恋人こいびと

ヴィルヘルム・ローゼンスタンド"Outside the Café A Porta, Copenhagen " （1882年ねん） ベンチに座すわり一いち杯はいの飲物のみものをストローで分わけ合あう若わかい二人ふたり。

アーサー・ラッカム "Lovers" ／イングランドの挿絵さしえ画家がかの手てになる1911年ねんの水彩すいさい画が。楽劇がくげき『ニーベルングの指ゆび環たまき』第だい2日にち第だい3幕まくより、荒涼こうりょうたる岩山いわやまの麓ふもとにて、竜りゅう殺ごろしの英雄えいゆうジークフリートとその胸むねに抱いだかれる戦せん乙女おとめブリュンヒルデは永遠えいえんの愛あいを誓ちかい合あう。しかし、運命うんめいの日ひは近ちかい。

恋人こいびと（こいびと、旧きゅう仮名かめい: こひびと）は、恋こいしく思おもう相手あいて。20世紀せいき後半こうはん以降いこうの日本語にほんごの用法ようほうでは、特とくに、相思相愛そうしそうあいの間柄あいだがらにある、相手方あいてがた。恋愛れんあいの相手あいて。愛人あいじん（あいじん）。情人じょうにん（じょうにん、じょうじん）。思おもい人じん（古語こご: 思おもえ人じん）。

※本ほん項こうは、大和言葉やまとことば「こいびと（恋人こいびと）」とその類義語るいぎごについて解説かいせつしています。まず「こいびと」節ふしがあり、その後ごは「古語こご」節ふしから「中国ちゅうごく語ご」節ふしまで、すべて類義語るいぎごについての解説かいせつです。

こいびと

「こいびと（恋人こいびと）」は「恋こいしく思おもっている相手あいて」を指さす大和言葉やまとことばで、多おおくは相思相愛そうしそうあいの間あいだ柄がらについていうが、片思かたおもいの場合ばあいにも用もちいることがある。

「スクリーンの恋人こいびと」等とうという表現ひょうげんも、片思かたおもいの用例ようれいの一ひとつである。また「お口くちの恋人こいびと ロッテ」は菓子かしメーカーの有名ゆうめいなキャッチコピーで、美味おいしいものを求もとめる人ひとの口くちと美味おいしい菓子かしを、惹ひかれ合あう恋人こいびと同士どうしになぞらえたメタファーである。石屋いしや製菓せいかの「白しろい恋人こいびと」（1976年ねん〈昭和しょうわ51年ねん〉発売はつばい）もよく知しられた菓子かしで、これは降ふる雪ゆきの一ひとつ一ひとつから恋人こいびと達たちを想起そうきした創業そうぎょう者しゃ石いし水すい幸安ゆきやすが名付親なづけおやである。

古典こてんにおける用例ようれいを挙あげる。

そのゆめに誰だれともわかぬ前まえの世よの我わがこひ人じんの船ふねをほの見みし　──詠よみ人びと知しらず 『梁塵りょうじん秘ひ抄しょう』（平安へいあん時代じだい末期まっき）第だい7首しゅ

---

こひ人じんの心しんは遠とおく成なりにけり わする計けいの月日つきひならねど　──弁べん内侍ないし（藤原ふじわら信実しんじつ女おんな） 『閑窓撰せん歌合うたあわせ』（建けん長ちょう3年ねん〈1251年ねん、鎌倉かまくら時代ときよ中期ちゅうき〉成立せいりつ）所収しょしゅう

---

恋人こいびとの乳ちち守もり出来できぬ御田みたうヘ　──井原いはら西鶴さいかく（江戸えど時代じだい前期ぜんきの人ひと）

---

恋人こいびとをかくした芒すすきかれにけり　──小林こばやし一茶いっさ（江戸えど時代じだい後期こうきの人ひと）

---

恋人こいびとの肌はだはつかしきひるね哉　──正岡子規まさおかしき（明治めいじ時代じだいの人ひと）

---

恋人こいびとと書院しょいんに語かたる雪解ゆきげかな　──泉いずみ鏡花きょうか（明治めいじ・大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

