藤原ふじわら葛野くずの麻呂まろ

凡例はんれい 藤原ふじわら 葛野くずの麻呂まろ
時代じだい	奈良なら時代じだい - 平安へいあん時代じだい初期しょき
生誕せいたん	天平てんぴょう勝かち宝たから7歳さい（755年ねん）
死没しぼつ	弘ひろし仁ひとし9年ねん11月10日にち（818年ねん12月11日にち）
官位かんい	正せい三さん位い、中納言ちゅうなごん
主君しゅくん	桓武かんむ天皇てんのう→平城ひらじろ天皇てんのう→嵯峨天皇さがてんのう
氏族しぞく	藤原ふじわら北きた家か
父母ちちはは	父ちち：藤原ふじわら小黒おぐろ麻呂まろ、母はは：太秦うずまさ嶋しま麻呂まろの娘むすめ
兄弟きょうだい	葛野くずの麻呂まろ、道みち継ままし、道雄みちお、上うえ子こ
妻つま	伊い蘇そ志こころざし総そう麻呂まろの娘むすめ、菅野かんの浄子きよこ（菅野かんの池いけ成しげるの娘むすめ） 和気清麻呂わけのきよまろの娘むすめ、山やま輪わ王おうの娘むすめ
子こ	永えい宗はじめ、常つね嗣、氏し宗むね、安やす棟とう、常つね永ひさし、豊ゆたか宗そう、高こう貞さだ、弟おとうと貞さだ、後継こうけい、是ぜ緒いとぐち

藤原ふじわら 葛野くずの麻呂まろ（ふじわら の かどのまろ）は、奈良なら時代じだいから平安へいあん時代じだい初期しょきにかけての公卿くぎょう。藤原ふじわら北きた家か、大納言だいなごん・藤原ふじわら小黒おぐろ麻呂まろの長男ちょうなん。官位かんいは正せい三さん位い・中納言ちゅうなごん。

経歴けいれき

妹いもうと・上うえ子こが桓武かんむ天皇てんのうの後宮こうきゅうに入はいったために重おもんじられる。延のべ暦れき4年ねん（785年ねん）従したがえ五ご位い下かに叙じょされ、延のべ暦れき6年ねん（787年ねん）陸奥みちのく介かいに任にんぜられる。延のべ暦れき10年ねん（791年ねん）少納言しょうなごんとして京きょう官かんに復ふくすと、次ついで右みぎ少しょう弁べんと太政官だじょうかんの三さん等とう官かんを歴任れきにんする。平安京へいあんきょうの造みやつこ宮みや使しにも任にんぜられ、延のべ暦れき12年ねん（793年ねん）には官かん人じんに新しん京きょうの宅地たくちを配分はいぶんしている。延のべ暦れき13年ねん（794年ねん）正せい五ご位い下か・左ひだり少しょう弁べんに叙任じょにんされると、延のべ暦れき14年ねん（795年ねん）従したがえ四よん位い下か・左ひだり中ちゅう弁わきまえ、延のべ暦れき16年ねん（797年ねん）以前いぜんに右みぎ大だい弁べんと、要職ようしょくである弁べん官かんを務つとめながら急速きゅうそくな昇進しょうしんを果はたした。また、皇太子こうたいし・安あん殿どの親王しんのうの春宮とうぐう亮あきらのち大夫たいふも兼かねている。

延のべ暦れき20年ねん（801年ねん）遣や唐から大使たいしに任命にんめいされる。延のべ暦れき22年ねん（803年ねん）正月しょうがつに従したがえ四よん位い上じょうに叙じょせられ、4月がつに節ふし刀がたなを授さづけられて難波なんば津つより出航しゅっこうするが、まもなく暴風雨ぼうふううを受うけて遣唐使けんとうし船せんが破損はそんして航海こうかいが不可能ふかのうとなる。延のべ暦れき23年ねん（804年ねん）7月がつに再度さいど唐とうに向むけ出航しゅっこうし、8月がつに福ふく州しゅうに漂着ひょうちゃくする。遣唐使けんとうしの証あかしである印しるし符ふがはぐれた第だい二に船せん（最澄さいちょうはその船ふねに乗船じょうせんしていた）にあった事ことと、葛野くずの麻呂まろが自みずからしたためて提出ていしゅつした事情じじょう説明せつめい文ぶんが悪文あくぶんだった事ことにより身分みぶんを疑うたがわれる事態じたいとなり、同船どうせんの空海くうかいに代筆だいひつさせた文書ぶんしょを提出ていしゅつしてようやく遣唐使けんとうしであると了解りょうかいさせている。同年どうねん12月がつに長安ながやす城じょうに入はいって徳とく宗むねへの謁見えっけんを果はたし、翌よく延のべ暦れき24年ねん（805年ねん）正月しょうがつの徳とく宗むね崩御ほうぎょと順じゅん宗むね即位そくいにも遭遇そうぐうした。同年どうねん5月がつに明あきら州しゅうから帰国きこくの途とに就つき、対馬つしま国こくを経由けいゆして7月がつに帰国きこくし節せつ刀がたなの返上へんじょうを果はたし、唐とうの情勢じょうせいに関かんする報告ほうこくを行おこなっている。同月どうげつ末まつには大使たいしの功労こうろうにより、従したがえ四よん位い上じょうから一挙いっきょに従したがえ三さん位いにまで昇叙しょうじょされ公卿くぎょうに列れつした。

