エンドニムとエクソニム

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エンドニムえい: endonym)とエクソニムえい: exonym)とは、特定とくてい地名ちめい (toponym民族みんぞくめい (ethnonym言語げんごめい (glossonymなどを、命名めいめい主体しゅたいとなった民族みんぞく言語げんごうちした呼称こしょう外来がいらい言語げんごにおける呼称こしょうとに区分くぶんする術語じゅつご。また、その区分くぶんされた特定とくてい地名ちめい呼称こしょう民族みんぞく呼称こしょう言語げんご呼称こしょうのこと。おも国際こくさい連合れんごう地名ちめい標準ひょうじゅん会議かいぎなどにおける地名ちめい行政ぎょうせい文化ぶんか人類じんるいがく文脈ぶんみゃくもちいられる。日本語にほんごではそれぞれ、内名うちな(ないめい)とそとめい(がいめい)とやくされる[1]

一般いっぱんてき内名うちなは、地名ちめいでいえば現地げんち人々ひとびと言語げんごにおける呼称こしょう民族みんぞくめいでいえば当該とうがい民族みんぞく自身じしん言語げんごにおける呼称こしょう言語げんごめいでいえば当該とうがい言語げんご自体じたいにおける呼称こしょうす。自称じしょうについてはオートニムえい: autonym)ともばれる。

同様どうようそとめいは、地名ちめいでいえば現地げんち公用こうよう以外いがいしょ言語げんごにおける異称いしょう民族みんぞくめいでいえば当該とうがい民族みんぞく以外いがい民族みんぞくしょ言語げんごにおける異称いしょう言語げんごめいでいえば当該とうがい言語げんご以外いがいしょ言語げんごにおける異称いしょうす。類義語るいぎごに「外国がいこくせい名前なまえ」を意味いみするゼノニムえい: xenonym)がある。

れいげれば、「日本にっぽん」(にほん・にっぽん)や Nippon という内名うちなたいして、英語えいごJapanフランス語ふらんすごJapon 、イタリアGiappone 、ロシアЯпония などはそとめいいちれいである。

内名うちみょうそとめい自称じしょう他称たしょう混同こんどうされやすいが、正確せいかくにはなるものである。

語源ごげん[編集へんしゅう]

autonym (オートニム)、 endonym (エンドニム)、 exonym (エクソニム)、 xenonym (ゼノニム)は、いずれもインド・ヨーロッパ祖語そご*h₃nómn̥由来ゆらいするギリシャ起源きげんónoma (νにゅーοおみくろんμみゅーαあるふぁ, 'name') に特定とくてい接頭せっとう付加ふかした英単語えいたんごである。

これらの接頭せっとうもギリシャから派生はせいしている。

このうち、 autonym と xenonym については、ことなる用語ようごほうもちいられる場合ばあいがあるため、 endonym と exonym の語形ごけい優先ゆうせんてきもちいられる。

地名ちめいたいする用語ようごほう[編集へんしゅう]

地名ちめいかんするかぎり、エンドニムはうち生地きじめい(ないせいちめい)、エクソニムは外来がいらい地名ちめい(がいらいちめい)とも和訳わやくされる[1][2][ちゅう 1]原初げんしょてきにある個人こじん集団しゅうだんうちまれた地名ちめいが、次第しだいにまとまって民族みんぞく全体ぜんたいうち生地きじめいとなり、そのまとまってゆく段階だんかいにおいてほか民族みんぞく集団しゅうだん接触せっしょくして、ひとつの地域ちいきたいして地名ちめいあたえる主体しゅたい複数ふくすうあらわれたとき、その交流こうりゅう対立たいりつ交代こうたいなどにより、外来がいらい地名ちめい発生はっせいする[4]。たとえば、東北とうほく日本にっぽんまれたアイヌ地名ちめい日本人にっぽんじんにとって外来がいらい地名ちめいであったし[ちゅう 2]同様どうよう日本語にほんごからまれた地名ちめいはアイヌじんにとっては外来がいらい地名ちめいである[6]。つまり、土地とち名前なまえあたえた主体しゅたいだれであるのかによって、うち生地きじめい外来がいらい地名ちめい逆転ぎゃくてんする[4]

定義ていぎ例示れいじ[編集へんしゅう]

