哲学 的 ゾンビ
デイヴィッド・チャーマーズが1990
ホラー
概要
[行動 的 ゾンビ(Behavioral Zombie)外面 の行動 だけ見 ていては、普通 の人間 と区別 できないゾンビ。解剖 すれば人間 との違 いが分 かる可能 性 がある、という含 みを持 つ。例 として、SF映画 に出 てくる精巧 なアンドロイドは、「機械 は内面 的 な経験 など持 っていない」という前提 で考 えれば、行動 的 ゾンビに当 たる。哲学 的 ゾンビ(Neurological Zombie)脳 の神経 細胞 の状態 まで含 む、すべての観測 可能 な物理 的 状態 に関 して、普通 の人間 と区別 する事 が出来 ないゾンビ。
しかし
ゾンビ論法
[ゾンビ
我々 の世界 には意識 体験 がある。物理 的 には我々 の世界 と同一 でありながら、我々 の世界 の意識 に関 する肯定 的 な事実 が成 りたない、論理 的 に可能 な世界 が存在 する。- したがって
意識 に関 する事実 は、物理 的 事実 とはまた別 の、われわれの世界 に関 する更 なる事実 である。 - ゆえに
唯物 論 は偽 である。
- 1.
我々 の世界 には意識 体験 がある。 - 「
意識 」「クオリア」「経験 」「感覚 」など様々 な名前 で呼 ばれるものが、「ある」という主張 である。ここは基本 的 に素朴 な主張 である。 - 2.
物理 的 には我々 の世界 と同一 でありながら、我々 の世界 の意識 に関 する肯定 的 な事実 が成 りたない、論理 的 に可能 な世界 が存在 する。 現在 の物理 学 では、意識 ・クオリア・経験 ・感覚 を全 く欠 いた世界 が想像 可能 であることを主張 する。この哲学 的 ゾンビだけがいる世界 を、ゾンビワールドと言 う。- 3.したがって
意識 に関 する事実 は、物理 的 事実 とはまた別 の、われわれの世界 に関 する更 なる事実 である。 - ゾンビワールドに
欠 けているが、私 達 の現実 世界 には、意識 ・クオリア・経験 ・感覚 が備 わっているという事実 がある。それは、現在 の物理 法則 には含 まれていない。 - 4.ゆえに
唯物 論 は偽 である。 以上 の点 から現在 の物理 法則 ・物理 量 ですべての説明 ができるという考 えは間違 っている。
歴史
[ゾンビ
ライプニッツによる風車 小屋 の思考 実験
[17
ものを考 えたり、感 じたり、知覚 したりできる仕掛 けの機械 があるとする。その機械 全体 をおなじ割合 で拡大 し、風車 小屋 のなかにでもはいるように、そのなかにはいってみたとする。だがその場合 、機械 の内部 を探 って、目 に映 るものといえば、部分 部分 がたがいに動 かしあっている姿 だけで、表象 について説明 するにたりるものは、けっして発見 できはしない。 — ライプニッツ 『モナドロジー』(1714年 )第 17節 、清水 ・竹田 訳 [3]
ここで
ラッセルによる世界 の因果 骨格 の議論
[20
物理 学 は数学 的 である。しかしそれは私 達 が物理 的 な世界 について非常 によく知 っているためではなく、むしろほんの少 ししか知 らないためである -私 達 が発見 しうるのは世界 の持 つ数学 的 な性質 のみである。物理 的 世界 は、その時 空間 な構造 のある抽象 的 な特徴 と関 わってのみ知 られうる - そうした特長 は、心 の世界 に関 して、その内在 的 な特徴 に関 して何 か違 いがあるのか、またはないのか、を示 すのに十分 ではない。 — バートランド・ラッセル 『Human knowledge: It's Scope and Limits』(1948年 )
私 達 が直接 に経験 する心的 事象 である場合 を除 いて、物理 的 な事象 の内在 的 な性質 について、私 達 は何 も知 らない。 — バートランド・ラッセル 『Mind and Matter』(1956年 )
