衆議院しゅうぎいん解散かいさん

衆議院しゅうぎいん解散かいさん（しゅうぎいんかいさん）とは、大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下したの帝国ていこく議会ぎかいおよび日本国にっぽんこく憲法けんぽう下したの国会こっかいにおいて、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんすること。解散かいさんによりすべての衆議院しゅうぎいん議員ぎいんは、任期にんき満了まんりょう前まえに議員ぎいんとしての地位ちいを失うしなう。解散かいさんに伴ともなう衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょを総称そうしょうして解散かいさん総そう選挙せんきょと呼よぶ。

日本国にっぽんこく憲法けんぽう下かの衆議院しゅうぎいん解散かいさん[編集へんしゅう]

概要がいよう[編集へんしゅう]

日本国にっぽんこく憲法けんぽうにおいて衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは、内閣ないかくの助言じょげんと承認しょうにんにより、天皇てんのうが行おこなう国事こくじ行為こういの一ひとつと定さだめられている（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょう3号ごう）^{[注ちゅう 1]}。

衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされたときは、解散かいさんの日ひから40日にち以内いないに衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょを行おこない、その選挙せんきょの日ひから30日にち以内いないに国会こっかい（特別とくべつ国会こっかい）を召集しょうしゅうしなければならない（同どう第だい54条じょう第だい1項こう、公職こうしょく選挙せんきょ法ほう第だい31条じょう3項こう）。そして、日本国にっぽんこく憲法けんぽうは衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょ後のちに初はじめて国会こっかいの召集しょうしゅうがあったときには当然とうぜんに内閣ないかくは総そう辞職じしょくするものとしている（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい70条じょう）。「現在げんざいの内閣ないかく総理そうり大臣だいじんを指名しめいした衆議院しゅうぎいんが解散かいさんにより存在そんざいしなくなり、衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょによって新あらたに衆議院しゅうぎいんが構成こうせいされることになった以上いじょう、たとえ同一どういつの者ものが内閣ないかく総理そうり大臣だいじんに指名しめいされるとしても、内閣ないかくは新あらたにその信任しんにんの基礎きそを得えるべきである」との趣旨しゅしである^[2]。内閣ないかく総そう辞職じしょくを受うけて国会こっかいは新あらたに内閣ないかく総理そうり大臣だいじんを指名しめいし（内閣ないかく総理そうり大臣だいじん指名しめい選挙せんきょ）、その指名しめいに基もとづき天皇てんのうは内閣ないかく総理そうり大臣だいじんを任命にんめいする（同どう第だい6条じょう第だい1項こう）。そして、新あらたに任命にんめいされた内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは旧きゅう内閣ないかく（職務しょくむ執行しっこう内ない閣かく）から職務しょくむを引ひき継つぎ（同どう第だい71条じょう）、国務大臣こくむだいじんを任命にんめいする組閣そかくを行おこなうことになる（同どう第だい68条じょう第だい1項こう）。

なお、憲法けんぽう解釈かいしゃく上じょうは解散かいさん権けんはあくまでも内閣ないかくに存そんするが、事実じじつ上じょう、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの専権せんけん事項じこうとなる（後述こうじゅつの「解散かいさん権けんの行使こうし」を参照さんしょう）。そのため、「首相しゅしょうの大権たいけん」或あるいは「伝家でんかの宝刀ほうとう」とも呼よばれる^[3]。

解散かいさん権けんの帰属きぞく[編集へんしゅう]

解散かいさん権けんの帰属きぞくを巡めぐる議論ぎろん[編集へんしゅう]

日本国にっぽんこく憲法けんぽうにおいて直接的ちょくせつてきに衆議院しゅうぎいん解散かいさんについて規定きていした条文じょうぶんとしては第だい7条じょうと第だい69条じょうがある^[4]（憲法けんぽう上じょうは憲法けんぽう第だい69条じょうによって内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あんが可決かけつあるいは内閣ないかく信任しんにん決議けつぎ案あんが否決ひけつされた場合ばあいも含ふくめ、すべて衆議院しゅうぎいん解散かいさんは憲法けんぽう第だい7条じょうにより天皇てんのうの国事こくじ行為こういとして詔書しょうしょをもって行おこなわれる^[5]^[6]^{[注ちゅう 2]}）。

このうち日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょう第だい3号ごうは衆議院しゅうぎいんの解散かいさんを天皇てんのうの国事こくじ行為こういとして定さだめる。ただ、天皇てんのうは国政こくせいに関かんする権能けんのうを有ゆうしないとされており（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい4条じょう第だい1項こう）、憲法けんぽう第だい7条じょう第だい3号ごうの天皇てんのうの権能けんのうは衆議院しゅうぎいん解散かいさんを形式けいしき的てきに外部がいぶへ公示こうじする形式けいしき的てき宣せん示しめせ権けんということになる^[7]。また、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうは衆議院しゅうぎいんで内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎが可決かけつあるいは内閣ないかく信任しんにん決議けつぎが否決ひけつされた場合ばあいの内閣ないかくの進退しんたいを定さだめた規定きていで^[7]、その条文じょうぶんの文言もんごんも「内閣ないかくは……衆議院しゅうぎいんを解散かいさんしない限かぎり」とはなっておらず「内閣ないかくは……衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされない限かぎり」となっており衆議院しゅうぎいん解散かいさんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんについて定さだめているわけではない（この点てんは衆議院しゅうぎいん解散かいさんは憲法けんぽう第だい69条じょうの場合ばあいに限定げんていされるとみる後述こうじゅつの69条じょう説せつに対たいする批判ひはんとしても挙あげられている）^[7]^[8]。

そこで、いずれの国家こっか機関きかんが衆議院しゅうぎいん解散かいさんに関かんする実質じっしつ的てき決定けってい権けんを持もつかが問題もんだいとなるが、憲法けんぽう学者がくしゃ・先例せんれいともに内閣ないかくに衆議院しゅうぎいん解散かいさんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんがあることについてはほぼ見解けんかいが固かたまっている（内閣ないかく説せつ）。一方いっぽう、内閣ないかくの意思いしによらない衆議院しゅうぎいんによる自主じしゅ解散かいさん権けん（自律じりつ的てき解散かいさん）を認みとめる見解けんかい（自律じりつ的てき解散かいさん説せつ）も存在そんざいするが、従来じゅうらいより議院ぎいんの多数たすう派はにより少数しょうすう派はの議員ぎいんの地位ちいを失うしなわせることを可能かのうとするためには法律ほうりつ上じょう明文めいぶんの根拠こんきょが必要ひつようであるとして否定ひてい的てきな見解けんかいが多おおい。衆議院しゅうぎいん解散かいさん要求ようきゅう決議けつぎ案あんが衆議院しゅうぎいん本ほん会議かいぎで採決さいけつに至いたった例れいはあるが、可決かけつされたことはなく、仮かりに可決かけつされても、法的ほうてき拘束こうそく力りょくのない国会こっかい決議けつぎの一ひとつにとどまるものとされる。今日きょうの学説がくせつにおいては、衆議院しゅうぎいんにおける多数たすう派はが内閣ないかくとの関係かんけいにおいて、対立たいりつ関係かんけいになく解散かいさんを望のぞむのであれば内閣ないかくに解散かいさんを求もとめることで足たり、対立たいりつ関係かんけいにあり内閣ないかくが応おうじなければ不信任ふしんにんすればよく、憲法けんぽうもこのような運用うんようを予定よていしているとされ^[9]、また、衆議院しゅうぎいん解散かいさんは憲法けんぽう第だい69条じょうの場合ばあいに限定げんていされるとみる後述こうじゅつの69条じょう説せつをとらない限かぎりは実益じつえきのある議論ぎろんではないと考かんがえられている^[10]。

