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文字 - Wikipedia

文字もじ

言語げんご視覚しかくてきあらわすための記号きごう体系たいけい
メロエ ぜん3世紀せいき
カナダ先住民せんじゅうみん 1840ねん
ちゅうおと 1913ねん

文字もじ(もじ、もんじ、えい: writing system)とは、言語げんごてんせん組合くみあわせで単位たんいごとに記号きごうするもの[1]文字もじいて基本きほんてきには「もじ」とよむが、「もんじ」ともよむ[1]

概説がいせつ

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文字もじというのは、言語げんごを、てんせん組合くみあわせで、単位たんい(ひとまとまり)ごとに記号きごうするものである。言葉ことば言語げんご伝達でんたつ記録きろくするためにせんてん使つかって形作かたちづくられた記号きごうのこと。言葉ことば言語げんごを、視覚しかくてき記録きろくしたり伝達でんたつしたりするために、えるせん直線ちょくせん曲線きょくせん)やてん使つかって形作かたちづくられた記号きごうのことである。

世界せかいにはさまざまな文字もじがあり、またさまざまな分類ぶんるいほうがある。基本きほんてき分類ぶんるいとして、「おと」だけをしめしている「表音ひょうおん文字もじ」と、基本きほんてきに「意味いみ」をしめしている「表意ひょうい文字もじ」がある。世界せかい全体ぜんたいると、おも表音ひょうおん文字もじばかりが使つかわれている地域ちいきと、おも表意ひょうい文字もじばかりが使つかわれている地域ちいきと、基本きほんてき両者りょうしゃ混合こんごうして使つかっている地域ちいきがある。

たとえばヨーロッパの英語えいごドイツフランス語ふらんすごアルファベット表音ひょうおん文字もじであり(さらにくわしくいうと音素おんそ文字もじであり)、一文字いちもんじ一文字ひともじ音素おんそおと要素ようそおと一部分いちぶぶん特定とくていの、したうごき・くちびるうごき・くちかたちなどでしょうじるおと)をあらわしており、アルファベットが2〜3文字もじ(やや例外れいがいてき場合ばあいふくむなら 1〜6文字もじほどが)まとまることで音節おんせつ発音はつおんしょう単位たんい)をしめしている。表音ひょうおん文字もじ一文字ひともじいち文字もじは、あくまでおとあらわすためのものであり、原則げんそく(※)として、意味いみまった。たとえば英語えいごの「proceed」という言葉ことばふくまれる「p」の一文字ひともじだけではまった意味いみたない。p,r,oとならべることで「pro」という音節おんせつになり、「pro」というあわせになってようやく「前方ぜんぽうへ」という意味いみつ。c,e,e,dの4文字もじわせで「ceed シード」という音節おんせつしめし「すすむ」という意味いみしめし、「proceed」7文字もじ全体ぜんたいで、「まえすすめる。続行ぞっこうする」という意味いみになる。それにたいして中国ちゅうごく使つかわれるようになった漢字かんじ表意ひょうい文字もじであり、表意ひょうい文字もじはひとつひとつの文字もじだけでもなんらかの意味いみあらわしていることがおお。たとえば「明暗めいあん」というかたりは、2つの漢字かんじあきら」と「くら」からなるが、「あきらいちだけでも意味いみがある。また「くらいちだけでも意味いみがある。そして文字もじわせて「明暗めいあん」という一語いちごになっている。中国ちゅうごくではおも漢字かんじばかりが使つかわれる。一方いっぽう日本語にほんご使つかわれる文字もじは、漢字かんじからかたち独自どくじ変形へんけいさせたひらがなカタカナがあり、漢字かんじのほうは中国ちゅうごく同様どうよう原則げんそくてき表意ひょうい文字もじであるが、ひらがなやカタカナのほうは「表音ひょうおん文字もじ」(くわしくいうと音節おんせつ文字もじ)であり、つまり現代げんだい日本語にほんごのありふれた文書ぶんしょ使つかわれる文字もじは、表音ひょうおん文字もじ表意ひょうい文字もじ両方りょうほう並行へいこうして使つかっている。たとえば現代げんだい日本語にほんごの「太陽たいよう、まぶしいね。」という一文いちぶんふくまれる「太陽たいよう」は表意ひょうい文字もじを2文字もじならべており(「ふとし」および「」。文字もじいち(ひと単語たんご)になっている)、「まぶしいね」は表音ひょうおん文字もじ音節おんせつ文字もじ)を5文字もじならべている(「ま」「ぶ」「し」「い」「ね」)。「ひらがな」は、通常つうじょう文章ぶんしょうではほとんどの場合ばあい大和言葉やまとことばおと表記ひょうきするのにもちいられている。(のこりの「、」や「。」は、意味いみ区切くぎりや、間合まあい(ひと呼吸こきゅうあいだみじか無音むおん状態じょうたい)をしめすための記号きごうである。)

(※)なお、漢字かんじもまれに表音ひょうおん文字もじ純粋じゅんすい表音ひょうおん文字もじ、あるいはおもおとだけをしめ文字もじ)として使つかわれることもある。たとえば英語えいご中国ちゅうごく国内こくないはいってきて、それを外来がいらいとして使つか場合ばあいは、なんらかの文字もじでその発音はつおん表記ひょうきしなければならない、そして中国ちゅうごくでは漢字かんじしかないので、漢字かんじ表音ひょうおん文字もじのように使つかうことがある。またアルファベットも例外れいがいてき一文字ひともじ意味いみつことがある。たとえばアルファベットの「a」一文字ひともじだけで、英語えいご文章ぶんしょうちゅうでは「ひとつの」「いちの」という意味いみったり、あるいは「れっきとした〜」「まぎれもない〜」という意味いみになったり、また「A」はアルファベットを列挙れっきょするときにはいつも最初さいしょいち番目ばんめ)にげられるので、象徴しょうちょうてき意味いみち、「一番いちばん(の存在そんざい)」「トップ」「最上さいじょうのもの」などという意味いみつこともある。

なお英語えいごけんでは、アルファベットのような単音たんおん文字もじをレター(えい: letter)、それ以外いがいをキャラクター(えい: character)と区別くべつすることがある。いっぽういまからせんねんほどまえ中国ちゅうごくもとまきによってかれた『せつぶんかい』というしょでは、象形しょうけい指事しじによってつくられる具象ぐしょうてき記号きごうを「ぶん」、形声けいせい会意かいいなどによって構成こうせいされる記号きごうを「」などと解説かいせつし、「両者りょうしゃをあわせたものが文字もじである」[2]などと解説かいせつされていた時代じだいがあった。だがこれはせんねんまえ主張しゅちょうにすぎず、たとえいまでもそれをしんけてしまっているひと一部いちぶにいるとしても、現代げんだい学者がくしゃはこうはかんがえていない。(#「文字もじ」という単語たんご語源ごげん解説かいせつ参照さんしょう)。

かたからなくなった文字もじ解読かいどく

文字もじというのは、一旦いったんその発音はつおんのしかた、かたひとがこのにいなくなってしまうと、解読かいどく困難こんなんになってしまう。

古代こだいエジプトの碑文ひぶん近代きんだいヨーロッパじんにしたものの、なに世紀せいきにもわたって発音はつおん意味いみからず、なに世紀せいきにもわた解読かいどく全然ぜんぜんできなかったが、たまたま、同一どういつ意味いみ文章ぶんしょうをヒエログリフをふくむ3言語げんごべてんだロゼッタストーン発見はっけんされたことをきっかけにして、まるせんでぐるりとかこんだ部分ぶぶんは「おう」がかれているなどということがわかるようになるなどして、すこしづつ解読かいどくされ、やがてフランスのシャンポリオン完全かんぜん解読かいどくすることに成功せいこうした。

古代こだいエジプトのヒエログリフは、じつは、基本きほんてきにはヨーロッパのアルファベットと同様どうように「表音ひょうおん文字もじ」である。一見いっけんすると、ならんでいて表意ひょうい文字もじのようにえるが、じつは、基本きほんてきには表音ひょうおん文字もじである。ただしヒエログリフは、文脈ぶんみゃくによっては、まれにもとの意味いみあらわ表意ひょうい文字もじとして使つかわれることもある。

マヤ文字もじかたからなくなってしまった時代じだいがとてもながく、1970年代ねんだいまで世界せかい学者がくしゃだれにもほとんどめず、1980年代ねんだいころからようやく解読かいどくすすんで、かなりかってきた。

なお、インダス文字もじなど、世界せかいにはまだかたかっていない文字もじがいくつものこっている。最近さいきん(2020年代ねんだい)では、人工じんこう知能ちのう解読かいどく文字もじ解読かいどく役立やくだてようとするうごきがはじめている。

文字もじ体系たいけい表記ひょうき体系たいけい

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文字もじ体系たいけいえい: script、書記しょきけい用字ようじけいスクリプトとも)とは、同種どうしゅ表記ひょうき使つかわれるひとまとまりの文字もじ体系たいけいのことをう。特定とくてい文字もじ体系たいけいすときは、たんに「〜文字もじ」としょうすることもおおい。また、おな系統けいとうおな類型るいけいぞくするとかんがえられる文字もじ体系たいけいのグループを「〜文字もじ体系たいけい」ないしは「〜文字もじ」とぶこともある。

一般いっぱんに、言語げんご文字もじ体系たいけい一対一いちたいいち対応たいおうしない。アラビア文字もじ漢字かんじキリル文字もじデーヴァナーガリーラテン文字もじのように、複数ふくすう言語げんご表記ひょうき使つかわれる文字もじ体系たいけいおおい。ぎゃくひとつの言語げんご複数ふくすう文字もじ体系たいけい使つかわれている場合ばあいもあり、日本語にほんごではひらがなカタカナ漢字かんじの 3 つの文字もじ体系たいけい言語げんご表記ひょうき不可欠ふかけつなものとなっている。セルビアボスニアひとしにはラテン文字もじキリル文字もじの 2 とおりの表記ひょうき方法ほうほう存在そんざいし、このようにどういち言語げんご複数ふくすう文字もじ体系たいけい存在そんざいすることをダイグラフィアぶ。

表記ひょうき体系たいけいえい: writing system文字もじ体系たいけい書記しょきけいしょけいしょシステムとも)とは、ある文字もじ体系たいけいくわえて、正書法せいしょほう句読くとうほうや、字体じたい文字もじ語句ごく選択せんたく基準きじゅんなどの種々しゅじゅ言語げんごてき慣習かんしゅうをもふく文字もじ使用しよう体系たいけいのことをす。おな文字もじ体系たいけいもちいていても、ことなる言語げんごでは表記ひょうき体系たいけいちがいがられることもある。現実げんじつには、文字もじ体系たいけい表記ひょうき体系たいけいとの区別くべつ曖昧あいまいであり、両者りょうしゃはしばしば混用こんようされる。

コンピュータによる文字もじ情報処理じょうほうしょり分野ぶんやでは、複数ふくすう言語げんご同時どうじあつかさいに、文字もじ体系たいけい表記ひょうき体系たいけいはんをとった概念がいねんもちいられる。用字ようじけいえい: scriptスクリプト、またはたん用字ようじとも)は、特定とくてい言語げんご一般いっぱん複数ふくすう)のためにもちいるためのひとまとまりの文字もじ記号きごうす。書記しょきけいえい: writing system)は、ある用字ようじけい一般いっぱん複数ふくすう)をもちいて特定とくてい言語げんご表記ひょうきするための規則きそく集合しゅうごう[注釈ちゅうしゃく 1]

