ジョゼフ・フーシェ

フランスの政治せいじ家か ジョゼフ・フーシェ Joseph Fouché
生年月日せいねんがっぴ	1759年ねん5月21日にち
出生しゅっしょう地ち	フランス王国おうこく、ル・ペルラン
没ぼつ年月日ねんがっぴ	1820年ねん12月25日にち
死没しぼつ地ち	オーストリア帝国ていこく イリュリア王国おうこく、トリエステ
前ぜん職しょく	教師きょうし
称号しょうごう	オトラント公爵こうしゃく（1808年ねん）
警察けいさつ大臣だいじん
在任ざいにん期間きかん	1799年ねん7月がつ20日はつか - 1810年ねん6月3日にち 1815年ねん3月がつ20日はつか - 1815年ねん6月22日にち 1815年ねん7月がつ7日にち - 1815年ねん9月26日にち

ジョゼフ・フーシェ（仏ふつ: Joseph Fouché, 発音はつおん例れい, 1759年ねん5月21日にち - 1820年ねん12月25日にち）は、フランス革命かくめい、第だい一いち帝政ていせい、フランス復古ふっこ王政おうせいの政治せいじ家かである。ナポレオン体制たいせいでは警察けいさつ大臣だいじんを務つとめ、タレーランと共ともに体制たいせいの主要しゅよう人物じんぶつとなった。特とくに百ひゃく日にち天下でんか崩壊ほうかい後ごは臨時りんじ政府せいふの首班しゅはんを務つとめてナポレオン戦争せんそうの戦後せんご交渉こうしょうを行おこなった。

複数ふくすうの場所ばしょに同時どうじに存在そんざいするという近代きんだい警察けいさつの原型げんけいとなった警察けいさつ機構きこうの組織そしき者しゃ、秘密ひみつ警察けいさつを駆使くしして政権せいけん中枢ちゅうすうを渡わたり歩あるいた謀略ぼうりゃく家かとして知しられる。権力けんりょく者しゃに取とり入いりながら常つねに一定いっていの距離きょりを保たもって激動げきどうの時代じだいを生いき抜ぬいた人物じんぶつであったとされ、「カメレオン（変幻へんげん自在じざいの冷血動物れいけつどうぶつ）」の異名いみょうを持もった。

略歴りゃくれき

ナント近郊きんこうのル・ペルラン出身しゅっしん。父ちちは船員せんいんで、フーシェにも後ごを継つがせるつもりだったが、体からだが弱よわく、勉学べんがくの才ざいがあったためにナントのオラトリオ教団きょうだん(en)で学まなぶ。その後ご、僧籍そうせきには入はいらずに、同どう教会きょうかい所属しょぞくの学校がっこうで物理ぶつり科学かがくを教おしえる教師きょうしとなった。なお、この時期じきに北部ほくぶの町まちアラスにおいて、カルノーや無名むめいの弁護士べんごしであったロベスピエールと交まじわり、彼かれの妹いもうとと交際こうさいしている。

こうした面々めんめんとのつながりから政治せいじ運動うんどうに目覚めざめたフーシェは、フランス革命かくめい後のちにカトリック教会きょうかいを否定ひていする「非ひキリスト教化きょうか運動うんどう」に関かかわるようになって、1792年ねんに国民こくみん公会こうかいの議員ぎいんに当選とうせんし、パリに向むかった。当初とうしょは同郷どうきょうであるジロンド派はに近ちかい穏健おんけん共和きょうわ派はの立場たちばであったが、国王こくおうルイ16世せいの裁判さいばんの際さいに処刑しょけい票ひょうを投とうじ、それを契機けいきにジャコバン派は内うちの山岳さんがく派はに鞍くらがえした。これによりジロンド派は追放ついほうから免まぬかれるが、国王こくおう殺ごろしの罪つみが後のちに尾おを引ひくことになる。彼かれはまた、1793年ねん10月がつに墓地ぼち令れいを発はっし、共同きょうどう墓地ぼちの十字架じゅうじかを撤去てっきょさせている。

