呂りょ尚ひさし

呂りょ尚ひさし
斉ひとし
初代しょだい公こう
王朝おうちょう	斉ひとし
在位ざいい期間きかん	前ぜん1021年ねん頃ごろ? - 前ぜん1000年ねん頃ころ
都城みやこのじょう	営丘
姓せい・諱いみな	姜きょう尚しょう、呂りょ尚ひさし
字じ	子こ牙きば、牙きば
諡号しごう	太ふとし公おおやけ、武たけ成しげる王おう
廟びょう号ごう	文武ぶんぶ廟びょう
生年せいねん	不ふ詳しょう
没年ぼつねん	不ふ詳しょう

呂りょ 尚ひさし（りょ しょう、Lü Shang）は、紀元前きげんぜん11世紀せいきごろの古代こだい中国ちゅうごく・周しゅうの軍師ぐんし。丁ちょう公こうと邑姜の父ちち、後のちに斉ひとしの始祖しそ。

姓せいは姜きょう、氏しは呂りょ、字じは子こ牙きばもしくは牙きば、諱いみなは尚なおとされる。軍事ぐんじ長官ちょうかんである師しの職しょくに就ついていたことから、「師し尚なお父ちち」とも呼よばれる。諡おくりなは太ふとし公おおやけ。斉ひとし太ふとし公おおやけ・姜きょう太ふとし公おおやけの名なでも呼よばれる。

但ただししかれの名な・字じには諸説しょせつが有あり、例たとえば貝塚かいづか茂樹しげきは『詩経しきょう』大明だいめい編へんより、字じを尚なお父ちちとし、尚なおは「尚なお父ちち」の略称りゃくしょうだと指摘してきしている。また、小竹こだけ史記しきでは、諡おくりなを太ふとし公おおやけ、名なを望もち、字じを尚なおとしている。実際じっさいに『荀子』『韓かん詩し外伝がいでん』『説せつ苑えん』『新しん序じょ』『論ろん衡』などいくつかの文献ぶんけんには「呂りょ望もち」と記しるす例れいが散見さんけんする。また、当時とうじの金文きんぶんでは「姜きょう子こ牙きば」で現あらわれ、呂りょ尚なお、呂りょ望もちなどとは謂いわれない。

一般いっぱんには太公望たいこうぼう（たいこうぼう）という呼よび名なで知しられ、釣つりをしていた逸話いつわから、日本にっぽんではしばしば釣つり師しの代名詞だいめいしとして使つかわれる。

生涯しょうがい

歴史れきし上うえ重要じゅうような人物じんぶつにも拘かかわらず、出自しゅつじと経歴けいれきは数々かずかずの伝説でんせつに包つつまれて実態じったいがつかめない存在そんざいである。殷いん代だいの甲かぶと骨こつ文ぶんに呂りょ尚ひさしの領国りょうごくである斉ひとしの名前なまえは存在そんざいするものの、周しゅう初期しょきの金文きんぶんに呂りょ尚ひさしに相当そうとうする人物じんぶつの名前なまえを記録きろくしたものは確認かくにんされてこなかった。

『史記しき』斉ひとし太ふとし公おおやけ世よ家かでは、東シナ海ひがししなかいのほとりの出身しゅっしんであり、祖先そせんは四よん嶽だけの官職かんしょくに就ついて治水ちすい事業じぎょうで禹を補佐ほさしたとされている。一族いちぞくの本姓ほんせいは姜きょう氏しだったが、支族しぞくは呂りょ（現在げんざいの河南かなん省しょう南陽なんよう市し臥竜がりょう区く）や申さる（現在げんざいの河南かなん省しょう南陽なんよう市し宛あて城ぐすく区く）の地ちに移住いじゅうし、土地とち名めいにちなんだ呂りょ姓せいを称しょうしたという。元もとは屠殺とさつ人じんだった、あるいは飲食いんしょく業ぎょうで生計せいけいを立たてていたとする伝承でんしょうが存在そんざいする。