国際こくさい連合れんごう地名ちめい標準ひょうじゅん会議かいぎ (UNCSGN) の地名ちめい専門せんもんグループ (UNGEGN) がりまとめ、公表こうひょうした地名ちめい標準ひょうじゅん用語ようごしゅうによれば、エンドニムとエクソニムはつぎのように定義ていぎされている(下記かき和訳わやく田邉たなべ (2020)による)。

076 endonym

Name of a geographical feature in one of the languages occurring in that area where the feature is situated. Examples: Vārānasī (not Benares); Aachen (not Aix-la-Chapelle); Krung Thep (not Bangkok); al-Uqşur (not Luxor); Teverya (not Tiberias). [7]

076 エンドニム(うち生地きじめい

地理ちりてき実体じったい存在そんざいする地域ちいきまれたしょ言語げんごのうちのひとつであらわされる名称めいしょう例示れいじ:インドの Benares ではなく Vārānasī 、ドイツの Aix-la-Chapelle ではなく Aachen 、タイの Bangkok ではなく Krung Thep 、エジプトの Luxor ではなく al-Uqşur 、イスラエルの Tiberias ではなく Teverya[8]

081 exonym

Name used in a specific language for a geographical feature situated outside the area where that language has official status, and differing in its form from the name used in the official language or languages of the area where the geographical feature is situated. Examples: Warsaw is the English exonym for Warszawa; Londres is French for London; Mailand is German for Milano. The officially romanized endonym Moskva for Москва is not an exonym, nor is the Pinyin form Beijing, while Peking is an exonym. [7]

081 エクソニム(外来がいらい地名ちめい

ある特定とくてい言語げんごにおいて公用こうよう域外いきがいにある地理ちりてき実体じったいのためにもちいられ、公用こうようあるいは地理ちりてき実体じったい存在そんざいする地域ちいきしょ言語げんごもちいられる名称めいしょうとはことなった形態けいたいであるような名称めいしょう例示れいじWarsawWarszawa英語えいご外来がいらい地名ちめいであり、 LondresLondonフランス語ふらんすご外来がいらい地名ちめいMailandMilano のドイツ外来がいらい地名ちめいである。ただし MoskvaМосква外来がいらい地名ちめいではなく、 Beijing の拼音 (Pīn-yīn) かたち外来がいらい地名ちめいではないが、 Peking外来がいらい地名ちめいである。[9]

UNGEGN、Glossary of Terms for the Standardization of Geographical Names (2002)

ただし、領土りょうど変更へんこうなどによってうち生地きじめいはエクソニムする可能かのうせいがあり、反対はんたいふるくからあるエクソニムがうち生地きじめいしてエンドニムとなる場合ばあいもしばしばあるので、エクソニムは相対そうたいてき概念がいねんにすぎない[2]。また、田邉たなべ (2020)は、うえ掲の定義ていぎには、歴史れきしてき視点してん漠然ばくぜんとしており、外来がいらい地名ちめい住民じゅうみんれられてうち生地きじめいになってゆく過程かていや、使用しよう言語げんご外来がいらい自分じぶん言語げんごなか消化しょうか吸収きゅうしゅうする過程かてい省略しょうりゃくされていることを指摘してきしている[10]

かつてケーニヒスベルクばれた都市としは、20世紀せいきにソビエトりょうてロシアりょうになり、現在げんざいカリーニングラードでもばれるが、ロシアじんにとってはケーニヒスベルクは外来がいらい地名ちめいであり、カリーニングラードがうち生地きじめいとなっている一方いっぽうドイツじんにとってはケーニヒスベルクは(いま異国いこく都市としになっているが)むかしからのうち生地きじめいであって、カリーニングラードは外来がいらい地名ちめいである[11]

また、もともと内名うちみょうグダニスクばれていたポーランドどう都市としは、1793ねんプロイセン王国おうこく併合へいごうされてドイツめいの「ダンツィヒ」(そとめい)に改称かいしょうされたが、だい世界せかい大戦たいせんでドイツが敗戦はいせんしてポーランドが独立どくりつ回復かいふくしたのち、1952ねんふたたもと都市としめい「グダニスク」(内名うちな)に復帰ふっきした。

