太極拳たいきょくけん

太極拳たいきょくけんたいきょくけん
別名べつめい	Taichi（タイチ・英語えいご表記ひょうき）
競技きょうぎ形式けいしき	演武えんぶ、散ち打だ
使用しよう武器ぶき	素手すで、太極たいきょく剣けん、太極たいきょく刀がたな、槍やり、棍、他た
発生はっせい国こく	中国ちゅうごく
発生はっせい年ねん	少すくなくとも1600年代ねんだい陳ひね家か溝みぞには確立かくりつ（それ以前いぜんが不明ふめい、1300年代ねんだい？）
創始そうし者しゃ	張ちょう三さん丰？、陳ひね王おう廷？、その他た説せつ多数たすう(長年ながねんかけて多数たすうでの創始そうし者しゃ説せつもあり)
源流げんりゅう	武たけ当山とうざん派は？少林寺しょうりんじ北きた伝でん？その他た複ふく合流ごうりゅう派はが源流げんりゅう？（思想しそう源流げんりゅう：老子ろうし、老ろう荘そう思想しそう、道教どうきょう）
流派りゅうは	陳ひね家か太極拳たいきょくけん・楊式太極拳たいきょくけん・呉ご式しき太極拳たいきょくけん・武たけ式しき太極拳たいきょくけん・国家こっか制定せいてい拳けんなど
派生はせい種目しゅもく	制定せいてい拳けん（24式しき太極拳たいきょくけん、総合そうごう太極拳たいきょくけん（48式しき、42式しき）、陳ひね式しき太極拳たいきょくけん、楊式太極拳たいきょくけん、呉くれ式しき太極拳たいきょくけん、孫まご式しき太極拳たいきょくけんなど）
主要しゅよう技術ぎじゅつ	放ひ鬆す (≒リラックス)、不ふ争そう(争あらそわない競きそわない比くらべない)、沈肩墜肘(肩かたの力ちからを抜ぬく)、動どう中ちゅう求もとめ静せい (心しんを静しずかにする)、他た多数たすう
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太極拳たいきょくけん（たいきょくけん）は、中国ちゅうごく武術ぶじゅつの一派いっぱ^[1]。東洋とうよう哲学てつがく(特とくに老子ろうし)の重要じゅうよう概念がいねんである太極たいきょく思想しそうを取とり入いれた拳法けんぽうで、形かたち意い拳けん、八卦はっけ掌てのひらと並ならんで内うち家か拳こぶしの代表だいひょう的てきな武術ぶじゅつとして知しられる。戦たたかわぬ事ことを最上さいじょうに見みた老子ろうし思想しそうの形かたちである事ことから、最さい弱じゃく最強さいきょうの拳法けんぽうとも言いわれる。ユネスコ無形むけい文化ぶんか遺産いさんである。

歴史れきし

古来こらいより中国ちゅうごく拳法けんぽうは口伝くでんで伝つたえるのを常つねとし書物しょもつに明記めいきする事ことは稀まれであった。現代げんだいと違ちがい、古ふるくはその武術ぶじゅつは、個人こじんや集団しゅうだんの生命せいめい・安全あんぜんに関与かんよする。そのため、人命じんめいに関かかわる技術ぎじゅつは秘密ひみつにされるのが常つねであった。その関係かんけいで(太極拳たいきょくけんに限かぎらずその他た武術ぶじゅつ含ふくめて)初期しょき歴史れきしの詳細しょうさいは不明ふめいである。