以上いじょうのように、衆議院しゅうぎいん解散かいさんの実質じっしつ的てきな権限けんげんを持もつのは内閣ないかくとする見解けんかいにほぼ固かたまっている。日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうの解釈かいしゃく上じょう、衆議院しゅうぎいんで内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あんが可決かけつされるか信任しんにん決議けつぎ案あんが否決ひけつされた場合ばあいに、内閣ないかくはそれに対抗たいこうする手段しゅだんとして衆議院しゅうぎいん解散かいさんが可能かのうであることに争あらそいはない（対抗たいこう的てき解散かいさん）。しかし、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうに規定きていする場合ばあい以外いがいにも衆議院しゅうぎいん解散かいさんが認みとめられるか（裁量さいりょう的てき解散かいさん）、また、裁量さいりょう的てき解散かいさんが認みとめられるとするならば解散かいさん権けんの根拠こんきょをどこに求もとめるかについて見解けんかいは分わかれている。学説がくせつには衆議院しゅうぎいん解散かいさんは日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうの場合ばあいに限かぎられるとする69条じょう限定げんてい説せつ（後述こうじゅつの69条じょう説せつが属ぞくする）と、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうに規定きていする場合ばあい以外いがいにも衆議院しゅうぎいん解散かいさんは認みとめられるとみる69条じょう非ひ限定げんてい説せつ（解散かいさん権けんの法的ほうてき根拠こんきょにより後述こうじゅつの7条じょう説せつ、制度せいど説せつ、行政ぎょうせい説せつに分わかれる）がある。もっとも、69条じょう説せつと行政ぎょうせい説せつはほとんど支持しじされておらず、7条じょう説せつと制度せいど説せつが対立たいりつしているのが実情じつじょうである。

実務じつむ上じょうは、天皇てんのうの国事こくじ行為こういに責任せきにんを負おう内閣ないかく（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい3条じょう参照さんしょう）が実質じっしつ的てき決定けってい権けんを有ゆうするとされ7条じょう説せつによっているとされる（1978年ねん：昭和しょうわ53年ねん衆議院しゅうぎいん先例せんれい集しゅう27）^[11]。判例はんれいでは、苫米地とまべち事件じけんにおける東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょ及および東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょの判決はんけつが7条じょう説せつをとったものとみられている（東京とうきょう地ち判ばん昭和しょうわ26年ねん10月がつ19日にち判決はんけつ、東京とうきょう高だか判ばん昭和しょうわ29年ねん9月がつ22日にち判決はんけつ）^[12]。なお、憲法けんぽう第だい7条じょうによる解散かいさんが憲法けんぽう慣習かんしゅうとなっているとみる学説がくせつもある^[10]。

解散かいさん権けんと学説がくせつ
学説がくせつ	概要がいよう	根拠こんきょ	批判ひはん
69条じょう説せつ	衆議院しゅうぎいん解散かいさんは日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうの場合ばあい（対抗たいこう的てき解散かいさん）に限かぎられ、内閣ないかくによる裁量さいりょう的てき解散かいさんは認みとめられないとする見解けんかい	日本国にっぽんこく憲法けんぽう69条じょうは衆議院しゅうぎいんによる内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎの効果こうかについて定さだめている。同どう条じょう中ちゅうの「衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされない限かぎり」という文言もんごんは、不信任ふしんにん決議けつぎに対たいする内閣ないかくの対抗たいこう手段しゅだんとしての解散かいさんのみを認みとめたものである。	解散かいさん権けんの民主みんしゅ的てき機能きのうの見地けんちから内閣ないかくの解散かいさん権けんを制限せいげんすべきでない^[13]。国政こくせいが国民こくみんの意思いしに従したがって行おこなわれることを原則げんそくとするのであれば国民こくみんの意思いしを問とうことにつき限定げんていすべき理由りゆうはない^[7]。憲法けんぽう69条じょうは衆議院しゅうぎいんで内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎが可決かけつあるいは内閣ないかく信任しんにん決議けつぎが否決ひけつされた場合ばあいの内閣ないかくの進退しんたいを定さだめた規定きていで、内閣ないかくを衆議院しゅうぎいん解散かいさんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんの主体しゅたいと定さだめた規定きていでもなければ解散かいさんを制限せいげんした規定きていでもない^[7]。
7条じょう説せつ	日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょうに規定きていする「内閣ないかくの助言じょげんと承認しょうにん」を解散かいさん権けんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんの根拠こんきょとして内閣ないかくによる裁量さいりょう的てき解散かいさんも認みとめる見解けんかい	国事こくじ行為こういとされている事項じこうのうち実質じっしつ的てき決定けってい権けんの帰属きぞくが憲法けんぽう上じょう明示めいじされていないものについては、国事こくじ行為こういに対たいする内閣ないかくの「助言じょげんと承認しょうにん」を根拠こんきょとして内閣ないかくに実質じっしつ的てきな権限けんげんがあるとみるべきである。	内閣ないかくの助言じょげんと承認しょうにんは形式けいしき的てきな宣せん示しめせ行為こういに対たいするものである^[7]。
制度せいど説せつ	日本国にっぽんこく憲法けんぽうは議院ぎいん内ない閣かく制せいを採用さいようしていることを解散かいさん権けんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんの根拠こんきょとして内閣ないかくによる裁量さいりょう的てき解散かいさんも認みとめる見解けんかい	議院ぎいん内ない閣かく制せいにおいては内閣ないかくに議会ぎかいの解散かいさん権けんを認みとめるのが通例つうれいである。	議院ぎいん内ない閣かく制せいにおいて内閣ないかくに解散かいさん権けんを認みとめるのが通例つうれいであるとしても、日本国にっぽんこく憲法けんぽうがそのような制度せいどを採用さいようしているか否ひかは、内閣ないかくの自由じゆうな解散かいさん権けんが根拠こんきょづけられたうえで言いえることで論理ろんりが逆転ぎゃくてんしておりトートロジーである^[7]^[14]。また、政府せいふの解散かいさん権けんが制約せいやくされている制度せいども生しょうじてきており、そもそも前提ぜんていとして議院ぎいん内ない閣かく制せいは自由じゆうな解散かいさん権けんをもつものとの根拠こんきょを示しめす必要ひつようがある^[14]。
行政ぎょうせい説せつ（65条じょう説せつ）	日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい65条じょうの「行政ぎょうせい権けん」に解散かいさん権けんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんを含ふくむとみて内閣ないかくによる裁量さいりょう的てき解散かいさんも認みとめる見解けんかい	行政ぎょうせいの定義ていぎを「国家こっかの権能けんのうのうち、立法りっぽうと司法しほうを除のぞいた残余ざんよの権能けんのう」とする考かんがえ方かた（控除こうじょ説せつ）を基もとに、衆議院しゅうぎいん解散かいさん権けんは立法りっぽうでも司法しほうでもないから行政ぎょうせいに属ぞくし、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい65条じょうにより内閣ないかくに帰属きぞくするとする	控除こうじょ説せつの前提ぜんていとする国家こっか作用さようは国民こくみん支配しはい作用さようでありそもそも解散かいさん権けんは含ふくまれていないはずである^[15]。

衆議院しゅうぎいん解散かいさんの実質じっしつ的てき決定けってい権けんの根拠こんきょについて学説がくせつには以上いじょうのように争あらそいがあるものの、少すくなくとも衆議院しゅうぎいん解散かいさんの形式けいしき的てき宣せん示しめせ権けんは憲法けんぽう上じょう天皇てんのうにある（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょう3号ごう）^[7]。日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょうと日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうとの関係かんけいであるが、先述せんじゅつのように憲法けんぽう上じょうは憲法けんぽう第だい69条じょうの内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あんの可決かけつ（内閣ないかく信任しんにん決議けつぎの否決ひけつ）の場合ばあいも含ふくめ、すべて衆議院しゅうぎいん解散かいさんは天皇てんのうの国事こくじ行為こういとして詔書しょうしょをもって行おこなわれ、この解散かいさん詔書しょうしょの直接ちょくせつの法的ほうてき根拠こんきょは日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょうにあり^[5]^[6]、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい69条じょうの条文じょうぶんの文言もんごんも「内閣ないかくは……衆議院しゅうぎいんを解散かいさんしない限かぎり」とはなっておらず「内閣ないかくは……衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされない限かぎり」となっているが、このことは日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょうにおいて天皇てんのうの衆議院しゅうぎいん解散かいさんについての形式けいしき的てき・名目めいもく的てき権能けんのうについて定さだめていることに対応たいおうしている^[8]。このようなことから、今日きょう、すべて解散かいさん詔書しょうしょの文言もんごんは「日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい七なな条じょうにより、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする。」との表現ひょうげんが確立かくりつしている^{[注ちゅう 3]}。1993年ねん（平成へいせい5年ねん）6月18日にちの嘘うそつき解散かいさんは内閣ないかく不信任ふしんにん案あんの可決かけつによる解散かいさんであったが、議長ぎちょうが慣例かんれいどおり「日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい七なな条じょうにより衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする」との詔書しょうしょを読よみ上あげたため、野党やとう席せきからは「69条じょうの解散かいさんではないのか」との抗議こうぎの怒声どせいが起おこり、万歳ばんざい三唱さんしょうがなかなか行おこなわれず、遅おくれて与党よとう席せきから「万歳ばんざい」の声こえがあがるというハプニングもあった。しかし、衆議院しゅうぎいん解散かいさんは詔書しょうしょをもって行おこなわれるが、この詔書しょうしょの直接ちょくせつの根拠こんきょは日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょうにあり、また、この文言もんごんは解散かいさんの理由りゆうを問とわないため、一般いっぱん的てきには、いかなる場合ばあいの衆議院しゅうぎいん解散かいさんについても適用てきようしうるものと解ほぐされている^[17]^[5]。