このように、ドイツけい住民じゅうみん入植にゅうしょくしたり、ドイツ帝国ていこくオーストリア帝国ていこく占領せんりょうされたりした歴史れきしてき背景はいけいをもつひがしヨーロッパ地域ちいきには、もともとうち生地きじめいだったドイツ地名ちめい各国かっこく呼称こしょうえられて外来がいらい地名ちめいになったドイツ地名ちめい事例じれいおお[12]。1989ねんはじまる東欧とうおう革命かくめいともなって、東欧とうおう諸国しょこく地域ちいき伝統でんとう文化ぶんか歴史れきしへの関心かんしんたかまり、地域ちいき固有こゆう言語げんごによる地名ちめい呼称こしょう重視じゅうしされるようになり[13]、ドイツけんにおいても1990年代ねんだい以降いこう地理ちりがく雑誌ざっしもちいられる地名ちめい表記ひょうきがドイツそとめい表記ひょうきから現地げんち内名うちみょう表記ひょうきへと変化へんかするなどしている[14]

フランスじん命名めいめいしたアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく都市としめいデトロイトもとつづ Detroit のまま英語えいごみされる一方いっぽうバトンルージュ Baton Rougeつづりもみもフランスしき維持いじしている[15]。いずれも外来がいらい地名ちめいしたうち生地きじめい事例じれいである[15]

反対はんたいに、うち生地きじめいしたエクソニムの実例じつれいげると、16世紀せいき日本にっぽん交流こうりゅうのあったポルトガル外来がいらい地名ちめい Holanda由来ゆらいする「オランダ」は日本語にほんごにおいてうち生地きじめいしたが、同国どうこくうち生地きじめいの「ネーデルラント」は依然いぜん日本人にっぽんじんにとっては外来がいらい地名ちめいである[8]U.S.A.たいする「米国べいこく」、 U.K.たいする「英国えいこく」「イギリス」なども、現在げんざい国名こくめいである the United States of America および the United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandれる以前いぜん外来がいらい地名ちめいもと成立せいりつした、日本語にほんごなかうちせいした地名ちめいである[16]

このように、遠方えんぽう自分じぶん生活せいかつけんまなかった地名ちめい外来がいらい地名ちめいうち生地きじめいとしてむことがおおく、ぎゃくはや時期じきから交易こうえき接触せっしょくのあった土地とちには、現地げんちめい優先ゆうせんして自分じぶん言語げんご文脈ぶんみゃくなかみずからの文化ぶんかけんにおいてうち生地きじめい誕生たんじょうさせていくことになる[17]、と田邉たなべ (2020)説明せつめいしている。

うえ掲の国連こくれんによるうち生地きじめい例示れいじでは、パレスチナがわアラビア地名ちめい Teveryaうち生地きじめいとされ、イスラエルがわヘブライ地名ちめい Tiberiasうち生地きじめいではないとみなされているが、ユダヤじんからればまったぎゃく位置いちづけとなる[18]結局けっきょく、ある地名ちめいがエンドニムとエクソニムのいずれであるかというといこたえるさいは、だれからうちせい外来がいらいなのかという視点してんかんがえてとらえることが重要じゅうようである[9]

だいさん概念がいねん[編集へんしゅう]

太平洋たいへいよう大西おおにしひろしインド洋いんどようカリブ海かりぶかい地中海ちちゅうかいなどの海洋かいようめい一般いっぱん外来がいらい地名ちめいでもうち生地きじめいでもないとかんがえられており[19]、イスラエルの地理ちり学者がくしゃナフタリ・カドモンヘブライばん二分にぶんほう英語えいごばんてき分類ぶんるいりょう概念がいねんあいだ位置いちづけられるだいさん概念がいねん示唆しさした[20]のをはじめ[21]地名ちめい専門せんもんたちのあいだだいさん概念がいねん示唆しさ提唱ていしょうされている[21]。ニュージーランドの地名ちめい研究けんきゅうフィリップ・W・マシューズは、海洋かいようめいかんして、地上ちじょう地名ちめいとはことなる性格せいかくべつ術語じゅつごとして、「その地名ちめい」を意味いみするアロニムえい: allonym)を提案ていあんしている[21][22]。また、日本にっぽん地理ちり学者がくしゃ田邉たなべひろしは、カドモンが示唆しさしただいさん術語じゅつごとマシューズの提案ていあんしたアロニムをまとめて、優先ゆうせん地名ちめいえい: toponym precedent)を提案ていあんしている[21]。これは、海洋かいようめい(とりわけだい海洋かいよう公海こうかい)が、沿岸えんがん諸国しょこく住民じゅうみんではなく航海こうかいしゃによって命名めいめいされ、各国かっこく使用しようしゃ翻訳ほんやくされて定着ていちゃくしていった、いわば地名ちめいに「優先ゆうせん」して国際こくさいてき認知にんちされた名称めいしょうである[23]との理解りかいもとづく術語じゅつごである。

