パロディ

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曖昧さ回避 星野ほしの源はじめの楽曲がっきょくについては「夢ゆめの外そとへ」を、ジャニーズWESTの楽曲がっきょくについては「しあわせの花はな」をご覧らんください。
ミケランジェロ作さく『アダムの創造そうぞう』のパロディ作品さくひん。パロディ宗教しゅうきょう（英語えいご版ばん）の空そら飛とぶスパゲッティ・モンスター教きょうを象徴しょうちょうする[1]。

パロディ（英語えいご: parody、ギリシア語ご: παρωδία）とは、他た者しゃによって創作そうさくされた文学ぶんがくや音楽おんがく、美術びじゅつ、演説えんぜつなどを模倣もほうした作品さくひん、あるいは作つくり替かえる行為こういそのものを指さす。

後述こうじゅつの通とおり定義ていぎは幅広はばひろく、ユーモアや皮肉ひにくなどの付加ふかが必須ひっすなものから、それらが全まったくないものまで含ふくむ。

辞書じしょにおいては、Merriam-WebsterやCambridge Dictionary（英語えいご版ばん）では「滑稽こっけいさ・ユーモア（comic, ridicule, humorous）」に限定げんていしているが[2][3]、Collins English Dictionaryでは「ユーモアないし皮肉ひにくさ（humorous or satirical）」と定義ていぎされている[4]。自身じしんや自作じさくをパロディ化かした場合ばあいは、セルフパロディと呼よばれることがある[5][6]。

本ほん項こうでは、現代げんだいにおけるパロディの関連かんれん語ごである盗作とうさく（剽窃ひょうせつ、盗用とうよう、パクり）、引用いんよう、物真似ものまね、モンタージュ、オマージュ、風刺ふうし、モンデグリーン（空耳そらみみ）、バーレスク、カリカチュア、パスティーシュ、インターネット・ミームなどとの定義ていぎの相違そうい点てんについても解説かいせつする。

また、パロディの本質ほんしつは模倣もほうであることから、現代げんだいの著作ちょさく権けんや商標しょうひょう権けん上うえでどこまで法的ほうてきに許容きょようされるのか、各国かっこくで合法ごうほう性せいが問とわれることがある。これはパロディの元もととなった著作ちょさく物ぶつ・商標しょうひょうを無断むだんで盗用とうよう・翻案ほんあん（改変かいへん）していると解ほぐされれば、権利けんり侵害しんがいに当あたる可能かのう性せいがあるためである。一部いちぶの国くに・地域ちいき（特とくに欧州おうしゅう連合れんごう加盟かめい国こく）ではパロディを著作ちょさく権けん侵害しんがいの例外れいがいとして法律ほうりつ上じょう明記めいきしているものの[7][8]、具体ぐたい的てきにどのような要件ようけんを満みたせばパロディ作品さくひんが合法ごうほうと認みとめられるのか、司法しほう判断はんだんの場ばではケースバイケースで線引せんひきされている。本ほん項こうではパロディに関連かんれんする各国かっこくの代表だいひょう的てきな判例はんれいも紹介しょうかいする。

誤用ごようだが、模倣もほう自体じたいよりそれの面白おもしろさが目立めだつなど、単たんに面白おもしろいものという意味いみでパロディという用語ようごが使つかわれる場合ばあいがある。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

パロディの歴史れきしは紀元前きげんぜんにまで遡さかのぼり、古代こだいギリシャや古代こだいローマ文化ぶんかにも見受みうけられるが、当時とうじは必かならずしも滑稽こっけいさや皮肉ひにく、批判ひはんなどのニュアンスが込こめられたものばかりではなく、カジュアルな文脈ぶんみゃくでの単純たんじゅんな模倣もほうや類似るいじ作品さくひんもパロディの定義ていぎには含ふくまれていた[9]。パロディ (parody) の語源ごげんである "parodia" は、古ふるくは紀元前きげんぜん4世紀せいきのギリシャ哲学てつがく者しゃ・アリストテレス『詩学しがく』に記しるされており、これが概念がいねん用語ようごとしてのパロディの初出しょしゅつとされる[10]。

以降いこう、パロディの定義ていぎは変遷へんせんしていき複数ふくすう存在そんざいするが、現代げんだいの辞書じしょ的てきな意味合いみあいとしては以下いかの特徴とくちょうを有ゆうする[11]。

  • パロディの元もととなった作品さくひんが一般いっぱん的てきに知しられており、何なにを模倣もほうしたのかがあからさまであること
  • パロディの元もととなった作品さくひんのスタイルや特徴とくちょうを残のこしつつ、改変かいへんしていること
  • パロディ化かによって滑稽こっけいさや風刺ふうしが感かんじられること

しかし、『パロディの理論りろん』を記しるしたカナダの文学ぶんがく理論りろん研究けんきゅう家かリンダ・ハッチオン（英語えいご版ばん） (1947年ねん -) は、元もとネタが著名ちょめいであることをパロディの必須ひっす要件ようけんとしておらず、類似るいじ性せいよりも差異さい性せい (ギャップ) の際立きわだつ模倣もほうであることに重点じゅうてんを置おいた定義ていぎを用もちいている[12][13]:202。

また、滑稽こっけいさが全まったくない、ごく真面目まじめで重厚じゅうこうな作風さくふうもパロディの範疇はんちゅうに含ふくめることがある。その典型てんけい例れいがドイツ出身しゅっしんでノーベル文学ぶんがく賞しょう受賞じゅしょう者しゃのトーマス・マン（詳細しょうさい後述こうじゅつ）である[14][15]:657。マンは教養きょうよう小説しょうせつの作家さっかに分類ぶんるいされているが[16]、同時どうじにゲーテなどを下敷したじきにしたパロディ作家さっかとしての側面そくめんもある[17]。

関連かんれん語ごとの相違そうい点てん[編集へんしゅう]