また周しゅうに仕つかえる以前いぜんは殷いんの帝みかど辛からし（紂王）に仕つかえるも帝みかど辛からしは無道むどうであるため立たち去さり、諸侯しょこうを説といて遊説ゆうぜいしたが認みとめられることがなく、最後さいごは西方せいほうの周しゅうの西伯さいはく昌あきら（後ごの文ぶん王おう）のもとに身みを寄よせたと伝つたわる。周しゅうの軍師ぐんしとして西伯さいはく昌あきらの子この姫ひめ発はつ（後ごの武ぶ王おう）を補佐ほさし、殷いんの諸侯しょこうである方ほうの進攻しんこうを防ふせいだ。殷いんを牧野まきのの戦たたかいで打うち破やぶり、軍功ぐんこうによって営丘（現在げんざいの山東さんとう省しょう淄博市し臨淄区く）を中心ちゅうしんとする斉ひとしの地ちに封ふうぜられる。

営丘に赴任ふにん後ご、呂りょ尚ひさしは隣接りんせつする萊の族長ぞくちょうの攻撃こうげきを防ふせいだ。『史記しき』によれば、呂りょ尚ひさしは営丘の住民じゅうみんの習俗しゅうぞくに従したがい、儀礼ぎれいを簡素かんそにしたという。営丘が位置いちする山東さんとうは農業のうぎょうに不適ふてきな立地りっちだったが、漁業ぎょぎょうと製塩せいえんによって斉ひとしは国力こくりょくを増ました。また、斉ひとしは成なり王おうから黄河こうが・穆きよし陵りょう・無む棣に至いたる地域ちいきの諸侯しょこうが反乱はんらんを起おこした時とき、反乱はんらん者しゃを討うつ権限けんげんを与あたえられた。死後しご、丁ちょう公こうが跡あとを継ついだ。呂りょ尚ひさしは非常ひじょうに長生ながいきをし、没ぼつ時じに100歳さいを超こえていたという。

しばしば呂りょ尚ひさしは部族ぶぞく集団しゅうだんの長ながとみなされ、周しゅうと連合れんごうして殷いんを滅ほろぼした、もしくは周しゅう軍ぐんの指揮しき官かんとして殷いんを攻撃こうげきしたと解ほぐされる。呂りょ尚なおが属ぞくする姜きょう氏しは周しゅうと婚姻こんいん関係かんけいがあったと推定すいていする意見いけんもある。

春秋しゅんじゅう初期しょきに強国きょうこくとなった斉ひとしは、自国じこくの権威けんいを高たかめるために始祖しそである呂りょ尚ひさしの神格しんかく化かを行おこなった。呂りょ尚ひさしの著書ちょしょとされる『六ろく韜』と『三さん略りゃく』は唐とう代だいに重要じゅうよう視しされ、731年ねんに玄げん宗むねによって呂りょ尚ひさしと前漢ぜんかんの張ちょう良りょうを祀まつる太ふとし公おおやけ廟びょうが各地かくちに建立こんりゅうされた。760年ねんに粛宗から武たけ成しげる王おうを追贈ついぞうされ、太ふとし公おおやけ廟びょうは武たけ成しげる王おう廟びょうと呼よばれるようになり、文宣ふみのぶ王おう孔子こうしとともに文武ぶんぶ廟びょうに祭祀さいしされた。また、古今ここんの名将めいしょう十じゅう人にんが唐とう代だいの史ふみ館かんにより選えらばれ、太公望たいこうぼうと共ともに祀まつられた（武たけ廟びょう十じゅう哲あきら）。782年ねん、徳とく宗むねの命いのちにより唐とう代だいの史ふみ館かんが新あらたに六ろく十じゅう四よん人にんの名将めいしょうを選出せんしゅつし、武たけ成しげる王おう廟びょうに合祀ごうしされた（武たけ廟びょう六ろく十じゅう四よん将しょう）。明あきらの時代じだいに入はいると、洪ひろし武たけ帝みかどは周しゅうの臣下しんかである呂りょ尚ひさしを王おうとして祀まつるのは不ふ適当てきとうであるとして、武たけ成しげる王おう廟びょうの祭祀さいしを中止ちゅうしさせた。

『史記しき』における仕官しかんの経緯けいい

明あきら初はつに描えがかれた渭水での呂りょ尚ひさしと文ぶん王おうの邂逅かいこう

呂りょ尚なおが周しゅうの文ぶん王おうに仕つかえた経緯けいいについては、『史記しき』に3つの逸話いつわが紹介しょうかいされている。しかし、いずれの逸話いつわも信憑しんぴょう性せいに疑問ぎもんがもたれている。