伝承でんしょうであれば元もと代だい、張ちょう三さん丰が少林寺しょうりんじで武術ぶじゅつを修おさめた後のちに武たけ当山とうざんに入はいって修行しゅぎょうし、道教どうきょうの陰陽いんよう五ご行ぎょう思想しそうや吐納法ほうと呼よばれる呼吸こきゅう法ほうを取とり入いれて編あみ出だしたとされている。但ただし、張ちょう三さん丰は中国ちゅうごくの他ほかの伝説でんせつにも現あらわれる不老ふろう長寿ちょうじゅの仙人せんにんの名前なまえであり、この説せつについては伝説でんせつの域いきを出でていない。少しょう林はやし拳けん等ひとしが外そと家か拳こぶしと呼よばれるのに対たいして、太極拳たいきょくけん、形かたち意い拳けん、八卦はっけ掌てのひら等ひとしは内うち家か拳けん（武たけ当とう門もん）と呼よばれることがある。中国ちゅうごく武術ぶじゅつの全国ぜんこく的てき統一とういつ組織そしきであった南京なんきん中央ちゅうおう国こく術じゅつ館かんの武たけ当とう門もんの門もん長ちょうに楊氏太極拳たいきょくけん三さん世せいの楊澄甫はじめが就任しゅうにんしているが、後のちに各かく門派もんぱごとの組織そしきに改あらためられ、武たけ当とう門もんは廃はいされている。考証こうしょう学がくの祖そである黄き宗むね羲が記しるした王おう征ただし南みなみ墓ぼ志こころざし銘めいには、北きた宗はじめ代だいに張ちょう三さん丰が内うち家か拳法けんぽうを創始そうしし、王おう征ただし南みなみはその使つかい手てであると記しるされており、その拳法けんぽうの詳細しょうさいを、黄き宗むね羲の子息しそくである黄き百ひゃく家いえが「内うち家か拳法けんぽう」^[2]に記録きろくしている。内うち家か拳法けんぽうと太極拳たいきょくけん、紀きの効こう新書しんしょの拳こぶし経けいとの関係かんけいを考察こうさつする研究けんきゅうがある^[3]。

その他たの起源きげんについては、明あきら代だいに河南かなん省しょう温ゆたか県けん常陽じょうよう村むら（現げん・陳ひね家か溝みぞ）に移住いじゅうした陳ひね一族いちぞくに家伝かでんとして伝つたえられていた武術ぶじゅつに、陳ちん氏し9世せい・陳ひね王おう廷が様々さまざまな武術ぶじゅつの要素ようそを組くみ合あわせ、明代あきよ末期まっきから清きよし代だい初期しょきにかけて創始そうしされたとする、武術ぶじゅつ史し研究けんきゅう家か・唐から豪ごうの研究けんきゅうがある^[4]。その後ご清きよし代だい末期まっきに入はいり、陳ちん氏し14世せい・陳ひね長ちょう興きょうの弟子でしだった楊露禅ぜんが、北京ぺきんに赴おもむきこれを普及ふきゅう。武術ぶじゅつ理論りろんとして王おう宗はじめ岳だけの『太極拳たいきょくけん論ろん』が重視じゅうしされたため、そこから取とって『太極拳たいきょくけん』という名称めいしょうが用もちいられるようになったと言いわれる。現在げんざいでは、陳ひね家か太極拳たいきょくけん、楊式太極拳たいきょくけん、武たけ式しき太極拳たいきょくけんを始はじめとして様々さまざまな門派もんぱが存在そんざいする。

一方いっぽう、太極拳たいきょくけんの健康けんこう効果こうかは古ふるくから知しられていたが、その習得しゅうとくは容易よういではなく、万まん人にん向むけと言いえるものではなかった。そのため、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの1949年ねんに建国けんこくした中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくの国家こっか体育たいいく運動うんどう委員いいん会かいは伝統でんとう拳けんの健康けんこう増進ぞうしん効果こうかはそのままに、誰だれにでも学まなぶことのできる新あたらしい太極拳たいきょくけんを作つくることを目標もくひょうに著名ちょめいな武術ぶじゅつ家かに命めいじ、楊式太極拳たいきょくけんを基もとに簡略かんりゃく化かした套路を編纂へんさん、1956年ねんに簡化太極拳たいきょくけん（二に十じゅう四よん式しき太極拳たいきょくけん）を制定せいていした^[5]。これが制定せいてい拳けんの始はじまりである。制定せいてい拳けんという名称めいしょうは本来ほんらい、「国家こっかが制定せいていした套路」という意味いみを持もつ。