盗作とうさく、引用いんよう、オマージュとの違ちがい
盗作とうさく（剽窃ひょうせつ、パクり）や引用いんようとは異ことなり、元もとネタから何なんらかの改変かいへんがなされ、滑稽こっけいさや風刺ふうしが効きいているものを一般いっぱん的てきにはパロディと呼よんでいる。しかし、改変かいへんは全体ぜんたい的てきに行おこなわれている必要ひつようはない。たとえば紀元前きげんぜんのホメーロス作品さくひんの一節いっせつと、17世紀せいきフランスで活躍かつやくしたピエール・コルネイユの代表だいひょう的てき悲劇ひげき『ル・シッド』では単語たんご1つ置おき換かえただけで残のこりは完全かんぜんに一致いっちする箇所かしょがある。このようなケースもパロディとみなされている[18]。一方いっぽうで、ディズニーの『ライオン・キング』は手塚てづか治虫おさむの『ジャングル大帝たいてい』と類似るいじ性せいが高たかいことから、パクリだとの批判ひはんを受うけることも多おおい[19][注ちゅう 1]。これらの例れいからも分わかるように、どこからが盗作とうさくになるのか線引せんひきは曖昧あいまいである[21]。
オマージュ（仏ふつ: homage）とは元来がんらい「尊敬そんけいの意いを表ひょうすること」とされ、そこから転てんじて、尊敬そんけいする作品さくひんから影響えいきょうを受うけて別べつの作品さくひんを創作そうさくする行為こういもオマージュと定義ていぎされる[22][23]。特とくに映画えいが業界ぎょうかいではオマージュが盛さかんに行おこなわれているとされる[20]。一いち例れいを挙あげると、米国べいこくの西部せいぶ劇げき映画えいが『荒野あらのの七なな人にん』は黒澤くろさわ明あきら監督かんとくの映画えいが『七人しちにんの侍さむらい』のオマージュだとされている[24]:1。
したがって、元もとネタとの類似るいじ性せいという観点かんてんでは盗作とうさく、オマージュおよびパロディ間あいだで共通きょうつうし、識別しきべつは個々人ここじんの感性かんせいに委ゆだねられている[24]:2。しかしあえて相違そうい点てんを挙あげるとするならば、公おおやけに発覚はっかくすることを恐おそれるのが盗作とうさく、公おおやけ（または元もとネタの作者さくしゃ）に発見はっけんしてもらいたいと願ねがうのがオマージュ、公おおやけに気きづいてもらわないと困こまるのがパロディとも言いえる[25]。オマージュもパロディも、鑑賞かんしょうする者ものが元もとネタを知しっている（知しっていてほしい）前提ぜんていで創作そうさくされている[26][11]。しかしオマージュと違ちがってパロディの場合ばあい、必かならずしも元もとネタに対たいする尊敬そんけいの念ねんだけが創作そうさくの動機どうきとはならず、元もとネタの作者さくしゃから反感はんかんを買かう恐おそれのあるような作風さくふうもパロディには包含ほうがんされる[27]。
風刺ふうしとの違ちがい
先述せんじゅつのとおり、パロディには皮肉ひにく・風刺ふうし（satire）のニュアンスが付つけ加くわえられることがあるが[4]、パロディと風刺ふうしの両者りょうしゃを定義ていぎ上じょう明確めいかくに区別くべつすることがある[28]。米国べいこくの1994年ねん連邦れんぽう最高裁さいこうさい判決はんけつ（通称つうしょう：プリティウーマン判決はんけつ、詳細しょうさい後述こうじゅつ）によると、パロディと風刺ふうしでは批評ひひょうする対象たいしょうが異ことなると指摘してきされている。つまり、パロディが元もとネタとなった "作品さくひん" に対たいする批評ひひょう・コメントであるのに対たいし、風刺ふうしが向むく矛先ほこさきは元もとネタ作品さくひんそのものではなく "社会しゃかい" である。このような違ちがいから、風刺ふうしは必かならずしも他たの作品さくひんに依拠いきょせずに成立せいりつしうる。そして、社会しゃかいを批判ひはんする目的もくてきで他者たしゃの作品さくひんを踏ふみ台だいに利用りようしていることから、パロディと比くらべて風刺ふうしは著作ちょさく権けん侵害しんがいの判定はんていを受うけやすいとも言いわれている（米国べいこくの場合ばあい）[28][29][30]。
モンタージュとの違ちがい
モンタージュ（仏ふつ: montage、組くみ立たての意い）とは、映像えいぞう（とりわけ映画えいが）の世界せかいでは複数ふくすうの映像えいぞうカットを組くみ合あわせ、何なんらかの意味いみを持もたせて一ひとつの作品さくひんに仕上しあげる手法しゅほうを指さす[31]。また、モンタージュ写真しゃしん（あるいはフォト・モンタージュ）と言いえば、複数ふくすうの写真しゃしんの中なかからそれぞれ一部いちぶを切きり取とって合成ごうせいする手法しゅほうであり、事件じけん捜査そうさ現場げんばでは指名しめい手配てはい犯はんの合成ごうせい写真しゃしん作成さくせいのことを指さす場合ばあいもある[32]。これに関連かんれんして、フォト・モンタージュ技法ぎほうを用もちいた作品さくひんがパロディなのか著作ちょさく権けん侵害しんがいなのかが問とわれた日本にっぽんの1980年ねん最高裁さいこうさい判決はんけつ「パロディ・モンタージュ写真しゃしん事件じけん」が知しられている（#パロディに対たいする法的ほうてき取とり扱あつかいで後述こうじゅつ）。本件ほんけんでは引用いんようの要件ようけんについても法的ほうてきに検討けんとうされた[33][34][35]。
文学ぶんがくの世界せかいでは、前述ぜんじゅつのトーマス・マンが自身じしんの執筆しっぴつ手法しゅほうを「モンタージュ技法ぎほう」と呼よんでいる。過去かこの様々さまざまな文芸ぶんげい作品さくひんから一いち部分ぶぶんを引用いんよう（無断むだんで剽窃ひょうせつ）してきて、自作じさくに溶とけ込こませる手法しゅほうである[15]:655。マン流りゅうのモンタージュ技法ぎほうは「どこかから取とってきたとは普通ふつう読よむ方ほうは気きづかない」ことを特徴とくちょうとしており[15]:655、パロディのようにどこから取とってきたのか意図いと的てきに明確めいかくにした上うえで模倣もほうする手法しゅほう[11]とは異ことなる。
カリカチュア、パスティーシュとの違ちがい
カリカチュアの例。風刺雑誌に掲載されたダーウィンの顔とオランウータンの体 (1871年作) 1869年のダーウィン（ジュリア・マーガレット・キャメロン撮影）
カリカチュアの例れい。風刺ふうし雑誌ざっしに掲載けいさいされたダーウィンの顔かおとオランウータンの体からだ (1871年ねん作さく)
1869年ねんのダーウィン（ジュリア・マーガレット・キャメロン撮影さつえい）
カリカチュア (caricature) とは、特とくに人ひとを描えがく際さいに特徴とくちょうの一部いちぶを誇張こちょうして、滑稽こっけいさやコミカルさを表現ひょうげんする手法しゅほうと定義ていぎされる。模もしているという意味いみではパロディと共通きょうつうするが、カリカチュアには写実しゃじつ性せいがかけ、馬鹿馬鹿ばかばかしいほどに貧弱ひんじゃくな模倣もほうだとされる[36]。パスティーシュ (pastiche) はカリカチュアのように人物じんぶつにフォーカスすることはなく、広ひろく芸術げいじゅつ作品さくひんや芸術げいじゅつ家か、あるいは時代じだいを何なんらかのスタイルで模倣もほうする行為こういを指さす[36]。また、パロディのような皮肉ひにくの要素ようそはパスティーシュには含ふくまれない違ちがいがある[37]。
欧州おうしゅう連合れんごう (EU) の著作ちょさく権けん法ほうの一部いちぶである2001年ねん情報じょうほう社会しゃかい指令しれい (2001/29/EC) 上じょうでは、著作ちょさく権けん侵害しんがいの例外れいがいとしてカリカチュア、パロディ、パスティーシュの3つが同列どうれつで扱あつかわれていることから、別々べつべつの概念がいねんとして認識にんしきされている[7]。またイギリス知的ちてき財産ざいさん庁ちょう (UKIPO) が2014年ねんに発行はっこうした著作ちょさく権けん法ほうの公式こうしきガイダンス文書ぶんしょによると、パロディはユーモアないし風刺ふうしを効きかせていること、そして模倣もほうしているものの元もとネタから大おおきく改変かいへんされていることを要件ようけんとして挙あげている。パスティーシュは様々さまざまな作品さくひんから組くみ合あわせて作風さくふうや時代じだいの特徴とくちょうを取とり入いれているものを指さし、特とくに音楽おんがく著作ちょさく物ぶつがこれに該当がいとうする。カリカチュアは政治せいじ目的もくてきと娯楽ごらく目的もくてき、侮辱ぶじょくと称賛しょうさんのいずれもありうるが、描えがく対象たいしょうを簡略かんりゃく化かないし誇張こちょうする手法しゅほうに特徴とくちょうがある[38]。
ミームとの違ちがい
ミーム（meme）とは、ある文化ぶんか・社会しゃかいにおいてアイディア、行動こうどう、スタイル、用法ようほうが人ひとから人ひとへと伝達でんたつされる現象げんしょうである[39]。おもしろ画像がぞう・動画どうがなどがミームの例れいとして挙あげられ[39]、とりわけソーシャルメディア（SNS）などのインターネットを介かいして拡散かくさんする場合ばあいをインターネット・ミームと呼よぶ[40]。ミームは進化しんか生物せいぶつ学者がくしゃリチャード・ドーキンズの造語ぞうごであり[注ちゅう 2]、ドーキンズの文脈ぶんみゃくに沿そうと、ミームは模倣もほうないしパロディ要素ようそが必要ひつようとされ、元もとネタを使つかっている様さまが明確めいかくでなければならないとされていることから[40]、ミームとパロディには共通きょうつう項こうが多おおい。ただしミームとは模倣もほうされた作品さくひんそのものを指さす用語ようごではなく、模倣もほうする社会しゃかい的てきプロセスであるとされる。さらにインターネット・ミームは、あるミームが別べつのミーム (派生はせい作品さくひん) を次々つぎつぎと生うみ出だしていく社会しゃかい連鎖れんさを特徴とくちょうとしている[40]。EUではパロディに次ついでインターネット・ミームも、2019年ねんに成立せいりつしたDSM著作ちょさく権けん指令しれい（Directive (EU) 2019/790）によって著作ちょさく権けん侵害しんがいの例外れいがいに指定していされることとなった[43][44]。
バーレスクとの違ちがい
バーレスク（burlesque）は「馬鹿ばかげた・奇妙きみょうなパロディ」（grotesque parody）と定義ていぎされることもある[13]:202。バーレスクの意味いみは時代じだいと共ともに変遷へんせんしているが、17世紀せいきから18世紀せいきにかけてのイギリスでは、文学ぶんがくや演劇えんげき、音楽おんがく作品さくひんなどを風刺ふうししたパロディを指さした。特とくに演劇えんげきではまじめな題材だいざいや有名人ゆうめいじんを茶化ちゃかしたり滑稽こっけい化かする大衆たいしゅう向むけの見世物みせものである[45]。しかし時代じだいが下さがると、次第しだいに批判ひはんや風刺ふうしの要素ようそは薄うすれ、特とくに米国べいこくではストリップショーの要素ようそが加くわわった[45]。

起源きげん[編集へんしゅう]

パロディの古典こてん作品さくひん『蛙かえる鼠ねずみ合戦かっせん』をイメージした挿絵さしえ (Louis Joseph Trimolet作さく、1841年ねん)。

古代こだいギリシャ語ごでパロディは ϖαροδια と記しるされ、ϖαρα と οδος に分解ぶんかいできる[18]。前半ぜんはん部分ぶぶんの ϖαρα には「歌うたうこと」の意味いみが含ふくまれており、具体ぐたい的てきには韻文いんぶんの詩しを元来がんらいは指さしていた[46]。その後ごに散文さんぶんもこの用語ようごの範疇はんちゅうとして含ふくまれるようになった[46]。また後半こうはん部分ぶぶんの οδος には、アイディアに対たいする共感きょうかん・類似るいじ性せい、あるいは糾弾きゅうだん、反論はんろんや見解けんかいの相違そういを表現ひょうげんするとの意味いみもあった[46]。したがってこれらを複ふく合ごうすると当時とうじのパロディは、歌唱かしょうあるいは作曲さっきょくされるものであり、元もととなった作品さくひんと何なんらかの差異さいが認みとめられるものを指さしていたと考かんがえられる[46]。そして一般いっぱん庶民しょみんは、原作げんさくよりもくだけた対象たいしょうやシチュエーションでこのようなパロディの手法しゅほうを用もちいた[46]。ただし、現代げんだいの意味いみするところのパロディとニュアンスは異ことなり、古代こだいでは必かならずしも過去かこの偉大いだいな作品さくひんを嘲笑ちょうしょうする目的もくてきに限かぎられるものではなかった[47]。以下いか、具体ぐたい的てきな作品さくひん例れいを見みていく。

紀元前きげんぜん5世紀せいきに活躍かつやくしたエウリピデスはギリシャ三さん大だい悲劇ひげき詩人しじんの一人ひとりと評ひょうされるが[48]、喜劇きげきも手掛てがけており、『キュクロプス』は完全かんぜんな形かたちで現存げんそんする唯一ゆいいつのサテュロス劇げきとされる[49]。サテュロスとはギリシャ神話しんわに登場とうじょうする半はん獣しし半はん人にんであり、陽気ようきで酒飲さけのみの好色こうしょくキャラクターとして描えがかれている[50]。このサテュロスが登場とうじょうする喜劇きげきがサテュロス劇げきであり、下品げひんな下しもネタなどが使つかわれている[49]。しかし『キュクロプス』と比較ひかく対象たいしょうとなる他者たしゃの元もと作品さくひんが物理ぶつり的てきに確認かくにん不可能ふかのうなことから、『キュクロプス』を何なんらかのパロディと呼よぶべきか判定はんてい困難こんなんだとされている[51]。また、紀元前きげんぜん5世紀せいき - 4世紀せいきのギリシャ喜劇きげき詩人しじんアリストパネスはパロディ作品さくひんを生うみ出だしたことで一般いっぱん的てきに知しられ[52]、先述せんじゅつのエウリピデス (生誕せいたんはアリストパネスより30年ねんほど前まえの人物じんぶつ)[48]の作品さくひんを下敷したじきにしていると言いわれるが、この見解けんかいについては異論いろんも出でており、アリストパネスをパロディ作家さっかと呼よべるか断定だんていできていない[53]。

紀元前きげんぜん4世紀せいきの哲学てつがく者しゃアリストテレス著ちょ『詩学しがく』によると、パロディの発明はつめい者しゃはタソスのヘゲモン（英語えいご版ばん） (紀元前きげんぜん5世紀せいき頃ごろの作家さっか[54]) だと記しるされている (1448a9-18)[55]:94[56]。ここでの「発明はつめい者しゃ」であるが、パロディを一ひとつの文学ぶんがくジャンルとして確立かくりつさせた者ものを意味いみすると考かんがえられている[54]。