字母じぼ書記しょきもと

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文字もじ体系たいけいふくまれる記号きごう最小さいしょう単位たんい字母じぼ文字もじ記号きごうとも)とぶ。字母じぼ文字もじ一致いっちする場合ばあいもあるが、文字もじ体系たいけい言語げんご民族みんぞくによっては、文字もじよりちいさい単位たんい字母じぼとみなす場合ばあいもあるし、補助ほじょてき記号きごうダイアクリティカルマークマトラなど)を字母じぼふくめない場合ばあいもある。一方いっぽう学術がくじゅつてき用語ようごでは、ある文字もじ記号きごう構成こうせいする部分ぶぶんのことを書記しょきもとえい: grapheme文字もじもと図形ずけいもととも)とぶ。表音ひょうおん文字もじでは音声おんせい音素おんそえい: phoneme)、ひょう文字もじでは意味いみ意義いぎもとえい: sememe)あるいは形態素けいたいそえい: morpheme)に対比たいひされる概念がいねんである。なに書記しょきもととみなすかは、研究けんきゅうしゃによってことなることがある。

文字もじ」と「文字もじでないもの」の線引せんひ

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視覚しかくてきなもの、える要素ようそしょう単位たんいというのはさまざまあるが、学術がくじゅつてきには、そのなかでもあくまで言語げんご直接ちょくせつむすいたものだけを「文字もじ」と分類ぶんるいしている。

やや特殊とくしゅ文字もじ

やや特殊とくしゅ文字もじとしてはつぎのようなものがある。

  • 句読点くとうてん : 文字もじ歴史れきし比較的ひかくてき初期しょきから、かたりあいだ間隔かんかくけたりせん区切くぎったりすることがおこなわれていた。文字もじ体系たいけい発展はってんとともに、かたりぶん意味いみ区切くぎりをあらわすさまざま記号きごう、すなわち句読点くとうてんやくものとも)が使つかわれるようになった。ただし、句読点くとうてんをほとんど、あるいはまったく使つかわないで表記ひょうきする言語げんごもある。句読点くとうてん表記ひょうき体系たいけいごとに特有とくゆうであるため、それぞれの文字もじ体系たいけい一部いちぶであるとかんがえられることがおおい。
  • ゆび文字もじは、字母じぼゆびうでかたちあらわすものであり、文字もじ体系たいけいのひとつである。
  • 点字てんじは、視覚しかく障害しょうがいしゃ言語げんごきに使つかうものであり、おと字母じぼ文字もじなどをかみてんじょうがりの配列はいれつあらわすものである。基本きほんてき指先ゆびさきかんるものであり、視覚しかくかんじる目的もくてきのものではないが、あくまで言語げんご表記ひょうきのためのものであり、晴眼せいがんしゃ使つか文字もじぼく)と役割やくわりおなじなので、文字もじ分類ぶんるいされている。
微妙びみょう位置いちづけのもの
  • 絵文字えもじえい: pictogram ピクトグラム)は、意味いみあらわすためにえがかれた図像ずぞうではあるが、言語げんご直接ちょくせつむすびついてはいないので、学者がくしゃからは「厳密げんみつには文字もじではない」とされる。だがひろ意味いみでは文字もじれる場合ばあいもある。つまり分類ぶんるいがゆらぐことがある。ピクトグラムはたとえば、西部せいぶ開拓かいたく時代じだい以降いこうアメリカ先住民せんじゅうみんで、英語えいご文章ぶんしょうけないひと絵文字えもじ手紙てがみをやりとりしたれいがある。現代げんだいでは、絵文字えもじUnicode収録しゅうろくされ、使つかいやすくなっているので、ひとによっては文章ぶんしょうなかでまるで単語たんごのようにあつかっている。たとえば「今日きょうは🚙でピクニックにきましょう。」のようにである。そしてさいは「今日きょうくるまでピクニックにきましょう」などとこえにしている。つまりこの文章ぶんしょうちゅうの「🚙」という絵文字えもじ言語げんご記述きじゅつもちいられているので、文字もじ分類ぶんるいしたほうがよいだろう、ということにもなり、分類ぶんるいがゆらぐ。
文字もじではないもの
  • 絵画かいがは、言語げんご構成こうせい要素ようそではないので、文字もじではないと分類ぶんるいされている。絵画かいが通常つうじょう意味いみ」をあらわし、しばしばその「意味いみ」は、説明せつめいすうじゅうページもの文章ぶんしょう必要ひつようになるほどの密度みつどになっているが、絵画かいがはいわゆる通常つうじょうの「言語げんご」の構成こうせい要素ようそではないので、学術がくじゅつてきには「文字もじではない」と分類ぶんるいするのである。
  • 音符おんぷは、楽音がくおん音楽おんがくおと)を視覚しかくてきしめしているものであり、普通ふつうの「言語げんご」とむすびついているわけではないので、文字もじではないと分類ぶんるいされている。なお音符おんぷ楽曲がっきょく関係かんけいは、文字もじ文章ぶんしょう関係かんけい類似るいじしている。またアフリカのトーキングドラムはドラムのおと言葉ことばとして使つかっているので、もしトーキングドラムのおと音符おんぷとして表現ひょうげんする場合ばあいは、その音符おんぷ位置いちづけは曖昧あいまいになる。また、言語げんご音楽おんがく教科書きょうかしょ音楽おんがくかんする記述きじゅつでは、音符おんぷ文字もじによる文章ぶんしょうなかあらわれることはある。
  • 国際こくさい音声おんせい記号きごうは、あくまで、最初さいしょから音声おんせいあらわすための記号きごうとしてつくられた記号きごうであり、通常つうじょうの「言語げんご」と直接ちょくせつにはむすびついてはいないので、文字もじではないと分類ぶんるいされている。
  • 文字もじコード文字もじ符号ふごうとも)は、字母じぼ書記しょきもとのひとつひとつを符号ふごう重複じゅうふくなく対応たいおうさせたもの、またはその対応たいおうのさせかたのめのことであり、文字もじそのものではない。文字もじ集合しゅうごう符号ふごう文字もじ集合しゅうごう)とぶこともある。
文字もじコードによって、電気でんき通信つうしん電子でんし媒体ばいたい文字もじあつかうことができる。符号ふごう順序じゅんじょわせかたにめをもうけることによって、文字もじ体系たいけい表記ひょうき体系たいけいあつかうこともできる。一般いっぱんに、文字もじコードはめた文字もじだけを利用りようできるようにするもので、あらゆる文字もじあつかうことはできない。文字もじコードについては#電気でんき通信つうしん、コンピュータと文字もじふしる。

字体じたい書体しょたい

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字体じたい(じたい)とは、ある図形ずけい文字もじ体系たいけい特定とくてい一文字ひともじ認識にんしきでき、そのではないと判断はんだんしうる範囲はんいのこと。これにたいして、文字もじ体系たいけいふくまれる特定とくてい文字もじの、図形ずけいとしての具体ぐたいてきかたちのことを字形じけい(じけい)とう。

字体じたい基準きじゅんは、文字もじ体系たいけい表記ひょうき体系たいけいによってことなる。ぎゃくうと、ことなる文字もじ体系たいけい同士どうしでよく文字もじがあっても、それらはべつ文字もじなされる。一方いっぽう文字もじ体系たいけいから他方たほう派生はせいした場合ばあいや、双方そうほう共通きょうつう祖先そせん場合ばあいには字形じけい発音はつおんともによく文字もじあらわれやすいが、たとえラテン文字もじの「A」とキリル文字もじの「А」のように字形じけいおとともほとんどおな場合ばあいでも文字もじとしてはべつ文字もじである。漢字かんじの「」と片仮名かたかなの「ニ」のように関係かんけいがあるともいともがたいものや、片仮名かたかなの「」(ゆみ部分ぶぶん)とハングルの「」((ꡂの部分ぶぶん)+)のようにまったくの偶然ぐうぜん一致いっちによるものも、別々べつべつ文字もじ体系たいけいぞくするべつ文字もじである。字体じたい基準きじゅんは、言語げんご時代じだいによっても変化へんかすることがある。たとえば漢字かんじで、「きち」の3かくめを1かくめよりながめにするかみじかめにするかというちがいは字体じたいちがいとなることがあるが、現代げんだい日本にっぽん常用漢字じょうようかんじではこのちがいを区別くべつしない。

文字もじコード後述こうじゅつ)では、個々ここ符号ふごうあらわしうるとかんがえられる字形じけい抽象ちゅうしょうしてとくグリフえい: glyph)とぶことがある。

書体しょたい(しょたい)とは、ある文字もじ体系たいけいで、字体じたい一貫いっかんした特徴とくちょう様式ようしきそなえた字形じけいとして表現ひょうげんしたものをいう。漢字かんじ手書てが文字もじでの篆書てんしょ隷書れいしょ楷書かいしょ行書ぎょうしょ草書そうしょや、活字かつじフォント明朝体みんちょうたいゴシックたいローマンたいセリフサンセリフなどは書体しょたいである。

楔形文字くさびがたもじ

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楔形文字くさびがたもじえい: cuneiform)は、現在げんざいられている文字もじ体系たいけい最古さいこのもののひとつである。紀元前きげんぜん3500ねんころメソポタミア誕生たんじょうした。粘土ねんどばんあしとんがふでててできる " くぼみ " をわせて文字もじとする。とんがふで粘土ねんどてると、ちょうどくさび(くさび)のような、なが三角形さんかっけいのくぼみができるので、学術がくじゅつ用語ようご表記ひょうき言語げんごであるラテン語らてんごで(scriptura) cuneiformis(クネイフォルミス) とばれるようになり(ラテン語らてんごのcuneus(クネウス)は「くさび」で、formis, forma (フォルマ)は「かたち、かたち」という意味いみ。つまり「くさびがた」)、日本語にほんごでもそれにならって楔形文字くさびがたもじんでいる。粘土ねんどいた文字もじは、粘土ねんど湿しめってやわらかいうちは簡単かんたんなおすことができるし、いっぽうでかわかせばいたものをかなりの期間きかん保存ほぞんできる。さらに長期ちょうき保存ほぞん必要ひつよう場合ばあい内容ないようえやかいざんを防止ぼうしする場合ばあいには粘土ねんどばんいていちしゅものにすればよい。現在げんざいのこっている楔形文字くさびがたもじ資料しりょうおおくは、火災かさい戦災せんさいによってかれたものである。

現在げんざいまでに発見はっけんされている楔形文字くさびがたもじのうち、初期しょきのものが表記ひょうきしている言語げんごシュメールばれ、シュメールじん言語げんごである。しかし、楔形文字くさびがたもじそのものをシュメールじんつくったというたしかな証拠しょうこはいまのところ発見はっけんされていない。もっともふるいものはウルク文字もじ古拙こせつ文字もじとも)で、イラク中部ちゅうぶウルクげんワルカ遺跡いせきだい4そうから出土しゅつどし、紀元前きげんぜん3100-3000ねんごろのものである。また、すこ時代じだいのものとしてジャムダド・ナスル(ジェムデド・ナスル)でもどう系統けいとう文字もじしるした粘土ねんどばん発見はっけんされている。ほとんどはしょう取引とりひき記録きろく目録もくろくのような経済けいざい文書ぶんしょであり、事物じぶつ職名しょくめい都市としめいあらわ文字もじとともに数字すうじしるしている。また、書記しょき養成ようせいのためとられる文字もじリストも発見はっけんされている。一方いっぽう、ジャムダド・ナスルとどう時期じき文字もじ資料しりょうスーサ出土しゅつどしているが、これはエラム一種いっしゅ表記ひょうきしたもので、はらエラム文字もじばれる。

