliest Religious Poetry of India. translated by Stephanie W. Jamison and Joel P. Brereton. Oxford University Press. (2017) [2014]. ISBN 9780190685003 
  4. ^ Witzel, Michael (1997). “The development of the Vedic canon and its schools: the social and political milieu”. In Michael Witzel. Inside the Texts, Beyond the Texts. Harvard Oriental Series, Opera Minora. 2. Cambridge. pp. 257-345. doi:10.11588/xarep.00000110 
  5. ^ 中谷なかたに英明ひであき (2000)「古代こだいインドにおける哲学てつがく文献ぶんけんがく」『古典こてんがくさい構築こうちくだい5ごう. pp. 18-21. (オンライン・ペーパー (PDF) )
  6. ^ Macdonell (1900) p.40
  7. ^ Macdonell (1900) pp.54-55
  8. ^ 上村うえむら勝彦かつひこ(1981)『インド神話しんわ、16-26ぺーじ
  9. ^ つじ直四郎なおしろう(1996)『リグ・ヴェーダ讃歌さんかだい29さつ[よう文献ぶんけん特定とくてい詳細しょうさい情報じょうほう]、299ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん書籍しょせき

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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