• 文ぶん王おうは猟りょうに出でる前まえに占うらないをしたところ、獣ししではなく人材じんざいを得えると出でた。狩猟しゅりょうに出でると、落魄らくはくして渭水で釣つりをしていた呂りょ尚ひさしに出会であった。二人ふたりは語かたり合あい、文ぶん王おうは「吾わが太ふとし公おおやけが待まち望もちんでいた人物じんぶつである」と喜よろこんだ。そして呂りょ尚ひさしは文ぶん王おうに軍師ぐんしとして迎むかえられ、「太公望たいこうぼう」と号ごうした。3つの逸話いつわの中なかで一般いっぱんに知しられているのは、この説せつである。陝西せんせい省しょう宝たから鶏にわとり市し陳ちん倉くら区くには太公望たいこうぼうが釣つりをしたという釣魚台ちょうぎょだいがあり、観光かんこう地ちとなっている。

• 元々もともと呂りょ尚ひさしは殷いんに仕つかえていたが、帝みかど辛からしの悪行あくぎょうに反発はんぱつして殷いんを出奔しゅっぽんした。諸侯しょこうの元もとを遍歴へんれきした後のち、文ぶん王おうに仕つかえる。

• 呂りょ尚ひさしは東方とうほうの海浜かいひんに隠棲いんせいしていたが、周しゅうの臣下しんかで旧知きゅうちの仲なかである散ち宜よろし生なまと閎夭の誘さそいで羑里で拘禁こうきんされていた文ぶん王おうに会あおうとした。呂りょ尚ひさしは帝みかど辛からしに美女びじょと財宝ざいほうを贈おくることを提案ていあんし、文ぶん王おうを釈放しゃくほうさせた後のち、周しゅうに仕官しかんした。

伝承でんしょう

呂りょ尚ひさしは、後世こうせいの兵法ひょうほうと周しゅうの権謀術数けんぼうじゅっすうを論ろんじる人間にんげんの尊敬そんけいの対象たいしょうとされた。兵法ひょうほう書しょ『六ろく韜』は呂りょ尚ひさしの著書ちょしょとされたが、『六ろく韜』は後代こうだいの人間にんげんによる著作ちょさくであり、実際じっさいに書かかれた時期じきは戦国せんごく末期まっき以降いこうと考かんがえられている。また、呂りょ尚ひさしは『三さん略りゃく』の著者ちょしゃにも仮託かたくされている。

後こう秦はたの王おう嘉よしみが編集へんしゅうした『拾遺しゅうい記き』に収録しゅうろくされている有名ゆうめいな説話せつわとして、呂りょ尚なおが斉ひとしに封ふうぜられた時ときに昔むかし別わかれた妻つまがよりを戻もどそうと来きたがこれを拒こばんだ話はなしがある（「覆水ふくすい盆ぼんに返かえらず」）。『漢書かんしょ』に収録しゅうろくされた朱しゅ買かい臣しんの逸話いつわなど、中国ちゅうごくには類似るいじするエピソードが多おおく存在そんざいする。

明代あきよの学者がくしゃの謝しゃ詔みことのりが著あらわした「風月ふうげつ夢ゆめ」第だい十じゅう回かいには「姜きょう太ふとし公おおやけ釣魚ちょうぎょ願ねがい者しゃ上じょう鉤かぎ」という句くがあらわれる。

封ふう神しん演義えんぎにおける呂りょ尚ひさし像ぞう

詳細しょうさいは「封ふう神しん演義えんぎ」を参照さんしょう

明代あきよの娯楽ごらく小説しょうせつ『封ふう神しん演義えんぎ』においては姜きょう子こ牙きばと称しょうし、殷いん周しゅう革命かくめいを指揮しきする周しゅうの軍師ぐんしかつ崑崙山こんろんざんの闡教の道士どうしとして主役しゅやく格かくで登場とうじょうする。彼かれは元始げんし天てん尊みことの弟子でし。通称つうしょうは太公望たいこうぼう（たいこうぼう）。師しの命令めいれいで下山げざんし、周しゅうを助たすけて商しょうを討うち、三さん百ひゃく六ろく十じゅう五ご人にんの神かみを封ふうじる。澎湖県けん馬うま公こう市しには、呂りょ尚ひさしは封ふう神しんの儀式ぎしきを行おこなった後のちに自分じぶんが封ふうぜられる地位ちいが無なくなったため、石いし敢當という魔除まよけけの神様かみさまに変化へんかしたとする伝承でんしょうがある。