当初とうしょしょ方向ほうこううえからしたたてきで、文字もじはある程度ていど単純たんじゅんされた線画せんがであり、まだくさびがたになっていない。紀元前きげんぜん2600ねんころから、しょ方向ほうこうたてきから横書よこがき(ひだりからみぎ)にわり、その結果けっか、すべての文字もじひだりに90回転かいてんした。その筆画ひっかく直線ちょくせんし、最終さいしゅうてきにはくさびがたわせで文字もじあらわすようになる(#4参照さんしょう)。

4 「あたま[SAG]あらわ文字もじ変化へんか
 
1: 紀元前きげんぜん3000ねんごろ。2: 紀元前きげんぜん2800ねんごろひだりに90回転かいてん。3: 紀元前きげんぜん2600ねんごろ碑文ひぶん筆画ひっかく単純たんじゅん。4: 粘土ねんどばんくさびがた特徴とくちょうあらわれる。5: 紀元前きげんぜんだい3千年紀せんねんき後半こうはん。6: 紀元前きげんぜんだい2千年紀せんねんき前半ぜんはん。7: 紀元前きげんぜんだい1千年紀せんねんき前半ぜんはん出典しゅってん画像がぞう説明せつめい参照さんしょう

ウルク文字もじは、事物じぶつそのものをあらわひょう文字もじであるが、紀元前きげんぜん2800ねんころから、文字もじ音節おんせつあらわすものとしても使つかうようになる。たとえば、「うし」をあらわ文字もじ[gu]音節おんせつあらわすのに使つかう。ところが、「いと」をあらわ文字もじでも [gu]あらわせる。おなおんかたり複数ふくすうあるから、ある音節おんせつあらわせる文字もじ複数ふくすうある。これを同音どうおん異字いじせいえい: homophony、ホモフォニーとも)とぶ。また、「くち」をあらわかたり[ka] なので、「くち」をあらわ文字もじ[ka]音節おんせつあらわす。ところが、この文字もじは「さけぶ」[gù]、「[zú]、「はなす」[du] などのかたりあらわすから、それらの音節おんせつあらわすのにも使つかう。これをおとせいえい: polyphony。ポリフォニーとも)とぶ。同音どうおん異字いじせいおとせいは、シュメールの楔形文字くさびがたもじ借用しゃくようしたほか楔形文字くさびがたもじにもがれる。


シュメール楔形文字くさびがたもじは、アッカドバビロニアアッシリアふくむ)の表記ひょうき借用しゃくようされた。しかしシュメール膠着こうちゃくであったのにたいし、アッカド屈折くっせつセムけい言語げんごであった。セムけい言語げんごでは語根ごこんを3子音しいん(ときに4子音しいん)であらわすから、ひとつのかたり音声おんせい表記ひょうきするのには複数ふくすう文字もじ必要ひつようになる。表記ひょうき短縮たんしゅくするためにシュメールひょう文字もじ併用へいようすることもあった。バビロニアじんやアッシリアじん楔形文字くさびがたもじは、さらにヒッタイトフルリ(ミタンニ)、ウラルトゥ(いずれもインドヨーロッパ語族ごぞく言語げんご)などの言語げんご表記ひょうき借用しゃくようされた。

シリアのウガリット(ラス・シャムラ)で発見はっけんされたウガリト文字もじは、紀元前きげんぜん14世紀せいきころ文字もじ体系たいけいである。シュメール起源きげん楔形文字くさびがたもじでは文字もじかずが600あまりにたっしたのにたいし、ウガリト文字もじ字母じぼがわずか30アブジャド子音しいん文字もじ)になっている。字母じぼ一覧いちらんしるした資料しりょうでは、フェニキア文字もじヘブライ文字もじなどの伝統でんとうてき順序じゅんじょとの一致いっちられることから、文字もじ体系たいけい組織そしきのアブジャドの影響えいきょうけたとかんがえられている。

また、古代こだいペルシア楔形文字くさびがたもじは、アケメネスあさペルシアのダレイオス1せいつくらせた楔形文字くさびがたもじで、36ひらき音節おんせつ文字もじ子音しいん-母音ぼいんわせをあらわ文字もじ。ただしうち3母音ぼいんのみの文字もじ)をふくむ。楔形文字くさびがたもじなかでは最初さいしょ解読かいどくされた文字もじ体系たいけいである。これは紀元前きげんぜん4世紀せいきには使つかわれなくなった。

今日きょうでは、楔形文字くさびがたもじ表記ひょうき使つか言語げんごはない。現在げんざいまでにられているもっともあたらしい楔形文字くさびがたもじ資料しりょうは、紀元きげん1世紀せいきのシュメールひょう文字もじによるものである。


エジプトヒエログリフけい文字もじ

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エジプトヒエログリフのうち、発見はっけんされている最古さいこ文字もじ資料しりょう紀元前きげんぜん3100ねんから3000ねんころの先王せんおうあさ時代じだい末期まっきのものである。エジプトヒエログリフでは、古拙こせつ文字もじ資料しりょうというものがほとんど発見はっけんされていない。あたかも、整備せいびされた文字もじ体系たいけい突然とつぜん出現しゅつげんしたかのようである。研究けんきゅうしゃおおくは、かず世紀せいき先行せんこうするメソボタミアの#楔形文字くさびがたもじ影響えいきょうがあるとかんがえるが、両者りょうしゃには字母じぼなどにあきらかな共通きょうつうてんられないため、エジプトヒエログリフが借用しゃくようしたのは「文字もじという着想ちゃくそう」(#借用しゃくよう発展はってんふし参照さんしょう)だけで、文字もじ体系たいけい組織そしき独自どくじ発達はったつしたものだとかんがえている。

概要がいよう

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初期しょきにはさまざまな媒体ばいたいかれたが、神官しんかん書体しょたい後述こうじゅつ)が発達はったつすると、もっぱら記念きねん宗教しゅうきょう関係かんけい碑文ひぶんにのみ使つかわれるようになった。ヒエログリフえい: hieroglyph、せいこく文字もじとも)というは、古代こだいギリシアのタ・ヒエログリュピカ(神聖しんせい文字もじ)に由来ゆらいする。文字もじおおくはひょう文字もじだが、一部いちぶ文字もじ表音ひょうおん文字もじにも転用てんようしており、ひょう文字もじではあらわしにくい概念がいねん形態素けいたいそ表記ひょうきしやすくなっている。

ひょう文字もじ時代じだいによって字形じけいわったり、あらたな事物じぶつあらわ文字もじ追加ついかされたりしたので、現在げんざいまでに同定どうていされているものは6000以上いじょうにのぼるが、かく時代じだい実用じつようされたかずは700から1000程度ていどである。表音ひょうおん文字もじ子音しいんのみを表記ひょうきするので、アブジャドであるとえる。いち子音しいん文字もじが24程度ていど子音しいん文字もじが100ちかく、さん子音しいん文字もじが40あまりある。いち子音しいん文字もじはもっぱら表音ひょうおんにのみ使つかうが、そのほかの表音ひょうおん文字もじひょう文字もじとして使つかうこともあるため、複数ふくすう子音しいん文字もじいち子音しいん文字もじ付加ふかして表音ひょうおん文字もじとして使つかっていることを明確めいかくにすることがある(末尾まつび子音しいんだけを付加ふかすることがおおいが、複数ふくすう子音しいん付加ふかすることもある)。この手法しゅほう音声おんせい補充ほじゅうぶ。日本語にほんごおく仮名がな漢字かんじ形声けいせいにいくらか手法しゅほうだが、おく仮名がな場合ばあいとはちがい、品詞ひんし関係かんけいなく音声おんせい補充ほじゅうできるし、形声けいせいとはちがい、表音ひょうおん文字もじにも音声おんせい補充ほじゅうをする(#5 (a) 参照さんしょう)。

さらに、かたり付加ふかして意味いみ範疇はんちゅうあらわ限定げんていがある。漢字かんじ偏旁へんぼうはたらきをするが、独立どくりつした文字もじである。エジプトセムけい言語げんごきんえんハム語族ごぞくぞくするため、きんえん概念がいねんあらわかたりおなじ3子音しいん(ときに4子音しいん)からなる語根ごこん共有きょうゆうする。ひょう文字もじ表音ひょうおん文字もじ限定げんていとをわせてどう語根ごこんかたり区別くべつし、意味いみ明確めいかくにすることができる。器物きぶつ材質ざいしつのような詳細しょうさい意味いみまで限定げんてい区別くべつすることさえある(#5 (b) 参照さんしょう)。

しょ方向ほうこう比較的ひかくてき自由じゆうで、初期しょきにはおもたてき(うえからした)、のちにはおも横書よこがきとなり、ブストロフェドンがおこなわれることもおおい。ただし、行内こうない配列はいれつじゅん審美しんびじょう観点かんてんから方向ほうこうえることがある。また、おうかみなどをあらわ文字もじはしばしばまえのほうにく。このような現象げんしょう字母じぼ転移てんいという。

5 エジプトヒエログリフのうん用例ようれい
  表記ひょうき   こぼし 意味いみ
(a)
nfr
[nfr] [nfr] い」
nfrr
[nfr] [r]
nfrf
r
[nfr] [f] [r]
xpr
r
[ḫpr] [r] [ḫpr] まれる」、「〜になる」
Aa1
p
xprr
[ḫ] [p] [ḫpr] [r]
(b)
Y3A1
ひと [sš] 書記しょき
Y3M40
巻物まきもの 書物しょもつ
Y5
n
M40
[mn] [n] 巻物まきもの [mn] のこる」
Y5
n
G37
[mn] [n] 小鳥ことり よわい」
pr
r
t
N5
[pr] [r] [t] 太陽たいよう [prt] ふゆ
S43dwA2
[md] [d] [w] べる [mdw] はなす」
bhAW
D54
A1
Z2
[b] [h] [ʒ] [w] あし じん 複数ふくすう [bhʒw] 逃亡とうぼうしゃたち」
しょ方向ほうこうはいずれも横書よこがき(ひだりからみぎ)。

(a) 音声おんせい補充ほじゅうれい最初さいしょれい音声おんせい補充ほじゅうがないものだが、3ばんめまではおな意味いみあらわす。論理ろんりてきには、おな発音はつおんあらわすものにはおおくのバリエーションがありるが、実際じっさい使つかわれる表記ひょうきかぎられたものだけである。3ばん以降いこうれいには字母じぼ転移てんいられる。

(b) 限定げんていれい
M40
書物しょもつ文字もじかかわるものごとや抽象ちゅうしょうてき観念かんねん
G37
は「よわい」「ちいさい」「わるい」などの意味いみ範疇はんちゅう
N5
太陽たいよう太陽たいよう運行うんこうかかわるものごと、
A2
は「べる」「む」「はなす」などにかかわる意味いみ範疇はんちゅうあらわす。
 
6 写実しゃじつてき文字もじれい
sw
t
L2
t
[nswt-bỉty]上下じょうげエジプトのおう」という一部いちぶしょ方向ほうこうみぎからひだり横書よこがき。出典しゅってん画像がぞう説明せつめい参照さんしょう

文字もじはときに、きわめて写実しゃじつてきえがかれる(#6)。ただし、現代げんだい透視とうし図法ずほうによるような写実しゃじつせいではない。たとえば「ひと」をあらわ文字もじでは、頭部とうぶ全体ぜんたいあしよこから、正面しょうめんからえがくというように、様々さまざま角度かくどから対象たいしょう特徴とくちょう平面へいめんじょうになるべく忠実ちゅうじつ描写びょうしゃしようとする。文字もじ彩色さいしきされることもあるが、いろ意味いみ関係かんけいしない。