制定せいてい拳けんは一種いっしゅの健康けんこう体操たいそうとして世界せかい的てきに広ひろめられ、またそれと並行へいこうして競技きょうぎ化かや新あらたな套路の編纂へんさんも行おこなわれていた。現在げんざいはグループ表ひょう演えんじや競技きょうぎ会かいも盛さかんに催もよおされるなど運動うんどう競技きょうぎとしての一いち面めんも強つよくなり、その一方いっぽうで、武術ぶじゅつ的てきな側面そくめんから制定せいてい拳けんを再編さいへんする動うごきも生うまれている。

日本にっぽんにおいては楊名時じが1970年ねんに簡化太極拳たいきょくけんを紹介しょうかいしており、その後ご1972年ねんの日にち中ちゅう国交こっこう正常せいじょう化かを機きに、来日らいにちした中国人ちゅうごくじん教師きょうしなどから太極拳たいきょくけんの存在そんざいが徐々じょじょに知しられるようになった。また中国ちゅうごく政府せいふの普及ふきゅう政策せいさくによって中国ちゅうごくから太極拳たいきょくけんを持もち帰かえる日本人にっぽんじんも現あらわれ、健康けんこう体操たいそうとしての制定せいてい拳けんが広ひろまっていった。激はげしい運動うんどうを伴ともなわず場所ばしょを選えらばずに容易よういに行おこなえることから高こう年齢ねんれい層そうを中心ちゅうしんに人気にんきである。

特徴とくちょう

武術ぶじゅつ・戦闘せんとう術じゅつとして継承けいしょうされてきた太極拳たいきょくけんは『伝統でんとう拳けん』と呼よばれる。しかし、近年きんねんでは伝統でんとう拳けんを参照さんしょう元もとにした制定せいてい拳けん（後述こうじゅつ）も存在そんざいするために、混同こんどうを避さける目的もくてきで『民間みんかんの太極拳たいきょくけん』という表現ひょうげんも使つかわれることがある。基本きほん功こうに始はじまって、套路、推手、散ち手てと進すすむのが一般いっぱん的てきな流ながれで、これによってそれぞれの門派もんぱにおける太極拳たいきょくけんの技法ぎほうを習得しゅうとくする。套路は緩ゆるやかで流ながれるようにゆったりとした動うごきで行おこなうことで、正ただしい姿勢しせいや体からだの運用うんよう法ほう、様々さまざまな戦闘せんとう技術ぎじゅつを身みに着つける。しかし実際じっさいの戦闘せんとうにおける動作どうさはゆっくりしたものではなく、熟練じゅくれん者しゃにおいてはむしろ俊敏しゅんびんで力強ちからづよいものとなる。なお、套路の中なかでも“快かい架か”と呼よばれる速はやい動うごきのものもあり、“快かい架か”との対比たいひでゆったりした動うごきの套路は“慢架”と表現ひょうげんする場合ばあいがある。また、推手の練習れんしゅうでは、套路の正ただしさや^[6]・相手あいてと適切てきせつな接触せっしょくを保たもつ技術ぎじゅつ（粘ねば連れん黏随）・相手あいてを感かんじる能力のうりょく（聴勁）など武術ぶじゅつ・戦闘せんとう術じゅつとしての理解りかい度どを深ふかめることができる^[7]。昔むかしから推手と套路は車くるまの両輪りょうりんと言いわれ、実じつは推手をやらなければ太極拳たいきょくけんは本当ほんとうの意味いみで理解りかいできないと言いわれている^[8]。

徒手としゅの応用おうようとして、太極たいきょく剣けん、太極たいきょく刀がたな、太極たいきょく棍、春秋しゅんじゅう大刀たち、槍やりなど武器ぶき術じゅつの套路も伝承でんしょうされている。

