五ご匹ひきの子こ豚ぶた

五ご匹ひきの子こ豚ぶた Five Little Pigs Murder in Retrospect
著者ちょしゃ	アガサ・クリスティー
訳者やくしゃ	山本やまもとやよい ほか
発行はっこう日び	1942年ねん5月 1943年ねん1月がつ
発行はっこう元もと	Dodd, Mead and Company Collins Crime Club 早川書房はやかわしょぼう
ジャンル	推理すいり小説しょうせつ
国くに	イギリス
前作ぜんさく	書斎しょさいの死体したい
次つぎ作さく	動うごく指ゆび
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『五ご匹ひきの子こ豚ぶた』（ごひきのこぶた、原題げんだい：Five Little Pigs、アメリカ版ばん：Murder in Retrospect）は、イギリスの小説しょうせつ家かアガサ・クリスティが1942年ねんに発表はっぴょうした推理すいり小説しょうせつであり、探偵たんていエルキュール・ポアロが登場とうじょうする「エルキュール・ポアロ・シリーズ」の作品さくひんのひとつである。

16年ねん前まえ、夫おっと殺ごろしの罪つみで終身しゅうしん刑けいを宣告せんこくされ、獄中ごくちゅうで死亡しぼうした母ははの無実むじつを固かたく信しんじる娘むすめの話はなしに興味きょうみを覚おぼえたポアロが、あたかも「五ご匹ひきの子こ豚ぶた」の如ごとき5人にんの関係かんけい者しゃとの会話かいわを手てがかりに過去かこへと遡さかのぼり、真実しんじつへたどり着つくまでを描えがいた作品さくひん。原題げんだいである『五ご匹ひきの子こ豚ぶた』は、マザー・グースの童謡どうよう（「この子こ豚ぶたはマーケットへ行いった」など5匹ひきの子こ豚ぶたが登場とうじょうする遊戯ゆうぎの数かぞえ歌うた）の5つの歌詞かしにちなんだものである。

本ほん作品さくひんには、現在げんざいに影響えいきょうを及およぼす事件じけんを解決かいけつするため過去かこへと遡さかのぼってその原因げんいんを明あきらかにする、クリスティの作品さくひんに少すくなからず見受みうけられる手法しゅほうが盛もり込こまれており、アメリカ版ばん原題げんだい『回想かいそうの殺人さつじん』はその内容ないようにちなんだものである。

あらすじ

カロリン・クレイルが画家がかである夫おっとアミアスを殺害さつがいした罪つみで終身しゅうしん刑けいの有罪ゆうざい判決はんけつを受うけた16年ねん後ご、彼女かのじょの娘むすめカーラ・ルマルションがポアロを訪たずね、事件じけんの調査ちょうさを依頼いらいする。カーラは21歳さいのとき、母ははから無実むじつを訴うったえる手紙てがみを受うけ取とり、それが真実しんじつだと信しんじていた。ポアロは彼女かのじょの依頼いらいを受諾じゅだくする。

クレイル家かで殺人さつじんがあった日ひ、そこにはポアロが「5匹ひきの子こ豚ぶた」と呼よぶ5人にんの人間にんげんがいた。株式かぶしき仲買人なかがいにんでアミアスの親友しんゆうだったフィリップ・ブレイク、アマチュア化学かがく者しゃのメレディス・ブレイク（フィリップの弟おとうと）、カロリンの異母いぼ妹いもうとアンジェラ・ウォレン、アンジェラの家庭かてい教師きょうしセシリア・ウィリアムズ、アミアスの絵えのモデル兼けん愛人あいじんエルサ・グリヤー（その後ご結婚けっこんしてディティシャム卿きょう夫人ふじん）である。警察けいさつは、アミアスが飲のんだグラスからコニインを検出けんしゅつし、毒殺どくさつされたことを突つき止とめていた。カロリンは、メレディスの研究けんきゅう室しつから毒どくを盗ぬすみ、それを使つかって自殺じさつするつもりだったと告白こくはくしたが、彼女かのじょは当時とうじアミアスに冷ひえた瓶びんビールを渡わたしており、警察けいさつは彼女かのじょが毒どくを盛もったと考かんがえた。アミアスはモデルのエルサと浮気うわきをしていたため、それがカロリンの動機どうきと思おもわれた。