ヨーロッパでは16世紀せいきから、エジプトヒエログリフの解読かいどくこころ活発かっぱつになったが、文中ぶんちゅう人名じんめいなどにもとづいていくつかの表音ひょうおん文字もじおと決定けっていできたにとどまった。このため、エジプトヒエログリフの大半たいはん象徴しょうちょうてき概念がいねん表現ひょうげんした紋様もんようであり、完全かんぜん文字もじ体系たいけいではないとの誤解ごかいまれた。ヒエログリフがひょう文字もじとともに表音ひょうおん文字もじとしての機能きのうをもち、独自どくじ合理ごうりせいをもつ文字もじ体系たいけいであるということを最初さいしょ証明しょうめいしたのは、19世紀せいきシャンポリオンである[3]

神官しんかん書体しょたい民衆みんしゅう書体しょたい

編集へんしゅう

神官しんかん書体しょたいヒエラティックとも)は、ヒエログリフを簡略かんりゃくして筆記ひっきようにしたものだが、その原型げんけいとなる文字もじ資料しりょうはヒエログリフとおなじくらいふるい。まとまった文章ぶんしょうあらわれるのはだい4王朝おうちょう時代じだいころからである。神官しんかん書体しょたいはおもに行政ぎょうせい文書ぶんしょ商業しょうぎょう文書ぶんしょもちいられた。パピルスや、いしへんすえへんオストラカ)に、ふでとインクを使つかってかれた。いしられることはまれだった。

文字もじ体系たいけい組織そしきはヒエログリフと一致いっちし、神官しんかん書体しょたいいたものをヒエログリフにこぼしすることもできる。ヒエログリフの筆記ひっきたいであるとえる。はじめはたてき(うえからした)だったが、のち横書よこがき(おもにみぎからひだり)に変化へんかする。しかし、文字もじきがわることはなかった。

その簡略かんりゃくがいっそうすすみ、紀元前きげんぜんだい1千年紀せんねんき前半ぜんはんに、神官しんかん書体しょたいから民衆みんしゅう書体しょたいデモティックとも)が分化ぶんかした。民衆みんしゅう書体しょたいではつづきや略体りゃくたい多用たようされ、ヒエログリフとのあいだ文字もじごとの対応たいおうづけをすることはもはや不可能ふかのうである。紀元前きげんぜん600ねんころから、宗教しゅうきょう文書ぶんしょ以外いがいでは完全かんぜん神官しんかん書体しょたいにとってわった。民衆みんしゅう書体しょたい日常にちじょうてき文書ぶんしょにももちいられた。神官しんかん書体しょたい民衆みんしゅう書体しょたいは、古代こだいギリシアのヒエラティカ(神官しんかんの)とデモティカ(民衆みんしゅうの)に由来ゆらいする。

民衆みんしゅう書体しょたいしょ方向ほうこう横書よこがき(みぎからひだり)である。やはりパピルスやオストラカにインクでかれたが、プトレマイオスあさ時代じだいには、ギリシアからはいったあしのペンでくことがおおくなった。このころから、記念きねんなどの碑文ひぶんにも使つかわれるようになる。1799ねん発見はっけんされたロゼッタ・ストーンは、ヒエログリフ、民衆みんしゅう書体しょたいギリシア文字もじギリシアの 3 しゅ文字もじ体系たいけいしるされている。

今日きょうでは、エジプトヒエログリフやその神官しんかん書体しょたい民衆みんしゅう書体しょたい表記ひょうき使つか言語げんごはない。現在げんざいまでにられているもっともあたらしい資料しりょうは、紀元きげん5世紀せいき民衆みんしゅう書体しょたいによるものである。こののち、エジプトやそれから派生はせいした言語げんご表記ひょうきする文字もじ体系たいけいコプト文字もじだけとなった。

影響えいきょうけた文字もじ体系たいけい

編集へんしゅう

はらシナイ文字もじは、シナイ地方ちほう神殿しんでん遺跡いせきから発見はっけんされたのでこのがある。すくなくとも23の字母じぼつ。解読かいどくはまだ十分じゅうぶんすすんでいないが、字母じぼ半数はんすうは、その字形じけいからて、エジプトヒエログリフからの借用しゃくようである。つまり、エジプトヒエログリフから借用しゃくようしてまれた表音ひょうおん文字もじ体系たいけいである。類型るいけいとしてはアブジャドである。

字母じぼおおくがあらわしている事物じぶつはらカナン文字もじフェニキア文字もじ字母じぼ呼称こしょう一致いっちすることから、フェニキア文字もじはらシナイ文字もじから派生はせいしたというせつがある。このせつただしいとすれば、エジプトヒエログリフは、今日きょうのほとんどの音素おんそ文字もじ体系たいけい、つまり今日きょう使つかわれているおおくの文字もじ体系たいけいにあたることになる(次節じせつ参照さんしょう)。

メロエ文字もじは、紀元前きげんぜん2世紀せいきまれた。古代こだいヌビアクシュ王国おうこくで、メロエ表記ひょうきするのにもちいられた。23字母じぼからなり、だい部分ぶぶんがエジプトヒエログリフからの借用しゃくようであるとかんがえられている。ヒエログリフと筆記ひっきたいがあり、ヒエログリフはたてき(うえからした)、筆記ひっきたい横書よこがき(ひだりからみぎ)であった。アブギダ子音しいん字母じぼ特定とくてい母音ぼいんともなっているが、それ以外いがい母音ぼいん独立どくりつした字母じぼくことであらわす。また、一部いちぶ子音しいん-母音ぼいん結合けつごう独自どくじ文字もじ表記ひょうきする。

このほか、クレタヒッタイト発見はっけんされている「ヒエログリフ」とばれる文字もじ体系たいけいも、エジプトヒエログリフの影響えいきょうけているとかんがえる研究けんきゅうしゃもいる。


文字もじ」のかた変遷へんせん初出しょしゅつ

中国ちゅうごくでは戦国せんごく時代じだいまでに、文字もじ意味いみするかたりとして「しょ」「ぶん」「」などがもちいられるようになっていたが、これらは文字もじ以外いがい意味いみっていた。はた中国ちゅうごく統一とういつにともない、はた語彙ごい」が公式こうしきもちいられるようになり、かんだいはいって文字もじあらわかたりとして定着ていちゃくした[4]

いっぽう「文字もじ」というかたりのたしかな初出しょしゅつは、前漢ぜんかん司馬しばによる『史記しき』である[5]。これは、紀元前きげんぜん3世紀せいき始皇帝しこうてい顕彰けんしょうするためにてられた琅邪だいこくせき碑文ひぶんの「くるまどう軌、しょどう文字もじ」(くるまの軌幅を統一とういつし、しょ文字もじ統一とういつした)を引用いんようしたものだが、碑文ひぶんでは韻律いんりつととのえるために「ぶん」に「付加ふかしただけで、当時とうじは「文字もじ」という熟語じゅくご使つかわれていなかった。『史記しき以降いこうになってはじめて、「文字もじ」というかたりが「言語げんごしるすための記号きごう」の意味いみもちいられるようになった[6]

分類ぶんるい

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1 ウィキペディア日本語にほんごばんでの文字もじ体系たいけい類型るいけい
いわゆる文字もじ 表音ひょうおん文字もじ
音素おんそ文字もじ
アブジャド
アブギダ
アルファベット
音節おんせつ文字もじ
ひょう文字もじ象形しょうけい文字もじふくむ)
その 表意ひょうい文字もじ
ピクトグラム絵文字えもじ

各種かくしゅ文字もじ体系たいけい分類ぶんるいするために、様々さまざま基準きじゅん存在そんざいする。つぎのような分類ぶんるいがありうる。

  • 類型るいけいてき分類ぶんるい
  • 文字もじ体系たいけい系統けいとうによる分類ぶんるい
  • 表記ひょうきする言語げんごによる分類ぶんるい
  • 使つかわれた時代じだいや、使つかわれる地域ちいきによる分類ぶんるい

本節ほんぶしでは、類型るいけいてき分類ぶんるいについて解説かいせつする。系統けいとうによる分類ぶんるいについては、#系統けいとうふしる。言語げんごとの関係かんけい文字もじ体系たいけいべつ言語げんご一覧いちらんを、また時代じだい地域ちいきについてはかく文字もじ体系たいけい解説かいせつ参照さんしょうされたい。文字もじ体系たいけい一覧いちらん参照さんしょうされたい。

#1に、ウィキペディア日本語にほんごばんのカテゴリでもちいられる文字もじ体系たいけい類型るいけいてき分類ぶんるいしめす。また#2に、世界せかい文字もじ体系たいけい類型るいけいべつ分布ぶんぷしめす。

 
2 現代げんだい世界せかいにおける文字もじ体系たいけい分布ぶんぷ
アブジャド: アラビア文字もじ, そののアブジャド
アブギダ: デーヴァナーガリー, そののアブギダ
アルファベット: ラテン文字もじ, キリル文字もじ, そののアルファベット
素性すじょう文字もじ: ハングル
音節おんせつ文字もじ: 音節おんせつ文字もじ
ひょう文字もじ: 漢字かんじ

総説そうせつ

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研究けんきゅう小史しょうし

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3 文字もじ発達はったつ段階だんかいもとづく(とかつてかんがえられていた)文字もじ体系たいけい類型るいけい
ピクトグラム (絵文字えもじ)
表意ひょうい文字もじ (象形しょうけい文字もじふくむ)[a]
表音ひょうおん文字もじ
音節おんせつ文字もじ[b]
アルファベット[c]

a  今日きょう意味いみでの表意ひょうい文字もじではない。
b  しばしばアブギダふくめてった。
c  アルファベットのほかにアブジャドふくめる場合ばあいもあった。

ヨーロッパ世界せかいでは、伝統でんとうてきに、文字もじ音声おんせい補助ほじょにすぎないというかんがかた根強ねづよくあった。ソクラテスは、文字もじたよると記憶きおくりょく減退げんたいし、文字もじかれたものは弁舌べんぜつよりも説得せっとくりょくおとるとかんがえた[7]のち地中海ちちゅうかい沿岸えんがん世界せかいではエジプトヒエログリフわすれられ、ヨーロッパとその周辺しゅうへんではアルファベットなどの音素おんそ文字もじだけが使つかわれるようになったため、音声おんせい忠実ちゅうじつ再現さいげんすることこそ文字もじ本質ほんしつだというかんがえはいっそうつよまった。さらにルソーは、「事物じぶつ描写びょうしゃ未開みかい民族みんぞくに、かたり文章ぶんしょう記号きごう野蛮やばん民族みんぞくに、アルファベットは政府せいふ統治とうちされた民族みんぞく一致いっちしている」[8]べ、使用しようされる文字もじ体系たいけい種類しゅるい社会しゃかい進歩しんぽ度合どあいを反映はんえいしているというかんがえをしめした。この3つはピクトグラムや象形しょうけい文字もじひょう文字もじ表音ひょうおん文字もじ対応たいおうしている。

18世紀せいきには、さまざまな言語げんご客観きゃっかんてき比較ひかくする姿勢しせいつよまったが、文字もじ研究けんきゅう音声おんせいがくいち分野ぶんやとしておこなわれるにとどまった。このような思潮しちょうから、文字もじ象形しょうけい文字もじから音節おんせつ文字もじへ、さらには音素おんそ完全かんぜん表記ひょうきできるアルファベットへと発達はったつしていくものだとひろしんじられるようになり、一時いちじ主流しゅりゅうてきかんがかたにもなった(#3参照さんしょう)。

