(Translated by https://www.hiragana.jp/)
IBM 704 - Wikipedia コンテンツにスキップ

IBM 704

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
NACA の IBM 704 (1957)
IBM 704。IBM 727 磁気じきテープ装置そうちと IBM 780 CRTディスプレイがえる。(Image courtesy of LLNL.)
レオナルド・ダ・ヴィンチ記念きねん国立こくりつ科学かがく技術ぎじゅつ博物館はくぶつかん(ミラノ)のIBM 704

IBM 704[1]は、IBM1954ねん4がつ発表はっぴょうした、浮動ふどう小数点しょうすうてんすう演算えんざんハードウェアを搭載とうさいしたはつ量産りょうさんがたコンピュータである[2]

IBM 704 Manual of operation (下記かき外部がいぶリンク参照さんしょう)にはこうしるされている[3]

タイプ704電子でんしデータ処理しょりだい規模きぼ高速こうそく電子でんし計算けいさんであり、シングルアドレスがた内蔵ないぞうプログラムによって制御せいぎょされる。

このように、当時とうじの704は「かなり複雑ふくざつ数学すうがくあつかえる唯一ゆいいつのコンピュータ」となされていた[4]。IBM 704は、アーキテクチャと実装じっそうめんで、以前いぜんIBM 701よりも大幅おおはば改良かいりょうされていた。701と同様どうように、704は真空しんくうかん論理ろんり回路かいろと36ビットのバイナリワードを使用しようした。

701からの変更へんこうてんとしては、ウィリアムスかんわりに磁気じきコアメモリ使用しようしたこと、浮動ふどう小数点しょうすうてん演算えんざん命令めいれい、15ビットアドレス指定してい、3つのインデックスレジスタ追加ついかなどがふくまれている。これらのしん機能きのうをサポートするために、命令めいれい完全かんぜんな36ビットワードに拡張かくちょうされた。701と互換ごかんせいのないあたらしい命令めいれいセットは、そのIBM 700/7000 シリーズ科学かがく技術ぎじゅつ計算けいさんけいコンピュータの基本きほんとなった。

IBMは、704は毎秒まいびょう40,000命令めいれい実行じっこうでき、1秒間びょうかん最大さいだい12,000浮動ふどう小数点しょうすうてん加算かさん実行じっこうできるとした[2]。IBMは、1955ねんから1960ねんまでに123だいの704システムを販売はんばいした[5]

歴史れきしてきなできごと

[編集へんしゅう]

プログラミング言語げんごFORTRAN[6]LISP[7]は704のために最初さいしょ開発かいはつされた。のちにSHARE (英語えいごばんがSHARE Assembly Programとして配布はいふしたSAP assembler-Symbolic Assembly Program同様どうようである。

最初さいしょコンピュータ音楽おんがくプログラムであるMUSIC-Iは、マックス・マシューズによってIBM 704で開発かいはつされた。

1961–1962ねん物理ぶつり学者がくしゃ John Larry Kelly, Jr と Carol C. Lochbaum はベル研究所けんきゅうじょで IBM 704 を使用しようして音声おんせい合成ごうせいおこなった。[8] これはKelly–Lochbaumモデルとばれる、ソフトウェアじょうでデジタルされた「こえどうアナログ・モデル」(こえどうだん面積めんせきわる複数ふくすう音響おんきょうかん(acoustic tube)で表現ひょうげん進行しんこう計算けいさんするしるべなみかんモデル=初期しょきWaveguideシンセシス物理ぶつりモデル音源おんげん))で、[9] 1961ねんうたデイジー・ベル)もうたわせている(伴奏ばんそうマックス・マシューズのプログラムを使用しよう)。[10][11]このデモンストレーションをアーサー・C・クラーク実際じっさい[12]、『2001ねん宇宙うちゅうたび』でHAL 9000おなうたうクライマックスのシーンがまれた[13]

MITの数学すうがく講師こうしであるエド・ソープは、かれブラックジャックのゲーム理論りろん発展はってんさせながら、かくりつ調査ちょうさするための研究けんきゅう道具どうぐとして IBM 704 を使用しようした[14][15]かれはFORTRANを使つかって研究けんきゅうモデルの方程式ほうていしき定式ていしきした。