また、太極拳たいきょくけんの套路は健康けんこう法ほうとしての一いち面めんがよく知しられており、一般いっぱんに太極拳たいきょくけんと言いう場合ばあい、武術ぶじゅつではなく健康けんこう法ほう・健康けんこう体操たいそうの一種いっしゅとして捉とらえられることも多おおい。武術ぶじゅつとしての鍛錬たんれんを第一義だいいちぎとせず、各派かくはに伝つたわる伝統でんとうの套路を基もとにして編集へんしゅう委員いいん等とうによって競技きょうぎ・表おもて演えんじ用ように整理せいりされた太極拳たいきょくけんや、健康けんこう体操たいそうとして簡易かんい化かされた太極拳たいきょくけんなどを、伝統でんとう拳けんに対たいして『制定せいてい拳けん』と呼よぶ。

日本にっぽんで武術ぶじゅつ太極拳たいきょくけんと呼よばれている競技きょうぎは、世界せかい的てきには『武術ぶじゅつ（ウーシュウ）』と呼よばれているもので、太極拳たいきょくけん、長拳ちょうけん、南みなみ拳けんを採とり入いれ、一定いっていのルールの下したで体系たいけい化かしたスポーツである。採用さいようされているのは制定せいてい拳けんであり、伝統でんとう拳けんとの間あいだに直接的ちょくせつてきな関連かんれん性せいはない。

健康けんこう促進そくしんとしての太極拳たいきょくけんと効果こうか

太極拳たいきょくけんは注意ちゅうい、学習がくしゅう、記憶きおく、知覚ちかくなどの健康けんこうな成人せいじんの幅広はばひろい思考しこうスキルにプラスの効果こうかがあることを発見はっけんした^[9]。健康けんこう・長寿ちょうじゅに良よいとされているため、格闘技かくとうぎや護身ごしん術じゅつとしてではなく健康けんこう法ほうとして習ならっている者ものも多おおく、中国ちゅうごくなどでは市民しみんが朝あさの公園こうえんなどに集あつまって、練習れんしゅうを行おこなっている光景こうけいがよく見みられる。日本にっぽん国内こくないでも愛好あいこう者しゃは多おおく、『太極拳たいきょくけんのまち』を宣言せんげんした福島ふくしま県けん喜多方きたかた市しのように、自治体じちたい単位たんいで太極拳たいきょくけんを推進すいしんしている例れいもある。^[10] 米国べいこくが2007年ねんに行いった国民こくみん健康けんこう調査ちょうさによると、推定すいてい230万まん人にんの米国べいこく成人せいじんした人間にんげんが、健康けんこう維持いじとして、過去かこ12ヶ月かげつ間あいだに太極拳たいきょくけんを行おこなってたと判明はんめいしている。効能こうのうは「健康けんこう状態じょうたい、筋力きんりょく、筋肉きんにくの協調きょうちょう運動うんどうや柔軟じゅうなん性せいの向上こうじょう」「安定あんていした運動うんどうによる睡眠すいみんの深化しんか」「身体しんたいバランスの強化きょうかと転倒てんとうリスクの低下ていか」などの促進そくしんが期待きたいできるという。アメリカ国立こくりつ補完ほかん統合とうごう衛生えいせいセンターの研究けんきゅうでは太極拳たいきょくけんを行おこなった被験者ひけんしゃの血圧けつあつが26件けんの内うち22件けんも血圧けつあつを下さげたなどの成果せいかが報告ほうこくされている。^[11]さらに、ハーバード大学だいがくの研究けんきゅうによれば、変形へんけい性せい関節かんせつ症しょうなどの関節かんせつ炎えんを手術しゅじゅつよりも太極拳たいきょくけんで緩和かんわできると、示唆しさしており引ひき続つづき代替だいたい医療いりょうの研究けんきゅうが進すすめられている。^[12]

門派もんぱ

伝統でんとう拳けん

陳ひね家か太極拳たいきょくけん

河南かなん省しょう陳ひね家か溝みぞの陳ひね一族いちぞくを中心ちゅうしんに伝承でんしょうされてきた武術ぶじゅつで、全すべての太極拳たいきょくけんの源流げんりゅう。柔軟じゅうなんで緩ゆるやかな動うごきと、纏まとい絲いと勁(螺旋らせんの道理どうりによる力ちからの作用さよう方法ほうほう)によって全身ぜんしんの勁を統一とういつ的てきに運用うんようして繰くり出だされる豪快ごうかいな震ふるえ脚あしや発はつ勁が特徴とくちょうである。見みた目めの動作どうさが比較的ひかくてき大おおきい大だい架か式しきと見みた目めの動作どうさが比較的ひかくてき小ちいさい小しょう架か式しきの2つのスタイルが主流しゅりゅうで、大だい架か式しきからは新しん架か式しきが派生はせいし、新しん架か式しきからは趙ちょう堡架式しきが派生はせいした。