しかし、今日きょう言語げんごがくでは、以上いじょうのようなせつは、完全かんぜんにとはいえないまでも、ほぼただしくないことがわかっており、当然とうぜんのこととして、使用しようする文字もじ体系たいけい種類しゅるい社会しゃかい進歩しんぽ度合どあいをあらわすというような見方みかた完全かんぜん否定ひていされている。

また、中華ちゅうか世界せかいでは事情じじょうことなっていた。上古じょうこにすでにかぶとこつぶんられるが、これはぼくうらないによる神意しんいつたえるものであった。封建ほうけんせい成立せいりつしたのちも、文字もじ使用しよう独占どくせん権力けんりょく源泉げんせんとなった[9]しゅう王朝おうちょう滅亡めつぼうによって文字もじ技術ぎじゅつ独占どくせんだっし、文字もじ使用しようひろまったが、ひょう文字もじ後述こうじゅつ)としての漢字かんじ能力のうりょくは、おおくの方言ほうげん言語げんご横断おうだんする共通きょうつう意志いし疎通そつう手段しゅだんとして、中華ちゅうか世界せかい一体いったいせい維持いじすることにつながった。さらに、はなえびす秩序ちつじょ拡大かくだいともない、周縁しゅうえん社会しゃかいにとっては、漢字かんじ文明ぶんめい中心ちゅうしんから先進せんしん文化ぶんかれ、その権威けんいあずかるための手段しゅだんとなった。そのあいだ中原なかはらにはさまざまな民族みんぞく侵入しんにゅうし、おおくの王朝おうちょう交代こうたいしたが、漢字かんじ使つかわれつづけた。

中国ちゅうごくは1音節おんせつが1形態素けいたいそ対応たいおうする孤立こりつであり、漢字かんじはその形態素けいたいそあらわしたので、文字もじがすなわち言語げんごであった。そのため言語げんごがく発達はったつず、わりに文字もじがかりにふるえの文献ぶんけん訓詁くんこがく発展はってんした。個々ここ文字もじは「かたち音義おんぎ字形じけい発音はつおん意味いみ)」の3要素ようそによって分類ぶんるい考証こうしょうされるようになった。

20世紀せいきはいると文化ぶんか人類じんるいがく構造こうぞう主義しゅぎ言語げんごがくこり、人間にんげんしょ活動かつどうのうち文字もじ使用しようについてもつうてき側面そくめんとともにともてき側面そくめんからも検討けんとうする方法ほうほうろん主流しゅりゅうとなった。また考古学こうこがく発展はってんもあって、文字もじ発達はったつ分化ぶんか理論りろん修正しゅうせいされた。

表音ひょうおん表意ひょういひょう

編集へんしゅう

伝統でんとうてきによくもちいられる文字もじ体系たいけい分類ぶんるいほうに、「表音ひょうおん文字もじ と 表意ひょうい文字もじ」に大別たいべつするものがある。たとえば、フェルディナン・ド・ソシュールの『一般いっぱん言語げんごがく講義こうぎ』でも表音ひょうおん文字もじ表意ひょうい文字もじ大別たいべつしている[10]

表音ひょうおん文字もじ(ひょうおんもじ、えい: phonogram)は、意味いみしめさず、あくまでおと発音はつおん)をしめしている。原則げんそくてきに、意味いみしめしてはいない。ただし「表音ひょうおん文字もじかなら発音はつおんをすべて表記ひょうきしているか?」とうと、そういうわけではない。また完全かんぜん正確せいかく表記ひょうきしているか?というと、かならずしもそうではない。形態素けいたいそ連接れんせつするさいわたおん表記ひょうき反映はんえいしないのが普通ふつうだし、音韻おんいん交替こうたい反映はんえいしないこともしばしばある。たとえば、現代げんだい朝鮮ちょうせん正書法せいしょほうではハングル表記ひょうき形態けいたい主義しゅぎをとり、発音はつおんうえでは子音しいん交替こうたいこっていても語幹ごかん表記ひょうき変化へんかさせない。このことによって、文中ぶんちゅう形態素けいたいそ識別しきべつしやすくしている。それぞれのかたりつづりも、発音はつおん忠実ちゅうじつあらわしているとはかぎらない。現代げんだい英語えいごの enough、night、thought の gh のように、ことなる発音はつおんあらわす(あるいは発音はつおんしない)場合ばあいがある。言語げんごにおいて、その発音はつおん時代じだいると音韻おんいん変化へんかによってわっていくが、文字もじ表記ひょうき変化へんかしにくいためである[11]タイのタンマサート ธรรมศาสตร์ はサンスクリットダルマシャーストラ dharmaśāstra に由来ゆらいするが、原語げんご発音はつおんつづりのなか保存ほぞんしている。日本語にほんご現代げんだい仮名遣かなづかで、助詞じょしの は、へ、を のみにはかつての表記ひょうきのこしているのも現象げんしょうである。このように発音はつおん一致いっちしないつづりが保持ほじされるのは、形態素けいたいそ同士どうし発音はつおんだけでは区別くべつできなくなる不便ふべんおぎなうためだとかんがえられている。

表意ひょうい文字もじ(ひょういもじ、えい: ideogram)は、意味いみ概念がいねん)をしめしている文字もじである。表意ひょうい文字もじ代表だいひょうれいシュメール文字もじがある。アラビア数字すうじの1,2,3...なども「1」「2」「3」...というかず概念がいねんしめしており、表意ひょうい文字もじである。なお(かく言語げんごなかの)表意ひょうい文字もじは、一般いっぱんてき概念がいねん同時どうじおとかく言語げんごごとことなったおと、ではあるが)もあらわしていることが一般いっぱんてきである。ただし、具体ぐたいてき言語げんご種類しゅるい対応たいおうする「おと」がことなってしまっている。たとえば「1」は英語えいごでは「one ワン」だが、日本語にほんごでは「いち」や「ひと」である。その意味いみで、やはり表意ひょうい文字もじの、基本きほんてき一番いちばん重要じゅうよう機能きのう意味いみ概念がいねん)をしめすことであり、その意味いみでやはり「表意ひょうい文字もじ」とばれるのが適切てきせつだということになる(つまり表意ひょうい文字もじは、あくまで意味いみしめすために使つかわれており、特定とくてい固定こていされたおとしめすための文字もじではない。ひと表意ひょうい文字もじて「おと」をおもすとしても、実際じっさいには母語ぼごことなれば想起そうきするおとことなっているわけであり、かく言語げんご話者わしゃ対応たいおうするその言語げんご語彙ごい想起そうきしているわけである。なお、日本人にっぽんじん表意ひょうい文字もじれいとしてすぐに漢字かんじを(本当ほんとう代表だいひょうれいではないのに、あたかも代表だいひょうれいのように)げてしまうが、中国ちゅうごく文章ぶんしょう表記ひょうき使つかわれる漢字かんじかたり形態素けいたいそなどにも対応たいおうしており、その結果けっかひとつひとつの形態素けいたいそ発音はつおんをもあらわしているのだから、表意ひょうい文字もじ分類ぶんるいするのは適切てきせつではないと指摘してきされている[12]。したがって近年きんねんでは学術がくじゅつてきには、中国ちゅうごく文章ぶんしょう表記ひょうき使つかわれている状態じょうたいでは「漢字かんじひょう文字もじ」と分類ぶんるいされる。漢字かんじはつきつめれば結局けっきょく個々ここ使用しようれいごとに、こまかく分類ぶんるいせざるをない。また日本語にほんご文章ぶんしょうちゅう漢字かんじは、またべつはなしとなる。)

ひょう文字もじ(ひょうごもじ、えい: logogram)は、文章ぶんしょうちゅうかたり形態素けいたいそあらわすと同時どうじにその発音はつおんあらわ文字もじ、という分類ぶんるいである。アンドレ・マルティネは、人間にんげん言語げんごじゅう分節ぶんせつされている、と説明せつめいした。つまり、言語げんごぶんはまず一連いちれん単位たんい形態素けいたいそ)に分節ぶんせつされ(だい1分節ぶんせつ)、つぎにそれぞれの単位たんい一連いちれんおと音節おんせつ音素おんそ)に分節ぶんせつされる(だい2分節ぶんせつ)、と説明せつめいした。言語げんごつこの性質せいしつによって、かぎられたかず音素おんそ音節おんせつから無数むすうかたりをつくりすことができ、それらを規則きそくてきわせて無数むすう事実じじつ表現ひょうげんすることが可能かのうになる、と説明せつめいしたのである[13]。もしこの説明せつめいほう採用さいようするなら、ひょう文字もじ表音ひょうおん文字もじは、それぞれ、だい1分節ぶんせつだい2分節ぶんせつのレベルを文字もじとして、言語げんご表記ひょうきするものとえる。

なお「表音ひょうおんせい」や「ひょうせい」という性質せいしつは、程度ていどはあるがどの文字もじ体系たいけいにもそなわっており、相対そうたいてき基準きじゅんであるとろんずる研究けんきゅうしゃもいる[14]

ほん項目こうもくでは文字もじ体系たいけいを、伝統でんとうてき分類ぶんるいほうである「表音ひょうおん文字もじ表意ひょうい文字もじ」という分類ぶんるいほう尊重そんちょうしつつ、現代げんだい学術がくじゅつてきひょう文字もじという分類ぶんるいほう説明せつめいしてゆく。表音ひょうおん文字もじ表意ひょうい文字もじについては、それぞれのサブカテゴリ(細分さいぶんされた分類ぶんるい)も紹介しょうかいしてゆく。

表音ひょうおん文字もじ字形じけいあいだ関係かんけいせい有無うむ

編集へんしゅう

表音ひょうおん文字もじは、さまざまなタイプがある。一方いっぽうは、あらわ音素おんそ音節おんせつごとにべつ字形じけいになっているタイプである。たとえばヒエログリフは、碑文ひぶん普通ふつう文章ぶんしょうちゅう使つかわれている場合ばあい、ほとんどが表音ひょうおん文字もじとして使つかわれているが、こうしたヒエログリフは、もともと具象ぐしょうぶつ(たとえばくち(くち)、フクロウ、ヘビなど)をしめすために使つかわれた象形しょうけい文字もじ転用てんようして音素おんそ(たとえば「m」「t」など)だけをあらわすことにもちいたものである。ヒエログリフの場合ばあい字形じけいとそれらがあらわ発音はつおんとのあいだには関連かんれんがない。しかし他方たほう文字もじ字母じぼ字形じけいと、発音はつおんとの関係かんけい規則きそくてき関連かんれんがある表音ひょうおん文字もじ体系たいけいもある。このタイプの表音ひょうおん文字もじ素性すじょう文字もじえい: featural alphabet[注釈ちゅうしゃく 2])ともばれる。こういった文字もじ体系たいけいおおくは計画けいかくてきにつくりされたものである。

ハングル一見いっけん漢字かんじ連想れんそうさせる字形じけいだが、ひとつひとつの文字もじ子音しいん母音ぼいん字母じぼ자모、チャモ)を規則きそくてきわせて音節おんせつあらわ純粋じゅんすい表音ひょうおん文字もじである。おな調音ちょうおん位置いち子音しいん字母じぼかたちをしており、朝鮮ちょうせん特有とくゆうひらおとおんげきおん対立たいりつ字母じぼ変形へんけいすることによってあらわしている。母音ぼいん字母じぼかたち朝鮮ちょうせん特有とくゆう母音ぼいんかげ母音ぼいん対立たいりつ母音ぼいん調和ちょうわ法則ほうそくそくした規則きそくせいつ(詳細しょうさいハングルこう参照さんしょう)。

