羞恥心しゅうちしん

羞恥心しゅうちしん（しゅうちしん、英えい: shame）、恥はじ（はじ）、恥はじらい（はじらい）とは、対人たいじん場面ばめんにおける何なんらかの失態しったいの結果けっかや、失態しったい場面ばめんの想像そうぞうによって生しょうじる対人たいじん不安ふあんの一種いっしゅである。

「恥はじ (shame)」という言葉ことばは、かつて「覆おおい隠かくす（ "to cover"）」という意味いみの古ふるい言葉ことばから派生はせいしたと考かんがえられている。直接的ちょくせつてきにも比喩ひゆ的てきにも「自身じしんを覆おおい隠かくす」ものが恥はじの自然しぜんな表現ひょうげんである 。

概要がいよう

恥はじらい、あるいは羞恥心しゅうちしんというのは、恥はずかしいと感かんじる気持きもちのことである。つまり恥はじを感かんじている気持きもちのことである。

日本にっぽんの心理しんり学者がくしゃである菅原すがわら健介けんすけは、羞恥心しゅうちしんが生しょうじる重要じゅうような要因よういんとして、他者たしゃから期待きたいされる役割やくわりやイメージからの逸脱いつだつを挙あげている。人間にんげんには所属しょぞく欲求よっきゅうがあり、所属しょぞくした社会しゃかいから排斥はいせきされないために、公的こうてきな自己じこ像ぞうからの逸脱いつだつをコントロールしようとする。羞恥心しゅうちしんは、他者たしゃからの期待きたいや信頼しんらいに背そむくなど、社会しゃかいからの排斥はいせきを想像そうぞうさせる苦境くきょう場面ばめんに自己じこが置おかれていると認識にんしきすることによって喚起かんきされる、生得しょうとく的てきな警告けいこく反応はんのうである。この期待きたいと現実げんじつのギャップによって起おきる反応はんのうは、他者たしゃからの期待きたいが現実げんじつを大おおきく超こえた賞賛しょうさんなどでも生しょうじる。

罪悪ざいあく感かんないし羞恥心しゅうちしんを測定そくていする「TOSCA-A」の項目こうもく "shame" によると、羞恥心しゅうちしんは以下いかのとおり4つの下位かい尺度しゃくどに分類ぶんるいされる。

1. 自己じこの存在そんざいが取とるに足たらない物ものと感かんじ、自己じこを否定ひていしたいと思おもう「全体ぜんたい的てき自己じこ非難ひなん」
2. 恥はじを感かんじる状況じょうきょうから逃にげたい、もしくは恥はじを感かんじた記憶きおくを消けしたいと思おもう「回避かいひ・隠蔽いんぺい反応はんのう」
3. 自分じぶんが周囲しゅういから孤立こりつしたと感かんじる「孤立こりつ感かん」
4. 人ひとに見みられている、人ひとに笑わらわれていると思おもう「被ひ笑わらい感かん」

自己じこ意識いしき的てきで否定ひてい的てき色彩しきさいがあることなど共通きょうつうする要素ようそが多おおく、社会しゃかい的てき行動こうどうに影響えいきょうを与あたえる感情かんじょうとして、羞恥心しゅうちしんはしばしば罪悪ざいあく感かんと比較ひかくされる。罪悪ざいあく感かんが自己じこの起おこした特定とくていの行動こうどうの相対そうたい的てき評価ひょうかを問題もんだい視しするのに対たいし、羞恥心しゅうちしんは自己じこ全体ぜんたいへの否定ひてい的てき評価ひょうかを問題もんだい視しする。

「TOSCA」を作成さくせいしたJ.P.タングニーの研究けんきゅうでは、羞恥心しゅうちしんを感かんじやすい人ひとは、罪悪ざいあく感かんを持もちやすい人ひとより攻撃こうげき的てきで、責任せきにんを転嫁てんかしやすい傾向けいこうがあるという。

羞恥心しゅうちしんは、外部がいぶへの帰属きぞく、他者たしゃへの強つよい焦点しょうてん、復讐ふくしゅうといった感情かんじょうや行動こうどうを発生はっせいさせる屈辱くつじょく感かんを伴ともない易やすいからである。