なお、先述せんじゅつのように、憲法けんぽう上じょうは内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あん可決かけつ（内閣ないかく信任しんにん決議けつぎ案あん否決ひけつ）の場合ばあいも含ふくめ、すべて衆議院しゅうぎいん解散かいさんは天皇てんのうの国事こくじ行為こういとして詔書しょうしょをもって行おこなわれ、この解散かいさん詔書しょうしょの直接ちょくせつの法的ほうてき根拠こんきょは日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょうにあるが^[5]^[6]、便宜べんぎ的てきな意味合いみあいで衆議院しゅうぎいん解散かいさんについて7条じょう解散かいさんと69条じょう解散かいさんとに分類ぶんるいして説明せつめいされることがある。ただ、「7条じょう解散かいさん」と「69条じょう解散かいさん」という分類ぶんるいは解散かいさん原因げんいんを基準きじゅんとするか詔書しょうしょの文言もんごんを基準きじゅんとするかによって一義的いちぎてきではなく文献ぶんけんによって異ことなった分類ぶんるいの仕方しかたがなされており、内閣ないかく不信任ふしんにん案あんが可決かけつ（信任しんにん決議けつぎ案あんが否決ひけつ）されて内閣ないかくが解散かいさんを選択せんたくした場合ばあいを69条じょう解散かいさんとしそれ以外いがいの場合ばあいについて7条じょう解散かいさんとして分類ぶんるいしている文献ぶんけん^[18]（この分類ぶんるいをとると69条じょう解散かいさんは現在げんざいまでに4例れいということになる）がある一方いっぽうで、詔書しょうしょの文言もんごんを基準きじゅんとして第だい2次じ吉田よしだ内閣ないかくにおける解散かいさん（後述こうじゅつの馴なれ合あい解散かいさん）が第だい69条じょうと第だい7条じょうに基もとづく解散かいさんで他たの解散かいさんはすべて7条じょう解散かいさんであると分類ぶんるいしている文献ぶんけん^[19]もある。

解散かいさん権けんを巡めぐる歴史れきし的てき経緯けいい[編集へんしゅう]

戦後せんご、明治めいじ憲法けんぽうを連合れんごう国軍こくぐん最高さいこう司令しれい官かん総そう司令しれい部ぶ（GHQ/SCAP）と協力きょうりょくして改正かいせいするにあたり、第だい1回かい目めの会合かいごうは1945年ねん10月、高木たかぎ八はち尺しゃく、松本まつもと重治しげはる、牛うし場じょう友彦ともひこが参加さんかして「マッカーサー・近衛このえ会談かいだん」として行おこなわれ、高木たかぎはこのとき駐日ちゅうにち大使たいしジョージ・アチソンから示しめされた12の指示しじ項目こうもくの中なかに、「国会こっかいの解散かいさん権けんは、政府せいふが政治せいじ的てきコントロールの手段しゅだんとして用もちいてはならないこと」を規定きていするよう指示しじがあったことをメモしているが、これらは事実じじつ上じょうは米国べいこく国務こくむ長官ちょうかんジェームズ・F・バーンズの指示しじであった^[20]。なお、国会こっかいの解散かいさん権けんは、国家こっか総動員そうどういん法案ほうあんが野党やとうから激はげしい批判ひはんを浴あびていた時期じきにも利用りようされており、近衛このえがこれによって同どう法案ほうあんを成立せいりつさせたという経緯けいいがあった。

GHQ施政しせい下かにあった1948年ねん（昭和しょうわ23年ねん）に衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする際さい、当時とうじの第だい2次じ吉田よしだ内閣ないかくは「69条じょう所定しょていの場合ばあいに限定げんていされない」という見解けんかいを採とっていたのに対たいし、野党やとうは「69条じょう所定しょていの場合ばあいに限定げんていされる」という見解けんかいを採とり、対立たいりつしていた。そのような中なかで、憲法けんぽう草案そうあんの策定さくていに携たずさわっていたGHQは衆議院しゅうぎいん解散かいさんを69条じょう所定しょていの場合ばあいに限定げんていする解釈かいしゃくを採とることが伝つたえられ、協議きょうぎの上うえ、野党やとうが内閣ないかく不信任ふしんにん案あんを提出ていしゅつして形式けいしき的てきにそれを衆議院しゅうぎいんで可決かけつし、69条じょう所定しょていの事由じゆうにより解散かいさんする方法ほうほうを採とった（馴なれ合あい解散かいさん）。この時ときの解散かいさん詔書しょうしょには「衆議院しゅうぎいんにおいて、内閣ないかく不信任ふしんにんの決議けつぎ案あんを可決かけつした。よって内閣ないかくの助言じょげんと承認しょうにんにより、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい六ろく十じゅう九きゅう条じょう及および第だい七なな条じょうにより、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする。」と記載きさいされたが、この文ぶんは内閣ないかくの事務じむ当局とうきょくがGHQの意向いこうを察さっして作成さくせいしたものといわれる^[12]。

1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん）頃ごろになると学界がっかいでは解散かいさん権けんをめぐる論争ろんそうが活発かっぱつ化かしたが、この頃ころ、既すでに政界せいかいでは野党やとう側がわが早期そうき解散かいさんへと主張しゅちょうを転換てんかんしており憲法けんぽう第だい69条じょうに解散かいさんを限定げんていする見方みかたは大おおきく後退こうたいしていた^[12]^[21]。

実際じっさい、1952年ねん（昭和しょうわ27年ねん）に第だい2回かいの解散かいさんをしたときは第だい69条じょう所定しょていの場合ばあいではなかった。この解散かいさんで衆議院しゅうぎいん議員ぎいんの地位ちいを失うしなった苫米地とまべち義三よしぞうは解散かいさんの無効むこうを主張しゅちょうし、歳費さいひ請求せいきゅう訴訟そしょうを提起ていきしたが、その上告じょうこく審しんにおいて最高裁判所さいこうさいばんしょは、いわゆる統治とうち行為こうい論ろんを採用さいようし、高度こうどに政治せいじ性せいのある国家こっか行為こういについては法律ほうりつ上じょうの判断はんだんが可能かのうであっても裁判所さいばんしょの審査しんさ権けんの外そとにあり、その判断はんだんは政治せいじ部門ぶもんや国民こくみんの判断はんだんに委ゆだねられるとして、違憲いけん審査しんさをせずに上告じょうこくを棄却ききゃくした（苫米地とまべち事件じけん。裁判さいばん長ちょうは長官ちょうかん田中たなか耕こう太郎たろう）。この第だい2回かい解散かいさんの際さいの詔書しょうしょには「日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい七なな条じょうにより、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする。」とあり、以後いごは、内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あんが可決かけつされた場合ばあいであるか否ひかにかかわらず、この方式ほうしきによることが確立かくりつするに至いたった。

