ブラックレター

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ラテン語らてんご聖書せいしょ(1407ねん)にかれたブラックレター

ブラックレター (blackletter) はアルファベット書体しょたいひとつ。

概要がいよう[編集へんしゅう]

西にしヨーロッパ12世紀せいきから15世紀せいきにかけて使つかわれていたが、ドイツにおいてはフラクトゥール(ドイツ文字もじばれるものが20世紀せいきまでもちいられていた。このため、ブラックレター全体ぜんたいしてフラクトゥールぶこともある。

また、日本語にほんごにおいてゴシックたいばれる書体しょたいはアルファベットの書体しょたいとしてはサンセリフであり、英語えいごにおいてゴシックたい(Gothic Script)とうと通常つうじょうはブラックレターをすので注意ちゅういようする。

ブラックレターは Old English(オールドイングリッシュ)ばれることもあるが、言語げんごの「英語えいご」と混同こんどうしてはならない。

英語えいご(またはアングロサクソンはブラックレターよりもなに世紀せいきまえにさかのぼるもので、インシュラーたいルーン文字もじしるされていた。

起源きげん[編集へんしゅう]

直接的ちょくせつてき祖先そせんカロリングあさカール大帝たいていヨーク修道しゅうどうそうアルクィンつくらせたカロリング小文字こもじたい(カロリング・ミナスキュール:Carolingian minuscule)である。

12世紀せいきのヨーロッパではあらたに大学だいがく設立せつりつされ、以前いぜんのような宗教しゅうきょうかんする印刷物いんさつぶつ以外いがいにも商業しょうぎょう法律ほうりつ文学ぶんがく歴史れきしなどのおおくの学問がくもんかんする書物しょもつおおかれるようになった。

しかし、カロリング小文字こもじたいみやすいものの、かれるのに時間じかんがかかり紙面しめんひろめてしまうため(当時とうじかみはまだ高価こうかであった)、11世紀せいきころには現在げんざいのブラックレターのようなページにおおくの文字もじくことができ、かつはや新刊しんかんしょせるように改良かいりょうされた書体しょたい使つかわれはじめた。

さらに12世紀せいき中頃なかごろには、現在げんざいのようなブラックレターがフランス北東ほくとうベネルクスさんこくなどで使つかわれるようになった。

「ブラックレター(くろ文字もじ)」の名前なまえ由来ゆらいは、この文字もじかれたほんはページちゅう文字もじによる「くろい」部分ぶぶん割合わりあいおおくなるため。

ゴシックという呼称こしょう[編集へんしゅう]

ゴシックという言葉ことばがブラックレターをさいもちいられはじめたのは、15世紀せいき、ルネサンス中期ちゅうきのイタリアであった。

ルネサンスのヒューマニストたちマ帝国まていこく使つかわれていた書体しょたい敬愛けいあいしており、ブラックレターを洗練せんれんされていないものとしてきらったため、蔑称べっしょうとして「ゴシック」という呼称こしょう使つかはじめたのである。

ここで、「ゴシック」というかたりは、マ帝国まていこく侵入しんにゅうしその滅亡めつぼう一因いちいんとなったゴートぞく由来ゆらいしており、この場合ばあいは「洗練せんれんされていない」「野蛮やばん」といった意味いみもちいられている。

ルネサンス歴史れきし フラビオ・ビオンド英語えいごばんは、 Italia Illustrata(1474)で、ゲルマン部族ぶぞくランゴバルドじんが6世紀せいきにイタリアに侵入しんにゅうしたのちにこの文字もじ発明はつめいしたとしるしている。

なお、ブラックレターだけが「ゴシック」とばれたわけではなく、それ以外いがい西にしゴートベネヴェント, メロヴィングあさ文字もじメロヴィングたい英語えいごばんなども粗野そや書体しょたいとして「ゴシック」というレッテルられていた。

これは、前述ぜんじゅつ非常ひじょうみやすい書体しょたいであるカロリング小文字こもじたいとは対照たいしょうてきであった。ヒューマニストはカロリング小文字こもじたい古代こだいローマもちいられていたとしんじて敬愛けいあいリテラ・アンティクア英語えいごばん (「古代こだい文字もじ」)とんだが、実際じっさいはカール大帝たいてい時代じだいつくられたものであり、のブラックレターの発展はってん基礎きそとなったのである [1]

書体しょたい分類ぶんるい[編集へんしゅう]

テクストゥール[編集へんしゅう]

さまざまなブラックレターの書体しょたい

テクストゥールはもっと代表だいひょうてきなブラックレターの一種いっしゅで、ヨハネス・グーテンベルク発明はつめいしたことでられる。これは、1455ねん発行はっこうグーテンベルク聖書せいしょよんじゅうぎょう聖書せいしょ)のためにつくられたもので、おおくのごう省略形しょうりゃくけいふくみ、装飾そうしょくてき書体しょたい特徴とくちょうである。