学説がくせつ上じょう、パロディだと確認かくにんがとれている現存げんそんの古典こてん作品さくひん例れいとしては、『蛙かえる鼠ねずみ合戦かっせん』（"Batrachomyomachia"、古代こだいギリシア語ご: Βατραχομυομαχία）[注ちゅう 3]が挙あげられ[58][18]、パロディの中なかでも特とくにバーレスク的てきであるとも分類ぶんるいされている[59]。『蛙かえる鼠ねずみ合戦かっせん』は長短ちょうたん短たんの6歩ほ格かくで構成こうせいされる韻文いんぶんであり、トロイア戦争せんそうを扱あつかったホメーロス作さく『イーリアス』を嘲笑ちょうしょうするような文体ぶんたいで知しられ[57][58][注ちゅう 4]、カエルとネズミの争あらそいに置おき換かわっている[18]。また、主神しゅしんゼウスを始はじめとするオリュンポス十じゅう二に神かみも、スキャンダラスな逸話いつわがたびたび伝つたえられていることから、格好かっこうのパロディ材料ざいりょうとなった[61]。他ほかにも紀元前きげんぜん4世紀せいき半なかばに活躍かつやくした喜劇きげき作家さっかのエウブロス（英語えいご版ばん）[62]、紀元前きげんぜん3世紀せいき - 2世紀せいきの古代こだいローマ喜劇きげき作家さっかプラウトゥス[注ちゅう 5]などがパロディ作家さっかとして知しられている[64]。

格調かくちょう高たかい文体ぶんたいで下しも賤なトピックを扱あつかうパターン、あるいは下しも賤な文体ぶんたいで高尚こうしょうなトピックを扱あつかうパターン (擬似ぎじ英雄えいゆう詩しなど) のどちらも古代こだいのパロディに見みられる[61]。

種類しゅるい[編集へんしゅう]

世界中せかいじゅうに無数むすうのパロディ作品さくひんが存在そんざいするが、パロディの内訳うちわけを解説かいせつする目的もくてきでその一部いちぶを以下いかに紹介しょうかいする。

音おとに着目ちゃくもくしたパロディ[編集へんしゅう]

文芸ぶんげいにおけるもじりとは、一ひとつの語句ごくに複数ふくすうの異ことなる意味いみを持もたせることで滑稽こっけいさを生うみ出だす手法しゅほうである[65]。特とくに同音どうおんまたは類似るいじ音おんを用もちいた語呂合ごろあわせなどを指さし、有名ゆうめいな詩しや和歌わか、歌謡かようなどを元もとネタにして笑わらわせる目的もくてきで創作そうさくされることから、パロディの一種いっしゅとしての側面そくめんがある[66]:ⅰ。たとえば鎌倉かまくら時代ときよに藤原ふじわら定家さだいえが選定せんていした『小倉おぐら百ひゃく人にん一いち首しゅ』を元もとにして、江戸えど時代じだいには「もじり百ひゃく人にん一いち首しゅ」が登場とうじょうし、大衆たいしゅうに親したしまれた[66]:ⅰ。また、替かえ歌うたも原曲げんきょくの歌詞かしをもじってパロディ化かさせたものと定義ていぎされている[67]。

パロディとしての狂歌きょうか (上うえ) と原著げんちょ作物さくもつ (下した) の比較ひかく
ひとつとりふたつとりては焼やいて食くう鶉うずらなくなる深草ふかくさの里さと（大田おおた南畝なんぽ作さく）[19]
夕ゆうされば野辺のべの秋風あきかぜ身みにしみて鶉うずら鳴なくなり深草ふかくさの里さと（藤原ふじわら俊成としなり作さく）[19]
“
”

狂歌きょうかとは和歌わかの一種いっしゅであり、滑稽こっけいで日常にちじょう卑近ひきんの生活せいかつなどを題材だいざいとして詠よまれることから[68]、替かえ歌うた、もじり歌か、パロディの要素ようそが狂歌きょうかに含ふくまれる[69]:77。特とくに『万葉集まんようしゅう』の戯おどけ笑わらい歌か、『古今ここん集しゅう』の誹諧はいかい歌かや軍記物語ぐんきものがたり中ちゅうの落首らくしゅなどが狂歌きょうかとして知しられている[68]。狂歌きょうかは一般いっぱん的てきに卑俗ひぞくさが特徴とくちょうとされるものの、 歌麿うたまろの『絵本えほん百ひゃく千鳥ちどり狂きょう歌合うたあわせはせ』などには文学ぶんがく的てきに洗あらい練度れんどの高たかいものも存在そんざいする[69]:80。

単たんなる聞きき間違まちがい（空耳そらみみ）が偶然ぐうぜんにも別べつの意味いみや文脈ぶんみゃくを持もち、ユーモアにつながることもある[70]。これはモンデグリーン (mondegreen) とも呼よばれ[71]、1954年ねんが初出しょしゅつと比較的ひかくてき新あたらしい造語ぞうごである[70][72]。たとえば日本にっぽんのテレビ番組ばんぐみ『タモリ倶楽部くらぶ』内ないの一いちコーナー「空耳そらみみアワー」では、外国がいこく語ごの歌詞かしが日本語にほんごで全まったく異ことなる意味いみに聞きこえるネタを数多かずおおく扱あつかっている。一いち例れいを挙あげると、"By reaching inside, reaching inside" が「わるいチンゲンサイいいチンゲンサイ」に空耳そらみみするといった具合ぐあいである[73]:19。このようなモンデグリーンを言語げんご学がくの弁別べんべつ素性すじょうの観点かんてんから学術がくじゅつ的てきに解明かいめいする研究けんきゅうも行おこなわれている[73]:19。

美術びじゅつパロディ[編集へんしゅう]

17世紀せいきバロック期きに活躍かつやくしたスペイン画家がかベラスケスの代表だいひょう作さく『ラス・メニーナス』(女官にょかんたち) は後世こうせいの画家がかに大おおきな影響えいきょうを与あたえ、特とくにピカソは45点てんもの翻案ほんあんを行おこなっており[74]、これらの連作れんさくはパロディとみなされている[75][13]:202。また2017年ねんに英国えいこくロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ (RA) が発表はっぴょうした「最もっともパロディ化かされた芸術げいじゅつ作品さくひん10選せん」では、絵画かいがや彫刻ちょうこくなどの名作めいさくが様々さまざまなパターンで繰くり返かえしパロディ化かされている様さまが見みて取とれる[注ちゅう 6]。

真面目まじめなパロディ[編集へんしゅう]

ドイツ出身しゅっしんで1929年ねんにノーベル文学ぶんがく賞しょうを受賞じゅしょう[16]したトーマス・マンは、真面目まじめなパロディ作品さくひんの創作そうさくを通つうじてユートピア的てきな世界せかい観かんを表現ひょうげんしたとされる[17]、代表だいひょう的てきなパロディ作家さっかの一人ひとりである[14][注ちゅう 7]。長編ちょうへん小説しょうせつ『魔まの山やま』(1924年ねん) には、ゲーテの教養きょうよう小説しょうせつ『ヴィルヘルム・マイスターの修業しゅうぎょう時代じだい』(1795年ねん - 1796年ねん) をパロディ化かした要素ようそが含ふくまれている[17]。『ファウストゥス博士はかせ』(1947年ねん) では、小説しょうせつの登場とうじょう人物じんぶつを介かいしてパロディとは何なにであるかを語かたらせているが、必かならずしも「滑稽こっけいな」模倣もほうに限定げんていされるものではないとしている[78]。また『詐欺さぎ師しフェーリクス・クルルの告白こくはく』(1954年ねん) も複数ふくすうの作品さくひんを下敷したじきにしたパロディとみなされているが、これらマンの作品さくひんは滑稽こっけいさと皮肉ひにくさが同居どうきょしているとの特徴とくちょうが指摘してきされている[14]。なお、古代こだいパロディとして挙あげられるサチュロス劇げきのことを「茶番ちゃばん劇げき」だとマンは語かたっている[79]。

実演じつえんによるパロディ[編集へんしゅう]

映像えいぞう外部がいぶリンク
ボールドウィンによるパロディ - 2016年ねん放送ほうそう分ぶんの抜粋ばっすいクリップ（番組ばんぐみ公式こうしきYouTubeより）
パロディの元もとネタとなった2016年ねん大統領だいとうりょう選せんTV討論とうろん会かい - 2016年ねん9月がつ26日にち開催かいさい・第だい1回かい: トランプ対たいクリントン（討論とうろん会かいを報ほうじたNBC News公式こうしきYouTubeより）

パロディの辞書じしょ的てきな定義ていぎには文学ぶんがくや美術びじゅつといった固定こていされた作品さくひんだけでなく、曲きょくや演説えんぜつといったライブも含ふくまれているように[2]、作品さくひん（物もの）だけでなく人ひとや動物どうぶつなど（生いき物もの）がパロディの題材だいざいになることがある。したがって、物ものまね (音声おんせいや形態けいたいを他者たしゃが声こえや身みぶりで模倣もほうする行為こうい[80]) の一部いちぶもパロディ的てきな要素ようそが含ふくまれる。

たとえば米国べいこくのコメディバラエティTV番組ばんぐみ『サタデー・ナイト・ライブ』（SNL）では政治せいじ家かのパロディコントがシリーズ化かしており、特とくに第だい45代だい大統領だいとうりょうドナルド・トランプを揶揄やゆしたSNLパロディシリーズ（英語えいご版ばん）は、トランプを演えんじたアレック・ボールドウィンが第だい69回かいプライムタイム・エミー賞しょう助演じょえん男優だんゆう賞しょう (2017年ねん発表はっぴょう) を受賞じゅしょうしている[81]。またフランスでは、歌手かしゅの物ものまねがパロディとみなされて法的ほうてきに許容きょよううるのかが問とわれた訴訟そしょうもある（詳細しょうさい後述こうじゅつ）[82]。

芸術げいじゅつ以外いがいのパロディ[編集へんしゅう]

「パロディ科学かがく（英語えいご版ばん）」も参照さんしょう

ノーベル賞しょうのパロディと位置付いちづけられ、独創どくそう性せいに富とむ研究けんきゅうや発明はつめいなどに贈おくられるのがイグノーベル賞しょうである。物理ぶつり学がくや化学かがく、医学いがくといった自然しぜん科学かがくのほか、経済けいざい学がくや平和へいわなども受賞じゅしょう部門ぶもんに設もうけている[83]。イグノーベル賞しょうはユーモア科学かがく雑誌ざっし『ありそうもない研究けんきゅう年報ねんぽう（英語えいご版ばん）』が主催しゅさいしている[83]。

ビジネス上じょうのパロディ[編集へんしゅう]