このように、解散かいさんを第だい69条じょう所定しょていの場合ばあいに限定げんていする見解けんかいは、実務じつむ上じょうは現在げんざいでは見みられない。もっとも、内閣ないかくに自由じゆうな解散かいさん権けんがあるとしても、総そう選挙せんきょを通とおして民意みんいを問とう制度せいどである以上いじょう、それに相応ふさわしい理由りゆうがなければならないと理解りかいされており、国会こっかい法ほう第だい74条じょうに基もとづく内閣ないかくに対たいする質問しつもんに対たいし、内閣ないかくから国会こっかいに提出ていしゅつされた答弁とうべん書しょでは、新あらたに民意みんいを問とうことの要よう否ひを考慮こうりょして、内閣ないかくがその政治せいじ的てき責任せきにんにおいて決けっすべきものとの認識にんしきが示しめされている。

保利ほり茂しげるが衆議院しゅうぎいん議長ぎちょう在職ざいしょく中ちゅう時代じだいに衆議院しゅうぎいん法制ほうせい局きょくの意見いけんを参考さんこうに「解散かいさん権けんについて」という「（現行げんこう憲法けんぽう下かにおける解散かいさんは）内閣ないかくに解散かいさん権けんがあるといっても、明治めいじ憲法けんぽう下かのように内閣ないかくの都合つごうや判断はんだんで一方いっぽう的てきに衆議院しゅうぎいんを解散かいさんできると考かんがえるのは現行げんこう憲法けんぽうの精神せいしんを理解りかいしていないもので適当てきとうではない」として解散かいさん権けんの濫用らんようを戒いましめている^[22]。

憲法けんぽう学者がくしゃの佐藤さとう功いさおは保利ほり見解けんかいについて次つぎの四よっつの場合ばあいを限定げんてい的てきに列挙れっきょして七なな条じょう解散かいさんはこれらに限かぎられるべきとする^[22]。

第だい69条じょうにいう不信任ふしんにん決議けつぎ可決かけつ又または信任しんにん決議けつぎ否決ひけつという形かたちではなくても、予算よさん案あんや内閣ないかくの重要じゅうよう条件じょうけんが否決ひけつされたり審議しんぎ未了みりょうとなったりして、実質じっしつ的てきに不信任ふしんにん決議けつぎ可決かけつ等とうと同一どういつ視ししてもよい場合ばあい。
長期ちょうきの審議しんぎストップ等とうで、国会こっかいの機能きのうが麻痺まひした場合ばあい。
党利とうり党略とうりゃくで不信任ふしんにん決議けつぎ案あんなどが提出ていしゅつされないままで、国会こっかい・国政こくせいが渋滞じゅうたいを続つづけた場合ばあい。
前回ぜんかいの総そう選挙せんきょの時ときに争点そうてんとはなっていなかった重大じゅうだい案件あんけんが提起ていきされ、あらためて国民こくみんの判断はんだんを求もとめるのが当然とうぜんとされる場合ばあい。

解散かいさん権けんの行使こうし[編集へんしゅう]

内閣ないかくの衆議院しゅうぎいん解散かいさん決定けってい権けんは閣議かくぎ決定けっていに基もとづいて行使こうしされる。

政府せいふ見解けんかいによれば、国会こっかい閉会へいかい中ちゅうでも衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは可能かのうとされているが、衆議院しゅうぎいんの意思いしが国民こくみんの意思いしと合致がっちしているかを問とうという衆議院しゅうぎいん解散かいさんの制度せいどからみて国会こっかい開会かいかい中ちゅうの解散かいさんが原則げんそくとされ、現げん憲法けんぽう下かにおいて閉会へいかい中ちゅうに衆議院しゅうぎいん解散かいさんとなった例れいはない^[17]^[23]。

また、政府せいふ見解けんかいによれば、任期にんき満了まんりょう当日とうじつまで衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは可能かのうである^[24]。このことにより、任期にんき満了まんりょうより最大さいだい40日間にちかん、投票とうひょう日びを先さき延のばしできることになる。さらに、任期にんき満了まんりょうの総そう選挙せんきょが公示こうじされても、投票とうひょう前日ぜんじつまでは解散かいさんが可能かのうとなっている^[25]。この場合ばあい、任期にんき満了まんりょう選挙せんきょの公示こうじは無効むこうとなり、改あらためて解散かいさん総そう選挙せんきょが公示こうじされることになる。

閣議かくぎ決定けってい[編集へんしゅう]

衆議院しゅうぎいん解散かいさんを決定けっていする権限けんげんは内閣ないかくに属ぞくする。したがって、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは閣議かくぎを開ひらき、「今般こんぱん、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんすることに決けっしたので、国務大臣こくむだいじんの諸君しょくんの賛成さんせいを賜たまわりたい」と全ぜん閣僚かくりょうに対たいして衆議院しゅうぎいん解散かいさんを諮はかり、内閣ないかくの総意そういを得えた上うえで、衆議院しゅうぎいん解散かいさんを行おこなうための閣議かくぎ書しょに、全すべての国務大臣こくむだいじんの署名しょめいを集あつめなければならない。しかし、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい68条じょう第だい2項こうは「内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは、任意にんいに国務大臣こくむだいじんを罷免ひめんすることができる」と定さだめており、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは「任意にんいに」つまり時期じきや理由りゆうを問とわず法的ほうてきには何なんらの制約せいやくなく自由じゆうな裁量さいりょうによって国務大臣こくむだいじんを罷免ひめんすることができる^[26]^[27]。

したがって、衆議院しゅうぎいん解散かいさんを行おこなうための閣議かくぎ書しょへの署名しょめいを国務大臣こくむだいじんが拒否きょひする場合ばあい、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは当該とうがい大臣だいじんを罷免ひめんして自身じしんが兼任けんにんするか他たの大臣だいじんに兼任けんにんさせることで閣議かくぎ決定けっていを行おこなうことができる。先例せんれいとしては2005年ねん（平成へいせい17年ねん）の『郵政ゆうせい解散かいさん』の際さいに小泉こいずみ純一郎じゅんいちろう内閣ないかく総理そうり大臣だいじんが、署名しょめいを拒否きょひした島村しまむら宜伸よしのぶ農林のうりん水産すいさん大臣だいじんを罷免ひめんしたのが唯一ゆいいつの例れいである^[28]。

極端きょくたんに言いえば、内閣ないかく総理そうり大臣だいじん一いち人にんが他たの全ぜん大臣だいじんを兼務けんむする一人ひとり内閣ないかくで閣議かくぎ決定けっていすることも可能かのうである。内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは国務大臣こくむだいじんの罷免ひめん権けんを行使こうしすることによって最終さいしゅう的てきには解散かいさん権けんを完遂かんすいできることから事実じじつ上じょう、解散かいさん権けんは内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの専権せんけん事項じこうとされている^{[注ちゅう 4]}。もっとも、閣議かくぎの段階だんかいまで至いたって首相しゅしょうが反対はんたい閣僚かくりょうの罷免ひめんに踏ふみ切きれず解散かいさんを断念だんねんした三木みき内閣ないかくのような例れいもあり、法ほう手続てつづき的てきにはともかく、政治せいじ的てきには閣僚かくりょうによる反対はんたいに対抗たいこうしかねることもある。

詔書しょうしょの作成さくせい[編集へんしゅう]

衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは天皇てんのうの国事こくじ行為こういであるため（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい7条じょう第だい3号ごう）、閣議かくぎ書しょが完成かんせいすると、内閣ないかく官房かんぼうの内閣ないかく総務そうむ官かん（中央ちゅうおう省庁しょうちょう改編かいへん前まえの「首席しゅせき内ない閣かく参事官さんじかん」にあたる）が皇居こうきょ宮殿きゅうでん、又または御所ごしょに赴おもむいて奏上そうじょうし、詔書しょうしょの原案げんあんに天皇てんのうの自署じしょ（署名しょめいした天皇てんのうの名なを「御名ぎょめい」という）、御璽ぎょじの押捺おうなつを受うける。

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下したの解散かいさん詔書しょうしょは「朕ちん帝国ていこく憲法けんぽう第だい七なな條じょうニ依よリ衆議院しゅうぎいんノ解散かいさんヲ命いのちス」と文語ぶんご体たいの命令めいれい調ちょうで表現ひょうげんされていたが、日本国にっぽんこく憲法けんぽう下かでは「日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい七なな条じょうにより、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする」と口語文こうごぶんの平仮名ひらがな書がきに改あらためられた。

