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恐怖きょうふ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
畏怖いふから転送てんそう

恐怖きょうふ(きょうふ)、またはおそ(おそれ)(えい: fear)は、動物どうぶつ人間にんげんのもつ感情かんじょうひとつで、こわいとおもうことやその気持きも[1]

概説がいせつ

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ブリタニカ国際こくさい百科ひゃっか事典じてんによると、おそれとは典型てんけいてき情動じょうどうのひとつで、有害ゆうがい事態じたい危険きけん事態じたいたいして有効ゆうこう対処たいしょすることがむずかしいような場合ばあいしょうじる、とのことである[2]

ブリタニカ国際こくさい百科ひゃっか事典じてんによると、おそれのなかでも具体ぐたいてき事態じたいになっておらず明確めいかく対象たいしょうがあるものが「心配しんぱい」だという。また、具体ぐたいてき事態じたいになっておらず、かつ明確めいかく対象たいしょうもないものが「不安ふあん」だという[2]

事態じたいから逃避とうひしようとする行動こうどう傾向けいこう心拍しんぱくすう増加ぞうか顔面がんめんからく、ふる発汗はっかんなどといった身体しんたいてき反応はんのうともな[2]おそれがつよ場合ばあいは、行動こうどう麻痺まひきる[2]

河合かわい隼雄はやおは、恐怖きょうふについて「人間にんげん自分じぶん人生じんせいかん世界せかいかんシステムちながらきているが、それをどこかでうごかすもの」と定義ていぎしたうえで、(おも戦後せんご平成へいせい平和へいわ日本にっぽん心理しんり学者がくしゃとして活動かつどうした河合かわい隼雄はやおは)つぎのようにのべた。

恐怖きょうふはないほうがいいようにえ、ずっとそういう状態じょうたいつづくと安心あんしんではあるが、んでいるのとおなじである。きる体験たいけんなかにはかなら恐怖きょうふはいってくる。存在そんざいるがされるということは、うまくすれば、あたらしいことがひらかれるが、下手へたをすれば破局はきょくむかえる。つまり、恐怖きょうふはその両者りょうしゃのちょうど境目さかいめになる。さらに、たとえば恐怖きょうふ対象たいしょうに「」があるが、気分きぶんてきへの傾倒けいとうつよひとには、それは恐怖きょうふたりえず、それにどんどんっていくとなま境界きょうかい自体じたいがなくなり、恐怖きょうふえる。そうなれば、せいなんやくにもたなくなる」「現代げんだいじん本来ほんらいてき恐怖きょうふというものが非常ひじょうすくなくなっており、現代げんだいじん状態じょうたい非常ひじょうアンビバレントである」[3]


特定とくてい事態じたいやものにたいしてつよ恐怖きょうふかんじる状態じょうたいを(それを本人ほんにん不都合ふつごうかんじている場合ばあいなどに)疾患しっかんとして位置いちづける場合ばあい恐怖症きょうふしょうう。恐怖症きょうふしょう認知にんち行動こうどう療法りょうほうなどによって治療ちりょうできる場合ばあいがある。

恐怖きょうふ対象たいしょう恐怖きょうふされる状態じょうたい

14世紀せいきから18世紀せいきごろの西にしヨーロッパではペスト黒死病こくしびょう)にかかることが非常ひじょうおそれられた。

19世紀せいき英国えいこくにおいてもっとおそれられた事態じたいは、人々ひとびとわすられ、んだのにだれにもなげかれず、貧困ひんこん状態じょうたいに、最後さいごには解剖かいぼうだいせられることであった。20世紀せいきでは、おおくのひと小児しょうに麻痺まひ身体しんたい一部いちぶ不具ふぐにし、のこりの人生じんせいうごかなくなるという病気びょうきわずらうことをおそれた。