市販しはんされる商品しょうひんがパロディの対象たいしょうとなったこともある。通称つうしょう「面白おもしろい」恋人こいびと事件じけんは、北海道ほっかいどう・札幌さっぽろ名物めいぶつの洋菓子ようがし「白しろい恋人こいびと」を模もして、お笑わらい芸人げいにんを多数たすう擁ようする吉本興業よしもとこうぎょうが大阪おおさか名物めいぶつ「面白おもしろい恋人こいびと」の商品しょうひん名めいで売うり出だしたことから、2011年ねんに訴訟そしょうへと発展はってんし[84]、メディアからの注目ちゅうもくを集あつめた[85]。当初とうしょからパロディとして商品しょうひん企画きかくされており、パッケージデザインにも共通きょうつう性せいが感かんじ取とられることから、商標しょうひょう権けんおよび不正ふせい競争きょうそう防止ぼうしの観点かんてんが法的ほうてきに問とわれることとなった[84]。

また米国べいこくでは、ルイ・ヴィトンやスターバックスといった知名度ちめいどの高たかい企業きぎょうの商標しょうひょうを模もしたパロディが法的ほうてきに検証けんしょうされた事例じれいもある（詳細しょうさい後述こうじゅつ）。商標しょうひょう法ほうがこれら大だい企業きぎょうを過剰かじょうに擁護ようごし、結果けっかとして中小ちゅうしょうのパロディ創作そうさく者しゃの表現ひょうげんの自由じゆうが抑圧よくあつされているとの指摘してきもある[86][87]。

法的ほうてき取とり扱あつかい[編集へんしゅう]

元もととなった作品さくひんの創作そうさく者しゃや権利けんり者しゃから許諾きょだくを得えずに、第三者だいさんしゃがパロディを創作そうさくする行為こういが法的ほうてきに許容きょようされるかは各国かっこくの法律ほうりつにより異ことなる。後述こうじゅつのとおり、実際じっさいに訴訟そしょうに発展はってんしたケースでは、著作ちょさく権けんないし商標しょうひょう権けん (いずれも知的ちてき財産ざいさん権けんの一部いちぶ)、あるいは不正ふせい競争きょうそう防止ぼうしが争点そうてんとなっている。

パロディを巡めぐる著作ちょさく権けんの議論ぎろんでは、著作ちょさく財産ざいさん権けん（著作ちょさく物ぶつを使つかった複製ふくせい、翻案ほんあん、実演じつえんなどの独占どくせん権けん）だけでなく、著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんの一ひとつである同一どういつ性せい保持ほじ権けんが権利けんり侵害しんがいとして問とわれる可能かのう性せいがある[88]。一般いっぱん的てきな著作ちょさく権けん法ほうにおける「翻案ほんあん」とは、たとえば小説しょうせつの映画えいが化かや文章ぶんしょうの要約ようやく作成さくせい、コンピュータ・プログラムのバージョンアップのほか[89]、音楽おんがくの編曲へんきょくや文章ぶんしょうの翻訳ほんやくなどが含ふくまれることから、原著げんちょ作物さくもつを用もちいた二に次じ的てき著作ちょさく物ぶつの創作そうさく（二に次じ創作そうさく）をも包含ほうがんする[90]。また同一どういつ性せい保持ほじ権けんとは、著作ちょさく者しゃの思想しそうや感情かんじょうが反映はんえいされた著作ちょさく物ぶつを無断むだんで第三者だいさんしゃに改変かいへんされない権利けんりである[91]。著作ちょさく権けんの基本きほん条約じょうやくであるベルヌ条約じょうやく（2020年ねん10月がつ時点じてんで世界せかい170か国こく以上いじょうが加盟かめい[注ちゅう 8]）でも、著作ちょさく者しゃの名誉めいよ声望せいぼうを毀損きそんする行為こういが禁きんじられており、著作ちょさく者しゃの人格じんかくが世界せかい的てきに保護ほごされている[91]。したがって、原著げんちょ作物さくもつの著作ちょさく者しゃの名なを汚けがすような歪いがんだ改変かいへんこそが醍醐味だいごみとも言いえるパロディは、翻案ほんあん権けんの観点かんてんからも同一どういつ性せい保持ほじ権けんの観点かんてんからも法的ほうてきに矛盾むじゅんを抱かかえることとなる[94]。ただし、パロディの創作そうさく側がわにも各国かっこくの憲法けんぽう上じょうで表現ひょうげんの自由じゆうが保障ほしょうされていることから、著作ちょさく権けん者しゃ側がわの独占どくせん的てきな権利けんりとの間あいだで利益りえきバランスが図はかられることになる[95]。

各国かっこくの著作ちょさく権けん法ほう上じょうでのパロディ規定きてい
  • 条文じょうぶん上じょうで著作ちょさく権けん侵害しんがいの対象たいしょうからパロディを除外じょがいする個別こべつ規定きていを設もうけている国くに: フランス、スペイン、オーストラリア、ベルギー、オランダ、スイス、ブラジル、イギリス、カナダ[96][注ちゅう 9]
  • 条文じょうぶん上じょうで明記めいきはないが、フェアユース等ひとしの一般いっぱん規定きていに基もとづき、柔軟じゅうなんな司法しほう判断はんだんでパロディを認みとめている国くに: 米国べいこく[96]
  • 条文じょうぶん上じょうでパロディ個別こべつ明記めいきも一般いっぱん規定きていも存在そんざいしない国くに: ドイツ、スウェーデン、イタリア、ハンガリー、ポーランド、韓国かんこく[96]、日本にっぽん[88]

つづいて商標しょうひょう権けんとは、自社じしゃ・自己じこの商品しょうひんやサービスに用もちいられるマークやネーミングである商標しょうひょうに適用てきようされる権利けんりであり、他社たしゃ・他者たしゃと区別くべつすることを目的もくてきとしている[99]。商標しょうひょう権けんを有ゆうする事業じぎょう者しゃや個人こじんを保護ほごするだけでなく、商品しょうひんやサービスを購入こうにゅうする消費しょうひ者しゃが混同こんどうして不利益ふりえきを被かぶらないよう、消費しょうひ者しゃ保護ほごの側面そくめんもある[100][注ちゅう 10]。この「混同こんどう」の観点かんてんは、商標しょうひょう法ほうだけでなく不正ふせい競争きょうそう防止ぼうしにも当あてはまる国くに（フランス[102]:23や米国べいこく[103]など）がある。

以下いか、国くに別べつに判例はんれいを交まじえて見みていく。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく法ほう[編集へんしゅう]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおけるパロディの創作そうさく行為こういは、米国べいこく著作ちょさく権けん法ほうを収録しゅうろくした合衆国がっしゅうこく法典ほうてん第だい17編へんの第だい107条じょうにおいて、フェアユース (公正こうせい利用りようの法理ほうり) の抗弁こうべんに基もとづき許容きょようされる場合ばあいがある[104]。

またランハム法ほう（英語えいご版ばん） (Lanham Act あるいは the Trademark Act of 1946) では登録とうろく済ずみ商標しょうひょうを保護ほごするほか、未登録みとうろくであっても不正ふせい競争きょうそう防止ぼうしの観点かんてんから商標しょうひょうの希釈きしゃく化かなどを抑止よくしする[105]。ランハム法ほうは2006年ねん改正かいせいによって、混同こんどうのおそれのない場合ばあいに限かぎってパロディ目的もくてきなどの利用りよう緩和かんわを認みとめている[106]。訴訟そしょうに至いたった場合ばあいは、著作ちょさく権けん法ほうと同様どうように米国べいこくでは商標しょうひょう法ほう上じょうのフェアユース（英語えいご版ばん）で被告ひこくが抗弁こうべんすることもある[107][注ちゅう 11]。