詔書しょうしょは、内閣ないかく総務そうむ官かんが内閣ないかく官房かんぼうに持もち帰かえった後のち、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんが詔書しょうしょに副署ふくしょし、内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかんを通つうじて衆議院しゅうぎいん議長ぎちょうに伝達でんたつされることになる。この内閣ないかく総理そうり大臣だいじんによる「副署ふくしょ」は日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい74条じょうに規定きていする「署名しょめい」や「連署れんしょ」とは異ことなるものであり^[29]、天皇てんのうの国事こくじ行為こういにおいて内閣ないかくによる助言じょげんと承認しょうにんがあったことを内閣ないかく総理そうり大臣だいじんが内閣ないかくを代表だいひょうして確認かくにんを行おこなうものであり慣行かんこうとして適当てきとうなものであると評価ひょうかされている^[29]。なお、衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは内閣ないかくの助言じょげんと承認しょうにんに基もとづく天皇てんのうの国事こくじ行為こういであるので、内閣ないかく総理そうり大臣だいじん以外いがいの他ほかの国務大臣こくむだいじんも天皇てんのうの国事こくじ行為こうい（衆議院しゅうぎいんの解散かいさん）に関かんする閣議かくぎ決定けってい書しょには署名しょめいするが、解散かいさん詔書しょうしょについては署名しょめい・副署ふくしょを行おこなうのはそれぞれ天皇てんのう及および内閣ないかく総理そうり大臣だいじんのみであって、他たの国務大臣こくむだいじんが解散かいさん詔書しょうしょに署名しょめいすることはない。解散かいさん詔書しょうしょの原本げんぽんは、公文こうぶん書しょとして内閣ないかく官房かんぼうで保管ほかんされる。衆議院しゅうぎいん議長ぎちょうが本ほん会議かいぎ場じょうで読よみ上あげるものは、詔書しょうしょそのものではなく、詔書しょうしょの「写うつし」（天皇てんのうの署名しょめい、御璽ぎょじの押捺おうなつが「御名ぎょめい御璽ぎょじ」と書かき換かえられている）である。詔書しょうしょの「写うつし」は、衆議院しゅうぎいん議長ぎちょうのあて名なが書かかれた白色はくしょくの封筒ふうとうに、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんからの伝達でんたつ書しょとともに収おさめられる。

解散かいさんの伝達でんたつ[編集へんしゅう]

現行げんこう憲法けんぽう下かにおける衆議院しゅうぎいん解散かいさんはいずれも国会こっかい会期かいき中ちゅうに行おこなわれているが、その伝達でんたつについて先例せんれいとしては本ほん会議かいぎにおいて行おこなわれた例れい（本ほん会議かいぎ場じょうにおいて議長ぎちょうが詔書しょうしょを朗読ろうどく）と会議かいぎのない日ひなど本ほん会議かいぎが開ひらかれていないときに行おこなわれた例れい（衆議院しゅうぎいん議長ぎちょう応接おうせつ室しつにおいて議長ぎちょうが詔書しょうしょを朗読ろうどく）がある^[11]^[17]。なお、詔書しょうしょは解散かいさんの伝達でんたつと同時どうじに公布こうふされている^[11]^[30]。解散かいさんの伝達でんたつには紫むらさきの袱紗ふくさ（ふくさ）が用もちいられる。このことから衆議院しゅうぎいん解散かいさんのことを「紫むらさきの袱紗ふくさ」と称しょうすることもある^[31]。

先述せんじゅつされているように衆議院しゅうぎいん議長ぎちょうに伝達でんたつされるのは詔書しょうしょの写うつしであり、議長ぎちょうは詔書しょうしょの写うつしを用もちいて詔書しょうしょの内容ないようを朗読ろうどくすることになる。

本ほん会議かいぎにおける解散かいさん[編集へんしゅう]

解散かいさんの伝達でんたつは本ほん会議かいぎにおいて行おこなわれる場合ばあいがほとんどである。一連いちれんの官邸かんていでの手続てつづきを終おえた詔書しょうしょの写うつしと内閣ないかく総理そうり大臣だいじんからの伝達でんたつ書しょは、いわゆる「紫むらさきの袱紗ふくさ」に包つつまれて内閣ないかく総務そうむ官かんにより国会こっかい内ないに運はこばれ、議長ぎちょう席せき後方こうほうの控ひかえ室しつ（議長ぎちょう応接おうせつ室しつ）にて待機たいきした後のち、内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかんに手渡てわたされる。内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかんは、議長ぎちょう席せき後方こうほうの扉とびらから詔書しょうしょの写うつしと伝達でんたつ書しょを持もって入場にゅうじょうし、衆議院しゅうぎいん事務じむ総長そうちょうに手渡てわたす。事務じむ総長そうちょうは中身なかみを確認かくにんした後のち、次第しだい書しょ（朱色しゅいろのト書とがきと黒文字くろもじの台詞せりふが書かいてあるいわば「台本だいほん」）を付つけて衆議院しゅうぎいん議長ぎちょうに渡わたす。衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは一切いっさいの議事ぎじ・動議どうぎに優先ゆうせんして扱あつかわれ、議長ぎちょうは議事ぎじを直ただちに中止ちゅうしして詔書しょうしょの朗読ろうどくを行おこなう^[11]^[17]^[30]。

議長ぎちょうが「ただいま内閣ないかく総理そうり大臣だいじんから、詔みことのり書しょが発はっせられた旨むね伝つたえられましたから、朗読ろうどくいたします」と発言はつげんすると、議長ぎちょう及および全ぜん議員ぎいん、国会こっかい職員しょくいんが起立きりつする（総員そういん起立きりつ）。

議長ぎちょうが「日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい七なな条じょうにより、衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする。」と詔書しょうしょの文章ぶんしょうを読よみ上あげて衆議院しゅうぎいんの解散かいさんを宣言せんげんする^{[注ちゅう 5]}^{[注ちゅう 7]}。

この瞬間しゅんかんに正せい副ふく議長ぎちょうも含ふくめ、全ぜん衆議院しゅうぎいん議員ぎいんが失職しっしょくする。

詔書しょうしょが朗読ろうどくされた直後ちょくご、衆議院しゅうぎいん議員ぎいんが万歳ばんざい三唱さんしょうすることが慣例かんれいとなっている^{[注ちゅう 8]}。万歳ばんざい三唱さんしょうの由来ゆらいは天皇てんのうの国事こくじ行為こういに対たいする万歳ばんざい説せつや前祝まえいわい説せつ等とう諸説しょせつあり定さだかではないが帝国ていこく議会ぎかいからの慣例かんれいとして続つづく慣習かんしゅうである（#大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下かの衆議院しゅうぎいん解散かいさん）。

議長ぎちょうは、一いち呼吸こきゅう置おいた後のち、無言むごんのまま議場ぎじょうを後のちにする。普通ふつうの本ほん会議かいぎなら「この際さい、暫時ざんじ休憩きゅうけい致いたします」あるいは「本日ほんじつはこれにて散会さんかい致いたします」（当日とうじつの議事ぎじが全部ぜんぶ審議しんぎされ議決ぎけつされ終おわった場合ばあい）と宣言せんげんするところだが（この宣言せんげんがないと議員ぎいん達たちは議場ぎじょうを退出たいしゅつ出来できない）、解散かいさんと同時どうじに議長ぎちょうも失職しっしょくするため、それらを宣言せんげんする資格しかくが消滅しょうめつすると解ほぐされているからである^{[注ちゅう 9]}。解散かいさん後ごに議場ぎじょうから退出たいしゅつする失職しっしょくした「前まえ」議員ぎいんたちに対たいしても、衛視えいしが敬礼けいれいをしなくなる。

議長ぎちょう応接おうせつ室しつにおける解散かいさん[編集へんしゅう]

先例せんれいでは、会議かいぎの開ひらかれない日ひなど本ほん会議かいぎが開ひらかれていない場合ばあいには衆議院しゅうぎいん議長ぎちょう応接おうせつ室しつに各かく会派かいはの代表だいひょう議員ぎいんが参集さんしゅうされ詔書しょうしょを衆議院しゅうぎいん議長ぎちょうが朗読ろうどくして解散かいさんとなり、各かく議員ぎいんに対たいしては衆議院しゅうぎいん公報こうほうをもって通知つうちすることになっている（昭和しょうわ53年ねん衆議院しゅうぎいん先例せんれい集しゅう28ほか）。