古語こご

いもせ

上代じょうだい日本語にほんごの「妹背いもせ/妹いもうと兄けい（いもせ）」は「親したしい男女だんじょの関係かんけい」を第だい1義ぎとし、とりわけ「夫婦ふうふ」を意味いみするが、「親したしい男女だんじょの関係かんけい」は「恋人こいびと関係かんけい」を含意がんいしている。

夜よざくらや 妹背いもせむつみの足あしゆるく　──枯蘆（清原きよはら枴童かいどう。明治めいじ・大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

---

貝かい雛ひなや まこと妹背いもせの二に人にんきり　──高橋淡路女たかはしあわじじょ（大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

上うえに記しるしたのは近代きんだい以降いこうの用例ようれいであり、このように古典こてん的てき趣おもむきを意図いとして現在げんざいでも用もちいられることがある。

おもひびと

中古ちゅうこ日本語にほんご以来いらいの古語こごでは「思おもえ人じん」が多おおくの点てんで同義どうぎである。但ただし、思おもいを寄よせられている人ひとを指さす「思おもはれ人じん」や、思おもいを寄よせさせている人ひとを指さす「思おもはせ人じん」という派生はせい語ごがある点てんでは「恋人こいびと」と異ことなる。これは文学ぶんがく（和歌わか、物語ものがたり、日記にっき、紀行きこうなど）を通とおして現代げんだいに伝つたわっている平安へいあん貴族きぞく（それを含ふくむ古代こだい日本人にっぽんじん）の精神せいしん性せいを反映はんえいした用法ようほうで、恋愛れんあいであれ呪のろいであれ、思おもいの強つよさが相手あいての心しんや夢ゆめや健康けんこう状態じょうたいにまで影響えいきょうを与あたえると信しんじられていた時代じだいの、言葉ことばのありようを示しめしている。例たとえば『伊勢物語いせものがたり』の主人公しゅじんこう（※在原業平ありわらのなりひらと目めされる人物じんぶつ）は、東ひがし下くだりの際さい、京きょうの都と（平安京へいあんきょう）に残のこしてきた思おもえ人じんが自分じぶんの夢ゆめに現あらわれなくなってしまったことに触ふれ「あの人ひとに忘わすれられてしまったようだ」と嘆なげいている。その時ときに主人公しゅじんこうが詠よんだ歌うたについては「宇津ノ谷峠うつのやとうげ#詠うたわれた宇津うつ山さん」の「するがなる～」を参照さんしょう。

愛人あいじん

「愛人あいじん」も参照さんしょう

「愛人あいじん」という和製わせい漢語かんごは、西洋せいよう文化ぶんかが大量たいりょうに流入りゅうにゅうした幕末ばくまつ「愛あいするいとしい人ひと」「愛あいしている相手あいて」「特別とくべつに深ふかい関係かんけいにある異性いせい」等とうの意味いみで以もって造語ぞうごされた。明治めいじ時代じだい初頭しょとうには「人ひとを愛あいすること」「人間にんげんを大切たいせつなものと考かんがえること」という異ことなる語義ごぎでも造語ぞうごされた。

最初さいしょ期きの用例ようれい（初出しょしゅつか）
【前者ぜんしゃ】Honey　蜂蜜はちみつ　愛人あいじん　──『英和えいわ対訳たいやく袖珍しゅうちん辞書じしょ』堀ほり達之たつゆき助すけ編へん（文久ぶんきゅう2年ねん〈1862年ねん〉刊かん）
【後者こうしゃ】世人せじん或あるいは愛人あいじんの美名びめいを買かいはんとして慢に政府せいふの任にんを責せめ〔『礼れい記き』檀だん弓ゆみ上じょう〕 ──福沢ふくさわ諭吉ゆきち『西洋せいよう事情じじょう 外編がいへん』（明治めいじ元年がんねん-3年ねん〈1868-1870年ねん〉刊かん）