2001ねん9がつ11にち以降いこうアメリカ(やヨーロッパ)では、テロリズムたいする恐怖きょうふおおきくひろがった。

ひとは、トラウマのこるような事故じこるい経験けいけんすると、その事故じこ想起そうきさせるいくつかの対象たいしょう恐怖きょうふかんじるようになることもある。また他国たこく侵略しんりゃくされて地域ちいき長期ちょうきわたばくげき砲撃ほうげきけたり、前線ぜんせん塹壕ざんごうせん迫撃はくげきほう攻撃こうげき、どの瞬間しゅんかんでも可能かのうせいがあまりにたかいような状況じょうきょう長期ちょうき経験けいけんしたりすると、その戦場せんじょうからはなれても、音量おんりょうおおきなおとくだけで、つまりばくげきおん迫撃はくげきほうおんかぎらず、たとえば工事こうじ現場げんばおとやドアをバタンとめるおとなどでも、おおきな恐怖きょうふかんじるようになる。

恐怖きょうふしんかんじさせることを意図いとした行為こうい、それをもちいる手法しゅほう

おそれさせること[4]相手あいておそれの気持きもちをいだかせるためにおこなうことをおどし(おどし)という(日常にちじょう用語ようご)。おどしというのは、乱暴らんぼう行為こうい乱暴らんぼう発言はつげんだけでなく、相手あいて危険きけんかんじるような状況じょうきょうになる可能かのうせいがあるなどとおだやかにうような発言はつげん、つまりいいかたはおだやかでもいたひとぶん意味いみ内容ないよう理解りかいすると恐怖きょうふかんじるようなことを、計算けいさんづくで意図いとてきうこともふくむ。

法律ほうりつ用語ようごでは、とくにある行為こういひとにさせるためおどしつけること、相手あいておそれの気持きもちをいだかせるようにしてある行為こうい強制きょうせいすること[5]脅迫きょうはくという。(刑法けいほう危害きがいくわえるようなことをったり態度たいどしめしたりしてひとをおどかすこと[5]他人たにん恐怖きょうふさせる目的もくてきがいくわえるむね告知こくちすること[6]脅迫きょうはくという。(民法みんぽう相手方あいてがた違法いほう害悪がいあくくわえるむね通告つうこくして畏怖いふしんしょうじさせる行為こうい民法みんぽう場合ばあい漢字かんじ表記ひょうきは「強迫きょうはく」としている)[7]

18世紀せいきまつのフランスではロベスピエールらに「反対はんたいしゃ」となしたひとたちを一方いっぽうてき処刑しょけいし、人々ひとびと恐怖きょうふかんじさせることで人々ひとびと統制とうせいしようとした。こうした手法しゅほう恐怖きょうふ政治せいじというが、その同様どうよう手法しゅほう国民こくみん支配しはいする独裁どくさいしゃたない。

テロリズムというのは恐怖きょうふかんじさせることで政治せいじてき目的もくてきたそうとする手法しゅほうである。個人こじんしょう集団しゅうだんおこなうことがおおい。そうしたテロ組織そしき支援しえんする国家こっか、もしくは国家こっかそのものがテロに加担かたんしている場合ばあいはテロ支援しえん国家こっかばれ、アメリカによってイランや北朝鮮きたちょうせんといったくに指定していされている。

徴候ちょうこう症状しょうじょう

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恐怖きょうふ状態じょうたいにおいて、ひと以下いかのような様々さまざま反応はんのうしめ[8]

  • 瞳孔どうこう拡大かくだい恐怖きょうふたいする視覚しかく対応たいおう
  • はいほそ気管支きかんし拡張かくちょう酸素さんそ吸収きゅうしゅうたかめる)
  • 血圧けつあつ心拍しんぱく急上昇きゅうじょうしょうのう筋肉きんにくにエネルギーを供給きょうきゅうする)
  • 肝臓かんぞうグリコーゲン分解ぶんかい瞬発しゅんぱつりょくたかめる)
  • アドレナリンふくりゅうだい放出ほうしゅつ生理せいりてき防御ぼうぎょりょく向上こうじょう
  • 脾臓ひぞう収縮しゅうしゅく白血球はっけっきゅう供給きょうきゅうする準備じゅんび
  • 膀胱ぼうこう結腸けっちょうそらにする準備じゅんび(エネルギー消費しょうひ準備じゅんび
  • 消化しょうか器官きかん毛細血管もうさいけっかん収縮しゅうしゅくりゅう筋肉きんにくがわ集中しゅうちゅうさせる)
  • 立毛たちげ鳥肌とりはだつなど、もう逆立さかだ現象げんしょうてきたいしてからだおおきくせていた名残なごりとかんがえられる)
  • 消化しょうか活動かつどう低下ていか(消化しょうか使つかうエネルギーをべつ場所ばしょ使つかうため)[9]