絵画かいが

• 尾形おがた光琳こうりん筆ふで『太公望たいこうぼう図ず』京都きょうと国立こくりつ博物館はくぶつかん所蔵しょぞう
• 平福ひらふく百穂ひゃくすい筆ふで『太公望たいこうぼう』三重みえ県立けんりつ美術館びじゅつかん蔵ぞう
• 岡本おかもと花はな亭てい賛さん、谷たに文ぶん晁あきら筆ふで『石いし番ばん蹊跪餌えさ図ず』広島ひろしま県立けんりつ歴史れきし博物館はくぶつかん蔵ぞう

登場とうじょう作品さくひん

• 作者さくしゃ不ふ詳しょう、川柳せんりゅう「釣つれますかなどと文ぶん王おう側がわへ寄より」江戸えど時代じだい
• 宮城みやぎ谷たに昌光まさみつ『太公望たいこうぼう』文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、 ｢甘あま棠の人ひと｣、『侠骨きょうこつ記き』 講談社こうだんしゃ文庫ぶんこ
• 諸星もろぼし大二郎だいじろう「太公望たいこうぼう伝でん」、『無む面目めんぼく・太公望たいこうぼう伝でん』潮出版社うしおしゅっぱんしゃ
• 横山よこやま光輝みつてる『殷いん周しゅう伝説でんせつ 太公望たいこうぼう伝奇でんき』潮出版社うしおしゅっぱんしゃコミック
• 芝しば豪つよし『太公望たいこうぼう ～殷いん王朝おうちょうを倒たおした周しゅうの名めい軍師ぐんし～』PHP研究所けんきゅうじょ
• 許もと仲なか琳『封ふう神しん演義えんぎ』
  • 安やす能のう務つとむ編へん訳やく『封ふう神しん演義えんぎ』
  • 藤崎ふじさき竜りゅう『封ふう神しん演義えんぎ』（集英社しゅうえいしゃ）
  • 封ふう神しん演義えんぎ（コーエー）
• 映画えいが
  • 『封ふう神しん伝奇でんき バトル・オブ・ゴッド』（2016年ねん、中国ちゅうごく）
  • 『レジェンド・オブ・ゴッド 〜封ふう神しん伝説でんせつ〜』（2019年ねん、中国ちゅうごく）
  • 『リベンジ・クイーン 封ふう神しん:妲己』（2021年ねん、中国ちゅうごく）
• ゲーム
  • 無双むそうOROCHIシリーズ (テレビゲーム)

『Fate/Grand Order』 - 2021年ねん12月22日にち（水みず）～2021年ねん12月31日にち（金かね）期間きかん限定げんてい開催かいさいイベント「非ひ霊長れいちょう生存せいぞん圏けん ツングースカ・サンクチュアリ」

参考さんこう文献ぶんけん

• 落合おちあい淳あつし思おもえ『古代こだい中国ちゅうごくの虚像きょぞうと実像じつぞう』講談社こうだんしゃ現代新書げんだいしんしょ, 2009年ねん10月がつ
• 平ひらた勢いきおい隆郎たかお『都市とし国家こっかから中華ちゅうかへ 殷いん周しゅう春秋しゅんじゅう戦国せんごく　中国ちゅうごくの歴史れきし2』講談社こうだんしゃ, 2005年ねん4月がつ
• 叢くさむら小しょう榕よう『中国ちゅうごく五ご千せん年ねんの物語ものがたり』1巻かん（総合そうごう法令ほうれい出版しゅっぱん, 2005年ねん12月がつ）
• 劉りゅう煒編、尹いん盛もり平ひらめ『文明ぶんめいの原点げんてん　図説ずせつ中国ちゅうごく文明ぶんめい史し 2』（稲いね畑はた耕一郎こういちろう監修かんしゅう、荻野おぎの友とも範はん、崎さき川がわ隆たかし訳やく、創つく元もと社しゃ, 2007年ねん2月がつ）
• 貝塚かいづか茂樹しげき「呂りょ尚ひさし」『アジア歴史れきし事典じてん』9巻かん収録しゅうろく（平凡社へいぼんしゃ, 1962年ねん）
• 『史記しき 上じょう　中国ちゅうごく古典こてん文学ぶんがく大系たいけい』（平凡社へいぼんしゃ, 1968年ねん）、344-345頁ぺーじ

外部がいぶリンク

• 史記しき（繁体字はんたいじ中国語ちゅうごくご）巻まき32