MIT計算けいさんセンターのIBM 704は、1957ねんあきに、スミソニアン天体てんたい物理ぶつり観測かんそくしょOperation Moonwatch公式こうしきトラッカーとして使用しようされた。IBMは、スミソニアン天体てんたい物理ぶつり観測かんそくしょ科学かがくしゃ数学すうがくしゃ衛星えいせい軌道きどう計算けいさんおこなうのを支援しえんするために、4にんのスタッフ科学かがくしゃ派遣はけんした。

ロスアラモス国立こくりつ研究所けんきゅうじょ(LASL)は、バッチ処理しょり可能かのうにするSLAM名付なづけられた初期しょきのモニター (英語えいごばん開発かいはつした[16]

1959ねん3がつ12にち、IBM 704は、日本にっぽん気象庁きしょうちょう数値すうち予報よほう導入どうにゅうはじめてもちいられたコンピューターとなった[17]数値すうち予報よほうとは、解析かいせきする大気たいき領域りょういき有限ゆうげん格子こうしてん分解ぶんかいし、それぞれの格子こうしてん初期しょきあたえて、大気たいき状態じょうたいあらわ微分びぶん方程式ほうていしき数値すうちてき方法ほうほうで、膨大ぼうだいかえ計算けいさん必要ひつようとする。そのため、計算けいさん構造こうぞうじょうかえ計算けいさん便利べんり仕組しくみをおおつIBM 704が選定せんていされた。

レジスタ

[編集へんしゅう]
IBM 704の真空しんくうかん回路かいろモジュール

IBM 704 のつレジスタはつぎとおりである。

  • アキュムレータ×1、38ビット
  • せきしょうレジスタ×1、36ビット
  • デクリメントレジスタ×3、15ビット

デクリメントレジスタとはインデックスレジスタであり、ベースアドレスからそのいて実効じっこうアドレスとするため、このようにばれた。1命令めいれいで3つのデクリメントレジスタすべてを関与かんよさせることもできる。命令めいれいにある3ビットのタグフィールドはかくビットがそれぞれデクリメントレジスタに対応たいおうしているので、複数ふくすうをONにすれば複数ふくすうのデクリメントレジスタをアドレス計算けいさん使用しようできる。しかし、複数ふくすうのインデックス・レジスタが選択せんたくされた場合ばあい、デクリメントがおこなわれるまえに、それらの内容ないよう加算かさんされるのではなく、一緒いっしょ加算かさんされる。この動作どうさは、IBM 709IBM 7090などののち科学かがくアーキテクチャのマシンでは、IBM 7094までつづいた。1962ねん導入どうにゅうされたIBM 7094では、インデックス・レジスタのかずを7つにやし、いちに1つだけ選択せんたくされた。またはIBM 7094の互換ごかんモードで利用りよう可能かのうなようにのこされた[18]

命令めいれい形式けいしきとデータ形式けいしき

[編集へんしゅう]

命令めいれい形式けいしきにはタイプAとタイプBの2種類しゅるいがある[19]。ほとんどの命令めいれいはタイプB形式けいしきである。

タイプAの命令めいれい形式けいしきは、「プレフィックス」3ビット、「デクリメント」15ビット、「タグ」3ビット、「アドレス」15ビットから構成こうせいされる。プレフィックス命令めいれい種類しゅるい指定していする。デクリメント命令めいれい結果けっか修飾しゅうしょくする即値そくち格納かくのうするか、命令めいれい種類しゅるい指定してい使つかわれる。タグはデクリメントレジスタを指定していし、指定していされたインデックスレジスタの内容ないようがアドレスからかれて実効じっこうアドレスとなる。アドレスはアドレスか即値そくちオペランドを格納かくのうしている。タグフィールドで指定していしたデクリメントレジスタの内容ないようもとづいて条件じょうけん分岐ぶんきする命令めいれいもある。プレフィックスの2ビットと3ビットともにゼロの場合ばあい、タイプBと判断はんだんされるため、タイプAの命令めいれいは6種類しゅるいしかない。しかもSTRという命令めいれい(バイナリで101)は IBM 709はじめて実装じっそうされており、704 では5種類しゅるいのタイプA命令めいれいしかなかった。