クリプキの様相 論法
[1970
神様 が世界 を作 ったとする。神様 は、この世界 にどういう種類 の粒子 が存在 し、かつそれらが互 いにどう相互 作用 するか、そうした事 をすべて定 め終 わったとする。さて、これで神様 の仕事 は終 わりだろうか?いや、そうではない。神様 にはまだやるべき仕事 が残 されている。神様 はある状態 にある感覚 が伴 うよう定 める仕事 をしなければならない。
その他
[ほか
批判
[アポステリオリな必然 性
[昔 の人 は、明 け方 の東 の空 に見 える特定 の明 るい星 を「明 けの明星 」と呼 んでいた。そして夕方 の西 の空 に見 える特定 の明 るい星 を「宵 の明星 」と呼 んでいた。昔 の人 はこの二 つの星 を別々 の星 だと考 えていた。こうした知識 段階 にある人 であれば、ある日 「明 けの明星 」が爆発 して消滅 し、「宵 の明星 」はそのまま残 る、といった状況 を想像 することも可能 だったはずである。しかし時代 が進 み科学 的 知識 が深 まるにつれ、「明 けの明星 」と「宵 の明星 」は実 は同 じ星 「金星 」だったと分 かった。つまり明 け方 に観測 される金星 を「明 けの明星 」と呼 び、夕方 に観測 される金星 を「宵 の明星 」と呼 んでいただけだったと分 かった。こうなると、「明 けの明星 」が爆発 して消滅 し、「宵 の明星 」はそのまま残 る、といった状況 を想像 することは不可能 となる。
現象 判断 のパラドックス
[もう
- ゾンビを
想定 可能 としたとき、「双子 のゾンビ世界 」の想定 が可能 となる。つまり一 種 のパラレル・ワールドのようのものとして、「物理 的 事実 に関 して私 達 の世界 と全 く同 じだが、意識 体験 だけを欠 いた私 達 の世界 のコピー」が想定 可能 である。そこにはチャーマーズのゾンビ双子 がいるだろう(チャーマーズと物理 的 に全 く同型 だが、意識 体験 だけを欠 いた存在 )。チャーマーズのゾンビ双子 は、意識 体験 を全 く持 っていないにもかかわらず、機能 的 にはチャーマーズと全 く同 じように振舞 うはずだから、ハードプロブレムについて論文 を書 き、意識 に関 する新 しい自然 法則 を探究 すべきだと言 い、この世界 のチャーマーズと全 く同 じ主張 をしていなければならない。しかしゾンビ世界 のチャーマーズは、意識 体験 のないゾンビ世界 でいったい何 について研究 しているのだろうか。意識 体験 のないゾンビ世界 でハードプロブレムを主張 するゾンビ双子 が想定 できるとすると、そのゾンビ双子 と全 く同 じ主張 をしているこの世界 の本物 のチャーマーズの主張 にはいったいどういう正当 性 があるだろうか。
実在 としての全 人類 哲学 的 ゾンビ
[スーザン・ブラックモアの
脚注
[- ^ チャーマーズ
著 ,林 一 訳 「意識 する心 」 163頁 - ^ Kulstad, Mark and Carlin, Laurence, "Leibniz's Philosophy of Mind" 1.Matter and Thought, The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Fall 2008 Edition), Edward N. Zalta (ed.)
- ^
清水 ・竹田 訳 <中公 クラシックス>モナドロジー p.8 - ^ クリプキ 『
名指 しと必然 性 』最終 章 - ^ Kirk, Robert "Zombies" 2.Zombies and physicalism, The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Spring 2011 Edition), Edward N. Zalta (ed.)