カドモンらがべているように、地名ちめいうち生地きじめい外来がいらい地名ちめい二分にぶんするかんがかたには無理むりがある[24]。それは、海洋かいようめい以外いがいひがしアジアの歴史れきしてき視点してんとおしてかんがえてみてもいえることである[24]

翻訳ほんやくこぼし[編集へんしゅう]

外来がいらい地名ちめい言語げんごむにはおおきくけて翻訳ほんやくこぼしという2つの方法ほうほうがある[ちゅう 3][26]原則げんそくとして、うち生地きじめい外来がいらい地名ちめい翻訳ほんやくされない[27]。これは、翻訳ほんやくされた途端とたん地名ちめい固有名詞こゆうめいしとしての意味いみうしなわれて、普通ふつう名詞めいしすることをゆるしてしまうからである[28]。たとえば、日本にっぽん地名ちめい大川おおかわ」を Rio Grande翻訳ほんやくすれば、スペインけん人々ひとびとにとっては、これが日本にっぽん地名ちめいであることを理解りかいできなくなるし、英語えいごGrand River翻訳ほんやくして説明せつめいすれば、英語えいごけん人々ひとびと普通ふつう、これをなんらかの「おおいなるかわ」のことだととらえることになる[28]

上記じょうき問題もんだいは「大川おおかわ」を Ōkawaマ字まじこぼしすることによって解決かいけつする。うえ掲の定義ていぎ例示れいじされたロシアのうち生地きじめい Moskva は、たんロシアキリル文字もじ表記ひょうき Москваラテン文字もじこぼししただけの地名ちめい表記ひょうきであり、外来がいらい地名ちめいとはいえない。おなじく「北京ぺきん」の拼音かたち Beijing も、漢字かんじからラテン文字もじへのこぼしによる中国ちゅうごくうち生地きじめいであるといえる。ただし、日本語にほんご仮名かめいみ「ペキン」や西洋せいようふるいラテン文字もじ表記ひょうき Peking は、現代げんだい中国語ちゅうごくごとはべつ発音はつおんになるため、中国ちゅうごく使用しようしゃにとっては外来がいらい地名ちめいかんがえられている。[よう出典しゅってん]

ドイツ内名うちみょう Deutschlandたいし、英語えいごけんうち生地きじめいでドイツをあらわGermany や、フランス語ふらんすごけんうち生地きじめいでドイツをあらわAllemagne などがあるが、これらを語義ごぎもとづいて翻訳ほんやくすれば、それぞれ「ゲルマンじん土地とち」「アレマンネじん土地とち」となり、ドイツじんにとっては、正確せいかくには外来がいらい地名ちめいですらないべつ意味いみ外来がいらい変化へんかしてしまう[29]。このようなうち生地きじめい国名こくめいなどにあらわれやすい[27]

例外れいがいてきだい海洋かいようのような優先ゆうせん地名ちめいでは翻訳ほんやく地名ちめい多用たようされる[27]。16世紀せいきのスペインの航海こうかいしゃフェルディナンド・マゼランによって提唱ていしょうされたといわれる Mare Pacificum英語えいごPacific Oceanフランス語ふらんすごl'Océan pacifique中国ちゅうごく日本語にほんごで「太平洋たいへいよう」と翻訳ほんやくされるが、いずれのわけうち生地きじめいではなく、外来がいらい地名ちめいともとらえられない[30]。ここで、中国ちゅうごく日本語にほんごの「太平洋たいへいよう」はおな文字もじ表現ひょうげんで、相互そうご理解りかい可能かのうであり、発音はつおんことなるだけなので、翻訳ほんやくとはいいがたい[30]