通称つうしょう プリティ・ウーマン判決はんけつ
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Oh, Pretty Woman - 著作ちょさく者しゃロイ・オービソンの原曲げんきょく (本人ほんにん公式こうしきYouTubeより)
Luther Campbell of 2 Live Crew's Historic Supreme Court Parody Case - パロディ作者さくしゃ・被告ひこくキャンベルによる "Big Hairy Woman" への変形へんけい経緯けいい解説かいせつ（ケーブルテレビ局てれびきょくVH1公式こうしきYouTubeより）[109]
米国べいこく著作ちょさく権けん法ほうのパロディに関かんするリーディングケースとしては「キャンベル対たいエイカフ・ローズ・ミュージック裁判さいばん（英語えいご版ばん）」(1994年ねんの連邦れんぽう最高裁さいこうさい判決はんけつ、510 U.S. 569)、通称つうしょう「プリティ・ウーマン判決はんけつ」が知しられている[104][110][111]。本件ほんけんでは1990年ねん公開こうかい映画えいが『プリティ・ウーマン』の主題歌しゅだいか "Oh, Pretty Woman" (歌手かしゅロイ・オービソン、音楽おんがくレーベルはエイカフ＝ローズ・ミュージック) を使用しようして、ヒップホップグループの The 2 Live Crew がパロディ曲きょくを製作せいさくし、25万まん枚まいのセールスを記録きろくした事件じけんである (被告ひこくルーサー・キャンベル（英語えいご版ばん）はこのメンバーの一員いちいんである)[112]。原曲げんきょく "Oh, Pretty Woman" (あぁ、可愛かわいい女性じょせい) がパロディでは "Big Hairy Woman" (デカくて毛深けぶかい女性じょせい) に変形へんけいされている[109]。一いち審しんはフェアユース認定にんてい、二に審しんは否定ひていし、最高裁さいこうさいが再ふたたび認定にんていした[113]。パロディとして使用しようされた箇所かしょ (原曲げんきょくの冒頭ぼうとう部ぶ) は有名ゆうめいであり原曲げんきょくの中核ちゅうかくをなすと認定にんていされたものの、パロディはこのような中核ちゅうかくを用もちいることが常つねであると判断はんだんされた。そしてフェアユース第だい1基準きじゅんの定さだめる「変形へんけい的てき利用りよう（英語えいご版ばん）」(transformative use、transformativeness) が、同おなじく第だい1基準きじゅんで例示れいじされる非ひ営利えいり性せいに勝まさり、第だい4基準きじゅんの市場いちば代替だいたい性せいを損そこなうことがないと解ほぐされている[114]。
著作ちょさく権けん法ほう上じょうのフェアユースが否定ひていされた判決はんけつ
「ドクター・スース対たいペンギン・ブックス裁判さいばん」(1997年ねんの第だい9巡回じゅんかい区く連邦れんぽう控訴こうそ裁判所さいばんしょ判決はんけつ) は、元もとネタに対たいする皮肉ひにくや悪わるふざけといった要素ようそがないことからパロディとみなされず、フェアユースが認みとめられなかった事例じれいとして知しられている[115][116][117]。被告ひこくペンギン・ブックス社しゃらは "The Cat NOT in the Hat! A Parody by Dr. Juice" のタイトルで書籍しょせきを出版しゅっぱんしたが、これが元もとフットボール選手せんしゅO・J・シンプソンによる殺人さつじん容疑ようぎ裁判さいばん概要がいようを、ドクター・スースの児童じどう文学ぶんがく『キャット イン ザ ハット』の設定せっていで韻いんを踏ふんで物語ものがたっていたことから、訴訟そしょうに至いたった[118]。表現ひょうげん性せいや物語ものがたりのプロット、キャラクターの特徴とくちょうなどに類似るいじ性せいが認みとめられ、かつフェアユース第だい1基準きじゅんに関かんしても元もとネタからの変形へんけいが十分じゅうぶんでないと判断はんだんされた[118]。
ルイ・ヴィトンの「弱よわい者ものいじめ」訴訟そしょう批判ひはん
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MOB商品しょうひん画像がぞう（MOB公式こうしきウェブサイトより）
商標しょうひょう権けん侵害しんがいに対たいして強気つよきの姿勢しせいをとっているとも言いわれるフランスの高級こうきゅうファッションブランド ルイ・ヴィトン社しゃは[119]、過去かこにパロディ関連かんれん訴訟そしょうで繰くり返かえし敗訴はいそを喫きっしている[注ちゅう 12]。たとえば「ルイ・ヴィトン対たいMOB裁判さいばん」（Louis Vuitton Malletier, S.A. v. My Other Bag, Inc.）は、My Other Bag (MOB) 社しゃが自社じしゃ製せいトートバッグ上じょうにルイ・ヴィトンなどの有名ゆうめいブランドバッグのイラストを描えがいて販売はんばいしたことから、ルイ・ヴィトンが権利けんり侵害しんがいで提訴ていそした事件じけんである。二に審しんの第だい7巡回じゅんかい区く控訴こうそ裁さいの口頭こうとう弁論べんろんでは、担当たんとう判事はんじが「これはジョークです。ルイ・ヴィトン社しゃはこのジョークが理解りかいできないのでしょうが、ジョークなんですよ」と嘲笑ちょうしょうする場面ばめんさえあった[注ちゅう 13]。また訴訟そしょう動機どうきが「弱よわい者ものいじめ」（bully）だとも指摘してきしている[87]。一いち審しん、二に審しんともMOB製品せいひんはパロディと認みとめられ、ルイ・ヴィトン側がわは最高裁さいこうさいに上告じょうこくしたものの棄却ききゃくされた[87]。本件ほんけんではパロディ創作そうさく者しゃ側がわの表現ひょうげんの自由じゆうを擁護ようごしたと解ほぐされている[120]。
商標しょうひょう権けんおよび不正ふせい競争きょうそう防止ぼうしが問とわれた「ばかスタバ」
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Dumb Starbucksの外観がいかん写真しゃしん - 2014年ねん2月がつ撮影さつえい・記事きじ掲載けいさい[121]
Dumb Starbucks公式こうしきFAQ - パロディ店てんなので合法ごうほうであると店みせ側がわは自主じしゅ回答かいとうしている[122]
同おなじく「弱よわい者ものいじめ」の法的ほうてき問題もんだいが法学ほうがく者しゃから指摘してきされているのが、「ばかスタバ」である[106]。コーヒーショップ大手おおてスターバックスを模もしたコーヒー店てん "DUMB STARBUCKS"[注ちゅう 14]が2014年ねん2月がつ、ロサンゼルスでオープンしたことから、商標しょうひょう権けん侵害しんがいおよび希釈きしゃく化かが法的ほうてきに問とわれる事態じたいへと発展はってんした[124]。このパロディ店てんをオープンさせたのはコメディアンのネイサン・フィールダー（英語えいご版ばん）であり、自身じしんの冠かんむり番組ばんぐみ『ネイサン・フォー・ユー』（リアリティ・コメディ番組ばんぐみ）の宣伝せんでん目的もくてきとされる[86][注ちゅう 15]。「ばかスタバ」の店舗てんぽ外装がいそうはスターバックスそっくりであり、ロゴデザインもほぼ同おなじであった[86][121]。地元じもと保健ほけん局きょくが食品しょくひん提供ていきょうライセンス未み取得しゅとくを理由りゆうにオープンから3日にち内ないにパロディ店てんを営業えいぎょう停止ていしに処しょしているが[86][121]、法学ほうがく者しゃからは後のちに商標しょうひょう法ほうと表現ひょうげんの自由じゆうのバランスを欠かいていると批判ひはんされる事例じれいとなった[126]。特とくに問題もんだいとなったのが、2006年ねんの商標しょうひょう希釈きしゃく化か改正かいせい法ほう（英語えいご版ばん）（略称りゃくしょう: TDRA）である。TDRA成立せいりつによってランハム法ほうが改正かいせいされ、非ひ商用しょうよう目的もくてき、ないし混同こんどうのおそれのない表示ひょうじ方法ほうほうであればパロディなどの目的もくてきでの商標しょうひょう利用りようも認みとめている[106]。しかしながら商用しょうようかつ混同こんどうのおそれのある「ばかスタバ」にはTDRAの条件じょうけんが適合てきごうしなかった。結果けっかとして、スターバックスのような既すでに認知にんち度どの高たかい商標しょうひょう権けん者しゃを過度かどに権利けんり保護ほごしているのではないか、との批判ひはんにつながった[86]。

欧州おうしゅう連合れんごう法ほう[編集へんしゅう]

欧州おうしゅう連合れんごう（EU）では、加盟かめい各国かっこくの著作ちょさく権けん法ほうの水準すいじゅんを揃そろえることを目的もくてきとして、各種かくしゅの著作ちょさく権けん指令しれいが出だされている。このうちパロディに関かんしては、2001年ねん可決かけつの情報じょうほう社会しゃかい指令しれい (2001/29/EC) 第だい5条じょう(3)(k) で著作ちょさく権けん侵害しんがいの例外れいがいとしてパロディ目的もくてきが挙あげられている[8]。しかしながらこの指令しれいの条項じょうこうを導入どうにゅう (国内こくない法ほう化か) するかはEU加盟かめい各国かっこくに委ゆだねられていることから、国くにによってパロディの法的ほうてき取とり扱あつかい状況じょうきょうは異ことなる[7]。

著作ちょさく権けん侵害しんがいを事由じゆうとした訴訟そしょうは、基本きほん的てきには各国かっこくの裁判所さいばんしょで審理しんりされるが、一部いちぶの訴訟そしょうは欧州おうしゅう司法しほう裁判所さいばんしょ (CJEU) に意見いけん照会しょうかいされることがある。以下いか、各国かっこくの法ほう整備せいびの状況じょうきょうと代表だいひょう的てきなパロディ判例はんれいについて述のべる。

欧州おうしゅう司法しほう裁判所さいばんしょ (CJEU) 判決はんけつ
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原告げんこくヴァンダースティーンの原画げんが - 欧州おうしゅう司法しほう裁判所さいばんしょ提出ていしゅつ資料しりょうより[127]
パロディ関連かんれんではデックメイン対たいヴァンダースティーン裁判さいばん（英語えいご版ばん） (Deckmyn v Vandersteen, Case: C-201/13, 2014年ねんCJEU判決はんけつ) が知しられている[128]。本件ほんけんでは原著げんちょ作物さくもつの著作ちょさく権けん者しゃ側がわの権利けんりと、パロディ利用りようする側がわの表現ひょうげんの自由じゆうの間あいだでいかにバランスを取とるべきかが問とわれた[129]。
ベルギーの右派うはポピュリズム政党せいとうフラームス・ベランフ[注ちゅう 16]に所属しょぞくする政治せいじ家かヨーハン・デックメイン（オランダ語ご版ばん）は2011年ねん、新年しんねんの祝賀しゅくが会かいでカレンダーを参加さんか者しゃに配布はいふしたが、この表紙ひょうしに使つかわれた絵画かいががヴァンダースティーンの描えがいた作品さくひんに類似るいじしているとして、著作ちょさく権けん侵害しんがいでデックメインと政党せいとう後援こうえん会かい組織そしきがベルギーの裁判所さいばんしょに提訴ていそされた。ヴァンダースティーンの作品さくひんは元々もともと、コミック本ほん『Suske en Wiske（英語えいご版ばん、オランダ語ご版ばん）』に登場とうじょうするキャラクターの一人ひとりを表紙ひょうしに描えがいたものであり、白色はくしょくのチュニックをまとって空中くうちゅうからコインをばら撒まいている構図こうずである。この表紙ひょうし絵えは "De Wilde Weldoener" (「強制きょうせい的てきな恩恵おんけいを施ほどこす者もの」の意い) と題だいされた[127][128]。一方いっぽうカレンダーの表紙ひょうしは、キャラクターがヘント市しの市長しちょうダニエル・トゥルモント（英語えいご版ばん） （左派さは政党せいとうのフラマン系けい社会党しゃかいとう）に差さし替かえられており、コインを集あつめようとする周囲しゅういの民衆みんしゅうはイスラム教いすらむきょうの女性じょせいが肌はだを隠かくすために被こうむるブルカ (ベール) を身みにまとい、有色ゆうしょく人種じんしゅに置おき換かえられる差別さべつ的てきな内容ないようであった[127][128]。第だい一いち審しん裁判所さいばんしょ（英語えいご版ばん） (Rechtbank van Eerste Aanleg) は著作ちょさく権けん侵害しんがいを認みとめて5,000ユーロの損害そんがい賠償ばいしょうを命めいじたが[注ちゅう 17]、被告ひこくが控訴こうそしている。二に審しんの控訴こうそ裁さい（英語えいご版ばん）（Hof van beroep）もベルギー著作ちょさく権けん法ほうで定さだめられたパロディの例外れいがい規定きていの要件ようけんを満みたさないとして棄却ききゃくしつつ、CJEUに意見いけん照会しょうかいを求もとめた[127]。
CJEUが挙あげたパロディの要件ようけんは「パロディ作品さくひんを見みて原著げんちょ作物さくもつを想起そうきできる必要ひつようがあると同時どうじに、これら2つの作品さくひんは別物べつものだと識別しきべつされなければならない」、「ユーモアや嘲笑ちょうしょうの要素ようそが必要ひつよう」であるとした。加くわえて、必かならずしも著作ちょさく権けん法ほう上じょう固有こゆうの意味いみを持もつ「創作そうさく性せい」（originality）はパロディの場合ばあいには求もとめられないとして、原著げんちょ作物さくもつと同おなじキャラクターを再さい利用りようすることは法的ほうてきに問題もんだいないとした。差別さべつ的てきなメッセージを含ふくんでいる点てんについては、ベルギー国内こくない裁判所さいばんしょに判断はんだんを委ゆだねた[129]。

