シームルグ

シームルグ、サーサーン朝あさの章あきら

シームルグ（またはスィームルグ、スィーモルグ、シムルグ。ペルシア語ご: سیمرغ‎、Simurgh）は、イラン神話しんわに登場とうじょうする神秘しんぴ的てきな鳥とりである。サムルク（Samruk）などともいう。

解説かいせつ

シームルグ (Sēnmurw) をあしらった、サーサーン朝あさ時代じだいの銀ぎんの皿さら。7世紀せいきまたは8世紀せいき頃ごろ。

シームルグの伝承でんしょうは、ペルシア（現在げんざいのイラン）やカシミール（現在げんざいのインド北部ほくぶ）で知しられている。ペルシアの北部ほくぶにあるアルブルズ山さんに住すむとされており、その羽毛うもうは美うつくしいだけでなく治癒ちゆする力ちからを持もつとされている。

伝承でんしょうでは、シームルグの体からだは象ぞうさえ運はこべるほど巨大きょだいだという。鳥とりの王おうであり、ゆえに餌えさとして得えたものは自身じしんが満腹まんぷくになると残のこりは他たの動物どうぶつが食たべられるようにとその場ばに置おいていくという。

伝承でんしょうによっては、シームルグは1700年ねんの寿命じゅみょうを持もち、300歳さいになると卵たまごを産うみ、その卵たまごは250年ねんかかって孵かえるという。そして、雛ひなが成長せいちょうすると親鳥おやどりが火ひに飛とび込こんで死しぬとされている。

サエーナ鳥とりとも呼よばれ、アヴェスターにおいては太古たいこの海うみにある二に本ほんの大木たいぼくのうちの一本いっぽんに棲すんでいた。この木きの上うえでシームルグが羽はばたくと種子しゅしが巻まき散ちらされ、その種子しゅしからはあらゆる種類しゅるいの植物しょくぶつが生はえた。しかし、ある時ときダエーワたちによってこの大木たいぼくが打うち倒たおされて枯かれると、シームルグはアルブルズ山やまへと住処すみかを移うつした。

『シャー・ナーメ（王おう書しょ）』

シームルグとザール。

同おなじく、シームルグとザール。

フェルドウスィーによる叙事詩じょじし『シャー・ナーメ（王おう書しょ）』では、シームルグは重要じゅうような役割やくわりをもって登場とうじょうする。

ナリーマン家いえのサームの元もとに生うまれたザールは、生うまれた時ときから白髪はくはつだったため、父ちちサームの命令めいれいによって遠とおい場所ばしょに捨すてられた。エルブルズ山さん（アルブルズ山さん）に巣すを置おいて雛ひなを育そだてていたシームルグがこの捨すてられた赤あかん坊ぼうを見みつけた。シームルグは赤あかん坊ぼうを哀あわれみ、巣すに連つれ帰かえって雛鳥ひなどりと一緒いっしょに育そだて始はじめた。雛鳥ひなどりもこの赤あかん坊ぼうに危害きがいを加くわえることはなかった。やがてサームの夢ゆめに不思議ふしぎな青年せいねんが現あらわれたことから、サームはかつて子供こどもを捨すてたことを後悔こうかいし、子供こどもを捜さがすべくエルブルズ山やまにやって来きた。サームを見みつけたシームルグは、成長せいちょうしたサームの息子むすこに別わかれの時ときが来きた旨むねを告つげ、自分じぶんの羽根はねの1枚まいを渡わたすと、サームの元もとまで連つれて行いった。そしてサームから感謝かんしゃの言葉ことばを受うけてから山やまへ飛とび去さった。サームは息子むすこにザールと名付なづけて共ともに山やまを下おりた。サームが仕つかえるイラン王おうマヌーチェフルは、サームの子こをシームルグが育そだてたと知しると非常ひじょうに喜よろこんだ。

やがてザールは、カブールのルーダーベ姫ひめと結むすばれる。ルーダーベがザールの子こを身みごもったが、臨月りんげつとなっても胎児たいじは産うまれずルーダーベを苦くるしめた。ザールは、かつてシームルグから貰もらった羽根はねのことを思おもい出だし、シームルグが言いったように羽根はねの一部いちぶを香炉こうろで燃もやした。すぐにシームルグが現あらわれ、生うまれてくる子こが強つよく賢かしこい人物じんぶつとなる旨むねを告つげると、出産しゅっさんのための助言じょげんを与あたえた。そして1枚まいの羽根はねを置おいて飛とび去さった。シームルグの指示しじ通どおり、ルーダーベを酒さけで酔よわせた後のちに腹部ふくぶを切開せっかいして無事ぶじに赤あかん坊ぼうを取とり上あげ、腹部ふくぶは縫合ぬいあわして薬くすりを塗ぬり、最後さいごにシームルグの羽根はねで腹部ふくぶを撫なでた。こうしてルーダーベは救すくわれ、生うまれた子供こどもはロスタムと名付なづけられた。

成長せいちょうしたロスタムが、イランの王子おうじイスファンディヤールと戦たたかって傷きずついた時とき、ザールは香炉こうろでシームルグの羽根はねの一部いちぶを燃もやした。再ふたたびシームルグが現あらわれて、まずロスタムの傷きずを治療ちりょうし、やはり負傷ふしょうしていた彼かれの馬うまラクシュをも治療ちりょうした。それから、ロスタムからイスファンディヤールと戦たたかうことになった事情じじょうを聞きくと、イスファンディヤールと和解わかいを試こころみるよう、そしてもしイスファンディヤールが和解わかいを受うけ入いれないなら、シームルグが作つくらせた矢やを用もちいて彼かれと戦たたかうよう助言じょげんした。再ふたたびイスファンディヤールと相あいまみえたロスタムが和解わかいを試こころみたが、イスファンディヤールはなおも戦たたかおうとするため、ロスタムはシームルグが指示しじした方法ほうほうで矢やを放はなった。矢やはイスファンディヤールの目めに深々ふかぶかと刺ささり、これが彼かれの致命傷ちめいしょうとなった。