ただし、2020ねん現在げんざい翻訳ほんやく可能かのううち生地きじめいかんするかんがかた国連こくれん地名ちめい標準ひょうじゅん会議かいぎでもいま定着ていちゃくしていない[17]

ひがしアジアの歴史れきしてき視点してんから[編集へんしゅう]

はじめに、漢字かんじ中国ちゅうごくから伝来でんらいする以前いぜん古代こだい日本語にほんごや、元来がんらい文字もじたなかったアイヌには独自どくじ口承こうしょう地名ちめいがあったが、それらの地名ちめいなにであれ外来がいらい文字もじりて文字もじしたとき、その地名ちめい外来がいらい地名ちめいするべきかか、判然はんぜんとしない[31]口承こうしょう地名ちめい自体じたいはもちろんうち生地きじめいだが、文字もじする過程かてい外来がいらい地名ちめいしたとるべきか、その文字もじした地名ちめい定着ていちゃくした場合ばあいにその外来がいらい地名ちめいうち生地きじめいしたと理解りかいすべきなのか、疑問ぎもんのこ[31]

漢字かんじ地名ちめい漢字かんじ文化ぶんかけんうちであれば基本きほんてき漢字かんじ表記ひょうきのまま相互そうご理解りかい可能かのうであるため、翻訳ほんやくこぼし必要ひつようとしない。たとえば、東京とうきょうを「とうきょう」とめば日本語にほんご地名ちめい、「トンチン」[32][33]めば中国ちゅうごく地名ちめい、「トンギョン」[34][ちゅう 4]めば韓国かんこく地名ちめい、「ドンキン」[35]めばベトナム地名ちめいとなる。この「東京とうきょう」は、中国ちゅうごく外来がいらい地名ちめい東京とうきょう」を語源ごげんとする日本にっぽんうち生地きじめいでありながら、各国かっこく漢字かんじおん発音はつおんして使用しようされれば、そのまま各国かっこくうち生地きじめいになり、それらは日本にっぽんかられば外来がいらい地名ちめいとらえられることになる。このように地名ちめい歴史れきしてき変遷へんせんってかんがえると、外来がいらい地名ちめいうち生地きじめい固定こていてき概念がいねんではなく、相互そうご浸透しんとうしていくことが理解りかいされる[15]

そのほか、倶利伽羅峠くりからとうげ (Krkara) ・薩埵とうげ (Sattva) ・摩耶山まやさん (Māyā) ・祇園ぎおん (Jeta-vana) ・那智滝なちだき (Nadï) ・琵琶湖びわこ (Vipañkî) は日本語にほんご消化しょうかされて[36]うちせいしたサンスクリット由来ゆらい地名ちめいであり、外来がいらい地名ちめい外来がいらい自国じこく動的どうてき作用さようい、相互そうご密接みっせつ関係かんけいをもって成立せいりつした歴史れきし内包ないほうしている[37]

そとめい撤廃てっぱいうご[編集へんしゅう]

言語げんご案内あんない標識ひょうしきれい
日本にっぽん北海道ほっかいどう稚内わっかないうちにある経路けいろ案内あんない標識ひょうしき。(うえから)日本語にほんご英語えいごロシアの3かこく表記ひょうきされている。こうしたロシア表記ひょうき併記へいきした案内あんない標識ひょうしきは、ロシアじん訪日ほうにちきゃくおお北海道ほっかいどう港町みなとちょうでよくられる。
インドのチェンナイ国際こくさい空港くうこう最寄もよりのティルスラムえき英語えいごばん駅名えきめいしるべ。(うえから)タミル英語えいごヒンディーの3かこく表記ひょうきされている。インドのほとんどの鉄道てつどうえきでは、このような3かこく以上いじょう英語えいご・ヒンディー現地げんち言語げんご)で表記ひょうきされた駅名えきめいしるべられる。