テングワールは、トールキン架空かくうなかくに使つかわれている文字もじ体系たいけいとしてつくしたもの[注釈ちゅうしゃく 3]だが、やはり子音しいん字形じけい調音ちょうおん位置いち調音ちょうおん形式けいしき対応たいおうした規則きそくせいつ(詳細しょうさいテングワールこう参照さんしょう)。

ただし、これらの文字もじ体系たいけいのうち、それぞれの文字もじ音節おんせつごとに表記ひょうきされるものは、文字もじ構成こうせい要素ようそである字母じぼ単独たんどくあらわすことは原則げんそくとしてない(たとえばハングルでは、学習がくしゅうなどの目的もくてき以外いがいに、単独たんどく字母じぼ音素おんそ表記ひょうきすることはない)。したがって、ほん項目こうもくではこの分類ぶんるいらず、ひとつひとつの字母じぼ書記しょきもとではなく文字もじ音素おんそ音節おんせつのどちらを表記ひょうきするかによって、表音ひょうおん文字もじ音素おんそ文字もじえい: segmental script)と音節おんせつ文字もじえい: syllabary)に区分くぶんするにとどめる[注釈ちゅうしゃく 4]

いっぽう、アラビア文字もじモンゴル文字もじのように、かたりうち字母じぼ位置いち独立どくりつ語頭ごとうかたりちゅう語尾ごび)によって字母じぼ姿すがたがた変化へんかする文字もじ体系たいけいもある。字母じぼ連結れんけつしてかれる文字もじ体系たいけいられる特徴とくちょうであるが、おな文字もじ体系たいけいでも言語げんご表記ひょうき体系たいけいことなる場合ばあい連結れんけつ規則きそくことなる場合ばあいられる。このような文字もじ体系たいけい場合ばあい字母じぼ位置いちによって姿すがたがたえるとみなされるが、字母じぼ字形じけい類似るいじ発音はつおん類似るいじ関連かんれんせいられるとはかぎらない。

音素おんそ文字もじ

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音素おんそ文字もじえい: segmental script、単音たんおん文字もじとも)とは、表音ひょうおん文字もじのうち、ひとつひとつの字母じぼでひとつひとつの音素おんそあらわ文字もじ体系たいけい例外れいがいてき複数ふくすう音素おんそあらわ文字もじ場合ばあいもある)。アルファベットえい: alphabet)と総称そうしょうされることもある。

en:Peter T. Daniels音素おんそ文字もじをさらに細分さいぶんし、アブジャドアブギダアルファベット分類ぶんるいした[15]

かつてアブギダは、音節おんせつ文字もじアルファベット中間ちゅうかん位置付いちづけられ、しばしば音節おんせつ文字もじ分類ぶんるいされたが、今日きょうでは、アブギダアルファベットは、おおくの場合ばあいアブジャドからそれぞれ別個べっこ発達はったつしたものだとかんがえられている。

音素おんそ文字もじふくまれる字母じぼかずは、表記ひょうきする言語げんご音素おんそすう照応しょうおうしているため、すくなくて20程度ていどおおくても50程度ていどまでである。

アブジャドえい: abjad)とは、かたり子音しいんのみを字母じぼとしてつづ文字もじ体系たいけいである(母音ぼいん原則げんそくとして表記ひょうきしないが、はつ学者がくしゃけにはダイアクリティカルマーク母音ぼいん表記ひょうきする場合ばあいもある)。子音しいん文字もじまたはたん子音しいん文字もじえい: consonantary)ともばれる。

アブジャドにぞくする文字もじ体系たいけいには、アラビア文字もじアラム文字もじ消滅しょうめつ)、ヘブライ文字もじペルシア文字もじなどがある。現在げんざいまでにられているアブジャドはすべて、セムけい言語げんご表記ひょうきするために発達はったつしたとかんがえられている。

学術がくじゅつ用語ようごとしてのアブジャドは、Daniels の創案そうあんになるものである。このかたりはアラビア文字もじ伝統でんとうてき順序じゅんじょ最初さいしょの4文字もじ由来ゆらいし、平仮名ひらがなの「いろは」がそうであるように、アラビア文字もじ意味いみするかたりとしてふるくからもちいられていた。アラビア文字もじ記数きすうほう参照さんしょう

アブギダえい: abugida)とは、子音しいん字母じぼ特定とくてい母音ぼいん随伴ずいはん母音ぼいんばれる。しばしば a おとだがそうでない場合ばあいもある)がむすびついているため、単独たんどく子音しいん字母じぼ随伴ずいはん母音ぼいんつきの子音しいんをあらわす文字もじ体系たいけいのことである。随伴ずいはん母音ぼいん以外いがい母音ぼいんは、ダイアクリティカルマーク付加ふかするなどのきまった表記ひょうき規則きそくによってあらわす。

アブギダは、ブラーフミーけい文字もじぞくするすうひゃく文字もじ体系たいけいふくむため、現在げんざい世界せかい使用しようされている文字もじ体系たいけいのおよそ半数はんすうは、アブギダであることになる。ほかにアブギダにぞくする文字もじ体系たいけいとしては、カローシュティー文字もじ消滅しょうめつ)、現代げんだいエチオピア文字もじ(かつてはアブジャドだったがアブギダに変化へんかした)、カナダ先住民せんじゅうみん文字もじ一種いっしゅクリー文字もじ(ただし正書法せいしょほうちがいから真正しんせいのアブギダとはえない場合ばあいもある)などがある。

アブギダという用語ようごもアブジャドと同様どうようで、Daniels の創作そうさくである。エチオピア文字もじセムけい文字もじ一般いっぱんてき順序じゅんじょでの、最初さいしょの 4 文字もじみからきている。

アルファベット

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アルファベットえい: alphabet)とは、すべての母音ぼいん子音しいんを、各々おのおの独立どくりつした字母じぼ表記ひょうきする文字もじ体系たいけいのことである。

アルファベットは、ラテン文字もじキリル文字もじのようにおおくの言語げんご表記ひょうきもちいられる文字もじ体系たいけいふくむため、現在げんざい世界せかい使用しようされている言語げんごのうち文字もじつものの大半たいはんは、アルファベットで表記ひょうきされていることになる。

ほかにアルファベットにぞくする文字もじ体系たいけいとしては、アヴェスター文字もじ消滅しょうめつ)、アルメニア文字もじエトルリア文字もじ消滅しょうめつ)、グラゴル文字もじ古代こだい教会きょうかいスラブ表記ひょうきもちいられる)、グルジア文字もじイラククルド使つかわれるアラビア文字もじ(もともとアブジャドだが母音ぼいん符号ふごうかなら表記ひょうきするためアルファベットとえる)、ゴート文字もじ消滅しょうめつ)、コプト文字もじ現代げんだい使用しようはまれ)、フレイザー文字もじまんしゅう文字もじこうむ文字もじオル・チキ文字もじ20世紀せいき誕生たんじょう)などがある。

音節おんせつ文字もじ

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音節おんせつ文字もじとは、表音ひょうおん文字もじのうち、ひとつの文字もじでひとつの音節おんせつあらわし、音素おんそ分解ぶんかいして表記ひょうきしない文字もじ体系たいけいのことである。

音節おんせつ文字もじぞくする文字もじ体系たいけいには、つね文字もじ(ロロ文字もじ)の音節おんせつ文字もじヴァイ文字もじキプロス音節おんせつ文字もじ消滅しょうめつ)、せん文字もじB消滅しょうめつ)、チェロキー文字もじおんなしょハングル平仮名ひらがな片仮名かたかな、などがある。

表音ひょうおん文字もじではおおくの場合ばあい文字もじ字形じけいとそれがあらわおととの対応たいおう規則きそくせいはない。したがって音節おんせつ文字もじでは、表記ひょうきする言語げんご弁別べんべつされる音節おんせつかずだけことなる文字もじがある。そのため、文字もじかずひゃくからすうひゃく程度ていどである。平仮名ひらがな片仮名かたかなはその下限かげんちかく、基本きほんてき文字もじかずは48(現代げんだい使用しようしないゐ/ヰとゑ/ヱをふくむ)である。ほぼ上限じょうげんかんがえられるのはりょうやま規範きはんつねぶんで、音節おんせつ声調せいちょうちがいもことなる文字もじあらわすため、文字もじかずは800以上いじょうのぼる。なおハングルは、#字形じけい規則きそくせいふしべたとおり字形じけい発音はつおん関係かんけい規則きそくせいがあるため、論理ろんりてき可能かのう文字もじかずは1まんえる。

ひょう文字もじ

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ひょう1 おも漢字かんじ辞典じてん収録しゅうろく文字数もじすう[よう検証けんしょう]
とし(西暦せいれき) 辞典じてんめい 見出みだ字数じすう
ぜん14世紀せいき- かぶとこつぶん (参考さんこう)[a] やく3,400 
ぜん11世紀せいき- 金文きんぶん (参考さんこう)[b] やく3,600 
100 せつぶんかい 9,353 
227-239 こえるい 11,520 
543 たまへん 22,726 
751 からいん 26,194 
1066 るいへん 31,319 
1615 字彙じい 33,179 
1716 かん字典じてん 47,035 
1915 中華ちゅうかだい字典じてん やく48,000 
1960 だい漢和かんわ辞典じてん[c] 48,899 
1962 ちゅうぶんだい辞典じてん 49,888 
1986 漢語かんごだい字典じてん 56,000あまり
1986 漢語かんごだいてん 60,000あまり

a  「今昔こんじゃく文字もじきょう収録しゅうろくすう (3,398) によった。

b  『金文きんぶんへん収録しゅうろくすう (3,552) によった。

c  ばんおよびかぞえかたによって異同いどうがある。詳細しょうさいだい漢和かんわ辞典じてん#だい漢和かんわ辞典じてんしん字数じすう参照さんしょう

ひとつの文字もじがひとつのかたりあるいは形態素けいたいそあらわ文字もじ体系たいけいのことをひょう文字もじえい: logogram)とぶ。中国ちゅうごくでは、ひとつの音節おんせつがひとつの形態素けいたいそあらわし、漢字かんじはひとつひとつの文字もじ形態素けいたいそあらわしている(わずかな例外れいがいはある)。したがって、漢字かんじ完全かんぜんひょう文字もじとしては代表だいひょうてきなものである。表意ひょうい文字もじとのちがいについては#表音ひょうおん表意ひょういひょうふし参照さんしょう

ひょう文字もじぞくする文字もじ体系たいけいには、アナトリア文字もじ消滅しょうめつ)、エジプトヒエログリフ消滅しょうめつ)、漢字かんじちぎり文字もじ一部いちぶ消滅しょうめつ)、楔形文字くさびがたもじ一部いちぶ消滅しょうめつ)、いにしえつね文字もじ現代げんだいでは使つかわれない)、たけし現代げんだいでは使つかわれない)、おんな文字もじ消滅しょうめつ)、西にしなつ文字もじ消滅しょうめつ)、チュノム現代げんだい表記ひょうきには使つかわれない)、トンパ文字もじマヤ文字もじ滅亡めつぼう)、などがある。