いずれの語義ごぎも日本人にっぽんじんのそれとは異ことなる欧米おうべい人ひとのもつ恋こいと愛あいについての概念がいねんに触ふれた日本にっぽんの知識ちしき層そうが対訳たいやく語ごとして生うみ出だしたものであった。その内うち「愛あいするいとしい人ひと」を意味いみする方ほうの「愛人あいじん」という語かたりは、小学館しょうがくかん『精選せいせん版ばん 日本にっぽん国語こくご大だい辞典じてん』によれば、英語えいごの "honey"、"lover"、"sweetheart" 等とうの対訳たいやく語ごとして生うまれてきた。以来いらい、現代げんだいの辞じ事典じてんでも「愛人あいじん」の項こうで「愛あいする愛いとしい人ひと」等とうの語義ごぎを第だい1義ぎもしくは第だい2義ぎに挙あげている。

当初とうしょは「恋人こいびと」と同義どうぎ的まとにも用もちいられていたが、時代じだいを経へるに連つれて、配偶はいぐう者しゃ以外いがいの恋愛れんあい関係かんけいにある相手あいてを指さす語かたりへと変化へんかし、一般いっぱんに肉体にくたい関係かんけいがあることを意味いみするようになった。「情婦じょうふ」「情夫じょうふ」「情人じょうにん」の婉曲えんきょく表現ひょうげんとして用もちいられる傾向けいこうもある。

彼かれの人ひとの系統けいとう

彼女かのじょ

現代げんだい日本語にほんごには、「愛人あいじんもしくは恋人こいびとである女性じょせい」を意味いみする「彼女かのじょ（かのじょ）」がある (cf. wikt) 。これは、第だい1義ぎとして、明治めいじ時代じだい初頭しょとうに、話はなし手てとき手きて以外いがいの女性じょせいを指さす語かたりとして「彼女かのじょ」が使つかわれ始はじめたことに起源きげんがある。西にしヨーロッパの諸しょ言語げんごにおける三人称さんにんしょう単数たんすうの女性じょせいを指さす人称にんしょう代名詞だいめいし（英語えいごの "she" など）の翻訳ほんやく語かたりとして、もともと男女だんじょ両性りょうせいに用もちいられていた日本語にほんごの三人称さんにんしょう代名詞だいめいし「かれ（彼かれ）」に「おんな（女おんな）」を連結れんけつして「彼女かのじょ（かのおんな、あのおんな）」と表現ひょうげんし始はじめたのが最初さいしょで、これを元もとに「おんな」だけ音読おんどくすることによりで生うみ出だされた語かたりであった。ここから転てんじて「愛人あいじんもしくは恋人こいびとである女性じょせい」の意味いみ（第だい2義ぎ）で使つかわれ始はじめたのは1887年ねん（明治めいじ20年ねん）前後ぜんこう。そして、広ひろく普及ふきゅうしたのは大正たいしょう時代じだいに入はいってからであった。表現ひょうげんとしては早はやくも1876年ねん（明治めいじ9年ねん）の『改正かいせい画引かくびき小学しょうがく読本とくほん』に「彼女かのじょムカウニヰルムスメ」という形かたちで初出しょしゅつしているものの、これは「カノオンナ」をいじった言葉ことば遊あそびに過すぎなかった。

ロンドンの旦だん 彼女かのじょの秋あき袷あわせ　──河野こうの静しず雲くも（明治めいじ・大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

---

泣ぼくろ 彼女かのじょもちけり けふの月つき　──山口やまぐち青邨せいそん（大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

彼氏かれし

現代げんだい日本語にほんごには「愛人あいじんもしくは恋人こいびとである男性だんせい」を意味いみする「彼氏かれし（かれし）」がある (cf. wikt) 。この語かたりは三人称さんにんしょう代名詞だいめいしと「愛人あいじんもしくは恋人こいびとである女性じょせい」の両方りょうほうの意味いみでの「彼女かのじょ（かのじょ）」の対義語たいぎごとして、昭和しょうわ初期しょき（1920年代ねんだい後半こうはん）に漸ようやく誕生たんじょうした。徳川とくがわ夢ゆめ声ごえの造語ぞうごとされており、流行りゅうこう語ごとして広ひろまり、やがて定着ていちゃくした。後者こうしゃの意味いみでは「彼女かのじょ」と完全かんぜん対義語たいぎごの関係かんけいにあるが、前者ぜんしゃの三人称さんにんしょう代名詞だいめいしとしての意味いみは「あの人ひと」や「あいつ」に近ちかく、「彼女かのじょ」と違ちがって幾分いくぶんからかいのニュアンスが含ふくまれる。

