北海道ほっかいどうアイヌ

北海道ほっかいどうアイヌ

言語げんご
北海道ほっかいどうアイヌ語ご、日本語にほんご
宗教しゅうきょう
自然しぜん崇拝すうはい
関連かんれんする民族みんぞく
千島ちしまアイヌ、樺太からふとアイヌ

北海道ほっかいどうアイヌ（ほっかいどうアイヌ）は、主おもに北海道ほっかいどう島とうに居住きょじゅうするアイヌ系けい民族みんぞくである。数かずあるアイヌ系けい集団しゅうだんの中なかでも最大さいだいの規模きぼを有ゆうし、メナシクル・シュムクルなどに代表だいひょうされる数すう多おおくの地域ちいき集団しゅうだんを内包ないほうする。

ユーカラなどでは北海道ほっかいどう島とうに住すまうアイヌを指さしてヤウンクル（アイヌ語ご: Ya-un-kuru、「本土ほんど / 内陸ないりくの人ひと」の意い）とも呼称こしょうする。

歴史れきし

詳細しょうさいは「アイヌの歴史れきし」を参照さんしょう

地域ちいき集団しゅうだん

シャクシャイン時代じだいの北海道ほっかいどう

「北海道ほっかいどうアイヌ」という概念がいねんは北方ほっぽう史し研究けんきゅう者しゃの海保かいほ嶺夫みねおによって提唱ていしょうされ、北海道ほっかいどう各地かくちで共通きょうつうの文化ぶんか風俗ふうぞくを有ゆうする集団しゅうだんを指さす。海保かいほは、17世紀せいきには有力ゆうりょく首長しゅちょう（惣そう乙おつ名めい）によって治おさめられる大だい規模きぼな地域ちいき集団しゅうだんが5つあったこと、そしてこの5つの集団しゅうだんは20世紀せいきに河野こうの広道ひろみちが墓はか制せいの違ちがいに基もとづいて行いったアイヌ民族みんぞくの分類ぶんるいと大凡おおよそ一致いっちすることを指摘してきし、これらの地域ちいき集団しゅうだんが「アイヌ民族みんぞくの国家こっか形成けいせいへの胎動たいどう期きというべき英雄えいゆう時代じだいの所産しょさん」であり、幕まく藩はん制せい国家こっかによるアイヌ民族みんぞく支配しはいが強化きょうかされる中なかで「単たんに風俗ふうぞく・習慣しゅうかんを共通きょうつうする『系統けいとう』に変容へんようしてしまったもの」と論ろんじる。

海保かいほの見解けんかいは多おおくの研究けんきゅう者しゃに受うけ容いれられているが、「共通きょうつうの文化ぶんかを有ゆうする集団しゅうだん」と「首長しゅちょうによって治おさめられる政治せいじ的てき集団しゅうだん」を安易あんいに混同こんどうしているとの批判ひはんもあり、北海道ほっかいどうアイヌの地域ちいき集団しゅうだんについては未み解決かいけつの課題かだいも多おおい。考古こうこ学者がくしゃの大井おおい晴男はるおは「5つの地域ちいき集団しゅうだん」が存在そんざいしたこと自体じたいは認みとめつつも、それは「政治せいじ的てき集団しゅうだん」と見みるべきではなく、「出自しゅつじの違ちがいに由来ゆらいする文化ぶんか的てきまとまりを有ゆうする集団しゅうだん」と見みるべきである、と指摘してきしている。

シュムクル（サルンクル）

詳細しょうさいは「シュムクル」を参照さんしょう

シュムクルは、日高ひだか地方ちほう北部ほくぶおよび胆振いぶり地方ちほう東部とうぶを居住きょじゅう地ちとする集団しゅうだん。「祖先そせんは本州ほんしゅうから移住いじゅうしてきた」という、他たのアイヌ民族みんぞく集団しゅうだんの中なかでは見みられない伝承でんしょうを有ゆうしており、奥州おうしゅう藤原ふじわら氏しの崩壊ほうかいを契機けいきに北海道ほっかいどう島とうへ移住いじゅうしてきた奥羽おううアイヌを先祖せんぞとする集団しゅうだんではないかと考かんがえられている。17世紀せいきには南みなみのメナシクルと激はげしく対立たいりつし、この対立たいりつが後のちにシャクシャインの戦たたかいへと繋つながっていった。現代げんだいの北海道ほっかいどうにおいてアイヌ民族みんぞく人口じんこうが最もっとも多おおい胆振いぶり・日高ひだか地方ちほうはシュムクルの居住きょじゅう地ちと一致いっちしており、これはシャクシャインの戦たたかいなどでシュムクルが松前まさき藩はんに友好ゆうこう的てきであったためではないか、とする説せつがある。