フランス法ほう[編集へんしゅう]

パロディに関かんするフランス著作ちょさく権けん法ほう上じょうの規定きてい
Lorsque l'oeuvre a été divulguée, l'auteur ne peut interdire:
4° La parodie, le pastiche et la caricature, compte tenu des lois du genre ;
（日本語にほんご訳やく）著作ちょさく物ぶつが公表こうひょうされた場合ばあいには、著作ちょさく者しゃは、次つぎの各号かくごうに掲かかげることを禁止きんしすることはできない。
(4) パロディ、模作もさく及および風刺ふうし画が。ただし、当該とうがい分野ぶんやのきまりを考慮こうりょする。
“
”
知的ちてき財産ざいさん法典ほうてん（フランス語ふらんすご版ばん）第だい1部ぶ (著作ちょさく権けん法ほう) 第だい2章しょう: 著作ちょさく者しゃの権利けんり、第だい2節せつ: 財産ざいさん的てき権利けんり、第だい122条じょうの5 原文げんぶん[130]および著作ちょさく権けん情報じょうほうセンター (CRIC)による日本語にほんご訳やく[131]

著作ちょさく権けん保護ほごの水準すいじゅんが高たかく、特とくに著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんが手厚てあつく尊重そんちょうされているフランスでは、EU指令しれいでパロディ、カリカチュアおよびパスティーシュの例外れいがい規定きていが追加ついかされる以前いぜんより、フランス著作ちょさく権けん法ほうで個別こべつ規定きていを設もうけて運用うんようしてきた[7]。しかしCJEUの2014年ねん「デックメイン判決はんけつ」の前後ぜんごで、パロディの定義ていぎや法的ほうてき保護ほごの要件ようけん解釈かいしゃくが異ことなっている点てんに注意ちゅういが必要ひつようである。デックメイン判決はんけつ以前いぜんは音楽おんがくパロディ、言語げんご著作ちょさく物ぶつのパスティーシュ、人物じんぶつ画がのカリカチュアでフランスの裁判所さいばんしょは分類ぶんるいしていた。またディックメイン判決はんけつでCJEUはユーモアの要素ようそをパロディに求もとめているが、当とう判決はんけつ以前いぜんのフランスではユーモアは必須ひっすでないとし、逆ぎゃくに原げん著作ちょさく者しゃの人格じんかくを傷きずつけるようなパロディであってはならないと定義ていぎしていた。また「混同こんどう」の観点かんてんが取とり入いれられており、パロディの商用しょうよう利用りようは問題もんだいないものの、原著げんちょ作物さくもつと市場いちばで競合きょうごうするような宣伝せんでん目的もくてきは禁きんじられていた[7]。

漫画まんが『タンタンの冒険ぼうけん』シリーズのパロディに関かんする判決はんけつ
デックメイン判決はんけつ以前いぜんのフランスにおけるパロディのリーディングケースが SAS Arconsil v Moulinsart SA (パリ控訴こうそ裁さい 2011年ねん2月がつ18日にち判決はんけつ、no 09/19272) である[7]。2011年ねんに漫画まんがタンタンの冒険ぼうけんシリーズの原作げんさく者しゃが、『タンタンチベットをゆく』のパロディ小説しょうせつ『サン・タン絞首こうしゅ台だいに行いく』を海賊版かいぞくばんとしてパロディ作家さっかゴルドン・ゾーラ（フランス語ふらんすご版ばん）を訴うったえた事件じけんでは、パリ控訴こうそ院いんは「主観しゅかん的てき要因よういん（ユーモアの意図いと）」「客観きゃっかん的てき要因よういん（混同こんどうのおそれの有無うむ）」の要件ようけんを満みたしており、「当該とうがい分野ぶんやの決きまり」を守まもらなかったという証拠しょうこが確立かくりつしていないことから『サン・タン絞首こうしゅ台だいに行いく』はパロディ小説しょうせつであると認みとめ、少しょう部数ぶすうで商業しょうぎょう的てきな影響えいきょうも少すくないことから著作ちょさく者しゃ・出版しゅっぱん社しゃの権利けんりを不当ふとうに侵害しんがいしていないと決定けっていした[132]。
歌手かしゅの物ものまねパロディに関かんする判決はんけつ
また、歌手かしゅの物ものまねが合法ごうほう的てきなパロディだと判示はんじされた1988年ねんの破毀はき院いん（フランス最高裁さいこうさい）判決はんけつ (Cour de Cassation, 1st Civil chamber 1, 12 janv. 1988, préc (n. 11)) も存在そんざいする。シャンソン歌手かしゅシャルル・トレネの『優やさしきフランス（フランス語ふらんすご版ばん）』(Douce France) が、Thierry Le Luronによって物ものまねされ、『優やさしいトランス』（忘我ぼうがの境地きょうちの意い、Douces Transes）にもじられた。声音こわねも真似まねており、トレネがアカデミー・フランセーズ会員かいいん選出せんしゅつのために費ついやした無駄むだな労力ろうりょくを揶揄やゆした。破毀はき院いんは無礼ぶれいな嘲笑ちょうしょうは法的ほうてきに禁きんじられておらず、むしろ元もとネタから改変かいへんされていることから、受うけ手て側がわが2つの作品さくひんを混同こんどうするおそれがないとして、著作ちょさく権けん侵害しんがいの訴うったえを退しりぞけている[133]。
2014年ねんCJEU判決はんけつに影響えいきょうを受うけたフランスの判決はんけつ
デックメイン判決はんけつ以降いこうでは、2015年ねんの破毀はき院いん判決はんけつ（Cour de Cassation, 1st Civil chamber 1, 15 May 2015, 13-27.391）がある。本件ほんけんはファッション写真しゃしん家か A Malka（一部いちぶ伏字ふせじ）の作品さくひんを無断むだんで芸術げいじゅつ家か Peter K（一部いちぶ伏字ふせじ）が複製ふくせいしたことが問題もんだいとなった。しかし A Malka の原著げんちょ作物さくもつは過剰かじょう広告こうこくと過剰かじょう消費しょうひを象徴しょうちょうしていることから、Peter K は自身じしんの作品さくひんを通つうじて A Malka の作品さくひんの価値かちを貶おとしめ、見みる者ものたちに問題もんだい喚起かんきする目的もくてきだと主張しゅちょうした。破毀はき院いんはフランス著作ちょさく権けん法ほう 第だい122条じょうの5 (4) だけでなく、EUの情報じょうほう社会しゃかい指令しれい 第だい10条じょうを考慮こうりょして A Malka の著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けんと、パロディ創作そうさく者しゃ Peter K の表現ひょうげんの自由じゆうの間あいだでバランスをとる必要ひつよう性せいを説とき、二に審しんの控訴こうそ裁さいに差さし戻もどした[7]。

イギリス法ほう[編集へんしゅう]

2020年ねん1月がつ31日にちにEUを正式せいしき離脱りだつしたイギリスであるが[134]、離脱りだつ以前いぜんの2014年ねん10月がつにイギリスは現行げんこう著作ちょさく権けん法ほうである1988年ねん著作ちょさく権けん、意匠いしょう及および特許とっきょ法ほう（英語えいご版ばん） (Copyright, Designs and Patents Act 1988、略称りゃくしょう: CDPA) を改正かいせいし、第だい30A条じょうでカリカチュア、パロディ、パスティーシュの3点てんを著作ちょさく権けん侵害しんがいの例外れいがい (フェアディーリング（英語えいご版ばん）) に追加ついかしたことで、EUの2001年ねん情報じょうほう社会しゃかい指令しれいの規定きていに沿そった形かたちとなった[7][135]。ただし第だい30A条じょうの新設しんせつ以前いぜんから、一般いっぱん的てきな著作ちょさく権けん侵害しんがいで提訴ていそされた被告ひこくがパロディを主張しゅちょうして抗弁こうべんするケースは存在そんざいしていた[7]。

楽曲がっきょくの歌詞かしパロディに関かんする判決はんけつ
音楽おんがくパロディのリーディングケースとしては、1960年ねんの高等法院こうとうほういん女おんな王座おうざ部ぶ（QB）判決はんけつ「ジョイ・ミュージック対たいサンデー・ピクトリアル紙し裁判さいばん」(Joy Music Ltd v Sunday Pictorial Newspapers [1960] 2QB 60 (QB)) がある[136][137][7]。女王じょおうエリザベス2世せいの夫おっとエディンバラ公爵こうしゃくフィリップの行動こうどうを揶揄やゆする内容ないようが週刊しゅうかん新聞しんぶん『サンデー・ピクトリアル』(現げん: サンデー・ミラー、タブロイド紙し『デイリー・ミラー』の姉妹しまい紙し) に掲載けいさいされたが、この記事きじには楽曲がっきょく "Rock-a-Billy" の歌詞かしをもじって "Rock-a-Philip, Rock-a-Philip, Rock-a-Philip, Rock" のフレーズが書かかれていた。このケースでのもじりは実質じっしつ的てき部分ぶぶんの複製ふくせいではないと判定はんていされ、著作ちょさく権けん侵害しんがいの訴うったえは退しりぞけられた[136][137]:412。
楽曲がっきょくのメロディに関かんする判決はんけつ
また、1987年ねんの高等法院こうとうほういん大だい法官ほうかん部ぶ (Ch) 判決はんけつ「ウィリアムソン・ミュージック対たいピアソン・パートナーシップ裁判さいばん」(Williamson Music v Pearson Partnership [1987] FSR 97 (Ch)) では、ミュージカルの楽曲がっきょくが替かえ歌うたとしてテレビCMに流ながされた事案じあんである[137]:410[138]。本件ほんけんでは著作ちょさく権けん法ほうの重要じゅうような法理ほうりであるアイディア・表現ひょうげん二に分ふん論ろんに則のっとり、原曲げんきょくからアイディアを得えてパロディストが全まったく別べつの形かたちで表現ひょうげんしたならば、別個べっこの著作ちょさく物ぶつであると判示はんじされた。また、著作ちょさく権けん侵害しんがいに該当がいとうしないパロディだと認みとめるには、作品さくひんに批判ひはんや評論ひょうろんといった言語げんご要素ようそが必要ひつようであるとされた[137]:410。1960年ねんの "Rock-a-Billy" 判決はんけつとは異ことなり、本件ほんけんでパロディ化かされたのは歌詞かしではなくメロディであったことから、これらの要件ようけんを満みたさないとして著作ちょさく権けん侵害しんがい判定はんていとなった[137]:410[138]。
商品しょうひんラベルに関かんする判決はんけつ
音楽おんがく以外いがいでは、1984年ねんの高等法院こうとうほういん大だい法官ほうかん部ぶ判決はんけつ「シュウェップス対たいウェリントン裁判さいばん」（Schweppes Ltd v Wellingtons Ltd [1984] FSR 210 (Ch)）がある。シュウェップス社しゃは同名どうめいの瓶びん入いり炭酸たんさん水すいブランドを販売はんばいしており、商品しょうひんラベルの "SCHWEPPES" の綴つづりが被告ひこくウェリントン社しゃによって "SCHLURPPES" に置おき換かわって商品しょうひん販売はんばいされたことから、ラベルのデザイン模倣もほうが著作ちょさく権けん侵害しんがいに当あたるかが問とわれた事件じけんである[137]:412[139]。なお、ウェリントン社しゃ製せいもシュウェップスに似にた瓶びんにラベルが貼はられていたが、中身なかみは飲料いんりょうではなく炭酸たんさん入いりのバブルバス（炭酸たんさんの入浴にゅうよく剤ざいとソープが合あわさった商品しょうひん）であり、元もとネタとパロディでは対象たいしょうとするビジネス市場いちばが大おおきく異ことなる[137]:412。しかしながら市場いちばの競合きょうごう性せいは勘案かんあんされず、 "Rock-a-Billy" の判決はんけつで示しめされた「実質じっしつ的てき部分ぶぶんの複製ふくせい」の論点ろんてんから著作ちょさく権けん侵害しんがいの判定はんていとなった[139]。