幼おさない子供こどもであれば、トイレに行いくのが間まに合あわず失禁しっきんしてしまったり、また思春期ししゅんき前後ぜんごの世代せだいでは空腹くうふく時じの腹はら鳴なが周囲しゅういの人ひとに聞きこえてしまったり、スポーツの技量ぎりょうなどで友達ともだちに力ちからが及およばなかったり、集団しゅうだんの中なかでの自己じこにいきなり焦点しょうてんが当あてられたりという場面ばめんにおいて、この感情かんじょうが出でてくる。この感情かんじょうは、集団しゅうだんの中なかの自己じこを意識いしきするようになって初はじめて生うまれてくるものである。成人せいじんになると、性的せいてきな場面ばめんや社会しゃかい的てきな業績ぎょうせき・成果せいかといったものにとりわけ関係かんけいするようになる。

ナルシシズム

成人せいじんのナルシシズムは、恥はじへの防衛ぼうえい機き制せいと関連かんれんしているとの論ろんがあり、また自己じこ愛あい性せいパーソナリティ障害しょうがいについても同様どうようであるとされる。

精神せいしん科か医いのGlen Gabbardによると、自己じこ愛あい性せいパーソナリティ障害しょうがいは、壮大そうだい、傲慢ごうまん、面めんの皮かわの厚あつい「忘却ぼうきゃく型がた」タイプと、過敏かびんで恥はずかしがりやの「過敏かびん性せい」タイプという、2つの亜あ型がたに分類ぶんるいできるという。「忘却ぼうきゃく型がた」タイプは、賞賛しょうさん、羨望せんぼう、感謝かんしゃのために、隠かくされた弱よわい内面ないめん化かされた恥はずべき自己じことは正せい反対はんたいの壮大そうだいな自己じこを周囲しゅういに提示ていじする。一方いっぽうで「過敏かびん型がた」タイプは、他人たにんを不当ふとうな虐待ぎゃくたい者しゃと見みなすことで切きり下さげを中和ちゅうわする。

スティグマ

詳細しょうさいは「社会しゃかい的てきスティグマ」を参照さんしょう

参考さんこう文献ぶんけん

• 薊あざみ理津子りつこ「恥はじと罪悪ざいあく感かんの研究けんきゅうの動向どうこう」『感情かんじょう心理しんり学がく研究けんきゅう』第だい16巻かん第だい1号ごう、日本にっぽん感情かんじょう心理しんり学会がっかい、2008年ねん、49-64頁ぺーじ、NAID 130000065546。 
• 菊池きくち章夫あきお「<研究けんきゅうノート>TOSCA-3(短縮たんしゅく版ばん)日本語にほんご版ばんの検討けんとう」『岩手いわて県立けんりつ大学だいがく社会福祉学部しゃかいふくしがくぶ紀要きよう』第だい5巻かん第だい2号ごう、岩手いわて県立けんりつ大学だいがく社会福祉学部しゃかいふくしがくぶ、2003年ねん3月がつ30日にち、35-40頁ぺーじ、NAID 110000036327。 
• 自己じこ意識いしき的てき感情かんじょう尺度しゃくど青年せいねん版ばん（TOSCA-A）日本語にほんご版ばんの作成さくせい　岡田おかだ顕あらわ宏ひろし
• 菅原すがわら健介けんすけ、二宮にのみや克美かつみ、子安こやす増ぞう生せい（編へん）、2011、「恥はじ」、『社会しゃかい心理しんり学がく』、新しん曜社〈キーワードコレクション〉 ISBN 9784788512368

関連かんれん項目こうもく

• 感情かんじょうの一覧いちらん
• 認知にんち的てき不ふ協和きょうわ
• 罪悪ざいあく感かん
• 社会しゃかい性せい - 社会しゃかい技能ぎのう（ソーシャルスキル）
• 劣等れっとう感かん - コンプレックス産業さんぎょう
• 菊きくと刀かたな - （罪つみの文化ぶんか・恥はじの文化ぶんか論ろん）
• 羞恥しゅうちプレイ