メナシクル

詳細しょうさいは「メナシクル」を参照さんしょう

メナシクルは、主おもに日高ひだか地方ちほう南部なんぶから十勝とかち・釧路くしろ・根室ねむろ一帯いったい、すなわち道東どうとう一帯いったいを居住きょじゅう地ちとする集団しゅうだん。道東どうとう一帯いったいで栄さかえたトビニタイ文化ぶんか人じんを母体ぼたいとし、比較的ひかくてき遅おくれてアイヌ文化ぶんかを受容じゅようした集団しゅうだんであると考かんがえられている。17世紀せいきには静内川しずないがわの首長しゅちょうであったシャクシャインがシュムクルと抗こう争そうを繰くり広ひろげ、最終さいしゅう的てきには松前まさき藩はんと開戦かいせんするに至いたった（シャクシャインの戦たたかい）。また、18世紀せいきには「メナシ地方ちほう」と国後島くなしりとうとの間あいだでクナシリ・メナシの戦たたかいが起おこるなど、メナシクルはアイヌ集団しゅうだんの中なかでも独立どくりつ心しんが旺盛おうせいであった。考古学こうこがく的てきには、メナシクルの居住きょじゅう地域ちいきにのみ「砦とりでとしてのチャシ」が集中しゅうちゅうして発見はっけんされるという特徴とくちょうがある。

石狩いしかりアイヌ（イシカルンクル）

詳細しょうさいは「石狩いしかりアイヌ」を参照さんしょう

石狩いしかりアイヌは、シュムクルの居住きょじゅう圏けんである千歳川ちとせがわ流域りゅういきを除のぞく石狩川いしかりがわ流域りゅういき一帯いったい（ほぼ石狩いしかり国こくに相当そうとうする）を居住きょじゅう地ちとする集団しゅうだん。石狩川いしかりがわ流域りゅういきは擦こす文ぶん時代じだいから鮭さけ漁りょうで栄さかえた地域ちいきであり、先住せんじゅうの擦こす文集ぶんしゅう団だんと後のちに移住いじゅうしてきた奥羽おううアイヌが交まじわる形かたちで成立せいりつしたのではないかと考かんがえられている。シャクシャインの戦たたかいでは貿易ぼうえき断絶だんぜつを盾たてに取とり屈服くっぷくを求もとめてきた松前まさき藩はんに対たいし、当時とうじの首長しゅちょうハウカセは「石狩いしかりアイヌは松前まさき藩はんとの交易こうえきがなくとも生活せいかつしていける」と豪語ごうごするなど、北海道ほっかいどうアイヌの中なかでもとりわけ土地とち・資源しげんに恵めぐまれた集団しゅうだんとして知しられていた。

内浦うちうらアイヌ（ホレバシウンクル・ウシケシュンクル）

詳細しょうさいは「内浦うちうらアイヌ」を参照さんしょう

内浦うちうらアイヌは、胆振いぶり地方ちほう西部せいぶから渡島ととう半島はんとう東部とうぶの内浦湾うちうらわん一帯いったいを居住きょじゅう地ちとする集団しゅうだん。シャクシャインの戦たたかいの際さいにはメナシクルと密ひそかに連絡れんらくを取とり同盟どうめい関係かんけいを結むすぶなど、太平洋たいへいよう岸がんの諸しょ集団しゅうだんと密接みっせつな関係かんけいを有ゆうしていた。しかし、松前まさきを中心ちゅうしんとする和人わじん地ちに近ちかかったがために早はやくからアイヌ人口じんこうの減少げんしょうが始はじまっており、その起源きげんや文化ぶんかについては不明ふめいな点てんが多おおい。