一般いっぱんに広ひろまったのは、20世紀せいきに入はいり陳ちん氏し17世せい・陳ひね発はつ科かが北京ぺきんで大だい架か系統けいとうを教授きょうじゅしてからと言いわれる。

忽ゆるがせ雷かみなり架か式しき: 陳ちん氏し15世せい・陳ちん清きよし萍の弟子でし・李り景けい炎えんが創始そうしした拳こぶし架かの一種いっしゅ。緩急かんきゅうの激はげしい鋭するどい動作どうさを特徴とくちょうとする。陳ひね家系かけいの一派いっぱだが、別べつ門派もんぱとして扱あつかわれることもある。

楊式太極拳たいきょくけん: 陳ちん氏し14世せい・陳ひね長ちょう興きょうの弟子でしである楊露禅ぜんが創始そうしし、19世紀せいきの北京ぺきんにおいて広ひろく門弟もんていに教授きょうじゅされた。その後ごも、露ろ禅ぜんの子こ・楊健侯こう、孫まご・楊澄甫はじめと三さん代だいに渡わたって改良かいりょうが加くわえられ、現在げんざいは澄きよし甫はじめが開発かいはつした大だい架か式しきの套路が普及ふきゅうしている。大だい架か式しきの動作どうさがのびのびとして柔やわらかく、発はつ勁においては一見いっけんして激はげしい動作どうさを行おこなわない点てんが、陳ひね家か太極拳たいきょくけんとの大おおきな違ちがいとなっている。; 楊式太極拳たいきょくけんの理論りろん書しょとしては、健けん侯こうの兄あに・楊班侯こうの記しるした『太極拳たいきょくけん九きゅう訣』や、澄きよし甫はじめの記しるした『太極拳たいきょくけん老ろう譜ふ三さん十じゅう二に解かい』がある。制定せいてい拳けんの基もととなったことでも知しられる。
呉ご式しき太極拳たいきょくけん: 楊露禅ぜんより学まなんだが楊露禅ぜん自身じしんの指示しじで子こである楊班侯こうの門下もんかになった全ちょん佑たすく^[13]と、その子こ・呉ご鑑あきら泉いずみによって創始そうしされた。弓ゆみ歩あゆみの際さいに前ぜん傾かたぶけ姿勢しせいをとることが他た流派りゅうはと異ことなり^[14]、小しょう架か式しきの動作どうさは緊密きんみつでまとまっている。独特どくとくな風格ふうかくとしては軽かるさと機敏きびんさ、そして円滑えんかつさがすべての式しきで貫つらぬき通とおされることで知しられている。^[15]套路が多おおく残のこされており、特とくに四よん正せい推手から派生はせいした十じゅう三さん式しきがある推手の技法ぎほうが多おおい。^[16]系統けいとうによって歩ふ距や架か式しきの高たかさに違ちがいが大おおきい。鑑かん泉いずみが上海しゃんはい精きよし武たけ体育たいいく会かいで教授きょうじゅしたため、中国ちゅうごく国内こくないだけでなく香港ほんこんを中心ちゅうしんとして華僑かきょうの間あいだにも普及ふきゅうしている。
武たけ式しき太極拳たいきょくけん: 楊露禅ぜんの友人ゆうじんである武たけ禹襄が露ろ禅ぜんに陳ひね家か太極拳たいきょくけんを学まなんだ後のち、陳ちん清きよし萍に弟子でし入いりして本格ほんかく的てきに陳ひね家か太極拳たいきょくけんを修おさめ、それに独自どくじの理論りろんを加くわえて創始そうしした。著名ちょめいな伝承でんしょう者しゃである郝為真しんの姓せいをとって、郝式太極拳たいきょくけんと呼よばれることもある。親族しんぞくにしか伝承でんしょうされないなど近年きんねんまで保守ほしゅ的てきな姿勢しせいをとっていたため、伝承でんしょう者しゃは極きわめて少すくない。太極拳たいきょくけんの名称めいしょうの由来ゆらいとなったと言いわれる『太極拳たいきょくけん譜ふ』は、禹襄の兄あに・武たけ秋あき瀛が発見はっけんしたと伝つたえられる。
孫まご式しき太極拳たいきょくけん: 孫まご禄ろく堂どうによって創始そうしされた。形かたち意い拳けんの歩法ほほう、八卦はっけ掌てのひらの身み法ほう、武たけ式しき太極拳たいきょくけんの手法しゅほうが統合とうごうされている。開ひらき合あいによって動作どうさを連関れんかんし、快速かいそくな活かつ歩ふによって転換てんかんすることから、開ひらき合あい活かつ歩ふ太極拳たいきょくけんとも称しょうされる。