1960年代ねんだい以来いらい国連こくれん地名ちめい標準ひょうじゅん会議かいぎは、ヨーロッパを中心ちゅうしんとするきゅう宗主そうしゅこくだい世界せかい大戦たいせん以前いぜん植民しょくみんとしていた土地とち一方いっぽうてき命名めいめいした[38]そとめいはい[39]現地げんち住民じゅうみんもうてにおうじた内名うちな尊重そんちょうしつつ[38][40]地名ちめい標準ひょうじゅん促進そくしん[40]国際こくさいてきそとめい削減さくげんするよう勧告かんこくしている[7][41]。また、国際こくさい交流こうりゅう活発かっぱつともない、公共こうきょう交通こうつう機関きかん多言たげん案内あんない表示ひょうじ相互そうご利便りべんせい確保かくほする必要ひつようせいからも地名ちめい表記ひょうき標準ひょうじゅんはかっている[40]。しかし、21世紀せいきむかえた近年きんねんでは、以前いぜんのようにそとめい排除はいじょするばかりではなく、内名うちみょうそとめい併記へいきして共存きょうぞんさせるこころみもおこなわれている[14]

1990年代ねんだい以降いこうインドでは、ヒンドゥー原理げんり主義しゅぎ高揚こうようし、その結果けっかとして、地名ちめい変更へんこううごきがたかまった[よう出典しゅってん]。1995ねんムンバイ英語えいご公式こうしき名称めいしょうそとめいBombay (ボンベイ)から現地げんちマラーティーもとづく内名うちみょうMumbai (ムンバイ)に変更へんこうしたれい[17][42]のほか、おなじく英語えいごそとめいの「ベナレス」がヒンディー内名うちみょうの「ヴァーラーナシー」へ、1996ねん旧称きゅうしょうの「マドラス」がタミルの「チェンナイ」へ、 2001ねん英語えいごそとめいの「カルカッタ」がベンガル内名うちみょうコルカタ」へ、2007ねん英語えいごそとめいの「バンガロール」がカンナダ内名うちみょうベンガルール」へ変更へんこうしたれいなど、インド各地かくちではイギリス植民しょくみん時代じだいそとめいからのだい規模きぼ名称めいしょう変更へんこうおこなわれている[13]

かつて象牙ぞうげ取引とりひきさかんだった、大西洋たいせいようめんするフランスのきゅう植民しょくみんコートジボワールは、フランス語ふらんすごで「象牙ぞうげ海岸かいがん」を意味いみする Côte d'Ivoireばれ、その言語げんごでも、英語えいごIvory Coast 、ドイツElfenbeinküste 、スペインCosta de Marfil日本語にほんごおよび中国語ちゅうごくごで「象牙ぞうげ海岸かいがん」というふうに各国かっこく翻訳ほんやくされたそとめいなが使用しようされていた。しかし、1960ねんにフランスから独立どくりつしたのち、コートジボワール共和きょうわこく政府せいふフランコフォニー以外いがいくに地域ちいきへと外交がいこう関係かんけい拡大かくだいするにつれて、自国じこくめい翻訳ほんやく地名ちめい呼称こしょうされることによるあつかいにくさ、不便ふべんさがしていった。そのため、1986ねん同国どうこく政府せいふは、自国じこく外交がいこう儀礼ぎれいじょう正式せいしき名称めいしょう(République de) Côte d'Ivoire とすることを宣言せんげんし、それ以来いらい国際こくさいてき交際こうさいにおいて、自国じこくめいフランス語ふらんすご以外いがい言語げんごへの翻訳ほんやく表現ひょうげん承認しょうにん受容じゅようすることを拒否きょひし、翻訳ほんやくされたそとめい使用しようしないよう各国かっこく政府せいふ要請ようせいしている。

自国じこくめい翻訳ほんやくしたそとめい使用しようめるよう要請ようせいしているくにには、ひがしティモールポルトガル由来ゆらいTimor-Leste変更へんこう要請ようせいしたれい[43]カーボベルデおなじくポルトガル由来ゆらいCabo Verde変更へんこう要請ようせいしたれい[44]げられる。しかし、民間みんかんでの呼称こしょうまでは徹底てっていされておらず、翻訳ほんやくしたそとめいをマスメディアなどがもちいている場合ばあいがある[45]