延のべ暦れき25年ねん（806年ねん）安あん殿どの親王しんのうの即位そくい（平城ひらじろ天皇てんのう）に伴ともない、それまで春宮とうぐう大夫たいふとして仕つかえていた葛野くずの麻呂まろは直ただちに権けん参議さんぎさらに参議さんぎに昇進しょうしんし、式部しきぶ卿きょうを兼かねた。同年どうねん5月がつの観察かんさつ使し制度せいどの制定せいていにより東海道とうかいどう観察かんさつ使しに任にんぜられるが、8月がつには以下いかの言上ごんじょうを行おこなって許ゆるされている。

• 正せい税ぜいの出で挙きょを行おこなう際さい、貸かし付つけた稲いねの元もと本部ほんぶ分ぶんは穎稲で収納しゅうのうし、利息りそくの部分ぶぶんは穀こくで収納しゅうのうする事ことで、元本がんぽん部分ぶぶんを早生わせと晩生ばんせいとを区別くべつして種子しゅしに充当じゅうとうするように勅みことのりが出だされている。しかし、延のべ暦れき17年ねん（798年ねん）の格かくによる出だし挙きょの貸付かしつけも収納しゅうのう共どもに穀こくで行おこなう定さだめを悪用あくようし、国司こくしらは公おおやけ廨稲の利り稲いねや出だし挙きょ稲いねを全すべて玄米げんまいで収納しゅうのうしている。本来ほんらいは長期ちょうき保管ほかんのために、穎や穀こくで収納しゅうのうするように定さだめているところ、玄米げんまいとして翌年よくねんに使つかい切きってしまうのは、むやみに民みんを疲弊ひへいさせるだけで、公おおやけの役やくにたない。そこで、雑用ざつよう稲いねや公おおやけ廨稲を玄米げんまいとして収納しゅうのうすることを禁止きんしすべき。

その後ごも天皇てんのうの近臣きんしんとして重用じゅうようされ、大同だいどう3年ねん（808年ねん）中納言ちゅうなごん、翌よく大同だいどう4年ねん（809年ねん）に正せい三さん位いに叙任じょにんされた。

大同だいどう5年ねん（810年ねん）薬くすり子この変へんが発生はっせいした際さいには、平城ひらじろ上皇じょうこうに対たいして挙兵きょへいのために東国とうごくへ向むかう事ことを思おもいとどまるよう、左ひだり馬頭めず・藤原ふじわら真雄まさおと共ともに諌いさめたが受うけ入いれられなかった。変へん後ごの処置しょちでは藤原ふじわら薬くすり子こと縁戚えんせき関係かんけいであった事ことから重罪じゅうざいとされるが、上皇じょうこうに対たいして懇切こんせつな諫言を行おこなった事ことが認みとめられ処罰しょばつを逃のがれた。

弘ひろし仁ひとし3年ねん（812年ねん）右大臣うだいじん・藤原ふじわら内ない麻呂まろの死去しきょにより、右大臣うだいじん・藤原ふじわら園えん人じんに次ついで太政官だじょうかんで次席じせきの地位ちいを占しめるが、その後ごも官職かんしょくは中納言ちゅうなごんのままで留とめ置おかれた。また、嵯峨天皇さがてんのうの下したにおいて、藤原ふじわら冬ふゆ嗣・秋篠あきしの安やす人じんらと『弘ひろ仁じん格式かくしき』の編纂へんさんにも関かかわっている。

弘ひろ仁じん9年ねん（818年ねん）6月がつに20歳さい年下とししたで前年ぜんねんに中納言ちゅうなごんへ昇進しょうしんしたばかりの藤原ふじわら冬ふゆ嗣が大納言だいなごんに任にんぜられて昇進しょうしんを越こされてしまうと、葛野くずの麻呂まろは同年どうねん11月がつ10日とおか薨去こうきょ。享年きょうねん64。最終さいしゅう官位かんいは正せい三さん位い中納言ちゅうなごん。

死後しご、承うけたまわ和わ元年がんねん（834年ねん）には、子こ・常つね嗣が父ちちに続つづいて遣や唐から大使たいし（実際じっさいに渡わたり唐とうした最後さいごの遣唐使けんとうし）に任命にんめいされている。