ここに於おいて、彼氏かれし（カレシ）を一いち名めい、アイアン・クロウ（鉄てつの爪つめ）と尊称そんしょうすることに相成あいなった。　──徳川とくがわ夢ゆめ声ごえ 漫談まんだん集しゅう『見習みならい諸しょ勇いさみ列伝れつでんの巻まき』（1929年ねん〈昭和しょうわ4年ねん〉刊行かんこう）

---

やがて夕方ゆうがたにもなれば赤あかいヂヤンク船せんも帰きつてくるであらう、そして彼氏かれしは彼氏かれしの空腹くうふくに始はじめて気きづく。　──三岸みぎし好太郎こうたろう『上海しゃんはいの絵本えほん』（1930年ねん〈昭和しょうわ5年ねん〉刊行かんこう）

上うえに挙あげたのはいずれも最初さいしょ期きの用例ようれいで、これらは三人称さんにんしょう代名詞だいめいしである。以下いかに挙あげるものは「愛人あいじんもしくは恋人こいびとである男性だんせい」に読よめてしまう人ひとがいるかも知しれないが「あいつ」への差さし替かえが可能かのうな三人称さんにんしょう代名詞だいめいしである。

私わたしはゴンドラを見出みいだしてズカズカはいった。王子おうじ君くん五郎ごろう氏しはそこのバーテンだろうと思おもったのである。然しかし、バーテンダーは彼氏かれしではなかった。　──坂口さかぐち安吾あんご『日月じつげつ様さま』（1949年ねん〈昭和しょうわ24年ねん〉刊行かんこう）

彼かれ

「彼氏かれし」を「彼かれ」ともいうが、先述せんじゅつしたように、元々もともとは男女だんじょ両性りょうせいに用もちいてきた古来こらいの大和言葉やまとことばの三人称さんにんしょう代名詞だいめいし「かれ」が、「彼女かのじょ」という新語しんごが普及ふきゅうしてゆくに連つれて「愛人あいじんもしくは恋人こいびとである男性だんせい」の意味いみだけで用もちいられるようになっていった。間違まちがえてはならないのは、明治めいじ初頭しょとうに生うまれた言葉ことば遊あそびの「彼女かのじょ」が一般いっぱん的てきな辞書じしょに掲載けいさいされるほどの語かたりにまで成長せいちょうを遂とげた頃ころには明治めいじが終おわりかけていた（あるいは、終おわっていた）という事実じじつで、つまりは「彼女かのじょ」が通用つうよう語ごになるまでは依然いぜんとして男女だんじょ両用りょうようの「かれ」が、いわゆるこの時代じだいの正ただしい日本語にほんごであった。その後ご「彼女かのじょ」の対義語たいぎごとして「彼氏かれし」が生うまれ、流行りゅうこう語ごから通用つうよう語ごへと成長せいちょうしたことで「彼かれ」と「彼氏かれし」が同義どうぎ語ごとして並存へいそんする時代じだいが到来とうらいし、今いまに到いたっている。以下いかは用例ようれい。

日焼ひやけせる彼かれと彼女かのじょと町まちに逢ふ　──高浜たかはま虚子きょし（明治めいじ・大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

---

我わが一語いちご彼かれ一いち語ご虫ちゅうきいてをり　──星野ほしの立子たつこ（大正たいしょう・昭和しょうわ時代じだいの人ひと）

外来がいらい語ご

ガールフレンドとボーイフレンド

「ガールフレンド」および「ボーイフレンド」も参照さんしょう

ステディ

英語えいごの steady[stɛdi] を音おと写うつした外来がいらい語ごである「ステディ/ステディー」は、多義たぎ語ごであるが、本ほん項こうで扱あつかう語義ごぎとしては、一人ひとりの決きまった相手あいてとだけ交際こうさいすることをいい、その恋人こいびとや、そのさまをもいう。「ステディな関係かんけい」という表現ひょうげんが比較的ひかくてきよく使つかわれる。