カーシヴ[編集へんしゅう]

カーシヴはブラックレターに分類ぶんるいされる書体しょたいのうちでおおきなグループのひとつで、印刷いんさつよう書体しょたいとしてのブラックレターであるテクストゥールなどを筆記ひっきよう簡略かんりゃくしたものである。筆記ひっき対象たいしょう羊皮紙ようひしからかみへとうつわっていった14世紀せいきころからひろ使つかわれるようになった。

ハイブリッド[編集へんしゅう]

ハイブリッドは上記じょうきのテクストゥール、カーシヴのなかあいだてき書体しょたいで、15世紀せいきごろにそれぞれの特徴とくちょう合成ごうせいしてつくられた。

各国かっこくにおける書体しょたい[編集へんしゅう]

フランス[編集へんしゅう]

フランスのブラックレターは、ブラックレターにおける初期しょき、11・12世紀せいきつくられたものである。13世紀せいき完成かんせいされたフランスのテクストゥールは他国たこくのものよりもたて細長ほそなが形状けいじょうであり、ミニチュアの聖書せいしょ記述きじゅつするため極小きょくしょうサイズの「パールスクリプト」とばれるものも存在そんざいした。現在げんざい使つかわれているフランスのブラックレター「リテラ・パリジェンシス」はパリ大学だいがく開発かいはつされたもので、装飾そうしょくてきちいさく、はやくことができるのが特徴とくちょうである。

フランスのカーシヴは13〜16世紀せいき使つかわれ、非常ひじょうにループじょうかたむいた書体しょたいである。15世紀せいき発達はったつしたハイブリッドの「バスタルダ」はラテン語らてんご同様どうよう日常にちじょうてき文章ぶんしょう使つかわれ、とくブルゴーニュにおいてはかくばった書体しょたいベリーこうのいとも豪華ごうかなるときいのりしょなどのときいのりしょなどにもちいられた。

イギリス[編集へんしゅう]

1847ねんめいヴィクトリア・クラウン銀貨ぎんか。ゴチック・クラウンとばれる。

イギリスのブラックレターは、ノルマン征服せいふくのちにカロリング小文字こもじたいより発達はったつした「ロマネスク小文字こもじ」が使つかわれるようになったのがはじまりである。イギリスのブラックレター(テクストゥール)には非常ひじょうおおくの種類しゅるいがあり、「Textualis formata」「textualis prescissa」「textualis quadrata」「semi-quadrata」「textualis rotunda」などに区分くぶんされている。13世紀せいき14世紀せいき前半ぜんはんオックスフォおっくすふぉド大学どだいがくは、フランスのリテラ・パリジェンシスをもとにして「リテラ・オクソニエンシス」をつくったがこれはほとんどそのままで、フランス語ふらんすご語尾ごびもちいられる数字すうじの8にた「s」など少数しょうすう差異さいがある程度ていどである。

13世紀せいきになるとカーシヴが使つかわれはじめ、大学だいがくにおける一般いっぱんてき書体しょたいとして「リテラ・オクソニエンシス」にとってかわった。初期しょきのカーシヴとしては「アングリカーナ」とばれるまるくループのある書体しょたいげられる。これにはかくばった「アングリカーナ・フォーマッタ」も存在そんざいし、これは15世紀せいきまで日常にちじょうてき書体しょたいとして使つかわれていた。16世紀せいきまではアングリカーナとテクストゥールからつくられた「アングリカーナ・バスタルダ」ももちいられた。

1847ねんにイギリスで発行はっこうされたヴィクトリア女王じょおう戴冠たいかん10周年しゅうねん記念きねんクラウン銀貨ぎんかにはこの書体しょたいめいもちいられたため、ゴチック・クラウンとしてられている。

イタリア[編集へんしゅう]

ドイツ[編集へんしゅう]

日本にっぽん [編集へんしゅう]

ブラックレターをもとつくられた日本語にほんごデザインフォントとしてヤマナカデザインワークスによる「金魚きんぎょランタン」[2]存在そんざいする。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Berthold Louis Ullman, The Origin and Development of Humanistic Script. (Rome), 1960, p. 12.
  2. ^ 金魚きんぎょランタン/ヤマナカデザインワークス 2022/10/29閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

  • 書体しょたい
  • フラクトゥール - ドイツ文字もじ亀甲きっこう文字もじ、ひげ文字もじなどとばれるブラックレターの一種いっしゅ
  • ゴシック
  • black letter law - おもアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおいて、確立かくりつしたほう規範きはん法的ほうてきうたがいのすくない判例はんれいほうをさして、「ブラック・レター・ロー」ということがある。