セレンディピティ ダイアリー

60代だい後半こうはんで奇跡きせきのデビューをはたし、今いまも世界せかい各地かくちで演奏えんそう活動かつどうを続つづけているピアニスト、フジコ・ヘミングさん。本ほん作さくは２年ねんにわたって取材しゅざいされた、フジコさんの初はじめてのドキュメンタリー映画えいがです。

フジコ・ヘミングの時間じかん

フジコさんが1999年ねんにNHKのドキュメンタリー番組ばんぐみで紹介しょうかいされ、一夜いちやにして有名ゆうめいになった時とき、私わたしはアメリカにいてしばらくその熱気ねっきを知しりませんでした。ところがその後ご、フジコさんがニューヨークのカーネギーホールでリサイタルを開ひらくことになり、聴ききに行いく機会きかいを得えたのです。

フジコさんのコンサートは、それまでに聴きいたどのピアニストとも違ちがっていました。まずクラシックのコンサートにはめずらしく、プログラムがありません。一いち曲きょくずつ、客席きゃくせきの方ほうを向むいて曲名きょくめいを告つげ、弾ひき始はじめるところは音楽おんがくライブといった感かんじ。そして客きゃくの反応はんのうを見みて、次つぎの曲きょくを決きめていらっしゃるような印象いんしょうを受うけました。

独特どくとくの重かさね着ぎファッション。佇たたずまいにただならぬ迫力はくりょくがあり、圧倒あっとうされました。演奏えんそうも個性こせい的てきで、曲きょくに自分じぶんを近ちかづけるのではなく、曲きょくを自分じぶんの世界せかいにぐいっと引ひき寄よせるようなパワーを感かんじました。

さて...　映画えいがは、フジコさんのご自宅じたくがあるパリにはじまり、現在げんざいの音楽おんがく活動かつどうや日常にちじょう、それから最近さいきん東京とうきょうの家いえから見みつかったという絵日記えにっきを紹介しょうかいしながら、過去かこを振ふり返かえります。この絵日記えにっきが、少女しょうじょ時代じだいのフジコさんの日常にちじょうが生いき生いきと描えがかれていて、実じつに楽たのしいのです。(6月がつに暮くらしの手帳てちょう社しゃから出版しゅっぱんされたそうです) 

スウェーデン人じんデザイナーの父ちちとの別わかれ。幼少ようしょう期きからピアノの才能さいのうで注目ちゅうもくされるも、のちに国籍こくせきがないことが発覚はっかくしたこと。その後ご、難民なんみん認定にんていを受うけてドイツへの留学りゅうがくをはたすも、大切たいせつなコンサートの前まえに風邪かぜで聴覚ちょうかくを失うしない、第だい一線いっせんを退しりぞかざるを得えなくなったこと。

その後ごは左ひだり耳みみの聴力ちょうりょくが40％回復かいふくし、現在げんざいは年とし60回かいものコンサートで世界せかいを飛とび回まわっていらっしゃいます。南米なんべいでのコンサートでは、用意よういされたのが家庭かてい用ようの小ちいさいグランドピアノだったことも。そうしたトラブルも、フジコさんの波乱万丈はらんばんじょうの人生じんせいにしてみれば誤差ごさの範囲はんいかもしれません。

お気きに入いりのアンティークに囲かこまれた、パリのご自宅じたく。レースやリボンなどのかわいいものが好すきで、シトロエンの2CVが好すき。思おもいがけず私わたしと好このみが似にていて、いっしょに女子じょしトークがしたくなりました。^^　実際じっさいにお目めにかかったら、緊張きんちょうで固かたまって、きっと一言ひとことも話はなせないだろうと思おもいますが。

それからフジコさんは家いえが好すきで、パリだけでなく、ロサンゼルス、東京とうきょう、京都きょうと、ベルリンにも家いえがあると知しって驚おどろきました。南欧なんおうスタイルのLAの家いえ、町家まちやを生いかした京都きょうとの家いえと、訪おとずれる先々さきざきに、その場所ばしょの文化ぶんかを取とり入いれた居心地いごこちのよい空間くうかんがあり、ピアノがあり、(留守るすを預あずかるシッターさんがいて)ワンちゃん、ネコちゃんが出迎でむかえます。

パリの街まちを愛犬あいけんと散策さんさくしながら、困こまっている人ひとには必かならず小しょう銭ぜにを恵めぐみ、そして動物どうぶつ愛護あいごや震災しんさい支援しえんなど、数々かずかずのチャリティコンサートを開ひらいているフジコさん。長ながく苦難くなんの中なかにいたフジコさんだから、遅おそくやってきた成功せいこうと恵めぐみを、今いま、困難こんなんの中なかにいる人ひとたちや弱よわき動物どうぶつたちと分わかち合あおうとしていらっしゃるのでしょう。

フジコさんの代名詞だいめいしにもなったリストの”ラ・カンパネラ”をはじめ、ショパン、ドビュッシーなど、フジコさんの演奏えんそうを聴ききながら、豊ゆたかな時間じかんを堪能たんのうしました。