一いち組くみ

「夫婦ふうふ」や「恋人こいびと同士どうし」の意味いみでの「妹背いもせ/妹いもうと兄けい」については「いもせ」節ふしですでに述のべた。

恋人こいびと同士どうし

恋愛れんあい関係かんけいにある者もの同士どうしを恋人こいびと同士どうし/恋人こいびとどうしと呼よぶこともある。語かたり構成こうせいは［ ja: 恋人こいびと + 同士どうし（動作どうさ・性質せいしつ・状態じょうたいなどにおいて互たがいに共通きょうつう点てんをもっている人ひと。仲間なかま。連つれ。友人ゆうじん。）］。

ふたり

「二人ふたり」も参照さんしょう

「二人ふたり/ふたり」という日本語にほんごの本義ほんぎは、単たんに人数にんずうが2であることではあるが、恋人こいびと同士どうしや夫婦ふうふのように、恋愛れんあい関係かんけいや婚姻こんいん関係かんけいで結むすび付ついている一いち組くみの男女だんじょもしくは男女だんじょでない組くみ合あわせの2人ふたりを、そのように呼よぶことも多おおい。実際じっさいの暮くらしのなかでは、夫婦ふうふでない恋人こいびと同士どうしに対たいしてのみ選択せんたく的てきにこの名なで呼よぶということは無ない。一方いっぽうで文学ぶんがく作品さくひんや音楽おんがく作品さくひんなど、かなり明確めいかくに選択せんたく的てきに「二人ふたり/ふたり」を恋人こいびと同士どうしに対たいして用もちいる傾向けいこうが見みえる分野ぶんやがある。また、例たとえば右みぎ上じょうに表示ひょうじしている絵画かいがに描えがかれている男女だんじょを表現ひょうげんするのに様々さまざまな形かたちが考かんがえられるが、「若わかいふたり」というのは日本語にほんごとして響ひびきが良よいものの一ひとつである。

アベック

「アベック」も参照さんしょう

「アベック」は「…と共ともに」を意いするフランス語ふらんすごの前置詞ぜんちし "avec" (wikt:ja) [avɛk]［アヴェック］に由来ゆらいする和製わせいフランス語ふらんすごで、第だい1義ぎには（男女だんじょの）二人ふたり連づれ、特とくに、愛あいし合あう二人ふたり連づれをいう。一対いっついの男女だんじょが一緒いっしょに組くんで行動こうどうすること。また、その男女だんじょをいう。また第だい2義ぎには、二人ふたりあるいは二ふたつのものが同一どういつの行動こうどうをすることをいう。

カップル

「カップル」も参照さんしょう

「カップル」は「一対いっつい」などを意味いみする英語えいご "couple" [kʌpəl] を音おと写うつした外来がいらい語ごで、夫婦ふうふ、恋人こいびとなどの一いち組くみをいう。

恋人こいびと同士どうしとその他た

「アベック」と「カップル」は、婚姻こんいん関係かんけいの有無うむに関係かんけいなく用もちいられるため、言葉ことばひとつだけではその二人ふたりが「夫婦ふうふ」なのかどうかを判断はんだんしようがない。これに対たいして「恋人こいびと」という語かたりは、特とくに20世紀せいき末期まっき以降いこう現在げんざいの用法ようほうでは、配偶はいぐう者しゃ（婚姻こんいん関係かんけいにある相手方あいてがた）のいない人ひとに対たいして用もちいるのが通例つうれいである。従したがって「恋人こいびと同士どうし」という表現ひょうげんも婚姻こんいん中ちゅうの“夫婦ふうふ（婚姻こんいん中ちゅうの、男女だんじょもしくは男女だんじょでない組くみ合あわせの二人ふたり）”に対たいして用もちいることは少すくなくなっている。ただ「お父とうさんとお母かあさんは（今いまでも）恋人こいびと同士どうしだから」などといった表現ひょうげんは割わりと用もちいられており、辞書じしょ的てき解釈かいしゃくとしては、完全かんぜんに正ただしい。