ひょう文字もじ体系たいけいのなかには、表音ひょうおんよう文字もじっていて、ひょうよう文字もじ表音ひょうおんよう文字もじとをわせてかたり意味いみ発音はつおん両方りょうほうあらわそうとするものもある。また、複数ふくすう文字もじならべてより複雑ふくざつ意味いみあらわそうとするものもある。エジプトヒエログリフトンパ文字もじなどがこれにあたる。いっぽう、漢字かんじやそれに影響えいきょうけたひょう文字もじ体系たいけいでは、この方法ほうほう会意かいい形声けいせいといった手法しゅほう発展はってんさせたため、言語げんごかたり形態素けいたいそのひとつひとつを文字もじあらわすことができるようになった(詳細しょうさい六書りくしょおよびその関連かんれん項目こうもく参照さんしょう)。後者こうしゃのように、すべての文字もじ形態素けいたいそとその発音はつおん音節おんせつあらわ文字もじ体系たいけいを、とくロゴシラバリーえい: logosyllabary)と研究けんきゅうしゃもいる[16]

ひょう文字もじ特徴とくちょうとして、文字もじ体系たいけいふくまれる文字もじ総数そうすう確定かくていしがたいということがある。たとえば、漢字かんじはその誕生たんじょう以来いらい文字数もじすうやしつづけてきたし、今日きょうでもあたらしい文字もじまれつづけている(#ひょう1参照さんしょう)。また近年きんねんは、漢字かんじをコンピュータで利用りようするための文字もじコード(符号ふごう文字もじ集合しゅうごう)の編纂へんさんがたびたびおこなわれ、そのための典拠てんきょ調査ちょうさおこなうたびに収録しゅうろく漢字かんじすう増加ぞうかしている。

系統けいとう

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総説そうせつ

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淵源えんげん

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文字もじは、当初とうしょピクトグラム(絵文字えもじ)から発達はったつした象形しょうけい文字もじであった[よう出典しゅってん]」という仮説かせつ有力ゆうりょくである[よう出典しゅってん]。しかし、ピクトグラムから象形しょうけい文字もじへの移行いこう裏付うらづける証拠しょうこはほとんど発見はっけんされていない。

一方いっぽうデニス・シュマント=ベッセラ英語えいごばんは、中東ちゅうとう一帯いったい遺跡いせきから発見はっけんされる粘土ねんどせい証票しょうひょう(トークン)が文字もじ起源きげんとなったと主張しゅちょうする[17]しょう取引とりひきさい商品しょうひんごとにかたちことなるトークンをもちい、トークンのかずすうあらわす。きごとのトークンをまとめて中空ちゅうくう粘土ねんどたまふうだま)におさめたり、ひもつづってりょうはし粘土ねんどかたまり(ブッラ)で封印ふういんすることで、きの証明しょうめいとした。のちふうだまやブッラの表面ひょうめんに、トークンのかたちかずしるすようになった。つまり、商品しょうひんをトークンであらわし、さらにトークンとそのかず記号きごう象徴しょうちょうするようになった。これが文字もじの(すくなくとも、この地域ちいきでその使つかわれるようになった楔形文字くさびがたもじ体系たいけいの)起源きげんであるとするせつである。

しかし、このせつへの批判ひはんおおく、現在げんざい主流しゅりゅう見解けんかいでは、トークンは文字もじ誕生たんじょういち要因よういんであったが、トークンのみですべてを説明せつめいすることはできないとされている[よう出典しゅってん]

また、文字もじ単一たんいつ起源きげんから発生はっせいしたのか、それとも地球ちきゅうじょう複数ふくすう地域ちいき独立どくりつ文字もじ誕生たんじょうしたのかについては、学者がくしゃらの見解けんかい一致いっちしていない[よう出典しゅってん]

借用しゃくよう発展はってん

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現在げんざいまでに発見はっけんされている文字もじ体系たいけいは、あまりおおくないいくつかの系統けいとう分類ぶんるいできる。つまり、現在げんざいられる文字もじ体系たいけいのほとんどは、ほかの文字もじ体系たいけい借用しゃくようし、発展はってんさせて成立せいりつしたことがわかっている。借用しゃくようはさまざまなレベルでおこなわれるが、それぞれの系統けいとうには#分類ぶんるいふしべたさまざまな類型るいけいぞくする文字もじ体系たいけいあらわれる。また、個々ここ文字もじ体系たいけいなかでも、さまざまなみやつこ手法しゅほう発展はってんさせてきた。

文字もじという着想ちゃくそう
事実じじつ意志いし伝達でんたつ目的もくてきとし、耐久たいきゅうせいのある媒体ばいたいしるされ、言語げんご関係かんけいした記号きごう体系たいけい、という着想ちゃくそう。これには、一定いってい種類しゅるい記号きごうだけを使つかうこともふくまれる。この着想ちゃくそう単一たんいつ起源きげんつとかんがえる研究けんきゅうしゃもいるが、作業さぎょう仮説かせついきない。現在げんざいでも、この着想ちゃくそうもとづいて計画けいかくてき文字もじ体系たいけいをつくりそうとするこころみはおおい。
書記しょき媒体ばいたい
書記しょき媒体ばいたい粘土ねんどくさびがた記号きごうしるす、ぬのかみすみふでく、など)を借用しゃくようして、ことなる文字もじ体系たいけい表記ひょうきするのにもちいたれい歴史れきしじょうおおい。
線条せんじょうせい
線条せんじょうてきくという方式ほうしき発展はってん初期しょきひょう文字もじには記号きごう順序じゅんじょからは順序じゅんじょ判然はんぜんとしないものがあるが、文字もじ体系たいけいでは、区切くぎ記号きごう導入どうにゅうしてぶんかたり分析ぶんせきして順番じゅんばん表記ひょうきしたり、文字もじ字母じぼ単位たんいとして線条せんじょうてき表記ひょうきすることが一般いっぱんした。
しょ方向ほうこう
かつては、あるくだりからつぎくだりうつるとしょ方向ほうこう反転はんてんさせてすすめることがしばしばおこなわれた。これをブストロフェドンのぞみ: βουστροφηδόνぎゅうこうしきとも)とぶ。文字もじ需要じゅよう増大ぞうだいしてよりはや大量たいりょうくことがもとめられるようになるにつれ、各行かくこう一定いってい方向ほうこうくことがえるが、みぎからひだりへ、ひだりからみぎへ、うえからしたへなどのどのしょ方向ほうこうえらぶかは、文字もじ体系たいけいによってことなる。借用しゃくようさいしょ方向ほうこう変更へんこうしたため、文字もじ図形ずけい反転はんてん左右さゆう変更へんこう場合ばあい)したり、90回転かいてん左右さゆう上下じょうげ変更へんこう場合ばあい)したれいもある。
会意かいい形声けいせい
ひょう文字もじでは、複数ふくすう記号きごうわせてより複雑ふくざつ意味いみあらわ手法しゅほう発展はってんした。たとえばエジプトヒエログリフで、「く」を意味いみする文字もじと「ひと」を意味いみする文字もじわせて
Y3A1
書記しょき)をあらわす。「ひと」の文字もじはこのかたり発音はつおんとはなん関係かんけいもない。このように、意味いみ範疇はんちゅう限定げんていするための記号きごう限定げんていえい: determinitive、決定けってい漢字かんじではとも)とぶ。また、限定げんてい発音はつおんあらわ文字もじ音符おんぷ漢字かんじではこえとも)を付加ふかしてあらわしたいかたり特定とくていすることもある。エジプトヒエログリフの場合ばあい明確めいかくさを向上こうじょうさせるために複数ふくすう限定げんてい音符おんぷ付加ふかすることもある。漢字かんじではこの手法しゅほうはより体系たいけいされており、それぞれ会意かいいおよび形声けいせいばれている。
おと借用しゃくよう
ひょう文字もじから特定とくてい文字もじをいくつか借用しゃくようして、その文字もじあらわ意味いみから類推るいすいされる発音はつおんあらわすものとして使つかう。つまり、ひょう文字もじ借用しゃくようして表音ひょうおん文字もじとして使つかうのである。たいてい、もとかたりは1音節おんせつないしは複数ふくすう音節おんせつ発音はつおんされるので、借用しゃくようさいには語頭ごとう子音しいん音節おんせつだけをあらわすものとみなす。これをあたまおんほうえい: acrophony。頭字かしらじほうとも)とぶ。たとえば、エジプトヒエログリフでは、「あし」をあらわ文字もじ
b
発音はつおんは b)を[b]のおとあらわすのにも使つかうし、万葉仮名まんようがな平仮名ひらがなでは、漢字かんじの「やす」を「あ」のおとあらわ文字もじ転用てんようしている。
すでにある言語げんご使つかわれている表音ひょうおん文字もじ借用しゃくようして、べつ言語げんご表記ひょうきするものとするれい非常ひじょうおおい。この場合ばあいもと文字もじ体系たいけいではあらわせない発音はつおんがあったり、借用しゃくようさき言語げんごにはない発音はつおんあらわ文字もじがあったりする。そこで、発音はつおん字母じぼ変形へんけいしたり、識別しきべつ記号きごうダイアクリティカルマークなど)を付加ふかしたりして文字もじ体系たいけい拡張かくちょうする。たとえば、ラテン文字もじのCは当初とうしょ[k]と[g]のおと両方りょうほうあらわしたが、のちに2つのおと区別くべつされるようになったため、CにかぎけてGとした。場合ばあいによっては、必要ひつようない字母じぼをまったくべつおと表記ひょうき転用てんようすることもある。フェニキア文字もじ子音しいんのみを表記ひょうきするアブジャドだったが、ギリシア表記ひょうき借用しゃくようされたさいにギリシア表記ひょうき必要ひつようのない字母じぼ母音ぼいん表記ひょうき転用てんようされ、アルファベットとなった。このような事情じじょうから、文字もじ体系たいけい字形じけい似通にかよっていても個々ここ文字もじあらわ発音はつおんおおきくことなることがある。
意味いみ借用しゃくよう
ひょう文字もじ文字もじはひとつひとつが言語げんごかたり対応たいおうしているので、文字もじ借用しゃくようして自分じぶんたちの言語げんごかたりあらわすものとする。つまり、文字もじいてその意味いみ固有こゆう発音はつおんむことにする。日本語にほんご訓読くんよはこの代表だいひょうてきれいである。かつて朝鮮ちょうせんでもこの方法ほうほうおこなわれたことがある。ごくまれに、表音ひょうおん文字もじでもこのような借用しゃくようられる。


漢字かんじけん文字もじ体系たいけい

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影響えいきょうけた文字もじ体系たいけい

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ちぎり文字もじたけしおんな文字もじ西にしなつ文字もじチュノム漢字かんじ影響えいきょうけてまれたとかんがえられているが、現在げんざい中国ちゅうごくジンぞくひと使用しようしている。

漢字かんじれた表記ひょうき体系たいけい

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メソアメリカの文字もじ体系たいけい

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複数ふくすう文字もじ体系たいけいから影響えいきょうけた文字もじ体系たいけい

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あらたな文字もじ体系たいけい成立せいりつするときに、複数ふくすう文字もじ体系たいけいれることはしばしばある。また、べつ系統けいとうかれたどう時代じだい文字もじ体系たいけい同士どうしが、影響えいきょうあたえあって発展はってんしていくこともある。本節ほんぶしでは、複数ふくすう文字もじ体系たいけいから影響えいきょうけたことがとくにはっきりしているものをげて解説かいせつする。

近代きんだい以降いこう創出そうしゅつされた文字もじ体系たいけい

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解読かいどくまたは系統けいとうしょう文字もじ体系たいけい