- ^
小 草 泰 (2007) - ^
佐 金武 (2006) - ^ 『
意識 する心 』第 6章 「現象 判断 のパラドックス」(pp.221-263) - ^
青山 拓 央 (2005)
参考 文献
[- デイヴィッド・チャーマーズ(
著 ),林 一 訳 『意識 する心 』 128-129頁 白 揚 社 2001 ISBN 4-8269-0106-2 - ダニエル・デネット(
著 ) 『解明 される意識 』 95-96頁 青土 社 1998年 ISBN 4-7917-5596-0 信 原 幸弘 (著 ) 『意識 の哲学 - クオリア序説 』「第 二 章 ゾンビは可能 か」 31-63頁 岩波書店 2002年 ISBN 4-00-026588-1信 原 幸弘 (編 )『シリーズ心 の哲学 Ⅰ人 間 篇 』133-136頁 勁草書房 2004年 ISBN 978-4-326-19924-2- ライプニッツ(
著 ) 『モナドロジー・形而上学 叙説 』 <中公 クラシックス>清水 富雄 、飯塚 勝久 、竹田 篤司 (訳 )中央公論 新 社 2005年 ISBN 4121600746 - Bertrand Russell "Analysis of Matter" Routledge (2001) ISBN 0415082978
- ソール・クリプキ(
著 ) 『名指 しと必然 性 ─様相 の形而上学 と心身 問題 』八木沢 敬 ・野家 啓一 (訳 )産業 図書 1985年 ISBN 4782800223
関連 文献
[青山 拓 央 , 「現象 報告 のパラドックス」『千葉大学 社会 文化 科学 研究 科 研究 プロジェクト報告 書 』 101巻 p.1-5,千葉大学 大学院 社会 文化 科学 研究 科 , ISSN 1881-7165, NAID 120005908405小 草 泰 , 「二 次元 可能 世界 意味 論 の展開 (1) :初期 の二 次元 意味 論 」『哲学 論叢 』 34巻 p.73-83 2007年 ,京都 大学 哲学 論叢 刊行 会 , NAID 120001107721佐 金武 「チャーマーズの「意識 しない心 」について--思考 可能 性 と意識 の不在 をめぐる問 い」『哲学 論叢 』第 33号 、京都 大学 哲学 論叢 刊行 会 、2006年 、67-78頁 、ISSN 0914143X、NAID 120000896094。柴田 正良 , 「ゾンビは論理 的 可能 性 ですらないか: チャルマーズに対 する -pros and cons-」『コネクショニズムの哲学 的 意義 の研究 』 2000-2002巻 , p.47-66,南山大学 人文学部 /金沢 大学 文学部 、2003年 3月 。鈴木 貴之 「意識 のハードプロブレムと思考 可能 性 論法 」『哲学 』第 2004巻 第 55号 、日本 哲学 会 、2004年 、193-205,29、doi:10.11439/philosophy1952.2004.193。- 「
訂正 とお詫 び[Correction] Philosophy (Tetsugaku) Vol.2005 No.56 (2005) pp.181-181」『哲学 』第 2005巻 第 56号 、2005年 、181-181頁 、doi:10.11439/philosophy1952.2005.56_181。
- 「
鈴木 登 , 「クリプキの同 一説 批判 」『哲学 』 1984巻 34号 1984年 p.173-183,日本 科学 哲学 会 , doi:10.11439/philosophy1952.1984.173林 明弘 , 「<短 報 >心 脳 同 一説 に対 する様相 の観点 からのクリプキの批判 」 『川崎 医療 福祉 学会 誌 』 6巻 1号 , p.199-202, 1996-06, NAID 110000479155水本 正晴 , 「ゾンビの可能 性 」『科学 哲学 』 39巻 1号 2006年 p.63-77,日本 科学 哲学 会 , doi:10.4216/jpssj.39.63。
関連 項目
[外部 リンク
[日本語 の文章
英語 の文章
- Zombies - スタンフォード
哲学 百科 事典 「哲学 的 ゾンビ」の項目 。 - (
文献 リスト)Zombies and the Conceivability Argument - PhilPapers 「哲学 的 ゾンビおよび想像 可能 性 論法 」の文献 一覧 。