アベックからカップルへ

「恋人こいびと同士どうし」や「男女だんじょ一いち組くみ」を含意がんいする語義ごぎでの「アベック」という語かたりは同おなじ意味いみをもつ「カップル」に置おき換かわった経緯けいいがあり、前者ぜんしゃが優勢ゆうせいであった時代じだいの話者わしゃが高齢こうれい化かしてゆくに連つれて緩ゆるやかな廃語はいご化かが続つづいている。

朝日新聞あさひしんぶんの記者きしゃがこの話題わだいを取とり上あげた2010年ねん（平成へいせい22年ねん）の記事きじによると、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ内うちのデータベースで調しらべてみたところ、データベースに登録とうろくされている朝日新聞あさひしんぶんの紙面しめんの見出みだしに「アベック」が登場とうじょうするのは1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）3月27日にち付づけの「アベツク受難じゅなん　有金ありかねを奪だつはる」という記事きじであった。その後ご、1980年代ねんだいでは「楽たのしそうに歩あるくアベック」などといったほほえましい記事きじのほかに「アベック失踪しっそう事件じけん」や「名古屋なごやアベック殺人さつじん事件じけん」などぶっそうな用例ようれいが頻繁ひんぱんに登場とうじょうする。1990年代ねんだいからは用例ようれいが徐々じょじょに見みられなくなるものの、「アベック優勝ゆうしょう」などスポーツの分野ぶんやでは使つかわれ続つづけ、例たとえば2009年ねん（平成へいせい21年ねん）には1年間ねんかんで朝日新聞あさひしんぶん上じょうに登場とうじょうした63件けんのほとんどがスポーツ関係かんけいであった。ただし「アベック優勝ゆうしょう」という見出みだしにはベテラン記者きしゃが「俺おれから見みても古ふるいぞ」と異ことを唱となえるほど、認識にんしきは変化へんかしているという。

小説しょうせつ家かで評論ひょうろん家かの大岡おおおか昇平しょうへいは、1960年代ねんだい後半こうはんに書かいた『アベック語源ごげん考こう』という評論ひょうろんの中なかで「アベックという言葉ことばは昭和しょうわ2年ねん頃ごろ（...略りゃく...）生うまれた」としている。当時とうじとしては珍めずらしい男女だんじょ共学きょうがくの学校がっこう「文化ぶんか学院がくいん」（1925年ねん/大正たいしょう14年ねん創立そうりつ）の生徒せいとが仲良なかよく腕うでを組くんで歩あるく交際こうさいの様子ようすを、美うつくしく表現ひょうげんしようと、フランス語ふらんすごから採とって「アベック」と呼よび始はじめたのだという。それが昭和しょうわ10年代ねんだいになって密室みっしつ的てきな意味いみに変容へんようし、やがては旅館りょかんでの逢瀬おうせ（おうせ。愛あいし合あう男女だんじょが密ひそかに逢あうこと）を意味いみするまでになったが、その理由りゆうは大岡おおおかも解とき明あかせずに終おわっている。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの混乱こんらん期きになると、発刊はっかんが相次あいついだ性せい風俗ふうぞくや犯罪はんざいなどを扱あつかうカストリ雑誌ざっしの名前なまえに「アベック」が使つかわれるなどして、“いやらしい”イメージが定着ていちゃくしてしまったという。しかしその後ご、理由りゆうは不明ふめいながら、1950年代ねんだいになって人気にんきのテレビ番組ばんぐみ『アベック歌合戦うたがっせん』が登場とうじょうするほどにイメージは好転こうてんし、密室みっしつで男女だんじょが交際こうさいするイメージから公共こうきょうの場ばで語かたれる言葉ことばへの返かえり咲ざきを果はたした。

「カップル」という日本語にほんごは、1940年ねん（昭和しょうわ15年ねん）に発表はっぴょうされた田中たなか英光ひでみつの中編ちゅうへん小説しょうせつ『オリンポスの果実かじつ』で早はやくも使つかわれているが、「六ろく十じゅう歳さい前後ぜんこうの老人ろうじん夫婦ふうふから、十じゅう五ご歳さい位いの少年しょうねん少女しょうじょのカップルに至いたるまで、ダンスを愉たのしんでゐる」という内容ないようで、「恋人こいびと同士どうし」という意味いみとは違ちがった用法ようほうである。先述せんじゅつの朝日新聞あさひしんぶんの記事きじによれば、「恋人こいびと同士どうし」という意味いみでの使用しようは1960年代ねんだいに始はじまったという。