タイプBの命令めいれい形式けいしきは、12ビットの命令めいれいコード(うち2ビットと3ビットつねにゼロ)、2ビットのフラグフィールド、4ビットの使用しようフィールド、3ビットのタグフィールド、15ビットのアドレスフィールドから構成こうせいされる。

命令めいれいセットは、データ形式けいしきをタイプA命令めいれいおなじフィールド (接頭せっとうやめ、デクリメント、タグ、アドレス) に暗黙あんもくのうちに細分さいぶんしている。Store Tag命令めいれいはIBM 704には実装じっそうされていなかったが、ワードののこりの部分ぶぶん変更へんこうすることなく、データワードないのこれらのフィールドをそれぞれ変更へんこうする命令めいれい存在そんざいした。

LISP最初さいしょ実装じっそうでは、アドレスとデクリメントフィールドをCONSセルの実装じっそう使用しようし、リンクされたリストの先頭せんとう末尾まつびをそれぞれ格納かくのうしている。LISPの原始げんし関数かんすう CAR と CDR はそれぞれ「Contents of Address part of Register number」と「Contents of Decrement part of Register number」のフィールドに由来ゆらいする[20]

「contents of address register」と「contents of decrement register」のりゃくとされることもあるが、IBM 704 にはユーザーがアクセスできるアドレスレジスタは存在そんざいしない。

メモリと周辺しゅうへん機器きき

[編集へんしゅう]

IBM 704には、IBM 711英語えいごばんパンチカードリーダー1だいIBM 716英語えいごばんアルファベットプリンタ1だい、721パンチカードレコーダー1だいIBM 727磁気じきテープユニット5だいと753テープコントロールユニット1だい、733磁気じきドラムリーダー&レコーダー1だい、および737磁気じきコアストレージユニット1だい制御せいぎょ装置そうちふくまれている。重量じゅうりょうやく19,466ポンド(9.7ショートトン、8.8トン)[21][22]

704本体ほんたいには、36制御せいぎょスイッチやボタン、36のデータ入力にゅうりょくスイッチ (レジスタないかくビットに対応たいおう) をそなえた制御せいぎょコンソールが付属ふぞくしていた。この制御せいぎょコンソールでは、基本きほんてきにはスイッチを使つかってレジスタのバイナリ設定せっていし、現代げんだいのLEDによくちいさなネオンかんのパターンで表示ひょうじされるレジスタのバイナリ状態じょうたい表示ひょうじすることだけができる。コンピュータとの人間にんげん対話たいわでは、プログラムはコンソールではなく、最初さいしょにパンチングカードに入力にゅうりょくされ、人間にんげんめる出力しゅつりょくはプリンタにおくられる。

IBM 740英語えいごばん陰極線管いんきょくせんかん出力しゅつりょくレコーダーも利用りよう可能かのうで、人間にんげんるために20びょうという非常ひじょうなが蛍光けいこうたい持続じぞく時間じかんそなえた21インチのベクターディスプレイで、7インチディスプレイは大型おおがたディスプレイとおな信号しんごう受信じゅしんするが、付属ふぞくのカメラで撮影さつえいするように設計せっけいされた蛍光けいこうたい輝度きど急速きゅうそく減衰げんすいするよう設計せっけいされたため高速こうそくであった[23]

737磁気じきコア記憶きおく装置そうちは、RAMとして4,096の36ビットワード (18,432バイト相当そうとう) を搭載とうさいしている[24]。727磁気じきテープユニットは、1リールあたり500まん文字もじ以上いじょうの6ビット文字もじ記録きろくした。