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つね文字もじ
インダス文字もじ
トンパ文字もじ
中国ちゅうごく少数しょうすう民族みんぞくであるナシぞくあいだつたわる文字もじ体系たいけいで、経典きょうてんなどの表記ひょうきもちいられる。抽象ちゅうしょうすすんだひょう文字もじぞくする文字もじと、絵画かいがてきでピクトグラムから象形しょうけい文字もじ段階だんかいはいったばかりとおもわれる文字もじ両方りょうほうつが、その起源きげんについてはまだ十分じゅうぶん研究けんきゅうがない[18]
ファイストスの円盤えんばん文字もじ
ラパヌイ文字もじロンゴロンゴ文字もじ
イースターとう(ラパヌイとう)につたわる石板せきばんられる、文字もじ体系たいけい可能かのうせいがある記号きごう体系たいけいである。[19]一部いちぶ研究けんきゅうしゃは、まり文句もんくしるすためだけに使用しようされたピクトグラムの一種いっしゅで、文字もじ体系たいけいではないと主張しゅちょうしている。基本きほんてき字母じぼかずが120ほどであることから、音素おんそ文字もじである可能かのうせいひくい。現在げんざいのこ文字もじ資料しりょうからられているしょ方向ほうこうは、したからうえくだりすす横書よこがきのブストロフェドンという特異とくいなものである[20]

電気でんき通信つうしん、コンピュータと文字もじ

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脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ たとえばUnicodeでの定義ていぎThe Unicode Consortium (November 3, 2006). The Unicode Standard, Version 5.0 (5th edition ed.). Addison-Wesley Professional. pp. pp.1144, 1151. ISBN 0-321-48091-0 参照さんしょう
  2. ^ あさ: 자질 문자
  3. ^ 作中さくちゅうでは、ちゅうくにだい一紀かずのりエルフフェアノールが、サラティ改良かいりょうしてつくったとされる。
  4. ^ 表音ひょうおん文字もじを、音素おんそ文字もじ音節おんせつ文字もじ素性すじょう文字もじの3類型るいけい分類ぶんるいする研究けんきゅうしゃもいる。Sampson, Geoffrey (1985). Writing systems: a linguistic introduction. Stanford University Press. pp. pp.38-42. ISBN 0-8047-1756-7 などを参照さんしょう

出典しゅってん

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  1. ^ a b 日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ』【文字もじ
  2. ^ もとまきせつぶんかい』、じょぺーじ 
  3. ^ Champollion, Jean-François (1824). Précis du système hiéroglyphique 
  4. ^ 山田やまだたかしひとし「「しょ同文どうぶんこう」『りん』91かん4ごう史学しがく研究けんきゅうかい、2008ねん7がつ、pp. 681ff。
  5. ^ 司馬しば遷『史記しきはたはじめすめらぎ本紀ほんぎだいろく始皇帝しこうていじゅうろくねんじょう
  6. ^ 山田やまだたかしひとし「「文字もじ」なる表記ひょうき誕生たんじょう」『中国ちゅうごく古代こだい論叢ろんそうだい5しゅうたていのちかん東洋とうよう学会がっかい、2008ねん3がつ、73-109。
  7. ^ プラトン『パイドロス』、274A-278Cぺーじ 
  8. ^ ルソー, ジャン-ジャック ちょ小林こばやし善彦よしひこ やく言語げんご起源きげんろん - 旋律せんりつおよ音楽おんがくてき模倣もほうろんず』現代げんだい思潮しちょうしゃ、1970ねん、p.36ぺーじ 原著げんちょ Rousseau, Jean-Jacques (1781). Essai sur l'origine des langues ou il est parlé de la mélodie et de l'imitation musicale )もっともルソーはこののちで、古代こだい有力ゆうりょく文明ぶんめいかならずしもアルファベットを使つかっていたわけではないことをっている。
  9. ^ ひら㔟隆ろう『よみがえる文字もじ呪術じゅじゅつ帝国ていこく - 古代こだいいんしゅう王朝おうちょう素顔すがお中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ、2001ねん6がつISBN 4-12-101593-2 
  10. ^ フェルディナン・ド・ソシュール しる小林こばやし英夫ひでお わけ一般いっぱん言語げんごがく講義こうぎ岩波書店いわなみしょてん、1972ねん、p.47ぺーじISBN 4-00-000089-6 原著げんちょ Saussure, Ferdinand de. Cours de linguistique générale 
  11. ^ 中尾なかお俊夫としお英語えいご歴史れきし講談社こうだんしゃ、1989ねん7がつ、pp.18-27ぺーじISBN 4-06-148958-5 
  12. ^ たとえば Gelb, I. J. (1963). A Study of Writing. University of Chicago Press  参照さんしょう
  13. ^ マルティネ, アンドレ ちょ三宅みやけいさおよしみ やく一般いっぱん言語げんごがく要理ようり岩波書店いわなみしょてん、1972ねん、pp.12-15ぺーじ 原著げんちょ Martinet, André (1970). Éléments de linguistique générale 
  14. ^ たとえば Sproat, Richard William (2000). A Computational Theory of Writing Systems - Studies in Natural Language Processing. Cambridge University Prress. ISBN 0-521-66340-7  参照さんしょう
  15. ^ Daniels and Bright (eds.), 参考さんこう文献ぶんけん. pp.4-5.
  16. ^ Daniels and Bright (eds.), 参考さんこう文献ぶんけん, p.4, 24. などを参照さんしょう
  17. ^ シュマント=ベッセラ、参考さんこう文献ぶんけん。およびSchmandt-Besserat, Denise. “Signs of Life” (PDF). Archaeology Odyssey 2002 (January/February): pp.6-7,63. オリジナルの2008ねん5がつ28にち時点じてんにおけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080528050603/https://webspace.utexas.edu/dsbay/Docs/SignsofLife.pdf. 
  18. ^ 彭飛 (1992). “トンパ文字もじたずねて - おさめ西にし(ナシ)ぞく居住きょじゅうでの現地げんち調査ちょうさから -”. 言語げんご (だいおさむかん) 1992ねん (4がつごう-5がつごう). http://homepage2.nifty.com/ponfei/tonpa/tonpa.htm. 
  19. ^ イースターとう既知きちのどの文字もじ体系たいけいにもぞくさない解読かいどく文字もじきざまれたばん発見はっけんされる”. カラパイア. 2024ねん3がつ12にち閲覧えつらん
  20. ^ 柴田しばた紀男のりお ちょ「ラパヌイ文字もじ」、河野こうの六郎ろくろう千野ちの栄一えいいち西田にしだ龍雄たつお 編著へんちょ へん言語げんごがくだい辞典じてん 別巻べっかん 世界せかい文字もじ辞典じてん三省堂さんせいどう、2001ねん7がつ、pp.1102-1104ぺーじISBN 4-385-15177-6 

参考さんこう文献ぶんけん

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執筆しっぴつにあたって以下いかのものを参考さんこうにした。なお、特定とくてい文字もじ体系たいけいかんする記述きじゅつ参考さんこうにしたものについては#ちゅう参照さんしょう

用語ようご選択せんたく以下いかのものにならった。これらにえないものは原則げんそくとして原語げんご片仮名かたかなきとした。

  • 亀井かめいたかし河野こうの六郎ろくろう千野ちの栄一えいいち編著へんちょ言語げんごがくだい辞典じてん だい6かん 術語じゅつごへん三省堂さんせいどう、1996ねん1がつISBN 4-385-15218-7 
  • 河野こうの六郎ろくろう千野ちの栄一えいいち西田にしだ龍雄たつお 編著へんちょ言語げんごがくだい辞典じてん 別巻べっかん 世界せかい文字もじ辞典じてん三省堂さんせいどう、2001ねん7がつISBN 4-385-15177-6 

全般ぜんぱん#基本きほんてき概念がいねん#分類ぶんるい

  • カルヴェ, ルイ=ジャン ちょ矢島やじま文夫ふみおかんやく)・会津あいづひろし前島まえじま和也かずや やく文字もじ世界せかい河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、1998ねん6がつISBN 4-309-22327-3 原著げんちょ Calvet, Louis-Jean (1996). HISTOIRE DE L'ECRITURE. Plon 
  • Daniels, Peter T. and Bright, William (eds.) (February 1996). The World's Writing Systems. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-507993-7 
  • フィッシャー, スティーヴン・ロジャー ちょ鈴木すずきあきら やく文字もじ歴史れきし研究けんきゅうしゃ、2005ねん10がつISBN 4-327-40141-2 原著げんちょ Fischer, Steven Roger (2001). A History of Writing. Reaktion Books Ltd. 
  • 河野こうの六郎ろくろう文字もじろん三省堂さんせいどう、1994ねん9がつISBN 4-385-35587-8 
  • 河野こうの六郎ろくろう千野ちの栄一えいいち西田にしだ龍雄たつお編著へんちょ言語げんごがくだい辞典じてん 別巻べっかん 世界せかい文字もじ辞典じてん三省堂さんせいどう、2001ねん7がつISBN 4-385-15177-6 

#系統けいとう

  • シュマント=ベッセラ, デニス『文字もじはこうしてまれた』小口おぐち好昭よしあき中田なかた一郎いちろうやく岩波書店いわなみしょてん、2008ねん5がつ原著げんちょ1996ねん)。ISBN 978-4-00-025303-1 原著げんちょ Schmandt-Besserat, Denise (1996). How Writing Came About. Austin: University of Texas Press 
  • デイヴィズ, ヴィヴィアン ちょ塚本つかもと明廣あきひろ やく『エジプトせいこく文字もじ矢島やじま文夫ふみお監修かんしゅう初版しょはん)、學藝がくげい書林しょりんだいえい博物館はくぶつかん双書そうしょ うしなわれた文字もじむ 2〉、1996ねん10がつISBN 4-87517-012-2 原著げんちょ Davies, W.V. (1987). Reading The Past: EGYPTIAN HIEROGLYPHS. British Museum Press 
  • 村田むらた雄二郎ゆうじろう・C. ラマールへん漢字かんじけん近代きんだい - ことばと国家こっか東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい、2005ねん9がつISBN 4-13-083042-2 
  • ナヴェー, ヨセフ ちょ津村つむら俊男としお竹内たけうち茂夫しげお稲垣いながき緋紗子ひさこ やく初期しょきアルファベットの歴史れきし法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱんきょく〈りぶらりあ選書せんしょ〉、2000ねん7がつISBN 4-588-02203-2 原著げんちょ Naveh, Joseph (1987). Early History of the Alphabet: An Introduction to West Semitic Epigraphy and Palaeography (Second revised edition ed.). Jerusarem/Leiden: Magnes Press/E.J.Brill 
  • ウォーカー, クリストファー ちょ大城おおしろ光正みつまさ やく楔形文字くさびがたもじ矢島やじま文夫ふみお監修かんしゅう初版しょはん)、學藝がくげい書林しょりんだいえい博物館はくぶつかん双書そうしょ うしなわれた文字もじむ 1〉、1995ねん11月。ISBN 4-87517-011-4 原著げんちょ Walker, C.B.F. (1987). Reading The Past: CUNEIFORM. British Museum Press 

#電気でんき通信つうしん、コンピュータと文字もじ

  • 三上みかみとうと文字もじ符号ふごう歴史れきし - アジアへん -』共立きょうりつ出版しゅっぱん、2002ねん3がつISBN 4-320-12040-X  (A History of Character Codes in Asia)
  • 安岡やすおか孝一こういち安岡やすおか素子もとこ文字もじ符号ふごう歴史れきし - 欧米おうべい日本にっぽんへん -』2006ねん2がつISBN 4-320-12102-3  (A History of Character Codes in Japan, America and Europe)

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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