日本にっぽん法ほう[編集へんしゅう]

歴史れきし的てきにみると、日本にっぽんでも江戸えど時代じだいの狂歌きょうかや[19]、戦争せんそう中ちゅうの軍歌ぐんかの替かえ歌うたパロディなど[140]、パロディ創作そうさくは古ふるくから行おこなわれていた。そして高度こうど経済けいざい成長せいちょう期き (1960年ねんから1973年ねん頃ごろ[141]) に入はいると著作ちょさく物ぶつの模倣もほうが横行おうこうした[142]。その反動はんどうで著作ちょさく者しゃ側がわの権利けんり保護ほご意識いしきが極度きょくどに高たかまったことが、日本にっぽんでのパロディ創作そうさくを困難こんなんにした要因よういんであるとの指摘してきもある[142]。

また商標しょうひょう法ほうについても、日本にっぽんではパロディ許容きょようが消極しょうきょく的てきであり、パロディ商標しょうひょうは出願しゅつがんされても実際じっさいには登録とうろく却下きゃっかされる事例じれいが多おおいと言いわれている[85]。

パロディ商標しょうひょうが認みとめられなかった一いち例れいについては「面白おもしろい恋人こいびと#販売はんばい差止さしどめ訴訟そしょう」を参照さんしょう

日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほう上じょうでパロディの取扱とりあつかい規定きていが存在そんざいしない問題もんだいは、少すくなくとも2007年ねん（平成へいせい19年ねん）ごろには公的こうてきに議論ぎろんされるようになり[143][144]、引用いんようの要件ようけんを定さだめた第だい32条じょうにパロディを加くわえる案あんや、米国べいこくのフェアユースに類似るいじする一般いっぱん規定きていを設もうける案あんなどが検討けんとうされたものの、判例はんれい数すうの少すくない日本にっぽんにおける法ほう改正かいせいは困難こんなんとの見通みとおしも示しめされている[144]。

2012年ねん (平成へいせい24年ねん) には著作ちょさく権けんを管轄かんかつする文化庁ぶんかちょうの下した、法制ほうせい問題もんだい小しょう委員いいん会かいにパロディワーキンググループが設置せっちされ[85]、インターネット上じょうで共有きょうゆうされる二に次じ創作そうさくなどを念頭ねんとうに、パロディ目的もくてきの利用りよう緩和かんわに向むけた法ほう改正かいせいが協議きょうぎされることとなった[145]。すでに2007年ねん - 2008年ねんのワーキンググループ調査ちょうさ報告ほうこく書しょでは、パロディが共有きょうゆうされるプラットフォームとしてYouTubeやニコニコ動画どうがといったサービス名めいが挙あげられており、具体ぐたい的てきな法ほう整備せいびの必要ひつよう性せいが議論ぎろんされた[144]。しかしながら2020年ねん時点じてんで、パロディに関かんする著作ちょさく権けん法ほうの改正かいせいは実現じつげんに至いたっていない。

このような情勢じょうせい下かで、日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうが唯一ゆいいつ寛容かんようなのが、コミックマーケットを代表だいひょうとする同人どうじん誌し即売そくばい会かいなどで行おこなわれる同人どうじん誌し販売はんばいである。あくまで同好どうこう者しゃたちの私的してきな二に次じ創作そうさく活動かつどうであると捉とらえられ、漫画まんがやアニメの無む許諾きょだく模倣もほうが黙認もくにんされてきた経緯けいいがある[142]。

漫画まんが業界ぎょうかいを例れいにとると、商業しょうぎょう的てきにパロディ要素ようそが出で始はじめたのは高度こうど経済けいざい成長せいちょう期きの 1960年代ねんだいに入はいってからである。1960年代ねんだい初頭しょとうに米国べいこくのパロディコミック雑誌ざっし『MAD』が日本にっぽんでも紹介しょうかいされるようになり、続つづいて1968年ねんには『漫画まんがアクション』誌しにダディ・グース（後ごの矢作やさく俊彦としひこ）のパロディ作品さくひんが、同年どうねんに『COM』誌上しじょうに永井豪ながいごうのパロディ作品さくひんが登場とうじょうしている。部分ぶぶん的てきなパロディ要素ようそではなく、作品さくひん全体ぜんたいがパロディと呼よべる日本にっぽんの漫画まんがは、これらが初出しょしゅつと考かんがえられている[146]。同どう時期じきの1960年代ねんだい初頭しょとうから1970年代ねんだい初頭しょとうには、プロの漫画まんが家かを夢見ゆめみる者ものたちによる同人どうじん誌しコミュニティが全国ぜんこく的てきに広ひろがりを見みせた[147]。パロディは元もとネタを知しらないと楽たのしめない性質せいしつであることから、同人どうじん誌しのような「内輪うちわ受うけコミュニティ」とパロディに親和しんわ性せいがあったとの分析ぶんせきもある[148]。

しかし内容ないようを問題もんだい視しした原作げんさく者しゃから名誉めいよ毀損きそんで訴うったえられることもあった[149]。また1990年代ねんだい後半こうはんから2000年代ねんだいにかけては、ときめきメモリアル・アダルトアニメ映画えいが化か事件じけん、ポケットモンスター同人どうじん誌し事件じけん、ドラえもん最終さいしゅう話ばなし同人どうじん誌し問題もんだいなど、二に次じ創作そうさく物ぶつが広範こうはんに流通りゅうつうするようになったことでの紛争ふんそうも起おきている[150]。

2018年ねん末すえには環太平洋かんたいへいようパートナーシップ協定きょうてい (TPP) 発効はっこうに合あわせて著作ちょさく権けん法ほうが改正かいせいされており、著作ちょさく権けん侵害しんがいが非ひ親告罪しんこくざい化かしたが、この対象たいしょうからはコミックマーケットが明示めいじ的てきに除外じょがいされることとなった[151]:53[142]。これは原著げんちょ作物さくもつと市場いちばで競合きょうごうするおそれがないこと[151]:53、また二に次じ創作そうさくは「日本にっぽんの文化ぶんか創造そうぞうのゆりかご[142]」とも形容けいようされ、非ひ親告罪しんこくざい化かの対象たいしょうに含ふくめることで文化ぶんか発展はってんの萎縮いしゅくを招まねきかねないとの政治せいじ的てき判断はんだんに基もとづく[151]:53。またコミケ経由けいゆだけでなく、漫画まんがのパロディをブログに投稿とうこうする行為こういも原著げんちょ作物さくもつからの改変かいへんが施ほどこされていることから、非ひ親告罪しんこくざいの対象たいしょう外がいだと解ほぐされている[152]。

「日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうにおける非ひ親告罪しんこくざい化か」も参照さんしょう

2020年ねん5月には、東京とうきょうオリンピックのエンブレムと、世界せかい的てきに流行りゅうこうした新型しんがたコロナウイルス (SARS-CoV-2) を掛かけ合あわせたパロディが批判ひはんにさらされた。当とうパロディの作者さくしゃはイギリス人じんデザイナーであり、パロディ作品さくひんを掲載けいさいしたのは日本外国特派員協会にほんがいこくとくはいんきょうかい (FCCJ) の発行はっこうする会報かいほう誌しである。批判ひはんを受うけ、シリア出身しゅっしんのカルドン・アズハリ (Khaldon Azhari) FCCJ会長かいちょう[注ちゅう 18]も日本にっぽんのパロディ利用りよう緩和かんわを要望ようぼうする声明せいめいを発表はっぴょうし、日本にっぽん国内外こくないがいのパロディ法制ほうせいの温度おんど差さが浮うき彫ぼりとなった[154]。

日本にっぽんでのパロディに対たいする著作ちょさく権けん侵害しんがいが問とわれた裁判さいばんとして以下いかのような判例はんれいがある。

サザエさんのパロディ漫画まんが[編集へんしゅう]

1970年ねん、奥おく成しげる達たちが編集へんしゅう長ちょうを務つとめた雑誌ざっし『東京とうきょう25時じ』9・10月がつ合併がっぺい号ごうに、片岡かたおか義男よしお原案げんあん・木崎きざきしょう平ひら作画さくがによるサザエさんのパロディ漫画まんが『サザエさま』が掲載けいさいされたが、原作げんさく者しゃである長谷川はせがわ町子まちこの作品さくひんを管理かんりする姉妹しまい社しゃから訴うったえられ、罰金ばっきん50万まん円えんの支払しはらいと謝罪しゃざい広告こうこくの掲載けいさいで示談じだんとなった[149]。長谷川はせがわは飯沢いいざわ匡ただしとの対談たいだんの中なかで、面白おもしろいならまだしも作品さくひんの出来できが悪わるいことや、内容ないように悪意あくいを感かんじたため、名誉めいよを毀損きそんされたと感かんじ裁判さいばんを起おこしたとしている[155]。

パロディ・モンタージュ写真しゃしん事件じけん[編集へんしゅう]

パロディ・モンタージュ写真しゃしん事件じけんは最高裁さいこうさいまで争あらそわれたことで有名ゆうめいである[33][34][35]。山岳さんがく写真しゃしん家か・白川しらかわ義よし員いんが雪山ゆきやまをスキー滑走かっそうするシュプールを写真しゃしんに収おさめ、カレンダー写真しゃしんに採用さいようされた。この写真しゃしんのシュプール上部じょうぶに巨大きょだいなタイヤ (別べつの広告こうこく写真しゃしんから複写ふくしゃしたもの) を配置はいちし、スキーのシュプールが雪山ゆきやまを転ころげ落おちるタイヤの轍わだちに見みえるように合成ごうせい加工かこうしたのが、パロディストを自称じしょうするマッド・アマノである[156][157]。