ロベスピエールによる恐怖きょうふ政治せいじを支持しじして革命かくめい運動うんどうに身みを投とうじ、1793年ねんには私有しゆう財産ざいさんを禁きんじる法令ほうれいをナント州しゅうなどで発布はっぷし、リヨンの大だい虐殺ぎゃくさつを指導しどうするなど辣腕らつわんをふるうが、その後ごロベスピエールと対立たいりつした。テルミドール9日にちのクーデターに参加さんかし、情報じょうほう収集しゅうしゅう能力のうりょくの高たかさを評価ひょうかされて総裁そうさい政府せいふの警察けいさつ大臣だいじんを務つとめた。ブリュメール18日にちのクーデターでは体制たいせい側がわであったが、ナポレオンの政権せいけん奪取だっしゅに貢献こうけんし、統すべ領りょう政府せいふでも引ひき続つづいて警察けいさつ大臣だいじんに就任しゅうにんした。1800年ねんのサン・ニケーズ街がい暗殺あんさつ未遂みすい事件じけんの阻止そしには失敗しっぱいしたが、その入念にゅうねんな捜査そうさでカドゥーダルの陰謀いんぼうを暴あばき、王おう党派とうはを一網打尽いちもうだじんにすることに成功せいこう。終身しゅうしん制せいに反対はんたいして一時いちじ失脚しっきゃくするが、アンギャン公こう事件じけんで再さい評価ひょうかされ、ナポレオン1世せいの帝政ていせいにおいて警察けいさつ大臣だいじん、元老げんろう院いん議員ぎいんを歴任れきにんした。

フーシェは総裁そうさい政府せいふ時代じだいから密偵みっていを雇やとい、秘密ひみつ警察けいさつを使つかって国家こっかのあらゆるものを監視かんしさせたと言いわれる。ナポレオンの妻つまジョゼフィーヌすら買収ばいしゅうし、ナポレオンの私生活しせいかつまで監視かんししていた。ナポレオンはフーシェの情報じょうほう収集しゅうしゅう力りょくを高たかく評価ひょうかし、用事ようじがあるときは秘書官ひしょかんに呼よびに行いかせた。ナポレオンは、大臣だいじんたちを自分じぶんの秘書官ひしょかん程度ていどに考かんがえ、時ときには口述こうじゅつ筆記ひっきさせることすらあったといい、直接ちょくせつ呼よびつけるのではなく、秘書官ひしょかんに呼よびに行いかせるのはナポレオンにとっては格別かくべつの配慮はいりょであった。なお、フーシェと共ともにナポレオンが配慮はいりょを示しめしたのは、タレーランである。

1808年ねんに衛星えいせい国こくナポリ王国おうこくのオトラント公爵こうしゃくに叙じょされるが、タレーランと同様どうようにナポレオン帝国ていこくの崩壊ほうかいを予想よそうして、次じ政権せいけんの構想こうそうを画策かくさくし始はじめる。翌年よくねんイギリス軍ぐんがベルギーに迫せまったときに独断どくだんで国民こくみん軍ぐんを編成へんせいし、ベルナドットを司令しれい官かんに据すえた越権えっけん行為こうい、対たい英えい和平わへい交渉こうしょうが露見ろけんして辞職じしょくした。この時ときの駐ちゅう仏ふつオーストリア大使たいしシュヴァルツェンベルクは、「ナポレオンをなだめられる唯一ゆいいつの人物じんぶつが全国ぜんこくに惜おしまれつつ去さった」と本国ほんごくに報告ほうこくしている。後ご、1813年ねん、短期間たんきかんであったが、ジュノー将軍しょうぐんの後任こうにんとしてイリュリア州しゅう総督そうとくを務つとめた。

百ひゃく日にち天下でんかでは再ふたたびナポレオンを支持しじして警察けいさつ大臣だいじんに再さい復帰ふっき。崩壊ほうかい後ご、退位たいいしたナポレオンに代かわって臨時りんじ政府せいふ首班しゅはんとなり、ルイ18世せいをパリに迎むかえたが、首班しゅはんの地位ちいはタレーランに奪うばわれた。王政おうせい復古ふっこでも短期間たんきかんだけ警察けいさつ大臣だいじんとなったが、王おう党派とうはは国王こくおう殺ごろしのフーシェを忘わすれていなかった。両親りょうしんであるルイ16世せいとマリー・アントワネットを殺ころされたマリー・テレーズは、フーシェが現あらわれると席せきを蹴けり、決けっして同席どうせきしようとしなかった。1815年ねん8月がつ、フーシェは大臣だいじん就任しゅうにん後ごわずか2か月げつで失脚しっきゃくし、ザクセン王国おうこく（当時とうじはドイツ連邦れんぽうの加盟かめい国こく）駐在ちゅうざい大使たいしとしてドレスデンに左遷させんされた。1816年ねん1月がつ9日にち、パリの議会ぎかいによる「百ひゃく日にち天下でんかの際さいにナポレオンに与くみした国王こくおう死刑しけい賛成さんせい投票とうひょう者しゃはフランスから永遠えいえんに追放ついほうする」というフーシェを狙ねらい撃うちにする決議けつぎにより国外こくがい追放ついほうされる形かたちでプラハに亡命ぼうめいした。