ポアロは5人にんの容疑ようぎ者しゃと面談めんだんし、彼かれらには明あきらかな動機どうきがないことを知しる。その中なかでカロリンの異母いぼ妹いもうとアンジェラだけが彼女かのじょの無実むじつを信しんじていた。ポアロはカーラと彼女かのじょの婚約こんやく者しゃと共ともに彼かれら5人にんを集あつめ、カロリンは無実むじつだったが、アンジェラが殺人さつじんを犯おかしたと思おもったので、彼女かのじょをかばって自分じぶんの無実むじつを主張しゅちょうしなかったのだと述のべる。たしかに当時とうじアンジェラは瓶びんビールに触ふれていたが、カロリンがアミアスのところに持もっていく前まえには手てを加くわえていなかった。カロリンは、アンジェラが悪わるふざけでビールに何なにかを入いれ、アミアスを死しなせたのだと思おもい込こんだのだ。カロリンは、幼おさない頃ころにアンジェラに文鎮ぶんちんを投なげつけて片目かためを失明しつめいさせたことがあり、その罪滅つみほろぼしとして罪つみをかぶったのだった。

ポアロは、犯人はんにんはエルサ・グリヤーであると述のべる。彼女かのじょはアミアスが結婚けっこんしようと言いったことを真しんに受うけ、それが彼かれが絵えが完成かんせいするまでモデルとして続つづけてほしいと思おもっていたための口実こうじつであるとは思おもわなかった。しかしアミアスが妻つまに本心ほんしんを語かたって安心あんしんさせているのを耳みみにし、裏切うらぎられたと感かんじ、復讐ふくしゅうしようとしたのだった。カロリンがメレディスの研究けんきゅう室しつから毒どくを持もち出だすのを見みた彼女かのじょは、カロリンの部屋へやから毒どくを盗ぬすみ出だし、グラスに注そそがれたビールに混まぜてアミアスに飲のませた。その後ご、カロリンが新あたらしい冷ひえたビールを持もってくると、彼かれは「今日きょうはどれも不味まずい」と言いいながら飲のんでいた。このことからポアロは、毒どくはエルサが渡わたしたグラスの方ほうに入はいっていたことがわかったと言いう。ポアロの説明せつめいで、カーラとその婚約こんやく者しゃも納得なっとくする。

状況じょうきょう証拠しょうこでカロリンの恩赦おんしゃやエルサの有罪ゆうざいが得えられる可能かのう性せいは低ひくいが、ポアロは自分じぶんの調査ちょうさ結果けっかを警察けいさつに提出ていしゅつするつもりだと言いった。