「恋人こいびと同士どうし」を意味いみする用語ようごとしての「アベック」から「カップル」への置おき換かわりは、1990年代ねんだいに傾向けいこうとして現あらわれ、若わかい世代せだいではすっかり進すすんだ。若わかい層そうでは「アベック」は完全かんぜんに死語しごであり、通用つうようしない。なお、人間にんげんというのは幼おさないころや若わかいころに学まなんだ言葉ことばというのは忘わすれ難がたく、歳としをとればとるほど新あらたな言葉ことばづかいを吸収きゅうしゅうする能力のうりょくが衰おとろえるので、すでに初老しょろうから老齢ろうれいになった人々ひとびとの中なかには、今いまでも新あたらしい日本語にほんごに順応じゅんのうできず「アベック」という古ふるい表現ひょうげんをそれなりの割合わりあいで使つかいつづけている人ひとがいる。たとえば2010年ねん時点じてんで公園こうえんの看板かんばんに「アベックに対たいする集団しゅうだん暴行ぼうこうが発生はっせいしています」と書かかせた役所やくしょの担当たんとう者しゃもいた。せっかく看板かんばんを作つくっても、これでは今いまの日本人にっぽんじんには意味いみが通つうじない、と指摘してきされている。（とはいえ高齢こうれい者しゃの全員ぜんいんが学習がくしゅう能力のうりょくが低ひくい訳わけではなく、高齢こうれいでも精神せいしん的てきに若々わかわかしくて学習がくしゅう能力のうりょくが高たかい人ひとは、しっかり新あたらしい語彙ごいを学習がくしゅうし、もう「アベック」とは言いわない。）

またスポーツ業界ぎょうかいは体質たいしつが古ふるいとしばしば言いわれるが、バレーの記事きじを書かいた記者きしゃは2016年ねん時点じてんで「アベック優勝ゆうしょう」と書かいた。またバドミントンの記事きじを2020年ねん時点じてんで書かいた記者きしゃも「アベック優勝ゆうしょう」と書かいた。わずかに残のこったこうした例外れいがい的てきな使用しようも、こうした記者きしゃが高齢こうれいで引退いんたいするにつれて消滅しょうめつしてゆく。

英語えいご

英語えいごでは恋愛れんあい関係かんけいにある相手あいてを "boyfriend（日本語にほんご音おと写うつし例れい〈以下いか同様どうよう〉：ボーイフレンド）" や "girlfriend（ガールフレンド）" という。それぞれ、日本語にほんごの「彼女かのじょ」の第だい2義ぎ、「彼氏かれし」の第だい2義ぎにほぼ相当そうとうする。英語えいごでは、ただの友人ゆうじんに対たいしては、誤解ごかいを避さけるためにこれらを用もちいず、単たんに friend などと呼よび、"He's my friend" などと表現ひょうげんすることが多おおい。

"steady" を用もちいることもあり、この場合ばあいは「他たの異性いせいとは違ちがった、恋人こいびとといえる特別とくべつな関係かんけいである」という意味合いみあいが強つよい。19世紀せいきの終おわり頃ころからアメリカで用もちいられるようになった語かたりである。この語かたりに由来ゆらいする外来がいらい語ご「ステディ/ステディー」については先述せんじゅつした。

ギャラリー

• 
  若わかいカップル
• 
  接吻せっぷんするカップル
• 
  海辺うみべで夕陽ゆうひを眺ながめるカップル

参考さんこう文献ぶんけん

• 松井まつい栄一えいいち『国語こくご辞典じてんにない言葉ことば―言葉ことば探さがしの旅たびの途上とじょうで』南雲なぐも堂どう〈叢書そうしょ・ことばの世界せかい〉、1983年ねん1月がつ1日にち。OCLC 278382077。 ISBN 4-523-26088-5、ISBN 978-4-523-26088-2。

関連かんれん項目こうもく

• 恋愛れんあい
• 恋愛れんあい結婚けっこん
• 許婚きょこん
• 愛人あいじん
• セックスフレンド
• カップル