石斧せきふ

磨すり製せい石斧せきふ

石斧せきふ（いしおの/せきふ）は石器せっきの一種いっしゅで木きの柄えに取とり付つけた石いし製せいの斧おの。日本にっぽん列島れっとうでは、後期こうき旧きゅう石器せっき・縄文じょうもん・弥生やよい時代じだいにおいて主おもに樹木じゅもくの伐採ばっさいや土ど掘ほり、農耕のうこう用ようとして使つかわれた。

縦たて斧おのと横よこ斧おの

斧おのは縦たて斧おのと横よこ斧おのの二ふたつに大おおきく分わけることができる。縦たて斧おのは刃はが柄えと平行へいこう、または柄えと刃は部ぶが一直線いっちょくせんに、横よこ斧おのは刃はと柄えが直交ちょっこうするように付つけられている。一般いっぱんには縦たて斧おの（平行へいこう刃ば斧おの）を斧おの（オノ）、横よこ斧おの（直交ちょっこう刃ば斧おの）を手斧ちょうな（チョウナ）と呼よんでいる。しかし、両者りょうしゃをオノと呼よぶことが多おおい。鉞（マサカリ）は大型おおがたの縦たて斧おの（平行へいこう刃ば斧おの）である。

日本にっぽん列島れっとうにおける製作せいさく方法ほうほうとその変遷へんせん

石斧せきふの製作せいさく技法ぎほうには、打だ製せいと磨すり製せいがある。礫つぶての自然しぜん面めんをほとんど残のこし、打だ製せいか磨すり製せい、あるいはその両方りょうほうによって刃はを付つけた程度ていどのものは、「礫つぶて器き」、「礫つぶて斧おの」（れきふ）と呼よばれる。礫つぶて斧おののうち刃はを磨みがいたものを「局部きょくぶ磨すり製せい石斧せきふ」あるいは「刃は部ぶ磨すり製せい石器せっき」または「刃は部ぶ磨すり製せい礫つぶて器き」という。

旧石器時代きゅうせっきじだい

日本にっぽん列島れっとうにおける後期こうき旧石器時代きゅうせっきじだいには、打だ製せい石斧せきふもしくは局部きょくぶ磨すり製せい石斧せきふがつくられた。旧きゅう石器せっき文化ぶんかにおける石斧せきふは「斧おの形がた石器せっき」「楕円だえん形がた石器せっき」と呼よばれているが、扁平へんぺいな円えん礫つぶてあるいは大おおきな礫つぶてを打うち割わった剥へず片かたの周辺しゅうへんを打撃だげきして形かたちを整ととのえたものである。

局部きょくぶ磨すり製せい石斧せきふとは、刃はの部分ぶぶんだけを磨みがいて実用じつように供きょうしたものである。片刃かたはがやや多おおいが両刃りょうばも少すくなくない。日本にっぽん列島れっとう出土しゅつどのものは、4万まん～3万まん年ねん前まえの後期こうき旧石器時代きゅうせっきじだい初期しょきに出現しゅつげんしており、部分ぶぶん的てきではあるが磨すり製せい技法ぎほうを用もちいた石器せっきとして世界せかい最古さいこ級きゅうとされている。また「旧石器時代きゅうせっきじだいには打だ製せい石器せっきのみが使用しようされ、磨すり製せい石器せっきは出現しゅつげんしていない」とするこの時代じだいの定義ていぎに見直みなおしを迫せまる遺物いぶつとして注目ちゅうもくされた。これら日本にっぽん列島れっとうの局部きょくぶ磨すり製せい石斧せきふは、後期こうき旧石器時代きゅうせっきじだい後半こうはんに入はいるころには突然とつぜん消滅しょうめつし、後ごの縄文じょうもん時代じだいの磨すり製せい石斧せきふとは系統的けいとうてきな連続れんぞく性せいを持もたないという特徴とくちょうがあるが、その消滅しょうめつの理由りゆうについてはよくわかっていない。

旧石器時代きゅうせっきじだい末期まっきから縄文じょうもん時代じだいの草創そうそう期きにかけては断面だんめん三角形さんかっけいまたはカマボコ形かまぼこがたを呈ていする片刃かたはの御子柴みこしば型かた石斧せきふが盛行せいこうする。これはロシア沿海州えんかいしゅうやシベリア地方ちほうとの関連かんれんの深ふかい遺物いぶつと考かんがえられている。