恐怖きょうふたいする反応はんのう大脳だいのうえんけいひらたももたいと、のう機能きのうなかでは比較的ひかくてきふる部分ぶぶんである小脳しょうのうひらたもも活動かつどうにリンクしており、ひらたももたいよりはっせられた警告けいこく中枢ちゅうすう神経しんけい自律じりつ神経しんけいにさまざまな生理せいりてき応答おうとううなが[8]ひらたももたい異常いじょうをきたしたウルバッハ・ビーテびょう患者かんじゃ恐怖きょうふかんじることがないという[10]

人間にんげん恐怖きょうふによっておびえた状態じょうたいになり、他者たしゃのぞむことに一方いっぽうてきしたがってしまうことがある。その一方いっぽう人間にんげん同様どうよう暴力ぼうりょくてきにもなり、いのちけてたたかうこともある。

心理しんりがくてき説明せつめい研究けんきゅう

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ジョン・B・ワトソンパウル・エクマンなどの心理しんり学者がくしゃは、恐怖きょうふを、ほかの基礎きそてき感情かんじょうであるよろこいかとともに、これらをすべての人間にんげん内在ないざいする感情かんじょうだ、とべた。通常つうじょう恐怖きょうふ特定とくてい刺激しげきたいする反応はんのうである[よう出典しゅってん]

心理しんりがくにおいて、恐怖きょうふ対象たいしょうおぼえさせることが、「恐怖きょうふ条件付じょうけんづ (en:fear conditioning) 」として研究けんきゅうされている。その最初さいしょのものはワトソンが1920ねんったリトルアルバート実験じっけん (en:Little Albert experiment)で、この研究けんきゅうでは、生後せいご11かげつ幼児ようじ実験じっけんしつ白鼠しろねずみたい恐怖きょうふかんじるように条件付じょうけんづけることに成功せいこうした。

研究けんきゅうにより、特定とくてい対象たいしょうれい動物どうぶつたかさ)が対象たいしょうれいはなくも)にくらべより恐怖きょうふこしやすいことが発見はっけんされている。また、被験者ひけんしゃにこれらの対象たいしょうたい恐怖きょうふうえけることもより容易よういである。

管理かんり

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医薬品いやくひん

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ひらたももたい起因きいんする、恐怖きょうふ条件付じょうけんづおよび恐怖症きょうふしょう薬物やくぶつ治療ちりょうには、とうしつコルチコイドげられる[11]

心理しんり療法りょうほう

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認知にんち行動こうどう療法りょうほうは、人々ひとびとおそれを克服こくふくすることをたすけることに成功せいこうしてきた。 記憶きおくわすれる、削除さくじょすることは容易よういではないため、人々ひとびとかえかれらの恐怖きょうふ直面ちょくめんさせるアプローチは積極せっきょくてきであり、より成功せいこうりつたかい。安全あんぜん方法ほうほうにより、本人ほんにんおそれにかうことによって、ひとおそれをこす記憶きおく刺激しげきおさむことができる[12]

曝露ばくろ療法りょうほうは、特定とくてい恐怖症きょうふしょう人々ひとびとの90%において、時間じかん経過けいかとともにかれらの恐怖きょうふいちじるしく減少げんしょうさせることができたとられている[13][12]

もうひとつの心理しんり療法りょうほう体系たいけいてきだっかんさくであり、これは恐怖きょうふ完全かんぜんのぞく、あるいはその恐怖きょうふたいする嫌悪けんおかんのある反応はんのうこし、それをえることを目的もくてきとする行動こうどう療法りょうほうのひとつである。条件付じょうけんづとおして、反応はんのう弛緩しかんにこれでえられる。この治療ちりょうとおして筋肉きんにく緊張きんちょうよわまり、深呼吸しんこきゅうのテクニックは緊張きんちょうやわらげるのをたすけることができる。