なお2023年ねん末すえ時点じてんでは、1986年ねんの死しんだふり解散かいさんが議長ぎちょう応接おうせつ室しつにおける最後さいごの衆議院しゅうぎいん解散かいさんである^[30]^[11]^[17]。

解散かいさんの効果こうかとその後ごの手続てつづき[編集へんしゅう]

全すべての衆議院しゅうぎいん議員ぎいんは、解散かいさんと同時どうじに失職しっしょくする。

解散かいさんの本体ほんたい的てき効果こうかである。衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは全すべての議事ぎじ日程にってい及および動議どうぎに優先ゆうせんするため、内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あんが提出ていしゅつされていたとしても、解散かいさん詔書しょうしょの文章ぶんしょうが朗読ろうどくされた時点じてんで廃案はいあんとなる^{[注ちゅう 10]}。衆議院しゅうぎいん解散かいさんののち内閣ないかくは政府せいふ声明せいめいあるいは内閣ないかく総理そうり大臣だいじん談話だんわの形式けいしきで解散かいさん理由りゆうを明あきらかにすることが慣例かんれいとなっている（昭和しょうわ53年ねん衆議院しゅうぎいん先例せんれい集しゅう28）^[11]^[17]。

衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされたときは内閣ないかく総理そうり大臣だいじんから参議院さんぎいん議長ぎちょうに詔書しょうしょの写うつしをもってその旨むねが通知つうちされる^[11]^[6]。衆議院しゅうぎいん解散かいさんが内閣ないかく総理そうり大臣だいじんから通知つうちされた場合ばあい、参議院さんぎいんが会議かいぎ中ちゅうでないときは参議院さんぎいん議長ぎちょうは各かく会派かいはにその旨むねを通知つうちする^[6]。過去かこには参議院さんぎいんの本ほん会議かいぎが休憩きゅうけい中ちゅうに衆議院しゅうぎいんが解散かいさんとなり、再開さいかいされなかったケースもある。なお、現在げんざいに至いたるまで参議院さんぎいんの会議かいぎ中ちゅうに参議院さんぎいん議長ぎちょうが内閣ないかく総理そうり大臣だいじんから解散かいさんの通知つうちを受うけた例れいはない^[6]（いずれも参議院さんぎいんが会議かいぎ中ちゅうでないときに通知つうちされている）。衆議院しゅうぎいんの解散かいさんと同時どうじに参議院さんぎいんは自動的じどうてきに閉会へいかいになる（衆参しゅうさん同時どうじ活動かつどうの原則げんそく、日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい54条じょう第だい2項こう本文ほんぶん）。審議しんぎ中ちゅうの議案ぎあんは、解散かいさんと同時どうじにすべて廃案はいあんとなる（会期かいき不ふ継続けいぞくの原則げんそく、国会こっかい法ほう第だい68条じょう本文ほんぶん）。なお、衆議院しゅうぎいん解散かいさん後ご、内閣ないかくは国くにに緊急きんきゅうの必要ひつようがあるときは参議院さんぎいんの緊急きんきゅう集会しゅうかいを求もとめることができる（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい54条じょう第だい2項こう但書ただしがき）。

衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされたときは解散かいさん日びから40日にち以内いないに衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょを行おこない、その選挙せんきょの日ひから30日にち以内いないに特別とくべつ国会こっかいを召集しょうしゅうしなければならない（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい54条じょう第だい1項こう、公職こうしょく選挙せんきょ法ほう第だい31条じょう第だい3項こう）。特別とくべつ国会こっかいの召集しょうしゅうがあったときは内閣ないかくは総そう辞職じしょくしなければならず（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい70条じょう）、国会こっかいは改あらためて内閣ないかく総理そうり大臣だいじんを指名しめいする（日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい67条じょう1項こう）。つまり衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょによって衆議院しゅうぎいんは再さい構成こうせいされることとなり、その意思いしに基もとづいて内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの指名しめい・組閣そかくが行おこなわれる（首相しゅしょう指名しめいにおける衆議院しゅうぎいんの優越ゆうえつについて日本国にっぽんこく憲法けんぽう第だい67条じょう第だい2項こう）。

解散かいさん権けんの限界げんかい[編集へんしゅう]

憲法けんぽう上じょう、内閣ないかくの衆議院しゅうぎいん解散かいさん権けんを制約せいやくする明白めいはくな規定きていはない。しかし、衆院しゅういん選せんの一票いっぴょうの格差かくさや在外ざいがい選挙せんきょなどの問題もんだいで最終さいしゅう審しんで違憲いけん判決はんけつ（または違憲いけん状態じょうたい）が確定かくていした場合ばあい、違憲いけん状態じょうたいが明白めいはくのまま総そう選挙せんきょをしても、その後ごに最高裁さいこうさいで総そう選挙せんきょについて無効むこうとする事態じたいが生しょうじうることから解散かいさん権けんの行使こうしについても政治せいじ上じょう問題もんだいとなる。

衆議院しゅうぎいん解散かいさんそのものについては内閣ないかくの裁量さいりょうに属ぞくする。最高裁さいこうさいも解散かいさん権けんの行使こうしそのものについては「衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは、極きわめて政治せいじ性せいの高たかい国家こっか統治とうちの基本きほんに関かんする行為こういであつて、かくのごとき行為こういについて、その法律ほうりつ上じょうの有効ゆうこう無効むこうを審査しんさすることは司法しほう裁判所さいばんしょの権限けんげんの外そとにありと解かいすべきことは既すでに前段ぜんだん説示せつじするところによつてあきらかである。そして、この理りは、本件ほんけんのごとく、当該とうがい衆議院しゅうぎいんの解散かいさんが訴訟そしょうの前提ぜんてい問題もんだいとして主張しゅちょうされている場合ばあいにおいても同様どうようであつて、ひとしく裁判所さいばんしょの審査しんさ権けんの外そとにありといわなければならない」（最高裁判所さいこうさいばんしょ大だい法廷ほうてい昭和しょうわ35年ねん6月がつ8日にち判決はんけつ）としている。政府せいふも違憲いけん判決はんけつ（または違憲いけん状態じょうたい）や震災しんさいは衆議院しゅうぎいん解散かいさんを制約せいやくしないと答弁とうべんしている^[37]。ただ、一票いっぴょうの格差かくさなどの問題もんだいで違憲いけん状態じょうたいが続つづく場合ばあいにも、解散かいさん権けんそのものが制約せいやくされるわけではないが、違憲いけん状態じょうたいのまま衆院しゅういん選せんが実施じっしされれば司法しほうにおいて選挙せんきょについて無効むこうの判断はんだんが出でる可能かのう性せいがあるため、事実じじつ上じょう、首相しゅしょうの解散かいさん権けんを制約せいやくする可能かのう性せいがあることが指摘してきされている^[38]。

また、政治せいじ的てきには当初とうしょ予算よさん案あん編成へんせい・審議しんぎの時期じきにあたる2月がつから3月がつや、景気けいき悪化あっか等とうによって補正ほせい予算よさん案あん編成へんせいなど景気けいき対策たいさくを行おこなわなければならない場合ばあいや巨大きょだい災害さいがいで選挙せんきょが行おこなえない被災ひさい地ちが存在そんざいする場合ばあいなども衆議院しゅうぎいん解散かいさんを控ひかえるべきとされている。

天皇てんのうが外遊がいゆう並ならびに病気びょうき療養りょうよう中ちゅうによる不在ふざいで国事こくじ行為こういができなくても、国事こくじ行為こうい臨時りんじ代行だいこうで委任いにんを受うけた皇族こうぞく（皇太子こうたいし・皇嗣こうしなど）により解散かいさんすることは可能かのうだが、現行げんこう憲法けんぽう下かで行おこなわれたことは未いまだ一いち度どもない。2009年ねん7月がつの解散かいさん政局せいきょくにおいて天皇てんのうの不在ふざい時じに解散かいさんは避さけるべきとの与党よとう内うちの意見いけん^[39]に対たいして、麻生あそう太郎たろう首相しゅしょうは皇太子こうたいしの代行だいこうで天皇てんのう不在ふざい時じでも解散かいさんが可能かのうとする見解けんかいを示しめしていた^[40]^[41]。