上記じょうき5つの太極拳たいきょくけん流派りゅうはは、「五大ごだい太極拳たいきょくけん」と呼よばれる。

和式わしき太極拳たいきょくけん: 和わ兆ちょう元げんが陳ちん清きよし萍に学まなび創始そうしした。陳ひね家か太極拳たいきょくけんと異ことなり、発はつ勁に激はげしい動作どうさを伴ともなわない。陳ひね家か太極拳たいきょくけんの一派いっぱと見みなされてきたが、近年きんねん、代表だいひょう的てき伝統でんとう太極拳たいきょくけんとして認定にんていされた。
鄭てい子こ太極拳たいきょくけん: 楊澄甫はじめの弟子でし・鄭てい曼青が、楊式太極拳たいきょくけんを整理せいりし三さん十じゅう七なな式しきにまとめたもの。楊式から認みとめられなかったことと、楊式よりも更さらに小ちいさく柔やわらかい動うごきであることから、楊式とは別べつの門派もんぱとして扱あつかわれている。套路37式しき、楊式太極たいきょく剣けん、推手、内うち功こう（気功きこう）からなり、学習がくしゅう内容ないようが少すくないことから簡易かんい太極拳たいきょくけんと言いわれることもあり、楊式太極拳たいきょくけんにおいて入門にゅうもん用ようの套路として教授きょうじゅされることもある。; 鄭てい曼青がニューヨークに移住いじゅうし現地げんちで太極拳たいきょくけんを教授きょうじゅしていたことから、主おもに欧米おうべい人じんの間あいだで普及ふきゅうしていた。名称めいしょうが鄭てい式しきでなく鄭てい子ことなっているのは、鄭ていが自みずからの門派もんぱを立たち上あげていなかったことに由来ゆらいしている。
古伝こでん統合とうごう太極拳たいきょくけん: 中央ちゅうおう国こく術じゅつ館かん副ふく館長かんちょうであった陳ちん泮嶺が創始そうしした。楊式太極拳たいきょくけんを中心ちゅうしんに陳ひね家か・呉くれ式しき・武たけ式しきの各かく太極拳たいきょくけんを取とり入いれ、更さらに形かたち意い拳けん、八卦はっけ掌てのひらの技術ぎじゅつを取とり込こんで編纂へんさんされ、99勢ぜいからなる。双そう辺あたり太極拳たいきょくけん、九きゅう十じゅう九きゅう式しき太極拳たいきょくけん、或あるいは日本にっぽんでは正宗まさむね太極拳たいきょくけんとも呼よばれている。