原告げんこく・白川しらかわ側がわは無断むだんの剽窃ひょうせつであり、かつ白川しらかわの製作せいさく意図いとが破壊はかい・侮辱ぶじょくされたとして著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けん侵害しんがいを主張しゅちょうした。これに対たいして被告ひこく・アマノ側がわは、自動車じどうしゃ公害こうがいの批判ひはんを目的もくてきとした新あらたな創作そうさく物ぶつであって剽窃ひょうせつではないと反論はんろんした[157]。二に審しんではアマノの作品さくひんが独立どくりつした創作そうさく性せいを有ゆうするパロディであると認みとめた上うえで、原著げんちょ作物さくもつからの引用いんようであるとして、著作ちょさく権けん侵害しんがいに当あたらないと判示はんじした[156][158]。最高裁さいこうさいは引用いんようの要件ようけんとして、引用いんようする側がわとされた側がわが明確めいかくに区分くぶんできること、および主従しゅうじゅうの関係かんけいが成なり立たつことの2点てんを挙あげた。そしてアマノの作品さくひんは独立どくりつした著作ちょさく物ぶつと識別しきべつできるものの、原著げんちょ作物さくもつの本質ほんしつ的てきな特徴とくちょうを直接的ちょくせつてきに感かんじ取とれる内容ないようであることから、著作ちょさく者しゃ人格じんかく権けん (特とくに同一どういつ性せい保持ほじ権けん) を侵害しんがいしていると判定はんていされた (昭和しょうわ55年ねん3月28日にち判決はんけつ)[159][34][35][160]。米国べいこくのプリティ・ウーマン判決はんけつで、元もとネタとなった "作品さくひん" に対たいする批評ひひょうがパロディであるのに対たいし、元もとネタ作品さくひんそのものではなく "社会しゃかい" を批判ひはんしていれば風刺ふうしであると区別くべつされたように[28]、日本にっぽんのパロディ・モンタージュ写真しゃしん事件じけんでもアマノは白川しらかわの作品さくひんを批判ひはん・風刺ふうししておらず、単たんに素材そざいとして無断むだん利用りようしたと判断はんだんされた[159]。この裁判さいばんは2度どにわたって最高裁さいこうさいから差さし戻もどされ、最終さいしゅう的てきに和解わかいが成立せいりつした[33]。この判決はんけつを受うけ、日本にっぽんではパロディ表現ひょうげんの自由じゆうが法的ほうてきに狭せばめられたとの見解けんかいもある[158]。

作品さくひん例れい[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 実際じっさいに手塚てづか側がわがディズニーを相手あいてに訴訟そしょうを計画けいかくするも、断念だんねんした経緯けいいがある[20]。
  2. ^ 用語ようごの初出しょしゅつはドーキンズ著ちょ『利己りこ的てき遺伝子いでんし』（1976年ねん）である[41][42]。
  3. ^ 『蛙かえる鼠ねずみ合戦かっせん』の創作そうさく年ねんは断定だんていされていないが、ヘレニズム時代じだい後期こうきが有力ゆうりょく説せつである[57]。
  4. ^ なお『イーリアス』の作者さくしゃはホメーロスとするのが通説つうせつであるが、ホメーロスは複数ふくすうの人物じんぶつであり、また執筆しっぴつされたのも従前じゅうぜんから考かんがえられていた時代じだいよりも1000年ねんほど前まえではないかとの説せつがある[60]。
  5. ^ プラウトゥスは古代こだいギリシャ劇げきを一部いちぶ下敷したじきにして作品さくひんを生うみ出だし、ラテン語らてんごで綴つづった古代こだいローマ喜劇きげきの時代じだいを象徴しょうちょうした人物じんぶつとされる[63]。
  6. ^ 10選せんにランクインしたのはグラント・ウッド作さく『アメリカン・ゴシック』、レオナルド・ダ・ヴィンチ作さく『モナ・リザ』、葛飾かつしか北斎ほくさい作さく「神奈川かながわ沖おき浪なみ裏うら」(『富嶽ふがく三さん十じゅう六ろく景けい』の1枚まい)、サンドロ・ボッティチェッリ作さく『ヴィーナスの誕生たんじょう』、レオナルド・ダ・ヴィンチ作さく『最後さいごの晩餐ばんさん』、ヨハネス・フェルメール作さく『真珠しんじゅの耳飾みみかざりの少女しょうじょ』、エドヴァルド・ムンク作さく『叫さけび』、オーギュスト・ロダン作さく『考かんがえる人ひと』、フィンセント・ファン・ゴッホ作さく『星月夜ほしづきよ』、エドワード・ホッパー作さく『ナイトホークス』である[76]。
  7. ^ 当時とうじは1929年ねんからの世界せかい恐慌きょうこうによってドイツ経済けいざいも疲弊ひへいし[77]、政治せいじ的てきにもナチスが台頭たいとうして国粋こくすい主義しゅぎ化か (反はんユダヤ感情かんじょうとドイツ至上しじょう主義しゅぎ) が進行しんこうした[17]。このような閉塞へいそく感かんの中なか、マンは1932年ねんにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくに亡命ぼうめいして[16]、パロディ作品さくひんを創作そうさくしている。
  8. ^ ベルヌ条約じょうやくの加盟かめい国こく数すうは、1886年ねんの原げん条約じょうやくが179か国こく[92]、1971年ねんの第だい6回かいパリ改正かいせい版ばんが177か国こくに上のぼる[93]。
  9. ^ 2012年ねん3月がつ公表こうひょうの文化庁ぶんかちょう委託いたく事業じぎょう調査ちょうさ報告ほうこく書しょ上じょうで、イギリスおよびカナダは条文じょうぶん上じょうでパロディが明文化めいぶんかされていない国くにに分類ぶんるいされているが[96]、その後ご2014年ねん10月がつにイギリスは著作ちょさく権けん法ほうを改正かいせいし、第だい30A条じょうでカリカチュア、パロディ、パスティーシュの3点てんを例外れいがいとして明文化めいぶんかしている[7]。また、カナダでは2012年ねん11月に改正かいせい立法りっぽうが成立せいりつし、著作ちょさく権けん法ほう 第だい29条じょう (フェアディーリング（英語えいご版ばん）) にパロディおよび風刺ふうしが追加ついか明記めいきされた[97][98]。
  10. ^ 米国べいこくのように商標しょうひょうの保護ほごが不正ふせい競争きょうそう法ほうから発達はったつしてきた国くにもある。ビジネス上じょうの信用しんようを得えるために他社たしゃ・他者たしゃの商標しょうひょうを用もちいることは公正こうせいな競争きょうそうを損そこねることからこれを防止ぼうしする目的もくてきがあるほか、消費しょうひ者しゃが商標しょうひょうからその商品しょうひん・サービスの性格せいかく・質しつを識別しきべつできることを商標しょうひょう制度せいどの目的もくてきとしている[101]。
  11. ^ 著作ちょさく権けん法ほう上じょうのフェアユースは4点てんの基準きじゅんで構成こうせいされるが、商標しょうひょう法ほう上じょうのフェアユースは2点てんである。(1)「古典こてん的てきフェアユース[107]」(classic fair use) あるいは「記述きじゅつ的てきフェアユース[108]」は、他社たしゃ（原告げんこく）の商標しょうひょうマークを使つかったのではなく、自社じしゃ（被告ひこく）自身じしんの商品しょうひん・サービスそのものを指さし示しめすために商標しょうひょうを使つかったとする抗弁こうべんである[107]。これに対たいして (2)「指名しめい的てきフェアユース」(nominative fair use) は他社たしゃ (原告げんこく) の商品しょうひん・サービスを参照さんしょうするために用もちいるケースである。競合きょうごう製品せいひんと自社じしゃ製品せいひんを比較ひかくした広告こうこくや、報道ほうどう・批評ひひょう目的もくてき、あるいは非ひ商用しょうよう目的もくてきが指名しめい的てきフェアユースとして一部いちぶの判例はんれいで認みとめられている[107]。
  12. ^ 後述こうじゅつの Louis Vuitton Malletier, S.A. v. My Other Bag, Inc.（2014年ねん提訴ていそ）以前いぜんにも Louis Vuitton Malletier S.A. v. Haute Diggity Dog, LLC, 507 F.3d 252, 258（4th Cir. 2007）で敗訴はいそとなっている[107]。また実際じっさいに訴訟そしょうには至いたらなかったものの、ペンシルベニア大学だいがくが開催かいさいした商標しょうひょう法ほうのシンポジウムで、当とうイベントの告知こくちポスターにルイ・ヴィトンの商標しょうひょうパロディが掲載けいさいされたことを受うけて、大学だいがく側がわを提訴ていそすると脅おどした事例じれいもある[87]。
  13. ^ 原文げんぶんは "This is a joke. I understand you don't get the joke. But it's a joke" である[107]。
  14. ^ 英えい: Dumb は「ばかな、まぬけな」の意味いみがあり[123]、このパロディ店名てんめいはいわば「ばかスタバ」である[121]。
  15. ^ 『ネイサン・フォー・ユー』は、中小ちゅうしょう企業きぎょう経営けいえい者しゃに酷ひどい経営けいえい助言じょげんを行おこなうリアリティ・コメディ番組ばんぐみであり[122]、同どう番組ばんぐみの第だい2シーズン第だい5話わは「Dumb Starbucks（英語えいご版ばん）」と題だいされ、同年どうねん7月がつ（閉店へいてんから5か月げつ後ご）にテレビ放送ほうそうされた[125]。
  16. ^ 欧州おうしゅう司法しほう裁判所さいばんしょの判決はんけつ文ぶんでは、フラームス・ベランフは極右きょくう政党せいとう (Vlaams Belang, a party of the far right) であると記しるされている[127]。
  17. ^ 2つの絵えに共通きょうつう点てんが多おおいことから、カレンダーを受うけ取とった一部いちぶの人ひとは、カレンダーがコミック本ほんの出版しゅっぱん社しゃから贈呈ぞうていされたものと勘違かんちがいしたと証言しょうげんしている[127]。
  18. ^ アズハリはシリアの都市としホムス出身しゅっしん[153]。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

本ほん項こうの解説かいせつの出典しゅってんとして直接ちょくせつ用もちいていないものの、一層いっそうの理解りかいを深ふかめるのに寄与きよする文献ぶんけん。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

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