また、内閣ないかく総理そうり大臣だいじん臨時りんじ代理だいりが衆議院しゅうぎいん解散かいさんをすることについて、内閣ないかく法制ほうせい局きょくは「内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの一身いっしん専属せんぞく的てきな権能けんのうに属ぞくするためできない」と見解けんかいを述のべている^[42]。

解散かいさん権けんをめぐっては憲法けんぽう改正かいせい等とうによりに制限せいげんを設もうけるべきとの議論ぎろんがある。日本にっぽんでは立憲りっけん民主党みんしゅとうが内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎ案あんが可決かけつされた時ときに限定げんていする改憲かいけんの検討けんとうを提案ていあんしているが^[43]、同どう党とうも含ふくめて政治せいじ状況じょうきょうにより野党やとう側がわから任期にんき満了まんりょう前まえに衆議院しゅうぎいん解散かいさんに追おい込こむ主張しゅちょうが出でることもある^[44]。同おなじ立憲りっけん君主くんしゅ制せいと議院ぎいん内ない閣かく制せいであるイギリスでは2011年ねんに議会ぎかい任期にんき固定こてい法ほうが成立せいりつし、2022年ねんに議会ぎかい解散かいさん・召集しょうしゅう法ほうが成立せいりつするまでは、庶民しょみん院いんの議決ぎけつが無ないと庶民しょみん院いんの解散かいさん権けんが制限せいげんされたが、2011年ねんから2022年ねんの間あいだにイギリスの欧州おうしゅう連合れんごう離脱りだつ（ブレグジット：Brexit）をめぐってその意味いみが問とわれるようになった^[45]。イギリスの欧州おうしゅう連合れんごう離脱りだつの議論ぎろんでは、ボリス・ジョンソン首相しゅしょうが無謀むぼうな計画けいかくを解散かいさん権けんをちらつかせて推おし進すすめることへの歯止はどめとして機能きのうしたという分析ぶんせきがある一方いっぽう、解散かいさん総そう選挙せんきょによって首相しゅしょうの意思いしで民意みんいを問とうことができなくなり、国民こくみん投票とうひょうから政界せいかいや議会ぎかいでの混乱こんらんが解消かいしょうできない政治せいじのレームダック化かが問題もんだい点てんとして指摘してきされた（結果けっか的てきに3回かいの解散かいさん総そう選挙せんきょ構想こうそうが議会ぎかいで否決ひけつされた末すえに同意どういなき離脱りだつを延期えんきさせる案あんが議会ぎかいで可決かけつ成立せいりつした後のちで4回かい目めの解散かいさん総そう選挙せんきょ構想こうそうが議会ぎかいで可決かけつされるという経過けいかを辿たどった）^[45]。日本にっぽんにおいても解散かいさん権けんを制限せいげん的てきに捉とらえる見解けんかいがある一方いっぽう、前回ぜんかいの選挙せんきょの際さいに直接ちょくせつ争点そうてんにならなかった重大じゅうだいな政治せいじ問題もんだいが生しょうじた場合ばあいには任期にんき満了まんりょう前まえに解散かいさん総そう選挙せんきょにより国民こくみんの意思いしを問とう必要ひつようがあるという指摘してきもある^[46]。これは政治せいじ的てき問題もんだいにより国会こっかいでの統一とういつ的てき意思いし形成けいせいに支障ししょうを生しょうじている場合ばあいなどに、内閣ないかくが責任せきにんある政策せいさく形成けいせいを維持いじするため、このような場合ばあいに解散かいさんによって国民こくみんの意思いしを問とうことは国民こくみん主権しゅけんの趣旨しゅしに沿そうとともに内閣ないかくによる責任せきにんある政策せいさく形成けいせいを制度せいど上じょう可能かのうにするとの見解けんかいである^[47]。なお、2017年ねん時点じてんで経済けいざい協力きょうりょく開発かいはつ機構きこう（OECD）加盟かめい35カ国かこくで政権せいけんの自由じゆう裁量さいりょうによる議会ぎかい解散かいさんが一般いっぱん化かしているのは日本にっぽんを含ふくめカナダ、デンマーク、ギリシャの4カ国かこくである^[48]。

解散かいさん権けんと政局せいきょく[編集へんしゅう]

衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは、事実じじつ上じょうの解散かいさん権限けんげんを持もっている内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの伝家でんかの宝刀ほうとうと呼よばれる。

内閣ないかく・与党よとうの支持しじ率りつ、及および選挙せんきょの勝算しょうさんを考慮こうりょした結果けっかとして、国会こっかい閉会へいかい時ときに衆議院しゅうぎいんが解散かいさんされることが適切てきせつだと政治せいじ的てきに判断はんだんされる場合ばあいには、臨時りんじ国会こっかいを召集しょうしゅうし、その冒頭ぼうとうで衆議院しゅうぎいんを解散かいさんする（召集しょうしゅう時じ解散かいさん、冒頭ぼうとう解散かいさん）。

佐藤さとう栄作えいさくは「内閣ないかく改造かいぞうをするほど総理そうりの権力けんりょくは下さがり、解散かいさんをするほど上あがる」と、小泉こいずみ純一郎じゅんいちろうは「首相しゅしょうの権力けんりょくの最大さいだいの源泉げんせんは解散かいさん権けんと人事じんじ権けん」と語かたり、衆議院しゅうぎいん解散かいさん権けんは内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの強大きょうだいなる権力けんりょくの源泉げんせんとも言いえる。ただ、首相しゅしょうの権力けんりょく基盤きばんが弱よわい場合ばあいには、解散かいさん権けんが党内とうない抗こう争そうなどによって抑制よくせいされるケースもあり、解散かいさん権けんを行使こうしできなかった内閣ないかく総理そうり大臣だいじんも存在そんざいする（三木みきおろし、海部かいふおろし、倒閣とうかくを参照さんしょう）。

衆議院しゅうぎいん解散かいさんしそうな政局せいきょくのことを「解散かいさん政局せいきょく」と呼よんだり、風ふうに例たとえて「解散かいさん風ふう^[49]」と呼よんだりすることがある。加藤かとう紘一こういちは「解散かいさんの時期じきに関かんして政治せいじ家かは権力けんりょくから遠とおざければ遠とおいほど疑心暗鬼ぎしんあんきになり、近ちかければ近ちかいほど操作そうさしたくなる」と語かたっており、政界せいかいでも「内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは、衆議院しゅうぎいん解散かいさんと金利きんりについては嘘うそを言いってもいい」と表現ひょうげんされるほど、さまざまな政局せいきょくに応おうじて、衆議院しゅうぎいん解散かいさん権けんが牽制けんせいに使つかわれたり、不意打ふいうちに行使こうしされたりしても「当然とうぜん」という認識にんしきが浸透しんとうしている。2012年ねん（平成へいせい24年ねん）11月14日にちに、野田のだ佳彦よしひこは首相しゅしょうとして党首とうしゅ討論とうろんの中なかで衆議院しゅうぎいんの解散かいさん日び（11月16日にち）を明言めいげんしたが、これは異例いれいのことである^[50]（党内とうないでも事前じぜんに知しっていたのは岡田おかだ克也かつや副ふく総理そうり、藤村ふじむら修おさむ内閣ないかく官房かんぼう長官ちょうかんらごく少数しょうすうだったと言いわれ、輿石東こしいしあずま幹事かんじ長ちょうですら当日とうじつ聞きかされたという^[51]）。第だい100代だい内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの岸田きしだ文雄ふみおは2021年ねん 10月4日にちに首相しゅしょうに就任しゅうにんし、同日どうじつの記者きしゃ会見かいけんで「今月こんげつ14日にちに衆議院しゅうぎいんを解散かいさんし、19日にちに公示こうじ、31日にちに総そう選挙せんきょを行おこなう」と表明ひょうめい。解散かいさんを行おこなわなくても総そう選挙せんきょが行おこなわれる予定よてい（任期にんき満了まんりょうが10月21日にち）であったが、任期にんき満了まんりょうとなる1週間しゅうかん前まえに解散かいさんを行おこなった。