なお、イスファンディヤールは、イランと隣国りんごくトゥーラーンとの戦争せんそうの際さい、トゥーラーン王おうのいる「青銅せいどうの城しろ」へ攻せめ込こむ途中とちゅうで7つの艱難かんなんを攻略こうりゃくしている。その艱難かんなんの1つはシームルグとの戦たたかいであったが、ここでのシームルグはザールを育そだてたシームルグとは別べつの、邪悪じゃあくな鳥とりだとされている。イスファンディヤールは策略さくりゃくをもってシームルグを倒たおし、剣けんでその体からだをバラバラにしたところ、飛とび散ちった羽根はねが山々やまやまの間あいだの平野へいやを埋うめたという。

『鳥とりの言葉ことば』

詳細しょうさいは「鳥とりの言葉ことば」を参照さんしょう

12世紀せいきに詩人しじんファリードゥッディーン・アッタールによってペルシア語ごで書かかれた長編ちょうへん詩し『鳥とりの言葉ことば』にもシームルグが登場とうじょうする。ある時とき、さまざまな種類しゅるいの鳥とりたちがシームルグを探さがすために飛とび立たった。長ながく苦くるしい旅たびの間あいだに脱落だつらく者しゃを出だしながらも、最終さいしゅう的てきに30羽わの鳥とりたちがシームルグの住すむ山やまの頂いただきに辿たどり着つく。そのとき彼かれらは、自分じぶん達たちの一団いちだんにシームルグが宿やどり、自分じぶん達たち自身じしんがシームルグであることに気付きづく。なお、シームルグの名前なまえの意味いみは「30羽わの鳥とり」だとも解釈かいしゃくできるという。

類似るいじする幻想げんそう動物どうぶつ

シームルグが自みずから焼死しょうしするという伝承でんしょうはエジプトのフェニックスの伝承でんしょうと類似るいじしていると言いわれている。また、先さきイスラム時代じだいのアラビア神話しんわにもシームルグと性質せいしつが似にる霊鳥れいちょうアンカがいる。

シームルグはスラヴ神話しんわに取とり込こまれ、セマルグルという霊獣れいじゅうとなり、ウラジーミル1世せいによってキエフの丘おかに置おかれた6体たいの神像しんぞうのうちの1体たいでもあった。キエフやリャザンで見みつかった、12〜13世紀せいき頃ごろに作つくられた銀製ぎんせいの腕輪うでわには鳥とりと動物どうぶつの要素ようその入いり交まじった外見がいけんの生いき物ものが彫刻ちょうこくされたものがあり、その生いき物ものが古代こだいペルシアの皿さらに彫刻ちょうこくされたシームルグに似にているため、一部いちぶの研究けんきゅう者しゃはその生いき物ものをセマルグルではないかと推論すいろんしている。

参考さんこう文献ぶんけん

原典げんてん資料しりょう

• フェルドウスィー『王おう書しょ』
  • フェルドウスィー『王おう書しょ - 古代こだいペルシャの神話しんわ・伝説でんせつ』岡田おかだ恵美子えみこ訳わけ、岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ 赤あか 786-1〉、1999年ねん4月がつ。ISBN 978-4-00-327861-1。 

二に次じ資料しりょう

• アラン, トニー「シームルグ」『世界せかい幻想げんそう動物どうぶつ百科ひゃっか ヴィジュアル版ばん』上原うえはらゆうこ訳やく、原はら書房しょぼう、2009年ねん11月（原著げんちょ2008年ねん）、pp. 30-31頁ぺーじ。ISBN 978-4-562-04530-3。 
• カーティス, ヴェスタ・サーコーシュ『ペルシャの神話しんわ』薩摩さつま竜りゅう郎ろう訳やく、丸善まるぜん〈丸善まるぜんブックス 096〉、2002年ねん2月がつ。ISBN 978-4-621-06096-4。 
• ヘダーヤト, サーデク、奥西おくにし峻たかし介かい訳註やくちゅう「不思議ふしぎの国くに」『ペルシア民俗みんぞく誌し』ハーンサーリー, A・J.・ヘダーヤト, サーデク著ちょ、岡田おかだ恵美子えみこ・奥西おくにし峻たかし介かい訳註やくちゅう、平凡社へいぼんしゃ〈東洋文庫とうようぶんこ 647〉、1999年ねん1月がつ。ISBN 978-4-582-80647-2。 
• ローズ, キャロル「シームルグ」『世界せかいの怪物かいぶつ・神かみ獣じゅう事典じてん』松村まつむら一男かずお監訳かんやく、原はら書房しょぼう〈シリーズ・ファンタジー百科ひゃっか〉、2004年ねん12月、214頁ぺーじ。ISBN 978-4-562-03850-3。 
• 『知しっておきたい伝説でんせつの英雄えいゆうとモンスター』金光かねみつ仁三郎じんざぶろう監修かんしゅう、西東さいとう社しゃ〈なるほどBOOK!〉、2008年ねん4月がつ。ISBN 978-4-7916-1488-2。 

関連かんれん項目こうもく

• セマルグル
• フマ