制定せいてい拳けん

套路毎ごとに動作どうさの数かずが違ちがうため、各かく套路は「二に十じゅう四よん式しき」のように動作どうさの数かずで呼よばれることが多おおい。

簡化太極拳たいきょくけん（二に十じゅう四よん式しき太極拳たいきょくけん）: 最初さいしょの制定せいてい拳けんとして、1956年ねんに発表はっぴょうされた。楊式太極拳たいきょくけんの主要しゅような二に十じゅう四よんの動作どうさから構成こうせいされている。全ぜん世界せかいで練習れんしゅうされ、健康けんこう運動うんどうとしての太極拳たいきょくけんの普及ふきゅうに大おおきく貢献こうけんしている。日本にっぽんでは一般いっぱん的てきな太極拳たいきょくけん教室きょうしつで健康けんこう法ほうとして教おしえられており、外国がいこくでもジムなどでヨーガなどと一緒いっしょに教おしえられている。楊式太極拳たいきょくけんの入門にゅうもん用ようの套路として教おしえられることもある。
八はち十じゅう八はち式しき太極拳たいきょくけん: 楊露禅ぜんが武たけ当とう派はの太極拳たいきょくけんを元もとに編成へんせいした楊家一いち〇八はち式しきを、孫まごの楊澄甫はじめがより短みじかく編成へんせいした楊家八はち十じゅう五ご式しきを元もとにして、健康けんこう体育たいいくを目的もくてきにして編成へんせいされた^[17]二に十じゅう四よん式しき太極拳たいきょくけんに続つづき、1957年ねんに発表はっぴょうされた。二に十じゅう四よん式しきの原理げんりに基もとづいて、楊式太極拳たいきょくけんの動作どうさを改あらためたものである。動作どうさの順序じゅんじょは楊式太極拳たいきょくけん大だい架か式しきに準じゅんじているが、動作どうさ原理げんりが異ことなる。
四よん十じゅう八はち式しき太極拳たいきょくけん: 二に十じゅう四よん式しき太極拳たいきょくけんの上級じょうきゅう套路として、1979年ねんに発表はっぴょうされた。楊式太極拳たいきょくけんをベースに、陳ひね家か、呉くれ式しき、孫まご式しきの動作どうさを取とり入いれて作つくられた。二に十じゅう四よん式しきより難なん度どが高たかく、八はち十じゅう八はち式しきより表ひょう演えんじ時間じかんが短みじかく、動作どうさも左右さゆう対称たいしょうに整ととのえられているため、競技きょうぎ会かいにおいて頻繁ひんぱんに行おこなわれている。
総合そうごう太極拳たいきょくけん（四よん十じゅう二に式しき太極拳たいきょくけん）: 1980年代ねんだい後半こうはんになって太極拳たいきょくけんの国際こくさい大会たいかいが催もよおされるようになり、それに伴ともなって競技きょうぎ会かい用ようの統一とういつされた套路として制定せいていされた。規定きてい套路、或あるいは競技きょうぎ套路と呼よばれ、競技きょうぎ会かい種目しゅもくとして採用さいようされている。四よん十じゅう八はち式しきと同様どうよう、楊式をベースに陳ひね家か、呉くれ式しき、孫まご式しきの動作どうさが組くみ合あわされており、四よん十じゅう八はち式しきよりも各かく門派もんぱの特徴とくちょう的てき動作どうさを明確めいかくに演えんずることが出来できる。
太極たいきょく剣けん: 器械きかい（武器ぶき）の入門にゅうもん用ようとして編纂へんさんされた。楊式太極たいきょく剣けんをもとに編纂へんさんされた『三さん十じゅう二に式しき太極たいきょく剣けん』と、競技きょうぎ用よう套路として陳ひね家か、楊式、呉くれ式しきの動作どうさを組くみ合あわせた『四よん十じゅう二に式しき太極たいきょく剣けん』（総合そうごう太極たいきょく剣けん）がある。総合そうごう太極拳たいきょくけんと並ならんで、競技きょうぎ会かいで盛さかんに行おこなわれている。

この他ほかにも、八はち式しき、十じゅう六ろく式しき、三さん十じゅう二に式しき、四よん十じゅう二に式しきの制定せいてい拳けんがあり、また、陳ひね式しき、孫まご式しきなどの各派かくはの特長とくちょうを出だした陳ちん氏し五ご十じゅう六ろく式しきや三さん十じゅう八はち式しき、孫まご氏し七なな十じゅう三さん式しきなどの套路も制定せいていされている。