その他た

以上いじょうの4つの集団しゅうだんに加くわえ、海保かいほは「余市よいちアイヌ」という集団しゅうだんも取とり上あげているが、この集団しゅうだんは実じつは樺太からふとアイヌの別派べっぱと見みるべきとの説せつが大井おおい晴男はるおより出だされており、本ほん記事きじでは取とり上あげない。また、北海道ほっかいどう島内とうないには以上いじょうの集団しゅうだんの他ほかにも、大小だいしょう様々さまざまな多数たすうのアイヌ集団しゅうだんが存在そんざいしていたと考かんがえられるが、未いまだ明あきらかになっていない点てんが多おおい。

言語げんご

「北海道ほっかいどうアイヌ語ご」を参照さんしょう

歴史れきし上じょう北海道ほっかいどう島とうを統一とういつしたアイヌ系けい勢力せいりょくは存在そんざいないため、北海道ほっかいどうアイヌ語ごには共通きょうつう語ご・標準ひょうじゅん語ごに相当そうとうするものが存在そんざいせず、複数ふくすうの方言ほうげんが並列へいれつして存在そんざいする。そのため、基本きほん的てきに近代きんだいに至いたるまで「北海道ほっかいどうアイヌ語ご」という枠組わくぐみはほとんど意識いしきされることはなかった。しかし、近代きんだい以降いこうに北海道ほっかいどうアイヌ協会きょうかいを中心ちゅうしんとしてアイヌ語ごの維持いじ保存ほぞん活動かつどうが行おこなわれる中なかで、近年きんねんでは樺太からふとアイヌ語ごなどとの差異さいを意識いしきして「北海道ほっかいどうアイヌ語ご」という用語ようごが用もちいられるようになってきている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 天野あまの哲也てつや・菊池きくち俊彦としひこ・臼杵うすき勲いさお 編へん『北方ほっぽう世界せかいの交流こうりゅうと変容へんよう―中世ちゅうせいの北東ほくとうアジアと日本にっぽん列島れっとう』山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ、2006年ねん。ISBN 9784634590618。 
• 榎森えのもり, 進すすむ『アイヌ民族みんぞくの歴史れきし』草くさ風ふう館かん、2007年ねん。ISBN 9784883231713。 
• 大井おおい, 晴男はるお「シャクシャインの乱らん（寛文ひろふみ9年ねん蝦夷えぞの乱らん）の再さい検討けんとう」『北方ほっぽう文化ぶんか研究けんきゅう』第だい21号ごう、1992年ねん、1-66頁ぺーじ、ISSN 03856046、NAID 40003547264。 
• 大井おおい, 晴男はるお「シャクシャインの乱らん（寛文ひろふみ9年ねん蝦夷えぞの乱らん）の再さい検討けんとう 承前しょうぜん」『北方ほっぽう文化ぶんか研究けんきゅう』第だい22号ごう、1995年ねん、1-116頁ぺーじ、ISSN 03856046、NAID 40003547260。 
• 海保かいほ, 嶺夫みねお『日本にっぽん北方ほっぽう史しの論理ろんり』雄山閣ゆうざんかく出版しゅっぱん、1974年ねん。 
• 海保かいほ, 嶺夫みねお『エゾの歴史れきし 北きたの人ひとびとと「日本にっぽん」』講談社こうだんしゃ、1996年ねん。ISBN 9784062580694。 
• 河野こうの, 広道ひろみち「アイヌの一いち系統けいとうサルンクルに就て」『人類じんるい学がく雜誌ざっし』第だい47巻かん第だい4号ごう、1932年ねん、137-148頁ぺーじ、doi:10.1537/ase1911.47.137、ISSN 0003-5505。 
• 平山ひらやま, 裕人ひろと『アイヌ史しを見みつめて』北海道ほっかいどう出版しゅっぱん企画きかくセンター、1996年ねん。ISBN 4832896024。 
• 平山ひらやま, 裕人ひろと『シャクシャインの戦たたかい』寿郎としお社しゃ、2016年ねん。ISBN 9784902269932。 
• 宮島みやじま, 利光としみつ『アイヌ民族みんぞくと日本にっぽんの歴史れきし 先住民せんじゅうみん族ぞくの苦難くなん・抵抗ていこう・復権ふっけん』三さん一いち書房しょぼう、1996年ねん。ISBN 9784380960116。