官かん歴れき

注記ちゅうきのないものは『六ろく国史こくし』による。

• 時期じき不ふ詳しょう：正せい六ろく位い上じょう
• 延のべ暦れき4年ねん（785年ねん） 正月しょうがつ7日にち：従したがえ五ご位い下か
• 延のべ暦れき5年ねん（786年ねん） 9月がつ29日にち：摂津せっつ国こく班はん田た次官じかん
• 延のべ暦れき6年ねん（787年ねん） 2月がつ25日にち：陸奥みちのく介かい
• 延のべ暦れき10年ねん（791年ねん） 7月がつ4日にち：少納言しょうなごん。11月8日にち：右みぎ少しょう弁べん
• 延のべ暦れき13年ねん（794年ねん） 正月しょうがつ7日にち：従したがえ五ご位い上じょう。2月25日にち：春宮とうぐう亮あきら（春宮とうぐう・安あん殿どの親王しんのう）。3月29日にち：兼けん左ひだり少しょう弁べん。10月28日にち：正せい五ご位い下か
• 延のべ暦れき14年ねん（795年ねん） 2月がつ19日にち：右みぎ中ちゅう弁べん。4月：従したがえ四よん位い下か。7月：左ひだり中ちゅう弁べん
• 時期じき不ふ詳しょう：右みぎ大だい弁べん
• 延のべ暦れき16年ねん（797年ねん） 2月がつ9日にち：兼けん春宮とうぐう大夫たいふ
• 延のべ暦れき18年ねん（799年ねん） 正月しょうがつ29日にち：大だい宰おさむ大弐だいに
• 延のべ暦れき20年ねん（801年ねん） 8月がつ10日とおか：遣や唐から大使たいし、兼けん越前えちぜん守まもる
• 延のべ暦れき23年ねん（804年ねん） 正月しょうがつ：従したがえ四よん位い上じょう
• 延のべ暦れき24年ねん（805年ねん） 正月しょうがつ16日にち：刑部おさかべ卿きょう、越前えちぜん守まもる如元。7月25日にち：従したがえ三さん位い
• 延のべ暦れき25年ねん（806年ねん） 2月がつ16日にち：春宮とうぐう大夫たいふ。3月18日にち：御ご装束しょうぞく司し（桓武かんむ天皇てんのう崩御ほうぎょ）、権けん参議さんぎ。4月18日にち：参議さんぎ兼けん式部しきぶ卿きょう。5月24日にち：東海道とうかいどう観察かんさつ使し
• 大同だいどう2年ねん（807年ねん） 4月がつ16日にち：停とま参議さんぎ
• 大同だいどう3年ねん（808年ねん） 2月がつ：中納言ちゅうなごん、式部しきぶ卿きょう如元
• 大同だいどう4年ねん（809年ねん） 3月がつ30日にち：正せい三さん位い。4月14日にち：兼けん東宮とうぐう傅でん（春宮とうぐう：高岳親王たかおかしんのう）
• 大同だいどう5年ねん（810年ねん） 9月がつ13日にち：去さ東宮とうぐう傅でん
• 弘ひろ仁じん3年ねん（812年ねん） 12月5日にち：兼けん民みん部ぶ卿きょう
• 弘ひろ仁じん9年ねん（818年ねん） 11月がつ10日とおか：薨去こうきょ（正せい三さん位い中納言ちゅうなごん）

系譜けいふ

『尊卑そんぴ分脈ぶんみゃく』による。

• 父ちち：藤原ふじわら小黒おぐろ麻呂まろ
• 母はは：太秦うずまさ嶋しま麻呂まろの女おんな
• 妻つま：伊い蘇そ志こころざし総そう麻呂まろの女おんな
  • 男子だんし：藤原ふじわら永ひさし宗むね
• 妻つま：菅野かんの浄子きよこ（菅野かんの池いけ成しげるの女おんな）
  • 七なな男なん：藤原ふじわら常つね嗣（796-840）
• 妻つま：和気清麻呂わけのきよまろの女おんな
  • 男子だんし：藤原ふじわら氏し宗むね（810-872）
• 妻つま：山やま輪わ王おうの女おんな
  • 男子だんし：藤原ふじわら安やすし棟とう
• 生母せいぼ不明ふめい
  • 男子だんし：藤原ふじわら常つね永ひさし（?-867）
  • 男子だんし：藤原ふじわら豊ゆたか宗むね
  • 男子だんし：藤原ふじわら高貞たかさだ
  • 男子だんし：藤原ふじわら弟おとうと貞さだ
  • 男子だんし：藤原ふじわら後継こうけい
  • 男子だんし：藤原ふじわら是ただし緒いとぐち

出典しゅってん

• 宇治谷うじたに孟はじめ『続ぞく日本にっぽん紀き （下した）』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ〉、1995年ねん
• 森田もりた悌『日本にっぽん後ご紀き』（上中かみなか巻まき）、講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ〉、2006年ねん
• 『公卿くぎょう補任ほにん 第だい一いち篇へん』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1982年ねん
• 『尊卑そんぴ分脈ぶんみゃく 第だい一いち篇へん』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1987年ねん