その後ごはオーストリアのリンツ、イタリアへと渡わたり歩あるき、1820年ねんにトリエステで死しんだ。晩年ばんねんは家族かぞくと友人ゆうじんに囲かこまれた平穏へいおんな生活せいかつを営いとなみ、人ひとが変かわったように教会きょうかいの参拝さんぱいを欠かかさなかったという。フーシェは死しぬまで敵対てきたい者しゃの個人こじん情報じょうほうを手中しゅちゅうに収おさめ、保身ほしんに成功せいこうした。オトラント公こうとしての居城きょじょう跡地あとちのフェリエール城じょうがあるセーヌ＝エ＝マルヌ県けん・フェリエール・アン・ブリーに埋葬まいそうされている。

明治めいじ時代じだいに日本にっぽんの警察けいさつを創設そうせつした川路かわじ利良としよしは、フーシェに範はんを取とってその事跡じせきを取とり入いれた。

オーストリアのユダヤ人じん作家さっかシュテファン・ツヴァイクによる評伝ひょうでん（1929年ねんにドイツ語ごで刊かん）が有名ゆうめいである。

家族かぞく

• 妻つま：ボンヌ＝ジャンヌ・コワコー（1763年ねん4月がつ1日にち）。1792年ねん9月16日にちに結婚けっこん、のち1812年ねん10月がつ8日にち死亡しぼう
  • 長女ちょうじょ：ニエーヴル・フーシェ（1793年ねん8月がつ10日とおか - 1794年ねん7月がつ24日にち）
  • 長男ちょうなん：ジョゼフ＝リベルテ・フーシェ（1796年ねん7月がつ22日にち - 1862年ねん12月31日にち）第だい2代だいオトラント公爵こうしゃく。　
  • 二男じなん：アルマン・フーシェ（1800年ねん3月がつ25日にち - 1878年ねん11月26日にち）第だい3代だいオトラント公爵こうしゃく。　
  • 三男さんなん：アタナス・フーシェ（1801年ねん6月25日にち - 1886年ねん2月がつ10日とおか）第だい4代だいオトラント公爵こうしゃく。兄あにらと共ともにスウェーデンに渡わたり、スウェーデンの貴族きぞくとして定住ていじゅうする。
  • 二女じじょ：ジョゼフィーヌ＝リュドミール・フーシェ（1803年ねん6月29日にち - 1893年ねん12月30日にち） 1985年ねんに歌手かしゅのジュリアン・クレルクと結婚けっこんしたヴィルジニー・クーペリはこの系統けいとう。
• 妻つま：ガブリエル＝エルネスティーヌ・ド・キャステラーヌ。前妻ぜんさいとの死別しべつ後ご、1818年ねんに結婚けっこん。子こはいない。

参考さんこう文献ぶんけん

• 鹿島かしま茂しげる『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念じょうねん戦争せんそう1789-1815』講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、2009年ねん8月がつ。ISBN 978-4-06-291959-3。 
  • 元もと版はんは『情念じょうねん戦争せんそう』集英社しゅうえいしゃインターナショナル、2003年ねん10月がつ。ISBN 978-4-7976-7080-6
• 谷川たにがわ稔みのる 著ちょ「第だい二に章しょう フランス革命かくめいとナポレオン帝政ていせい3. 文化ぶんかと習俗しゅうぞくの革命かくめい」、谷川たにがわ稔みのる、渡辺わたなべ和行かずゆき 編へん『近代きんだいフランスの歴史れきし－国民こくみん国家こっか形成けいせいの彼方かなたに－』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう、2006年ねん2月がつ。ISBN 4-623-04495-5。 
• 両角もろずみ良彦よしひこ『反はんナポレオン考こう 時代じだいと人間にんげん』（新版しんぱん）朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん〈朝日あさひ選書せんしょ〉、1998年ねん12月。ISBN 978-4-02-259715-1。 
• 長塚ながつか隆二りゅうじ『ジョゼフ・フーシェ 政治せいじのカメレオン』読売新聞社よみうりしんぶんしゃ、1996年ねん6月がつ。ISBN 978-4643960549