登場とうじょう人物じんぶつ

• カーラ・ルマルション - 事件じけんの依頼いらい者しゃ。16年ねん前まえの事件じけんの後のち、カナダのおじに引ひき取とられた。
• ジョン・ラッテリー - カーラの婚約こんやく者しゃ。
• アミアス・クレイル - 画家がかでカーラの父ちち。女癖おんなぐせが悪わるかった。16年ねん前まえに飲のんでいたビールにコニインを混入こんにゅうさせられて毒殺どくさつされる。
• カロリン・クレイル - アミアスの妻つま。夫おっと毒殺どくさつの罪つみで終身しゅうしん刑けいを受うけ、のちに獄死ごくし。娘むすめのカーラに対たいし無実むじつを訴うったえる手紙てがみを残のこしていた。
• エルサ・ディティシャム - 旧姓きゅうせいは「グリヤー」。当時とうじはアミアスの絵えのモデルを務つとめた少女しょうじょで、アミアスの愛人あいじん。現在げんざいはディティシャム卿きょう夫人ふじんで、社交しゃこう界かいの華はなである。
• フィリップ・ブレイク - アミアスの親友しんゆう。過去かこにカロリンに振ふられたことがある。現在げんざいは株式かぶしき仲買人なかがいにん。
• メレディス・ブレイク - フィリップの兄あに。カロリンに秘ひそかに恋こいしていた。現在げんざいは隠居いんきょで、薬草やくそうの研究けんきゅうをしている。
• アンジェラ・ウォレン - カロリンの異母いぼ妹いもうと。現在げんざいは考古こうこ学者がくしゃ。赤あかん坊ぼうのころ、カロリンのミスで片目かためが失明しつめいしたが、姉妹しまいの仲なかは良よかった。一方いっぽう、女癖おんなぐせの悪わるいアミアスを敵視てきししていた。
• セシリア・ウィリアムズ - アンジェラの家庭かてい教師きょうし。
• モンタギュー・ディプリーチ卿きょう - 勅撰ちょくせん弁護士べんごし。
• クェンティン・フォッグ - 勅撰ちょくせん弁護士べんごし。
• ジョージ・メイヒュー - 弁護士べんごし。
• クレイブ・ジョナサン - 弁護士べんごし。
• ヘイル - 元もと警視けいし。
• エルキュール・ポアロ - 私立しりつ探偵たんてい。

作品さくひんの評価ひょうか

辛口からくちの評論ひょうろんに定評ていひょうがあるとされている英国えいこくの作家さっかロバート・バーナードは『欺しの天才てんさい アガサ・クリスティ創作そうさくの秘密ひみつ』（1979年ねん）の中なかで、傑作けっさくとして挙あげた3作さくのうちの1作さくに本ほん作さくを挙あげている。

作家さっかで評論ひょうろん家かのモーリス・ウィルソン・ディシャーは、1943年ねん1月がつ16日にち付づけのタイムズ・リテラリー・サプルメント誌しの批評ひひょうで、「画家がかがどのように死しんだかということが繰くり返かえし語かたられるが、犯罪はんざい愛好あいこう家かはそれに異議いぎを唱となえないだろう。プロットよりも問題もんだいの方ほうに興味きょうみが向むくが、そこに作者さくしゃの非凡ひぼんな技量ぎりょうが発揮はっきされる。謎なぞ解ときは見事みごとである。」と述のべた。

モーリス・リチャードソンは、1943年ねん1月がつ10日にち号ごうのオブザーバー紙しでこの小説しょうせつを批評ひひょうし、こう書かいた。「容疑ようぎ者しゃが5人にんしかいないにもかかわらず、クリスティはいつものように読者どくしゃに紐ひもを繋つないで、土壇場どたんばでの衝撃しょうげき的てきなクライマックスまで導みちびいてくれる。これはポアロシリーズ中期ちゅうきの水準すいじゅんに十分じゅうぶん達たっしている。これ以上いじょう言いう必要ひつようはないだろう。」。

J・D・ベレスフォードは1943年ねん1月がつ20日はつかのガーディアン紙しの批評ひひょうで、「...クリスティは決けっして我々われわれを失望しつぼうさせないし、彼女かのじょの『五ご匹ひきの子こ豚ぶた』は、賢明けんめいな読者どくしゃにとても美うつくしい問題もんだいを与あたえる」と書かいている。彼かれは、真犯人しんはんにんを示しめす手てがかりは「完全かんぜんに満足まんぞくのいくもの」であると結論けつろんづけた。

チャールズ・オズボーンは、「『五ご匹ひきの子こ豚ぶた』の謎なぞ解ときは、すぐに納得なっとくできるだけでなく、満足まんぞく感かんもあり、その必然ひつぜん性せいと殺伐さつばつとした雰囲気ふんいきに感動かんどうさえ覚おぼえる」とこの小説しょうせつを賞賛しょうさんしている。