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下かの衆議院しゅうぎいん解散かいさん[編集へんしゅう]

解散かいさん権けんの行使こうし[編集へんしゅう]

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽうの下したでの衆議院しゅうぎいんの解散かいさんは天皇てんのうの大権たいけんに属ぞくし（第だい7条じょう）、国務大臣こくむだいじんの輔弼ほひつに基もとづき（第だい55条じょう第だい1項こう）権限けんげんを行使こうしした。このため、解散かいさんを現実げんじつ的てきに決定けっていしたのは内閣ないかくであった。解散かいさん詔書しょうしょの文面ぶんめんは前述ぜんじゅつのように「朕ちん帝国ていこく憲法けんぽう第だい七なな条じょうニ依よリ衆議院しゅうぎいんノ解散かいさんヲ命いのちス」とされていた。

衆議院しゅうぎいんが解散かいさんを命めいじられたときは貴族きぞく院いんは同時どうじに停会ていかいとなる（第だい44条じょう後段こうだん）。通常つうじょうは議院ぎいんが停会ていかい後ごに再ふたたび開会かいかいしたときは議事ぎじは継続けいぞくすることとされていたが（議院ぎいん法ほう第だい33条じょう第だい2項こう）、衆議院しゅうぎいんの解散かいさんによって貴族きぞく院いんに停会ていかいが命めいじられたときは議事ぎじは継続けいぞくしないものとされていた（議院ぎいん法ほう第だい34条じょう）。

衆議院しゅうぎいん解散かいさんを命めいじられたときは勅命ちょくめいをもって衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょが行おこなわれ解散かいさんの日ひより5箇月かげつ以内いないに召集しょうしゅうすることとされた（第だい45条じょう）。なお、総そう選挙せんきょ後ごに召集しょうしゅうされた帝国ていこく議会ぎかいで内閣ないかく総そう辞職じしょくをする規定きていはなかった。

なお、現在げんざいも続つづいている衆議院しゅうぎいん解散かいさん時じに本ほん会議かいぎ場じょうで万歳ばんざいを行おこなう慣習かんしゅうは、政治せいじ学者がくしゃの前田まえだ英昭ひであき（元もと・駒澤大学こまざわだいがく教授きょうじゅで法学ほうがく博士はかせ、専せん門もんは政治せいじ制度せいど論ろん）によると速記そっき録ろくや新聞しんぶんなどから1897年ねん（明治めいじ30年ねん）12月25日にちの第だい11回かい帝国ていこく議会ぎかいの解散かいさんから確認かくにんできるとされる^[52]。ただ、この習慣しゅうかんが出来できた理由りゆうは未いまだに不明ふめい^{[注ちゅう 11]}である。万歳ばんざいの由来ゆらいについて専門せんもん家かの間あいだにも、やけっぱち説せつ、内閣ないかくへの降伏ごうぶくを表あらわしているとする説せつ、ときの声こえであるとする説せつ、天皇陛下てんのうへいか万まん歳さいの意味いみであるとする説せつ、士気しきを鼓舞こぶするためとみる説せつなど諸説しょせつが唱となえられている^[52]。中曽根なかそね康弘やすひろによると、「大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下かでは、『解散かいさんの詔書しょうしょ』が包つつまれる紫むらさきの袱紗ふくさ（ふくさ）に象徴しょうちょうされる天皇陛下てんのうへいか万まん歳さいというのが始はじまり」とし、「職しょくを失うしなった者ものが総そう選挙せんきょという戦場せんじょうに万歳ばんざい・突撃とつげきするという気持きもちだ」としている。他たの説せつとして英国えいこく議会ぎかいで「『国王こくおう陛下へいか万まん歳さい』と唱和しょうわするのに倣ならって、天皇てんのうの長寿ちょうじゅを祈念きねんした」とか「戦前せんぜんは超然ちょうぜん内ない閣かくが政党せいとうに対抗たいこうして解散かいさんすることが多おおく、議員ぎいんが自暴自棄じぼうじきになった」などがある。衆議院しゅうぎいん事務じむ局きょくは「慣例かんれい」としか回答かいとうしていない。

解散かいさん権けんと政局せいきょく[編集へんしゅう]

衆議院しゅうぎいんが予算よさんの先議せんぎ権けんを有ゆうすることは大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽうでも規定きていされていた。そのため、初期しょき議会ぎかいにおいて、政党せいとうは憲法けんぽうの運用うんようを通つうじて政治せいじ的てき影響えいきょう力りょくを増大ぞうだいさせ、憲法けんぽう発布はっぷ当初とうしょは超然ちょうぜん主義しゅぎを採とっていた藩閥はんばつ政府せいふと激はげしく対立たいりつした。藩閥はんばつ政府せいふはこうした政党せいとうの攻勢こうせいに対抗たいこうするため衆議院しゅうぎいんを解散かいさんした。最初さいしょの衆議院しゅうぎいん解散かいさんは第だい1次じ松方まつかた内閣ないかくによって1891年ねん（明治めいじ24年ねん）12月15日にちに行おこなわれた。さらに、任期にんき満了まんりょうまたは先さきの解散かいさんから1年ねん以内いないに再ふたたび衆議院しゅうぎいんを解散かいさんすることもしばしば行おこなわれた。

加藤かとう高明こうめい内閣ないかく以降いこうには元老げんろうが内閣ないかく総理そうり大臣だいじんを奏そう薦こもする際さいに憲政けんせいの常道じょうどうが重視じゅうしされるようになり、衆議院しゅうぎいん第だい一いち党とうの内閣ないかくが倒たおれた際さいには衆議院しゅうぎいん第だい二に党とうの党首とうしゅが奏そう薦こもされるようになった。衆議院しゅうぎいん第だい二に党とうの党首とうしゅが政権せいけんを担当たんとうした場合ばあいには内閣ないかくの基盤きばんを強化きょうかする目的もくてきで早期そうきに衆議院しゅうぎいんを解散かいさんすることが多おおかった。

その後ご、五ご・一いち五ご事件じけんで犬いぬ養やしなえ毅あつし首相しゅしょうが暗殺あんさつされてからは、内閣ないかく総理そうり大臣だいじんは軍人ぐんじんなど政党せいとうの党首とうしゅ以外いがいから奏そう薦こもされるようになった。陸軍りくぐん首相しゅしょうの林内りんない閣かくにおいて最初さいしょの予算よさんが成立せいりつした直後ちょくご、1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）3月31日にちに行おこなわれた解散かいさんには、重要じゅうよう法案ほうあんの阻止そしを図はかったという理由りゆう以外いがいには特とくに理由りゆうがなく、政党せいとうからは「食くい逃にげ解散かいさん」と呼よばれて批判ひはんされた。この解散かいさんは政党せいとう勢力せいりょくを弱体じゃくたい化かさせるために行おこなわれたといわれているが、各かく政党せいとうが議席ぎせきを伸のばす結果けっかとなり、林内りんない閣かくは同年どうねん5月31日にちに総そう辞職じしょくした。

ポツダム宣言せんげん受諾じゅだく後ごの1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）12月18日にちに行おこなわれた解散かいさんはGHQの幣ぬさ原はら喜重郎きじゅうろう内閣ないかくへの指令しれいによるものであり、終戦しゅうせん解散かいさん又またはGHQ解散かいさんと呼よばれた。この解散かいさんを受うけ、当初とうしょ翌年よくねん1月がつに行おこなわれるはずだった総そう選挙せんきょは3ヶ月かげつ延期えんきされ、立候補りっこうほ予定よてい者しゃの資格しかく審査しんさ（軍国ぐんこく主義しゅぎ者ものの排除はいじょ）の後のち、1946年ねん（昭和しょうわ21年ねん）4月がつ10日とおかに実施じっしされた。

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下かでの最後さいごの解散かいさんは第だい1次じ吉田よしだ内閣ないかく（吉田よしだ茂しげる首相しゅしょう）において1947年ねん（昭和しょうわ22年ねん）3月31日にちに行おこなわれ、新しん憲法けんぽう解散かいさんまたは第だい2次じGHQ解散かいさんと呼よばれた。この解散かいさんもGHQの指令しれいにもとづくものであった。