参照さんしょう項目こうもく

[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ 704 photos from IBM
  2. ^ a b 704 Data Processing System”. IBM Archives - Exhibits - IBM Mainframes - Mainframes reference room - Mainframes product profiles. IBM (23 January 2003). 2016ねん8がつ18にち閲覧えつらん
  3. ^ IBM Electronic Data-Processing Machines TYPE 704”. IBM 704 Manual of Operation. International Business Machines Corporation (1955ねん). 2017ねん12月28にち閲覧えつらん
  4. ^ Assemblers were once people: My aunt did it for NASA”. Software - Developer. The Register (26 Feb 2015). 2016ねん8がつ18にち閲覧えつらん
  5. ^ History of IBM Timeline”. IBM (23 January 2003). 2019ねん7がつ4にち閲覧えつらん
  6. ^ History of FORTRAN and FORTRAN II — Software Preservation Group”. www.softwarepreservation.org. 2020ねん9がつ19にち閲覧えつらん
  7. ^ LISP prehistory - Summer 1956 through Summer 1958.”. www-formal.stanford.edu. 2020ねん9がつ19にち閲覧えつらん
  8. ^ Kelly, John L.; Lochbaum, Carol (1962), “Speech synthesis”, Proceedings of the Speech Communications Seminar, paper F7 (Stockholm, Speech Transmission Laboratory, Royal Institute of Technology) 
  9. ^ Smith III, Julius O. (2010), “Singing Kelly-Lochbaum Vocal Tract”, Physical Audio Signal Processing, ISBN 978-0-9745607-2-4, https://ccrma.stanford.edu/~jos/pasp/Singing_Kelly_Lochbaum_Vocal_Tract.html 
  10. ^ 14. "Daisy Bell (Bicycle Built for Two)," Max Mathews (1961), “National Recording Registry Adds 25”, The Library Today (Library of Congress), (June 23, 2010), http://www.loc.gov/today/pr/2010/10-116.html, "This recording, made at Bell Laboratories on an IBM 704 mainframe computer, is the earliest known recording of a computer-synthesized voice singing a song. The recording was created by John L. Kelly, Jr., and featured musical accompaniment written by Max Mathews." 
  11. ^ 1961ねんデイジー・ベルをうたった最初さいしょのコンピュータをIBM 7094とする文献ぶんけんもあるが、IBM 7094 のはつ設置せっちは1962ねん9がつとされており時期じきてきわない。
  12. ^ Arthur C. Clarke online Biography”. 2007ねん11月15にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2022ねん12月27にち閲覧えつらん
  13. ^ Bell Labs: Where "HAL" First Spoke”. 2013ねん5がつ30にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2022ねん12月27にち閲覧えつらん
  14. ^ ディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーでのEd ThorpとVivian Thorpのインタビュー
  15. ^ The Tech (MIT) "Thorpe, 704 Beat Blackjack" Vol. 81 No. I Cambridge, Mass., Friday, February 10, 1961
  16. ^ Kaisler, Stephen H. (Nov 2018). First Generation Mainframes: The IBM 700 Series. Cambridge Scholars Publishing. p. 69. ISBN 978-1-5275-0650-3. https://books.google.com/books?id=B9l9DwAAQBAJ&pg=PA69 Apr 25, 2019閲覧えつらん 
  17. ^ 朝日新聞あさひしんぶん
  18. ^ IBM 7094 Principles of Operation, IBM Systems Reference Library (fifth ed.), IBM, (1962), p. 8, A22-6703-4, http://bitsavers.trailing-edge.com/pdf/ibm/7094/A22-6703-4_7094_PoO_Oct66.pdf 
  19. ^ John Savard. From the IBM 704 to the IBM 7094. http://www.quadibloc.com/comp/cp0309.htm 2009ねん11月15にち閲覧えつらん. 
  20. ^ John McCarthy. Recursive Functions of Symbolic Expressions and Their Computation by Machine, Part I. http://www-formal.stanford.edu/jmc/recursive.html 2009ねん2がつ14にち閲覧えつらん. 
  21. ^ Weik, Martin H. (December 1955). “IBM-704”. ed-thelen.org. 2020ねん9がつ19にち閲覧えつらん
  22. ^ Weik, Martin H. (March 1961). “IBM 704”. ed-thelen.org. 2020ねん9がつ19にち閲覧えつらん
  23. ^ IBM Archives: 704 Cathode Ray Tube Output Recorder” (23 January 2003). 10 December 2012閲覧えつらん
  24. ^ IBM Archives: IBM 737 Magnetic core storage unit” (23 January 2003). 10 December 2012閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • Charles J. Bashe, Lyle R. Johnson, John H. Palmer, Emerson W. Pugh, IBM's Early Computers (MIT Press, Cambridge, 1986ねん)
  • Steven Levy, Hackers: Heroes of the Computer Revolution
  • IBM Type 704 Manual of operation, Form 24-66661-1, IBM, 1956

外部がいぶリンク

[編集へんしゅう]