そとめい撤廃てっぱいとはすこ性格せいかくことなるが、まれ特定とくてい言語げんご由来ゆらいするそとめいべつ言語げんご由来ゆらいそとめいへいいかえることがある。このれいとして、2014ねん西にしアジアのジョージアこく政府せいふ日本にっぽん政府せいふたいして、同国どうこく日本語にほんごそとめいをロシアGruzia由来ゆらいするとされる「グルジア」から英語えいごめいGeorgia準拠じゅんきょした「ジョージア」へ変更へんこうするよう要請ようせいしたこと[17]げられる。どう国内こくないにおけるせいしょう内名うちな)は「カルトヴェロじんくに」を意味いみする「サカルトヴェロ」(グルジア: Sakartvelo)で[17]、「グルジア」と「ジョージア」はいずれもせいゲオルギオス由来ゆらいするそとめいである。

同様どうようれいとして、日本国にっぽんこく外務省がいむしょうは2022ねん同年どうねん2がつロシアのウクライナ侵攻しんこう影響えいきょうけて、従来じゅうらいは「キエフ」とばれたどう都市としそとめいを「キーウ」に変更へんこうするなど、ウクライナかく都市とし日本語にほんごによる呼称こしょうをロシア由来ゆらい呼称こしょうからウクライナ由来ゆらい呼称こしょう変更へんこうすることを発表はっぴょうした[46]

一方いっぽうで、議論ぎろん俎上そじょういた時代じだい文脈ぶんみゃく沿った名称めいしょうえて使用しようしたり、国家こっか公用こうようとその地域ちいき使つかわれている言語げんごことなる場合ばあい現地げんち言語げんご優先ゆうせんしたり、すで学術がくじゅつ用語ようごとして定着ていちゃくしているためにふる名称めいしょう使用しようする場合ばあいもある。

2015ねんアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく連邦れんぽう政府せいふだい25だい大統領だいとうりょうウィリアム・マッキンリーちなむマッキンリーさん正式せいしき名称めいしょうを「デナリ」に変更へんこうしたり[47]英国えいこくのインド測量そくりょうきょく初代しょだい長官ちょうかんジョージ・エベレストちなんで命名めいめいされた英語えいごめいエベレストさんチベット[ちゅう 5]の「チョモランマ」と呼称こしょうしたり[49]英語えいごめいとチベットめい対抗たいこうしてネパール政府せいふネパールの「サガルマータ」を提示ていじしたり[49]するなど、現地げんちめい重視じゅうしする傾向けいこう自然しぜん地名ちめいにもられる。

民族みんぞくめいかんしても、人種じんしゅ民族みんぞく差別さべつてきひびきがするそとめい撤廃てっぱいするうごきがあり、「エスキモー」を「イヌイット」へ[50]、「ジプシー」を「ロマ」へ[51]といいかえたれいなどがられている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ なお、国連こくれん公用こうようひとつとしての中国ちゅうごくでは、それぞれ、当地とうち语地めい外来がいらい语地めいやくされている[3]
  2. ^ アイヌ地名ちめいは、日本にっぽんなが歴史れきしなかうちせいした[5]
  3. ^ もうすこくわしくると、たとえば小俣おまた (2009)では、現状げんじょうのロシア地名ちめい日本語にほんご表記ひょうき検討けんとう対象たいしょうとして、外国がいこく地名ちめい日本語にほんご表記ひょうきする手続てつづきの内容ないようについて、こぼし主義しゅぎ文字もじ置換ちかん)、表音ひょうおん主義しゅぎ発音はつおん転写てんしゃ)、表意ひょうい主義しゅぎ翻訳ほんやく)、慣用かんよう主義しゅぎ慣用かんようがた)の4つに分類ぶんるいしている[25]。これにくわえて、とくにアルファベット言語げんごあいだでは、内名うちみょうおな語源ごげんから派生はせいした転訛てんかかたち外来がいらい地名ちめいいち形態けいたいである(れい英語えいご内名うちみょう Londonたいするフランス語ふらんすごそとめい Londres やイタリアそとめい Londra など)。
  4. ^ 公的こうてき文書ぶんしょでは「도쿄」(トキョ)ときされる。
  5. ^ 中国ちゅうごくめいでもある[48]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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  2. ^ a b 日本にっぽん学術がくじゅつ会議かいぎ 2019, pp. 18–19.
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  5. ^ 田邉たなべ 2020, p. 63.
  6. ^ 田邉たなべ 2020, pp. 62–63.
  7. ^ a b c UNGEGN 2002, p. 10.
  8. ^ a b 田邉たなべ 2020, p. 64.
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  11. ^ 田邉たなべ 2020, pp. 63, 65.
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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]