縄文じょうもん時代じだい

縄文じょうもん時代じだいに入はいってこれらに加くわえ磨すり製せい石斧せきふが作つくられた。全面ぜんめん研磨けんまされたものは草創そうそう期きに出現しゅつげんする。縄文じょうもん時代じだい早期そうきから前期ぜんきにかけての北日本きたにっぽんでは、砥石といし状じょう工具こうぐを用もちいた擦切すりき技法ぎほう（すりきりぎほう）が発展はってんする。しかし、この技法ぎほうは縄文じょうもん時代じだい中期ちゅうき末まつにほぼ消滅しょうめつする。擦切すりき技法ぎほうの石斧せきふとともに定てい角かく式しき磨すり製せい石斧せきふも現あらわれるが、この石斧せきふが定型ていけい的てきな形かたちを持もち、広ひろい分布ぶんぷと出土しゅつど量りょうの多おおさを示しめしてくるのは縄文じょうもん中期ちゅうき末まつ頃ごろである。縄文じょうもん後期こうきになると、長ながさ2～2.5cmの磨すり製せい石斧せきふのミニチュアがみられるようになる。小ちいさいながらきわめて精巧せいこうにできているものが多おおく、研磨けんまも行いき届とどいて美麗びれいなものが増ふえる。なかには穴あなを空あけたものもあり、とても実じつ用品ようひんとは思おもわれない。縄文じょうもん後期こうき・晩期ばんきになると呪術じゅじゅつ的てきな遺物いぶつが著いちじるしく発達はったつすることからも、磨すり製せい石斧せきふも儀ぎ器きや装飾そうしょく品ひんとしての意味合いみあいを濃こくしたものと考かんがえられる。

いっぽう打だ製せい石斧せきふは、縄文じょうもん時代じだい早期そうき末まつに、三味線しゃみせんの撥ばち（バチ）に似にた形状けいじょうで、鋭するどい剥離はくり面めんを刃は部ぶとした片刃かたはの石斧せきふが北日本きたにっぽんにみられ、それは「直ちょく刃は斧おの」あるいは「トランシェ様さま石器せっき」といわれ、後世こうせいの「手斧ちょうな」のような使用しようが考かんがえられる。縄文じょうもん中期ちゅうき中葉ちゅうよう以降いこう、関東かんとう地方ちほうや中部ちゅうぶ地方ちほうでは打だ製せい石斧せきふの数量すうりょうが爆発ばくはつ的てきに増加ぞうかするが、形状けいじょうは短冊たんざく形がた、撥ばち形がた、分銅ふんどう形がたのものが多おおく、これらは垂直すいちょくに打うち下おろす「斧おの」には向むいていない。乳棒にゅうぼう状じょう磨すり製せい石斧せきふや定てい角かく式しき磨すり製せい石斧せきふなど伐採ばっさい具ぐに適てきした道具どうぐが他たにあることからも土ど掘ほりの道具どうぐと考かんがえられている。

縄文じょうもん時代じだい中期ちゅうきの打だ製せい石斧せきふの製作所せいさくしょ跡あととしては熊本くまもと県けん合志こうし市し二子山ふたごやまが知しられている。粗そ割わりの後のち、次つぎの作業さぎょう工程こうていに都合つごう良よくしたり、さらに打撃だげきを加くわえて整形せいけいしたりする工程こうていが四よっつほどに分わけられる。そして、その場ばで完成かんせい品ひんを製作せいさくするのではなく、未み完成かんせいのまま各かく集落しゅうらくに運はこばれる。

弥生やよい時代じだい

磨すり製せい石斧せきふは、原石げんせきを粗ほぼ割わりして打撃だげきで整ととのえた後のち、磨みがくことが多おおい。例たとえば、太ふとし型がた蛤はまぐり刃ば石斧せきふ（ふとがたはまぐりばせきふ）は、大おおまかに粗そ割わりした後のち、打撃だげきを加くわえて形かたちを整ととのえ、こつこつと敲たたいて全面ぜんめんを平たいらにした後のち、磨みがく。つまり、粗そ割わり・敲打・琢磨たくまの段階だんかいを経へて完成かんせいされる。基部きぶ近ちかくは粗あらく磨みがき（grind）、刃は部ぶはていねいに磨みがく（polish）。完成かんせい品ひんの身みの一部いちぶには敲打（こうだ）の痕跡こんせきをとどめることも多おおい。例れいとしては、北九州きたきゅうしゅうでは福岡ふくおか市し西にし区く今宿いましゅくの今山いまやま・今津いまづの太たい型がた蛤はまぐり刃ば石斧せきふ製作せいさく跡あとがある。ここでは、製品せいひんとしてしあげられ、広ひろい範囲はんいにもたらされている。畿内きないでは大だい集落しゅうらくの多おおくで未み製品せいひんが見みられるから未み製品せいひんのままで各地かくちに運はこばれたと見みられる。

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  太ふとし型がた蛤はまぐり刃ば石斧せきふ
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  扁平へんぺい片刃かたは石斧せきふ
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  抉こじ入にゅう片刃かたは石斧せきふ

用途ようととその広ひろがり

• 旧石器時代きゅうせっきじだいの局部きょくぶ磨すり製せい石斧せきふには、狩猟しゅりょうで捕とらえた大型おおがた獣じゅうの解体かいたいや皮かわなめしに用もちいたとする説せつのほか、木きの伐採ばっさいや加工かこうに用もちいたとする説せつがあり意見いけんが分わかれている。