備考びこう

ポアロがメレディス・ブレイクと会見かいけんする際さいに2通つうの紹介しょうかい状じょうを携たずさえているが、これはそれぞれ『三さん幕まくの殺人さつじん』に登場とうじょうするレディ・メアリー・リットン・ゴアからのものと、「西洋せいようの星ほし盗難とうなん事件じけん」に登場とうじょうするクロンショー提督ていとくからのものである。

出版しゅっぱん

題名だいめい	出版しゅっぱん社しゃ	文庫ぶんこ名めい	訳者やくしゃ	巻末かんまつ	カバーデザイン	初版しょはん年月日ねんがっぴ	ページ数すう	ISBN	備考びこう
五ご匹ひきの子こ豚ぶた	早川書房はやかわしょぼう	ハヤカワ・ミステリ文庫ぶんこ1-21	桑原くわばら千恵子ちえこ	回想かいそうの殺人さつじん (S)	真鍋まなべ博ひろし	1977年ねん2月がつ28日にち	331	4-15-070021-4	絶版ぜっぱん
五ご匹ひきの子こ豚ぶた	早川書房はやかわしょぼう	クリスティー文庫ぶんこ21	桑原くわばら千恵子ちえこ	解説かいせつ 千せん街がい晶あきら之これ	Hayakawa Design	2003年ねん	406	4-15-130036-3	絶版ぜっぱん
五ご匹ひきの子こ豚ぶた	早川書房はやかわしょぼう	クリスティー文庫ぶんこ21	山本やまもとやよい	解説かいせつ 千せん街がい晶あきら之これ	Hayakawa Design	2010年ねん11月がつ10日とおか		4-15-131021-8

戯曲ぎきょく

1960年ねん「Go Back for Murder」の題名だいめいで著者ちょしゃ自身じしんが本ほん作さくを戯曲ぎきょく化かしており、邦訳ほうやく『殺人さつじんをもう一度いちど』（深町ふかまち眞理子まりこ訳わけ）が光文社こうぶんしゃ文庫ぶんこから刊行かんこうされている。ただし、ポアロは登場とうじょうしない内容ないように脚色きゃくしょくされている。

映像えいぞう化か

TV作品さくひん

• 名めい探偵たんていポワロ「Five Little Pigs（邦題ほうだい 五ご匹ひきの子こ豚ぶた）」（イギリス 2003年ねん）
  • ポワロ - デヴィッド・スーシェ
  • カロリン・クレイル - レイチェル・スターリング
  • アミアス・クレイル - エイダン・ギレン
  • フィリップ・ブレイク - トビー・スティーブンス
  • メレディス・ブレイク - マーク・ウォーレン
  • ルーシー・クレイル - エイミー・マリンズ
  • エルサ・グリヤー - ジュリー・コックス
  • アンジェラ・ウォレン - ソフィー・ウィンクルマン

カロリン・クレイルに対たいする判決はんけつが終身しゅうしん刑けいではなく死刑しけい（絞首刑こうしゅけい）に変更へんこうされており、カロリンの刑死けいしからポワロへの依頼いらいまでの期間きかんは14年ねんとなっている。また改名かいめい前まえの娘むすめの名前なまえがルーシー・クレイルとなっている。フィリップは同性愛どうせいあい者しゃでカロリンではなくアミアスを子供こどものころから愛あいしていた設定せっていに変更へんこうされている。全編ぜんぺんにわたってエリック・サティ作曲さっきょくのピアノ曲きょく『グノシエンヌ第だい1番ばん』が編曲へんきょくされて用もちいられている。

外部がいぶリンク

• 五ご匹ひきの子こ豚ぶた - Hayakawa Online
• 殺人さつじんをもう一度いちど - 光文社こうぶんしゃ電子でんし書店しょてん