その治療ちりょうほう

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宗教しゅうきょうなかやすらぎをつけることは、自分じぶんおそれに対処たいしょするためのべつ方法ほうほうである。たとえば死後しごこることや死後しご世界せかいなど、あなたのおそれにかんする質問しつもんこたえるためのなにかをっていると、それはあなたのへのおそれのたすけとなる。こたえをっていることは、確実かくじつせい余地よちらすのである。宗教しゅうきょう自分じぶんおそれを無視むしするのではなく、理解りかいかんじる方法ほうほう提供ていきょうするのである[14]

動物どうぶつ

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ジョゼフ・ルドゥー研究けんきゅうによると、ひらたももたい恐怖きょうふ脅威きょうい危険きけんといった記憶きおく意識いしき格納かくのうする部位ぶいでもあり、たたかうかげるか反応はんのうなどの条件じょうけんせい恐怖きょうふつかさどる。ほとんどの脊椎動物せきついどうぶつには小脳しょうのうがあることから、それらの動物どうぶつ小脳しょうのうひらたももすべ同様どうようはたらきをしているとかんがえられる[8]

きつねくそなどにふくまれるトリメチルチアゾリン英語えいごばん(2,5-ジヒドロ-2,4,5-トリメチルチアゾリン(TMT))はげっるいがせるとPTSDを誘発ゆうはつし、オオカミの尿にょうふくまれている3つのピラジン類似るいじたい混合こんごうぶつは、恐怖きょうふにかられた行動こうどうこさせる[15]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ goo辞書じしょ恐怖きょうふ
  2. ^ a b c d ブリタニカ国際こくさい百科ひゃっか事典じてん、【おそれ、fear】
  3. ^ 河合かわい隼雄はやお対話たいわするなま』(大和やまと書房しょぼう 2006ねん2がつ15にち発行はっこう
  4. ^ 広辞苑こうじえんだいろくはん【おどし。おどし、おどし】
  5. ^ a b 精選せいせんばん 日本にっぽん国語こくごだい辞典じてん』【脅迫きょうはく
  6. ^ 広辞苑こうじえんだいろくはん脅迫きょうはく
  7. ^ 広辞苑こうじえんだいろくはん強迫きょうはく
  8. ^ a b c ドナ・ハート、ロバート・W・サスマン『ヒトはべられて進化しんかした』伊藤いとう伸子のぶこやく 化学かがく同人どうじん 2007 ISBN 9784759810820 pp.104-108.
  9. ^ 自律じりつ神経しんけいととのえるにはちょうはたらきが大切たいせつ|【ココカラクラブ】ドラッグストアのココカラファイン”. 【ココカラクラブ】ドラッグストアのココカラファイン. 2022ねん8がつ7にち閲覧えつらん
  10. ^ 恐怖きょうふをまったくかんじない女性じょせい、PTSD治療ちりょうにヒントか - AFP BB News 2010ねん12がつ20日はつか
  11. ^ Sandi, C. (2011). “Healing anxiety disorders with glucocorticoids”. Proceedings of the National Academy of Sciences 108 (16): 6343–344. Bibcode2011PNAS..108.6343S. doi:10.1073/pnas.1103410108. PMC 3080972. PMID 21482789. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3080972/. 
  12. ^ a b Kaplan, J.S.; Tolin, D.F. (2011). “Exposure therapy for anxiety disorders: Theoretical mechanisms of exposure and treatment strategies”. Psychiatric Times 28 (9): 33–37. http://search.proquest.com/docview/894207776. 
  13. ^ Travis, John (2004). “Fear not: Scientists are learning how people can unlearn fear”. Science News 165 (3): 42–44. doi:10.2307/4014925. JSTOR 4014925. 
  14. ^ “Cure Your Fear – Phobia Treatment” (英語えいご). FearOf.net. https://www.fearof.net/cure-your-fear-phobia-treatment/ 2018ねん11月28にち閲覧えつらん 
  15. ^ においとのうのストレス応答おうとう”. 学校がっこう法人ほうじん東邦大学とうほうだいがく. 2024ねん6がつ15にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく

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