• 縄文じょうもん時代じだいに入はいって定住ていじゅう生活せいかつが一般いっぱん化かすると、用途ようとに応おうじた打だ製せい石斧せきふ・磨すり製せい石斧せきふ、大小だいしょうや形状けいじょうさまざまの石斧せきふがつくられるようになった。打だ製せい石斧せきふは、中期ちゅうき以降いこう土ど掘ほり具ぐとしての利用りようが主流しゅりゅうをなすとみられる。このことからかつて「縄文じょうもん農耕のうこう」が唱となえられたこともあったが、少すくなくとも根茎こんけい類るい採集さいしゅうが生活せいかつにおいて重要じゅうような位置いちを占しめるに至いたったことを示しめすものであることは確たしかとみられる。いっぽう、磨みがきの技術ぎじゅつも徐々じょじょに発展はってんし、精緻せいちな磨すり製せい石斧せきふも現あらわれる。伐採ばっさいや木材もくざい加工かこう用ようの実じつ用品ようひんのほか、祭祀さいしにつかわれたものも増ふえる。

• 弥生やよい時代じだい中期ちゅうき後半こうはんの畿内きないで、太ふとし型がた蛤はまぐり刃ば石斧せきふの使用しようが頂点ちょうてんに達たっし、大だい多数たすうが使つかい古ふるした状況じょうきょうで見みつかる。長ながい元もとのままの場合ばあいは例外れいがい的てきである。短みじかくなっており、刃はがすり減へったり、割われたりしているものが多おおい。この石斧せきふの材料ざいりょうが輝石きせき・閃緑岩がんなど、重おもい深成岩しんせいがんからできているためである。扁平へんぺい片刃かたは石斧せきふは、まだ使つかえる状況じょうきょうのまま残のこっている。これは、石斧せきふの役割やくわりが鉄てつ斧おのに遷っていったことを意味いみする。東海とうかい・南関東みなみかんとうにおいても弥生やよい中期ちゅうき後半こうはんには鉄てつ斧おのが普及ふきゅうしており、さらに、この時期じきに戦争せんそうが始はじまっていたと考かんがえられている。統合とうごうへの道みちを歩あゆみ始はじめていたと考かんがえられる。

• 秋田あきた県けん東成瀬ひがしなるせ村むらの上うえ掵遺跡いせきからは、長ながさ60.2cm、重おもさ4.4kgの世界せかい最大さいだい級きゅうの磨すり製せい石斧せきふ（緑色みどりいろ凝灰岩ぎょうかいがん製せい）が出土しゅつどしている。縄文じょうもん時代じだい前期ぜんきの遺物いぶつとみられるが、使用しよう痕跡こんせきもなく、祭祀さいしのための遺物いぶつと考かんがえられる。
• 北海道ほっかいどう伊達だて市しの北黄金きたこがね貝塚かいづかからは、軽石かるいし製せいの磨すり製せい石斧せきふが出土しゅつどしている。これも実用じつようされたのではない。縄文じょうもん時代じだい後期こうきの作さくと考かんがえられる。

備考びこう

旧石器時代きゅうせっきじだい前期ぜんきから中期ちゅうきにかけて、握にぎ斧おの（あくふ、hand axe）と呼よばれる石器せっきがヨーロッパなどで多数たすう見みつかっている。形かたちは石斧せきふによく似にているが、文字通もじどおり手しゅに握にぎって、土どを掘ほったり動物どうぶつを解体かいたいしたり木きを削けずったり、その他た多様たような用途ようとに用もちいられたと考かんがえられる。木きの柄えにはめ込こんだ本来ほんらいの石斧せきふが現あらわれるのは後期こうき旧石器時代きゅうせっきじだいに入はいってからである。

前ぜん近代きんだいには、石斧せきふは雷かみなりに由来ゆらいする自然しぜん物ぶつだと思おもわれていた。→普遍ふへん史し#先史せんし時代じだいと人類じんるいの起源きげん、雷かみなり石せき

参考さんこう文献ぶんけん

• 小田おだ, 静夫しずお「世界せかい最古さいこの磨すり製せい石斧せきふと栗原くりはら遺跡いせき 列島れっとう最古さいこの旧きゅう石器せっき文化ぶんかを探さぐる6」『多摩たま考古こうこ』第だい47号ごう、2017年ねん5月がつ26日にち、1-15頁ぺーじ、NCID AN0013996X。 
• 堤つつみ, 隆りゅう『ビジュアル版ばん・旧石器時代きゅうせっきじだいガイドブック』新泉しんいずみ社しゃ〈シリーズ「遺跡いせきを学まなぶ」別冊べっさつ第だい2巻かん〉、2009年ねん8月がつ25日にち。ISBN 9784787709301。 

関連かんれん項目こうもく

• 石器せっき