関連かんれん書籍しょせき

• シュテファン・ツヴァイク『ジョゼフ・フーシェ』吉田よしだ正ただし己おのれ、小野寺おのでら和夫かずお 訳やく、みすず書房しょぼう、1969年ねん、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:73004544。新版しんぱん1998年ねん、ISBN 978-4622046622（元もと版ばん「全集ぜんしゅう」1961年ねん、新版しんぱん1980年ねん）
• シュテファン・ツワイク『ジョゼフ・フーシェ ある政治せいじ的てき人間にんげんの肖像しょうぞう』高橋たかはし禎二ていじ、秋山あきやま英夫ひでお 訳わけ、岩波いわなみ文庫ぶんこ、1979年ねん、改版かいはん2011年ねん、ISBN 978-4003243749。
• シュテファン・ツヴァイク『ジョゼフ・フーシェ』福田ふくだ宏ひろし年ねん 訳わけ、グーテンベルク21（電子でんし書籍しょせき：Kindle版ばんほか）、2022年ねん11月より（元もと版ばん「世界せかい文学ぶんがく全集ぜんしゅう」学研がっけん 1979年ねん）
• シュテファン・ツヴァイク『ジョゼフ・フーシェ ある政治せいじ的てき人間にんげんの肖像しょうぞう』山下やました肇はじめ・山下やました萬里ばんり 訳やく、中公ちゅうこう文庫ぶんこ、2024年ねん7月がつ（元もと版ばん・潮しお文庫ぶんこ、1971年ねん）。ISBN 978-4122075429

フィクション作品さくひん

歴史れきし小説しょうせつ

• 辻つじ邦生くにお『フーシェ革命かくめい暦れき』第だい1部ぶ・第だい2部ぶ（未完みかん）
  • 文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、1989年ねん7月がつ。ISBN 978-4-16-363670-2, 978-4-16-363680-1。
  • 新版しんぱん『辻つじ邦生くにお全集ぜんしゅう』11・12巻かんに収録しゅうろく。新潮社しんちょうしゃ、2005年ねん4月がつ-5月。ISBN 978-4-10-646911-4, 978-4-10-646912-1。
• ジョン・ディクスン・カー『喉のど切ぎり隊長たいちょう』
  • 村崎むらさき敏郎としお訳わけ、早川書房はやかわしょぼう〈世界せかい探偵たんてい小説しょうせつ全集ぜんしゅう〉、1958年ねん、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:58003343。
  • 島田しまだ三蔵さんぞう訳わけ、早川書房はやかわしょぼう〈ハヤカワ・ミステリ文庫ぶんこ HM 5-12〉、1982年ねん8月がつ、ISBN 978-4-15-070362-2。

歴史れきし漫画まんが

• 倉くら多た江美えみ『静粛せいしゅくに、天才てんさい只今ただいま勉強べんきょう中ちゅう!』
• 長谷川はせがわ哲也てつや『ナポレオン‐獅子ししの時代じだい‐』
• 池田いけだ理代りよ子こ『栄光えいこうのナポレオン-エロイカ』

その他た

• 西部せいぶ邁、佐さ高信たかのぶ「ツヴァイク「ジョセフ・フーシェ」」『西部せいぶ邁と佐さ高だか信しんの快かい著しる快かい読』光文社こうぶんしゃ、2012年ねん10月がつ20日はつか、9-46頁ぺーじ。ISBN 978-4-334-97716-0。 

関連かんれん項目こうもく

• 秘密ひみつ警察けいさつ
• ウィーン会議かいぎ
• フランス革命かくめい期きにおける非ひキリスト教化きょうか運動うんどう

フーシェになぞらえられた人物じんぶつ

• クラウス・バルビー - ヴィシー政権せいけん期きの所業しょぎょうから「リヨンの屠殺とさつ人じん」と呼よばれたドイツ人じん
• 川島かわしま正次まさつぐ郎ろう - 党人とうじん派は出身しゅっしんで「江戸前えどまえフーシェ」とあだ名なされた。
• 後藤田ごとうだ正晴まさはる - 内務ないむ官僚かんりょう出身しゅっしんだが「日本にっぽんのフーシェ」とあだ名なされた。

外部がいぶリンク

• ウィキメディア・コモンズには、ジョゼフ・フーシェに関かんするメディアがあります。
• "Ses Mémoires" Project Gutenberg （英語えいご）
• 『フーシェ』 - コトバンク
• 『フーシェ（Joseph Fouché）』 - コトバンク